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2019-04-17(Wed)

【事例から民法を考える】事例⑤「私だって所有者だ」

今回は,事例⑤です(ついに何も言うことがなくなった)

≪問題≫

●事例
 Aは,甲土地とその上の乙建物を所有し,乙建物の1階を自身の経営する駄菓子卸売業の事務所として,甲土地の更地部分を営業車の駐車スペースとして利用していた。また,乙建物の2階には,当初はAとその妻B,長男C,長女D,次男Eが居住していたが,C・Dはそれぞれ結婚を機に乙建物から出て暮らすようになり,1980年以降,乙建物に居住していたのは,A・Bと,Aの仕事を手伝っていたE,そしてEの妻子となっていた。
 1995年3月,Aは,Eに卸売業の経営を委ねて一線から退くこととし,マンションを購入してBとともに移り住んだ。このとき,Eの費用負担で乙建物に大規模な改修が施されたことから,乙建物はAとEの共有とされ(持分は各2分の1),その旨の登記もなされた。甲土地はA所有のままとされたが,Eによる甲土地の利用につきA・E間で特段契約が結ばれたことはなく,Aへの対価の支払もされなかったが,固定資産税等の負担はEがするようになった。なお,CやDからこの件について異議が述べられたことはなかった。
 Bは2010年10月に,そして後を追うようにAも2011年2月に死亡し,C・D・EがAを相続した。ちょうどこの頃,不景気のあおりを受けたAから受け継いだ卸売業の業績が急速に悪化したため,新たな収入源を得るべく,2011年4月,乙建物の1階と甲土地の更地部分のそれぞれ約半分のスペースをFに毎月36万円の賃料で賃貸し,Fはここを学習塾とその駐車場として利用するようになった。現在までのところ遺産分割はなされていない。こうした状況において,以下の各設問のような事態が生じた(設問はそれぞれ独立した問いである)。

【設問1】 Fに賃貸した甲土地の駐車場部分に,2011年5月,Cが経営する建設会社により建設資材が大量に置かれはじめた。EがCにただちにこれらを除去するよう要請したのに対し,Cは,これに応じないばかりか,EとFに対して甲・乙の明渡しを請求するとともに,Eに対して,2011年2月以降,明渡完了までの間に発生する,Eが甲・乙を使用することの対価およびFがEに支払うべき賃料相当額の各3分の1を自己に支払うよう請求してきた。EとCそれぞれの請求は認められるか。

【設問2】 2008年12月に,自身の営む事業の業績が悪化し資金繰りに窮するようになったCが,Aの目を盗んで実印や必要書類を持ち出し,これらを使用して,甲土地につき贈与を原因としたAからCへの所有権移転登記をなし,ただちに自己の借入金の担保として銀行Gの抵当権を設定し,その登記もなしていたとする。2011年6月,これに気付いたEは,Cに対して所有権移転登記の抹消登記手続を,Gに対して上記抹消登記手続の承諾をそれぞれ求め,訴えを提起した。Eの請求は認められるか。

【設問3】 2011年3月,Cは,銀行Hから融資を受けるため,C・D・Eの共有する甲土地の登記名義をCの単独所有にしてHのための抵当権を設定することを認めてほしいとD・Eに懇請し,同人らの承諾を得てその旨の登記がなされた。その後Hの抵当権実行として甲土地が競売されIが買受人となったとき,Iからの乙建物収去,甲土地明渡しの請求を,甲・乙の使用を続けるEは拒むことができるか。


共有関係全般というところです。

設問1と設問2は割とオーソドックスな問題というか,

なんとなくこれが論点かなというのが分かりますが,

設問3の法定地上権は正直見落としていました。

論文で法定地上権の成立を考えたことがあまりなかったので,

こういう場面で問題になるんだなあということを知れました。

≪答案≫
第1 設問1
 1 CのEに対する請求について
  ⑴ Cは,Eに対し,共有持分権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権を行使する。甲土地は元A所有であって,Aの死亡により,その子であるC,D及びEがこれを共同で相続し(民法882条,887条1項,896条本文),遺産共有しているから(同法898条,899条,900条4号),Cは甲土地の共有持分権を有している。そして,Eは甲土地の全部を使用してCの共有持分権の範囲にわたって占有している。したがって,Cの上記請求は認められるのが原則である。
  ⑵ア これに対して,Eは,Aとの間で使用貸借契約が成立していることを理由として正当な占有権原があると反論する(※1)
 しかし,共有物の利用は,「管理」(同法252条本文)にあたるから,共有者のうちその持分の価格が共有物の価格の過半数であるもの(以下「多数持分権者」という。)によってその内容が決定されるところ,CはDの賛同を得れば甲土地についてのEの使用貸借を解除することができる。したがって,Eの上記反論は認められる可能性が低い。
   イ また,Eは,自らも共有持分権を有しているから,正当な占有権原があると反論する。
 共有者の一人であってその持分の価格が共有物の価格の過半数に満たない者(以下「少数持分権者」という。)は,自己の持分によって共有物を使用収益する権原を有し,これに基づいて共有物を占有するものと認められるのであるから,多数持分権者であるからといって,共有物を現に占有する少数持分権者に対し,当然にその明渡しを請求することができるものではなく,その明渡しを求める理由を主張立証しなければならない(※2)。ここでの理由としては,単独使用をする当該共有者の使用を認めない旨及び明渡しを受けた後の具体的な使用方法などについて共有者間で決定される必要がある。
 本件でも,Cは,共有者間でEが甲土地を単独使用することを認めず,Cらが明渡しを受けた後の具体的な使用方法などについて決定されていれば,Cがこれを主張立証することにより,Eの正当な占有権原を喪失させることができる。
   ウ そうだとしても,Eは,Cが上記請求をすることは,権利の濫用であって認められないと反論する。
 具体的事案においては,不動産利用権者保護の見地から,諸般の事情を考慮し,少数持分権者の利用を認めない決定を持分価格の多数で行うことを,権利の濫用と判断すべき場合がある(※3)
 これを本件についてみると,Eの現在の使用を継続させることの必要性は十分に認められるところであり,Eの使用を全否定し,その必要性が高いとまではいえないCやDによる単独使用を,Eの反対のまま共有者間で決定することは,権利の濫用により認められないというべきである。
 したがって,Cの上記請求は認められない。
  ⑶ この場合には,CはEに対して,持分に相当する使用利益の対価を,不当利得として返還請求をすることができる(※4)
 2 CのFに対する請求について
  ⑴ Cは,Fに対して,共有持分権に基づく返還請求権としての土地及び建物明渡請求権を行使する。乙建物についても,Aがその2分の1の持分を有していたから,その子であるC,D及びFがこれを相続するため,Cは乙建物について6分の1の持分を有している。そして,Fは,甲土地を駐車場として,乙建物を塾としてそれぞれ使用することによって占有している。したがって,Cの上記請求は認められるのが原則である。
  ⑵ これに対し,Fは,Eとの間で甲土地及び乙建物について使用貸借契約を締結しているから,正当な占有権原があると反論する。
 共有物の賃貸借は一般には「管理」に該当するものの,借地借家法の適用があるものについては,法定更新が認められる結果(同法6条,28条),長期にわたり所有者が使用収益できない状態が存続する可能性があることから,「変更」(民法251条)にあたる。
 これを本件についてみると,甲土地を駐車場として利用させる内容の賃貸借については借地借家法の適用がないため(同法2条1号参照),「管理」に該当するものの,Eの持分は3分の1しかないため,C及びDがこれに反対するときには,EF間の賃貸借契約自体は有効であるものの,これが適法となるものではない。したがって,Fは,甲土地の占有権原をCに対し主張することができない。また,乙建物についてはEが3分の2の共有持分を有しているものの,その賃貸借には借地借家法の適用があるから「変更」にあたるため,甲土地と同様の帰結となる。したがって,Fは,乙建物の占有権原をCに対し主張することができない。
  ⑶ もっとも,前記のように,Eが自己の持分に基づいて甲土地及び乙建物を占有することができる結果,Eから賃貸借を受けたFもEの権原を通した権原に基づく占有をしているということができる。したがって,Cは,Fに対して,甲土地及び乙建物の明渡しを請求することはできない(※5)
  ⑷ この場合,FがEに支払う賃料につき持分に応じた額をEに請求することができる。
 3 EのCに対する請求について
 EはCに対して共有持分権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権を行使する。しかし,前記のように,共有者間で甲土地の使用方法についての決定がない限りは,当該請求は認められない。
 もっとも,CがEやFの占有を妨げていることは明らかであるから,EはCに対して占有保持の訴え(同法198条)によって,建設資材の除去及び損害賠償の請求をすることができる。
第2 設問2
 1 Eは,Cに対して,共有持分権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記抹消登記請求権を,Gに対して,所有権に基づく妨害排除請求権としての承諾請求権(不動産登記法68条参照)を,それぞれ行使する。Eが甲土地について共有持分権を有していることは前記の通りである。
 2 Cに対する請求について
  ⑴ Cは,甲土地につき全部の所有権を有する旨の登記を具備することにより,Eの共有持分権を侵害しているから,これを占有以外の方法によって妨害している。したがって,EのCに対する請求は認められる。
  ⑵ この場合に,Eは,どの範囲で所有権移転登記抹消登記手続を請求することができるかが問題となる。この点,Cも共有持分権を有することからすれば,その限りで実体関係に符合しているのであるから,Eは,自己の持分についてのみ一部抹消の登記手続を請求することしかできないようにも思える(※6)。しかし,Eが甲土地について単独所有の登記を具備したのは,C,D及びEの間で共有関係に移行する以前であり,この段階では,甲土地の所有権はAに帰属していたのであるから,Cは全くの無権利者である。そうすると,共有関係が生じた後に一部共有者が不実の登記を具備した場合とは異なり,Cは全面的に実体を欠くのであるから,EはCに対して,その全部の抹消登記手続を請求することができるというべきである。
 3 Gに対する請求について
 Gは,甲土地について抵当権設定登記を具備することにより,Eの共有持分権を侵害しているから,これを占有以外の方法によって侵害している。したがって,EのGに対する請求は認められる。
 そして,前記のように,Cが甲土地の全部について無権利者である以上,無権利者から抵当権の設定を受けた者もまた無権利であるから,GはEの登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有しないため,「第三者」(同法177条)にあたらない。したがって,Eは,抵当権設定登記の全部の抹消登記を請求することができる。
第3 設問3
 1 Iは,Eに対して,所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権を行使する。Iは抵当権の実行による競売によって甲土地を取得しているから,甲土地を所有している。そして,Eは,乙建物を共有することによって甲土地を占有している。したがって,Iの上記請求は認められるのが原則である。
 2⑴ これに対して,Eは,遺産共有の段階において共有者の一人が単独の登記名義とした上で,自身の単独所有であるとして第三者にこれを売却し,登記移転をしても,Eの持分に関する限り無権利の登記であるから,これに基づいて設定された抵当権も無効であり,Iは甲土地を取得できないと反論する(※6)
 しかし,Cの単独所有の登記は,D及びEの同意の下でC名義の登記にされている以上,民法94条2項により,EはIに対し不実の登記であることを対抗することができず,Iによる甲土地の所有権の取得は認められる。
  ⑵ そこで,Eは,抵当権の実行により乙建物に法定地上権(同法388条)が設定されたことになるため,正当な占有権原があると反論する。
 建物の共有者の一人がその建物の敷地たる土地を単独で所有する場合には,同人は,自己のみならず他の建物共有者のためにも当該土地の利用を認めているものというべきである。したがって,同人が当該土地に抵当権を設定し,この抵当権の実行により,第三者が当該土地を競落したときは,民法388条の趣旨により,抵当権設定時に同人が土地及び建物を単独で所有していた場合と同様,当該土地に法定地上権が成立する(※7)
 これを本件についてみると,乙建物は,C,D及びEの共有とされているところ,そのうちの一人であるCが甲土地に抵当権を設定したのであり,Cは自己のみならずD及びEのためにも甲土地の利用を認めているものというべきであるから,前記抵当権の実行によりIが甲土地を競落したとしても,民法388条の趣旨が及び,乙建物について法定地上権が成立する。
 3 よって,Eは,法定地上権をもってIに対抗することができるから,Iの上記請求を拒むことができる。
以 上

(※1)共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。けだし、建物が右同居の相続人の居住の場であり、同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると、遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえるからである。」最判平成8年12月17日民集50巻10号2778頁
(※2)「思うに、共同相続に基づく共有者の一人であつて、その持分の価格が共有物の価格の過半数に満たない者(以下単に少数持分権者という)は、他の共有者の協議を経ないで当然に共有物(本件建物)な単独で占有する権原を有するものでないことは、原判決の説示するとおりであるが、他方、他のすべての相続人らがその共有持分を合計すると、その価格が共有物の価格の過半数をこえるからといつて(以下このような共有持分権者を多数持分権者という)、共有物を現に占有する前記少数持分権者に対し、当然にその明渡を請求することができるものではない。けだし、このような場合、右の少数持分権者は自己の持分によつて、共有物を使用収益する権原を有し、これに基づいて共有物を占有するものと認められるからである。従つて、この場合、多数持分権者が少数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その明渡を求める理由を主張し立証しなければならないのである。」最判昭和41年5月19日民集20巻5号947頁
(※3)「共有者の一部が他の共有者の同意を得ることなく共有物を物理的に損傷しあるいはこれを改変するなど共有物に変更を加える行為をしている場合には、他の共有者は、各自の共有持分権に基づいて、右行為の全部の禁止を求めることができるだけでなく、共有を原状に復することが不能であるなどの特段の事情がある場合を除き、右行為により生じた結果を除去して共有物を原状に復させることを求めることもできると解するのが相当である。けだし、共有者は、自己の共有持分権に基づいて、共有物全部につきその持分に応じた使用収益をすることができるのであって(民法二四九条)、自己の共有持分権に対する侵害がある場合には、それが他の共有者によると第三者によるとを問わず、単独で共有物全部についての妨害排除請求をすることができ、既存の侵害状態を排除するために必要かつ相当な作為又は不作為を相手方に求めることができると解されるところ、共有物に変更を加える行為は、共有物の性状を物理的に変更することにより、他の共有者の共有持分権を侵害するものにほかならず、他の共有者の同意を得ない限りこれをすることが許されない(民法251条)からである。もっとも、共有物に変更を加える行為の具体的態様及びその程度と妨害排除によって相手方の受ける社会的経済的損失の重大性との対比等に照らし、あるいは、共有関係の発生原因、共有物の従前の利用状況と変更後の状況、共有物の変更に同意している共有者の数及び持分の割合、共有物の将来における分割、帰属、利用の可能性その他諸般の事情に照らして、他の共有者が共有持分権に基づく妨害排除請求をすることが権利の濫用に当たるなど、その請求が許されない場合もあることはいうまでもない。」最判平成10年3月24日集民187号485頁
(※4)「共有者の一人が共有物の上に権利を行使するに当り,他の共有者の権利を故意若くは過失に因りて侵害するときは不法行為を構成し,又は法律上の原因なくして因りて以て利益を受け之が為めに他の共有者に損失を及ぼしたるときは不当利得となること勿論にして,原判決は毫も理由に齟齬あること無し。」大判明治41年10月1日民録14輯937頁
(※5)「共同相続に基づく共有者は、他の共有者との協議を経ないで当然に共有物を単独で占有する権原を有するものではないが、自己の持分に基づいて共有物を占有する権原を有するので、他のすべての共有者らは、右の自己の持分に基づいて現に共有物を占有する共有者に対して当然には共有物の明渡しを請求することはできないところ……、この理は、共有者の一部から共有物を占有使用することを承認された第三者とその余の共有者との関係にも妥当し、共有者の一部の者から共有者の協議に基づかないで共有物を占有使用することを承認された第三者は、その者の占有使用を承認しなかつた共有者に対して共有物を排他的に占有する権原を主張することはできないが、現にする占有がこれを承認した共有者の持分に基づくものと認められる限度で共有物を占有使用する権原を有するので、第三者の占有使用を承認しなかつた共有者は右第三者に対して当然には共有物の明渡しを請求することはできないと解するのが相当である。なお、このことは、第三者の占有使用を承認した原因が共有物の管理又は処分のいずれに属する事項であるかによつて結論を異にするものではない。」最判昭和63年5月20日家月40巻9号57頁
(※6)「相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした共同相続人中の乙ならびに乙から単独所有権移転の登記をうけた第三取得者丙に対し、他の共同相続人甲は自己の持分を登記なくして対抗しうるものと解すべきである。けだし乙の登記は甲の持分に関する限り無権利の登記であり、登記に公信力なき結果丙も甲の持分に関する限りその権利を取得するに由ないからである……。そして、この場合に甲がその共有権に対する妨害排除として登記を実体的権利に合致させるため乙、丙に対し請求できるのは、各所有権取得登記の全部抹消登記手続ではなくして、甲の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続でなければならない……。けだし右各移転登記は乙の持分に関する限り実体関係に符合しており、また甲は自己の持分についてのみ妨害排除の請求権を有するに過ぎないからである。」最判昭和38年2月22日民集17巻1号235頁
(※7)建物の共有者の一人がその建物の敷地たる土地を単独で所有する場合においては、同人は、自己のみならず他の建物共有者のためにも右土地の利用を認めているものというべきであるから、同人が右土地に抵当権を設定し、この抵当権の実行により、第三者が右土地を競落したときは、民法388条の趣旨により、抵当権設定当時に同人が土地および建物を単独で所有していた場合と同様、右土地に法定地上権が成立するものと解するのが相当である。」最判昭和46年12月21日民集25巻9号1610頁



2019-04-16(Tue)

【事例から民法を考える】事例③「『継続は力なり。』 そう思う→はい そう思わない→いいえ」

さて,1か月をきったわけですが,

やることは変わりません。

とにかくじれかんを終わらせます。

今回は,事例③です。

≪問題≫

●事例
 Aの父Bが1987年5月6日に死亡し,AがBを単独で相続した。Bは,遺言を残していなかった。Bは,生前,農地甲およびその隣接地である乙において野菜を生産していた。Aは,1981年8月頃にBから,健康上の理由により離農することになったC(Bの兄)から甲を貰い受け,生産の規模を大きくすることにしたと聞かされたことがあり,相続により乙とあわせて甲を取得したと信じていた。もっとも,甲については,Bの話にそった内容の「覚書」と題するCがBに宛てた1981年8月25日付の手書きの書面が存在していたものの,登記名義はCのままになっていた。Bは,1985年秋頃から体調を崩し,農業を営める状態ではなくなったため,知人Dに,甲および乙で,農地機能を維持するために耕作を続けてもらっていた(B・D間で借地料・管理料等の金員の授受は一切されず,生産された野菜はDが自由に処分していた)。Bが死亡した後もしばらく同様であったが,1988年7月に,Aが,Dから甲および乙の返還を受け,野菜の生産を始めた。
 1986年1月にCが死亡し,その子Eがこれを単独で相続した。Eは,甲はCの所有に属し,Bに無償で耕作させているものと思っていた。同年4月に,Eと農業用水路を設置することにしたFとの間で甲につき地上権設定契約が締結され,その旨の登記(「本件地上権設定登記」)がおこなわれた。Aは,甲を相続した当時すでに水路が設けられていたことから,Bがその設置を了承していたものと考えていた。1995年10月に起こった水害の際に水路に大量の土砂が流入し,復旧作業がしばらく続けられたものの捗らず,Fは,1997年5月に別の場所に別の水路を設けた。甲の水路であった部分(「本件水路部分」)は,遅くとも1999年春には畦道のようになっていた。
 甲についてはほかに,2001年6月6日にEとGの間で,2007年9月12日にEとHの間で,それぞれ抵当権設定契約が締結され,その旨の登記がされている。
 Aは,2010年7月に,乙の隣接地を購入し,その土地と甲および乙の合筆の手続をとろうとして,甲と乙が別筆の土地であること,甲についてEを所有者とする登記がされていること,甲につき本件地上権設定登記,Gの抵当権設定登記およびHの抵当権設定登記がされていること,これまでAが納付してきた固定資産税は乙についてのものだけであったことを知った。
 この場合について,次の設問に答えなさい。なお,設問は,それぞれ独立の問いである。

【設問1】 2010年9月4日に,Aは,Eに対して甲の所有権移転登記手続を,Fに対して本件地上権設定登記の抹消登記手続を,それぞれ請求した。Aのこれらの請求は認められるか。

【設問2】 2012年10月10日に,Gが抵当権の実行としての競売を申し立てた。そこで,Aは,第三者異議訴訟を提起した。Aの請求は認められるか。
 Aが,2010年9月4日に,Eに対して甲の所有権移転登記手続を求める訴えを起こし,これに勝訴して移転登記を得ていた場合はどうか。


時効取得と第三者との関係についてです。

ローでもさんざんやった気がします。

判例準則を最低限理解することが大事なんだろうと思います。

≪答案≫
第1 設問1
 1 Aの請求の根拠
  ⑴ Aは,Eに対して,所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権を,Fに対して,所有権に基づく妨害排除請求権としての地上権設定登記抹消登記請求権を,それぞれ行使する。Aは,いずれの請求においても,Aが甲土地を所有していることを主張立証する必要がある。
  ⑵ Aは,甲土地を所有していることを主張立証するために,甲土地を時効取得したことを主張する。時効取得が認められるためには,20年間,所有の意思をもって,平穏に,かつ,公然と他人の物を占有していたこと(民法162条1項),あるいは,10年間の占有を主張して,前記の要件に加えて,善意無過失であることが必要である(同条2項)。このうち,所有の意思,善意,平穏,公然については,占有していることをもって推定される(同法186条1項)。また,占有については,前後の両時点における占有を主張立証すれば足りる(同条2項)。さらに,自己の所有物であっても時効取得することができるから(※1),他人の物であることを主張立証する必要はない。したがって,時効取得を主張立証するためには,長期の場合には前後における占有のみを,短期の場合にはそれに加え無過失であることを主張立証すれば足りる。
  ⑶ これを本件についてみると,AがBの占有を併せて(同法187条1項)時効取得を主張立証する場合には,1981年8月のある時点でBが甲を占有していたこと,1987年5月6日にBが死亡したこと(同法882条,896条),AはBの相続人であること(同法887条1項),現在Aが甲を占有していることを主張立証することとなる。なお,この場合には,甲土地は農地として使用されているところ,農地の譲渡による所有権の移転には原則として農業委員会の許可を要することが法定されているため,農地の譲受人がこの許可を得ていない場合には,特段の事情がない限り,無過失とはいえないため(※2),Aは短期取得時効を主張することができない。
 一方で,Aが自己の占有のみをもって時効取得を主張する場合には,1987年5月6日以前においてBが甲を占有していたこと,1987年5月6日にBが死亡したこと,AはBの相続人であること,Aは現在甲を占有していることを主張立証することとなる。また,この場合には,Aは,Bの生前に,甲取得の経緯を聞かされていたこと,Bは甲の所有者であるかのように振る舞っていたこと,そのことに関して具体的に争いがあったとの事実は表れていないこと等から,Aにおいて,相続開始の当時,甲土地が相続財産に属すると信じていたことについて過失がなかったと認められるから,短期時効取得を主張することができる。
  ⑷ これに対して,E及びFは,Bの他主占有事情を主張立証して,Bの所有の意思についての推定を覆すことが考えられる。しかし,CからBへの農地移転の許可が得られていないとしても,BとCが兄弟であり,贈与の当時Cに健康上の問題があったこと,しばらくしてB自身も体調を崩したことを考慮すれば,特段不自然であるとまではいえない。このことは,所有権移転登記手続がされていないことについても同様である。また,固定資産税についても,Bは少なくとも乙にかかるものを納付していたと思われるところ,課税額の内訳は必ずしも明らかではなく,農地は宅地と比べて税率が相当低いことから,BもAと同様に甲にかかる固定資産税を負担していたと誤信している可能性がないとはいえない。したがって,以上の事情をもって,Bの所有の意思がなかったということはできない。
 2 Eに対する請求
 次に,Eに対する前記請求権の行使が認められるためには,Eが甲土地について占有以外の方法によって妨害していることが必要であるところ,Eは,甲土地について所有権移転登記を具備しているから,この要件は満たされる。
 また,前記のように,Aが甲土地について時効取得しているから,Eには甲土地についての正当な登記保持権原があるということはできず,Eからの抗弁は成り立たない。
 したがって,Eに対する前記請求権の行使は認められる。
 3 Fに対する請求
  ⑴ Fに対する前記請求権の行使が認められるためにも,Fが甲土地について占有以外の方法によって妨害していることが必要であるところ,Fは,甲土地について地上権設定登記を具備しているから,この要件は満たされる。
  ⑵ これに対して,Fは,Aによる甲土地の時効取得をもってしても,Fの有する地上権は消滅しないから,正当な登記保持権原があるとの主張をすることが考えられる。
 取得時効は,継続した占有の状態を基礎に権利を認めるものであるから,占有者の占有の態様から,所有権以外の権利も排除したものであると認められるときには,占有者は取得時効によって当該権利の制約がない所有権を取得することとなり,当該権利は消滅する。そして,時効は,時効期間の全部を通して継続した事実状態を保護するために法律効果を認めるもののであるから,時効取得によって所有権以外の権利の消滅が認められるためには,その権利を排除した占有が時効期間の全部を通して継続する必要がある。
 これを本件についてみると,Fの地上権については,Aは,自己の占有のみを主張する場合には占有開始の当初から,Bの占有を承継する場合には占有期間の途中から,その地上権を容認している。したがって,Aは,いずれの主張をするにしても,取得時効の効果としてFの地上権が消滅することはない。
  ⑶ よって,Fに対する前記請求権の行使は認められない。
第2 設問2
 1 Aは,Gの抵当権の実行申立てに対する第三者異議の訴え(民執法38条1項)を提起するために,「強制執行の目的物」である甲土地について「所有権……を有する第三者」であることを主張する。所有権を基礎づける事実については,第1.1⑵及び⑶と同様である。
 2 G及びHの抵当権の消滅について
 G及びHの抵当権設定登記は,前主であるEとの間で締結されたものであるが,前記のように,Aは甲土地を時効取得しているから,Gの抵当権が消滅しているかどうかについて検討すると,民法397条は,抵当不動産の時効取得の効果として当然に抵当権が消滅することを規定し,占有者が債務者又は抵当権設定者であるときにその効果を除外したものである。そして,抵当権の存在はその目的不動産の所有権の取得を妨げるものではないから,抵当権の存在についての占有開始時における占有者の悪意又は過失は,占有者が目的不動産を自己の所有に属すると無過失で信じることと両立する。したがって,占有者が所有権に関して善意無過失であるときは,抵当権の存在についての主観的態様にかかわらず,取得時効の完成が認められる。
 その上で,Aの占有態様から,G及びHの抵当権の存在を排斥していたかどうかについて検討すると,G及びHの抵当権はB又はAの占有開始後に設定されており,Aは,時効期間が満了するまでその抵当権の存在を知らなかったのであるから,G及びHの抵当権の存在を容認していたということはできない。したがって,取得時効の効果に伴って,G及びHの抵当権は消滅する。
 3 AとG及びHとの対抗関係について
 そこで,Aが,甲土地の時効取得によるG及びHの抵当権の消滅を,G及びHに対抗することができるか。ここでの対抗に際して,Aが甲土地の所有権移転登記を具備している必要があるかどうかについて検討する。
  ⑴ AがBの占有と併せて時効取得を主張する場合
   ア(ア) 時効取得は原始取得であるが,その取得によって時効完成時の所有者が権利を失うことから,時効取得者と時効完成時の所有者は承継取得における当事者と同様の関係にある。したがって,時効完成時の所有者に対しては,登記がなくても時効取得を対抗することができる。このことは,時効取得前に目的不動産について抵当権を設定した者との関係についても同様である。これに対して,時効完成後に目的不動産を取得した第三者に対しては,登記がなければ時効取得を対抗することはできない。このことは,時効完成後に目的不動産について抵当権を設定した者との関係についても同様である。
 これを本件についてみると,AがBの占有を承継して時効取得を主張する場合には,時効の完成は2001年8月頃となるところ,Gの抵当権はれよりも前に設定されているから,Aの時効の援用により消滅する。そして,Aはこの効果を,登記なくしてGに対抗することができる。一方で,Aが自己の占有のみを主張する場合には,1997年5月6日の経過により時効が完成しているから,Gは時効完成後の抵当権取得者である。そうすると,Aは,登記がなければ,Gに対して,甲土地の時効取得を対抗することができない。
    (イ) もっとも,時効制度の前記趣旨に鑑み,時効完成後の第三取得者が登記を備えた場合であっても,時効取得者がさらに占有を継続して,第三取得者の登記具備の時点を起算点として新たに取得時効の期間が満了した場合には,新たな時効取得が認められる(※3)
 そうだとしても,Aは,Hの抵当権設定登記後,5年程度しか甲土地を占有していないから,再度の取得時効は完成していない。したがって,AはHとの関係では,登記なくして,抵当権の消滅を対抗することができない。
  ⑵ Aが自己の占有のみをもって時効取得を主張する場合
 Aの短期取得時効は,1997年5月6日の経過をもって完成している。そうすると,G及びHは,ともに時効完成後の抵当権取得者であるから,Aは登記なくしてG及びHに対抗することができないのが原則である。
 もっとも,Aは,Gの抵当権設定登記の具備後も甲土地の占有を継続しており,Gの抵当権設定登記の具備の時点から10年を経過した2011年6月6日の経過により再度の取得時効が完成している。したがって,Aは,ここでの時効を援用するのであれば,G及びHは時効完成前の抵当権取得者となるから,登記なくして対抗することができる。
 この場合には,Aの第三者異議の訴えは認められる。
  ⑶ Aが,2010年9月4日に提起した,Eに対する所有権移転登記手続請求訴訟で勝訴している場合
 時効期間は,時効の基礎となる占有の開始時点を起算点として計算することを要するから,時効援用者が時効の起算点を任意に選択して,時効完成時期をずらすことはできない。そうすると,一度取得時効が完成し,その援用により目的不動産を時効取得した者は,その後に再度の取得時効期間が満了したとしても,これをもって取得時効を認めることは,時効の起算点を後にずらすものであるから,時効取得を認めることはできない(※4)
 これを本件についてみると,Aが前記訴訟で勝訴している場合には,Aが1997年5月完成にかかる時効か,2001年8月完成にかかる時効のいずれかによって,甲土地の所有権を取得している。この場合,2001年8月完成にかかる時効であれば,Gの抵当権の消滅は認められるが,Hの抵当権の消滅は認められない。それに対し,1997年5月完成にかかる時効であれば,G及びHの抵当権の消滅は認められない。そして,いずれの場合であっても,Aは,その後のさらなる時効取得の完成を主張してG及びHの抵当権の消滅を主張することはできない。

以 上


(※1)「民法162条所定の占有者には、権利なくして占有をした者のほか、所有権に基づいて占有をした者をも包含するものと解するのを相当とする……。すなわち、所有権に基づいて不動産を占有する者についても、民法162条の適用があるものと解すべきである。けだし、取得時効は、当該物件を永続して占有するという事実状態を、一定の場合に、権利関係にまで高めようとする制度であるから、所有権に基づいて不動産を永く占有する者であつても、その登記を経由していない等のために所有権取得の立証が困難であつたり、または所有権の取得を第三者に対抗することができない等の場合において、取得時効による権利取得を主張できると解することが制度本来の趣旨に合致するものというべきであり、民法162条が時効取得の対象物を他人の物としたのは、通常の場合において、自己の物について取得時効を援用することは無意味であるからにほかならないのであつて、同条は、自己の物について取得時効の援用を許さない趣旨ではないからである。」
(※2)「被上告人が本件贈与に基づきcの土地の占有を開始した昭和23年7月当時においては、農地の所有権を移転するためには、農地調整法(但し昭和24年法律第215号による改正前のもの)4条1項及び3項、同法施行令(但し同年政令第224号による改正前のもの)2条の各規定に従い、都道府県知事の許可(以下「知事の許可」という。)を受けることが必要であり、右移転を目的とする法律行為は、これにつき知事の許可がない限り、その効力を生じないとされていたのである。したがつて、農地の譲渡を受けた者は、通常の注意義務を尽すときには、譲渡を目的とする法律行為をしても、これにつき知事の許可がない限り、当該農地の所有権を取得することができないことを知りえたものというべきであるから、譲渡についてされた知事の許可に瑕疵があつて無効であるが右瑕疵のあることにつき善意であつた等の特段の事情のない限り、譲渡を目的とする法律行為をしただけで当該農地の所有権を取得したと信じたとしても、このように信ずるについては過失がないとはいえないというべきである。」最判昭和59年5月25日民集38巻7号764頁
(※3)「時効取得者と取得時効の完成後に抵当権の設定を受けてその設定登記をした者との関係が対抗問題となることは,所論のとおりである。しかし,不動産の取得時効の完成後,所有権移転登記がされることのないまま,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合において,上記不動産の時効取得者である占有者が,その後引き続き時効取得に必要な期間占有を継続したときは,上記占有者が上記抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り,上記占有者は,上記不動産を時効取得し,その結果,上記抵当権は消滅すると解するのが相当である。その理由は,以下のとおりである。」「取得時効の完成後,所有権移転登記がされないうちに,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了したならば,占有者がその後にいかに長期間占有を継続しても抵当権の負担のない所有権を取得することができないと解することは,長期間にわたる継続的な占有を占有の態様に応じて保護すべきものとする時効制度の趣旨に鑑みれば,是認し難いというべきである。」「そして,不動産の取得時効の完成後所有権移転登記を了する前に,第三者に上記不動産が譲渡され,その旨の登記がされた場合において,占有者が,上記登記後に,なお引き続き時効取得に要する期間占有を継続したときは,占有者は,上記第三者に対し,登記なくして時効取得を対抗し得るものと解されるところ……,不動産の取得時効の完成後所有権移転登記を了する前に,第三者が上記不動産につき抵当権の設定を受け,その登記がされた場合には,占有者は,自らが時効取得した不動産につき抵当権による制限を受け,これが実行されると自らの所有権の取得自体を買受人に対抗することができない地位に立たされるのであって,上記登記がされた時から占有者と抵当権者との間に上記のような権利の対立関係が生ずるものと解され,かかる事態は,上記不動産が第三者に譲渡され,その旨の登記がされた場合に比肩するということができる。また,上記判例によれば,取得時効の完成後に所有権を得た第三者は,占有者が引き続き占有を継続した場合に,所有権を失うことがあり,それと比べて,取得時効の完成後に抵当権の設定を受けた第三者が上記の場合に保護されることとなるのは,不均衡である。」最判平成24年3月16日民集66巻5号2321頁
(※4)「前記の事実関係によれば,被上告人は,前記1(5)の時効の援用により,占有開始時の昭和37年2月17日にさかのぼって本件土地を原始取得し,その旨の登記を有している。被上告人は,上記時効の援用により確定的に本件土地の所有権を取得したのであるから,このような場合に,起算点を後の時点にずらせて,再度,取得時効の完成を主張し,これを援用することはできないものというべきである。そうすると,被上告人は,上記時効の完成後に設定された本件抵当権を譲り受けた上告人に対し,本件抵当権の設定登記の抹消登記手続を請求することはできない。」



2019-04-15(Mon)

【事例から民法を考える】事例⑫「私の預金が……」

【今日の一品】

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こちらは,またまたムタヒロですが,

本日から発売開始の新メニュー「親次郎」です。

二郎系のインスパイアですね。

ちゃんと野菜ニンニクアブラカラメのマシに対応しています。

味は本家と比べれば薄口(それでもしょっぱいですが)

麺は太めですが,若干縮れています。

全体的に府中に若干似ている気がしなくもないという感じです。

大盛野菜カラメにしましたが,量はそこまで多くなく,

普通サイズであれば一般人でも難なく食べきれることでしょう。

二郎まで行くのが億劫だというときにはもってこいです。

ところで,今回は,じれかん民法の事例⑫です。

≪問題≫

●事例
 ⑴ AはB銀行甲支店に定期預金(「本件定期預金」)を有していた。
 C銀行乙支店にはDが普通預金口座(「本件口座」)を開設していた。本件口座では,⑵および⑶の事情が生じるまで,入金はもっぱらDのために,出金はもっぱらDの手続により行われていた。Cの普通預金規定には,「この預金口座には,為替による振込金も受け入れられます」という定めが置かれていた。
 ⑵ 2013年6月24日午後11時頃,E(Aの妻,Dの母)は,Dと称する者から,麻雀による借金返済のため本件口座への送金を依頼する電話を受けた。これはDの麻雀友達FがDを装ってしたものだったが,Eは,同様の依頼をDから何度も受けていたこともあり,Dからの電話と誤信した。Eは,それまで自己資金で送金していたが,今回は資金不足のため本件定期預金を原資にすることにした。しかし,Dの放蕩な生活にAが立腹してAとDは関係断絶の状態であったため,Eは翌25日朝に通帳と届出印を無断で持ち出し,自ら作成した委任状を用いて本件定期預金の解約申入れをし,利息を含めた解約金30万円につき振込送金の手続をした。同日,本件口座にAを依頼人として30万円の入金がされた(「本件振込み」)。これにより,本件口座の残高は30万円になった。
 ⑶ 同日午後2時50分頃に,Fが,C銀行乙支店に現れ,Dと称し,本件口座の通帳と届出印を押捺した払戻請求書を提出して,30万円の払戻しを請求した。窓口担当者は,自称Dが運転免許証等の本人確認資料を所持していなかったため,キャッシュカードの暗証番号を記入させたが,自称Dは3度間違った番号を記入した。自称Dは,「しばらく口座にお金がなく,ATMを使っていないので暗証番号を忘れてしまいました。どうしてもお金がいるので,親に朝いちばんに送ってもらったんです。何とかなりませんか」と述べた。担当者は,①通帳と届出印が真正のものであること,②自称Dに生年月日を問うたところ直ちに正しく答えたこと,③本件口座の最近の出入金の状況が自称Dのいうとおりであり,依頼振込人の名字がDと同一であること,④自称Dの態度に全体として不審な点を認めなかったことから,上司と相談のうえ,本件口座の開設時に届け出られた電話番号をさらに尋ね,自称Dが正しい番号を即座に答えたため払戻しに応じることにした(「本件払戻し」)。もっとも,払戻請求書の筆跡は口座開設の申込書と異なっており,経験を積んだ者ならばそのことに気づいたと思われるにもかかわらず,担当者は業務経験が1か月程度しかなかったこともあり,相違に気づかなかった。
 Fが持参した通帳と届出印は,Fが2013年6月23日未明に酔いつぶれたDをその自宅まで送り届けた際に隙をみて盗んだものだった。Fは,Dの私生活を熟知していたことから一計を案じ,Dを装ってEに本件振込みをさせて,本件払戻しを請求していた。
 ⑷ Eは,同年6月30日にDから金を無心する電話を受け,騙されたことを知った。後にDを装ったのはFであると判明したが,Fの行方は不明である。
 Aは,本件振込にかかる30万円を取り戻したいと考えている。Aは,誰に対して30万円の支払を請求することができるか。


債権の準占有者です。

478条ですね。

債権総論で一番嫌いな条文ですね。

判例が類推適用とか色々言うせいで,

ごちゃごちゃしていますよね。

≪答案≫
第1 AのBに対する請求について
 1 AはBに対して本件定期預金を解約してその解約金として30万円の支払を請求することが考えられる。これに対して,Bは,本件振込みをもって払戻しの効力が認められるから,既払いであると反論する。そこで,Bの反論の当否について検討する。
 2 まず,Eを本人Aの代理人であるとして,本件定期預金契約の期限前解約とその解約金の振込の効力がAに帰属するとの主張をすることが考えられるが,Eがそれらにつき代理権を授与された事実はない。したがって,有権代理(民法99条)による効果帰属も,同法112条の表見代理による効果帰属も認められない。さらに,AがBにEへの代理権授与を伝えた事実も,Eに他の代理権を与えた事実もないから,同法109条の表見代理も,同法110条の表見代理も成立しない。
 したがって,代理の構成によっては,前記の効力をAに帰属させることはできない。
 3 そこで,Bは,本件振込みが,債権の準占有者に対する弁済(同法478条)であるとして,その効力がAにも帰属すると反論する。
  ⑴ 民法478条の趣旨は,弁済が債務者の義務であることから,債務者が履行遅滞責任を免れるためには,弁済の時点までに看守可能な事情のみから相手方の受領資格の有無を判断すればよいとし,弁済とその受領が日常的に大量に行われるものであることから迅速性,安全性が求められ,債務者が弁済時に看守し得なかった事情によって弁済の効力が否定されることがないようにしたものである。そして,債権者の受ける不利益は限定的であるため,債権者に不利益の負担を求めやすく,権利者の帰責事由を問わないものとしたものである。
 このような趣旨に照らし,受領者が債権者と代理人のいずれと詐称したかによって,債務者を保護すべき程度が異なるわけでもない。したがって,「債権の準占有者」とは,債権者その他受領権者らしい外観を呈する者をいう(※1)
 これを本件についてみると,EはAの通帳と届出印を無断で持ち出し,自ら作成した委任状を用いて,Bに対して本件定期預金の解約を申入れをしているから,Aの代理人であることを詐称している者である。そうすると,Eは,本件定期預金契約の解約による解約金の受領権者らしい外観を呈しているから,「債権の準占有者」である(※2)
  ⑵ア 本件振込みは本件定期預金の払戻しのためにされたものであるが,前記のように期限前解約と解約金の振込という行為に区別することも可能である。また,銀行が定める一般的な定期預金規定には,銀行はやむをえないと認めた場合にのみ期限前解約の申入れに応じるとされており,定期預金の期限前払戻しを義務的行為と捉えられないようにも思われる。そうすると,本件振込みをもって「弁済」があったとはいえないようにも思える。
 しかし,定期預金規定の定めにもかかわらず預金者が期限前解約を申し入れれば当然に認められ,満期による払戻しとは利息に違いがあるだけというのが実情であり,かつ,銀行・預金者双方の通常の認識でもある。そうすると,期限前解約の申入れを独立の法律行為として扱うことは適当ではなく,また,期限前払戻しは事実上銀行の義務となっているということができる。
 したがって,本件振込みは「弁済」にあたる(※3)
   イ なお,本件定期預金の払戻しは,振込みによってされている。振込みは,仕向銀行が被仕向銀行に対して受取人の預金口座への入金を依頼し,被仕向銀行がこれを実行するというものであるところ,入金とは,被仕向銀行が振込金相当額について受取人として指定された者の口座からの払戻請求に応じる準備を整えることをいい,その準備は入金記帳の時に整うとされるのが実情である。そうすると,本件では,遅くともFによる払戻請求の時点においてBは本件定期預金債権の弁済に当たる行為をしているということができる。
  ⑶ 善意無過失とは,本来,債務者が弁済の時に相手方に受領権があると信じ,そのように信じることにつき過失がないことをいう。本件で,Bが弁済の時にEに受領権があると信じ,そのように信じることにつき過失がないといえれば,Bにおいて善意無過失であったといえる。
 4 以上から,Bが善意無過失であれば,Bは本件振込みの効力をAに対しても主張することができるから,AはBに対して30万円の支払を請求することはできない。
第2 AのCまたはDに対する請求について
 1 Aは,DがCに対して30万円の預金債権を取得しているから,不当利得返還請求(同法703条)をする。ここで,Dは,ⓐそもそも預金債権は成立していない,ⓑCがFに対して本件払戻しをしたことによって準占有者に対する弁済としての効力を生ずるから,自己に利得はないとの反論をすることが想定される。そこで,Dのこれらの反論の当否について検討する。
 2 まず,ⓐについて検討すると,銀行の普通預金規定には,振込みがあった場合にはこれを預金口座に受け入れるという趣旨の定めがあるだけで,受取人と銀行との間の普通預金契約の成否を振込依頼人と受取人との間の振込みの原因となる法律関係の有無に係らせていることをうかがわせる定めはない。また,振り込みは,銀行間及び銀行店舗間の送金手続きを通して安全,安価,迅速に資金を移動する手段であって,多数かつ多額の資金移動を円滑に処理するため,その仲介に当たる銀行が各資金移動の原因となる法律関係の存否,内容等を関知することなくこれを遂行する仕組みが採られている。そうすると,振込依頼人から受取人の銀行の普通預金口座に振込みがあったときは,振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律行為が存在するか否かにかかわらず,受取人と銀行との間に振込額相当の普通預金契約が成立し,受取人が銀行に対して当該金額曹宇の普通預金債権を取得する(※4)
 そうすると,DはCに対して30万円の預金債権を取得することとなる。
 3⑴ 次にⓑについて検討する前提として,DがCに対する30万円の預金債権を行使することができるかどうかについて検討すると,普通預金債権を有する以上は受取人はその払戻しを請求することができ,ただそれを認めることが著しく正義に反するような特段の事情があるときは,権利の濫用(同法1条3項)に当たるものとして許されないにすぎない(※5)。本件では,前記の特段の事情は認められない。
  ⑵ そこでⓑについて検討すると,Fは預金債権者であるDを装っていたのであるから「債権の準占有者」である。
 本件払戻しにより30万円の現金が交付されているから,「弁済」にあたる。
 それでは,Cは善意無過失であったといえるか。①から④の事情からすると,Cは銀行として受領権者を確認するために構築された合理的な仕組みに沿って本人確認を行ったものということもできなくはない。しかし,払戻申込書の筆跡が口座開設の申込書と異なっており,経験を積んだ者ならばそのことに容易に気づいたと思われることからすると,Cが弁済時に看取し得た事情を見逃して弁済をしたものと言わざるを得ない。したがって,Cにおいては,弁済の時にDを称するFに受領権があると信じたことについて過失がある。
 よって,本件払戻しは,債権の準占有者に対する弁済としての効力を有さず,Cはなおも弁済の義務を負うから,Dは不当利得返還義務を免れない。
 4 以上から,AはCに対して30万円の支払を請求することができる。

以 上


(※1)「債務の弁済は,債権者または正当な受領権限を有する者に対してしなければ効力を有しないのが原則である。しかし,民法478条は,債権の準占有者に対して善意・無過失でした弁済であれば,弁済が効力を有すると規定している。これはフランス民法に倣い,『指名』債権でありながらその債権者が誰であるかが分からないという例外的な事態において債務者を保護する趣旨で設けられたものであった。そのため,立法段階で債権の準占有者として想定されていたのは,債権の表見相続人や債権譲渡が無効であった場合の債権譲受人のように,実際には債権者ではないが万人から見て債権者らしく見える者であった。これによれば,詐称代理人は,債権の受領権限を誤認した場合であり,債権の帰属主体を誤認した場合ではないので,準占有者には含まれないことになる。戦前の判例もまた,民法205条における準占有の定義との整合性に配慮しつつ,準占有者とは,自己のためにする意思をもって債権を行使する者,すなわち自ら債権者と称する者であり,詐称代理人は含まれないとしていた……。」「これに対して学説は,詐称代理人に対する弁済の効力はもっぱら表見代理の問題であり478条によるべきではないとする否定説もあったが,多くは判例を批判して肯定説を展開し,占有において代理占有が認めるられる以上準占有についても同様であるという見解や,205条は準占有者保護の規定であるのに対して478条は弁済者保護の規定であるから,自己のためにする意思は不要であるという見解が示された。これらによれば詐称代理人も478条の準占有者に含まれることになる。」「戦後になると判例は,この批判を受け入れて,詐称代理人も準占有者に含まれると解するにいたった。それが本判決[最判昭和37年8月21日民集16巻9号1809頁]である。本件は無権利者が代理権に関するしょるいを偽造した事例であるが,現在では,代理人の越権行為である場合……,夫婦間での代理行為の場合……にも詐称代理人が準占有者であることを当然の前提とする判決が出揃っており(ただし前者は預金担保貸付け,後者は生命保険の契約者貸付けに対する類推適用事例),今日ではあえてこの問題が争点になることはなくなっている。」「学説でも,戦後は肯定説が通説となり,これを受けて,準占有者とは『外観上正当な弁済受領権限があるように見える者』であるとして,本人詐称だけでなく詐称代理人を含むよう包括的に定義されるようになった。また,その根拠については,205条との関係を説くのではなく478条が権利外観保護法理の一つの現れであること,具体的にもたまたま本人と称したか代理人と称したかで弁済における債務者保護に差を設けるのは妥当ではないことをあげるのが一般的になった(とくに本件のように会社が債権者である場合には,弁済を受領するのは代理人である)。しかし,なお否定説も少数ながら唱えられており,対立は平行線をたどっている。他方では,預金担保貸付けのような弁済意外の行為への478条の類推適用を批判する観点から,義務的な履行行為の範疇で捉えられない行為については,表見代理規定の適用(詐称代理人)またはその類推適用(本人詐称)によるべきであるとして,別の角度から478条と表見代理との関係を論じる説も現れている。」中田裕康ほか『民法判例百選Ⅱ債権〔第7版〕』74頁
(※2)「債権者の代理人と称して債権を行使する者も民法478条にいわゆる債権の準占有者に該ると解すべきことは原判決説示のとおりであつて、これと見解を異にする上告理由第四点は理由がない。」前掲最判昭和37年8月21日
(※3)「第一審判決を引用する原判決の確定するところによれば、上告人は昭和33年6月4日被上告銀行との間で金額50万円期間元年利率年6分とする定期預金契約を締結したが、その際、契約当事者において、右預金を期限前に払い戻す場合には利息を日歩7厘(普通預金の利息と同率)とする商慣習による意思を有していたものと認めるべきところ、同年10月11日、被上告銀行は、原判示の経緯により、前記預金の期限前払戻を請求した上告人の代理人と称する訴外Aに対し、前記定期預金の元金50万円とこれに対する昭和33年6月4日から同年10月10日まで日歩7厘の割合による利息とを払い戻したというのである。」「右の事実によれば、原審は、本件定期預金債権の期限前払戻について、当事者間に前記合意の存した事実を認定しているものと解せられるところ、かかる合意の存しない場合は別論として、本件においては、期限前払戻の場合における弁済の具体的内容が契約成立時にすでに合意により確定されているのであるから、被上告銀行のなした前記の期限前払戻は、民法478条にいう弁済に該当し、同条の適用をうけるものと解するのが相当である。したがつて、原審が、前記期限前払戻について、本件定期預金契約の解約を前提とするかのごとき判示をしたのは、措辞必ずしも妥当ではないが、右払戻について同条の適用を肯定したのは、結論において正当である。所論は、いずれも、原審の前記認定にそわない独自の見解であつて、採用できない。」最判昭和41年10月4日民集20巻8号1565頁
(※4)振込依頼人から受取人の銀行の普通預金口座に振込みがあったときは、振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在するか否かにかかわらず、受取人と銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し、受取人が銀行に対して右金額相当の普通預金債権を取得するものと解するのが相当である。けだし、前記普通預金規定には、振込みがあった場合にはこれを預金口座に受け入れるという趣旨の定めがあるだけで、受取人と銀行との間の普通預金契約の成否を振込依頼人と受取人との間の振込みの原因となる法律関係の有無に懸からせていることをうかがわせる定めは置かれていないし、振込みは、銀行間及び銀行店舗間の送金手続を通して安全、安価、迅速に資金を移動する手段であって、多数かつ多額の資金移動を円滑に処理するため、その仲介に当たる銀行が各資金移動の原因となる法律関係の存否、内容等を関知することなくこれを遂行する仕組みが採られているからである。」最判平成8年4月26日民集50巻5号1267頁
(※5)「振込依頼人から受取人として指定された者(以下「受取人」という。)の銀行の普通預金口座に振込みがあったときは,振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在するか否かにかかわらず,受取人と銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し,受取人において銀行に対し上記金額相当の普通預金債権を取得するものと解するのが相当であり……,上記法律関係が存在しないために受取人が振込依頼人に対して不当利得返還義務を負う場合であっても,受取人が上記普通預金債権を有する以上,その行使が不当利得返還義務の履行手段としてのものなどに限定される理由はないというべきである。そうすると,受取人の普通預金口座への振込みを依頼した振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在しない場合において,受取人が当該振込みに係る預金の払戻しを請求することについては,払戻しを受けることが当該振込みに係る金員を不正に取得するための行為であって,詐欺罪等の犯行の一環を成す場合であるなど,これを認めることが著しく正義に反するような特段の事情があるときは,権利の濫用に当たるとしても,受取人が振込依頼人に対して不当利得返還義務を負担しているというだけでは,権利の濫用に当たるということはできないものというべきである。」最判平成20年10月10日民集62巻9号2361頁



2019-04-15(Mon)

【事例から民法を考える】事例⑯「損していいのは誰?」

じれかんも,なんだかんだで半分が終わりました。

もう折角なので全部答案書いちゃいましょうかね。

どうしましょうかね。

短答ヤバいんですよね……

とりあえず,今回は,事例⑯です。

≪問題≫

●事例
 運動用品の販売を業とするAは,新たにスポーツクラブの経営に乗り出す計画を立てたが,建物を自身で建てる余裕まではなかったため,1993年2月,不動産の賃貸・管理を業とするBに協力を仰いだ。AがBに示した案は,Bの建物をAが賃借し,ここに機器を設置してスポーツクラブを営業し,売上げの50%を賃料としてBに支払うというもので,Aからは,法人会員契約の打診も複数受けているため売上げは月額2000万円を下回らないとの試算も提示された。この話に興味を持ったBは,自身は適当な物件を有していなかったが,他者の物件を賃借して施設を調達しようと考え,運送業を営むCに,C所有の倉庫のうち甲建物をスポーツ施設に改装し自己に賃借してくれないか打診した。当初は難色を示していたCも,Bの再三の説得により,甲建物の改装費用6000万円と郊外に新たに倉庫を建設する費用8000万円につき銀行から融資を受けた場合の毎月の返済が確保でき,Cに利益が生ずるだけの賃料なら応じてもよい,と返答するにいたった。そこでBは,改装費用のうち壁面塗装工事分1200万円をBが負担すればCの銀行への返済を月額650万円にできると見積もり,不動産賃貸価格の相場も勘案しつつ,Cに次のような契約を提案し,Cもこれを了承した。すなわち,①スポーツ施設に改装した甲建物をBがCから賃借する,②BがCに支払う賃料月額は800万円とし契約期間中値下げはしない,③Bは甲建物を営業に必要な範囲で管理改修し,一括して第三者に転貸できる,④賃貸借期間は引渡日から18年とし,BまたはCが期間満了の6か月前に相手方に解約を申し入れなかった場合は自動的に延長する等である。
 甲建物の改修工事が終わった1993年8月,B・C間で上記の内容の賃貸借契約が正式に締結されて甲建物の引渡しがなされ,同日には,A・B間でも,賃料をAの売上げの50%とするほかは,B・C間の賃貸借とほぼ同じ内容とする転貸借契約が締結された。こうしてAのスポーツクラブは開業したが,その後の不景気でAの業績は悪化し,次のような状況が生じた(設問はそれぞれ独立の問いである)。

【設問1】 AからBに支払われる賃料月額が600万円にまで落ち込んだため,2004年3月,BはCに対して賃料を500万円に減額するよう求めた。これは認められるか。

【設問2】 AがBに支払う賃料が減少したため,BはCに賃料の減額を求めたが,Cがこれに応じないため,2005年3月,BはCに対する賃料の支払を停止した。Cの再三の催告にもかかわらずBの不払が続いたため,同年10月,Cは,賃貸借契約を解除する旨Bに通知し,Aに賃貸借契約を直接結ばないかと打診してきた。この後,BのAに対する転貸賃料の支払請求を,なお甲建物で営業を続けているAは拒むことができるか。

【設問3】 Cが賃料の減額に応じないので,Bは2011年8月の期間満了時に契約を更新しないことを決め,同年2月にその旨をCに通知した。折しも甲建物をダンススタジオとして利用したいといってきた者があったこともあり,Cはこれを了承した。Cは,同年9月,Aに対してB・C間の賃貸借契約の終了を通知し,2012年5月に甲建物の明渡しを請求した。これは認められるか。


転貸借関係です。

いままでやってきた問題に比べれれば,

割と解きやすい感じはしました。

判例の射程聞かれまくりでもちろんレベルは高いですが,

なんだそら!!!というような解釈論に持ち込まれるようなことはなかったように思います。

司法試験でもこれくらいのレベルだったら全然出題されるんじゃないでしょうか。

知らんけど。

≪答案≫
第1 設問1
 1 BがCに対して賃料を減額するように求めることの法的根拠は,借地借家法32条1項所定の借賃減額請求権であると考えられる。そこでまず,BC間の契約に借地借家法の適用があるかどうかについて検討する。
 ABC間の法律関係は,BがAに賃貸するための甲建物をCに保有させ,これをBが賃借し一括してAに転貸するという形式であって,いわゆるサブリース契約の方式をとるものである。この点,サブリース契約における賃借人は業界大手の不動産業者であり,賃貸人である不動産所有者は不動産業において素人ともいうべき地位にある。そこで,通常賃貸借契約において立場が弱い賃借人を保護しようとする借地借家法の適用が排除されるべきようにも思える。しかし,BC間においては,CがBに対して甲建物を使用収益させ,BがCに対してその対価として賃料を支払うというものであり,BC間の契約が甲建物の賃貸借契約(民法601条)であることは明らかである。したがって,BC間の契約には,借地借家法の適用され,同法32条の規定も適用されるものというべきである(※1)(※2)
 2 もっとも,サブリース契約においては,賃貸人と賃借人との間の賃貸借契約は,賃借人の転借人に対する転貸事業の一部を構成するものであり,賃貸人と賃借人との間の契約における賃料額等に係る約定は,賃貸人が賃借人の転貸事業のために多額の資本を投下する前提となるものであって,当該契約における重要な要素であるということができる。これらの事情は,当該契約の当事者が,前記の当初賃料額を決定する際の重要な要素となった事情であるから,衡平の見地に照らし,借地借家法32条1項の規定に基づく借賃減額請求の当否及び相当賃料額を判断する場合に,重要な事情として十分に考慮されるべきである(※3)
 これを本件についてみると,BC間の賃貸借契約は,BからCに対して持ちかけたものであって,難色を示すCを再三説得して締結したものであるとはいえ,CもBとともに利益を得ようとしていたのは事実であるから,Cも賃料減少のリスクを覚悟すべき立場にあったといえる。また,銀行からの融資を得て自身の所有物件に付加した価値を,Bの犠牲の上に返済金を確保させてまで,自身のもとにとどめられるとする必要もないように思われるし,特に返済額650万円のなかに倉庫の新築分も含まれていることからすると,借賃減額請求は認められないようにも思われる。しかし,将来的にAの経営が悪化する可能性は,一般的にみても当然予想できるものであり,Bにとっては常に減収のリスクを負っていたといえるにもかかわらず,BはAとの間の転貸料についてはAの営業利益に連動さらる方式をとっている一方で,Cとの間ではあえて賃料を定額にしている。そうすると,Bにおいて営業利益の変動のリスクを引き受けることを前提に,Cと契約を結んでいたとみることができる。以上の事情からすると,Aからの転貸料が減少してCへの賃料を支払うことができなくなったのは,当初からBが負うものとされたリスクが現実化したものにすぎないから,借賃減額請求権を行使することはできないというべきである。
 よって,Bの請求は認められない。
第2 設問2
 1 BがAに転貸賃料の支払を請求するためには,AB間の甲建物の転貸借契約が存続していることが必要である。一方で,BC間の甲建物の賃貸借契約が債務不履行により解除されているが,ここでの解除により,Cの承諾がある転貸借契約の帰趨が問題となる。
 2 判例によれば,賃貸人の承諾のある転貸借においては,転借人が目的物の使用収益につき賃貸人に対抗し得る権原を有することが重要であること,賃貸人が転借人に対して直接目的物の返還を請求したときは,転借人は賃貸人に対し,目的物の返還義務を負うとともに,遅くとも当該請求を受けた時から返還義務を履行するまでの愛゛だの目的物の使用収益について,その対価相当分の金銭を支払う義務を免れないこと,賃貸人が転借人に直接目的物の返還を請求するに至った以上,転貸人が賃貸人との間で再び賃貸借契約を締結するなどして,転借人が賃貸人に転借権を対抗し得る状態を回復し得ることは,もはや期待できないことを理由に,転貸借は,賃貸人が転借人に目的物の返還を請求した時に,転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了するとしている(※4)。この判例は,賃貸人から転借人に対して返還請求がすでになされている事案において,転貸人による転貸賃料の支払請求を否定したものであって,返還請求がなされていない場合には支払請求が認められることを言うものではない。また,返還請求のみが社会通念上履行不能と被浮かされるべき事態であるとしているものではない。そうすると,返還請求がなされていない場合でも,社会通念上転借権の対抗力回復を不能と評価し,転貸借契約の終了を認めることができる場合があるというべきである。
 3 これを本件についてみると,CはAに対して直接に賃貸借契約を締結しようと打診をしてきている。契約締結にいたっていない現段階では,なおBC間の賃貸借契約が復活する余地が完全に否定されるものではないが,その期待は薄いというべきである。また,AがCとの賃貸借契約に前向きである場合には,Bがこれを妨げることができる立場にはない以上,AB間の転貸借契約は,CがAに対して打診をした時点で,社会通念上履行不能となったと評価される。したがって,CからAへの打診があった時点で転貸借契約は終了するから,それ以降についてはBはAに対して転貸料の支払を請求することはできず,Bが請求してても,Aはこれを拒むことができる。
第3 設問3
 1 CのAに対する甲建物の明渡し請求が認められるか否かは,BC間の賃貸借契約の終了をAに対して対抗することができるか否かにかかる。そこで,この点について検討する。
 2 この点,転貸借契約は元となる賃貸借契約の成立を前提として存続するから,賃貸借契約が解除された場合には,転借人は転借権を賃貸人に対抗することができないのが原則である。もっとも,具体的な事実関係から,信義則上,賃貸人が賃貸借契約の終了を転借人に対抗することができない場合があるというべきである(※5)。そして,賃貸人が,単に転貸借を承諾したにとどまらず,転貸借の締結に加功し,転借人による当該目的物の占有の原因を作出したといえるような場合には,信義則上,賃貸人は賃貸借契約の終了を転借人に対抗することができない(※6)
 3 これを本件についてみると,BC間の賃貸借は,AB間の転貸借ありきで作出されたものであり,Bが難色を示すCを再三説得して甲建物を改装させるなどしたものであるから,CとBが転貸借ないし転借人確保のためにき協力して事業を展開していくというよりも,むしろBとAの間で計画した事業を後からCが加わる形になっており,また転貸料の設定のされ方からみても,転貸人と短借人との間の距離は極めて近いということができる。そうすると,Cが目的物件により多くの資本投下をしたとしても,Cが転貸借の締結に加功したということはできないというべきである。
 したがって,CはBとの間の賃貸借契約の終了をAに対抗することは,信義則に照らしても許されるというべきであるから,CのAに対する甲建物の明渡請求は認められる。

以 上


(※1)「前記確定事実によれば,本件契約における合意の内容は,上告人が被上告人に対して本件賃貸部分を使用収益させ,被上告人が上告人に対してその対価として賃料を支払うというものであり,本件契約は,建物の賃貸借契約であることが明らかであるから,本件契約には,借地借家法が適用され,同法32条の規定も適用されるものというべきである。」最判平成15年10月21日集民211号55頁
(※2)「本件契約のようないわゆるサブリース契約については,これまで,当事者間における合意の内容,すなわち締結された契約の法的内容はどのようなものであったかという,意思解釈上の問題がしばしば争われており,本件においても同様である。そして,その際,サブリース契約については借地借家法32条の適用はないと主張する見解(以下「否定説」という。本件における上告人の主張)は,おおむね,両当事者間に残されている契約書上の「賃貸借」との表示は単に形式的・表面的なものであるにすぎず,両当事者間における合意の内容は,単なる建物賃貸借契約にとどまるものではない旨を強調する。」「しかし,当事者間における契約上の合意の内容について争いがあるとき,これを判断するに際し採られるべき手順は,何よりもまず,契約書として残された文書が存在するか,存在する場合にはその記載内容は何かを確認することであり,その際,まずは契約書の文言が手掛りとなるべきものであることは,疑いを入れないところである。本件の場合,明確に残されているのは,「賃貸借予約契約書」と称する契約文書であり,そこに盛られた契約条項にも,通常の建物賃貸借契約の場合と取り立てて性格を異にするものは無い。そうであるとすれば,まずは,ここでの契約は通常の(典型契約としての)建物賃貸借契約であると推認するところから出発すべきであるのであって,そうでないとするならば,何故に,どこが(法的に)異なるのかについて,明確な説明がされるのでなければならない。」「この点,否定説は,いわゆるサブリース契約は,①典型契約としての賃貸借契約ではなく,「不動産賃貸権あるいは経営権を委譲して共同事業を営む無名契約」である,あるいは,②「ビルの所有権及び不動産管理のノウハウを基礎として共同事業を営む旨を約する無名契約」と解すべきである,等々の理論構成を試みるが,そこで挙げられているサブリース契約の特殊性なるものは,いずれも,①契約を締結するに当たっての経済的動機等,同契約を締結するに至る背景の説明にとどまり,必ずしも充分な法的説明とはいえないものであるか,あるいは,②同契約の性質を建物賃貸借契約(ないし,建物賃貸借契約をその一部に含んだ複合契約)であるとみても,そのことと両立し得る事柄であって,出発点としての上記の推認を覆し得るものではない。」「もっとも,否定説の背景には,サブリース契約に借地借家法32条を適用したのでは,当事者間に実質的公平を保つことができないとの危惧があることが見て取れる。しかし,上記の契約締結の背景における個々的事情により,実際に不公平が生じ,建物の賃貸人に何らかの救済を与える必要が認められるとしても,それに対処する道は,否定説を採る以外に無いわけではないのであって,法廷意見が,借地借家法32条1項による賃料減額請求の当否(同項所定の賃料増減額請求権行使の要件充足の有無)及び相当賃料額の判断に当たり賃料額決定の要素とされた事情等を十分考慮すべき旨を判示していることからも明らかなように,民法及び借地借家法によって形成されている賃貸借契約の法システムの中においても,しかるべき解決法を見いだすことが十分にできるのである。そして,さらに,事案によっては,借地借家法の枠外での民法の一般法理,すなわち,信義誠実の原則あるいは不法行為法等々の適用を,個別的に考えて行く可能性も残されている。」「いずれにせよ,必ずしも否定説によらずとも,実質的公平を実現するための法的可能性は,上記のとおり,現行法上様々に残されているのであって,むしろ,個々の事案に応じた賃貸借契約の法システムの中での解決法や,その他の上記可能性を様々に活用することが可能であることを考慮するならば,一口にサブリース契約といっても,その内容や締結に至る背景が様々に異なり,また,その契約内容も必ずしも一律であるとはいえない契約を,いまだ必ずしもその法的な意味につき精密な理論構成が確立しているようには思えない一種の無名契約等として,通常の賃貸借契約とは異なるカテゴリーに当てはめるよりも,法廷意見のような考え方に立つ方が,一方で,法的安定性の要請に沿うものであるとともに,他方で,より柔軟かつ合理的な問題の処理を可能にする道であると考える。」前掲最判平成15年10月21日藤田裁判官補足意見
(※3)「前記の事実関係によれば,本件契約は,不動産賃貸等を目的とする会社である被上告人が,上告人の建築した建物で転貸事業を行うために締結したものであり,あらかじめ,上告人と被上告人との間で賃貸期間,当初賃料及び賃料の改定等についての協議を調え,上告人が,その協議の結果を前提とした収支予測の下に,建築資金として被上告人から234億円の敷金の預託を受けて,上告人の所有する土地上に本件建物を建築することを内容とするものであり,いわゆるサブリース契約と称されるものの一つであると認められる。そして,本件契約は,被上告人の転貸事業の一部を構成するものであり,本件契約における賃料額及び本件賃料自動増額特約等に係る約定は,上告人が被上告人の転貸事業のために多額の資本を投下する前提となったものであって,本件契約における重要な要素であったということができる。これらの事情は,本件契約の当事者が,前記の当初賃料額を決定する際の重要な要素となった事情であるから,衡平の見地に照らし,借地借家法32条1項の規定に基づく賃料減額請求の当否(同項所定の賃料増減額請求権行使の要件充足の有無)及び相当賃料額を判断する場合に,重要な事情として十分に考慮されるべきである。」前掲最判平成15年10月21日
(※4)「賃貸人の承諾のある転貸借においては、転借人が目的物の使用収益につき賃貸人に対抗し得る権原(転借権)を有することが重要であり、転貸人が、自らの債務不履行により賃貸借契約を解除され、転借人が転借権を賃貸人に対抗し得ない事態を招くことは、転借人に対して目的物を使用収益させる債務の履行を怠るものにほかならない。そして、賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合において、賃貸人が転借人に対して直接目的物の返還を請求したときは、転借人は賃貸人に対し、目的物の返還義務を負うとともに、遅くとも右返還請求を受けた時点から返還義務を履行するまでの間の目的物の使用収益について、不法行為による損害賠償義務又は不当利得返還義務を免れないこととなる。他方、賃貸人が転借人に直接目的物の返還を請求するに至った以上、転貸人が賃貸人との間で再び賃貸借契約を締結するなどして、転借人が賃貸人に転借権を対抗し得る状態を回復することは、もはや期待し得ないものというほかはなく、転貸人の転借人に対する債務は、社会通念及び取引観念に照らして履行不能というべきである。したがって、賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、賃貸人の承諾のある転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了すると解するのが相当である。」最判平成9年2月25日民集51巻2号398頁
(※5)「甲が其の所有物を乙に賃貸し,乙が甲の承諾を得て之を丙に転貸したるときは,丙は其の転貸借契約の内容に従いて右物件の使用収益を為す権利を有し,其の使用収益は甲に於ても之を認容せざるべからざるものにして,乃ち丙は甲に対しても右の権利を主張し得るものなること言うを俟たざる所なるを以て,其の権利は甲単独の意思を以て任意に之を消滅せしめ得べき道理なれば勿論,甲乙間の合意を以てするも之を消滅せしめ得べき理由なきものと云うべく,此の結論たるや信義の原則よりして観るも洵に当然のことなりと云うべし……。故に縦令甲と乙とが右の賃貸借解除の合意を為すも,其の合意は乙丙間の転貸借に影響して丙の権利を消滅せしむべき理由なきものなるに拘らず,原審が,被上告人は自己所有の本件土地を訴外柿澤茂一郎に賃貸し,同人は被上告人の承諾を得て之を上告人に転貸したるものなるも,被上告人が柿澤茂一郎との合意により右賃貸借を解約したるを以て,被上告人は上告人に対して本件土地の明渡を請求し得るものと為したるは,法律の解釈を誤りたる違法あるもにして,此の点に於て論旨理由あり。」大判昭和9年3月7日民集13巻4号278頁
(※6)「前記事実関係によれば、被上告人は、建物の建築、賃貸、管理に必要な知識、経験、資力を有する訴外会社と共同して事業用ビルの賃貸による収益を得る目的の下に、訴外会社から建設協力金の拠出を得て本件ビルを建築し、その全体を一括して訴外会社に貸し渡したものであって、本件賃貸借は、訴外会社が被上告人の承諾を得て本件ビルの各室を第三者に店舗又は事務所として転貸することを当初から予定して締結されたものであり、被上告人による転貸の承諾は、賃借人においてすることを予定された賃貸物件の使用を転借人が賃借人に代わってすることを容認するというものではなく、自らは使用することを予定していない訴外会社にその知識、経験等を活用して本件ビルを第三者に転貸し収益を上げさせるとともに、被上告人も、各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れ、かつ、訴外会社から安定的に賃料収入を得るためにされたものというべきである。他方、京樽も、訴外会社の業種、本件ビルの種類や構造などから、上記のような趣旨、目的の下に本件賃貸借が締結され、被上告人による転貸の承諾並びに被上告人及び訴外会社による再転貸の承諾がされることを前提として本件再転貸借を締結したものと解される。そして、京樽は現に本件転貸部分二を占有している。」「このような事実関係の下においては、本件再転貸借は、本件賃貸借の存在を前提とするものであるが、本件賃貸借に際し予定され、前記のような趣旨、目的を達成するために行われたものであって、被上告人は、本件再転貸借を承諾したにとどまらず、本件再転貸借の締結に加功し、京樽による本件転貸部分二の占有の原因を作出したものというべきであるから、訴外会社が更新拒絶の通知をして本件賃貸借が期間満了により終了しても、被上告人は、信義則上、本件賃貸借の終了をもって京樽に対抗することはできず、京樽は、本件再転貸借に基づく本件転貸部分二の使用収益を継続することができると解すべきである。このことは、本件賃貸借及び本件転貸借の期間が前記のとおりであることや訴外会社の更新拒絶の通知に被上告人の意思が介入する余地がないことによって直ちに左右されるものではない。」最判平成14年3月28日民集56巻3号662頁



2019-04-14(Sun)

【事例から民法を考える】事例⑮「十人十色」

中央線開業130周年ということで,

中央線の沿線ではいろいろやってるみたいですが,

私も記念弁当を購入してきました。

S__14950402.jpg

これです。

包装紙は各駅で仕様が異なります。

S__14950403.jpg

新宿から立川に向けて歴代の車両が掲載されています。

個人的には種別幕を付けた201系が中央線のイメージなので,

それを採用してほしかったものですが,

まあいいでしょう(突然の上から目線)

S__14950404.jpg

中身は,中央線沿線をイメージしたとのことですが,

中央線の沿線に一体に何があるのか分からないため,

何がどう反映されているのか分からないただのおいしいお弁当になってしまいました。

残念ですね。

試験が終わったらそういうのも勉強していきたいです(宣言)

ところで,今回は,じれかん民法の事例⑮です。

≪問題≫

●事例
 甲建物は,45年前に築造され,分譲されたマンションである。分譲マンションとしては市内最初期のものであり,立地の良さと斬新な外観・充実した室内設備が人気を呼び,住戸全60戸は売り出し開始後すぐに完売した。ところが,20年ほど前から,建物や設備の陳腐化・老朽化と住戸の狭さ(多くが専有面積50㎡程度)などのために区分所有者の転居が多くなり,現在では45戸が賃貸用物件となっている。また,賃貸用物件については,徐々に空室が目立ち始め,5年前からは15戸前後が空室という状況が続いている。そのころから,賃借人が入居している住戸の賃料(専有面積50㎡程度のものの月額)は,8万円が最も多く(現在7戸),最低6万円,最高11万円,平均約7万5000円となっている。
 この場合について,以下の設問に答えなさい。なお,すべての設問において,住戸とは甲建物内の住戸を指すこと,賃貸人・賃借人とも個人であり,賃借人は住居のために賃借すること,賃料は前月末日払とされていたこととする。

【設問1】 Aは,Bから,1991年以来,住戸①を賃料月額11万円で賃借している。当初は妥当な賃料と感じていたが,物件の老朽化,不動産価格・賃料相場の大幅な下落などから,次第に割高感を抱くようになった。甲建物内に賃料の安い物件があることを知っていたが,住み慣れた部屋であり,年をとって引っ越しを面倒に感じていた。2012年5月に,思い切って月額8万円への賃料引下げをBに申し入れたが,取り合ってもらえなかった。そこで,Aは,同年9月分から,賃料として8万円しか支払わないことにした。2014年1月20日に,Bが,Aに対して,2012年9月分から2014年1月分までの賃料の不足額51万円を同月末日までに支払うよう求めた。Aは,この請求に応じなければならないか。

【設問2】 Cは,Dから,住戸②を2011年10月から賃貸借期間2年間,賃料月額7万5000円で賃借した。C・Dの賃貸借契約には,Cが住戸②の引渡しを受ける際に保証金として50万円をDに交付すること,Dは,契約終了後住戸②の返還と引換えに保証金から15万円を差し引き,さらにCの賃貸借契約上の債務の未履行額を差し引いた金額を返還することとする条項が含まれていた。Cは,2011年10月1日に住戸②の引渡しを受ける際に,保証金として50万円をDに支払った。C・D間の賃貸借契約は,2013年9月30日をもって期間満了により終了した。同日,Cは住戸②をDに明け渡し,Dは,前記保証金のうち35万円をCに返還した。同年11月5日に,Cが,保証金から差し引かれた15万円の返還をDに請求した。Cのこの請求は認められるか。

【設問3】 Eは,Fから,住戸③を賃借した。E・F間の賃貸借契約では,賃貸借期間を2011年10月から2年間,賃料を2011年10月につき月額22万円5000円,以後は7万5000円とすることとされた。また,Eは,住戸③の引渡しを受ける際に敷金として35万円をFに交付すること,Fは,契約終了後に住戸③の返還と引換えに,敷金からEの賃貸借契約上の債務の未履行額を差し引いた金額を返還いることとする条項が含まれていた。Eは,2011年10月1日に住戸③の引渡しを受ける際に,Fに対して敷金として35万円,同月分の賃料として22万5000円を支払った。E・Fの賃貸借契約は,2013年9月30日をもって期間満了により終了した。同日,Eは住戸③を明け渡し,Fは敷金35万円を返還した。Eは2011年10月分の賃料は不当に高額であり,15万円の返還を求めたいと考えている。これは可能か。

【設問4】 Gは,Hから,住戸④を2011年10月より賃借している。G・H間の賃貸借契約では,賃貸借期間を2年間,賃料を月額7万円とし,契約が更新された場合には,GがHに対して更新料として14万円を支払うこととされていた。G・H間の賃貸借は,GとHのいずれからも期間満了による賃貸借終了の申し出がされず,2013年10月に更新された。ところが,Gは,更新料14万円の支払いをしなかった。そこで,Hは,同年11月20日に,Gに対して,10日以内に更新料14万円を支払うことを求めた。その後もGが支払をしなかったため,Hは,同年12月1日に,Gに対して,賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし,住戸④の明渡しを請求した。Hのこの請求は認められるか。


試験には出ない(確信)

そう思ってしまうと,答案も雑になってしまいます。

でも仕方ないですね。

試験までもう30日くらいしかないですしね。

≪答案≫
第1 設問1
 1 Bは,Aに対して,Aが賃料不相当として賃料の一部を支払わなかった分についての不足額の支払を求めている。一方で,Aは,Bに対して,賃料の引下げを要求しており,これが借賃減額請求(借地借家法32条)としての性質を有しているとも思われるため,Bの上記請求との関係で問題となる。
 2 借地借家法は,賃貸借契約に基づく建物の使用収益が開始された後において,賃料の額が,同項所定の経済事情の変動等により,又は近傍同種の建物の賃料の額に比して不相当となっときに,将来に向かって賃料額の増減を求めるもののであるから,賃貸借契約の当事者は,契約に基づく使用収益を開始しなければ上記規定に基づいて当初賃料の額の増減を求めることができない(※1)。Aは,Bに対して賃料の引下げを要求する以前から,住戸①に居住して,その使用収益をしているから,上記規定の適用がある。
 3 そうすると,Bは,Aとの間で借賃の減額について協議が調っていないため,その裁判が確定するまで,相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。したがって,Bが11万円を相当額と考えているため,BはAに対して,月額11万円の借賃を請求することができ,不足額51万円の請求をすることができる。
 もっとも,Aの借賃減額請求が認められた場合には,AのBに対する賃料引下げの要求が借賃減額の意思表示とみることができるから,その翌月である2012年6月以降は月額8万円となり,Bの上記請求は認められず,反対に,AがBに対して2012年6月から8月分につき9万円の返還と各月分につき年1割の割合による利息の支払をBに対して求めることができる。
第2 設問2
 1 Cが保証金から差し引かれた15万円の返還を請求するためには,契約終了時に保証金から15万円を差し引く旨の特約(以下「本件敷引特約」という。)が無効であると認められることが必要である。もっとも,特約の成立自体に瑕疵は見当たらないので,Cは,本件差引特約が消費者契約法10条に抵触し無効であると主張することが考えられる。
 2⑴ まず,CD間の賃貸借契約が消費者契約(同法2条3項)にあたるか。Cは「消費者」(同条1項)である。賃貸用建物の賃貸借は営利性のある継続的行為であることから事業性が肯定されるため,個人であるDも「事業者」(同条2項)にあたる。したがって。消費者と事業者との間で締結される契約であるから,消費者契約にあたる。
  ⑵ 「公の秩序に関しない規定」には,明文の規定のみならず,一般的な法理も含まれる(※2)。建物賃貸借については,借地借家法32条1項が借賃増減請求権を認めている。この規定の目的は,対価の不等性を実質的に除去することにあり,賃料名目で授受される対価の不相当性のみを除去するものではない。ところが,賃料と異なる形式で授受される金銭については,対価的性格があるものであっても,同項による規制が及ばない。このことから,建物賃貸借契約については,賃料以外の形式での対価的性格のある金銭の支払は法律上原則として予定されていないことが示されていると考えられる。そして,賃料は同項による対価規制の対象となるのに対して,特約による一時金については同項の規制が直接には及ばない。また,一時金の定めがあるために,同項による賃料減額の可否の判断も困難となる。これは,実質的対価の減額を求めて争おうする場合に賃借人にとって不利となる。したがって,建物賃貸借契約において賃借人に一時金の支払を義務付ける特約は,「公の秩序に関しない規定」と異なる定めであって消費者に不利益となるものである。
 そうすると,本件敷引特約は,Cに対して,住戸②の引渡しに際して保証金の名目で50万円の支払を求める点で,一時金の支払を義務付ける特約である。したがって,「公の秩序に関しない規定」と異なる定めであって消費者に不利益となるものである。
  ⑶ そこで,本件敷引特約が借地借家法32条の趣旨に照らして不相当に過大になったかどうかが問題となる。同一建物内の賃貸借の契約条件とも比較する必要があり,本件の事情からは明らかではないものの,一時金を加えても他と比較して不相当に過大な額であるとはいえない可能性が高い。したがって,「民法第1条第2項に規定する基本原則に反」するとまではいえない。
 3 よって,Cは,本件敷引特約の無効を主張することができない。以上から,Cの請求は認められない。
第3 設問3
 Eは,EF間の賃貸借契約中,初月の賃料を22万5000円とすることは,消費者契約法10条に反し,過大部分が無効であると主張することが考えられる。しかし,賃貸借契約の期間によって賃料額が異なり,短期であるほど割高になることもあり得るところである。そして,初回賃料がかなり高額であっても,賃借人がそれを明確に認識し,不当な干渉を受けることなく合意したのであれば,その金額を不当とする理由もない。したがって,消費者契約法10条に抵触するものではない。
 よって,Eの返還請求は認められない。
第4 設問4
 1 まず,Gとしては,GH間で賃貸借契約の更新時に更新料を支払う旨の特約(以下「本件更新料特約」という。)は,消費者契約法10条に抵触し無効であると主張することが考えられるところ,本件更新料特約は一時金としての性質を持つが,借地借家法32条1項の趣旨に照らして不相当に過大であるとまではいえないので,同法10条には抵触しない。
 2 次に,Gとしては,本件更新料特約が有効であるとしても,更新料不払いを理由として解除をすることは,信頼関係破壊の法理に照らして許されないと主張することが考えられる。
 Hの解除の意思表示は,賃貸借契約上の債務不履行に基づく解除(民法541条)であると考えられるところ,そもそも賃貸借は信頼関係を基礎とするものであるから,たとえ賃借人において賃貸借契約上の債務を履行しない場合であっても,賃借人の同行為を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは,賃貸人は,解除権を行使し得ない(※3)
 これを本件についてみると,Gが債務の履行を怠ったのは,更新料14万円の支払のみであり,その額の大小の評価は微妙である反面,賃料の支払を怠ったことはなく,不払の回数は今回が1回目である。そうすると,Hにとって,更新料に関する争いさえ決着がつけばGとの賃貸借を継続しがたいような不利益があるとはいえないから,Hに対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるというべきである。
 したがって,Hは未だGとの賃貸借契約を解除することはできない。
以 上

(※1)「借地借家法32条1項の規定に基づく賃料増減額請求権は,賃貸借契約に基づく建物の使用収益が開始された後において,賃料の額が,同項所定の経済事情の変動等により,又は近傍同種の建物の賃料の額に比較して不相当となったときに,将来に向かって賃料額の増減を求めるものと解されるから,賃貸借契約の当事者は,契約に基づく使用収益の開始前に,上記規定に基づいて当初賃料の額の増減を求めることはできないものと解すべきである。」最判平成15年10月21日集民211号55頁
(※2)「消費者契約法10条は,消費者契約の条項を無効とする要件として,当該条項が,民法等の法律の公の秩序に関しない規定,すなわち任意規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重するものであることを定めるところ,ここにいう任意規定には,明文の規定のみならず,一般的な法理等も含まれると解するのが相当である。」最判平成23年7月15日民集65巻5号2269頁
(※3)「民法612条2項が、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで賃借権の譲渡又は賃借物の転貸をした場合、賃貸人に解除権を認めたのは、そもそも賃貸借は信頼関係を基礎とするものであるところ、賃借人にその信頼を裏切るような行為があつたということを理由とするものである。それ故、たとえ賃借人において賃貸人の承諾を得ないで上記の行為をした場合であつても、賃借人の右行為を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情のあるときは、賃貸人は同条同項による解除権を行使し得ないものと解するを相当とする。」最判昭和30年9月22日民集9巻10号1294頁



2019-04-14(Sun)

【事例から民法を考える】事例⑪「強けりゃいい,ってもんじゃない」

昨日の夕飯にしゃぶしゃぶを食べたんですが,

あり得んくらい食いまくったせいで,

未だに腹の底に肉や野菜が沈殿しているのが分かります。

胃は空で腹が減っている間はする一方で,

下腹からの圧迫があるので,

あんまりものを食えません。

大変ですね。

ところで,今回は,じれかん民法の事例⑪です。

≪問題≫

●事例
 Aは,2013年5月10日に,B(市)との間で,市庁舎敷地内への非常用発電施設(「本件施設」)の建設工事を内容とする請負契約(「本件建設契約」)を締結した。この契約において,代金額は1000万円(うち200万円は同年5月11日にBからAに対して前払された),本件施設の引渡期限は同年10月10日,代金支払日は引渡日の翌月10日とされた。また,代金債権(「本件代金債権」)の譲渡を禁止する旨の特約が付された。
 Aは,本件建設契約を履行するため,Cとの間で,Cが代金額600万円で非常用発電装置(「本件装置」)をAに売却し本件施設の建設場所に設置することを内容とする契約(「本件装置設置契約」)を締結することにした。Aの経営状態を不安視したCが契約締結の前提として担保の提供を求め,Aは,本件代金債権のうち600万円について,CがAに代わってBから支払を受けるものとすること(「本件代理受領」)を提案した。Cが本件代理受領につきBの承認を得るよう求めたため,Aは,Bの本件建設契約の担当者Dに相談し,2013年9月10日に,所定の書式により申請すれば承認する旨の回答を得た。同日,Aは,Bの承認を得た旨と承認書は後日発行される旨をCに伝え,これを信じたCとの間で本件装置設置契約を締結した。同月24日に,AがB所定の書式により本件代理受領についての承認をBに対して求め,Bは,即日,これを承認する旨の書面をAに交付した(次頁参照)。同日,Aは,この書面をCに交付した。Cは,翌25日に,本件装置設置契約の履行として本件装置をAの指定する場所に設置した。Aは,その後に本件施設を完成させ,同年10月10日に,これをBに引き渡した。
 Aは,Bとの間で本件建設契約のほかに,市営野球場の夜間照明設備改修工事の請負契約(「本件改修契約」)を締結していた。この契約には,Aの事情により工事を完成することができない場合にはAがBに対して800万円を違約金(「本件違約金」)として支払う旨の特約が付されていた。Aが,2013年9月17日,経営悪化のため工事の続行が不可能である旨をBの本件改修契約の担当者Eに申し出た。Bは,同月20日に本件改修契約を解除し,Aに対して本件違約金の支払を求める債権(「本件違約金債権」)を取得して,同年10月3日までに本件違約金を支払うよう求める旨をAに通知した。Aが期限を過ぎてもこの支払をしなかったため,Bは,同月21日に,Aに対して,本件違約金債権を自働債権,本件代金債権を受働債権として相殺する旨の意思表示をした(「本件相殺」)。
 Cが,2013年11月11日に,本件代金債権のうち代理受領部分に相当する600万円の支払をBに求めたところ,Bは,本件相殺により本件代金債権は全部消滅したとして,これに応じなかった。
 この場合において,Cは,Bに対して,何らかの請求をすることができるか。

工事請負代金代理受領承認願(略)


代理受領……

初めて聞く手法です。

手法自体は至ってシンプルですが,

そこから生じる法律効果にはさまざまな議論があるようです。

この問題を通してそこらへんを学ぶことにします。

≪答案≫
1 Cは,Bに対して,Bが本件代理受領の承認をしたことの効果として,本件相殺は許されないと主張することが考えられる。この主張の当否は,代理受領の承認の効果として,第三債務者は債権者に対して当該債権に係る弁済をしなければならないという債務を負担しているかどうかにかかるので,この点について検討する。
 第三債務者の債権者に弁済する債務を認めることは,第三債務者は債権者に弁済しなければ債務を免れないとするものであり,その点で,債務者の第三債務者に対する債権が債権者に譲渡された場合と同様の結果を認めることを意味する。しかし,代理受領の承認は,通常,第三債務者に具体的な利益をもたらすものではない。そうすると,第三債務者が譲渡禁止特約によって確保した利益を手放すことになる効力を認めることは,第三債務者の合理的意思に反する。また,代理受領の承認にこのような強い効力を認めると,証人義務を負わない第三債務者が代理受領を承認することはなくなり,取引社会における代理受領の有用性が失われる。したがって,代理受領には債権譲渡と同様の効果を認めることは適当ではなく,そうすると,代理受領の効果として第三債務者の債権者に弁済する債務を認めることはできないというべきである。
 本件代理受領についても,これをBが承認したとしても,BはCに本件代金債権を弁済しなければならない債務を負うものではないから,本件代理受領の効果から直ちに本件相殺が許されないとされるものではない。
2 そこで,Cは,Bに対して,本件相殺によって本件代理受領の担保的利益が失われたことを理由として不法行為に基づく損害賠償請求をすることが考えられる。
 担保目的であることを知って第三債務者が債務者の自己に対する債権についての代理受領を承認した場合には,その承認は,代理受領によって債務者に対する債権の満足を得られるという債権者の利益を承認し,正当な理由がなく当該利益を侵害しないという趣旨をも当然に包含するものであるから,代理受領の承認後に第三債務者が債務者に対して弁済をしたときには,それによって当該債権は消滅するが,第三債務者は,その弁済をするにつき正当な理由がない限り不法行為責任を負う(※1)。しかしながら,第三債務者が債務者に対して債権を有している場合には,当該債権と債務者の第三債務者に対する債権とを相殺することにより回収を図るという実質的利益が認められる。そうすると,単なる弁済の場合と異なり,代理受領を承認した第三債務者が相殺により当該債権を消滅させることについては,第三債務者が債権者に対して相殺による利益よりも代理受領による利益を優先させることまで承認していたと認められる特段の事情がない限り,正当な理由が認められ,不法行為を構成することはないというべきである。
 これを本件についてみると,本件代理受領は,AがBとの間で締結した本件建設契約の履行の上で,Cとの間で本件装置設置契約を締結する必要があったところ,その前提として本件代理受領が承認されることが要求されている関係にある。そうすると,Cは,Bが本件代理受領の利益を認めたと信じたのでなければ,Aとの本件装置設置契約における自己の債務を履行しなかったであろうし,Cがその履行をしなければ,Bは本件建設契約の履行を得られず,本件相殺もされるには至らなかったであろうと考えられる。そうすると,本件相殺は,Cが本件代理受領の利益のBによる尊重を信じたからこそされるにいたったと評価されるものである。そして,本件違約金債権は,Bが本件代理受領を承認する以前に発生していた以上,Bは証人の時までに自己の利益とCの利益との関係について知れていたのであるから,Bは,Cの利益の確保を認めなければ本件建設契約の履行を得られないと知りつつ承認を与えていたこととなり,本件代理受領の野江気が本件建設契約の履行によりBが得る利益に優先することを認めていたということができる。そして,本件相殺は,本件建設契約の履行によってBが得る利益の1つである。したがって,本件の事情の下では,BがCに対して相殺による利益よりも代理受領による利益を優先させることまで承認していたと認められる特段の事情があるといえるから,本件相殺は不法行為を構成する。
 そして,ここでの責任の内容は,不法行為によりCに担保権を失わせるものであることから,担保されていた債権額に相当する金額の支払ということとなるため,CはBに対して,本件代理受領により担保されていた債権額600万円を損害賠償として支払うよう請求することができる。

以 上


(※1)「原判決において、原審が挙示の証拠により適法に確定したところによれば、本件請負代金債権は、被上告人の東海航空測量に対する本件手形金債権の担保となつており、函館開発建設部は、本件代理受領の委任状が提出された当時右担保の事実を知つて右代理受領を承認したというのである。そして右事実関係のもとにおいては、被上告人は、Aが同建設部から右請負代金を受領すれば、右手形金債権の満足が得られるという利益を有すると解されるが、また、右承認は、単に代理受領を承認するというにとどまらず、代理受領によつて得られる被上告人の右利益を承認し、正当の理由がなく右利益を侵害しないという趣旨をも当然包含するものと解すべきであり、したがつて、同建設部としては、右承認の趣旨に反し、被上告人の右利益を害することのないようにすべき義務があると解するのが相当である。しかるに、原判決によれば、同建設部長Bは、右義務に違背し、原判示の過失により、右請負代金を東海航空測量に支払い、Aがその支払を受けることができないようにしたというのであるから、右Bの行為は違法なものというべく、したがつて、原審が結局上告人に不法行為責任を認めた判断は正当である。そして函館開発建設部の東海航空測量に対する支払が有効であるとしても、原審が、右支払のされたことのみによつて直ちに原判示の過失を認めたものでないことは、原判文により明らかであるから、原判決に所論の矛盾は存在しない。」最判昭和44年3月4日民集23巻3号561頁



2019-04-14(Sun)

【事例から民法を考える】事例⑨「勝手なマネは許さない!」

昨日はなんだかんだ1通しか答案が書けませんでした。

最悪ですね。

今日は頑張りたいと思います(もう午後)

今回は,じれかん民法の事例⑨です。

≪問題≫

●事例
 菓子卸売業者Aは,2010年3月,メーカーBとの間で製品を継続的に購入する基本契約を締結して取引を開始した。しばらくはAのBに対する代金支払は滞りなく行われていたが,2011年5月に生じた300万円,同年9月に生じた200万円,2012年2月に生じた500万円の各売掛代金債権の支払を,Bの再三の督促にもかかわらずAが行わないため,Bは,2012年7月にAとの取引を停止するとともに,計1000万円の売掛代金債権につき弁済期を2013年4月とし遅延損害金等を約した準消費貸借契約をAとの間で締結した。2013年1月現在,Bのなしうる主張等に関する次の各設問に答えよ(設問はそれぞれ独立の問いである)。

【設問1】 Aの経営者αの親戚Cはは,2010年11月,αに懇請されて1000万円をAに貸渡した。当初は無担保での貸付だったが,2011年4月にはAが小売店Dに対して有する300万円の売掛代金債権につきCがAに代わって弁済を受領する旨の代理受領が合意され,Dの承諾も得た。同年8月,Cは,貸付金の一部の弁済として,先の代理受領の対象分も含め,現にAがDに対して有する400万円の債権をAから譲り受け,直ちにDから全額弁済を受けた。同年10月,倒産の危機に瀕したAから緊急の資金援助を求められたCは,200万円の新規融資に応じるとともに,Aが新たに取引を開始した小売店EにAが将来有することとなる売掛代金債権を包括的に譲り受けることとし,Aの債務不履行等があればCの請求により債権が確定的に移転することや,Aが予め作成してCに預けた債権譲渡通知書がCからEに送付されるまではAが取立てをできること等が約された。2011年12月と2012年4月にAはEに対する各400万円の債権を取得したが,Eへの取立てはなされなかった。2012年9月,支払期日までにAが債務の弁済をしなかったため,Cは,Aへ通告をしたうえで譲渡通知をEに送付し,同年10月にEから800万円の弁済を受けた。
 以上の状況において,Bは,A・C間の債権譲渡に関していかなる主張ができるか。また,Eから受領した800万円の支払をBがCに求めてきた場合に,Cは,A・C間の債権譲渡を合意解除し,800万円をAに返還することによって,これを斥けることができるか。

【設問2】 【設問1】において,EがCに対していまだ弁済をしていなかったなら,Bは,CないしEに対していかなる主張ができるか。

【設問3】 Aは,2010年2月,唯一のめぼしい財産ともいうべき自己所有の甲土地を1200万円でFに売却する旨の売買契約を締結し,同年11月に登記を移転させた。2009年にAに対して1000万円の債権を取得し,いまだ弁済を受けていないGは,売買契約の事実は当初より知っていたが,Aには甲土地以外にも十分な財産があり,かつ事業拡大の必要経費を捻出するためのものとAから聞かされていたため黙認していた。ところがGは,2011年2月になって,Aの債権者Fに便宜を図るための廉価での売却であったことを知り,2013年1月,Fに対して登記名義の回復を求める訴えを提起した。これは認められるか。仮にこの訴えが認められ,その後甲土地につき強制執行手続が開始されたとしたら,Bは配当を受けることができるか。


詐害行為取消しですね。

模試でバリバリ聞かれましたし,

改正前ということで,聞くなら今みたいなところもあります。

ちゃんと勉強しておきたいところです。

≪答案≫
第1 設問1
 1 まず,Bとしては,A・C間においてAがEに対して将来有することとなる売掛代金債権を包括的に譲渡したこと(以下「本件将来債権譲渡」という。)が,公序良俗(民法90条)に反するため無効であるとの主張を行う。
  ⑴ 前提として,本件将来債権譲渡が,債権譲渡としての本契約であるか債権譲渡の予約であるかが問題となる。本件将来債権譲渡に係る契約では,Cの請求により債権が確定的に移転することとされていることからするとCの意思表示に確定的に債権が移転するという債権譲渡の予約であるようにも思える。しかし,本件将来債権譲渡後も,Cが債権譲渡通知書をEに対して送付するまではAが取立てをすることができるものとしていることからすれば,債権譲渡が確定的にされていることを前提として本来債権の取立てをすることができないはずのAにも取立権を認めたものというべきである。したがって,本件将来債権譲渡は,債権譲渡としての本契約である。
  ⑵ 次に,将来債権の譲渡をすることが可能かどうかについて検討すると,債権譲渡契約にあたっては,譲渡の目的とされる債権が特定される必要がある。ここで,取立権や通知が留保された状態での将来債権譲渡は,通常の将来債権譲渡よりも将来債権の譲渡予約に類するものであるところ,その通知の送付時において譲渡の目的となるべき債権を譲渡人が有する他の債権から識別することができる程度に特定されていれば足りる(※1)(※2)
 本件では,AがEとの間で売買契約を締結したことに基づき一定額の売掛代金債権を有することとなり,その債権の発生原因や額が予め定められているから,Cが通知を送付する時点で譲渡の目的となるべき債権をAが有する他の債権から識別することができる程度に特定されている。したがって,本件将来債権譲渡は,債権の特定性を欠かない。
  ⑶ そこで,本件将来債権譲渡が公序良俗に反しないかどうかについて検討する。
 取立権や通知を留保しての将来債権を譲渡することは,債務者の経営を過度に拘束し,あるいは他の債権者を不当に害する場合には,公序良俗に反し無効となると考える(※3)(※4)
 本件将来債権譲渡は,Cが通知をすることによって,その時に有することとなったEに対する売掛代金債権を行使することができるとするものであって,当該通知がされるまでは,Aは,本件将来債権譲渡の対象となる債権を自ら取り立てたり,これを処分したりすることができ,Aの債権者もこれを差し押さえることができる。その上,被担保債権額に比して譲渡される債権の額が特別に大きいわけけではない。そうすると,Aの経営を過度に拘束し,あるいは他の債権者を不当に害する場合であるとはいえないから,公序良俗に反するものとはいえない。
 以上から,本件将来債権譲渡は有効である。
 2 次に,Bは,Cを相手方として,A・C間においてAがDに対して有する債権の譲渡(以下「本件債権譲渡」という。)及び本件将来債権譲渡について詐害行為取消権(同法424条)を行使することが考えられる。
  ⑴ Bが詐害行為取消権を行使するための被保全債権について検討すると,債権者のための共同担保は債権の弁済期にあると否とにかかわらずその債権のために存在するから,被保全債権は詐害行為までに発生していれば足り,取消権行使の時までに履行期が到来している必要はない(※5)。また,準消費貸借契約に基づく債務は,当事者の反対の意思が明らかでない限り,既存債務と同一性を維持しつつ,単に消費貸借の規定に従うこととされるにすぎないものと推定されるのであるから,既存債務成立後に特定債権者のためになされた債務者の行為は,詐害行為の要件を具備するかぎり,準消費貸借契約成立前のものであつても,詐害行為としてこれを取り消すことができる(※6)
 これを本件についてみると,BのAに対する債権の弁済期は2013年4月であって,同年1月の時点では弁済期が到来していないものの,これが詐害行為取消権の行使の上で障害となるものではない。また,BのAに対する債権は,2012年7月の準消費貸借契約にかかるものであるが,元の売掛代金債権は2010年3月に基本契約が締結されているものの,実際に取引がなされていないこの段階では,売掛代金債権の発生の基礎となる法律関係は存在するとはいえない。そうすると,2011年5月に300万円,同年9月に200万円,翌年2月に500万円の成立が認められるため,これらが被保全債権となる。
  ⑵ それでは,本件債権譲渡及び本件将来債権譲渡は,「債権者を害する」行為であるといえるか。
   ア(ア) まず,本件債権譲渡については,それに先行してAのDに対する売掛代金債権につき代理受領の合意がされているため,代理受領が担保手段として用いられていることからすれば,その後同債権につき重ねて債権譲渡がされても,新たな詐害行為が構成されることはなく,したがって被保全債権の成立前である2011年4月に合意がされているため詐害行為取消権を行使することができないとの反論が考えられる。
 しかし,代理受領の合意がされていても,他の一般債権者との関係においては,受任者はなんら優先的な地位を有することを主張できるものではなく,債務者の当該債権は総債権者のための共同担保を構成していることに変わりはないから,代理受領の合意がされた後に当該債権が譲渡されても,当該債権譲渡を詐害行為として取り消すことができる(※7)(※8)
 そうすると,本件でも,2011年4月に代理受領の合意がされていることは,2011年8月に同債権が譲渡されたことに対して詐害行為取消権を行使する上での妨げとならない。
    (イ) 本件債権譲渡は,CのAに対する貸金返還請求権へ充当させる目的でされた代物弁済である。判例によれば,債務超過の状態にある債務者が、他の債権者を害することを知りながら特定の債権者と通謀し、右債権者だけに優先的に債権の満足を得させる意図のもとに、債務の弁済に代えて第三者に対する自己の債権を譲渡したときは、たとえ譲渡された債権の額が右債権者に対する債務の額を超えない場合であつても、詐害行為として取消の対象になる(※9)。しかし,金銭債権の譲渡をもって金銭債権の弁済に代えるという代物弁済は,弁済とほぼ同義である。そうすると,債権譲渡をもっている代物弁済を,代物弁済であるとの一事をもって基本的に詐害行為にあたるということはできない。
 これを本件債権譲渡についてみると,AがCに負う債務額を超えるものではなく,債務者にとって格別不利益な内容ではないから,詐害行為であるということはできない。
 したがって,Bは,本件債権譲渡について詐害行為取消権を行使することはできない。
   イ 本件将来債権譲渡は,AのCに対する既存の債務600万円に加え新規融資である200万円を担保するものである。
    (ア) まず,既存債務について担保権を設定する行為により,当該債権者は,担保の目的物につき他の債権者に優先して,被担保債権の弁済を受け得られることになるので,それだけ他の債権者の共同担保は減少する。その結果債務者の残余の財産では,他の債権者に対し十分な弁済を為し得ないことになるときは,他の債権者は従前より不利益な地位に立つこととなり即ちその利益を害せられることになるので,債務者がこれを知りながら敢えて担保権を設定した場合は,他の債権者は民法424条の取消権を有する(※10)
 これを本件についてみると,Aには多数の債権者がいるところ,本件将来債権譲渡により,Cが優先的に弁済を受けることになるので,他の債権者の共同担保が減少する。そして,Aは,これによって他の債権者が従前より不利益な地位に立つことを知りながら敢えて債権譲渡担保を設定しているし,Aはそのことを認識していると考えられるから,詐害行為であるといえる。
    (イ) 次に新規融資について担保権を設定する行為については(※11),倒産の危機に瀕したAを救済する措置としてなされた点に鑑みれば詐害性は小さいともいえなくはない。しかし,救済融資にしては,新規融資額が既存債権の額に比べて僅少である。そうすると,本件将来債権譲渡は,Aの経営危機を熟知するCが,Aと結託し,他の債権者に抜け駆けして債権の回収を図ることを狙ったものというべきであり,債権者として許される範囲を超えた行為であると認められる。
 したがって,新規融資の200万円部分についても詐害行為であるといえる。
  ⑶ 本件将来債権譲渡は,財産権を目的としない法律行為ではないし(同法424条2項),Cが「債権者を害すべき事実を知らなかった」ともいえない(同条1項ただし書)。
 以上から,本件将来債権譲渡については詐害行為取消権を行使することができる。
 3 それでは,Bはいくらの範囲で詐害行為取消権を行使することができるか。詐害行為の時点をいつとするかが問題となる。
 詐害行為取消権の大正に将来債権が含まれていたり,譲渡人への取立権限留保がある場合には,対象債権の額は変動するから,担保目的が過大であるかどうかの判断は対象債権が特定されて初めてなし得る。したがって,詐害行為の時点は,対象債権が確定したときである。
 これを本件についてみると,CがEに対して譲渡通知を行った2012年9月の時点で,対象債権が確定するから,詐害行為の時点は2012年9月を基準とすべきである。
 そうすると,Bはこの時点までに被保全債権の1000万円を取得しているから,詐害行為とされる800万円の全額を取り消すことができる。
 4 なお,AC間で本件将来債権譲渡が合意解除されたとしても,Bはなお本件将来債権譲渡を詐害行為として取り消すことができる。なぜなら,一旦詐害行為となる責任財産の処分が行われても,後にこれが合意解除されて債務者の責任財産が原状に復すれば,もはやこれを詐害行為として取り消す必要はないから,詐害行為取消権の行使は許されないが,合意解除が債務者の責任財産が原状に復したとはいえないときには,詐害行為取消権はなお行使できる。そして,本件将来債権譲渡の前はAは売掛代金債権を有していたのに対して,合意解除した後では,譲受債権を回収した現金が支払われたというのであって,債権と現金とではその執行可能性に格段の違いがあることからすれば,本件将来債権譲渡の合意解除によってAの責任財産が原状に復したと評価できないからである(※12)
第2 設問2
 本件将来債権譲渡に係る債権について,EがCに対して未だ弁済をしていない段階について,詐害行為取消しの効力は相対的であって,訴訟当事者である債権者と受益者又は転得者との間においてのみ生じるにすぎず,債務者には及ばないから,第三債務者に対して履行の請求をすることはできない。そこで,原状回復を計る方法として,第三債務者に対して債権譲渡が詐害行為により取り消された旨の通知を求めることができるとすべきである(※13)
 本件では,BはCに対して,Dに対し本件将来債権譲渡が詐害行為により取り消された旨の通知をすることを求めることができる。
第3 設問3
 1 Gは,AがFに対してした甲土地の売却(以下「本件売却」という。)を詐害行為であるとして取り消す。
 Gは,本件売却が行われる以前から,Aに対して債権を取得しているから,被保全債権が存在する。本件売却は,甲土地を廉価で売却するというものであって,債権者の共同担保を積極的に減少させるものである上,Aはそのことを認識していたと考えられるから,詐害行為である。Fが「債権者を害すべき事実を知らなかった」とも考えられない。
 もっとも,本件売却は,2010年2月にされており,現時点で年以上が経過しているから,詐害行為取消権が消滅時効にかかっていないか。「債権者が取消しの原因を知った時」は,債務者が債権者を害することを知って法律行為をなした事実を債権者が知ったときをいう。そして,債務者が財産を処分したことを知るだけでは足りず,当時の債務者の財産状態からみて債権者を害するものであることを知っていることが必要であり,また,単に債権者が詐害の客観的事実を知っているだけでは足りず,債務者に詐害の意思があることをも知っていることが必要である。
 本件では,Gは当初より本件売却について認識していたが,その段階では,廉価売却であることについて知っておらず,債権者を害するものであることを知っていたということはできない。そうすると,Gがこれらを知るに至ったのは,2011年2月であり,この時点が時効の起算点となる。したがって,この時点からでは未だ2年が経過していないから,時効消滅しない。
 したがって,Gは,本件売却について詐害行為取消しをすることができる。
 2 Bは,本件売却の後にAに対して債権を有するに至った者であるから,詐害行為の以前に被保全債権が成立しておらず,詐害行為取消権を行使することができない。それでは,他の債権者が詐害行為取消権を行使して,強制執行が開始した際に,詐害行為取消権を行使できない債権者も配当に加わることはできるか。
 仮に詐害行為がなく,ある債権者のした強制執行が順調に行われていれば,すべての債権者が配当に加入して平等弁済を受けられていたはずであるだったことから,たまたま詐害行為があったときに,その後に債権を取得したという理由で配当加入が認められないのでは均衡を失する。したがって,詐害行為取消権を行使し得ない者であっても,強制執行開始後の配当手続に加入することができる。
 そうすると,本件でも,Bは配当を受けることができる。

以 上


(※1)債権譲渡契約にあっては、譲渡の目的とされる債権がその発生原因や譲渡に係る額等をもって特定される必要があることはいうまでもなく、将来の一定期間内に発生し、又は弁済期が到来すべき幾つかの債権を譲渡の目的とする場合には、適宜の方法により右期間の始期と終期を明確にするなどして譲渡の目的とされる債権が特定されるべきである。」「ところで、原判決は、将来発生すべき診療報酬債権を目的とする債権譲渡契約について、一定額以上が安定して発生することが確実に期待されるそれほど遠い将来のものではないものを目的とする限りにおいて有効とすべきものとしている。しかしながら、将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約にあっては、契約当事者は、譲渡の目的とされる債権の発生の基礎を成す事情をしんしゃくし、右事情の下における債権発生の可能性の程度を考慮した上、右債権が見込みどおり発生しなかった場合に譲受人に生ずる不利益については譲渡人の契約上の責任の追及により清算することとして、契約を締結するものと見るべきであるから、右契約の締結時において右債権発生の可能性が低かったことは、右契約の効力を当然に左右するものではないと解するのが相当である。」最判平成11年1月29日民集53巻1号151頁
(※2)債権譲渡の予約にあっては、予約完結時において譲渡の目的となるべき債権を譲渡人が有する他の債権から識別することができる程度に特定されていれば足りる。そして、この理は、将来発生すべき債権が譲渡予約の目的とされている場合でも変わるものではない。」最判平成12年4月21日民集54巻4号1562頁
(※3)「契約締結時における譲渡人の資産状況、右当時における譲渡人の営業等の推移に関する見込み、契約内容、契約が締結された経緯等を総合的に考慮し、将来の一定期間内に発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約について、右期間の長さ等の契約内容が譲渡人の営業活動等に対して社会通念に照らし相当とされる範囲を著しく逸脱する制限を加え、又は他の債権者に不当な不利益を与えるものであると見られるなどの特段の事情の認められる場合には、右契約は公序良俗に反するなどとして、その効力の全部又は一部が否定されることがあるものというべきである。」前掲最判平成11年1月29日
(※4)「前記のような本件予約の締結に至る経緯に照らすと、被上告人がAの窮状に乗じて本件予約を締結させ、抜け駆け的に自己の債権の保全を図ったなどということはできない。さらに、本件予約においては、Aに被上告人に対する債務の不履行等の事由が生じたときに、被上告人が予約完結の意思表示をして、Aがその時に第三債務者である上告人らに対して有する売掛代金債権を譲り受けることができるとするものであって、右完結の意思表示がされるまでは、Aは、本件予約の目的となる債権を自ら取り立てたり、これを処分したりすることができ、Aの債権者もこれを差し押さえることができるのであるから、本件予約が、Aの経営を過度に拘束し、あるいは他の債権者を不当に害するなどとはいえず、本件予約は、公序良俗に反するものではない。」前掲最判平成12年4月21日
(※5)「債務者の財産は,一般債権者の共同担保となるものにして,詐害行為取消権は,債権者が債務者の財産に対し有する此担保の利益を害せらるるを防止するを目的とするものなること,民法第424条の法意に照らして明らかにして,其共同担保は,債権の弁済期に在ると否とに拘らず其債権の為めに存するものなれば,債権の弁済期未だ到来せざる場合に於いても,弁済の資力に乏しき債務者が其有する財産を処分するときは,債権者の不利益を来すこと債権の弁済期既に到来したる場合と擇ぶ所なきものとす。故に,詐害行為取消権は,債権者の債権が行為当時未だ弁済期に達せざるも,之を行使することを得べきものと解するを相当とす。」大判大正9年12月27日民録26輯2096頁(一部現代語表記に改め,句読点挿入済)
(※6)準消費貸借契約に基づく債務は、当事者の反対の意思が明らかでないかぎり、既存債務と同一性を維持しつつ、単に消費貸借の規定に従うこととされるにすぎないものと推定されるのであるから、既存債務成立後に特定債権者のためになされた債務者の行為は、詐害行為の要件を具備するかぎり、準消費貸借契約成立前のものであつても、詐害行為としてこれを取り消すことができるものと解するのが相当である。」最判昭和50年7月17日民集29巻6号1119頁
(※7)「前記二認定の事実によれば、福岡石材が昭和六二年一二月五日被控訴人に対して三井建設承諾のもとに代理受領を委任した債権と、昭和六三年二月三日の本件譲渡債権とは、一部重複しているのではないかと推測されないでもないが、仮にそうだとしても、代理受領委任契約によって受任者が他の一般債権者に対する関係で当該債権につき優先的地位を主張できるものではないから、福岡石材の本件譲渡債権が控訴人のための共同担保を構成していたことに変わりはなく、右結論に消長を来たさない」福岡高判平成3年3月14日金法1369号77頁
(※8)「債務超過の状態にある債務者が、特定の債権者に対する債務の弁済に代えて第三者に対する自己の債権を譲渡することは、譲渡される債権の額が債権者に対する債務の額を超えない場合であつても、詐害の意思がある限り、詐害行為として取消の対象となることは、当裁判所の判例とするところであり……、このことは、右債権譲渡が債権者に対する債務について譲渡担保を設定する趣旨である場合であつても、また、右譲渡される債権を目的として予め債務者より債権者に対しいわゆる代理受領の委任がなされ第三債務者の承認を得ている場合であつても、異なるところはない。けだし、債務者がその一般財産を特定の債権者のための譲渡担保に供するときは、その結果として他の債権者の共同担保が減少することに変わりはなく、また、債務者が特定の債権者に対する債務の担保として自己の第三者に対する金銭債権につき右債権者を受任者とする代理受領委任契約を締結し、第三者がこれを承認したときは、債務者及び第三者は、右契約の効力として、受任者に対してのみ弁済の受領を得さしめる義務を負うこととなるが……・、他の一般債権者との関係においては、受任者はなんら優先的な地位を有することを主張できるものではなく、債務者の右債権は総債権者のための共同担保を構成していることに変わりはないと解すべきだからである」最判昭和51年7月19日集民118号273頁
(※9)債務超過の状態にある債務者が、他の債権者を害することを知りながら特定の債権者と通謀し、右債権者だけに優先的に債権の満足を得させる意図のもとに、債務の弁済に代えて第三者に対する自己の債権を譲渡したときは、たとえ譲渡された債権の額が右債権者に対する債務の額を超えない場合であつても、詐害行為として取消の対象になるものと解するのが相当……である」最判昭和48年11月30日民集27巻10号1491頁
(※10)「債務者が或債権者のために根抵当権を設定するときは、当該債権者は、担保の目的物につき他の債権者に優先して、被担保債権の弁済を受け得られることになるので、それだけ他の債権者の共同担保は減少する。その結果債務者の残余の財産では、他の債権者に対し十分な弁済を為し得ないことになるときは、他の債権者は従前より不利益な地位に立つこととなり即ちその利益を害せられることになるので、債務者がこれを知りながら敢えて根抵当権を設定した場合は、他の債権者は民法424条の取消権を有するものと解するを相当とする。」最判昭和32年11月1日民集11巻12号1832頁
(※11)「右のような事実関係に徴すれば、前記各譲渡担保による所有権移転行為は、当時A夫妻は他に資産を有していなかつたから、債権者の一般担保を減少せしめる行為であるけれども、前記のような原審の確定した事実の限度では、他に資力のない債務者が、生計費及び子女の教育費にあてるため、その所有の家財衣料等を売却処分し或は新たに金借のためにれを担保に供する等生活を営むためになした財産処分行為は、たとい共同担保が減少したとしても、その売買価格が不当に廉価であつたり、供与した担保物の価格が借入額を超過したり、または担保供与による借財が生活を営む以外の不必要な目的のためにする等特別の事情のない限り、詐害行為は成立しないと解するのが相当であり、右と同旨の見解に立つて本件詐害行為の成立を否定した原判決の判断は、正当として是認できる。」最判昭和42年11月9日民集21巻9号2323頁
(※12)「そこで,検討するに,いったん詐害行為となる責任財産の処分が行われても,後にこれが合意解除されて債務者の責任財産が原状に復することになれば,最早,これを詐害行為として取り消す必要はないから,詐害行為取消権の行使は許されないというべきであるが……,合意解除されても債務者の責任財産が原状に復したとはいえないときには,詐害行為取消権はなお行使できるものと解すべきである……。そして,債務者の責任財産が原状に復したといえるかどうかは,詐欺行為取消権(民法424条)の制度が,逸出した債務者の責任財産を取り戻して債務者の責任財産を保全する制度であることにかんがみると,債権者が債務者の責任財産に対して強制執行することの難易をも考慮して,詐害行為が行われた前と同様の状態に戻ったかどうかを検討すべきである。」「これを本件についてみると,本件債権譲渡の前は債務者が売掛金債権を有していたのに対して,合意解除した後では,譲受債権を回収した現金が債務者の口座に振り込まれて支払われたというのであって,売掛金債権と現金とではその執行可能性に格段の違いがあることにかんがみると,本件債権譲渡の合意解除によって債務者の責任財産が原状に復したと評価することは困難である。」福岡地判平成21年3月26日判タ1299号224頁
(※13)「詐害行為取消の効力は、相対的であつて、訴訟当事者である債権者と受益者又は転得者との間においてのみ生じるにすぎず、債務者には及ばないから、本件においては、被控訴人らは、債務者である三和水産に代位して第三債務者である右控訴人らに対し履行の請求を求めることはできないと解すべきである。しかし、他方被控訴人は、詐害行為取消による原状回復を計る方法として、控訴人村田に対し、第三債務者である控訴人三和興産、同伊藤に対し債権譲渡が詐害行為により取消された旨の通知をすることを求めることができると解すべきである。」東京高判昭和61年11月27日判タ641号128頁



2019-04-13(Sat)

【事例から民法を考える】事例⑩「あなたとは立場が違うんです」

おはようございます。

今日は早朝から新宿駅へ行っていました。

目的は,中央線開業130周年記念弁当を購入することです。

実は一昨日も買いに行ったんですが,

朝9時半くらいの時点でもう売り切れていましたので,

今日は頂の開店時間6時半にあわせて行くことにしました。

朝6時半から弁当屋の開店待ちのために,

長蛇の列を作っている光景を見るのは,

生まれて初めてでしたね。

おかげさまで無事購入をすることができました。

その足で立川でも同じく弁当を買って,

今国立に戻ってきています。

10時になったら国分寺にも買いに行く予定です。

国分寺で買ってきてから,改めて報告したいと思います。

ところで,今回は,じれかん民法の事例⑩です。

≪問題≫

●事例
 A社は,Bが代表取締役,Bの長男CとBの妻Dが専務取締役を務める家族経営の小規模な印刷業者である。A社は,新たな設備を導入し事業拡大を図るべく,従前より取引関係のあった銀行Gに融資を申し込んだ。Gは,これまでA社が貸付金の返済を滞りなく行ってきたこと等からこれに応ずることとしたが,A社の敷地等には抵当権がすでに設定されていたため,B・C・DらA社の関係者以外の資力十分な者も連帯保証人に加わることを融資の条件に決め,その旨をBに伝えた。Bは,旧知の間柄で,A社と取引関係のある会社を経営するEに,連帯保証人になってくれるよう懇請したところ,Eはこれを受けた。こうして,GとA社との間で消費貸借契約が,GとB・C・D・Eとの間で連帯保証契約が締結され,3600万円の融資が実施された。なおGと各連帯保証人との間で交わされた契約書には「保証人は,この契約から生ずる一切の債務につき,A社と連帯し,かつ保証人相互の間で連帯して履行の責任を負う」との条項が挿入されていた。
 その後,A社は,経営状態が極度に悪化し,弁済期が到来したにもかかわらずGに対する返済ができなくなった。以下の各設問に示した事情のもとで,Eの主張は認められるか(設問はそれぞれ独立の問いである)。

【設問1】 Eが連帯保証人となることを了承したのは,Bから「A社の経営状態は良好で資産もある。何よりこの融資では相当の個人資産をもつ私も連帯保証人になる。Eを連帯保証人にすることは,G内部での融資審査をパスするため形式上求められたもので,Eに迷惑をかけることは絶対にないし,Gもそのことは承知している」と告げられ,資産に関する偽造書類を提示されたためであった。また,保証契約締結に際し,EはGの融資担当者に「A社は大丈夫ですか」と尋ねたところ,「A社さんとは長い付き合いですが,信用もあり返済もきちんとしているので問題ないですね」との返答であった。弁済期後,GがEに対して3600万円の連帯保証債務の履行を求めてきたため,Eが話が違うと言って抗議したところ,Gは,今回の融資では,Bらにまとまった資産がないから,Eが連帯保証人となることを条件にしたのだとEに説明した。Eは,Bに騙されて連帯保証人となった等と主張して弁済を拒むことができるか。

【設問2】 Gは,Bに対して,A社として2000万円だけでも今週中に弁済をしてほしい,そうしてくれれば残額はEから弁済を受けることにし,かりにEが弁済不能になったとしてもB個人の負担する連帯保証債務は免除する旨の示談を持ちかけてきた。Bは,これを受け入れ,A社による主たる債務の履行として直ちに2000万円をGに弁済した。その後GがEに対して連帯保証債務の履行として1600万円の支払を求めてきたとき,Eは,GがBに対し免除したことを理由に,自らの債務の減額を主張することができるか。

【設問3】 Eは,Bから「A社が融資を受けて経営規模を拡大すれば,お宅の会社の売上げも大幅に増える」と言われ,連帯保証人を引き受けた。その後A社が無資力となり支払不能に陥ったため,Gは連帯保証債務の履行としてEに3600万円の請求をした。自身も経営難ながら辛うじてGに600万円を支払ったEは,B・C・Dに求償をすることができるか。


保証をがっつり論文で書いたことって全然ないので,

解説を読んでいても初めて知ることばかりでしたね。

あと連帯保証と保証連帯の違いとか,

短答ではたまに聞かれますけど,

そのあたりもちゃんと解説してくれているので,

とてもありがたかったです。

しかし,論文でこんなの出たら何も書けないですよ……。

≪答案≫
第1 設問1
 1 まず,Eは,Bに騙されたことが詐欺にあたるとして,Gとの間で締結した連帯保証契約(民法454条。以下「本件保証契約」という。)を取り消す(同法96条1項)ことが考えられる。
  ⑴ Bには,真実は十分な資力がなかったにもかかわらず,Eに対しこれがあるように告げ,EをしてBに十分な資力があるように誤信させているから,違法な欺罔行為によってEが錯誤に陥っており,この錯誤によりEは本件保証契約を締結する意思表示をGに対してしている。また,Bには,Eを錯誤に陥らせる故意と,その錯誤に基づいて本件保証契約を締結する意思表示をさせようとする故意のいずれもが認められると考えられるから,詐欺の故意が認められる(※1)。したがって,Eは,Bとの関係では詐欺取消しの要件を満たす。
 もっとも,本件保証契約との関係では,Bは「第三者」であるから,相手方Gが「その事実を知って」いなければ,これを取り消すことはできない(同条2項)。
  ⑵ また,Eは,Gの発言自体を欺罔行為と捉えて,直接本件保証契約を取り消すことも考えられるが,Gの発言が契約時に事実と異なっていたとまでは評価することができないため,違法な欺罔行為があったということはできない。したがって,Eは,本件保証契約について詐欺取消しを主張することはできない。
 2 そこで,Eは,A社に十分な資力があったことについて錯誤があったことを理由として,本件保証契約の無効(同法95条本文)を主張することが考えられる。
 意思表示が錯誤無効とされるためには,法律行為の要素に錯誤があることを要する。「錯誤」とは,内心的効果意思と表示の不一致を表意者が知らないことをいう。Eは,本件保証契約を締結すること自体に内心的効果意思と表示とに不一致を生じておらず,あくまでその動機であるBの資力について誤信しているにすぎない。そこで,このような動機についての誤信も「錯誤」となりうるかについて検討すると,内心的効果意思と表示の不一致がない以上原則として無効を来たすものではない。もっとも,民法95条本文は表意者の保護を図る趣旨に出たものであるところ,動機に錯誤がある場合でもその趣旨は妥当する。しかし,あくまで表意者の内心にすぎない動機をもって契約を無効とすると,それを知り得ない相手方からすれば不意打ちとなり,取引の安全を害する。そこで,意思表示における動機の錯誤が法律行為の要素に錯誤があるものとしてその無効を来たすためには,その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり,もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する。そして,動機は,たとえそれが表示されても,当事者の意思解釈上,それが法律行為の内容とされたものと認められない限り,表意者の意思表示に要素の錯誤がはない(※2)
 これを本件についてみると,EはGの融資担当者に「A社は大丈夫ですか」と尋ねてA社の支払能力について懸念する態度を見せたのにたいして,Gの融資担当者はA社は問題ない旨の回答をしているから,一連のやりとりから見て,EはA社に十分な支払能力があることを前提として本件保証契約を締結するとの動機を表示していたとみることができる(※3)。そして,保証契約を締結する当事者としては,主債務者か第一次的には弁済をすることを当然の前提としていると考えられるから,融資の時点で十分な支払能力を有していない主債務者のために保証人となろうとする者は存在しないというべきである(※4)。そうすると,もしA社の資力についての錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる。したがって,Eが本件保証契約の締結に向けてして意思表示は,法律行為の要素に錯誤があったというべきであるから,本件保証契約は無効である。
 よって,Eは,弁済を拒むことができる。
第2 設問2
 1 Eは,GがBに対し1600万円部分の連帯保証債務を免除したことをもって,自らの債務の減額を主張しているため,共同連帯保証人の一人に免除がされた場合の効果について検討する。
 2⑴ この点,主たる債務者と連帯して数人が保証債務を負担した場合には,各保証人は主たる債務者を通じて,債権者に対して各自全部義務を負担し,各保証人間には連帯債務関係に準ずる法律関係が生ずるとして,民法437条が準用されるとする見解もある(※5)。しかし,このように考えると,債権者が連帯保証人の一人について免除をした場合に,債権の効力を弱めることとなり,債権の効力を強化しようとする連帯保証の趣旨に反することとなる。したがって,複数の連帯保証人が存する場合であっても,当該保証人が連帯して保証債務を負担する旨特約した場合でなければ,各保証人間に連帯債務ないしこれに準ずる法律関係は生じず,連帯保証人の一人に対する債務の免除は他の連帯保証人に効果を及ぼすものではない(※6)
  ⑵ そこで,まず本件保証契約において,Eが他の連帯保証人と保証連帯がされていたといえるかどうかについて検討すると,本件保証契約には「保証人相互の間で連帯して履行の責任を負う」との条項が挿入されているから,保証連帯の特約があるということができそうである。もっとも,本件保証契約は,あくまでGE間で締結されたものにすぎず,当該契約の効力が他の連帯保証人に当然に及ぶものではない。しかし,EはBの委託を受け保証人になったのであり,BE間には相応の強い結びつきがあったのであるから,保証連帯特約が連帯保証人間で締結されていないとしても,B,C及びDとEとの間に,分別の利益が生じないという意味にとどまらない連帯関係を認めることができる。したがって,Eは,他の連帯保証人と保証連帯の関係にある。
  ⑶ そうだとしても,民法437条は任意規定であるから,本件におけるGのBに対する免除が民法437条の適用のある性質を有しているかどうかについて検討する。
 GがBに示談を持ちかけた際に,残額はEから弁済を受けることとされているから,Gとしては免除の効果をEに及ぼす前提がないものと考えられ,民法437条の適用を前提としていないものと認められる。また,Eの求償に応じたBがGに不当利得返還請求をなし得る趣旨もうかがえないから,GがBに対してした免除は,不訴求特約であると考えられる。したがって,GがBに対してした免除の効力はEには及ばない。
 3 よって,GがBに対してして免除を理由として,Eは自らの債務が減額されたとの主張をすることができない。
第3 設問3
 1 保証人が複数いる場合には,その間の求償権は,自己の負担部分を超える弁済をしたときに行使することができる(同法465条1項)。そこで,まずEの負担部分について検討すると,主たる債務は全額で3600万円であるから,各自の負担部分は等分の割合となるのが原則であるので(同法456条,427条),900万円となる。そうすると,Eは未だ600万円しか弁済していないから,負担部分を超えての弁済をしていないように思われ,B,C及びDに対し求償をすることができないように思われる。
 ここで,Eは,自己の負担部分が600万円より小さいと主張することが考えられる。すなわち,Eは,主債務者A社の経営責任者ないしその親族であるB,C及びDとは明らかに立場が異なり,これらの者と異なり融資による直接的な受益がないことから,Eが本件保証契約を締結するにあたっては,自己の負担部分を0とする黙示の合意がBらとの間で形成されていたというべきであり,受益の程度から見てEの負担部分が0であると認定することができると主張する。
 しかし,Eが本件保証契約を締結するにあたっては,A社への融資により,Eの経営する会社の売上げの増大も見込まれることを前提としているのであるから,Eに何らの受益ももたらさないということまではできない。そうすると,Eの負担部分が0であるとの黙示的な合意があったとは認められない。したがって,Eの前記主張は認められないから,Eの負担部分は900万円である。
 2 そうだとしても,Eは,A社が無資力である本件では,負担部分を超えて弁済をしていなくとも他の連帯保証人に対して求償をすることができると主張することが考えられる(※7)
 主債務者が無資力であるときは,債務の最終負担者は連帯保証人にならざるを得ないから,このような場合には,各連帯保証人の公平を図るという見地から,例外的に,連帯保証人の一部に無資力者がいる場合の負担割合を定めた民法444条を準用し,債権者に弁済をした連帯保証人は,弁済額が自己の負担部分の額を超えないときでも,他の連帯保証人に対し,本来の負担割合に応じた金額を求償することができる。
 これを本件についてみると,A社が無資力である以上,主債務の最終負担者はEら連帯保証人となるから,民法444条を準用し,B,C及びDに対し各自150万円の求償をすることができる。

以 上


(※1)「第1に,詐欺者に,他人を騙して錯誤に陥らせる故意と,その錯誤に基づいて一定の意思表示をさせようという故意の,2段の故意のあったことが必要である(大判大正6・9・6民録23輯1319頁)。」佐久間毅『民法の基礎1総則〔第3版〕』170頁
(※2)「意思表示における動機の錯誤が法律行為の要素に錯誤があるものとしてその無効を来すためには,その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり,もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する。そして,動機は,たとえそれが表示されても,当事者の意思解釈上,それが法律行為の内容とされたものと認められない限り,表意者の意思表示に要素の錯誤はないと解するのが相当である」最判平成28年1月12日民集70巻1号1頁
(※3)「原告が宅地建物取引主任の資格を有していて不動産業に通じており、二郎から求められてHに入社したこと(甲二〇の一、同二一)、したがって、原告は、二郎の連帯保証人の要請に応じなければならない立場にはなかったことを考慮すると、原告が、最終的に責任を負うべき二郎に支払能力がないことを知っていたとすれば、本件各契約を締結しなかった(二郎の要請を断った)と認められ(だからこそ、後記認定のとおり、Sに二郎の支払能力を確かめたのである)、しかも、本件各契約締結の際、Sは、原告の「乙川さんは大丈夫ですか」の問いに対し、「乙川さんとは長い付き合いであり、乙川さんは資産も信用もあり、支払いもきちんとしているので間違いありませんよ」と答えて〈証拠略〉右原告の動機は表示されているとみることができるから、本件各契約は、錯誤により無効となるというべきである。」水戸地裁下妻支判平成11年3月29日金判1066号37頁
(※4)「およそ融資の時点で破綻状態にある債務者のために保証人になろうとする者は存在しないというべきであるから、保証契約の時点で主債務者がこのような意味での破綻状態にないことは、保証しようとする者の動機として、一般に、黙示的に表示されているものと解するのが相当である。」東京高判平成17年8月10日判タ1194号159頁
(※5)主たる債務者と連帯して数人が保証債務を負担した場合には、各保証人は主たる債務者を通じて、債権者に対して各自全部義務を負担し、各保証人間には連帯債務関係に準ずる法律関係を生ずるものと解するのが相当である……。このことは、共同保証人間の求償権を定めた民法465条1項『……各保証人カ全額ヲ弁済スヘキ特約』という特約には各共同保証人間に連帯の特約ある場合の外に、各共同保証人が主たる債務者と連帯して弁済すべき特約ある場合をも含むものと解すべきところ、この場合に一人の保証人が全額其の他自己の負担部分を超える額を弁済したときの他の共同保証人に対する求償権につき連帯債務者の求償権に関する規定を準用していることは各連帯保証人の相互の関係が連帯債務関係に準ずるものと解したが故であり、また同条2項が『前項ノ場合ニ非スシテ互ニ連帯セサル保証人……』と規定して、前項すなわち同条1項の場合は共同保証人間の関係が、連帯債務関係であることを前提としているものと解すべきであることよりも推知し得るところである。」「そして各連帯保証人の負担部分については、別段の定のない限り、平等であると解すべきであるから……、連帯債務に関する民法437条を準用し、連帯保証人の一人に対して為した債務の免除は、その保証人の負担部分についてのみ他の保証人の利益のためにも、その効力を生ずるものと云うべきである。」最判昭和43年11月15日民集22巻12号2649頁奥野裁判官反対意見
(※6)「原審の確定するところによれば、訴外A(主債務者)は昭和34年3月訴外B(債権者)との間で原判示の準消費貸借契約を締結し、上告人および訴外Cは右準消費貸借上の債務につき連帯して保証する旨約したというのであり、記録によれば、上告人は、連帯保証人の一人である訴外Cがその後において訴外Bから前記保証債務の免除を受けるにいたつた旨抗弁していることが明らかである。しかしながら、複数の連帯保証人が存する場合であつても、右の保証人が連帯して保証債務を負担する旨特約した場合(いわゆる保証連帯の場合)、または商法511条2項に該当する場合でなければ、各保証人間に連帯債務ないしこれに準ずる法律関係は生じないと解するのが相当であるから、連帯保証人の一人に対し債務の免除がなされても、それは他の連帯保証人に効果を及ぼすものではないと解するのが相当である。」前掲最判昭和43年11月15日
(※7)「連帯保証における債務の最終的負担者は、主債務者であるから、連帯保証人が数人ある審合に、債権者に弁済をした連帯保証人は、原則として、弁済額のうち自己の負担部分の額を超える金額についてのみ、他の連帯保証人に対し求償し得るというべきである。しかし、主債務者が無資力であるときは、債務の最終的負担者は連帯保証人にならざるを得ないから、このような場合には、各連帯保証人の公平を図るという見地から、例外的に、連帯債務者の一部に無資力者がいる場合の負担割合を定めた民法444条を準用し、債権者に弁済をした連帯保証人は、弁済額が自己の負担部分の額を超えないときでも、他の連帯保証人に対し、本来の負担割合に応じた金額(本件では負担割合は平等であるから、弁済額を連帯保証人の数で除した金額)を求償することができるものと解するのが相当である。」東京高判平成11年11月29日判タ1047号207頁



2019-04-12(Fri)

【事例から民法を考える】事例⑰「親亀こけたら皆こけた♪」

本日2問目は,事例⑰です。

ひどいタイトルですね。

≪問題≫

●事例
 会社員Aは,自己所有地上に賃貸用建物を建築してアパート経営をするために,平成20年3月20日に建設業者Bと2階建ての鉄骨住宅を建築する工事の請負契約を締結した(以下,「甲契約」という)。甲契約では,竣工時期は同年8月25日,請負代金は3000万円とされ,代金の支払時期は着工時に200万円,同年6月20日に300万円,上棟時1000万円,以後随時出来高払をすることとされていた。また,建築に必要な資材はBが調達することとされていた。
 Bは,同年3月25日,建築業者Cにこの工事を一括して2400万円で請け負わせた。B・C間の契約(以下,「乙契約」という)では,Bは出来高に応じて請負代金を分割して支払うこととされ,建築に必要な資材はCが調達することとされていた。
 Cは直ちに工事に着手し,同年6月末日の時点では,基礎工事が完了し,鉄骨構造が完成していたが,屋根や外壁は完成していない状況であった(以下,「本件出来形部分」という)。これは,Cが請け負った工事の30%に相当し,本件出来形部分の価額は900万円である。
 ところが,同年6月末日にBが倒産した。Bは,それまでにAから合計1500万円の支払を受けていたものの,CからBに対しては一切の支払がなされていない。そのため,Cは工事を中断したうえで,Aに対して,AがCに対して直接発注するなら工事を続行する意思がある旨を伝えた。Aは,BがCに対して一括下請をしていたことをこのとき初めて知って驚いたが,工事を実際に行っていたCが工事を続行するのが最も簡便であると考えて,甲契約を解除するとともに(なお,甲契約には,甲契約が解除された場合には工事の出来形部分の所有権は注文者に帰属する旨の条項があった),Cと工事続行について協議を始めた。しかし,工事代金の額についてA・C間で合意に達することができず,結局,同年8月上旬,Aは別の建設業者Dとの間で,代金2000万円,竣工時期同年10月25日の約定で,本件出来形部分をもとに建物を完成させる旨の契約を締結した(以下,「丙契約」という)。Dは,丙契約に従って,同年8月下旬には屋根と外壁を完成させ,同年10月25日には予定どおり工事を完成させるとともに代金全額の支払を受けて建物をAに引き渡し,Aは本件建物につき所有権保存登記をした。この完成建物の価額は,2400万円となっている。

【設問1】 Cは,本件建物(完成建物)の所有権が自己に帰属すると主張して,Aに対して平成20年10月25日以降現在までの本件建物の賃料相当額の支払を求めることができるかどうか論じなさい。

【設問2】 Cは,AまたはDに対して本件出来形部分の所有権に相当する額(900万円)の支払を求めることができるかどうか論じなさい。


下請負人との法律関係です。

ローの授業でも割と厚く扱われていた気がします。

下請負人という文字を読んだ瞬間に,

親亀子亀が連想されるくらいにはなっています。

≪答案≫
第1 設問1
 1 CはAに対して本件建物の所有権を理由とする不当利得(民法703条)に基づく利得金返還請求権又は所有権侵害を理由とする不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求権として,本件建物の賃料相当額の支払を請求しているものと考えられる。いずれにしても,Cに本件建物の所有権が認められなければ,主張は認められない。そこで,Cが本件建物の所有権を有しているかどうかについて検討する。
 2⑴ Cが本件建物の所有権を取得するには,その前提として,本件出来形部分についての所有権を取得している必要がある。建物建築請負契約における完成建物の所有権の帰属は,建物の建築のための材料の主要部分を提供した者にある。なぜならば,目的物の引渡しと代金の支払は同時履行の関係にあるものの(同法633条),請負人の仕事完成義務は,注文者の代金支払義務よりも先履行とならざるを得ないから,請負人は代金債権回収において危険な地位におかれているため,これを担保する必要があるためである。
 これを本件についてみると,本件建物の建築に必要な資材はCが調達することとされており,本件出来形部分まではCの調達した資材によって建築されているのであるから,Cは材料の主要部分を提供した者として本件出来形部分の所有者となり得る地位にある。
  ⑵ もっとも,甲契約においては,甲契約が解除された場合には工事の出来形部分の所有権は注文者に帰属する旨の条項があるところ,Aは甲契約を解除しているから,本件出来形の所有権はAに帰属しているようにも思える。もっとも,甲契約の当事者はA及びBであって,Cにおいては甲契約と別個のBとの間における乙契約が締結されているにすぎないのであるから,甲契約の特約によってCを拘束することができないようにも思える。
 そこでこの点について検討すると,下請負契約は,その性質上,元請負契約の存在があって初めて成立するものであるから,下請負人は注文者との関係では元請負人の履行補助者的立場にあるにすぎず,下請負人が下請であることを認識して契約関係に入っているのであれば,元請負契約と下請負契約とは密接相互に関連する複合契約を構成する。したがって,この場合には,下請負人は,元請負契約にも拘束されることになる。このように考えても,下請負人の債権確保は本来元請負人の資力に依存するものであり,下請負人の請負代金債権は元請負人に対するものであって,注文者とはかかわりがなく,元請負人の資力を見誤った下請負人を注文者の二重払いの犠牲の下で保護するのは妥当ではないため,下請負人の債権確保との関係で問題となるものではない。
 これを本件についてみると,甲契約には前記の通り,甲契約を解除した場合には出来形の所有権はAに帰属するとの定めがあるところ,Cは下請負契約であることを認識してBとの契約関係に入っているもののと考えられるから,甲契約と乙契約とは複合契約として扱われ,Cは甲契約上の特約に拘束されることとなる。したがって,AはCとの関係でも,本件出来形部分の所有権を主張することができる。
 3 よって,Cは本件出来形部分の所有権を主張することができないから,本件建物の所有権も主張することができない。以上から,CはAに対して,本件建物の賃料相当額の支払を請求をすることができない。
第2 設問2
 1 Cの主張は,本件出来形部分の所有権が,その後のDの工事による加工(同法246条1項)のため喪失したとして,償金請求(同法248条)をするものと考えられる。
 2⑴ まず,この請求がAとの関係で認められるかどうかについて,民法703条の要件充足性を検討する。
  ⑵ア Aは本件出来形部分を基礎にした本件建物を取得しているから「他人の財産又は労務によって利益を受け」ている。
   イ Cは本件出来形部分についての対価を支払われていないため「損失」を生じている。
   ウ Aが取得した本件建物の基礎となった本件出来形部分は,Cが自己で調達した資材等を利用して建築したものであるから,前記「利益」と「損失」との間には,社会通念上の連結関係があると認められ,因果関係を肯定することができる。
   エ それでは,Aは「法律上の原因なく」前記「利益」を取得したといえるか。AとCとの間には直接の契約関係がなく,利益の移転も直接的にあったものとも認められないため,このようなAに対しても利得の返還を請求することができるかどうかについて検討する。
 「法律上の原因なく」とは,当事者間の公平を図る趣旨に出たものと考えられるが,第三債務者に対して不当利得返還請求をする場合には,第三債務者を二重弁済を強いることとなる危険性があるため,限定的に考えるべきである。したがって,第三債務者に対する不当利得返還請求をする場合には,契約全体をみたときに第三債務者が対価関係なしに利益を受けたときに限り,「法律上の原因」がないというべきである。
 しかし,本件では,Aは本件出来形部分の対価を既にBに支払っているから,Aは本件建物のうち本件出来形部分に相当する部分を対価関係なしに取得したということはできない。したがって,「法律上の原因」があるというべきである。
  ⑶ よって,CはAに対して償金請求をすることができない。
 3⑴ 次に,この請求がDとの関係で認められるかどうかについて検討する。
  ⑵ Dは本件出来形部分を基礎として工事を行ったことにより本件建物を完成させている。AD間で特約がない場合には,本件建物の所有権は,一旦Dに帰属することになるから,これをもってDには「利益」があったとも考えられる。
 しかし,Dは,本件建物をその後にAに取得させているのであり,Dが所有権を取得するのは,DのAに対する請負代金債権を確保するための技巧的な手段にすぎない。また,Dは,本件出来形部分に関する対価支払を受けていない。そうすると,Dからすれば,本件出来形部分はいわば押し付けられた利得というべきであり,当事者間の公平を図るという不当利得法の趣旨からみて「利益」にあたらないというべきである。
  ⑶ よって,CはDに対して償金請求をすることができない。

以 上



2019-04-12(Fri)

【事例から民法を考える】事例⑬「僕らのお引っ越し」

今日も民法です。

たぶん試験直前までの残り期間はほとんど民法をやることになるんじゃないかと思います。

今回は,事例⑬です。

≪問題≫

●事例
 600㎡の更地を購入した不動産業者Aは,その土地を等分に10区画に区切ってそれぞれに居住用建物を建築したうえで,土地付き建売住宅として販売することを企図し,建築業者Bとの間で鉄骨造スレート葺2階建ての建物10棟の建物建築請負契約を締結した。これらの建物は,建築のコストを抑えるためにすべて規格化されており,同一面積・同一間取りであり,資材等もすべて同一のものを用いていた。これらの10棟の建物は,平成24年5月14日までに完成し,BからAに引き渡された。
 Aがこれらの10区画の土地・建物を,すべて同一価格の3700万円で売り出したところ,8区画については発売後6か月以内に販売できたものの,残りの2区画(互いに隣接する甲区画と乙区画)については1年たっても買い手がつかずにいた。しかし,平成25年6月になって,自宅用住居の購入を考えていたCが,甲区画の土地・建物を代金3700万円で購入した。Cは,同年6月31日,本件土地と建物の引渡しを受け,家族(C夫婦と小学生の娘1人)でこの建物に引っ越し,以後これに居住している。この引っ越しには娘の転校も伴ったため,当初娘は引っ越しを嫌がっていたが,いまでは多くの友だちもできて,楽しく毎日を過ごしている。
 ところが,甲区画の建物には,次のような構造耐力上の安全性にかかわる重大な問題があるため(柱と梁の接合部に溶接未施工の箇所があり,また,1階と2階の柱の部材を取り違えて用いているため,1階の柱については強度不足となっており,地震や台風によって倒壊のおそれがある),これを建て替えざるをえないことが判明した。このような瑕疵が生じたのは,Bが,Aとの請負契約で定められた建物完成・引渡しの期日に間に合わせるために,甲区画の建物については,急遽,それまで取引関係になかった下請負人Dを初めて用いたところ,Dが経験不足のためにミスをおかしたためであることも分かっている。
 Cは,建物の安全性に不安があるため,本件建物に居住し続けることはできないと考えているが,この地域の環境を気に入っており,また,娘を再び転校ざたくないとも考えている。この場合について,以下の設問に答えなさい。設問はそれぞれ独立の問いである。

【設問1】 Cは,Aに対して,建物の建替えを求めることができるか。また,まだ売れ残っている隣地乙区画の土地・建物との取替えをAに求めることができるか。

【設問2】 Cは,甲区画の建物を建て替えたいと考えているが,Aには不信感を抱いていることから施工は第三者に依頼することにして,Aに建替え費用の負担を求めたいと考えている。これは認められるか。それが認められる場合,Cが現存建物に居住して得た利益は,建替え費用から控除されるべきか。

【設問3】 Cは,第三者に依頼して甲区画の建物を建て替えたいと考えているが,甲乙区画の販売が長引いたこともあってAの資金繰りが悪化している。そこでCは,Aではなく,Bに対して建替え費用の負担を求めたいと考えている。これは認められるか。


瑕疵担保責任です。

民法改正によって色々改められる(らしい)部分です。

ということで,今年の司法試験でも出題されるのではないかとの噂が絶えません。

法定責任説と契約責任説との対立がありますが,

改正後は基本的に契約責任説になるということで,

予備校は涙目ですね。

私も面倒なので契約責任説にすることにします。

≪答案≫
第1 設問1
 1 CがAから引渡しを受けた甲区画の建物(以下「本件建物」という。)には,構造耐力上の安全性にかかわる重大な問題があるとされ,CがAに対して本件建物の建替え又は隣地乙区画の土地建物との取替え(以下「建替え等」という。)を求めたいと考えている。そこで,Cとしては,債務不履行責任(民法415条)に基づいて建替え等を求めることが考えられる。
 これに対して,Aとしては,本件建物は特定物であり,特定物に関する売買については瑕疵担保責任(同法570条)しか問うことはできず,建替え等を求めることはできないと反論する。
 2 まず,本件建物の売買が特定物売買であるかどうかについて検討すると,特定物かどうかは具体的な取引において当事者が目的物の個性に着目して取引をしたか否かによって決せられる。Aは,本件建物を含む10区画について同一規格で分譲をしており,本件建物の個性が埋没した不特定物であって,10区画に限られた制限種類物であるとも考えられなくはないが,Cは契約締結時に甲区画を指定して契約をしているのであり,土地建物の購入にあたってはその立地等も考慮して目的物を決定することが考えられるから,分譲地の空き区画について売買がなされその中から甲区画が特定されたといった事情のない限り,本件建物の個性に着目して取引がされているというべきである。したがって,本件建物の売買は,特定物売買である。
 3 そこで,特定物売買について債務不履行責任を問うことができるかどうかが問題となる。
 この点,特定物売買における当事者は当該物を目的物としているのであり,当該特定物に瑕疵があっても,その瑕疵があるのがその特定物の品質であるから,当事者はその品質について合意することはできないこと(同法483条参照)から,品質に問題があっても債務不履行とはならず,そのために民法570条が法定の責任を定めたものであるとする見解がある。しかし,この見解による場合によっても,信義則上瑕疵なき物の給付義務を認める余地があるが,その場合には,目的物の性質が債務内容になることを認める点で自己矛盾である。
 民法570条は,債務不履行責任の特則を定めたにすぎず,売主の過失の有無によって適用領域を分けているにすぎない,すなわち,無過失責任である瑕疵担保責任に基づく損害賠償は有償契約における対価均衡の維持のために代金減額的損害賠償を定めたものにすぎないと考える。したがって,特定物売買においても,債務不履行責任は当然に排除されるものではない。
 これを本件についてみると,本件建物が居住用建物の売買である以上,少なくとも構造耐力上の安全性は備えている等その建物が居住に適した品質であることが黙示的に合意されていると考えられる。したがって,構造耐力上の安全性を備えていない本件建物の引渡しは,債務の本旨にしたがった弁済があったとはいえないから,CはAに対して債務不履行責任を問うことができる。
 4⑴ それでは,Cが債務不履行責任に基づいて瑕疵修補請求として建物建替えを求めることができるか。
 この点,瑕疵修補請求は,売主が契約で引き受けた給付義務とは異なる行為を求めるものであり,売主に修補能力があるとは限らないから瑕疵修補請求は一般的には認められないとの見解もある。しかし,売主は自ら修補する必要はなく,自己の費用で第三者に瑕疵修補をさせれば済むのであるから,このことは瑕疵修補請求を否定する根拠にならない。
 また,瑕疵の程度が軽微である場合で,修補に過分の費用がかかるときには,修補請求を制限すべきであるとの見解もある。しかし,少なくとも本件では,建物に構造耐力上の重大な瑕疵があり,建替えが不可避なのであるから,瑕疵が軽微であるということはできない。
 したがって,Cは,債務不履行責任に基づく瑕疵修補請求として本件建物の建替えを求めることができる。
  ⑵ また,Cが債務不履行責任に基づいて代物請求として隣地の土地建物との取替えを求めることはできるか。
 特定物売買においては当事者は目的物の個性に強く着目しているのであるから,たとえ客観的に代替性があり,あるべき品質が想定できるとしても,目的物の取替えを認めることはできない。
 本件でも,前記のようにCは本件建物の個性に着目してAとの間で売買しているのであるから,目的物を取り替えることまでを請求することはできない。
第2 設問2
 1⑴ まず,CはAに対し債務不履行に基づく損害賠償請求として本件建物の建替え費用の負担を求めることが考えられる。
 前記のように,本件建物が構造耐力上の安全性を欠いていることは,債務の本旨に従った弁済であるとはいえないから,債務不履行にあたる。そうすると,Aは,自己に帰責事由がないことを主張立証しなければ損害賠償責任を免れることはできない。
 ここで,債務者の帰責事由は,契約内容の確定作業を経て明らかとなる債務者の義務の違反自体によって基礎づけられる。Cは本件建物が築1年程度である比較的新しい建物であると認識しているものと考えられ,そうであれば当然瑕疵のない建物を入手することを企図していたと考えられるため,AC間の売買契約においては,Aにおいて,構造耐力上の安全性を満たす建物を引き渡すことが契約内容となっていたものと認められる。そうすると,Aは,瑕疵のない建物を給付する義務を負っていたというべきであり,これに違反したことをもって,Aには帰責事由があったというべきである。
 したがって,CはAに対して債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができる。
  ⑵ 次に,同請求によって賠償されるべき損害の範囲から,Cがそれまでに居住した間を利益と捉えて損益相殺をすることが認められるかどうかについて検討する。
 しかし,倒壊の危険がある建物に居住することは利益と評価することはできない上,建替えがされることによってはじめて買主は本来取得できたはずの建物を取得できるのであって耐用年数が伸長するものではない。また,居住利益を控除するとすれば,売主が長期間争えば争うほど控除額が大きくなってしまう。したがって,新築建物に重大な瑕疵があり,これを建て替えざるを得ない場合において,社会通念上建物自体が社会経済的な価値を有しないと評価すべきものであるとには,上記建物の買主がこれに居住していたという利益については,建替え費用から控除することはできない(※1)
 これを本件についてみると,本件建物は柱と梁の溶接部に溶接未施工の箇所がある上,1階の柱について強度不足となっているために,地震や台風によって倒壊するおそれがあるとされている。したがって,本件建物は,社会通念上建物自体の社会経済的な価値を有しないというべきであるから,本件建物の買主であるCがこれに居住していた利益を,建替え費用から控除することはできない。
 よって,CはAに対し,建替え費用の全額を請求することができる。
 2⑴ また,CはAに対して瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求として本件建物の建替え費用を請求することが考えられる。
 「瑕疵」とは,個々の契約の趣旨に照らして,目的物について当事者によって合意された性質を備えていないことをいう。本件建物は,Cが居住用建物として購入したものであるから,当然に建物が倒壊するおそれがないことが合意内容に含まれているところ,本件建物は構造耐力上の安全性を欠いているため,地震や台風によって倒壊するおそれがあるから,当事者によって合意された性質を備えていないといえ,「瑕疵」にあたる。
 「隠れた」とは,取引通念上通常要求される注意をもってしても発見できないことをいう。本件の瑕疵は,柱や梁といった外形からは知り得ない建物内部の部材の取り違え等によるものであるから,通常要求されるちゅういをもってしても発見することはできず,「隠れた」瑕疵であるということができる。
 したがって,CはAに対し瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求をすることができる。
  ⑵ もっとも,前記のように,瑕疵担保責任は,有償契約における対価均衡を図るために代金減額的損害賠償を認めたものにすぎない。したがって,これによって請求することができる損害の範囲は,その対価が上限とされるべきである。
 これを本件についてみると,本件建物の建替えにあたっては,その取壊しの必要が必要となる上,本件建物は規格化された建物の大量発注によって低コストで建てられたものであるから,これの建替えには,さらなるコストがかかることが予想される。そうすると,Cは建替え費用相当額の全額の賠償を求めることはできない。
第3 設問3
 1⑴ まず,Cは,前記のAに対する損害賠償請求権を被保全債権として,AのBに対する請負契約上の瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権(同法634条2項)について債権者代位権(同法423条1項)を行使することが考えられる。
  ⑵ア Cは前記のように被保全債権を有しており,Aは資金繰りが悪化していることから債権保全の必要性が認められる。
   イ それでは,AのBに対する前記損害賠償請求権は認められるか。これを認めることは,Bが建物1棟を建築する報酬で最初の建物建築,その取壊し,新たな建物建築をしなければならない点で,実質的にAB間の請負契約を解除するのと同じ負担をBに負わせるものであるから,民法635条ただし書に抵触しないかが問題となる。
 民法635条ただし書は,解除が請負人にとって過大な負担であるとともに,建物を取り壊すことは社会経済的損失であることから,解除できる場合を制限しているものである。そうすると,請負人が建築した建物に重大な瑕疵があって建て替えるほかない場合には,当該建物を収去することは社会経済的に大きな損失をもたらすものではなく,また,そのような建物を建替えこれに要する費用を請負人に負担させることが,契約の履行責任に応じた損害賠償責任を負担させるものであって,請負人にとって過酷であるともいえないから,建替えにようする費用相当額の損害賠償請求をすることを認めても,同条ただし書の趣旨に反するものとはいえない。したがって,この場合には,注文者は,請負人に対し,建物の建替えに要する費用相当額を損害としてその賠償を請求することができる(※2)
 これを本件についてみると,本件建物は前記の通り,瑕疵が重大で建て替えるほかないのであるから,AはBに対して建替え費用相当額の損害賠償請求をすることができる。したがって,被代位債権となるべき損害賠償請求権は発生している。
   ウ そしてAのBに対する前記損害賠償請求権は,単なる金銭債権であって,一身専属性(同法423条1項ただし書)を有しない。
  ⑶ よって,Cは,AのBに対する前記損害賠償請求権について債権者代位権を行使することができる。
 2⑴ また,CはAに対して,不法行為(同法709条)に基づく損害賠償請求をすることが考えられる。
  ⑵ア 建物は,そこに居住する者によって利用されるとともに,当該建物の周辺には他の建物や道路等が存在しているから,これらの利用者や隣人,通行人等の生命,身体又は財産を危険にさらすことのないような安全性を備えていなければならず,このような安全性は,建物としての基本的な安全性というべきである。そうすると,建物の建築に携わる設計者等は,建物の建築に当たり,契約関係にない居住者等に対する関係でも,当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負う。そして,設計者等がこの義務を怠ったために建築された建物に建物としての基本てな安全性を損なう瑕疵がある場合には,設計者等に「過失」があるというべきである(※3)。そして,建物の瑕疵が,居住者等の生命,身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず,当該瑕疵の性質に鑑み,これを放置するといずれは居住者等の生命,身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には,当該瑕疵は,建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当する(※4)
 これを本件についてみると,本件建物は地震や台風で倒壊のおそれがあるから,これを放置するといずれは居住者等の生命,身体又は財産に対する危険が現実化することになるから,建物としての基本的な安全性を欠いている。したがって,Bには,「過失」が認められる。
   イ Cは本件建物の瑕疵により,本件建物を建て替えるための費用を支出しなければならず,財産権が侵害されている。
   ウ それでは,Cが行う費用支出が「損害」にあたるか。Cの支出費用は,本件建物自体の品質の問題であり,Cのその他の財産が侵害されているわけではないので,契約上の損害とは別個に不法行為上も損害と評価されないようにも考えられる。
 しかし,法は,その損害の性質について何ら規定しておらず,現に不法行為者の過失行為により損害が発生している以上は,不法行為上の損害賠償請求を制限する必要性はない。したがって,不法行為上の損害は拡大損害に限定されないというべきである。
 そうすると,本件におけるCの建替え費用の支出も「損害」にあたる。
   エ 権利侵害と損害の発生との間には因果関係が認められる。
  ⑶ よって,CはBに対して,不法行為に基づく損害賠償請求として本件建物の建替え費用相当額の支払を求めることができる。

以 上


(※1)「売買の目的物である新築建物に重大な瑕疵がありこれを建て替えざるを得ない場合において,当該瑕疵が構造耐力上の安全性にかかわるものであるため建物が倒壊する具体的なおそれがあるなど,社会通念上,建物自体が社会経済的な価値を有しないと評価すべきものであるときには,上記建物の買主がこれに居住していたという利益については,当該買主からの工事施工者等に対する建て替え費用相当額の損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として損害額から控除することはできないと解するのが相当である。」最判平成22年6月17日民集64巻4号1197頁
(※2)「請負人が建築した建物に重大な瑕疵があって建て替えるほかはない場合に,当該建物を収去することは社会経済的に大きな損失をもたらすものではなく,また,そのような建物を建て替えてこれに要する費用を請負人に負担させることは,契約の履行責任に応じた損害賠償責任を負担させるものであって,請負人にとって過酷であるともいえないのであるから,建て替えに要する費用相当額の損害賠償請求をすることを認めても,同条ただし書の規定の趣旨に反するものとはいえない。したがって,建築請負の仕事の目的物である建物に重大な瑕疵があるためにこれを建て替えざるを得ない場合には,注文者は,請負人に対し,建物の建て替えに要する費用相当額を損害としてその賠償を請求することができるというべきである。」最判平成14年9月24日集民207号289頁
(※3)「建物は,そこに居住する者,そこで働く者,そこを訪問する者等の様々な者によって利用されるとともに,当該建物の周辺には他の建物や道路等が存在しているから,建物は,これらの建物利用者や隣人,通行人等(以下,併せて「居住者等」という。)の生命,身体又は財産を危険にさらすことがないような安全性を備えていなければならず,このような安全性は,建物としての基本的な安全性というべきである。そうすると,建物の建築に携わる設計者,施工者及び工事監理者(以下,併せて「設計・施工者等」という。)は,建物の建築に当たり,契約関係にない居住者等に対する関係でも,当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負うと解するのが相当である。そして,設計・施工者等がこの義務を怠ったために建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり,それにより居住者等の生命,身体又は財産が侵害された場合には,設計・施工者等は,不法行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り,これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負うというべきである。居住者等が当該建物の建築主からその譲渡を受けた者であっても異なるところはない。」最判平成19年7月6日民集61巻5号1769頁
(※4)「第1次上告審判決にいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは,居住者等の生命,身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい,建物の瑕疵が,居住者等の生命,身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず,当該瑕疵の性質に鑑み,これを放置するといずれは居住者等の生命,身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には,当該瑕疵は,建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当すると解するのが相当である。」最判平成23年7月21日集民237号293頁



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