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2017-06-25(Sun)

最判平成15年7月3日判時1835号72頁

最判平成15年7月3日判時1835号72頁

【事実】
 ⑴ 上告人は,訴外ナノマイザー株式会社に対する債権を担保するために,物上保証人A外2名所有の本件各不動産につき,被担保債権の極度額を8000万円とする本件根抵当権の設定を受け,既に登記されていた株式会社群馬銀行の抵当権,根抵当権の外,大和銀企業投資株式会社の根抵当権に次いで,その旨の登記を経由した。
 ⑵ 上告人は,横浜地方裁判所小田原支部に対し,本件各不動産を目的とする本件根抵当権の実行としての競売を申し立て,平成13年6月19日,競売開始決定を得た。その際に提出された申立書には,「担保権」として極度額を8000万円とする本件根抵当権の表示に加えて,「被担保債権及び請求債権」として「元金 6000万円 但し,債権者が債務者に対し,平成6年11月15日付(金銭消費貸借契約)に基づいて貸付けた元金」と記載され,利息,損害金の記載はなかった
 ⑶ 本件各不動産につき代金を2億5222万2229円とする売却許可決定がされ,代金が納付された。上記裁判所は,民事執行規則60条に従い,債権元本,利息その他の附帯債権等の額を記載した計算書を提出するよう催告し,上告人は,平成14年1月18日,執行費用の額のほか「元金現在額 60,000,000円,利息現在額 3,470,795円,損害金現在額 50,123,835円」と記載した債権計算書を提出した
 ⑷ 平成14年2月14日の配当期日において,上記裁判所は,上告人に優先する債権者に配当した後の金銭から申立書に記載された6000万円を上告人に配当し,その残金6724万2654円を上告人の後順位者である被上告人に配当する旨の配当表を作成した
 ⑸ 上告人は,極度額の範囲内で利息,損害金の内金2000万円への配当を求めて配当異議を申し立てた

最判平成15年7月3日判時1835号72頁関係者図

【争点】
 根抵当権に基づく不動産競売の申立債権者がその申立書に被担保債権及び請求債権として金銭消費貸借契約に基づく貸金元金の全額を記載したが,利息・損害金の記載をせず,その申立てについての不動産競売開始決定においても同様に被担保債権及び請求債権として利息・損害金請求権の表示がされなかった場合において,申立債権者が債権計算書提出期間内に利息・損害金の金額を記載した債権計算書を提出したとき,申立書に表示した根抵当権の極度額の範囲内において利息・損害金債権について配当を受けることができるかが争点である。

【当事者の主張】
≪第1審≫
 ⑴原告の主張
  ア 原告が本件競売事件の債務者に対して有する債権は,貸付金元本6000万円のほか,前記の債権計算書に記載したとおり,平成13年11月28日までの利息及び損害金合計5385万3630円であり,これらの債権が極度額8000万円の根抵当権によって担保されていた。
  イ 原告は,根抵当権の被担保債権元本の全額である6000万円について不動産競売を申し立てたのであり,元本の一部について競売を申し立てたのではなく,また,民法374条によって満期となった最後の2年分の利息・損害金については後順位抵当権者に優先して弁済を受ける権利を有しているから,極度額の範囲内の金額については,利息・損害金請求権について配当を受けることができるというべきである。
 ⑵被告の主張
  ア 原告が被担保債権及び請求債権として元本6000万円と特定・明示して競売を申し立てたのであるから,この申立ては,それ以上でもそれ以下の申立てでもない。
  イ 競売申立債権者が申立て後に請求債権を拡張することは許されない。申立時に元本債権のみを請求債権としたにもかかわらず,後日に何ら具体的主張のない利息・損害金まで請求債権に含むと主張することは,明らかに不当である。

≪原審≫
4 控訴人の当審における主張
 根抵当権者による不動産競売の代価の配当につき,先順位者が全部の弁済を受けなかった場合には,後順位者は代位権を取得しないとの判例(大判明治41・2・26民録14・130)及び次順位抵当権者の代位権は,先順位抵当権者が全部の弁済を受けた時に発生するとの判例(大判大正11・12・28民集1・865)があり,これらの判例によれば,控訴人が有する根抵当権極度額8000万円によって,控訴人が貸付金元金6000万円及び利息・損害金の内金2000万円の合計8000万円の全部弁済を受けたときに次順位根抵当権者である被控訴人に代位権が発生し,弁済を受けることができる。
 しかるに,原判決は,控訴人は,本件競売事件の申立書において,債務者に対する貸付債権のうち元金債権6000万円について根抵当権の実行を求めたのみであり,利息債権及び損害金債権については根抵当権の実行を求めなかったのであるから,配当手続に至って利息債権及び損害金債権に対する配当を求めることは許されないと認定し,根抵当権の実行を元本債権と利息損害金債権に区分する実行が存するかのように認定しているが,上記判例は,先順位抵当権者が全部の弁済を受けたときに次順位抵当権者の権利が発生するとしており,原判決は,明らかに法律の解釈を誤り,判例に反するものであり,取消しを免れない。
5 控訴人の当審における主張に対する被控訴人の反論
 本件の争点は,要するに,担保権実行としての競売申立債権者は,申立後に請求債権を拡張することが許されるか否かである。この点については,判例・通説とも拡張は許されないとしている。
 控訴人は,後順位抵当権者の代位権に関する判例を引用して,その主張を裏付けようとしているが,本件の争点とは直接関係のない判例であって,主張自体失当である。

【判示】
 ⑴ 民事執行規則170条2号,4号の規定の趣旨が競売手続の安定した遂行にあることは,原審の判断⑴の指摘するとおりである。また,被担保債権の一部のみの実行を申し立てた者は,当該手続において申立てに係る債権の拡張を制限されてもやむを得ないということができる。しかし,この結論は,当該申立債権者の選択を信頼した競売手続の関係者に対する禁反言の要請から生ずるものであって,上記各号の規定が被担保債権の一部実行の場合における残部の優先弁済請求権の喪失という実体法上の効果を定めるものではない
 ⑵ 不動産を目的とする担保権の実行としての競売の手続は,所定の文書(民事執行法181条1項)が提出されたときに開始し,当事者の申立てに係る事実を前提として進められるものであるから,執行裁判所においては,民事執行規則170条2号,4号の規定に従った記載がされるとの信頼の下に,申立書の記載に従って手続を進行させることが円滑な売却手続の実現に資するものということができる。
 ⑶ しかし,抵当権の被担保債権の一部のみのためにする担保権の実行としての競売においては,売却により抵当権は消滅し,当該抵当権者は残部の被担保債権に対する優先弁済請求権を喪失することとなり,その効果は当該手続における配当にとどまらないから,被担保債権の一部実行を申し立てる意思はなく,錯誤,誤記等に基づき競売申立書に被担保債権の一部の記載をしなかった場合にまで,一律に真実の権利主張を禁ずることが,前記の禁反言からの当然の帰結ということはできず,民事執行規則170条2号,4号の規定が予定するところということもできない
 ⑷ したがって,訴訟手続である配当異議の訴えにおいて,競売申立書における被担保債権の記載が錯誤,誤記等に基づくものであること及び真実の被担保債権の額が立証されたときは,真実の権利関係に即した配当表への変更を求めることができるものと解すべきである。
 ⑸ 本件においては,上告人が提出した競売申立書には本件根抵当権の元本債権の全額が記載されながら附帯債権が存する旨の記載がなかったというのであるが,この記載から,直ちに,上告人が附帯債権についての優先弁済請求権を放棄し,元本についてのみの実行の意思を表示したものと認めるには足りない。

【参照条文】
民事執行法
(配当異議の訴え等)
第90条 配当異議の申出をした債権者及び執行力のある債務名義の正本を有しない債権者に対し配当異議の申出をした債務者は,配当異議の訴えを提起しなければならない。
2 前項の訴えは,執行裁判所が管轄する。
4 第1項の訴えの判決においては,配当表を変更し,又は新たな配当表の調製のために,配当表を取り消さなければならない。
5 執行力のある債務名義の正本を有する債権者に対し配当異議の申出をした債務者は,請求異議の訴え又は民事訴訟法第117条第1項 の訴えを提起しなければならない。
(不動産担保権の実行の開始)
第181条 不動産担保権の実行は,次に掲げる文書が提出されたときに限り,開始する。
一 担保権の存在を証する確定判決若しくは家事事件手続法第75条の審判又はこれらと同一の効力を有するものの謄本
三 担保権の登記(仮登記を除く。)に関する登記事項証明書
(不動産執行の規定の準用)
第188条 第44条の規定は不動産担保権の実行について,前章第2節第1款第2目(第81条を除く。)の規定は担保不動産競売について,同款第3目の規定は担保不動産収益執行について準用する。

民事執行規則
(計算書の提出の催告)
第60条 配当期日等が定められたときは,裁判所書記官は,各債権者に対し,その債権の元本及び配当期日等までの利息その他の附帯の債権の額並びに執行費用の額を記載した計算書を1週間以内に執行裁判所に提出するよう催告しなければならない。
(担保権の実行の申立書の記載事項)
第170条 担保権の実行(法第193条第1項後段の規定による担保権の行使を含む。次条及び第172条において同じ。)の申立書には,次に掲げる事項を記載しなければならない。
二 担保権及び被担保債権の表示
四 被担保債権の一部について担保権の実行又は行使をするときは,その旨及びその範囲
(不動産執行の規定の準用)
第173条 前章第2節第1款第1目の規定(次に掲げる規定を除く。)は,担保不動産競売について準用する。
一 第23条中執行力のある債務名義の正本に係る部分

※事実の詳細※
争いのない事実等(証拠等の摘示のないものは争いがない。)
 ⑴ 原告(旧商号・白水化学工業株式会社,平成11年4月1日変更)を申立債権者,ナノマイザー株式会社を債務者,不動産所有者をA,B及びCの3名とする本件競売事件において,平成14年2月14日,別紙配当表(以下「本件配当表」という。)が作成された。
 被告は,原告より後順位の抵当権者として,本件配当表記載のとおり配当されるものとされた。
 原告は,被告に対する配当金額のうち2000万円についてこれが原告に配当されるべきであるとして異議を述べた。
 ⑵ 原告は,本件競売事件の申立書において,担保権及び被担保債権を次のとおり表示し,その旨の競売開始決定がされた。なお,登記簿はは下記アの記載がある。
  ア 担保権
   ⑴平成6年11月15日設定(物件1~5)
 平成7年3月29日変更(物件1~5)
 平成7年3月29日追加設定(物件6)の根抵当権
 極度額   8000万円
 債権の範囲 証書貸付取引,手形債権,小切手債権
   ⑵登記 横浜地方法務局平塚出張所
 主登記  平成6年11月15日受付第30777号(物件1~5)
 平成7年3月29日受付第8164号(物件6)
 付記登記 平成7年3月29日受付第8163号(物件1~5)
  イ 被担保債権及び請求債権
 元金 6000万円
 但し,債権者が債務者に対し平成6年11月15日付(金銭消費貸借契約)に基づいて貸付けた元金
 ⑶原告は,平成14年1月18日,次の内容の債権計算書を提出した。
  ア 債権額合計 1億1385万3630円
  イ 債権発生の年月日及びその原因
 平成6.11.15寸金銭消費貸借
  ウ 元金現在額 60000000円
  エ 債務名義,仮差押命令又は担保権の表示
 平成6.11.15受付第30777号根抵当権
 平成7.3.29受付第8164号根抵当権
 平成7.3.29受付第8163号根抵当権変更
  オ 利息
 期間  平成6.11.15~7.12.10
 日数  391日
 利率  年5.4%
 現在額 3470795円
  力 損害金
 期間  平成7.12.11~13.11.28
 日数  5年353日
 利率  年14.0%
 現在額 50123835円
  キ 執行費用(合計259000円)の内訳
 不動産競売申立印紙代 3000円
 同予納郵券      16000円
 同登録免許税     240000円

横浜地小田原支判平成14年5月10日(第1審)

       主   文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。

       事実及び理由

第3 争点に対する判断
1 〈証拠略〉及び弁論の全趣旨によれば,原告が債務者ナノマイザー株式会社に対して前記の債権計算書に記載のとおりの債権を有していた事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。
2 しかし,原告は,本件競売事件の申立書において,債務者に対する貸付債権のうち元本債権6000万円について根抵当権の実行を求めたのであり,利息債権及び損害金債権については根抵当権の実行を求めなかったのであるから,配当手続に至って利息債権及び損害金債権に対する配当を求めることは許されないというべきである。なお,執行費用については,手続費用として原告に配当がされている。
3 よって,原告の本件配当表に対する異議は理由がないから,本件請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
          裁判官 加藤謙一

東京高判平成14年8月28日(原審)

       主   文

1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。

       事実及び理由

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の本件請求は理由がなく,棄却すべきものと判断する。そのように判断する理由は,下記2に記載のとおり付加するもののほか,原判決の「事実及び理由」欄第3の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 不動産競売の申立書には,被担保債権及び請求債権の表示を記載しなけれはならず,かつ,競売申立債権者が被担保債権の一部について担保権の実行又は行使をするときは,その旨及びその範囲をも記載しなけれはならない(民事執行規則170条2号,4号)。これらの規定の趣旨は,被担保債権額が,登録免許税の額の算定基準となることはもとより,いわゆる過剰競売や無剰余取消しの判断基準となっており(民事執行法61条ただし書,63条,73条等参照),被担保債権が不動産競売申立ての段階の後(例えば配当手続の段階)に至り拡張等により変更されると,場合によっては当該競売手続の取消しが避けられなくなる事態を生じかねないなど,競売手続の安定性が害されるおそれがあるので,競売申立債権者に,競売申立ての段階で,被担保債権すなわち担保権の実行を求める請求債権の額(全額か,一部の特定された額か)を確定させようとする趣旨であると解される。これによれば,競売申立債権者が,自ら不動産競売申立書中に被担保債権及び請求債権の額を明記して競売申立てをし,これに基づく競売開始決定があった以上,以後その競売手続においてこれに拘束されることになったとしてもやむを得ないというべきであるし,他面において,競売申立債権者としては,自己の任意の選択により一旦被担保債権の一部について競売の申立てをした後,残余について担保権実行の必要が生じたような場合には,その競売手続中であればその配当要求の終期までに新たに拡張部分につき競売の申立てをすることもできないわけではなく,これによって当該競売手続中においても残余債権についての優先的な配当を受ける方途も残されており,上記のように競売申立ての段階で被担保債権及び請求債権の額を確定させても,必ずしも申立債権者に不都合ないし不利益を強いるものではないというべきである。
 以上に徴すると,競売申立債権者が競売申立書に記載した被担保債権及び請求債権の額を後の配当手続の段階に至ってから債権計算書等の記載をもって拡張することは,もはや全く許されないものと解するのが相当である。
 なお,この点に関し,控訴人が挙示する判例は,本件とは事案を異にするものであり,本件については,これらの判例は,適切ではない。
3 以上の認定及び判断によれば,本件配当表は適法であり,その変更を求める控訴人の本件請求は理由がなく,棄却を免れない。
第4 結論
 よって,控訴人の本件請求を棄却した原判決は正当であり,本件控訴は理由がないから,棄却することとし,控訴費用の負担につき,民事訴訟法67条1項,61条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 雛形要松 裁判官 西謙二 山崎 勉)

本判決に対する評価

 【1】本判決は,民事執行規則170条2号,4号に関する原審の指摘を正当とし,真意に基づく一部実行の場合には優先弁済請求権の喪失を是認し,執行裁判所は同規則の規定に従った記載がされるとの信頼の下に,申立書の記載に従って手続を進行させること(拡張禁止説)を前提とした上,真意に基づかず錯誤,誤記により被担保債権の一部の記載が漏れた場合には,その権利主張を禁止することが禁反言の当然の帰結ということはでぎす,上記規則の予定するところでもないとした。
 権利者の申述への信頼を前提にした上で,その是正を許す場面としては,訴訟上の自白の取消しがあり,この場合には自白が錯誤に基づき,真実と異なることが要件とされる。本判決の指摘する申述の変更の要件は,自白の撤回の要件とも通ずるといえよう。もっとも,被担保債権の存否を確定することなく当事者から提出された資料(申立書,登記簿謄本,債権計算書)に基づき進行する執行裁判所での手続では,申立書の記載が失念,錯誤に基づくことや主張が真実であることの立証をさせることは困難である。他方,配当異議訴訟は,実体関係を立証して実体に即した配当表の是正を求める訴訟であるから,この手続で,錯誤,誤記に基づくこと及び真実の権利関係を立証させることは,訴訟の目的に合致する。
 本判決は,執行手続上の要請をも考慮して,拡張禁止説を是認し,その実務的メッセージ(申立書の記載を正確にさせ,登録免許税の回避を予防する)を維持すると共に,訴訟法上の自白の撤回に類似した和宇慶ンの下で配当異議訴訟における実体権の主張を肯定したものと評することができよう。(ジュリ1257号103頁)
 【2】執行手続上の要請と担保権の実体的効力との調整を図ったものということができる。従来の通説は,どちらかといえば,一律に請求債権の拡張は許されないとし,また,競売手続中における拡張の許否と配当異議の訴えにおけるそれとを区別することなく,拡張の許否を論ずる傾向にあったが,本判決は,これらの点について見直しを求めるものであり,執行実務に与える影響は大きいであろう。もっとも,申立債権者が,元金の一部であることを認識しながら,全部に対する配当を受けることはできないであろうと考えて,あえて元金の一部のみを請求債権とした場合や,根抵当権の被担保債権の全部でないことを認識しながら,その一部についてのみを請求債権とした場合にまで,「錯誤,誤記等に基づくものであること」という要件をクリアして請求債権を拡張し,元金の残部や他の被担保債権への配当を求めることができるかどうかは,必ずしも明らかではなく,これらの点については,今後も解釈が分かれる余地があると思われる。(判タ1154号227頁)
 【3】標題判決を踏まえると,請求拡張禁止の根拠としては,権利喪失的な理論構成はもはや採り得ず,禁反言を中心に据えるとともに,競売手続段階,特に売却実施後の配当手続においては競売手続の安定の要請も考慮すべきことになろう。登録免許税の租税回避防止については,本来は租税の制度設計で対処すべき問題であるので,競売手続上の解釈問題として正面から理由として取り上げることは躊躇されるが,少なくとも競売手続内での拡張を厳しく制限し,後の配当異議訴訟で解決すべきこととすれば,その訴訟提起の手続的負担から,副次的効果として目的を達することが可能となる。(民執百選(初版)199頁)
 【4】本件判決には疑問がある。本件判決では,「請求債権額拡張制限の根拠を信義則(禁反言)に求めた点」がまず問題と思われる。この帰結の前提は,民執規則170条2号,4号(現170条1項2号,4号)に関する理解である。つまり,本件判決は,この規定の趣旨を競売手続の安定に置きつつも,この規定が実体法上認められている担保権者の優先弁済権を喪失させるものではないとする。これは,担保権実行の基礎を「担保権に内在する換価権」とする限り,規則の規定により実体法上の権限を制限することはできないと考えたものと思われる。実体的権利実現の場である民事執行において実体的法秩序を尊重した点は正当であろう。問題は,その代わりに,拡張制限の根拠を信義則(禁反言)に求めた点である。関係人の利害調整がその背景に存在すると思われるが,「当該申立債権者の選択を信頼した競売手続の関係者に対する禁反言の要請」はそもそも想定できようか……。この要請は,処分権主義の帰結から当該担保権者の一部申立てが残部債権の優先弁済権の放棄の意思表示をも意味することを前提としよう……。しかし,後順位抵当権者がいない場合など,申立担保権者の意思解釈として残部債権の優先弁済権放棄まで読み込むことは無理があろう……。また,拡張否定説では配当要求終期までに残部債権の競売申立てもできるとするが,これでは信義則の基礎となる矛盾行為の存在,相手方の信頼とそれに基づく地位形成自体が成り立たない……。むしろ,民執規則の文言からは残部請求がありうるとするのが素直な読み方であろう。さらに,関係人の利害調整という観点からみた場合,競売申立てをした担保権者が,申立てをしたがゆえに,不利な取扱いを受けることも問題であろう。とくに,届出債権者が当初の届出額を事後計算書によって拡張することを認める点……は,申立担保権者とのバランスがとれない……。以上を勘案すると,信義則に基づく請求債権額拡張の制限は十分な説得力を有してこないように思われる。
 また,本件判決では信義則に拡張制限の基礎をおくことから,必然的に例外を認めることになる。注目すべきは,競売手続の配当段階と配当異議訴訟段階を明確に区分し,後者の段階で例外の判断をすることで手続の安定性と実体法秩序とのバランスをとった点である(加えて,訴訟手続による手続保障も考慮されている)。しかし,例外で挙げる誤記等は判決手続で判断する事柄であろうか。円滑な手続遂行に反してこよう。さらに,例外判断基準として自白撤回法理と類似の要件を挙げた点も問題である。この例外的処理は配当債権者間の相対的・実体的調整である配当異議訴訟とは相容れない基準でもある……。また,自白撤回法理同様,反真実の立証があれば錯誤を推認できるとすると,真実の被担保債権の額が立証されたならば請求債権額の拡張が認められることになるが,一部申立ての場合にかかる立証はさほど困難ではないであろう。このような解釈をとると,実質的には拡張肯定説に近づくことになる。拡張否定説が重視する手続の安定性・迅速性の観点とズレが生じるのである。なお,拡張否定説が重視する競売手続安定性の観点も説得的ではない。申立債権額は無剰余取消し禁止とは無関係であるし……,超過売却の関係でも債権額拡張の場合には関係はない……との指摘もある。確かに,執行手続の形式的,画一的基準による迅速かつ大量の事件処理の要請は重要であるが,実体法秩序との調整が十分ではない処理は問題である。
 さらに,配当異議の申出のない抵当権者の不当利得返還請求を認めた最判平成3・3・22(民集45巻3号322頁)との関係でも問題がある。本件判決により拡張が制限されても最終的には抵当権者の不当利得返還請求が認められる帰結(平成3年判決自体の帰結も問題と考えるが)は,競売手続の安定性の観点からも事案処理の落ち着きからも疑問となる。むしろ,競売手続内で債権額の拡張を認め,配当異議の申出のない抵当権者の不当利得返還請求を認めない方が競売手続の円滑な進行と安定に資するように思われる。(民執百選(2版)51頁)
 【5】本判決は,このような状況のもとにおいて,最高裁が,初めて,競売手続中においては,申立てにかかる債権を真実の被担保債権に拡張することは許されないが,配当異議の訴えにおいては,競売申立書における被担保債権の記載が錯誤,誤記等に基づくものであることおよび真実の被担保債権の額を主張立証することを要件として,申立債権を超える真実の被担保債権への配当を求めることができることを明らかにしたものであり,従来対立のあった争点について一応の解決を示したものとして,今後の実務に与える影響は大きいところがあると言うことができる。(金融法務事情1710号27頁)

参考判例

◎最判昭和47年6月30日民集26巻5号1111頁

       主   文

 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人寺井俊正の上告理由第一点について。
 所論の点に関し、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、不動産の競売申立に際し、競売法二四条二項三号により申立債権の表示が必要とされるのは、被担保債権がいかなる債権であるかを明らかにするためであるから、その表示の程度は、これを特定しうる程度で足り、中立債権の額の表示は、債権額を限定する意義を有するものではなく、したがつて、被上告人は、その申立債権額に制限されることなく、これを超えて本件(一)ないし(四)の土地の競売代金から被上告人の被担保債権につき配当を受けることができる旨の原審の判断は正当として是認するに足り、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)に所論の違法はないから、論旨は採用することができない。
 同第二点について。
 原判決に徴すれば、原審は、本件(一)ないし(六)の全物件について一括競売がなされた旨の上告人の主張事実は当事者間に争いがないが、しかし、一括して競売に付する旨の売却条件は、異なる債権者の先順位根抵当権の目的たる(五)、(六)の建物については効力を生ぜず、本件競売においては、本件(一)ないし(四)の土地についての一括競売と(五)、(六)の建物についての個別競売が併行して行なわれたものと解すべき旨の判断をしていることが明らかであり、右判断は、右の点に関し原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同第三点について。
 所論の点に関し、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、原審の判断は是認しえないものではなく、原判決に所論の違法はないから、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官  村上朝一
            裁判官  色川幸太郎
            裁判官  岡原昌男
            裁判官  小川信雄


◎最判平成14年10月22日集民208号291頁

       主   文

1 原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
2 東京地方裁判所八王子支部平成10年(ケ)第1309号不動産競売事件において,同裁判所が平成12年5月22日に作成した配当表中,上告人の債権に対する「配当実施額等(円)」の欄に「2340万5040円」とあるのを「2542万4144円」に,被上告人の債権に対する同欄に「357万8754円」とあるのを「155万9650円」に変更する。
3 訴訟の総費用は,被上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人佐藤米生,同髙畑満,同神戸和子,同岡野和弘,同赤坂裕志の上告受理申立て理由について
1 原審が適法に確定した事実関係は,次のとおりである。
 ⑴ 上告人は,訴外古川商事株式会社に対する債権を担保するため,訴外A所有の第1審判決別紙物件目録1及び3記載の不動産(以下,同目録1記載の不動産を「甲」,同目録3記載の不動産を「丙」という。)並びに訴外B所有の同目録2記載の不動産(以下「乙」という。)の上に極度額1億3000万円の共同根抵当権を有していた。
 ⑵ 被上告人は,訴外ボスマン・ジャポン株式会社に対する債権を担保するため,乙及び訴外C所有の上記目録4記載の不動産の上に極度額2900万円の共同根抵当権を有していた。
 ⑶ 乙上の上告人と被上告人との根抵当権は,順位変更により同順位とされ,平成8年7月18日,その旨の登記が経由された。
 ⑷ 甲,乙,丙について⑴記載の上告人の根抵当権の実行として競売が開始され(東京地方裁判所八王子支部平成10年(ケ)第1309号不動産競売事件),平成12年5月22日,配当期日が指定された。
 なお,上告人の提出した競売申立書には,請求債権として,残元金5795万9070円及びこの金額に対する平成9年1月28日から支払済みまでの年14%の割合による損害金との記載に加え,同年2月17日の内入弁済金113万2739円に対する同年1月28日から同年2月17日まで21日間の年14%の割合による損害金(以下「確定損害金1」という。)として9123円とすべきところを912円,同年11月18日の内入弁済金8191円に対する同年1月28日から同年11月18日まで295日間の年14%の割合による損害金(以下「確定損害金2」という。)として926円とすべきところを92円との記載がされていたが,上告人の提出した債権計算書には,それぞれ正しい計算結果が記載されていた
 ⑸ 上記配当期日において,執行裁判所は,確定損害金1及び同2の金額を上告人が提出した競売申立書に記載された金額であるとして,上告人の被担保債権額を8488万1665円とし,その上で,代金額及び手続費用の額を甲,乙,丙の各最低売却価額に応じて割り付け,それぞれ割り付けられた代金額から手続費用の額を控除した金額(以下「不動産価額」という。甲については490万7199円,乙については816万7064円,丙については1390万9531円)に準じて上告人の上記被担保債権額の負担を甲,乙,丙に分け,上告人と被上告人との根抵当権が同順位である乙については,その不動産価額を上告人の被担保債権のうち乙の負担額と被上告人の被担保債権額との割合に従って案分し,上告人に対しては,甲及び丙の各不動産価額と乙の不動産価額のうち上告人への案分額458万8310円との合計2340万5040円を配当し,被上告人に対しては乙の不動産価額のうち被上告人への案分額357万8754円を配当する旨の配当表を作成した。
 ⑹ 上告人は,上記配当期日において,被上告人への配当額のうち201万9104円について配当異議の申出をした。
2 本件は,上告人が被上告人への配当額のうち異議に係る上記金額を上告人の配当に加えるべきであるとする配当異議の訴えである。
 上告人は,競売申立書の明白な誤記はその後に提出された債権計算書において訂正されているとし,また,本件においては,まず,乙の不動産価額を上告人と被上告人の各被担保債権額により案分すべきものであり,その上で,甲及び丙の各不動産価額及び乙の上記案分額に準じて上告人の被担保債権額の負担を甲,乙,丙に分けるべきであると主張した。
 この点につき,原審は,確定損害金1及び同2の誤記は,執行裁判所が計算違いをしたために生じたものではなく,上告人の計算違いにより,結果的に一部請求となったものであって,執行裁判所が明白な誤りを看過したものということはできないから,配当表の更正をすることは許されないとし,さらに,乙の不動産価額を上告人と被上告人に案分するに当たり執行裁判所が採用した計算方法については,執行裁判所が採用した見解は民法392条1項の文理に沿い,上告人の主張する見解にも欠点があり,両説の合理性を比較した結果によって一方の説である執行裁判所の見解を採用したことが違法となるものとまで認めることはできないとして,上告人の請求を棄却した第1審判決の結論を支持して,上告人の控訴を棄却した。
3 しかし,原審の上記判断は是認することができない。
 ⑴ 競売申立書に明白な誤記,計算違いがある場合には,その後の手続においてこれを是正することが許されるものと解すべきであり,これを一部請求の趣旨と解することは相当でない。本件では債権計算書においてその是正がされているところ,配当異議の訴えは実体法上の権利に基づき配当表の変更,取消しを求めるものであり(民事執行法90条4項),配当表を是正するためには,配当表の誤記が執行裁判所の責めに帰すべき事由により生じたことを要するものではない。そして,前記事実関係によれば,上告人の提出した競売申立書に記載された確定損害金1及び同2の金額には明白な計算違いがあり,正しい計算結果は上告人が提出した債権計算書に記載されたものであるから,上告人の被担保債権額は8489万0710円となる
 ⑵ 共同抵当とは債権者が同一の債権の担保として数個の不動産の上に抵当権を有する場合をいい(民法392条1項),各不動産上の抵当権はそれぞれ債権の全額を担保するものであるから,共同抵当権者は一部の不動産上の同順位抵当権者に対しても,その被担保債権全額を主張することができる。もっとも,債権者が任意の不動産の価額から被担保債権の全部又は一部の回収を図ることを許し,何らの調整を施さないときは,共同抵当の関係にある各抵当不動産上の後順位債権者等に不公平な結果をもたらすことになる。そこで,民法392条1項は,共同抵当の目的である複数の不動産の代価を同時に配当する場合には,共同抵当権者が優先弁済請求権を主張することのできる各不動産の価額(当該共同抵当権者が把握した担保価値)に準じて被担保債権の負担を分けることとしたものであり,この負担を分ける前提となる不動産の価額中には他の債権者が共同抵当権者に対し優先弁済請求権を主張することのできる不動産の価額(他の債権者が把握した担保価値)を含むものではない。
 そうすると,共同抵当の目的となった数個の不動産の代価を同時に配当すべき場合に,1個の不動産上にその共同抵当に係る抵当権と同順位の他の抵当権が存するときは,まず,当該1個の不動産の不動産価額を同順位の各抵当権の被担保債権額の割合に従って案分し,各抵当権により優先弁済請求権を主張することのできる不動産の価額(各抵当権者が把握した担保価値)を算定し,次に,民法392条1項に従い,共同抵当権者への案分額及びその余の不動産の価額に準じて共同抵当の被担保債権の負担を分けるべきものである。これと異なる原審の計算方法は,共同抵当の目的となる不動産上の同順位者に対して,共同抵当に係る被担保債権全額を主張することを認めず,共同抵当に係る数個の不動産の代価の同時配当における負担分割の基礎となる不動産の価額中に同順位者が優先弁済請求権を主張することができる金額(同順位者が把握した担保価値)を含ませる結果となるものであって,採用することができない。
4 以上によれば,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れず,同旨の第1審判決は取り消すべきである。
 そして,上記説示したところによれば,上告人の被担保債権額を8489万0710円とし,まず乙の不動産価額816万7064円を上告人の上記被担保債権額と被上告人の被担保債権額2003万8071円とで案分し,本件事実関係の下においては,乙の不動産価額のうち上告人への案分額660万7414円,甲の不動産価額490万7199円及び丙の不動産価額1390万9531円に準じて上告人の被担保債権額の負担を分けるべきところ,上記各金額の合計額2542万4144円は上告人の被担保債権額に及ばないから,上記合計額を上告人に配当し,被上告人には乙の不動産価額のうち被上告人への案分額155万9650円を配当すべきことになる。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上田豊三 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田昌道 裁判官 濱田邦夫)


◎仙台高判平成4年3月17日金法1350号34頁

       主   文

1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

       事   実

 控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め,被控訴人は主文同旨の判決を求めた。
 当事者双方の主張は,次のとおり付加するほか原判決記載のとおりであるから,これを引用する。
 (控訴人の補足的主張)
 仮に本件債権の実際の貸付日である債権発生日付が昭和59年4月5日であるとしても,以下の理由により,配当の段階でこれを訂正することは許されない。
1 競売申立書等記載の被担保債権は,競売申立てに係る費用の基準にとどまらず,過剰競売の禁止や無剰余競売禁止の際の判断基準になるものであって,この基準が配当の段階において,債権の範囲の訂正により容易に変遷するのであれば,競売手続におけるこれらの制度の趣旨を没却しかねないから,配当を準備するに当たっての一資料として軽視することは許されない。
2 競売申立債権者が後に請求債権を拡張することは許されないとするのが現在の通説であり,実務の取扱であるが,その根拠の一つとされている民事執行規則170条2号において「担保権及び被担保債権の表示」を,同4号において「被担保債権の一部について担保権の実行または行使をするときは,その旨及びその範囲」を競売申立書の記載事項と定めている趣旨は,申立債権者に申立段階での担保権実行の範囲を特定させる目的を有するものであるが,この債権の範囲の特定は,本件のような根抵当権において,その担保する複数の被担保債権のうちどの債権により競売申立てするかを特定し明示する趣旨を含むものであるから,同条は,申立債権の金額の拡張を禁止する趣旨のみならず,本件におけるような配当段階における債権の訂正を禁止する趣旨を含むものである。
3 一旦手続が開始された以上,特定された債権,さらに限定された債権金額を基準にして手続が進められ,債務者や後順位担保権者等他の債権者も,右債権を目安にして債権保全の措置を講ずるなどの行動を起こすのであるから,配当段階において請求債権の訂正を認めることは,手続の安定を著しく害するだけでなく,他の債権者や債務者との関係において,信義則ないし禁反言の原則に反する結果となり,請求債権の拡張と異なるところはないから,債権の訂正も認めるべきでない。申立書の記載が錯誤による誤記として安易に訂正を許すとすれば,過失のない他の関係者の犠牲の上に,過失により誤記したものを救済する結果となり不当である。
4 国税の滞納債権の場合,税務当局は,滞納者の財産を複数差押えても,競売の申立てに係る一件記録を検討し,当該不動産の競売による配当を十分受けられることが見込まれるときは,他の差押物件を解除しなければならない(国税徴収法48条)から,配当段階に至って,競売申立書または債権計算書の債権発生日付の記載の訂正が認められることになれば,税務当局は,当初見込んでいた配当を受けられないだけでなく,前記のように,他の財産保全の機会を失い,その上さらに,その間に解除した差押物件をも失うことになって,滞納債権を確保する手段を著しく阻害されることになる。このような不利益を落ち度ある申立人ではなく,過失の全くない国が負担しなければならないということは極めて不当である。
 ところで,競売申立債権者以外の届出債権者が故意,過失により不実の債権届出をした場合は損害賠償責任を負担するものとされている(民事執行法50条)。これとの均衡を考えると,債権を特定し,債権金額を限定する競売申立人はさらに強い責任を負担すべきであって,その責任の形態は,単に損害賠償責任にとどまらず,債権の訂正は原則的に許されないものとしなければならない。
5 競売申立書等の記載が真実に反する場合に,民事訴訟手続における自白の撤回に準じて訂正を認めることは適切でない。けだし,民事訴訟手続における自白の撤回の場合は,利害関係者が訴訟当事者だけであるし,ことの性質上,相手方当事者において,自白の内容が真実に反することを熟知している可能性が大であって,その意味で保護する利益が比較的小さいのに対し,本件のごとき競売手続においては,関係者が民事訴訟のように対立当事者に限らず,債務者や他の債権者等多数に及ぶとともに,これら関係者は申立書記載の内容が真実に反することを知り得る状況にないのであるから,競売申立書等記載の訂正が認められることにより被る不利益は,民事訴訟による自白の撤回の場合とは比較にならないからである。そもそも本件のように,最終段階において突然錯誤の主張をしている場合には,時期に遅れた攻撃防御方法の却下(民事訴訟法139条)の制限に服すると解するのが相当である。
6 仮に被控訴人の本件競売申立書及び債権計算書の債権発生日付の誤記が被控訴人担当者の錯誤に基づくものであり,かつ競売手続にも民事訴訟における自白の撤回の理論を準用すべきものとしても,手続の安定が強く求められる競売手続においては,その錯誤が重大な過失による場合には民法95条但書の趣旨により撤回は認められないというべきところ,右誤記は,被控訴人担当者の重大な過失によるものであるから,過失のない控訴人等他の関係者の負担において,その訂正が許されるべきでない。
 すなわち被控訴人は,不動産担保貸付等を営む金融業者であり,貸金債権回収は被控訴人の基本業務であるから,不動産競売申立書,債権計算書の作成提出等の重要な職務は,債権回収業務に精通し,不動産競売手続に十分な知識と経験を有する者に担当させるべきであり,社内組織としても,本店や上司による適切な管理システムを採用すべきであるのに,被控訴人はこれらの業務をいずれも怠った結果,競売申立書作成の段階において,大宮支店の担当者が本件債権が一つであるのに契約書が2通存在することを十分に認識していたにもかかわらず,右申立書の作成に当たる本店管理部に契約書が2通存在することを連絡せず,昭和59年12月27日付の契約書のみ送付し本店管理部に誤った記載をなさしめ,また担保物件たる本件不動産の登記簿謄本を閲読し八戸税務署の差押登記を確認しながら,その意味を理解せず,優先する債権についての知識もなく,本店に問い合わせることもしないで,その誤記を配当段階まで放置していたものである。また債権計算書の作成提出の段階においても,契約書の確認を怠り,漫然,貸金債権は昭和59年12月27日付のものと盲信し,登記簿謄本の八戸税務署の差押登記の確認をせず,また競売に関する一件記録を閲覧,謄写して内容を検討すらしなかったため,過誤を発見できなかったものであり,前記誤記は被控訴人担当者の重大な過失によるものというほかはない。

       理   由

 当裁判所も本件配当表を原判決のとおり変更するのが相当であると判断するものであり,その理由は,次のとおり付加訂正するほかは原判決の理由と同一であるから、これを引用する。
1 原判決3枚目表6行目の「証人」を「原審及び当審証人」と改め,「甲2」の次に「甲8」を加える。
2 同3枚目表11行目及び裏12行目の「証人」を「原審及び当審証人」と改める。
3 同4枚目表10行目の「あったこと」の次に「や訴外会社の商号変更後の契約書の方が正確との考え」を加え,同13行目の「証人菊地」を「原審及び当審証人菊地」と「証人平松」を「同平松」とそれぞれ改める。
4 同5枚目表3行目から同裏2行目までを次のとおり改める。
 「しかしながら,執行裁判所は,右配当段階において,債権者から提出された競売申立書,配当要求書,債権計算書等や,配当期日における債権者,債務者に対する審尋,当日即時に取調べができる書証によって,配当すべき債権者,配当額を認定し,配当表を作成して配当を実施するものとされているのであり,この配当表に不服がある場合は,異議を契機とする配当異議訴訟によって,最終的に右債権者及び配当額を確定すべきものとされているのである。
 したがって,競売申立書及び債権計算書は,執行裁判所が配当の準備をするに当たっての一資料となるに過ぎないものであって,その記載内容が執行裁判所を拘束することはなく,もとよりその記載内容如何によって実体的な権利関係が変更されるようなことはあり得ない
 そうすると,少なくとも異議を契機とする配当異議訴訟係属までは,申立債権者のなした競売申立書及び債権計算書の実体に符合しない債権発生日付の記載によって,他の債権者が確定的に有利ないし利益な地位を取得することはないというべきであるから,申立債権者が右訴訟係属の時点までに右債権発生日付の訂正をなしたとしても,他の債権者を害することは少なく,しかして必ずしも信義誠実ないし禁反言の原則に反するということもできないから,右訂正は許されるものというべきである。
 もっとも,配当表の作成によって,配当を受けるべき債権者,配当額が形式上確定され,この配当表の取り消し,変更を求めるには配当異議訴訟において異議事由を主張立証しなければならないこととされており,この配当表によって配当を受けるべきものとされた他の債権者もその限りにおいて利益を得ている点に鑑みると,申立債権者は,自白の撤回に準じて,競売申立書等の記載,したがってまたその記載を根拠としている配当表記載の発生日付が実体上存する債権と異なること,すなわち右記載が真実に反するとともに,その真実に反する記載が錯誤のためになされたことをも主張立証しなければ,その訂正は許されないと解するのが相当である。
 ところで,競売申立債権者が競売申立書に記載した請求債権を後に債権計算書等によって拡張することは許されないものと解されている。しかしながら,この場合は,申立段階において請求債権を表示し,請求債権の上限を自ら画した以上,処分権主義の帰結として以後その手続ではこれに拘束されることになってもやむを得ないなどの理由によるものであるところ,債権発生日付の記載は債権額の記載と異なって,単に請求債権がいかなる債権であるかを特定表示する一つの方法に過ぎないし,実体と符合しない債権発生日付の誤記の訂正は,処分権主義とは無縁である。したがって,債権発生日付の誤記の訂正を請求債権の拡張と同視することは相当でない。」
5 控訴人の補足的主張について
 ⑴ 主張1について
 租税の法定納期限前に設定された根抵当権であっても,滞納処分による差押通知当時存在した被担保債権の限度で租税債権に優先するに過ぎないから,競売申立書等の債権発生日付の記載も,控訴人主張のとおり過剰競売や無剰余競売の判断基準となることは否定できないが,担保権者や一般債権者の間では,債権発生日時の如何によって債権の優先順位が決せられることはないから,請求債権額に比し,右判断基準としての重要性は極めて少ない。したがって,債権発生日付が過剰競売等の判断基準として機能する場合があるからといって,請求債権の拡張と同視し,その訂正を許さないものとすることは相当でないというべきである。
 ⑵ 同2について
 本件においては,既に説示のとおり,実体上存在する昭和59年12月27日発生の債権を同年4月5日発生の債権に変更するというものではなく,競売申立書に被担保債権を表示するに当たって,昭和59年4月5日発生の債権の特定表示を誤り,その発生日付を同年12月27日と誤記したというものであって,事後的にその誤りを実体に符合するように是正しようとするものにほかならないから,右訂正を許しても,民事執行規則170条2号,4号の趣旨に反するものということはできない。
 ⑶ 同3について
 前記説示のように,担保権者や一般債権者の間では,債権発生日時の前後によって債権の優先関係が定まるわけではないから,担保権者や一般の債権者において,請求債権額のように債権発生日付を目安として行動するとは考えられず,その訂正によって担保権者や一般の債権者が損害を受けるような事態も殆どないと思われる。したがって,債権発生日付の訂正の場合は,この点からいっても,請求債権の拡張の場合に比して,信義則ないし禁反言の原則に背反するおそれは少ないというべきであって,過失のない他の関係者の犠牲の上に,誤記したものを救済するという結果を招くとは限らない。また前記説示のように,債権発生日付が過剰競売等の判断基準として機能する場合は少ないし,そもそも手続の安定は個別具体的に検討すべきところ,本件においては,債権発生日付の訂正によって手続が後戻りしたり取り消されたりすることはないと認められるから,右訂正によって手続の安定が著しく害されるということもできない。
 ⑷ 同4について
 控訴人主張のように,税務当局において,租税滞納処分につき,誤って記載された競売申立書又は債権計算書の債権発生日付を判断基準として超過差押えとなるため一部差押物件を解除した後,右債権発生日付が訂正されたため,当初見込んだ配当を受けられないだけでなく,他の財産保全の機会を失い,解除した差押物件をも失うこととなって損害を被った場合には,民法709条により,もしくは民事執行法50条の類推適用によって損害賠償請求できるものというべきである。したがって,右の点も,債権発生日付を実体に符合させるための訂正までも許さないとする根拠とはなし難い。控訴人は,損害賠償請求にとどまらず,原則的にその訂正を許さないものとしなければならないと主張するけれども,採用できない。
 ⑸ 同5について
 前記説示のように,配当すべき債権者及び配当額は,執行裁判所が競売申立書や債権計算書のみならず,配当期日における審尋等によって認定すべきものとされており,その結果作成された配当表の記載に異議がある場合は,異議を契機とする配当異議訴訟において,最終的に配当すべき債権者及び配当額を確定すべきものとされているのであるから,右競売申立書等に記載された実体に符合しない債権発生日付を実体に符合させるための訂正は,右配当異議訴訟の係属までは許されるというべきであるが,ただその誤記に基づいて配当表が作成された段階においては,自白の撤回の場合と同じくその誤記が錯誤に基づく場合に限定してその訂正を認めようとするものであるから,民事訴訟における自白の撤回の理論を競売手続に安易に準用しようとするものとの批判は当たらない。また配当表の記載に対する異議を通じて,錯誤を理由に債権発生日付の訂正を求めたとしても,時期に遅れたものといえないことは,右説示に照らして明らかである。
 ⑹ 同6について
 被控訴人の錯誤による債権発生日付の誤記が被控訴人担当者の重大な過失に基づく場合,右誤記の訂正は許されないと解すべきかどうか問題であるが,仮にこれを積極に解するとしても,本件においては,被控訴人に右重大な過失があったとは認めることができない。
 すなわち,被控訴人の担当者は,本件競売申立書作成の際,本件債権に関して作成されている2通の金銭消費貸借契約書について,昭和59年12月27日付の契約書は,単に債務者会社の商号が同年4月5日付契約書作成後に変更されたため新しい会社名義で書き改めたに過ぎないものであって,本件債権の発生日付は昭和59年4月5日が正しいにもかかわらず,右昭和59年12月27日付の契約書によって改めて金銭消費貸借契約を締結したものと誤信し,しかも同年12月20日に控訴人から国税の滞納処分による債務者会社所有の本件土地に対する差押通知を受け,また本件土地の登記簿謄本によって本件土地に右滞納処分による差押登記がなされていることを確認していながら,国税の法定納期限前に設定された根抵当権の被担保債権であっても,差押等の通知を受けた当時存した債権額を限度として優先するに過ぎないことを看過して,競売申立書に本件債権発生日付を昭和59年12月27日と記載したものであり,債権計算書も,漫然と右のとおり誤記された競売申立書に基づいて記載したものであることが認められる(〈書証番号略〉,原審及び当審証人菊地,同平松,弁論の全趣旨)から,被控訴人担当者に過失があったことは否定できないが,右のように租税との優先関係を看過したのは,被控訴人において金融業を営んでいたものの,当時の従業員に右優先関係についての知識が十分でなかったためであることが認められ(原審及び当審証人菊地。同平松),どの従業員にも右のような知識までも完全に周知させることは必ずしも容易なこととは思われないから,たまたま本件競売申立書作成に当たって担当者が右優先関係を看過したとしても,重大な過失があったと評するのは相当でない。また被控訴人担当者が,競売申立書や債権計算書の作成に当たって,その債権発生日付を昭和59年12月27日と誤記したのは,租税債権に対する根抵当権の優先限度に思い至らずに,右日付の契約書に「再締結した」旨の記載があったことや,債務者会社の商号が変更された以上そのためにわざわざ作成された契約書に従って債権発生日付を記載した方が良いと速断した結果であることが認められる(前同証拠)のであって,それも無理からぬ面があったというべきであるから,右誤記が重大な過失によるものとまでは認め難い。
 ⑺ 以上のとおりであって,控訴人の主張はいずれも理由がない。
 よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないので,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官石川良雄 裁判官山口 忍 裁判官佐々木寅男)
 別紙 根抵当権目録
1 極度額 6000万円
2 被担保債権 金銭消費貸借取引,手形割引取引,手形債権,保証取引,小切手債権,保証委託取引
3 債務者 十和田市大字相坂字高見133番地1 有限会社双葉商事
 別紙 債権目録
1 昭和59年12月27日付金銭消費貸借による貸付金3000万円の残元金1810万円
2 昭和60年2月4日付金銭消費貸借による貸付金85万円
3 昭和60年3月4日付金銭消費貸借による貸付金75万円の残元金35万円
4 1の残元金に対する昭和60年9月4日から,2の元金及び3の残元金に対する昭和60年9月3日から,いずれも支払ずみまで年30パーセントの割合による遅延損害金
 別紙 物件目録
 所在 青森県三戸郡階上村大字道仏字耳ケ吠
 地番 9番1
 地目 宅地
 地積 3122・14平方メートル


◎最判平成3年3月22日民集45巻3号322頁

       主   文

 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人関口保太郎,同脇田眞憲,同幣原廣,同冨永敏文,同吉田淳一の上告理由について
 抵当権者は,不動産競売事件の配当期日において配当異議の申出をしなかつた場合であつても,債権又は優先権を有しないにもかかわらず配当を受けた債権者に対して,その者が配当を受けたことによつて自己が配当を受けることができなかつた金銭相当額の金員の返還を請求することができるものと解するのが相当である。けだし,抵当権者は抵当権の効力として抵当不動産の代金から優先弁済を受ける権利を有するのであるから,他の債権者が債権又は優先権を有しないにもかかわらず配当を受けたために,右優先弁済を受ける権利が害されたときは,右債権者は右抵当権者の取得すべき財産によつて利益を受け,右抵当権者に損失を及ぼしたものであり,配当期日において配当異議の申出がされることなく配当表が作成され,この配当表に従つて配当が実施された場合において,右配当の実施は係争配当金の帰属を確定するものではなく,したがつて,右利得に法律上の原因があるとすることはできないからである
 したがつて,これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は,採用することができない。
 よつて,民訴法401条,95条,89条に従い,裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官  中島敏次郎
            裁判官  藤島 昭
            裁判官  香川保一
            裁判官  木崎良平

学説

1 拡張否定説
 【1】否定説は,請求債権額が超過売却(民執61条ただし書・73条)や無剰余取消し(民執63条)の判断の基準となっているので,拡張を許すと手続の安定が害されること,請求債権額を低くすることで登録免許税を免れるのは不当であること,他の債権者は申立債権者の請求債権額を基準に当該競売手続に参加するか否か,他の手続を選ぶかなどの決定をしているので,請求債権額の拡張は他の債権者との関係で信義則や禁反言の法理から許されないこと,執行手続においても申立主義・処分権主義が妥当し,申立債権者は自己の表示した請求債権額に拘束されること,などを根拠とする。(法教343号114頁)
 【2】拡張禁止説の論拠は,①競売申立書において被担保債権及びその一部のみにつき担保権の実行等をする旨の記載を求める民事執行規則170条2号・4号の規定は,その手続内において債権者の請求債権額を確定し,以後の拡張を認めない趣旨を規定したものと解すべきこと,②申立書において請求債権を一部に限定する旨を表示したことに対する他者の信頼を害することは信義則上許されないこと(禁反言),③競売申立書に記載された請求債権額は,いわゆる超過売却(民執73条)の成否の判断を左右するため,事後的な増額を許すと手続の不安定や手続不経済を生じること(一部の文献では,無剰余〔民執63条〕判断にも影響する旨を説くものがあるが,請求債権の額は無剰余の成否には関係がない),④(根)抵当権実行における請求債権額は,差押登記に要する登録免許税の算定の基礎となるため,申立て後の債権の拡張を認めると租税回避を実質的に容認することになること,⑤残部の被担保債権について請求の必要があるときには,競売の二重開始(民執47条)の申立てや配当要求ができるほか,仮に配当要求の終期を過ぎたとしても,申立てを一旦取り下げた上で再度請求債権を増額して競売を申し立てる方法もあるので,債権者に特段の不利益はないこと,というものである。(民執百選(初版)198頁)
 【3】拡張禁止説はほぼ次のように要約できる。被担保債権の一部を申立書に記載しないということは当該手続において配当請求権を主張しないとの意思表明であり,その債権額を前提とした手続において被担保債権の額の拡張を主張することは禁反言に触れ,特に申立書の記載の限度で売却した後に被担保債権の拡張を許すときは手続を混乱させる。また,拡張許容説によるときは,債権額を基準とする登録免許税(登録免許税法別表第一)の節約を奨励することになりかねない。そして,強制競売の場合には民事執行規則21条4号により申立て対象外の債権への配当を受けることができないのであるから,担保権実行について同規則170条4号で同様の規定をした趣旨は,同様の規律に服させることにあるものと解すべきである。(ジュリ1257号102頁)
 【4】⑴ 民事執行規則170条には,不動産競売の申立書の記載事項として,「担保権及び被担保債権の表示」(2号),「被担保債権の一部について担保権の実行又は行使をするときは,その旨及びその範囲」(4号)が定められている。請求債権額は,登録免許税の額の算定基準および過剰競売や無剰余取消しの判断基準となっており(民事執行法61条ただし書,63条,73条等),請求債権額が競売手続の後の段階に至り拡張されると,競売手続の取消しをしなければならなくなるなどの事態が発生するおそれがあって,競売手続の安定性が害されるおそれがある。そこで,民事執行規則170条2号・4号は,競売申立債権者が,競売申立ての段階で,担保権および被担保債権の表示に加え,被担保債権の一部について担保権の実行または行使をするときは,その旨およびその範囲を記載すべきことを要求し,担保権の実行をする請求債権およびその額を,申立ての通りに確定させ,限定させようとするものである。
 ⑵ 競売申立債権者は,自ら競売申立書において,被担保債権の一部について担保権の実行または行使をすることおよびその範囲などを明記して競売申立てをした以上,その後の競売手続においてこれに拘束されることになったとしてもやむを得ない。
 ⑶ 競売申立債権者は,自己の任意の選択によりいったん被担保債権の一部について競売の申立てをした後,残余についても担保権実行の必要が生じたようなときは,その競売手続中であればその配当要求の終期までに新たに拡張部分につき競売の申立てをすることができるから,不都合または不利益な結果とはならない。
 ⑷ 不動産を目的とする担保権の実行としての競売手続は,所定の文書(民事執行法181条1項)が提出されたときに開始し,当事者の申立てにかかる事実を前提として進められるから,競売申立書の記載に従って手続を進行させることが円滑で安定性のある売却手続の実現に資するものである。
 ⑸ したがって,被担保債権の一部について担保権の実行をする旨を申し立てた競売申立債権者は,当該競売手続において,申立てにかかる債権の拡張を制限されてもやむを得ないと言うべきである。競売手続において申立てにかかる債権の拡張を制限されるという結論は,競売申立債権者の選択を信頼した競売手続の関係者に対する禁反言の要請から生ずるものである。(金融法務事情1710号32頁)
2 拡張肯定説
 【1】肯定説は,担保権者は担保権の実体法上の効力として被担保債権の範囲内で優先的弁済を受けることができることを強調し,請求債権の記載は被担保債権の特定のために必要されているにすぎない,とする。(法教343号114頁)
 【2】拡張肯定説の論拠としては,①抵当権の実行によりその登記は全部抹消されるので,拡張の禁止は残部についての優先弁済権を失わせる結果となるが,最高裁規則の規定を根拠として実体的権利の喪失と同じ結果をもたらすのは解釈論として難があること,②申立て外の他の抵当権者は,債権届出に拘束されず配当段階で債権額を増額することができること,③民事執行法87条1項4号・85条2項によれば,担保権者は実体的な優先弁済権の効力の全体を享受できると解すべきであること,④(根)抵当権は被担保債権額や極度額が登記簿上明らかで,後順位担保権者や一般債権者は請求債権の上限を予め承知しているので,請求債権の拡張を認めても特段不利益とはいえないこと,⑤物件の売却価格が申立段階の予想より高額になった場合には拡張を認める必要性があること,が挙げられる(民執百選(初版)199頁)
 【3】拡張許容説は,強制競売の申立債権者が申立て・差押えの効果として配当を受けるのとは異なり,担保権者は実体法上の優先弁済請求権に基づき配当を受けるものである(民事執行規則21条4号と同規則170条4号とを同趣旨と解する理由はない)から,真意に基づく一部実行を除き,申立書の記載で担保権の優先弁済請求権を制限することはできないとする。(ジュリ1257号102頁)
 【4】⑴ 被担保債権額が登録免許税額の算定基準となっているが,それと担保権の優先弁済請求権という実体法上の権利の消長とは関係がなく,被担保債権額が登録免許税の算定基準となるから被担保債権額の拡張が許されないとはいえない。
 ⑵ 超過売却となる場合の取消し(民事執行法73条)は,申立てにかかる複数の不動産のうちの一部の売却により申立債権者の債権および執行費用の全部を弁済することができる場合に,全部についての売却を制限することを意味するところ,申立書記載の債権額を後に縮小する場合には超過売却の事態の発生が考えられるが,債権額を拡張する場合にはそのような事態の発生は考えられない。また,無剰余となる場合の取消し(民事執行法63条)は,申立債権者の債権に優先する債権等を弁済すると申立債権者の債権に配当する見込みがない場合を意味するが,無剰余にあたるか否かは申立債権者の債権に優先する債権の額によるのであって,申立債権者の債権額は無関係である。さらに,申立て債権者が申立ての後の段階に至って被担保債権額を拡張したとしても,競売手続が取り消される事態は考えられない。
 ⑶ 民事執行規則170条2号・4号は,申立書の記載事項を規定しているだけであり,その規定自体から申立書記載の債権額を限定するものとし,拡張を許さない趣旨と断定することは困難である。すなわち,担保権者は,実体法上の優先弁済請求権に基づき配当を受けるものであって,申立書に記載の被担保債権および請求債権の記載は,競売手続の基礎となる債権の表示に過ぎないものであるから,真意に基づく一部実行を除き,申立書の記載をもって担保権の優先弁済請求権を制限することは許されない。
 ⑷ 附帯債権については,具体的な金額未定のまま被担保債権として記載することが許されているし,配当前に被担保債権に対する一部弁済があった場合には被担保債権は減少する。また,根抵当権の実行の場合に,申立て時には未発生であった割引手形買戻請求権が競売手続進行中に発生するなどして被担保債権の範囲が広がったときや,求償債権を担保する抵当権について,事前求償権を請求債権として競売の申立てをした後,代位弁済し,事後求償権に切り替える場合などには,実務上,被担保債権の拡張が許されているし,申立債権者以外の他の抵当権者等の被担保債権額については,届出債権額の拡張も許されている。
 ⑸ 配当要求の終期までに新たに拡張部分につき競売の申立てをすることができるとしても,そのような手段が可能であることは,直ちに被担保債権額の拡張を禁止する根拠とはならない。
 ⑹ 競売手続の関係者は,申立債権者が一部実行をした後,残余の被担保債権について優先弁済請求権を行使しないとの前提で,何らかの法的処理を進めることは考えられない。すなわち,債務者とすれば,一部実行によって残余債権が消滅するわけではないし,後順位債権者とすれば,残余の被担保債権についての実行がないことを事実上期待することがあったとしても,被担保債権の全額について申立債権者が配当を受けることは覚悟しているはずであるから,その範囲内で権利行使される限り格別の不利益を被るわけではない。したがって,競売手続関係者に対する禁反言の要請は,被担保債権の拡張を禁止する根拠とはならない。
 ⑺ 申立書の記載自体から錯誤,誤記等によることが明らかな場合,配当異議の訴えによらなければ被担保債権額を是正することができないとするのは,手続の迅速な解決を阻害するものであり,是正を認めた上で,それを配当表に反映させるか否かは執行裁判所の裁量に任せ,これに不服のある者には配当異議の訴えによりその当否を争わせる方が円滑な売却手続の実現に資する。
 ⑻ 執行裁判所は,申立書,これに添付された担保権の登記のされている登記簿の謄本,配当要求書,債権届出書,債権計算書その他の資料に基づいて債権額を計算する方法で債権額を調査し,最終的に配当期日に配当表を作成する作業をしているから,競売手続が煩瑣となることを理由に,請求債権の拡張を否定することは許されない。(金融法務事情1710号31頁)



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