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2018-07-03(Tue)

【事例で学ぶ民法演習】問題3-法人-


≪問題≫
A漁業協同組合(以下,「A漁協」と略すことがある。)は,A町で漁業権を持つ者を構成員(組合員)とする,公益法人の認定を受けていない非営利法人である。A漁協の定款では,A漁業協同組合の目的は,A町の漁業の振興,および,組合員間の相互扶助だとされている。理事長には,かつての網元の子孫であるBが就任している。定款には,A漁協は組合員の住居建設・漁業経営のための資金の貸付けを行うという規定がある。さらに,A漁協の代表権は理事長だけが持つが,金融機関などから融資を受けるには,理事会の承認を要するという規定もあった。以上を前提に,次の小問に答えよ。なお,各小問は独立した問いである。

小問1 B理事長はA漁協を代表して,非組合員Cに弁済期3年後,年利10%で3000万円を融資し,C所有の甲土地に抵当権を設定した。しかし,3年が経過した後も,Cは債務を弁済しない。そこで,Aが抵当権を実行しようとすると,Cは「A漁協の自分への消費貸借は定款に違反しているから無効であり,したがって,抵当権の実行もできない」と抗弁している。このCの主張は認められるか。

小問2 理事長は理事会の承認なしに,A漁協を代表して,D銀行から弁済期3年後,年利10%でA漁協がA港に建築する予定の冷凍倉庫の建築費用5000万円の融資を受けた。3年後に,D銀行はA漁協に対して貸金の返還を請求できるか。
 もしD銀行がA漁協の「融資を受けるには理事会の承認を要する」旨の定款の内容は知っていたが,B理事長が理事会の承認書を偽造してD銀行に提示したため,Bが適法にAを代表できるとDが信じていた場合はどうか。
 また,融資を受けることに関する理事の代表権の制限が,A漁協の定款によるものではなく,仮に,水産業協同組合法に「理事長は組合を代表して第三者から融資を受けることはできない」という規定があったときはどうか。

小問3 小問2で,B理事長がA漁協を代表してD銀行と締結した消費貸借契約が,A漁協に効果帰属せず,しかも,D銀行から借り受けた5000万円をB理事長が,A町の町長選挙に立候補し,A町への原子力発電所の誘致を選挙公約にした友人Eの選挙運動に使用していたときは,D銀行はA漁協に対して何か請求することができるか。



≪答案≫
第1.小問1について
 1.非営利法人であるA漁協が非組合員Cに対して3000万円を融資したことは,A漁協の「目的の範囲内」(民法34条)であるといえるか。
 営利法人が営利を目的とすることから,法人の利益となる可能性があるものについては広く「目的の範囲内」とされるのに対し,非営利法人は営利を目的とする活動が認められていないことから,「目的の範囲内」か否かは,法令や定款に照らして厳格に判断すべきである。
 これを本件についてみると,A漁協のような水産業協同組合は,「その行う事業によってその組合員又は会員のために直接の奉仕をすることを目的とする」ものであり(水産業協同組合法4条),組合員に出資させる出資組合は「組合員の事業又は生活に必要な資金の貸付け」ができることとされている(法11条1項3号,2項)。そうすると,法は,組合員でない者に対して資金の貸付けを行うことは想定していないというべきである。また,法のこれらの規定を受けて,A漁協の定款では,その目的はA町の漁業の振興,および,組合員の相互扶助であるとし,組合員の住宅資金・漁業資金の貸付けを行うと定めている。そうすると,A漁協定款も,組合員でない者に対して資金を融資することは想定していないというべきである。これらの規定に照らすと,A漁協の目的には,組合員でない者に対する資金の融通は含まれない。したがって,A漁協が非組合員Cに対して3000万円を融資したことは,A漁協の「目的の範囲内」に含まれない。
 2.「目的の範囲内」ではない行為の効力はどうなるか。
 民法34条の文言からすると,「目的の範囲」は,法人の権利能力の範囲を画するものであると考えられる。したがって,「目的の範囲内」ではない行為は,法人に効果帰属しない。
 これを本件についてみると,上記のように,A漁協が非組合員Cに対して融資をすることは,目的の範囲内ではないから,無効となる。
 3.A漁協の非組合員Cに対する融資が無効であるとして,これに伴ってされた抵当権の設定も無効となるか。
 たしかに,原因となる契約が無効となれば,それに伴ってされた抵当権の設定も原因を失うから,無効となるとも思える。しかし,原因となった契約に基づいて金銭が交付された場合には,これが無効となることによって,不当利得返還義務を新たに負うこととなり,結局債務のあることにおいて変わりはない。そして,当該抵当権も,その設定の趣旨からして,経済的には,債権者の有する不当利得返還請求権の担保たる意義を有するとみることができる。そこで,この場合の債務者は,当該債務を弁済せずして,原因となる契約の無効を理由に,当該抵当権の無効を主張することは,信義則(民法1条2項)に照らして許されない。
 これを本件についてみると,非組合員Cは漁協Aから5000万円を借り入れているが,この借入れの原因となる消費貸借契約が無効となっても,5000万円の不当利得返還義務を負うこととなるから,結局漁協Aに対して債務を負うことには変わりない。したがって,非組合員Cが消費貸借契約の無効を理由として抵当権の無効を主張することは,信義則に照らして許されない。
第2.小問2について
 1.前段について
 D銀行はA漁協に対して貸金の返還を請求することはできるか。A漁協とD銀行間の消費貸借契約は,A漁協の代表者であるB理事長がA漁協を代表して締結しているが,A漁協の定款には,金融機関から融資を受けるには,理事会の承認が必要とされているから,これを経ずにしたB理事長の行為の効果がA漁協に及ぶかが問題となる。
 BはA漁協の「代表理事」(法39条の3第1項〔一般法人法77条3項〕)であり,包括的代理権を有している(法39条の3第2項〔一般法人法77条4項〕)。しかし,これについて上記定款による「制限」(法39条の4第2項,会社法349条5項〔一般法人法77条5項〕)がされているから,D銀行は原則としてこの制限に反した行為の効力を会社に対して主張することはできない。しかし,D銀行が「善意の第三者」にあたる場合には,会社に対して対抗することができる。ここに,「善意」とは,理事の代表権に制限が加えられていることを知らないことをいう。したがって,D銀行が,A漁協の定款による制限を知らないときは,D銀行はA漁協に対して貸金の返還を請求することができる。
 2.中段について
 D銀行は,A漁協の「融資を受けるには理事会の承認を要する」旨の定款の内容を知っているから,「善意の第三者」にあたらない。そうすると,D銀行は,A漁協に対して貸金の返還を請求することができないように思える。しかし,D銀行は,B理事長が理事会の承認書を偽造して提示したことから,B理事長がA漁協を適法に代表できると信じ,貸付けを行うことを決めている。そこで,このような場合に,D銀行が保護されないか。
 B理事長は,代表権を有するものの,それに制限が加えられているにすぎず,「権限外の行為をした場合」(民法110条)にはあたらない。しかし,110条の趣旨は,相手方が正当な取引権限を有する外観を信じて取引に入ったことを保護する点にあるから,この趣旨は代表権に制限が加えられていた場合にも妥当する。したがって,代表理事の代表権に制限が加えられている場合に,代表理事がその制限に反して取引行為をした場合に,第三者において代表理事が理事会の承認を受けていると信じ,かつこのように信じることについて正当の理由があるときには,民法110条を類推適用するべきである。
 これを本件についてみると,B理事長は理事会の承認書を偽造して提示しており,D銀行においてこれが偽造であるか否かを判別することは容易ではないことからすると,D銀行はB理事長がA漁協理事会の承認を受けていると信じ,かつ,このように信じることについて正当の理由があるというべきである。したがって,D銀行は,A漁協に対して,貸金の返還を請求することができる。
 3.後段について
 法によって代表理事の代表権が制限されている場合には,はじめから代表理事には代表権がなかったと考えるべきである。そうすると,B理事長の行為の効果はA漁協には帰属せず,D銀行はA漁協に対して貸金の返還を請求することができない。
 そして,110条の類推適用について検討すると,法の不知は許されない以上,「正当の理由」がないといわざるをえない。したがって,D銀行は,A漁協に対し,貸金の返還を請求することができない。
第3.小問3について
 D銀行は,A漁協に対し,不法行為責任としての損害賠償請求(法39条の4第2項,会社法350条〔一般法人法78条〕)をすることができないか。
 A漁協は「水産業協同組合」であり,B理事長は「代表理事」である。ここで「職務を行うについて」とは,行為の外形から観察して,それが理事の職務に属するか,あるいは,職務の執行と適切な牽連関係に立つことをいう。B理事長は,代表理事としてA漁協の行為の包括代理権を有していることから,B理事長がA漁協の代表としてする行為は,その外形からして,理事の職務に属するか,職務の執行と適切な牽連関係に立つものとみることができる。しかし,代表理事の行為が法人に効果帰属しない場合において,それとは別に不法行為責任を認めたときには,実質的に代表理事の行為が法人に効果帰属したのと変わらないことになる。そこで,理事の行為が法人の職務に属さないことを相手方が知っていたか,知らなかったことにつき重過失がある場合には,法人は不法行為責任を負わない。したがって,D銀行が,B理事長の行為がその職務に属さないことを知っていたか,,知らなかったことにつき重過失がある場合には,A漁協は不法行為責任を負わない。この場合,D銀行は,A漁協に対し,不法行為責任としての損害賠償請求をすることができない。
以 上


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