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2019-04-10(Wed)

【事例から民法を考える】事例㉓「同じ兄弟なのに……」

なぜか,FC2のログインが昨日からうまくいかず,

ようやく復旧しました。

昨日書いたじれかん事例㉒の記事ですが,

せっかく答案も書き上げたのに,

全部きれいさっぱりなくなってしまいました。

悲しいですね。

でも,復習がてら,もう一度答案を書きます。

その前に,先に事例㉓を解いておきます。

≪問題≫

●事例
Aには実子B,C,Dがいる。
Aは,L県M市に建物甲及びその敷地乙,N県O町に別荘地として取得した土地丙を所有し,甲,乙,丙各不動産の登記名義人であった。Aは1985年に配偶者を亡くし,それ以降は,D,Dの妻E,D・Eの子Fと建物甲に居住していた。
Aは1989年10月,自筆証書により,「丙をCに相続させる」旨の遺言(第1遺言)をした。その後,Aは,1993年1月に成人したFと養子縁組をし,1993年2月に,公正証書により「甲,乙,丙をFに相続させる」旨の遺言(第2遺言)をした。第2遺言に遺言執行者の指定はなかった。
Aは,2003年1月22日に死亡した。Aには,甲,乙,丙以外に相続財産(積極財産,消極財産)はない。
 この場合について,以下の設問に答えなさい(設問はそれぞれ独立の問いである)。

【設問1】 Fは第2遺言に基づいて甲,乙,丙について,自己名義の所有権移転登記を取得した。これにより第2遺言の存在を初めて知ったB及びCは,甲,乙,丙をFが取得することに不満を抱き,「Aの生前にAがDらと共に居住していた建物甲及びその敷地乙をDの家族が取得することはともかく,土地丙までD家族のものになるのは納得がいかない。土地丙は自分たちが相続したい。そもそも,第2遺言の直前にAがFと養子縁組をしているのはAの財産をD一家に取得させ,B,Cの相続分を減らすためであって不当だ」と主張している。
D,E,Fは現在建物甲に住み続けているが,Fは喘息を患っているため,Aの死亡を機に,自然環境の豊かなN県O町にある土地丙に新居を建築して転居することを考えている。
A死亡時の甲,乙,丙の時価はそれぞれ1200万円,2000万円,800万円であるものとする。
B及びCの主張を実現するための手段について,検討しなさい。

【設問2】 Bの債権者Gは2003年3月,Bに代位してBが法定相続分により甲,乙,丙を相続した旨の登記をしたうえで甲,乙,丙上のBの持分の仮差押えを申し立てた。Fは,Gの仮差押えは自己の財産に対する不当なものであると考えている。FはGの仮差押えの執行を排除することができるか。


「相続させる」趣旨の遺言ですね。

短答とかではよく聞かれますし,

ワンチャン論文でもあり得そうですね。

≪答案≫
第1 設問1
 1 B及びCは,丙土地を取得することを希望している。この点,第1遺言には「丙をCに相続させる」との記載があるが,第2遺言には「丙をFに相続させる」との記載があるため,丙の取扱いについて第1遺言と第2遺言とで抵触していることになる。したがって,丙に関する部分は,前の遺言である第1遺言が撤回されたものとみなされ(民法1023条1項),第2遺言に従うこととなる。
 2 そこで,第2遺言の「丙をFに相続させる」の記載の持つ意味について検討する。
 遺言の解釈においては遺言者の意思を尊重するために,合理的にその趣旨を解釈すべきである。遺言者は,各相続人との関係にあっては,その者と各相続人との身分関係及び生活関係等諸般の事情を考慮して遺言をするのであって,遺言書において特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言書の意思が表明されている場合,当該相続人も当該遺産を他の共同相続人と共に当然相続する地位にあることにかんがみれば,遺言者の意思は,当該遺産を当該相続人をして,単独で相続させようとする趣旨のものと考えるのが合理的である。そうすると,「相続させる」趣旨の遺言は,民法908条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であるというべきである(※1)
 本件でも,第2遺言は,「丙をFに相続させる」というものであり,民法908条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であると考えられる。
 3 第2遺言の「丙をFに相続させる」との記載が遺産分割の方法の指定である場合には本来は相続承継の中で,遺産共有状態を経て遺産分割が行われて財産が承継されることを前提とするが,遺言によって遺産分割の方法が指定された場合には,他の共同相続人も当該遺言に拘束され,これと異なる遺産分割の協議,審判をなし得ない。したがって,このような遺言にあっては,当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り,何らの行為を要せずして,被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと考える(※2)
 本件でも,第2遺言の「丙をFに相続させる」との記載があり,相続による承継をFの受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情はないのであるから,何らの行為を要せずして,Aの死亡の時に直ちに丙がFに相続により承継される。
 4 そうすると,B及びCが,丙を取り戻す手段としては,遺留分減殺請求権(同法1031条)を行使することが考えられる。
  ⑴ B,C及びDは,Aの子であるから,Aの相続人であり(同法887条1項),遺留分を有する(同法1028条2号)。また,FもAと養子縁組(同法792条)をしたことにより,Aの嫡出子としての身分を取得するため(同法809条),相続人としての地位を有するから,B,C及びDと同様に遺留分を有する。したがって,それぞれの遺留分は,Aが死亡時に有していた甲,乙及び丙の時価を足し合わせた4000万円の1/2についてそれぞれの相続分(同法900条4号)である1/4を掛け合わせた500万円となる。
  ⑵ ここで,B及びCは,第2遺言の直前になされたAとFとの養子縁組が不当であると主張している。その趣旨は,AがFと養子縁組をしたのは,死亡時にできるだけ財産をDの一家に取得させようという相続対策のためであって,養親と養子としての親子関係を真に設定する意思がないというものである。
 普通養子縁組においても,縁組意思が必要であり,その内容は,当事者間に社会観念上親子であると認められる関係の設定を欲する意思の合致である。もっとも,我が国では,養子縁組は,当事者間に社会観念上での親子関係といえるほどの共同生活や養育の事実,精神的な関係を形成する意思を必ずしも伴わない多様な目的のために行われている。そこで,多様な目的の縁組が直ちに無効であるとされるのは不当である。
 本件でも,AとFとは相続対策の目的で養子縁組がされたとしても,そのことから直ちに縁組意思が欠けるとしてようしえんぐみを無効とするべきではない。
  ⑶ そこで,B及びCが遺留分減殺請求権の行使により丙を取り戻すことができるかについて検討すると,複数の遺贈が存するときには,各遺贈は,遺言に別段の定めがない限り,減殺の対象として同順位とされ,減殺は目的物の価額を按分して行われる(同法1034条)。したがって,本件では,甲,乙及び丙の価額の割合は,3:5:2であるから,B及びCは甲につき150万円,乙につき250万円,丙につき100万円の減殺額につき遺留分減殺請求権を行使することになる。
 Fが価額弁償を選ばなかったときには,遺留分減殺請求の結果,甲,乙及び丙の各不動産は,FとB,Cとの物権的な共有状態となる。B及びCが分割を希望するときには,共有物分割(同法256条1項)を求めることとなる。
 Fが価額弁償を選んだときには,Fはどの財産を現物返還し,どの財産を価額弁償するかを自由に決めることができる(※3)。そして,Fは療養のため,丙への移住を考えているのであるから,甲,乙を現物返還とする可能性が高い。
 したがって,いずれにしても,B及びCは,丙を取り戻すことはできないものと考えられる。
第2 設問2
 第2遺言により,甲,乙及び丙がFに承継されることを前提とすると,Gがこれらの不動産について仮差押えを申し立てた場合には,第三者異議の訴え(民執法38条)によって仮差押えの執行を排除することが考えられる。
 Gとしては,自己が前記不動産について「第三者」にあたるから,登記がなければFは仮差押えに対抗することはできないとの主張を行うことが想定される。
 そこで,この点について検討すると,前記のように,「相続させる」趣旨の遺言は,特段の事情がない限り,何らの行為を要せずに,被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される。そうすると,「相続させる」趣旨の遺言による権利の移転は,法定相続分又は指定相続分の相続の場合と本質的に異ならない。そして,法定相続分又は指定相続分の相続による不動産の権利の取得については,登記なくしてその権利を第三者に対抗することができる。したがって,「相続させる」趣旨の遺言による権利の移転は,登記なくして第三者に対抗することができる(※4)(※5)
 そうすると,本件でも,甲,乙及び丙のFへの承継は,登記なくしてGに対抗することができる。したがって,Fの第三者異議の訴えは認められる。

以 上


(※1)「被相続人の遺産の承継関係に関する遺言については、遺言書において表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきものであるところ、遺言者は、各相続人との関係にあっては、その者と各相続人との身分関係及び生活関係、各相続人の現在及び将来の生活状況及び資力その他の経済関係、特定の不動産その他の遺産についての特定の相続人のかかわりあいの関係等各般の事情を配慮して遺言をするのであるから、遺言書において特定の遺産を特定の相続人に『相続させる』趣旨の遺言者の意思が表明されている場合、当該相続人も当該遺産を他の共同相続人と共にではあるが当然相続する地位にあることにかんがみれば、遺言者の意思は、右の各般の事情を配慮して、当該遺産を当該相続人をして、他の共同相続人と共にではなくして、単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的な意思解釈というべきであり、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではない。そして、右の『相続させる』趣旨の遺言、すなわち、特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させようとする遺言は、前記の各般の事情を配慮しての被相続人の意思として当然あり得る合理的な遺産の分割の方法を定めるものであって、民法908条において被相続人が遺言で遺産の分割の方法を定めることができるとしているのも、遺産の分割の方法として、このような特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させることをも遺言で定めることを可能にするために外ならない。したがって、右の『相続させる』趣旨の遺言は、正に同条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であ[る。]」」最判平成3年4月19日民集45巻4号477頁
(※2)他の共同相続人も右の遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議、さらには審判もなし得ないのであるから、このような遺言にあっては、遺言者の意思に合致するものとして、遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。そしてその場合、遺産分割の協議又は審判においては、当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることはいうまでもないとしても、当該遺産については、右の協議又は審判を経る余地はないものというべきである。」前掲最判平成3年4月19日
(※3)「受贈者又は受遺者は、民法1041条1項に基づき、減殺された贈与又は遺贈の目的たる各個の財産について、価額を弁償して、その返還義務を免れることができるものと解すべきである。」「なぜならば、遺留分権利者のする返還請求は権利の対象たる各財産について観念されるのであるから、その返還義務を免れるための価額の弁償も返還請求に係る各個の財産についてなし得るものというべきであり、また、遺留分は遺留分算定の基礎となる財産の一定割合を示すものであり、遺留分権利者が特定の財産を取得することが保障されているものではなく(民法1028条ないし1035条参照)、受贈者又は受遺者は、当該財産の価額の弁償を現実に履行するか又はその履行の提供をしなければ、遺留分権利者からの返還請求を拒み得ないのであるから……、右のように解したとしても、遺留分権利者の権利を害することにはならないからである。このことは、遺留分減殺の目的がそれぞれ異なる者に贈与又は遺贈された複数の財産である場合には、各受贈者又は各受遺者は各別に各財産について価額の弁償をすることができることからも肯認できるところである。そして、相続財産全部の包括遺贈の場合であっても、個々の財産についてみれば特定遺贈とその性質を異にするものではないから……、右に説示したことが妥当するのである。」最判平成12年7月11日民集54巻6号1886頁
(※4)「相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした共同相続人中の乙ならびに乙から単独所有権移転の登記をうけた第三取得者丙に対し、他の共同相続人甲は自己の持分を登記なくして対抗しうるものと解すべきである。けだし乙の登記は甲の持分に関する限り無権利の登記であり、登記に公信力なき結果丙も甲の持分に関する限りその権利を取得するに由ないからである」最判昭和38年2月22日民集17巻1号235頁
(※5)「特定の遺産を特定の相続人に『相続させる』趣旨の遺言は,特段の事情のない限り,何らの行為を要せずに,被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される……。このように,『相続させる』趣旨の遺言による権利の移転は,法定相続分又は指定相続分の相続の場合と本質において異なるところはない。そして,法定相続分又は指定相続分の相続による不動産の権利の取得については,登記なくしてその権利を第三者に対抗することができる……。したがって,本件において,被上告人は,本件遺言によって取得した不動産又は共有持分権を,登記なくして上告人らに対抗することができる。」最判平成14年6月10日家月55巻1号77頁



2019-04-09(Tue)

【事例から民法を考える】事例㉒「あなたを当てにしていました」

事例㉓の記事の方でも書きましたが,

この記事,なぜか一回全部消えてるんですよね。

ほんとに腹が立ちますよね。

1から書き直す側の気持ちも考えて欲しいですね。

ところで,今回は,事例㉒です。

≪問題≫

●事例
 食肉卸売を営むA会社は,2005年6月15日に,加工食品を製造販売するB会社との間で,継続的に加工食品の材料となる食肉を供給する契約を締結した。Aは,この契約に基づいてBに食肉を売却して取得する売掛代金債権およびその遅延損害金等を担保するために,Bの経営者であるCとの間で,極度額を500万円として,CがBの連帯保証人となる旨の契約を締結し,契約書を取り交わした。Bは,Cが加工食品を自宅付属の店舗で販売するために起こした企業であり,E(Cとその妻Dとの間の子)が店舗での販売や配達業務などを手伝っていた。CとDとの間には,Eの他に子Fがおり,Fは2007年9月以来海外留学中である。Fは留学に際して,Cから経済的援助を得ている。
 2010年11月18日にCが急逝し,EがBの経営を引き継いだ。Cの生前にはBの経営は順調だったが,Cの死後,その経営状態は悪化し,BのAに対する売掛代金債務の弁済も滞るようになり,C死亡時に60万円だった未払債務の額は,現在(2011年8月)までに300万円となっている。
 Cは遺言を残しておらず,Cの相続人はD,E,F(相続分はそれぞれ1/2,1/4,1/4)である。
 この場合について,以下の設問に答えなさい(設問はそれぞれ独立した問いである)。

【設問1】 Cが死亡した後,DはCの居室を整理し,Cが収集していた古民芸品の一部をFに送り,残りを廃棄した。他方で,FはBの経営状態やCの負債について何も知らなかったため,Cの相続について不安を抱き,D,Eと相談をした結果,DおよびFは2011年3月6日に相続放棄をした。この場合に,AがD・E・Fに対して300万円の支払を請求してきた。D・E・Fはそれぞれ拒むことができるか。

【設問2】 D・E・FはCの相続について放棄または限定承認をせず,2011年8月に,遺産分割協議を行い,Cの所有していた自宅およびその敷地たる宅地をそれぞれDとEが各1/2の持分により取得することとした。Cにはほかに相続財産はない。Fには留学中の学費を賄う程度のアルバイト収入があるだけで,資産はないことから,Aは,Fに相続財産を取得させないこの遺産分割協議は,Aの債権回収を困難にするものだと考えている。この場合に,Aはこの遺産分割協議を詐害行為であるとして取消しできるか。


相続の一身専属性とか,

遺産分割協議の詐害行為取消とか。

後者はちょいちょい見る論点ですが,

前者は全然知らんですね。

連帯根保証契約とか初めて聞きました。

根保証は短答で毎回苦しめられるイメージしかないです。

≪答案≫
第1 設問1
 1 AがD,E及びFに対して300万円の支払を請求しているのは,AがCに対して保証契約に基づく保証債務履行請求権を有していたところ,Bが死亡したため,Bの配偶者であるD並びにその子であるE及びF(以下,D,E及びFをまとめて「Dら」という。)が前記保証債務履行請求権に係る保証債務(以下「本件保証債務」という。)を承継しているとして(民法882条,887条1項,890条,896条本文),その債務の履行を求めるものであると考えられる。
 2 これに対して,D及びFは,相続放棄をしているから,本件保証債務を負わないと反論することが想定される。
 もっとも,DはCの死亡後にCが収集していた古民芸品(以下「本件古民芸品」という。)をFに送るなどしているから,これをもって法定単純承認(同法921条1号本文)をしたものとされないかが問題となる。しかし,単純承認が擬制されれば,相続人は被相続人の債務を限定的な責任ではなく承継するという重大な効果がもちらされるから,処分の意味は相続人に不意打ち的な効果をもちらさないよう,厳格に解釈されるべきである。そうすると,本件でも,Dが本件古民芸品をFに送ったことは,形式的には処分にあたるが,本件古民芸品の財産的価値が著しく高いといった事情ない限り,「処分」には該当しないというべきである。
 しかしながら,D及びFは,Aが死亡した時から3か月以上が経過した時点で相続放棄をしている。D及びFにとって,相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難であって,相続財産が全く存在しないと信ずるについて相当な理由があったものとは認められないから(※1),D及びFは同時点で相続放棄をすることができない(同法915条1項本文)。
 したがって,D及びFの上記反論は認められない。
 3 そうであるとしても,Dらは,本件保証債務は,連帯根保証債務であるから,その責任の及ぶ範囲が広範であり,当事者の人的信用関係を基礎とするものであるから,「被相続人の一身に専属したもの」であり承継しないとの反論をすることが想定される(※2)
 しかし,一身専属性の判断は,ある権利義務を相続人に相続させるのが妥当ではないことを意味する評価的なものである。そして,極度額の定めがあれば責任の限度額は明らかである上,相続人は放棄または限定承認を選択することができることから,保証債務の一身専属性の判断にあたっては,責任の限度が予測可能かどうかが重視されるべきである。
 本件保証債務は,極度額が500万円との定めがあるため,Dらにとってその責任の範囲が予測可能である。したがって,これをDらに相続させても不当であるということはできず,一身専属性を有しない債務であるというべきである。
 よって,Dらの上記反論は認められない。
 4 そうすると,Dらは本件保証債務を承継することとなり,これを拒むことはできない。本件保証債務は金銭債務であって,可分債務であるから,Dらはその相続分に応じて承継することとなり,Dは150万円,E及びFはそれぞれ75万円を負担する。
第2 設問2
 1 Dらが行った遺産分割協議(以下「本件遺産分割協議」という。)が詐害行為であるとして取り消すことができるか,その要件(同法424条)の充足性について検討する。
 2⑴ Dらとしては,本件遺産分割協議は,相続に関連する身分行為であるから,「財産権を目的としない法律行為」(同条2項)であって,詐害行為取消権行使の対象とならないと反論をすることが想定される。
 しかし,遺産分割協議は,相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について,その全部又は一部を,各相続人の単独所有とし,又は新たな共有関係に移行させることによって,相続財産の帰属を確定させるものである。したがって,遺産分割協議は,財産権を目的とする法律行為であるというべきである(※3)
 そうすると,本件遺産分割協議も,財産権を目的とする法律行為であるから,Dらの上記反論は認められない。
  ⑵ 被保全債権となる前記保証債務履行請求権は金銭債権であり,本件遺産分割協議の前に成立したものである。
 もっとも,遺産分割協議は,遺産に属する物又は権利の種類及び性質等を考慮してなされるものである上(同法906条),特定の相続人に財産が割り当てられたのが,当該相続人のなした寄与または他の相続人が得た特別受益を考慮した結果である場合や,対象となる相続財産が居宅であるなど相続人の生活上の利益に密接に関わるため,相続人の生活の状況や身心の状態を考慮してなされた場合などの事情があるときは,詐害性が認められない。
 これを本件遺産分割協議についてみると,Dらの遺産共有状態からの変更を捉えれば,本件遺産分割協議のFの取り分がなくなり,Eが法定相続分よりも多い1/2の持分の相続財産を取得しているため,詐害行為であるとも思える。しかし,EがCの生前に留学に対する資金援助を受けていることが特別受益(同法903条)に当たる可能性がある。また,D及びEが相続財産たる自宅に同居しているような事情がある場合には,D及びEが自宅及びその敷地を取得する形で遺産分割協議を行うことが合理的である。そして,Dらには,専ら本件保証債務を免れるために本件遺産分割協議がされたというような事情はない。したがって,本件遺産分割協議には,未だ詐害性が認められず,詐害行為であるということはできない。
 3 よって,Aは本件遺産分割協議を詐害行為として取り消すことはできない。

以 上


(※1)「民法915条1項本文が相続人に対し単純承認若しくは限定承認又は放棄をするについて3か月の期間(以下『熟慮期間』という。)を許与しているのは、相続人が、相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となつた事実を知つた場合には、通常、右各事実を知つた時から3か月以内に、調査すること等によつて、相続すべき積極及び消極の財産(以下『相続財産』という。)の有無、その状況等を認識し又は認識することができ、したがつて単純承認若しくは限定承認又は放棄のいずれかを選択すべき前提条件が具備されるとの考えに基づいているのであるから、熟慮期間は、原則として、相続人が前記の各事実を知つた時から起算すべきものであるが、相続人が、右各事実を知つた場合であつても、右各事実を知つた時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかつたのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があつて、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の各事実を知つた時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である。」
(※2)「継続的取引について将来負担することがあるべき債務についてした責任の限度額ならびに期間について定めのない連帯保証契約においては,特定の債務についてした通常の連帯保証の場合と異なり,その責任の及ぶ範囲が極めて広汎となり,一に契約締結の当事者の人的信用関係を基礎とするものであるから,かかる保証人たる地位は,特段の事由のないかぎり,当事者その人と終始するものであって,連帯保証人の死亡後生じた主債務については,その相続人においてこれが保証債務を承継負担するものではないと解するを相当とする。」最判昭和37年11月9日民集16巻11号2270頁
(※3)「共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。けだし、遺産分割協議は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について、その全部又は一部を、各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、相続財産の帰属を確定させるものであり、その性質上、財産権を目的とする法律行為であるということができるからである。」最判平成11年6月11日民集53巻5号898頁



2019-04-08(Mon)

【事例から民法を考える】事例㉑「別れても vs. 別れたら」

TKCの個人成績がついに明かされました。

大変微妙な成績です。

とりあえず調整後の得点は,

憲法 47.3点 628位
行政 56.7点 164位
民法 47.1点 582位
商法 55.1点 259位
民訴 56.5点 178位
刑法 50.0点 466位
刑訴 42.8点 858位
倒産 58.3点 71位

論文 413.8点 217位
短答 134.0点 121位
総合 858.2点 171位
(受験者数:1575人)

という感じです。

上三と刑訴がひどいということが如実に表れています。

っていうか選択が一番点とれるとは思いませんでしたね……。

とりあえず,残り約1か月ですが,頑張っていきたいと思います。

今回は,じれかん民法の事例21です。

≪問題≫

●事例
 A女,B男は,1985年に婚姻し,それ以来,Bの母C,父Dと,P県Q郡に所在する建物甲(D所有)で,同居してきた。Dは1950年から甲の一角で漬物製造販売業を営んでいたが,1975年頃からは,Dの体力が低下してきたため,Bがそれまで正社員として勤めていた会社を辞め,家業を手伝うようになった。Bの婚姻後はAも加わり,Dが販売,仕入などを担当し,AとBが無報酬で,漬物の漬け込み作業等の労力を要する仕事を担当してきた。A,B間には1990年に第1子Eが,1998年に第2子Fが出生した。1990年頃からDには認知症が現れ,夜間徘徊などが見られるようになり,Cが高齢で他人の面倒を見ることができない状態にあることもあって,Aは昼夜の別なくDに付き添って療養看護に努めた。Dは2000年に肺炎をきっかけに入院し,入院6か月後に死亡した。Dの入院中は,AはDの病院に毎日通い,Dの身の回りの世話を行った。C,DにはBの他にG,H,Iの子があったが,Bは,会社勤務時代に貯めてあった貯蓄を元手に,Dの療養看護にかかる費用を支払い,また,1990年以降は,甲の火災保険,公租公課を負担し,Dらの生活費の附則を補ってきた。1995年には,甲が老朽化し,またDの介護にも不便であったため,Bの負担により甲の補修改造が行われた。BがG,H,Iにこれらの負担の分担を求めることなく,G,H,IからDの療養看護の仕方や甲の補修等について異論が出されることもなかった。Dの死亡の際には,BがDの葬儀を主宰し,BがDを含むB方家の祭祀財産を承継した。
 この場合について,以下の設問に答えなさい(設問はそれぞれ独立の問いである)。

【設問1】 上記事例において,B及びAがDと同居し,家業を手伝い,療養看護に努め,生活費等を負担してきた事情は,Dの遺産からのBらの取り分を増やす方向に作用するか。Dに対する扶養義務の履行との関係はどのように考えられるか。

【設問2】 上記事例に続いて,次のような事柄が生じたとする。A,Bは引き続き甲でCと共に生活していたが,2003年にBが水難事故で死亡した。Bの葬儀は,Aが喪主として執り行い,親族からは異議はなかった。Aは引き続き甲にとどまり,Cと同居し,家事及びCの身辺の世話を行ったほか,B方家の毎年の盆の法事を主宰するなどした。ところが,2006年頃から,CとAとの折り合いが悪くなり,AとG,H,Iとの間で話し合いが持たれるなどしたが,結局Aが甲を出てCと別居することとなった。CはかわいがってきたE,Fと離れることを拒んだが,AはE,Fを連れて出た。また,この際,AはBの位牌を持ち出して,自らの仏壇を備え,また,将来的にはBの遺骨を引き取り自分達夫婦の墳墓を建立したいと考えたが,Cの理解が得られなかった。その後,AはJ男と知り合い,2008年にJと再婚した。Jは,親子としてE,Fの養育に関わっていきたいと希望している。
 この場合において,①AがCと円満な同居生活を送っている段階,②Aが甲を出てJと再婚する段階(この段階の基準時は2008年とする)のそれぞれで,Aの氏,AとCとの関係,B方家の祭祀承継,E・Fの養育の諸事情は法的にどのように扱われることになるか,根拠となる条文を示して,述べなさい。

【設問3】 上記事例に続いて,次のような事柄が生じたとする(【設問2】に記載された事柄は【設問3】では考慮しないこと)。
 A,Bは引き続き甲でCと共に生活していたが,2002年にAとBは協議により離婚し,Aが甲を出た。その際,B及びCはE及びFを手放したくないと強く訴えたため,E及びFは甲に残された。その後,2003年にBはゴルフ競技中に心臓発作で倒れ,死亡した。B死亡後,AはCに対してE及びFを引き取って育てたい旨を申し入れたが,Cとの話し合いはまとまらなかった。2006年,AはJと再婚した。A・Jは,E及びFを引き取って,育てていくことを希望している。
 この場合において,A,Bの離婚の効果を,【設問2】におけるBの死亡の場合と対比しつつ,簡潔に説明しなさい。
 また,この場合において,A,Bの離婚後のE及びFの親権者にBが指定されていたとき,Bの死亡後,2006年の時点で,A,C,Jとの関係においてE及びFの監護教育及び財産管理に関する法律関係はどのようになるか。


問題文が長いです。

見ればわかりますね。

≪答案≫
第1 設問1
 1 BはDの子であるから,BはDの相続人となる(民法887条1項)。Dが死亡したことにより相続が開始しているため(同法882条),BはDから,その相続分に応じて(同法900条),Dの権利義務を承継する(同法896条本文)。
 2 相続分の算定にあたっては,特別の寄与をした者がいる場合には,その寄与分を加えることとなる(同法904条の2第1項)。そこで,BとAがDと同居して家業を無報酬で手伝い,療養看護に努め,生活費等を負担してきた事情が寄与分の算定上考慮されるかどうかについて検討する。
 3⑴ まず,BによるDの家業への手伝いは,「被相続人の事業に関する労務の提供」である。Bは,Dが営む漬物製造販売業の工程のうち,漬物の漬け込みといった労力を要する仕事を担当し,家業の維持を図ることに貢献しているから「被相続人の財産の維持」を行っている。そして,Bは,これを無報酬で行うとともに,扶助義務として家業を手伝うことまでは通常要求されないものと考えられるから,「特別の寄与」である(※1)
 したがって,BがDの家業を手伝ったことは,Bの相続分の算定の上で寄与分として考慮される。
  ⑵ 次に,BがDの生活費等を負担したことはどうか。BはDの直系血族であり,BはG,H及びIとともにDに対して扶養義務を負う(同法877条1項)ことから問題となる。
 前提として,扶養義務者の1人が他の扶養義務者に対して本来負担すべきであった扶養料の求償を請求することは,扶養義務者間の公平の観点から認められる(※2)。そうすると,扶養による被相続人の財産維持等への貢献は,本来他の扶養義務者に対する求償の問題であり,相続の枠外で考慮されるべきであるようにも思われる。しかし,共同相続人と複数の扶養義務者は人的に重なることが多い上,寄与分も扶養義務者間の求償もそれらの者の間で公平を図るという共通の目的を有している。そうすると,過去の扶養料の負担についても,寄与分として考慮し,遺産分割の中で一度に清算することを認めるべきである。したがって,扶養義務者の1人が自己が負うべき扶養義務の範囲を超えて扶養を行った場合には,これを寄与分として相続分の算定上考慮することができる。
 そこで,BがDの生活費等を負担したことが寄与分として算定できるかどうかについて検討すると,生活費等の負担は「その他の方法」である。「被相続人の財産の維持」には,財産の価値の減少を防ぐことや,出費を減らすことも含まれるところ,Bが生活費等を負担することにより,火災保険の契約関係を維持し,公租公課の支払を怠ることを防いでいるため,これにあたる。そして,Dの子は,Bの他にもG,H及びIがいるため,これらの者が共同してDの扶助をする義務があるところ,Bのみが生活費等を負担しており,それを全て自らの貯蓄から切り崩して行っていたのであるから,自らが負うべき扶助義務の範囲を超えた「特別の寄与」があったというべきである。
 したがって,BがDの生活費等を負担したことは,Bの相続分の算定の上で寄与分として考慮される。
  ⑶ それでは,AによるDの家業への手伝い及び療養看護はどうか。AはDの相続人の地位にはなく,相続人であるBの配偶者にすぎないが,このようなBがした貢献もBの寄与分として主張することができるかどうかについて検討する。
 この点,配偶者の貢献は子の手足としてなされたものとして,子自身の貢献と一体のものとして,相続人たる子が配偶者の分も含めて寄与として主張することができるとする見解もありうるが,民法は夫婦別産制(762条1項)を採用している上,配偶者以外の者が寄与した場合には同様の考慮ができないため不均衡が生ずるため,妥当ではない。そもそも,相続分の算定において寄与分を考慮するのは,遺産分割手続の中で共同相続人間の公平を図るためのものである。そうすると,寄与者は共同相続人に限られるべきである。
 したがって,相続人たるBの配偶者であるAがDを療養看護したことをもって寄与分を主張することはできない。もっとも,ここでのAの貢献は,AとDとの間に黙示的な雇用契約(同法623条)の関係が成立しているものとみて,財産法上の規定に従って処理されるべきである。
第2 設問2
 1 ①AがCと円満な同居生活を送っている段階
 まず,Bの死亡によりAとBとの婚姻は解消されるが,Aは婚姻前の氏に復さず,婚姻中の氏を継続して称する(同法750条,751条1項参照)。
 AとBとの婚姻によって,Aとの関係でCとは姻族として親族となるが(同法725条3号),AB間の婚姻関係の解消によって直ちに影響されることはない(同法728条2項)。
 祭祀承継については,Bの死亡によって,Bを含む祭祀について,祭祀財産をAが承継する場合がありうる。Bの死亡によりA,B間の婚姻が解消されていても,AがB方家の祭祀財産の承継人となることは妨げられない。
 AB間の子E及びFとの関係では,Bが死亡することにより共同親権者(同法818条3項)の一方が欠ける結果,Aが単独親権者となる(同法818条1項)。AがCと同居しているときには,CによってE及びFの事実上の監護養育がされていることもあるが,Aの親権とCの事実上の監護養育との関係が問題かすることはほとんどない。
 2 ②Aが甲を出てJと再婚する段階
  ⑴ まず,Aは,いつでも婚姻前の氏に復することができる(同法751条1項)。また,Aは,B方の姻族との親族関係を終了させることもできる(同法728条2項)。
  ⑵ AがBの祖先の祭祀財産を承継した後に,復氏又は姻族関係の終了の意思表示を行ったときには,Aは祭祀承継の権利を失い,新たに祭祀承継すべき者は,関係者の協議により,又は家庭裁判所によって定められることになる(同法751条2項,769条)。
 ここで,AがBの位牌及び遺骨をB方家の墳墓及び仏壇から引き取り,自ら祭祀を主宰することを望んでいる。生存配偶者が原始的に亡夫の祭祀を主宰するとすれば,亡夫方の祖先の祭祀承継から亡夫の部分が欠けることになるため問題となる。しかし,夫の死亡後その生存配偶者が原始的にその祭祀を主宰することは,婚姻夫婦及びその子をもって家族関係形成の一つの原初形態としている民法の法意(739条1項,750条参照)及び慣習に照らし,法的にも承認されるものである(※3)。その場合,亡夫の遺骨が祭祀財産に属すべきものであることは条理上当然であるから,配偶者の遺骨の所有権は,通常の遺産相続によることなく,その祭祀を主宰する生存配偶者に原始的に帰属する。したがって,AがBの位牌及び遺骨をB方家の墳墓及び仏壇から引き取ることも許容される。
  ⑶ Aは,E及びFの親権者であるので,E及びFの養育について基本的に問題を生じない。もっとも,Aが婚姻前の氏に復することでAとE及びFとの氏が異なることになった場合には,15歳以上であるEは自ら,15歳未満であるFについては親権者であるAが,家庭裁判所の許可を得て届け出ることによって,氏をAと同じ氏にすることができる(同法791条1項,3項)。E及びFは,青年に達したときから1年以内に従前の氏に復することができる(同条4項)。
 ここで,Cが,AがE及びFを連れていくことを望まず,引渡しの紛争に発展する可能性もあるが,Aは親権者であるのに対しCは事実上監護養育に携わっていたにすぎないのであるから,Cが妨げることはできない。
  ⑷ AがJと再婚した際に,JとEとの関係は,何らの手続をとらない場合には,一親等の姻族となるにすぎず,その限りで扶養義務を負うにとどまる(同法877条2項)。JとEとが親子関係になるには,養子縁組をすることが考えられる。E及びFはいずれも未成年であるが,Aの直系卑属を養子とする場合であるから,家庭裁判所の許可は不要である(同法798条ただし書)。AがJの氏を称する場合には,E及びFと氏が異なることとなるため,家庭裁判所の許可を得て届け出ることによって氏をJと同じ氏とすることができる。
第3 設問3
 1 離婚の効果について
 AとBとは協議により離婚している(同法763条)ため,Aの氏は,死別の場合と原則と例外が入れ替わり,離婚によって婚姻前の氏に復し(同法767条1項),届出により,婚姻中の氏を称し続けることができる(同条2項)。
 Cとの姻族関係は,離婚により当然に終了し(同法728条1項),当事者の意思による選択の余地はない。
 離婚の際には,E及びFの親権者を父母の一方に定めなければならない(同法819条1項)。そのため,AとBとの間で親権者の指定で争いが生じることがあり,AとBとの協議によって親権者を定められないときには,裁判所が定めることになる(同条5項)。このときの基準は子の利益であり,離婚後に父母それぞれが用意できる養育環境,子の年齢,学校や友人との関係等の状態,子の意向,子の養育環境の継続性・安定性などを考慮して決せられる。
 2 離婚後に単独親権者が死亡した場合について
  ⑴ AとBとの協議離婚においては,E及びFの親権者がBと定められているが,その後にBは死亡している。そうすると,未成年者に対して親権を行う者がなくなっているから,後見が開始するものとも考えられる(同法838条1号)。しかし,E及びFには母Aがあり,Aは,Bの生前であれば,親権の変更により(同法819条6項)なお親権者となり得る立場にいた者である。そこで,この場合には,Aの存在を重視して,後見が開始するものとはせず,Aを親権者とするべきである。したがって,AはE及びFに対して親権者として監護養育(同法820条)及び財産管理(同法824条)を行うこととなる。
  ⑵ AとJとが再婚し,E及びFを引き取る場合には,15歳以上であるEは自らJと養子縁組を行い,15歳未満であるFは,Aの代諾によって(同法797条),FとJの養子縁組を行うことができる。いずれの場合にも,家庭裁判所の許可は不要である(同法798条ただし書)。

以 上


(※1)「寄与は『特別の』寄与でなければならない。そのためには,①共同相続人がその寄与に対する対価・補償を得ていないこと(無償性),②被相続人との身分関係において通常期待される程度を超えるものであることが必要である。夫婦間の協力扶助義務(752条)や,直系血族・兄弟姉妹間の扶助義務(877条1項)などの義務の履行としての行為は,義務の履行として通常期待される範囲を超えたものでなければ,特別の寄与として評価されない。また,③寄与行為が相当期間に及び,専従性がある場合(継続性・専従性)も,特別の寄与とされる可能性が高い。」前田陽一ほか『LEGAL QUEST民法Ⅵ親族・相続〔第3版〕』295頁
(※2)「扶養権利者が扶養義務者中の一人と同居することを好まず他の一人と同居して居るというには何かそれ相当の理由があるかも知れない例えば前者は扶養をすることはするが権利者に相当の扶養をしないとか或は更に進んで虐待の為め権利者は同居に堪えないとかいう場合がないではないかかる場合に後者が見兼ねて引取つて世話をしたとしたらどうであろうか(本件がそういう場合だというのではない或は結論としては原審の判断を相当ならしめる様な場合であるかも知れないがそれは当審では審理判断を為し得ないことだし原判文だけではわからない。)こういう場合にもなお前者は全面的に義務を免れ費用を出す義務もなく後者のみ全費用を負担しなければならないとするのは不当であろう若しそういうことになると冷淡な者は常に義務を免れ情の深い者が常に損をすることになる虞がある。」最判昭和26年2月13日民集5巻3号47頁
(※3)「夫の死亡後その生存配偶者が原始的にその祭祀を主宰することは,婚姻夫婦(及びその間の子)をもつて家族関係形成の一つの原初形態(いわゆる核家族)としているわが民法の法意(民法739条1項,750条,戸籍法6条,74条1号参照)及び近時のわが国の慣習(たとえば,婚姻により生家を出て新たに家族関係を形成したのち死亡した次,三男等の生存配偶者が原始的に亡夫の祭祀を主宰していることに多くその例がみられる。)に徴し,法的にも承認されて然るべきものと解され,その場合,亡夫の遺体ないし遺骨が右祭祀財産に属すべきものであることは条理上当然であるから,配偶者の遺体ないし遺骨の所有権(その実体は,祭祀のためにこれを排他的に支配,管理する権利)は,通常の遺産相続によることなく,その祭祀を主宰する生存配偶者に原始的に帰属し,次いでその子によて承継されていくべきものと解するのが相当である。」東京高判昭和62年10月8日家月40巻3号45頁



2019-04-07(Sun)

【事例から民法を考える】事例⑳「どっちもどっち?」

TKC模試の答案が返ってきました。

これはひどいです。

どれだけひどいのかというと,

民法が足切りラインを下回りました

民法は終わった直後から手ごたえはなかったですし,

むしろ「あっ,これ,やべぇな……」と思ってましたが,

まさかこんなことになろうとは思いませんでした。

特に遺留分減殺のところとか,

25点中4点しかもらえていませんでした。

一体何の4点なのか逆に気になります。

ということで,残りの期間は民法を集中的にやらないといけないことが決定しました。

よく考えたら,今まで家族法の勉強を全くしてないんですよね。

そういうことで,じれかんの家族法のところをとりあえずやっておくことにします。

≪問題≫

●事例
 X男(73歳)とY女(66歳)とは1968年10月に婚姻し,両名間には子B(40歳)及び子C(34歳)がある(年齢はいずれも2011年2月時点)。
 Xは医師として病院勤務などを経た後,1976年5月から診療所(G医院)を開業した。Yは,G医院の開業後は,家事を担いながら,G医院の経営や診療報酬請求事務等を手伝い,また,G医院の経理を引き受けてきた。しかし,X・Y間では,次第に様々な確執が生じるようになり,また,Xは,個人病院の院長として多忙を極めていたが,夜間にも入院患者への対応が必要になることをYが嫌がるなどしたため,Yとの生活に安らぎを感じることができず,不満を募らせていた。
 Xは1985年ころ,海外ツアーでAと知り合い,一緒に食事をするようになり,将来の結婚を約束するようになった。そして,Xは1988年2月に甲マンションを購入し,Aを呼び寄せてそこに住まわせ,週に何回か同マンションを訪れるようになった。Xは1988年8月ころから,寝床を自宅の寝室から居間兼応接間に移し,一人で寝るようになり,2001年ころからは,自宅の隣地に建つG医院の建物内の院長室で寝泊まりしてきた。1988年ころから,X・Y間に夫婦関係はなくなったが,Xは自宅でYが作った食事をとり,掃除や洗濯はYが主に行っていた。Xは早い段階から自宅ないし前記院長室を出て離婚をしたいと考えていたが,診療規模の縮小などを恐れ,行動に移すことは控えていた。そして,2002年ころ,Bが大学医学部を卒業し,Cも就職したことから,Yに離婚の話を切り出したが相手にされなかった。その一方で,Xら夫婦は,そのころ,病院用の介護用品を買いに隣県に行ったり,C及びその子を交えて一緒に外食したりすることもあった。その後,2006年夏ころ,Yが上記自宅の寝室の鍵をXに無断で取り替え,寝室にあったXの私物を自宅の庭先に積み上げたことがあった。Xは2007年2月ころ,自宅を出て甲マンションでAと生活するようになり,また,G医院の経理もXが行うようになり,現在にいたっている。なお,Xは自宅を出て以降,Yに対して生活費等を一切支給していない。2010年3月,XはG医院を閉院した。
 Xら夫婦には,婚姻後にX名義で取得した財産として,甲マンション,乙土地(G医院の敷地),丙土地(Xら夫婦の自宅の敷地),丁建物(Xら夫婦の自宅)がある。Xの収入は,2009年ころまでは年間約4000万円ていどであったが,2010年3月ころからは,医師年金を含めて年間約1000万円である。他方,Yは2007年ころから今日まで医療事務のパート勤めをしており,収入は平均して年間約150万円である。
 2011年2月,X・Y間で離婚調停が行われたが不成立となったため,Xは,X・Y間の婚姻生活は既に破綻しているとして,Yに対して離婚訴訟を提起した。
 この場合について,以下の設問に答えなさい(設問はそれぞれ独立の問いである)。

【設問1】 XのYに対する離婚訴訟は認められるか。なお,Xは当該訴訟において,離婚が認められれば,上記の丙土地及び丁建物を含む相当の財産をYに分与する旨を申し入れているものとする。

【設問2】 X・Y間の離婚が認められる場合に,XからYに対する財産分与を算定するに当たってどのような事情が考慮されうるか。


もう最初から最後まで親相,

100%親相の問題なんか初めて解くものですから,

何をどう書きゃいいのかさっぱりです。

っていうか,そもそも何が論点でどういう結論になるのか,

見当もつきません。

解説をしっかり読みます。

≪答案≫
第1 設問1
 1 XはYに対し,婚姻生活が破綻していることを理由として離婚請求をしている。これは,裁判上の離婚(民法770条1項)の請求であり,前記の理由は同項1号ないし4号所定の事由には該当しないから,同項5号所定の事由に該当するものとして請求しているものと考えられる。
 民法770条1項5号にいう「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」とは,婚姻関係が深刻に破綻し,婚姻の本質に応じた共同生活の回復の見込みがない場合をいう。XとYとは,寝室を別にしてから約23年が経過しており,Xが隣地の医院で寝泊まりを始めてからは約10年が経過するなど,長期にわたる事実上の別居が続いている。このような経緯に鑑みれば,Xが自宅を出て本格的に別居が開始してからは約4年程度であるが,相当長期にわたる別居がされていたということができる。その上,2006年には,Yの方から,寝室の鍵を無断で取り替え,Xが立ち入ることができないようにした上で,Xの私物を放り出すなど,完全にXを排除するような態度に出ている。このような状況の下では,Xの身の回りの世話を現在に至るまで継続的にYが行っており,病院の介護用品を買いに共に出かけたり,子を交えて外食に出たりなど,一見良好な夫婦関係が継続されているとしても,あくまでそれまでの共同生活を惰性的に続けているにすぎないというべきである。これらの事情に照らせば,XとYとの婚姻関係は深刻に破綻し,婚姻の本質に応じた共同生活の回復の見込みがないということができるから,「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」にあたる。
 したがって,XのYに対する離婚請求は,その要件を満たし,認められるようにも思われる。
 2⑴ これに対して,Yからは,Xが離婚の理由として主張する婚姻生活の破綻は,XがAと関係を持っている点にあるのであるから,離婚請求者に離婚原因についての有責性がある場合には,「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」にはあたらないとの反論が想定される。
 しかし,同号の文言上は,破綻に対する有責性を問うところはなく,また,破綻の事実が存する場合に何らかの理由を根拠に離婚請求を棄却することは規定されていない(同条2項参照)。そうすると,同号からは,有責配偶者からの離婚請求を許容すべきでないという趣旨までを読み取ることはできない(※1)
  ⑵ もっとも,民法770条1項5号所定の事由があるときは離婚請求が常に許容されるとすれば,同号所定の事由につき専ら責任のある一方の当事者(以下「有責配偶者」という。)がそれを自己に有利に利用することを裁判所に承認させ,相手方配偶者の離婚についての意思を全く封ずることとなり,裁判離婚制度を否定することとなる。そこで,離婚が社会的・法的秩序としての婚姻を廃絶するものであることに鑑み,離婚請求は,信義誠実の原則(同法1条2項)に照らしても容認され得るものであることを要する(※2)。離婚請求が信義誠実の原則に照らして許されるかどうかを判断するにあたっては,有責配偶者の責任の態様・程度,相手方配偶者の婚姻継続の意思及び請求者に対する感情,離婚を認めた場合の相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態,夫婦間の子,特に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況,別居後に形成された生活関係,時の経過がこれらの事情に与える影響を考慮する(※3)(※4)
 そこで,前提として,Xが有責配偶者であるかどうかにつき検討すると,Xは1985年の時点では既にAと関係を持つようになり,長期にわたって不貞行為を行ってきている上,前記の通りYとは相当長期にわたって別居が続いている状態である。そうすると,YがXの職業について理解を示さないなど円満な婚姻生活維持への協力的な態度を示さなかったといった事情があるとしても,それだけでX・Y間の離婚原因が作出されたとは言い難く,X・Y間の離婚原因は専らXの言動によって作出されたものというべきである。したがって,Xは,有責配偶者である。
 それでは,Xが離婚請求をすることが信義誠実の原則に照らして許されるかどうかを検討すると,たしかに,離婚原因はXがAとの間で関係を持ったことに起因するため,そもそもの責任はXにある。また,Xは自宅を出て以降Yに対して一切生活費を支給しておらず,それまでの夫婦生活の基礎となる収入を一方的に断ち切るものであり,離婚原因を作出した責任は重いともいえる。その後の事実関係からも,XがYとの間で,夫婦関係の調整を真摯に行ったと認められるような事情はない。そうすると,Xの離婚請求は信義誠実の原則に照らし許されないようにも思える。しかし,Yにおいても,前記のように自宅の寝室の鍵を無断で取り替え,Xを排除しているのであるから,Yにおいても婚姻継続の意思があるとは認め難く,Xに対する感情も不満に思うことの方が大きいものであると思われる。また,Xは財産分与の提案をしていることから,離婚を認めてもYの経済的状態に不安を残す部分はないと考えられ,また,Yはパート勤めを既にしているのであるから,社会的状態も問題がなさそうである。X・Y間の子はともに成人しており,定職にも就いているため,特段夫婦による監護が必要な状況にはない。そして,Xが自宅を出て以降,X・Y間でこれらの事情が風化したといえるような事情はない。これらの事情に鑑みると,Xの離婚請求が信義誠実の原則に照らして必ずしも夜されないものとはいえないというべきである。
 3 よって,Xの離婚請求は認められる。
第2 設問2
 1 裁判上の離婚に伴う財産分与(民法771条,768条)の性質には,清算,慰謝料,扶養の要素が含まれている。
 2⑴ 婚姻中に取得された夫婦の共有財産は清算の対象となる。YはG医院の事務に実質的に関与しており,Xの収入源たるG医院の経営にはYとの共同事業的な側面がある。そうすると,X及びYが婚姻期間中に得た収入は,共有に属する。したがって,ここでの収入が清算されることとなる。なお,清算の割合は,一方当事者のみが収入を得ていた場合には,他方の協力があったとみて,実質的に夫婦間の共有とされることにより,その清算割合を財産の2分の1とすることに鑑み,XとYとの収入を2分の1とすべきである。
 また,年金請求権も分割の対象となる。
  ⑵ 財産分与の額及び方法を定めるについては,当事者双方における一切の事情を考慮すべきものとされているから(民法768条3項),分与の請求の相手方が離婚についての有責配偶者であって,その有責行為により離婚に至らしめたことにつき請求者の被った精神的損害を賠償すべき義務を負うと認められるときには,損害賠償のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができる(※5)。本件でも,XのAとの不貞行為について,YがXに対して不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているから,ここでの慰謝料を財産分与の算定に際して考慮することができる。
  ⑶ 婚姻解消後であっても,婚姻によって失われた稼得能力の補償が必要であるから,扶養の要素も財産分与に含まれる。XとYとの間には,収入の差に大きな開きがあるから,婚姻中の稼得能力と離婚後のYの稼得能力との差異を考慮して,財産分与の算定がされる。
  ⑷ 前記のように,財産分与の額及び方法を定めるについては,当事者双方における一切の事情を考慮すべきであるから,婚姻継続中における過去の婚姻費用の分担の態様についても考慮することができる(※6)

以 上


(※1)「民法770条は、裁判上の離婚原因を制限的に列挙していた旧民法……813条を全面的に改め、1項1号ないし4号において主な離婚原因を具体的に示すとともに、5号において『その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき』との抽象的な事由を掲げたことにより、同項の規定全体としては、離婚原因を相対化したものということができる。また、右770条は、法定の離婚原因がある場合でも離婚の訴えを提起することができない事由を定めていた旧民法814条ないし817条の規定の趣旨の一部を取り入れて、2項において、1項1号ないし4号に基づく離婚請求については右各号所定の事由が認められる場合であつても2項の要件が充足されるときは右請求を棄却することができるとしているにもかかわらず、1項5号に基づく請求についてはかかる制限は及ばないものとしており、2項のほかには、離婚原因に該当する事由があつても離婚請求を排斥することができる場合を具体的に定める規定はない。以上のような民法770条の立法経緯及び規定の文言からみる限り、同条1項5号は、夫婦が婚姻の目的である共同生活を達成しえなくなり、その回復の見込みがなくなつた場合には、夫婦の一方は他方に対し訴えにより離婚を請求することができる旨を定めたものと解されるのであつて、同号所定の事由(以下「5号所定の事由」という。)につき責任のある一方の当事者からの離婚請求を許容すべきでないという趣旨までを読みとることはできない。」最判昭和62年9月2日民集41巻6号1423頁
(※2)「我が国においては、離婚につき夫婦の意思を尊重する立場から、協議離婚(民法763条)、調停離婚(家事審判法17条)及び審判離婚(同法24条1項)の制度を設けるとともに、相手方配偶者が離婚に同意しない場合について裁判上の離婚の制度を設け、前示のように離婚原因を法定し、これが存在すると認められる場合には、夫婦の一方は他方に対して裁判により離婚を求めうることとしている。このような裁判離婚制度の下において5号所定の事由があるときは当該離婚請求が常に許容されるべきものとすれば、自らその原因となるべき事実を作出した者がそれを自己に有利に利用することを裁判所に承認させ、相手方配偶者の離婚についての意思を全く封ずることとなり、ついには裁判離婚制度を否定するような結果をも招来しかねないのであつて、右のような結果をもたらす離婚請求が許容されるべきでないことはいうまでもない。」「思うに、婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもつて共同生活を営むことにあるから、夫婦の一方又は双方が既に右の意思を確定的に喪失するとともに、夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり、その回復の見込みが全くない状態に至つた場合には、当該婚姻は、もはや社会生活上の実質的基礎を失つているものというべきであり、かかる状態においてなお戸籍上だけの婚姻を存続させることは、かえつて不自然であるということができよう。しかしながら、離婚は社会的・法的秩序としての婚姻を廃絶するものであるから、離婚請求は、正義・公平の観念、社会的倫理観に反するものであつてはならないことは当然であつて、この意味で離婚請求は、身分法をも包含する民法全体の指導理念たる信義誠実の原則に照らしても容認されうるものであることを要するものといわなければならない。」前掲最判昭和62年9月2日
(※3)「5号所定の事由による離婚請求がその事由につき専ら責任のある一方の当事者(以下「有責配偶者」という。)からされた場合において、当該請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たつては、有責配偶者の責任の態様・程度を考慮すべきであるが、相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する感情、離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子、殊に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況、別居後に形成された生活関係、たとえば夫婦の一方又は双方が既に内縁関係を形成している場合にはその相手方や子らの状況等が斟酌されなければならず、更には、時の経過とともに、これらの諸事情がそれ自体あるいは相互に影響し合つて変容し、また、これらの諸事情のもつ社会的意味ないしは社会的評価も変化することを免れないから、時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮されなければならないのである。」前掲最判昭和62年9月2日
(※4)解説や水野紀子ほか『民法判例百選Ⅲ親族・相続』31頁などでは,ここでの総合考慮をするという枠組みと,いわゆる三要件,すなわち前掲最判昭和62年9月2日が「有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできないものと解するのが相当である。」と判示した部分との関係が不明瞭である旨書かれています。これは完全なる私見で,ソースも何もありませんが,判例を読んだときに素直に思ったことは,三要件で示されているものは,総合考慮型の方でも考慮要素として挙げられていることに鑑みると,あくまで総合考慮をするという部分が枠組みであって,三要件と言われている部分はあくまで想定される一類型を示したものにすぎないのではないか,つまり三要件はそもそも要件ではないのではないかということです。このような考えのもと,答案では,あくまで総合考慮をするということを,規範として提示することとしました。
(※5)「裁判所が財産分与を命ずるかどうかならびに分与の額および方法を定めるについては、当事者双方におけるいつさいの事情を考慮すべきものであるから、分与の請求の相手方が離婚についての有毒の配偶者であつて、その有責行為により離婚に至らしめたことにつき請求者の被つた精神的損害を賠償すべき義務を負うと認められるときには、右損害賠償のための給付をも含めて財産分与の額および方法を定めることもできると解すべきである。そして、財産分与として、右のように損害賠償の要素をも含めて給付がなされた場合には、さらに請求者が相手方の不法行為を理由に離婚そのものによる慰藉料の支払を請求したときに、その額を定めるにあたつては、右の趣旨において財産分与がなされている事情をも斟酌しなければならないのであり、このような財産分与によつて請求者の精神的苦痛がすべて慰藉されたものと認められるときには、もはや重ねて慰藉料の請求を認容することはできないものと解すべきである。」最判昭和46年7月23日民集25巻5号805頁
(※6)「離婚訴訟において裁判所が財産分与の額及び方法を定めるについては当事者双方の一切の事情を考慮すべきものであることは民法七七一条、七六八条三項の規定上明らかであるところ、婚姻継続中における過去の婚姻費用の分担の態様は右事情のひとつにほかならないから、裁判所は、当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解するのが、相当である。」最判昭和53年11月14日民集32巻8号1529頁



2018-07-04(Wed)

【事例で学ぶ民法演習】問題4-虚偽表示と第三者-

民法の問題演習は久しくやっておりません。

大変ですね(他人事)

≪問題≫
 Aは絵画(以下,「本件絵画」という。)を所有していたが,債務超過に陥ったため,債権者から「本件絵画を渡せ」と要求されるのを恐れ,本件絵画を親戚であるBに売ったように見せかけることで,債権者の追及を免れようと考えた。そこで,AはBに本件絵画を引き渡し,また万がーの事態に備え,AB間で虚偽の売買契約書が作成された。
 本件絵画を受け取ったBは,これをネタに一儲けしようと思い,Aに無断で友人であるCに本件絵画を売却し,BC間では売買契約書が作成されたが,実はCもAB間の売買契約が虚偽のものであることを知っていた。
 その後,Bから本件絵画の引渡しを受けたCは,この間の事情を全く知らないD百貨店から頼まれ,本件絵画を1か月の約束でD百貨店において開催される展覧会のために貸すことにし,CD間で本件絵画の賃貸借契約が締結された。しかし,Dへの引渡しはまだされていない。
 なお,賃貸借契約を締結するさい,Cは自分が本件絵画の所有者であることを示すため,AB間及びBC間の売買契約書をDに見せていた。

小問1 展覧会の期日が迫ってきたので,DはCに対して本件絵画の引渡しを求めた。Aは,ABC間の上記の事情を理由に,「本件絵画の所有者は自分〔=A〕であるから,Dに引渡しを求める権利はない(=Dは,Aとの関係では,賃借権を主張しえない)」ということができるか。

小問2 CD間で本件絵画の賃貸借契約が締結された後,Aの債権者であるEがAのもとを訪れ,Aに対して「お前〔=A〕の借金を棒引きしてやるから,本件絵画を渡せ」と要求した。Aは,予定のとおり,「本件絵画はBに売ってしまった」と答えたが,ABC間の関係を怪しんだEはABCを呼ぴつけ,厳しく問い詰めたところ,上記の事情が露見した。激昂したEは「本件絵画を俺に渡せ。もし渡さないと,お前たちの家族がどうなっても知らないぞ」とAらを脅し,Aの債務を帳消しにする代わりに本件絵画をEに譲渡する契約をAに結ばせたうえ,本件絵画の引渡しを受けた。このとき,Dは本件絵画の引渡しを求めることができるか。次の①と②のそれぞれの場合について答えなさい。
①AがEに対する意思表示をまだ取り消しておらず,Eが本件絵画を所持している場合。
②AがEに対する意思表示を取り消し,Eから本件絵画の返還を受けている場合。

総論の一つの山場である94条まわりの問題です。

単純な問題に見えて,考えなければならない点が多いです。

考えても分からない点もあります。

答案の下に(疑問点)という形で示しました。

誰か教えてください(懇願)

≪答案≫
第1.小問1について
 1.DはCに対して賃貸借契約に基づく目的物引渡請求権として本件絵画の引渡しを求めている。これに対して,Aは,本件絵画の所有権が自己にあることを理由に,Dの上記引渡請求権を否定している。この点,AB間の売買契約は「虚偽の意思表示」(民法94条1項)であるから,無効である。また,同条2項の「第三者」とは,虚偽表示の当事者又はその一般承継人以外の者であって,その表示の目的につき法律上利害関係を有するに至った者をいい,Cはこれにあたるところ,「善意」とは虚偽の意思表示があったことについて知らないことをいい,CはAB間の売買契約が虚偽のものであることを知っていたから,これにあたらない。したがって,AはCとの関係でも,本件絵画の所有権を主張することができる。そうすると,AはCから賃貸を受けたDに対しても所有権を主張することができるようにも思える。
 2.これに対して,Dは,自己も民法94条2項の「善意の第三者」にあたることを主張することが考えられる。これは認められるか。
 民法94条2項の趣旨は,虚偽の意思表示をした者とその意思表示の存在を信じて取引関係に入った者とを比較した上で,前者の帰責性に鑑み,後者を保護する点にある。そうすると,「第三者」とは,直接の第三者に限られず,直接の第三者からの転得者も含まれると考える。
 これを本件についてみると,Dは,「第三者」であるCから転得した者であり,「第三者」にあたる。そして,Dは,ABC間の事情を全く知らないのであるから,「善意」である。したがって,Dは,Aとの関係で「善意の第三者」にあたる。
 3.よって,Aは,Dに対して,AB間の売買契約の無効を対抗することができないから,Aが本件絵画の所有権を主張して,Dの引渡請求権を否定することはできない。
第2.小問2について
 1.①について
 ⑴ まず,DはEに対し本件絵画の引渡しを請求することが考えられる。ここで,DE間には直接の契約関係はなく,Dは本件絵画について物権的支配を及ぼしていないので,DがEに対し直接上記請求をすることはできない。
 ⑵ そこで,DはAのEに対する取消権を代位行使(民法423条1項)したうえで,Eに対して本件絵画の引渡しを請求することが考えられる。これは認められるか。
 まず,DはAに対して,保全すべき「自己の債権」を有しているか。上記のように,DはあくまでCとの賃貸借契約に基づいて本件絵画の引渡請求権を取得しているので,これをAに対しても主張することができるかについて検討する。上記のように,Aは,Cとの関係では,本件絵画に対する自己の所有権を主張することができる。他方で,Aは,Dとの関係では,本件絵画に対する自己の所有権を主張することができない。そうすると,Dの賃借権を保護しつつ,Cとの関係における本件絵画の所有権の復帰を観念するべきであるから,CD間におけるCの賃貸人たる地位は,あたかもAに移転したものとして扱うのが妥当である。このように考えた場合には,AD間における賃貸借契約が擬制され,DはAに対して賃借権に基づいて目的物の引渡しを請求することができる。したがって,DはAに対し,保全すべき「自己の債権」を有している。
 「保全するため」とは,被代位者が無資力であることをいう。本件では明らかではないが,Dの代位行使が認められるためには,Aが無資力であることが必要である。
 しかし,強迫取消権は,強迫によって行為を行った者を保護する制度であるから,行為者本人が取消権を行使するか否かを決定すべきであって,「債務者の一身に専属する権利」にあたる。したがって,DはAの取消権を代位行使することができないのが原則である。もっとも,行為者に対する債権を保全するため必要がある場合において,行為者が強迫による取消権を行使する意思を有しているときは,強迫取消権の上記趣旨に鑑み,これを代位行使することができる。本件でも,Aが強迫により取消権を行使する意思を有していると認められる場合には,一身専属性が解消される。
 以上の要件を充たす場合には,Dの代位行使が認められる。
 そのうえで,保全の実効性確保の観点から,DはEに対し本件絵画を自己に対して直接引き渡すよう請求することができる。
 以上の場合には,DはEに対して,本件絵画の引渡を請求することができる。
 2.②について
 本問では,Aが既に上記取消権を行使し,本件絵画がAの下に復帰している。そして,上記のように,AD間には本件絵画について賃貸借契約が成立しているから,DはAに対してこれに基づく目的物引渡請求権として本件絵画の引渡しを請求することができる。
以 上

(疑問点)
●賃貸人の地位の移転について
 →解説では,「Dの払う賃料はまさに本件絵画が生み出した価値であり,すると,Aを他の一般債権者と同じに扱うことには疑問がある。そこで,Dに対する賃貸人は--Cではなく--Aであると考えたほうが法律関係は簡明になり,またAがDに直接賃料を請求できる点でも望ましい解決といえよう。」とされているが,これだけでは賃貸人をAとする法的根拠に乏しい気がする。
 →要件事実的にこれを整理するとしたらどうなるのか。
●強迫による行為の取消権が債権者代位の場面での一身専属権にあたるかについて(私見のオンパレード)
 →錯誤無効を原則として第三者が主張することができないのは,錯誤無効が表意者保護の制度であるから。強迫取消も行為者保護の制度であるとすると,原則行為者のみが行使し得るのではないか。
 →錯誤無効における判例の例外法理として,保全の必要性+表意者が錯誤を認めていることが挙げられている。これと同様に強迫取消を考えるならば,保全の必要性+行為者が強迫を認めていることとなるのだろうか。しかし,錯誤の場合よりも強迫のときの方が行為者保護の要請が強く働く(行為者の帰責性の程度が低い)ことからすると,一身専属性が錯誤に比して強まり,例外的に代位行使ができる場面は狭めるべきではないかとも思える。そうすると,強迫があったことを認めているにとどまらず,これを行使する意思まで必要ではないか。
2018-07-03(Tue)

【事例で学ぶ民法演習】問題3-法人-


≪問題≫
A漁業協同組合(以下,「A漁協」と略すことがある。)は,A町で漁業権を持つ者を構成員(組合員)とする,公益法人の認定を受けていない非営利法人である。A漁協の定款では,A漁業協同組合の目的は,A町の漁業の振興,および,組合員間の相互扶助だとされている。理事長には,かつての網元の子孫であるBが就任している。定款には,A漁協は組合員の住居建設・漁業経営のための資金の貸付けを行うという規定がある。さらに,A漁協の代表権は理事長だけが持つが,金融機関などから融資を受けるには,理事会の承認を要するという規定もあった。以上を前提に,次の小問に答えよ。なお,各小問は独立した問いである。

小問1 B理事長はA漁協を代表して,非組合員Cに弁済期3年後,年利10%で3000万円を融資し,C所有の甲土地に抵当権を設定した。しかし,3年が経過した後も,Cは債務を弁済しない。そこで,Aが抵当権を実行しようとすると,Cは「A漁協の自分への消費貸借は定款に違反しているから無効であり,したがって,抵当権の実行もできない」と抗弁している。このCの主張は認められるか。

小問2 理事長は理事会の承認なしに,A漁協を代表して,D銀行から弁済期3年後,年利10%でA漁協がA港に建築する予定の冷凍倉庫の建築費用5000万円の融資を受けた。3年後に,D銀行はA漁協に対して貸金の返還を請求できるか。
 もしD銀行がA漁協の「融資を受けるには理事会の承認を要する」旨の定款の内容は知っていたが,B理事長が理事会の承認書を偽造してD銀行に提示したため,Bが適法にAを代表できるとDが信じていた場合はどうか。
 また,融資を受けることに関する理事の代表権の制限が,A漁協の定款によるものではなく,仮に,水産業協同組合法に「理事長は組合を代表して第三者から融資を受けることはできない」という規定があったときはどうか。

小問3 小問2で,B理事長がA漁協を代表してD銀行と締結した消費貸借契約が,A漁協に効果帰属せず,しかも,D銀行から借り受けた5000万円をB理事長が,A町の町長選挙に立候補し,A町への原子力発電所の誘致を選挙公約にした友人Eの選挙運動に使用していたときは,D銀行はA漁協に対して何か請求することができるか。



≪答案≫
第1.小問1について
 1.非営利法人であるA漁協が非組合員Cに対して3000万円を融資したことは,A漁協の「目的の範囲内」(民法34条)であるといえるか。
 営利法人が営利を目的とすることから,法人の利益となる可能性があるものについては広く「目的の範囲内」とされるのに対し,非営利法人は営利を目的とする活動が認められていないことから,「目的の範囲内」か否かは,法令や定款に照らして厳格に判断すべきである。
 これを本件についてみると,A漁協のような水産業協同組合は,「その行う事業によってその組合員又は会員のために直接の奉仕をすることを目的とする」ものであり(水産業協同組合法4条),組合員に出資させる出資組合は「組合員の事業又は生活に必要な資金の貸付け」ができることとされている(法11条1項3号,2項)。そうすると,法は,組合員でない者に対して資金の貸付けを行うことは想定していないというべきである。また,法のこれらの規定を受けて,A漁協の定款では,その目的はA町の漁業の振興,および,組合員の相互扶助であるとし,組合員の住宅資金・漁業資金の貸付けを行うと定めている。そうすると,A漁協定款も,組合員でない者に対して資金を融資することは想定していないというべきである。これらの規定に照らすと,A漁協の目的には,組合員でない者に対する資金の融通は含まれない。したがって,A漁協が非組合員Cに対して3000万円を融資したことは,A漁協の「目的の範囲内」に含まれない。
 2.「目的の範囲内」ではない行為の効力はどうなるか。
 民法34条の文言からすると,「目的の範囲」は,法人の権利能力の範囲を画するものであると考えられる。したがって,「目的の範囲内」ではない行為は,法人に効果帰属しない。
 これを本件についてみると,上記のように,A漁協が非組合員Cに対して融資をすることは,目的の範囲内ではないから,無効となる。
 3.A漁協の非組合員Cに対する融資が無効であるとして,これに伴ってされた抵当権の設定も無効となるか。
 たしかに,原因となる契約が無効となれば,それに伴ってされた抵当権の設定も原因を失うから,無効となるとも思える。しかし,原因となった契約に基づいて金銭が交付された場合には,これが無効となることによって,不当利得返還義務を新たに負うこととなり,結局債務のあることにおいて変わりはない。そして,当該抵当権も,その設定の趣旨からして,経済的には,債権者の有する不当利得返還請求権の担保たる意義を有するとみることができる。そこで,この場合の債務者は,当該債務を弁済せずして,原因となる契約の無効を理由に,当該抵当権の無効を主張することは,信義則(民法1条2項)に照らして許されない。
 これを本件についてみると,非組合員Cは漁協Aから5000万円を借り入れているが,この借入れの原因となる消費貸借契約が無効となっても,5000万円の不当利得返還義務を負うこととなるから,結局漁協Aに対して債務を負うことには変わりない。したがって,非組合員Cが消費貸借契約の無効を理由として抵当権の無効を主張することは,信義則に照らして許されない。
第2.小問2について
 1.前段について
 D銀行はA漁協に対して貸金の返還を請求することはできるか。A漁協とD銀行間の消費貸借契約は,A漁協の代表者であるB理事長がA漁協を代表して締結しているが,A漁協の定款には,金融機関から融資を受けるには,理事会の承認が必要とされているから,これを経ずにしたB理事長の行為の効果がA漁協に及ぶかが問題となる。
 BはA漁協の「代表理事」(法39条の3第1項〔一般法人法77条3項〕)であり,包括的代理権を有している(法39条の3第2項〔一般法人法77条4項〕)。しかし,これについて上記定款による「制限」(法39条の4第2項,会社法349条5項〔一般法人法77条5項〕)がされているから,D銀行は原則としてこの制限に反した行為の効力を会社に対して主張することはできない。しかし,D銀行が「善意の第三者」にあたる場合には,会社に対して対抗することができる。ここに,「善意」とは,理事の代表権に制限が加えられていることを知らないことをいう。したがって,D銀行が,A漁協の定款による制限を知らないときは,D銀行はA漁協に対して貸金の返還を請求することができる。
 2.中段について
 D銀行は,A漁協の「融資を受けるには理事会の承認を要する」旨の定款の内容を知っているから,「善意の第三者」にあたらない。そうすると,D銀行は,A漁協に対して貸金の返還を請求することができないように思える。しかし,D銀行は,B理事長が理事会の承認書を偽造して提示したことから,B理事長がA漁協を適法に代表できると信じ,貸付けを行うことを決めている。そこで,このような場合に,D銀行が保護されないか。
 B理事長は,代表権を有するものの,それに制限が加えられているにすぎず,「権限外の行為をした場合」(民法110条)にはあたらない。しかし,110条の趣旨は,相手方が正当な取引権限を有する外観を信じて取引に入ったことを保護する点にあるから,この趣旨は代表権に制限が加えられていた場合にも妥当する。したがって,代表理事の代表権に制限が加えられている場合に,代表理事がその制限に反して取引行為をした場合に,第三者において代表理事が理事会の承認を受けていると信じ,かつこのように信じることについて正当の理由があるときには,民法110条を類推適用するべきである。
 これを本件についてみると,B理事長は理事会の承認書を偽造して提示しており,D銀行においてこれが偽造であるか否かを判別することは容易ではないことからすると,D銀行はB理事長がA漁協理事会の承認を受けていると信じ,かつ,このように信じることについて正当の理由があるというべきである。したがって,D銀行は,A漁協に対して,貸金の返還を請求することができる。
 3.後段について
 法によって代表理事の代表権が制限されている場合には,はじめから代表理事には代表権がなかったと考えるべきである。そうすると,B理事長の行為の効果はA漁協には帰属せず,D銀行はA漁協に対して貸金の返還を請求することができない。
 そして,110条の類推適用について検討すると,法の不知は許されない以上,「正当の理由」がないといわざるをえない。したがって,D銀行は,A漁協に対し,貸金の返還を請求することができない。
第3.小問3について
 D銀行は,A漁協に対し,不法行為責任としての損害賠償請求(法39条の4第2項,会社法350条〔一般法人法78条〕)をすることができないか。
 A漁協は「水産業協同組合」であり,B理事長は「代表理事」である。ここで「職務を行うについて」とは,行為の外形から観察して,それが理事の職務に属するか,あるいは,職務の執行と適切な牽連関係に立つことをいう。B理事長は,代表理事としてA漁協の行為の包括代理権を有していることから,B理事長がA漁協の代表としてする行為は,その外形からして,理事の職務に属するか,職務の執行と適切な牽連関係に立つものとみることができる。しかし,代表理事の行為が法人に効果帰属しない場合において,それとは別に不法行為責任を認めたときには,実質的に代表理事の行為が法人に効果帰属したのと変わらないことになる。そこで,理事の行為が法人の職務に属さないことを相手方が知っていたか,知らなかったことにつき重過失がある場合には,法人は不法行為責任を負わない。したがって,D銀行が,B理事長の行為がその職務に属さないことを知っていたか,,知らなかったことにつき重過失がある場合には,A漁協は不法行為責任を負わない。この場合,D銀行は,A漁協に対し,不法行為責任としての損害賠償請求をすることができない。
以 上


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||中央特快||高尾||

Author:||中央特快||高尾||
お疲れ様です。

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