2018-07-02(Mon)

【事例研究刑事法Ⅱ】第3部問題5

刑訴ぉ……

≪問題≫
 甲は,勤務していた会社(以下「A社」という)の上司V1から10年問にわたり執拗なパワーハラスメントを受け続けた挙句,同社から退職勧告を受け,やむなく雀の涙ほどの退職金を受領して自ら退職した。甲は,退職後1年以上を経過し,再就職口もなかなか決まらずに焦燥感を募らせていた平成26年11月15日,A社に同期で入社していたB(人事部に所属していた)に街中で遭遇し,2人で昼食を摂っていたところ,Bから「お前の退職勧告はおかしい」「V1が明らかに不当な査定をして,それを人事側上層部が鵜呑みにした結果お前は切られた」などと聞かされた。
 そこで甲は,その事実を確認するべく同日午後10時ころV1宅に赴き,呼び鈴を押したところ,V1がインターホンで応じたため,「1年前の退職勧告の件で話があるので出てきてほしい」と言った。ところが,V1が「何を今頃言っているんだ。お前と話すことは何もない。もう来るな。来たら警察を呼ぶ」 などと言って全く応じる様子がなかったため,甲は憤慨し,家の中に入って事実を確認した上で,事と次第によっては少しV1を痛めつけてやろうと考え,門扉を開けてV1宅の敷地内に侵入して裏庭に回り,その場に落ちていた石を用いて裏庭に面した部屋の窓のクレセント錠付近のガラスを割り,手を差し込んで錠を回して内部に侵入し,窓ガラスが割れる音を開いて当該部屋(リビングルーム)に駆け込んできたV1およびその妻V2に対し,甲の退職勧告までの経緯について確認した。すると,当初は驚いてひるむ様子を見せていたV1が次第に落ち着きを取り戻し,最終的にはへラヘラと笑いながら「お前のことは入社当初から気に入らなかったんだ」,「仕事もろくにできないくせに給料をもらおうなんて都合がよすぎる」,「そんなものは泥棒と大して変わらない」などと言い,さらに,V2もそんな夫をいさめるどころか「V1の言うとおりよ。甘ったれるのもいい加減にしなさい。あんたなんかが勤めるところはどこにもないわ」などと言うにいたった。
 そこで,甲は,平成26年11月15日午後11時ころV1宅内において,日頃から護身用に持ち歩いていた携帯用小型ナイフで,V1およびV2の大腿部や背部を突き刺し,失血多量等によりその場で両名を死亡せしめたとの2つの傷害致死の事実(以下V1に対する傷害致死の事実について「V1事実」,V2に対する傷害致死の事実について「V2事実」という)で同年12月20日に起訴された(「前訴」という。なお,検察官は,手持ちの証拠に照らし,V1宅への侵入行為があることも明らかであるものの,犯罪に見合った処罰の確保の観点からすれぱ,2件の傷害致死のみで起訴するのが相当であると判断した)。
 甲側は,平成27年4月に開催された第1回公判期日において,「本件各事実は,同一の住居侵入行為たるV1宅への侵入行為を手段として犯されたものであり,V1事実も,V2事実も,住居侵入を含めて起訴されれぱ一罪として処断されるべき犯罪行為の一部を構成するものであるから,こうした形での公訴の提起は,検察官の訴追裁量権の逸脱に当たる。本件公訴はいずれも棄却されなけれぱならない」と主張した上で,証拠調べの段階においても,「住居侵入の事実の存在等」を立証するためのものであることを明示して,関係証人,証拠物,証拠書面の取調べを請求した。
 受訴裁判所は,これらの証拠調べ請求をいずれも却下したが,関係証人の証言や,被告人質問の内容において住居侵入の事実の存在が明らかであったことから,その存在およびそれと本件公訴にかかる各事実との関係について付随的に心証を形成した上で,有期懲役刑を選択し,併合罪処理によるならば24年の刑を宣告すべきところ,16年の刑を宣告するにとどめた。

〔設問〕 本事例における①検察官の公訴提起の適否,②裁判所の措置の適否を論じなさい。

一部起訴ですが,その中でも,いわゆる「かすがい外し」についてです。

論点は明確ですが,何をどの順番で論じればいいのか,かなり迷います。

≪答案≫
1.検察官の公訴提起の適否について
 甲は,V1宅への住居侵入,V1事件及びV2事件を行っており,これらがいずれも認定される場合には,科刑上一罪となる関係にある。これに対して,検察官が起訴した事実は,V1事件及びV2事件のみであって,V1宅への住居侵入については起訴していない。そこで,このような一罪の一部の起訴が認められるか。
 検察官には広範な訴追裁量権が認められており(刑訴法248条),一罪の全部の事実を不起訴とすることもできる以上,一部を起訴し残部を起訴しないという一部起訴も許される。しかし,一罪の一部起訴が検察官に認められた訴追裁量権の逸脱となる場合には,これをすることは許されない。
 これを本件についてみると,V1宅への住居侵入の事実が認められると,いわゆる「かすがい理論」によって,V1事件とV2事件とで科刑上一罪になるところ,かすがいを外すことによって,V1事件及びV2事件を併合罪として起訴している。併合罪の場合には,懲役刑の長期が1.5倍となるから(刑法45条前段),被告人にとって量刑上不利益となるため,かすがいを外した起訴は検察官の訴追裁量権を逸脱しているとも思える。しかし,被告人に科刑上の不利益が生じないように量刑上の配慮をすればこの点は問題とならないから,かすがいを外した起訴自体を不適法とする必要はない。また,裁判所が検察官の訴追裁量権の適否を判断するためには,検察官がかすがいを外した理由が合理的なものかを判断しなければならないところ,下記のように裁判所は訴因外の事実に立ち入って審査することはできないから,かすがいを外したことの合理性について審査することができない。そうすると,かすがいを外して公訴提起したことについて,それが検察官の訴追裁量権の逸脱であると積極的に認定することはできない。したがって,検察官は,上記のような一部起訴をすることができる。
2.裁判所の措置の適否について
 裁判所が甲のV1宅への住居侵入の事実の存在及び本件公訴にかかる各事実との関係について付随的に心証を形成した上で16年の刑を宣告したことは適当か。裁判所が訴因外の事実に立ち入って審理することが許されるかが問題となる。
 当事者主義を採用している現行法下では,審判対象は検察官の主張する具体的犯罪事実たる訴因であり,裁判所は訴因の範囲で審判しなければならない。したがって,原則として,裁判所は訴因外の事実に立ち入って審理することは許されない。もっとも,訴因外の事実が訴因に係る犯罪の成立を否定する事実である場合や公訴提起を無効にする事実である場合には,実質的には訴因の範囲内ということができ,例外的に裁判所はこれについて審理することができる。
 これを本件についてみると,科刑上一罪とされる場合であっても,それを構成する個々の犯罪事実に対応する犯罪は成立していることから,V1宅への住居侵入の事実に基づく住居侵入罪の存否にかかわらずV1に対する傷害致死罪及びV2に対する傷害致死罪はそれぞれ成立する。そうすると,訴因外のV1宅への住居侵入の事実をもって上記2つの傷害致死罪の成立は否定されない。また,上記のように,検察官の訴追裁量権の逸脱はないのであるから,V1宅への住居侵入について公訴提起しなかったことをもって公訴提起は無効とはならない。したがって,裁判所は,訴因外の事実であるV1宅への住居侵入の事実に立ち入って審理することはできない。
 そうすると,裁判所がV1宅への住居侵入の事実を審理できない以上,これを量刑事情として考慮することも許されないから,裁判所がこれについて付随的に心証を形成し,16年の刑を宣告したことは不適当である。
以 上


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