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2019-03-19(Tue)

【事例演習刑事訴訟法】第16講「訴因変更の可否」

さて,ニート初日は,長時間の睡眠をとり,

15時くらいになってようやく布団からでるという,

ニートの鏡のような生活を送りました。

大学に来てからも,研究室で雑談をし,一向に勉強を始めない,

これはもうカリスマ的ニートと言ってよいでしょう。

そんなニート1発目の論文は,古江の第16講から。

≪問題≫

【設 問】
 Yは,交通信号のない交差点を直進するにあたり,左方向から交差点に進入しようとしていたZ運転の車両に気を取られ,交差点入口に設置された横断歩道を右方から左方に横断中の歩行者Vにまったく気付かないまま,時速約60キロメートルで同交差点に進入したため,自車の前部をVの左腰部に衝突させ,Vを約10メートル跳ね飛ばす交通事故を起こしたが,Yは,いったん速度を緩めたものの,停止することなく,そのまま逃走した。
 Vは,Zの119番通報により現場に到着した救急車により直ちに近隣の病院に搬送されたが,同病院において,内臓破裂により死亡した。
 警察においてひき逃げ死亡事故として捜査していたところ,事故の翌日になって,Yの弟であるXが犯人として自首してきたため,Xを通常逮捕した。Xはその後勾留され,検察官は,Xを過失運転致死罪および道路交通法違反罪(ひき逃げ)により公訴提起した。
 Xは,第1公判期日における罪状認否において,公訴事実をすべて認め,弁護人も争わない旨陳述した。ところが,第1回公判期日終了後,Yが,警察署に,真犯人は自分である旨名乗り出たため,警察において所要の捜査を尽くしたところ,自動車を運転していたのは,XではなくYであり,XがYの身代わりになって自首したことが判明した。
 そこで,検察官は,裁判所に対して,Yを過失運転致死罪および道路交通法違反罪(ひき逃げ)により公訴提起した。
 さらに,検察官は,Xの第2回公判期日において,Xについて,道路交通法違反罪の公訴を取り消すとともに,裁判所に対して,過失運転致死罪の訴因を犯人隠避罪の訴因へ変更する許可を請求した。
 裁判所は,これを許可すべきか。


訴因変更の可否っていうところですね。

1個の犯罪は1回しか処罰しちゃだめだよ,

という基本的な方針さえ忘れなければ,

大きく外れた答案を書くことにはならないのだろうと思います。

採用する見解にもよるのでしょうが,

総合考慮の際に,事実をなるべく落とさないように心がけたいです。

≪答案≫
1 検察官は,裁判所に対して,過失運転致死罪の訴因(以下「本件変更前訴因」という。)を犯人隠避罪の訴因(以下「本件変更後訴因」という。)へ変更する許可を請求している。訴因の変更は,「公訴事実の同一性を害しない限度において」することができる(刑訴法312条1項)から,裁判所は,検察官の前記請求を許可するか否かを判断するについては,本件変更前訴因と本件変更後訴因とが「公訴事実の同一性を害しない限度」にあるか否かを検討する必要がある。そこで,この点について検討する。
2 「公訴事実の同一性を害しない限度」とはいかなる場合をいうかについて検討する。
 刑訴法312条1項が「公訴事実の同一性を害しない限度において」訴因変更を可能としたのは,二重起訴の禁止(同法338条3号,339条1項5号)や一事不再理効による再訴禁止(同法337条1号)と併せて,刑事手続による刑罰権の具体的実現に際して,二つ以上の有罪判決が併存し二重処罰の実質が生じるのを回避するためである(※1)。そこで,「公訴事実の同一性を害しない限度」とは,実体法上刑罰権が一個しか生じない範囲(※2),すなわち,両訴因に記載されている罪となるべき事実が実体法上一罪と扱われる関係にある場合(※3),又は,両訴因の基本的事実が社会通念上同一である場合である(※4)(※5)
3 これを本件についてみると,本件変更前訴因の過失運転致死罪と本件変更後訴因の犯人隠避罪とは,併合罪(刑法45条)の関係にあり,両訴因に記載されている罪となるべき事実が実体法上一罪と扱われる関係にはない。
 また,犯罪の日時は,本件変更後の訴因に係る犯罪は本件変更前訴因に係る犯罪の翌日にされて,その場所も,事故現場と警察署で異なっている。犯罪の方法については,本件変更前訴因では自動車を前方不注意のまま運転してというものであり,本件変更後訴因では真実は本件変更前訴因に係る犯罪を犯していないのにこれを犯したものとして身代わりに出頭し真犯人を隠避するというものであるから,全く異なるものである。被害法益も,本件変更前訴因に係る犯罪では人の生命・身体であるのに対し,本件変更後訴因に係る犯罪では国家の刑罰権の適正な行使であって,この点でも両者は異にするものである。被害者も,本件変更前訴因では歩行者Vであるところ,本件変更後訴因では刑事司法作用を行使する警察であるから,両者に共通性見いだすことはできない。以上からすると,本件変更前訴因と本件変更後訴因とでは,基本的事実が社会通念上同一であるということはできない。
 したがって,本件変更前訴因と本件変更後訴因とは,「公訴事実の同一性を害しない限度」にあるということはできない。
4 よって,裁判所は,検察官の請求する訴因の変更を許可すべきではない。

以 上


(※1)「法が訴因変更に限界を設定している趣旨・目的は,刑事手続による刑罰権(実体法)の具体的実現に際して,別訴で二つ以上の有罪判決が併存し二重処罰の実質が生じるのを回避することにある。『公訴事実の同一性』とは,このような目的のための道具概念として理解することができる。」酒巻匡『刑事訴訟法』298頁
(※2)「刑事手続の目的は,刑罰法令に該当する『罪となるべき事実』に対して,刑罰権を具体的に実現することにある(法1条)。仮に一つの刑罰権の対象となるはずの事実について,別訴が併存し二つ以上の有罪判決が重複して生じる可能性があれば,二重処罰のおそれがあり不都合である。一つの刑罰権については一つの有罪判決が対応してこれを1回だけ具体的に実現すべきであり,実質的な二重処罰状態の発生を防ぐためには,そのような可能性を生じる訴因を別訴で主張すること自体を許さないとすることが,合理的な方策である。そのためには,併存すれば二重処罰の実質を持つような両立し得ない関係にある訴因間においては別訴を許さず,当該訴訟手続において訴因の変更により処理することが要請される。」「すなわち,1回の刑事手続により一度だけ処罰すれば足りるという意味で両立し得ない関係にある訴因の間では訴因の変更を認め,当該訴訟手続内で訴追意思の実現をはからなければならない。他方,複数の有罪判決が併存しても二重処罰にならない関係にある事実に対する刑罰権の実現は,別訴に拠らなければならない。こうすることにより,手続の安定と実体法の具体的適用実現という刑事手続の目的が,適切に遂行できる。」前掲酒巻298頁
(※3)「『公訴事実の同一性』とは,訴因と訴因とが1回の刑事手続内でにおいてどちらか一方で一度だけ処罰すれば足りる両立し得ない関係にあり,別訴に拠り2つ以上の有罪判決が併存すれば二重処罰の実質を生じるような場合の訴因間の関係を意味するとかいすべきである。これには二つの類型がある。」「その第一は,両訴因間に記載されている罪となるべき事実が実体法上一罪(単純一罪のほか,包括一罪,科刑上一罪等を含む)と扱われる関係にある場合である。」前掲酒巻299頁
(※4)「判例は,一貫して,公訴事実が同一であるか否かは社会的事実の重なり合いによって判断されるとする基本的事実同一説を採用している。既判力の及ぶ範囲と防御の範囲を中心とした利益の調整の上に立って,1回の裁判で裁き得る範囲を実質的に判断する以上,事実の共通性(日時,場所,行為,結果等の共通性・近似性等)によって具体的に判断せざるを得ないからである。」池田修=前田雅英『刑事訴訟法講義〔第4版〕』307頁
(※5)「別訴で同時に有罪とした場合に二重処罰の実質が生じるのを回避するという制度趣旨から,1回の手続でどこまで片付くことにすべきか,罪となるべき事実の各構成要素,すなわち犯罪主体としての被告人のほか,犯罪の日時,犯罪の場所,犯罪の方法ないし行為の態様,被害法益の内容,その主体としての被害者,共犯関係などの一致,類似,近接,包含等の関係を総合的に評価し,検察官と被告人との間の対立利益を比較考量して決定される価値的な判断というほかはない(「総合評価説」)。」前掲酒巻300頁


【事例演習刑事訴訟法の他の問題・答案は下記のリンクから】
・ 第1講(任意捜査と強制捜査)
・ 第2講(職務質問・所持品検査)
・ 第3講(任意取調べの限界)
・ 第4講(身柄拘束の諸問題⑴-現行犯逮捕の適法性,違法逮捕後の勾留,違法逮捕と再逮捕の可否)
・ 第5講(身柄拘束の諸問題⑵-重複逮捕・勾留,同時処理による例外)
・ 第6講(身柄拘束の諸問題⑶-別件逮捕・勾留)
・ 第7講(令状による捜索・差押え⑴-捜索すべき場所の特定性,差押え目的物の特定性)
・ 第8講(令状による捜索・差押え⑵-場所に対する令状による身体に対する捜索の可否,「必要な処分」としての原状回復,電磁的記録の内容を確認せずにする差押えの可否)
・ 第9講(逮捕に伴う無令状捜索・差押え⑴-逮捕の現場,差押えの関連性)
・ 第10講(逮捕に伴う無令状捜索・差押え⑵-逮捕現場の第三者に対する捜索の可否,最寄りの場所における被逮捕者の捜索・差押えの可否)
・ 第11講(おとり捜査)
・ 第12講(接見交通)
・ 第13講(一罪の一部起訴)
・ 第14講(訴因の特定)
・ 第15講(訴因変更の要否,縮小認定)
・ 第16講(訴因変更の可否)
・ 第17講(科学的証拠)
・ 第18講(法律上の推定)
・ 第19講(類似事実証拠排除法則)
・ 第20講(自白の証拠能力⑴-約束による自白)
・ 第21講(自白の証拠能力⑵-派生証拠,反復自白)
・ 第22講(補強法則)
・ 第23講(伝聞法則⑴-総論)
・ 第24講(伝聞証拠⑵-領収書の証拠能力,犯行メモの証拠能力)
・ 第25講(伝聞証拠⑶-手続的公正を欠く場合)
・ 第26講(伝聞証拠⑷-再伝聞)
・ 第27講(伝聞法則⑸-弾劾証拠)
・ 第28講(違法収集証拠排除法則⑴-総論)
・ 第29講(違法収集証拠排除法則⑵-外国捜査機関の違法収集証拠)
・ 第30講(違法収集証拠排除法則⑶-違法性の承継,毒樹の果実)
・ 第31講(択一的認定)
・ 第32講(一事不再理効)
・ 第33講(攻防対象論-上訴審における職権調査の限界)
◎その他の答案リンク集はこちら→
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