【事例研究行政法】第2部問題10
つらいですね。
今日はとにかく早く寝ることを心がけたいと思います。
その前に第2部問題10です。
≪問題≫
次の文章を読んで,資料を参照しながら,以下の設問に答えなさい。
四肢機能に障害を有するAは,甲県乙市の私立幼稚園に通っていた5歳の時に甲県から身体障害者手帳の交付を受けた。その後,小学校入学に際してはAの保護者Bが特別支援学校ではなく小学校へのAの入学を強く希望したことから,乙市教育委員会は乙市立S小学校の入学期日を通知し,AはS小学校に入学した。S小学校ではAの入学に際して3階建ての校舎にスロープや多目的トイレ等が設置されたほか,乙市の予算て介助員2名が雇用され,登下校や構内移動の際に車椅子を利用するAの介助にあたっていた。
A,BはS小学校卒業にあたり,乙市教育委員会から卒業後の進路について意見を聴かれ,乙市の唯一の市立中学校であるT中学校への入学を希望する旨を伝えたが,乙市教育委員会からは,T中学校の校舎は4階建てで階段が多くエレベーターやスロープも設置されておらず,また,1年生の教室は4階になるが障害者用トイレは1階にしかないなどの事情から,A本人もしくは介助員の安全を確保することが難しいとの説明がなされた。
小学校卒業が近づき,Aの同級生の保護者らには乙市教育委員会からT中学校の入学期日が通知されたが,Bには何ら通知がされず,しばらく経って,甲県教育委員会からBに対して肢体障害のある者等を対象とする県立U特別支援学校への就学通知書が送付され,同校の入学期日が通知された。A,BはU特別支援学校への入学には納得がいかず,Aが4月から同級生らとともにT中学校に通うことを強く希望している。
〔設問〕
1.Aが4月からT中学校に通うために,A,Bはどのような法的手段を利用すべきか。法的手段の相手方,利用が認められるための要件を含めて説明しなさい。
2.AのT中学校入学が認められるためにはどのような主張が考えられるか,A,Bの立場に立ったうえで説明しなさい。
【資料】略
まず,法律の仕組みを読み解く段階ですげえハードです。
司法試験でもこんなに難しいのは出ないんじゃないですか?
知らんけど。
≪答案≫
第1 設問1
1 Xは,乙市教育委員会の認定特別支援学校就学者の認定(以下「本件認定」という。),甲県教育委員会の特別支援学校入学の通知(以下「本件特別支援学校入学通知」という。)及び乙市教育委員会の中学校入学の通知(以下「本件中学校入学通知」という。)が,それぞれ抗告訴訟の対象となる「処分」に該当するとの主張を行う。その上で,本件認定及び本件特別支援学校入学通知についてはそれらの取消訴訟(行訴法3条2項)を,本件中学校入学通知についてはその義務付け訴訟(同法3条6項1号)を,それぞれ提起することが考えられる。
2⑴ まず本件認定の取消訴訟の訴訟要件について検討する。
ア 「処分」とは,公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。
本件認定は,乙市教育委員会が,学校教育法施行令(以下「施行令」という。)5条1項に基づいて,その優越的地位に立って一方的に行うものであるから,公権力の主体たる公共団体が行う行為であって,法律上認められているものである。
本件認定は,乙市教育委員会がAに対して本件特別支援学校入学通知をするか本件中学校入学通知をするかの選択のため,Aが認定特別支援学校就学者であることの認定を内部的に行うものであって,これ自体が外部に表示されるわけではないから,国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定するものではないようにも思える。しかし,Aが進学すべき学校が公立中学校か特別支援学校かを実質的に決定しているのは本件認定にほかならないうえ,その決定にあたっては保護者の意見を聴くことが要求されるなど(施行令18条の2),事前手続が定められている。そうすると,本件認定は,乙市教育委員会の内部的行為にとどまるものではなく,直接子ども及び保護者に向けられた行為であるということができる。したがって,本件認定は,Aが進学先を自由に決定することができなくなる点において,直接国民の権利義務の範囲を確定するものである。
以上から,本件認定は,取消訴訟の対象となる「処分」にあたる。
イ Aは,本件認定の名あて人であるから,「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)にあたり,原告適格を有する。
ウ 本件認定は,乙市に属する乙市教育委員会が行ったものであるから,乙市が被告となる(同法11条1項1号)。
エ 出訴期間は徒過していないものと考えられる。
オ よって,本件認定の取消訴訟は,その訴訟要件を満たし,適法にこれを提起することができる。
⑵ 次に,本件特別支援学校入学通知の取消訴訟の訴訟要件について検討する。
ア 学校教育法(以下「法」という。)138条は,同法17条1項又は2項の義務の履行に関する処分で,同条3項の政令で定めるものについて,行手法の「不利益処分」に係る規定を適用しないものとしている。当該政令として,施行令22条の2は,施行令5条1項並びに14条1項の規定による処分を掲げており,本件特別支援学校入学通知は施行令14条1項に掲げる処分に該当する。そうすると,法及び施行令は,本件特別支援学校入学通知が行手法上の「不利益処分」であることを前提とするものであると認められる。
したがって,本件特別支援学校入学通知は,当然に,取消訴訟の対象となる「処分」にあたる。
イ Aは,本件特別支援学校入学通知の名あて人であるから,「法律上の利益を有する者」として原告適格を有する。
ウ 本件特別支援学校入学通知は,甲県に属する甲県教育委員会が行ったものであるから,甲県が被告となる。
エ 出訴期間は徒過していないものと考えられる。
オ よって,本件特別支援学校入学通知の取消訴訟は,その訴訟要件を満たし,適法にこれを提起することができる。
⑶ さらに,本件中学校入学通知の義務付け訴訟の訴訟要件について検討する。
ア 前記の法及び施行令の仕組みからすると,施行令22条の2がいう施行令5条1項の処分とは,本件認定ではなく,本件中学校入学通知を指すものと解釈することができる。したがって,法及び施行令は,本件中学校入学通知が,行手法上の「不利益処分」であることを前提とするものであると認められる。
したがって,本件中学校入学通知は,当然に,取消訴訟の対象となる「処分」にあたる。
また,本件中学校入学通知は,根拠法条が特定され,裁判所において判断可能な程度に特定されているから,「一定の処分」(行訴法3条6項1号)であるということができる。
イ 本件中学校入学通知は,乙市内の「就学予定者」に該当するか等の判断を経た上で,就学先の学校入学の期日を通知するのであるから,入学希望者が就学希望先の中学校に対して「申請」等をするものではなく,「次号に掲げる場合」(同号かっこ書)にはあたらない。
ウ 「重大な損害を生ずるおそれ」の有無について検討すると,Aが本件中学校入学通知がされないことにより被る損害は,学校教育を受ける権利という憲法上の権利であるところ(憲法26条1項),教育はその者の発達に応じて適切な時期に行われるべきものであり,時機を逸した場合に損なわれた権利を償うことは困難である。法は,中学校と特別支援学校としで異なる教育が行われることを予定しており,本件中学校入学通知がされないことにより自らに適した教育が行われないとすれば,Aはその権利を償うことが困難となるから,「損害の回復の困難の程度」は高いというべきであり,「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められる。
エ また,本件中学校入学通知がされるか否かにかかわらず,T中学校の授業は4月の学期初めから始まるのであり,本件中学校入学通知によってT中学校へ通うことが認められない限りは,その間の授業を受けることができなくなるのであるから,これを義務付けることしか「適当な方法がない」というべきである。
オ Aは,本件中学校入学通知の名あて人となるべき者であるから,「法律上の利益を有する者」にあたり,原告適格を有する(行訴法37条の2第3項)。
カ 本件中学校入学通知は,乙市に属する乙市教育委員会が行うものとされているから,乙市が被告となる(同法38条1項,11条1項1号)。
キ よって,本件中学校入学通知の義務付け訴訟は,その訴訟要件を満たし,適法にこれを提起することができる。
3 続いて,仮の救済について検討すると,Aとしては,4月から始まるT中学校での授業に出席することができなければ意味がないから,本件中学校入学通知の仮の義務付け(行訴法37条の5第1項)の申立てをする。
⑴ Aは,前記のように,本件中学校入学通知の義務付け訴訟を提起することができるから,「義務付けの訴えの提起があった場合」にあたる。
⑵ 前記のように,学校教育では,入学が認められなければ教育を受ける貴重な機会が毎日奪われることとなるから,「償うことのできない損害」が生じるものと認められる。
⑶ 入学時期が間近に迫っていることからすると,「緊急の必要」があると認められる。
⑷ 後記のように,「本案について理由があるとみえるとき」にもあたる。
⑸ よって,本件中学校入学通知の仮の義務付けは,その申立要件を満たし,これを適法に申し立てることができる。
第2 設問2
1 A及びBは,本件認定は,乙市教育委員会の裁量権の範囲を逸脱・濫用したものであり違法であるとの主張を行う。
2⑴ 認定特別支援学校就学者の認定は,施行令5条1項に掲げる事由を踏まえた上で,諸般の事情を総合的に考慮した上で,政策的,技術的な見地から判断することが不可欠であるといわざるを得ない。そうすると,このような判断は,これを決定する行政庁の裁量にゆだねられている。
⑵ もっとも,裁量権の行使であっても,その基礎とされた事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合には,裁量権の範囲を逸脱・濫用したものとして違法となる(行訴法30条参照)。
障害者基本法は,障害を理由とした差別を禁止し(4条1項),社会的障壁の除去は,それを必要としている障害者が現に存し,かつ,その実施に伴う負担が過重でないときは,その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならないとし(同条2項),そのうえで,教育につき可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮することを国及び地方公共団体に求め(16条1項),児童及び生徒,その保護者の意向を可能な限り尊重すべきこと,人材の確保や施設の整備などの環境の整備に努めることを求めている(同条2項以下)。加えて,障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律7条及び高齢者,障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律16条においても同趣旨の定めがされている。
そうすると,施行令の定めは,以上の法律の定めを踏まえて解釈されなければならないのであり,児童及び生徒,その保護者が小学校若しくは中学校への就学を希望する場合には,そのための人材の確保,施設の整備等の環境の整備に伴う負担が過重でない限り,教育委員会は小学校若しくは中学校への就学を認めなければならないとの解釈がされるべきである。したがって,
これを本件についてみると,A及びBは,甲県立U特別支援学校への就学ではなく,T中学校への就学を希望している。そこで,乙市としては,そのための負担が過重でない限りAのT中学校への就学を認めなければならない。この点,乙市教育委員会は,Aが4階建ての後者を移動するのには,介助員を同伴させても危険であることを指摘するが,このような危険は1年生の教室を1階に移動させれば解消されるのであり,教室の移動自体は,学期替わりの際に,人数調整のための机や椅子の移動を行うだけで完了するのであるから,特段乙市の負担となるものではない。また,介助員を同伴させることについては,地方財政措置がとられているため,財政面でも乙市の負担となるものではない。さらに,Aは,同様の措置を小学校においてもとられていた間,特段の支障を生じていなかったのであるから,別途乙市にとって負担となるべき事情は存しないというべきである。したがって,乙市教育委員会にとって過重の負担をかけるものではないから,乙市教育委員会は,A及びBをT中学校に就学させることを認めなければならない。それにもかかわらず,乙市教育委員会は,これらの事情を考慮することなく,Aを認認定特別支援学校就学生に認定しているのであるから,その基礎とされた事実に対する評価が明らかに合理性を欠き,また判断過程において考慮すべきことを考慮していないといえ,その内容が社会通念に照らし著しく合理性を欠くというべきである。
3 したがって,本件認定は,乙市教育委員会が,その裁量権の範囲を逸脱・濫用して行ったものであるから,違法である。以 上
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第1部
問題1/問題2/問題3/問題4/問題5/問題6/問題7/問題8
第2部
問題1/問題2/問題3/問題4/問題5/問題6/問題7/問題8/問題9/問題10/
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