【ロー過去】中大ロー2011年度商法
今日は中大ローの商法です。
またかよとか言わないでください。
当たり前ですけど,設問はちゃんと読まないといけないですね。≪問題≫
次の【事実】1~6を読み,下の【設問】に答えなさい。
【事実】
1 Aは,甲株式会社(取締役会設置会社・監査役設置会社。以下「甲社」という)の監査役である。
2 甲社では,社長であるB1と専務であるC1の関係が険悪になっており,役員・使用人の多くがB派とC派に分かれて反目しあっている。甲社には6人の取締役がいるが,そのうちB1を含む3人(B1,B2,B3)がB派に,C1を含む2人(C1,C2)がC派に属しており,唯一Dが中立的な立場を守っている。代表取締役は,B1,B2とDの3人である。
3 平成22年8月13日に,甲社で臨時取締役会(以下「本件取締役会」という)が開催され,B2,B3,DおよびAが出席して,甲社の所有する不動産(以下「本件不動産」という)をB1に5000万円で売却する旨の売買契約を締結すること(以下「本件議案」という)について審議がなされた。本件不動産の帳簿価格は5000万円であり,これは甲社の総資産額の15%に該当する。
4 しかし,不動産事業につき知識・経験を有するDは,本件不動産の適性売却価格は,8000万円を下ることはないと考えたため,その旨を繰り返し発言し,Aもこの点について説明を求めた。しかし,B2,B3は契約書の様式などの形式的な事柄だけを論じるだけで,売買価格の当否について具体的な説明を行うことのないまま本件議案の採決が行われ,B2,B3の2人が賛成し,反対派Dのみであったため,本件議案は賛成多数で可決された。
5 翌14日に,B2が甲社を代表して,本件不動産を5000万円で売却する契約がB1との間で締結された。
6 ところが,同月20日になって,本件取締役会については,B1はB2,B3,DおよびAに対してのみ招集通知を発しており,C1,C2は本件取締役会については何ら知らされていなかったことが判明した。また,上記【事実】4に示された本件取締役会におけるB2,B3の議事の進め方は,事前にB1と相談して行ったものであることも明らかとなった。
【設問】
AとDは,本件不動産の売買には問題がある,甲社が本件不動産を取り戻すこと,本件不動産の売買から生じた甲社の損害を弁償することを目的として,B1を相手取って訴訟を提起することはできないか,と検討している。どのような訴訟を提起すべきか,請求は認められるか,について論じなさい。
(120点)
今回,AとDの最終的な狙いとしては
①本件不動産の取り戻し
②損害の弁償
の2つあるわけですよね。
本番焦ってたりすると,片方検討し忘れるなんてことがありそうで怖いです。
中大ローの問題は素直な問いが多い気がします。解きやすいです。≪答案≫
第1.甲社が本件不動産を取り戻すことを目的とした訴訟
1.A及びDは,B1に対し,本件不動産の取得は不当利得であるとして,その返還を請求する訴訟を提起すべきである(民法703条,704条)。
2(1)A及びDは,甲社とB1間の本件不動産に関する売買契約(民法555条)は,有効な取締役会決議を経ておらず,無効であって,本件不動産の取得は「法律上の原因」がないと主張する。
(2)本件売買契約の締結は,「重要な財産の処分」(362条4項1号)にあたり,取締役会決議が必要ではないか。「重要な財産」の意義が明らかでなく問題となる。
法が「重要な財産の処分」について取締役会決議を有するとして趣旨は,不当に会社財産が流出することを防ぎ,もって会社経営の健全性を維持するためである。したがって,会社経営の健全性が害されるような財産の流出がある場合には「重要な財産の処分」といえる。このとき,当該財産自体の額,当該財産が会社資産全体に占める割合,当該財産の保有目的,当該財産の処分態様,従来の取り扱い等を総合的に考量すべきである。
これを本問についてみると,本件不動産は,その帳簿価格が5000万円であり,金額自体が高額であるうえ,これは甲社の総資産額の15%にあたり,資産状況のわずかな変化でも,経営に打撃を受ける会社においては,15%は,その全体に占める割合としてもかなり大きいものといえる。そして,本件売買契約は,取締役会の決議の有効性に疑念を生じるものであって,処分態様にも瑕疵がある。
したがって,本件売買契約の締結は,「重要な財産の処分」にあたる。
(3)※そうすると,本件売買契約締結にあたっては,取締役会決議を要する。この点,B1は,本件売買契約の当事者であって,一切の私心を去って取締役としての善管注意義務ないし忠実義務に従った公正な議決権の行使をすることが必ずしも期待することができず,会社の利益と衝突する個人的利害関係を有するから,「特別の利害関係」を有している(369条2項)。そこで,本件取締役会は,B1を除いた5名の取締役によってなされるべきところ,B2,B3,Dの3名が出席し,このうちB2,B3の2名が本件議案に賛成しているから,それぞれの過半数の要件を充足している(369条1項)。したがって,本件取締役会は,有効であるとも思える。
しかし,本件取締役会の開催にあたって,C1及びC2に対して,招集通知(368条1項)が発せられていない。招集通知は,取締役に出席・準備の機会を与える役割を果たす点,及び取締役会においては831条2項のような規定が置かれていないことにも鑑みれば,招集手続に瑕疵のある取締役会決議は,法の一般原則から無効であると考える。したがって,本件取締役会決議も無効である。
(4)もっとも,取締役会決議を欠いたことは,内部的意思決定の瑕疵にとどまるため,取引の安全の観点から,取締役会決議を欠く重要な財産の処分は,私法上原則有効とすべきであるが,相手方が決議の欠缺について知り,または知ることができたときは無効である。
本問のB1は,甲社の取締役であって,しかも本件取締役会の招集通知を発した張本人であるから,取締役会決議の欠缺について知っていたといえる。したがって,本件売買契約は無効である。
(5)よって,本件不動産の取得について,B1には「法律上の原因」がない。
3.以上から。本件請求は認められる。
第2.本件売買契約から生じた甲社の損害を弁償することを目的とした訴訟
1.A及びDは,B1に対して,任務懈怠に基づく損害賠償を請求する訴訟を提起すべきである(423条1項)。
2(1)B1は,甲社の「取締役」であり,「役員等」にあたる。
(2)「任務を怠った」とは,役員等が善管注意義務(330条,民法644条)及び忠実義務(355条)に違反したことをいうところ,役員等は忠実義務の一内容として法令遵守義務を負うから,法令違反の行為は直ちに「任務を怠った」といえる。
本問において,B1は,前記のように,本件取締役会の招集手続に法令違反の瑕疵がある上,「重要な財産の処分」についても取締役会決議が無効であるから,法令違反の瑕疵がある。
したがって,B1は「任務を怠った」といえる。
またB1はこれにつき悪意である(428条1項反対解釈)。
(3)本件売買契約によって,甲社は自己の不動産を逸失しており,本件不動産相当額の「損害」を受けている。そして,これはB1の任務懈怠から生じており,芯が関係もある。
3.よって,本件請求は認められる。
第3.請求間の処理
A及びDとしては,本件不動産が甲社に取り戻されることを期待しているから,上記不当利得返還請求を主位的請求とし,上記損害賠償請求は,主位的請求が認容されることを解除条件とする予備的請求とする。
以上
※ここの下線部の記述は不要でした。
まぁ,まだ商法しか解いたことがないんですけれども(1か月きってるのに)。
最後の請求間の処理は,設問では問われていませんが,
複数請求権が認容される可能性がある場合には,
相互の処理についても触れるべきではないかなあと思います。
今日は答練があって疲れたのでもう寝ます。おやすみなさいまし。
以上