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2019-03-31(Sun)

【基礎演習民事訴訟法】問題14「既判力の客観的範囲・一部請求・相殺」

さて,3月も今日で終わりです。

司法試験が来月なのか再来月なのかでは,

心の持ちようが全然違ってきます。

あーーー天皇代わるし恩赦で司法試験合格とかになんねえかなーーー

≪問題≫

 Aは,住宅の建設・販売を業とするBから,「住宅を建設するための建設資材を仕入れたい」という申出を受けたので,交渉の上,代金800万円で資材を納品する売買契約を締結した。ところが,Aが資材を納品し,代金の支払期日が経過してもBは支払をしないことから,争いが生じている。
〔設問〕
1.Aが売買代金800万円の支払を請求する訴訟を提起したところ,Bは,Aが資材の性能に関して虚偽の情報を提供してBを欺いたと主張し,詐欺による取消権を行使した。裁判所はこれを認めてAの訴えを全部棄却した。ところで,Bは,Aが提供した資材では耐震基準を満たせないために別な業者から資材を新たに購入せざるをえなくなったと主張して,この判決の確定後,Aを相手にして右の新たな資材の代金相当額について損害賠償請求の訴えを提起した。この場合,この訴訟でAは,前訴の判決理由で認定された欺罔行為につきその不存在を主張して争うことはできるか。
2.Aが売買代金800万円の支払を請求する訴訟を提起したところ,Bは,第1次的に詐欺による取消しの抗弁を主張し,予備的に,BがAに対して有すると主張する800万円の損害賠償請求権による相殺の抗弁を主張した。この場合における2つの抗弁の審理順序について説明しなさい。また,予備的相殺の抗弁を①全額認めてAの請求を棄却する判決が確定した場合,②400万円の限度で認めてAの請求を一部棄却する判決が確定した場合,③Bの反対債権が不成立と判断してAの請求を認容する判決が確定した場合における既判力の範囲を説明しなさい。
3.Aが,売買代金800万円のうち600万円に限定して支払を請求する訴訟を提起したところ,Bは,詐欺による取消しの抗弁を主張し,裁判所はこれを認めて請求棄却判決を言い渡した。この判決が確定した後に,AがBに対して残代金の支払を求める訴えを提起した場合,裁判所はこの後訴をどのように扱うべきか説明しなさい。また,前訴判決が請求を全部認容する判決であったときはどうか。
4.Aが,売買代金800万円のうち600万円に限定して支払を請求する訴訟を提起したところ,Bは,BがAに対して有すると主張する600万円の損害賠償請求権による相殺の抗弁を主張した。この場合の審理方法を説明しなさい。また,裁判所が,この相殺の抗弁を①400万円の限度で認める場合,②100万円の限度で認める場合のそれぞれについて,判決が確定したときの既判力の範囲を説明しなさい。


一部請求あたりは,民訴の一個山場みたいなところですが,

毎回なんとなく判例っぽいこと書いて,

それっぽいあてはめしてで終わってるんですよね。

それでダメな気もしないので,

あんまり深く考えたことない分野でもあります。

≪答案≫
第1 設問1
 1 AのBに対する売買契約に基づく代金支払請求権として800万円の支払を請求する訴訟(以下「本件前訴①」という。)において,Bの詐欺取消権(民法96条1項)が認められて請求が棄却されている。これに対して,BのAに対する債務不履行に基づく損害賠償請求権として新たな資材の代金相当額の損害賠償請求訴訟(以下「本件後訴①」という。)において,Aは本件前訴①で争ったのと同一の詐欺取消権について,その不存在を主張して再びこれを争おうとしている。そこで,本件後訴①においてAが本件前訴①で判断されたことと矛盾する主張をすることは,本件前訴①の既判力に抵触しないかどうかについて検討する。
 2 既判力とは,前訴確定判決の後訴に対する通用力ないし拘束力をいう。既判力が生じるのは,「主文に包含するもの」に限られるところ(民訴法114条1項),既判力は裁判所の公権的な判断に付与された強制力であるから,広い範囲に効力を及ぼすべきではなく,当事者が意識的に審判対象とした訴訟物についてのみこれを認めれば,当事者間の紛争解決のためには必要十分であるから,「主文に包含するもの」とは訴訟物を指す。また,訴訟物の判断についてのみ既判力が生じるとすることによって,裁判所は,実体法の論理的順序にとらわれずに弾力的で迅速な審理を行うことができる。そうすると,既判力は,判決理由中の判断には生じないというべきである(※1)
 3 これを本件についてみると,Aが本件後訴①において争おうとしている詐欺取消権に係る欺罔行為について,本件前訴①においても詐欺取消権を認める上で当然審理されているものと考えられるが,詐欺取消権自体が訴訟物を構成するものではなく,あくまでBが提出した攻撃防御方法にすぎないのであるから,本件前訴①においては判決理由中の判断としか示されていない。そうすると,本件前訴①においては,詐欺取消権に係る判断について既判力が生じていないから,本件後訴①において,これについての判断が本件前訴①の判断によって拘束される関係にはない。
 したがって,Aは,既判力の観点からは,本件後訴①において詐欺取消権に係る欺罔行為の不存在を争うことに問題はない。
 4 よって,Aは,本件後訴①において,本件前訴①の判決理由で認定された欺罔行為につきその不存在を主張して争うことはできる。
第2 設問2
 1 前段
 本件前訴①において,Bは,弁済の抗弁とともに相殺の抗弁を提出している。これらの抗弁は,ともにBが提出する攻撃防御方法であって,いずれが認められても,本件前訴①に係るAの請求は認められなくなる。そうすると,前記のように,裁判所は,その順序にとらわれずに弾力的に審理判断をすることができるようにも思える。
 もっとも,弁済の抗弁とは異なり,相殺の抗弁については,その対抗した額について既判力が生じる(民訴法114条2項)。相殺の抗弁に既判力が生じるとされるのは,相殺は,訴訟物たる権利とは別個独立の債権の主張わ基礎とするものであり,その実質としては自働債権についての反訴の提起と類似する性質を有しており,これを後訴で改めて争うことができるとすると,実質的に同一債権について紛争の蒸返しを認めることになり,自働債権の債権者に訴訟上の二重の利益を与えることになるから,これを防ぐためである(※2)
 相殺の抗弁のこのような性質に鑑みると,裁判所は,訴求債権が成立していることについて判断した後でなければ,相殺の抗弁について審理判断することは許されない。そうでなければ,仮に訴求債権が成立していないにもかかわらず相殺の抗弁が認められれば,これよって対抗した額について既判力が生じ,本来その後に請求出来たはずの自働債権を訴求することが妨げられることになるからである。
 これを本件についてみると,Bが提出した弁済の抗弁が認められる場合には,Aが訴求する債権は成立しないこととなるから,相殺の抗弁を認めることによって自働債権に既判力を生じさせることはBにとって酷である。一方で,弁済の抗弁については,判決理由中の判断にすぎず,相殺の抗弁のように例外的に既判力が生じる旨の規定がないことから,この点の判断について既判力が生ぜず,再びこの点を別の訴訟において争うことができる。したがって,裁判所は,相殺の抗弁について判断する前に,弁済の抗弁について判断しなければならない。
 2 後段
 相殺の抗弁に関する判断についての既判力は,「対抗した額」について生じる。したがって,その既判力の範囲は,訴求債権との関係で決定されることとなり,訴求債権が成立する範囲で対抗した額に限定される。そして,相殺の抗弁に既判力を認めた前記の理由から,相殺の抗弁に係る自働債権が認められた範囲が対抗した額より小さいとしても,対抗した額の範囲でその不存在について既判力が生じなければ紛争の蒸返しを防ぐことができないから,この場合にも「対抗した額」について既判力が生じる。なお,自働債権が成立していると認められる場合には受働債権との相殺により基準時における不存在が確定され,自働債権が成立していないと認められる場合には同様に基準時における不存在が確定されるから,相殺の抗弁に関する判断についての既判力は,その不存在にしか生じない(※3)
 これを本件についてみると,Aの訴求する債権の額は800万円であるのに対し,Bの相殺に供する自働債権の額は800万円である。そうすると,①裁判所が自働債権の全額を認めた場合には,自働債権の全額が訴求債権に「対抗した額」となり,相殺によって自働債権は基準時において不存在となるから,自働債権の全額の不存在について既判力が生じる。また,③の場合にも,全額が「対抗した額」とされた上で,自働債権が不成立とされその不存在が確定するから,自働債権の全額の不存在について既判力が生じる。また,③自働債権のうち400万円についての成立が認められ,この限度で相殺が認められた場合には,当該400万円は相殺によって消滅し,基準時において不存在となる。一方,残部の400万円については,そもそも不成立とされることから,同様に基準時において不存在となる。したがって,結局,自働債権の全額について不存在であることについて既判力が生じる。
第3 設問3
 1 Aは,800万円の債権のうち600万円に限定して訴求しているが,まずこのように1個の債権の数量的な一部のみを訴訟上請求すること(以下「一部請求」という。)が認められるかどうかについて検討する。訴訟物たる権利ないし法律関係は私法の適用を受けるものである結果,私法の領域で妥当する私的自治の原則が民事訴訟でも妥当するため,民事訴訟においては,訴訟の開始及び終了並びに審判の対象・範囲を当事者が決定すべきである処分権主義が妥当する(※4)。したがって,私法上債権の一部行使は認められるのであるから,訴訟上も一部請求が認められる。
 2⑴ それでは,Aは一部請求として800万円のうちの600万円を請求する訴訟(以下「本件前訴②」という。)の後に,残部である200万円を請求する訴訟(以下「本件後訴②」という。)を提起することができるか。本件前訴②の既判力が本件後訴②に及ぶ関係にある場合には,本件後訴②は認められないこととなるため,本件前訴②に係る判決に生じる既判力の範囲について検討する。
  ⑵ 前記のように,既判力は訴訟物について生じるから,一部請求における訴訟物が何であるかが問題となる。この点,前記のように,処分権主義の観点から,原告が意識的に一部請求をしている場合には,その一部のみが訴訟物になるようにも思われる。また,原告が試験訴訟を求めたり,損害の総額が不明である場合に算定可能な部分について請求するといったことを可能にするため,訴訟物を分断する必要性もある(※5)。これに対して,被告側及び裁判所にとっては,複数回の応訴や審理の負担があるため,訴訟物を分断すべきでないとも考えられる(※6)
 そこで,両者の調整を図るべく,一部請求訴訟において一部である旨の明示がある場合には,債権のうち訴求された一部のみが訴訟物となるが,明示がなかった場合には,債権全体が訴訟物となると考える。この場合には,訴訟物をその一部に限定する原告の意思が表示され,かつ,被告も残部請求の可能性を認識して,必要があれば残部の債務不存在確認の反訴を提起することにより,再度の応訴の負担を免れることができるためである(※7)
 したがって,一部請求訴訟の判決の既判力は,明示がある場合にはその一部のみについて生じ,明示がなければ債権全体について生じる。
 3⑴ これを本件についてみると,Aが一部請求をするに際して,訴求している600万円が800万円の債権の一部であることを明示しているか否かは判然としない。そこで,まずAが一部であることを明示していなかった場合について考えると,この場合には,本件前訴②の訴訟物は,売買契約に基づく代金支払請求権の全体となる。したがって,本件前訴②においてこれの全部を棄却する判決がされたときには,800万円の債権の全体が不存在であることについて既判力が生じるから,Aは本件後訴②において,同債権のうちの200万円を請求したとしても,本件前訴②の確定判決の既判力が作用するため,請求棄却判決が出されることになる。
 また,本件前訴②において訴求債権の全部を認容する判決が出された場合にも,800万円の債権全体についてそれが存在することについて既判力が生じているから,再び本件後訴②で同債権のうちの200万円を請求したとしても,本件前訴②の既判力が作用するため,請求棄却判決がされることになる。
  ⑵ 次に,Aが一部であることを明示していた場合には,本件前訴②における訴訟物は,売買契約に基づく代金支払請求権のうちの600万円部分に限定される。そうすると,本件前訴②においてこれを全部認容する判決が出されたときには,その後本件後訴②において残部の200万円を請求しても,本件前訴②の既判力は作用しないから,本件後訴②において200万円部分について改めて審理を行い,これが認められるのであれば請求認容判決がされ,認められないのであれば請求棄却判決がされる。
 本件前訴②でこれを全部棄却する判決が出されたときには,同様に本件前訴②の判決の既判力は本件後訴②には及ばないから,Aは本件後訴②において残部の200万円を請求できるようにも思われる。しかし,一部請求においてもその審理は債権全体についてされるのであるから,その上で全部認容されなかった場合には,実質的には一部請求の残部についてもそれが不存在であるとの判断がされている。そうすると,本件後訴②において残部200万円を請求することは,実質的には本件前訴②の蒸返しであり,これによって紛争が解決されたとのBの合理的期待に反し,Bに二重の応訴の負担を強いるものである。したがって,一部請求訴訟で敗訴したAが残部請求の訴えを提起することは,特段の事情がない限り,信義則(民訴法2条)に反して許されない(※8)。よって,裁判所は,本件後訴②を,不適法なものとして却下すべきである。
第4 設問4
 1 前段
 一部請求は,特定の金銭債権について,その数量的な一部を少なくともその範囲においては請求権が現存することを前提として請求するものである。したがって,当該債権の総額が減少している場合に,債権の総額からではなく,一部請求の額から減少額を控除することは,一部請求の趣旨に反する。したがって,一部請求において,当該債権の総額が減少している場合には,まず,当該債権の総額を確定し,その額から減少額を控除した残存額を算定した上,原告の請求に係る一部請求の額が残存額の範囲内であるときはそのまま認容し,残存額を超えるときはその残存額の限度でこれを認容すべきである(※9)
 2 後段
 前記のように明示がされた一部請求の場合には,訴求債権の訴訟物がその一部に限定され,また相殺の抗弁により自働債権の存否について既判力が生じるのは,請求の範囲に対して「対抗した額」に限られるから,当該債権の総額から自働債権の額を控除した結果残存額が一部請求の額を超えるときは,一部請求の額を超える範囲の自働債権の存否について既判力は生じない(※10)
 これを本件についてみると,①自働債権が400万円である場合には,訴求債権の全額である800万円からこれを控除すると400万円が残存額となる。そうすると,残存額が一部請求の額である600万円よりも少なくなるから,両者の差額である200万円の限度で自働債権の不存在について既判力が生じる。
 また,②自働債権が100万円である場合には,700万円が残存額となるから,一部請求の額を超えるため,自働債権について既判力は生じない(※11)

以 上


(※1)「判決理由中の判断について既判力が生じないとされるのは,次のような考慮に基づく。まず,判決理由中の判断に既判力を及ぼさないことにより,弾力的で迅速な審理が可能になると考えられる。すなわち,もし判決理由中の判断についても拘束力が生じるものとすれば,どのような理由で請求の当否を決するかが重要な問題となるから,裁判所としては,実体法の論理的な順序に従って審理・判断をすることとならざるを得ない。たとえば,貸金返還請求訴訟において,契約の成立を争うとともに,予備的に消滅時効を主張する場合,契約の成否についてまず審理判断したうえで,契約の成立が認められる場合に限って消滅時効の成否についての審理判断に進まなければならないことになる。これに対して,判決理由中の判断については拘束力は生じないものとすれば,どのような理由で結論を出そうとも,判決効の面では差異が生じないことになるから,消滅時効の成立が明らかであれば,契約の成否について審理するまでもなく,請求を棄却することが可能となるし,当事者としても,特定の攻撃防御方法に過度にこだわることなく,柔軟に争点を絞り込むことが可能になる。また,上訴の局面においても,判決理由中の判断に拘束力を認めるとすれば,結論において勝訴している当事者に対しても,その理由が不利だという点で上訴の利益を認める必要が生じるが,拘束力がないとすれば,そうした上訴による手続の遅延を避けることが可能となるという利点がある。」「加えて,訴訟物は,訴状によって訴訟手続の当初から明確に特定されるべきものであるから,これを既判力の範囲を基準とすることは,当事者にとって明確かつ安定した基準を提供することになり,手続保障の観点からも利点がある。また,訴訟物ため権利義務関係の存否についての争いの蒸返しを防ぐことは,その判決による紛争解決の実効性を確保するために必要不可欠であるが,理由中の判断は,いわば手段的な意味を有するにとどまるのが通常であり,拘束力を認める必要性は,相対的に低いといえる。」三木浩一ほか『LEGAL QUEST民事訴訟法〔第2版〕』434頁
(※2)「たとえば自働債権による相殺の抗弁を排斥して請求認容する判決が確定した後に,被告が自働債権を訴求することを認めると,後訴が認容されたときには,一方で原告が前訴判決で得た地位が実質的に覆滅されるとともに,他方では,被告が,前訴では自働債権を抗弁の基礎として用い,後訴では,訴訟物として用いるという,訴訟上の二重の利益を得ることになる。逆に,前訴において相殺の抗弁にもとづく請求棄却判決が確定した後に,被告が相殺によって消滅したはずの自働債権を訴求することを認めると,やはり原告は,自己の受働債権の犠牲において自働債権の負担を免れた地位を覆滅されることになるし,被告は,前訴で自働債権にもとづく相殺の抗弁を主張し,後訴で同一の債権を訴訟物として訴求するという二重の利益を得ることになる。法が自働債権のうち相殺対抗額部分についての判断に既判力を認めるのは,このような不合理な結果を防ごうとするものである。」「理論的にみると,相殺の抗弁の成否についての判断は,訴訟物たる受働債権の存否を定めるための判決理由中のものにすぎない。したがって,114条2項は,既判力の範囲が判決主文中の判断に限定されるとする,同条1項の原則に対する例外をなす。それにもかかわらず,上記のような実際的考慮にもとづいてこの判断に既判力を認めることは,相殺の抗弁の性格によるところが大きい。二重起訴禁止と相殺との関係にもみられるように,相殺は,訴訟物たる権利とは別個独立の債権の主張を基礎とするものであり,その実質としては,自働債権についての反訴の提起と類似する性質をもっている。したがって,抗弁として提出された場合であっても,その判断に既判力を認めることが,理論的にも不合理とはいえない。」伊藤眞『民事訴訟法〔第4版補訂版〕』525頁
(※3)「114条2項は,相殺のために主張した請求の成立または不成立の判断について既判力が生じるとしているが,立法の経緯に照らしても,また既判力の基準時の性格からいっても,『請求の成立または不成立』の文言は,基準時における請求の存在または不存在と解されるべきである。また,相殺の抗弁についての判断内容としては,自働債権が不存在であるとして,抗弁が排斥されるか,相殺の抗弁を認めて自働債権が消滅するかのいずれかであるが,いずれの場合であっても,基準時には自働債権が不存在であると認められることになる。したがって,請求すなわち自働債権の存在に該当する判断は考えられず,自働債権の不存在についてのみ既判力が生じると解する以外にない。」前掲伊藤526頁
(※4)『処分権主義』とは,①訴訟の開始,②審判の対象・範囲,③判決に依らない訴訟の終了に関する決定を当事者に委ねる考え方をいう。このような考え方が民事訴訟に妥当するのは,訴訟物たる権利ないし法律関係は私法の適用を受けるものである結果,私法の領域で妥当する私的自治の原則は民事訴訟においても妥当すると考えられるからである。なお,①の決定が当事者に委ねられるということは,原告にる訴えの提起がないにもかかわらず,裁判所が職権で訴訟を開始することはできないということを意味するが,このことは,『訴えなければ裁判なし』あるいは『不告不理の原則』と表現される」前掲三木ほか55頁
(※5)「原告が一部請求をする動機には,勝訴の可能性が不明であるため,とりあえず債権の一部について裁判所の判断を求めようとする場合(いわゆる試験訴訟)や,損害の総額が不明であるためにとりあえず算定可能な部分について請求する場合,被告の資力に応じた金額を請求する場合など,さまざまなものがある。これらの背景としては,提訴手数料や弁護士費用が訴額に応じて定められているため,請求額を低く設定した方が,原告にとって費用の面で有利であるとの事情が指摘されることが多い。しかし,現実には,そうした動機は試験訴訟や被告の資力を考慮した一部請求に当てはまるにすぎず,多くの場合には,むしろ立証の困難や,不合理な請求であるとの外観を回避したいといった動機の方が重要な要因となっている。」前掲三木ほか442頁
(※6)「こうした議論においては,実質的には,同一債権を複数回に分けて訴求することについての原告の利益と,同一の債権について複数回の応訴や審理を迫られる被告や裁判所の負担をどのように調整するかが問題となるが,理論構成としては,一部請求訴訟における訴訟物をどのように構成するか,という点が検討の出発点となる。」前掲三木ほか442頁
(※7)「一部請求において一部である旨の明示があった場合には,債権のうち訴求された一部のみが訴訟物となるが,明示がなかった場合には,債権全体が訴訟物となるとする見解である……。その根拠は,明示があれば,訴訟物をその一部に限定する原告の意思が表示されているといえること,また,被告としても,残部請求の可能性を認識して,必要があれば残部の債務不存在確認の反訴を提起するなど,再度の応訴の負担を免れるための対応が可能であることに求められる。」前掲三木ほか444頁
(※8)「一個の金銭債権の数量的一部請求は、当該債権が存在しその額は一定額を下回らないことを主張して右額の限度でこれを請求するものであり、債権の特定の一部を請求するものではないから、このような請求の当否を判断するためには、おのずから債権の全部について審理判断することが必要になる。すなわち、裁判所は、当該債権の全部について当事者の主張する発生、消滅の原因事実の存否を判断し、債権の一部の消滅が認められるときは債権の総額からこれを控除して口頭弁論終結時における債権の現存額を確定し……、現存額が一部請求の額以上であるときは右請求を認容し、現存額が請求額に満たないときは現存額の限度でこれを認容し、債権が全く現存しないときは右請求を棄却するのであって、当事者双方の主張立証の範囲、程度も、通常は債権の全部が請求されている場合と変わるところはない。数量的一部請求を全部又は一部棄却する旨の判決は、このように債権の全部について行われた審理の結果に基づいて、当該債権が全く現存しないか又は一部として請求された額に満たない額しか現存しないとの判断を示すものであって、言い換えれば、後に残部として請求し得る部分が存在しないとの判断を示すものにほかならない。したがって、右判決が確定した後に原告が残部請求の訴えを提起することは、実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり、前訴の確定判決によって当該債権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し、被告に二重の応訴の負担を強いるものというべきである。以上の点に照らすと、金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは特段の事情がない限り、信義則に反して許されないと解するのが相当である。」最判平成10年6月12日民集52巻4号1147頁
(※9)「特定の金銭債権のうちの一部が訴訟上請求されているいわゆる一部請求の事件において、被告から相殺の抗弁が提出されてそれが理由がある場合には、まず、当該債権の総額を確定し、その額から自働債権の額を控除した残存額を算定した上、原告の請求に係る一部請求の額が残存額の範囲内であるときはそのまま認容し、残存額を超えるときはその残存額の限度でこれを認容すべきである。けだし、一部請求は、特定の金銭債権について、その数量的な一部を少なくともその範囲においては請求権が現存するとして請求するものであるので、右債権の総額が何らかの理由で減少している場合に、債権の総額からではなく、一部請求の額から減少額の全額又は債権総額に対する一部請求の額の割合で案分した額を控除して認容額を決することは、一部請求を認める趣旨に反するからである。」最判平成6年11月22日民集48巻7号1355頁
(※10)「一部請求において、確定判決の既判力は、当該債権の訴訟上請求されなかった残部の存否には及ばないとすること判例であり……、相殺の抗弁により自働債権の存否について既判力が生ずるのは、請求の範囲に対して『相殺ヲ以テ対抗シタル額』に限られるから、当該債権の総額から自働債権の額を控除した結果残存額が一部請求の額を超えるときは、一部請求の額を超える範囲の自働債権の存否については既判力を生じない。」前掲最判平成6年11月22日
(※11)これに対して,黙示的一部請求の場合に,相殺の抗弁の自働債権のについての判断に生じる既判力がどの範囲となるかはかなり悩んでいます。訴求債権の訴訟物が800万円全額になることから,自働債権の400万円全額が「対抗した額」になるのか,それとも明示的一部請求の場合と同様に100万円の限度となるのか,はたまたこの場合には債権の全額が口頭弁論終結時までに算定されていないとして,訴求債権600万円からそのまま相殺を認め(つまり内側説っぽくなる。ただし残部が観念されていないので,単純な相殺にすぎない。),400万円が「対抗した額」となるのか,色々考えられると思います。私にはよく分かりませんが,債権全額から400万円を引いて400万円が「対抗した額」となるのかなと思っています。



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