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2020-05-16(Sat)

【ロー過去】中大ロー2020年度刑法

中大ロー2020年度刑法の解説です。

解説を書いたのは私ではなく,通信添削ゼミで刑法を担当していた者です。

≪問題≫

 次の【事例】を読み,下記の【設問】に答えなさい。解答用紙は,表面(30行)のみを使用すること。

【事例】
1 A(52歳:男性)は,その妻である甲(50歳)及びその長男である乙(28歳:Aと先妻との間に生まれた)と3人でアパートの一室に同居していたが,勤務先の会社が倒産し,Aが失業状態となった5年前から,深夜にひどく酩酊して帰宅すると,大声を出して暴れ,甲と乙に殴りかかって負傷させたり,壁をたたいて穴をあけたり,テレビや冷蔵庫を壊したりということを幾度となく繰り返してきた。そうしたときは,甲と乙は,暴れるAの身体を2人がかりで押さえ付け,Aが疲れて眠ってしまうまで押さえ続けるなどしてこれに対処していたが,アパートの住人たちから騒がしいと苦情を言われることがたびたびあり,アパートを追い出されかねない状況となったため,暴れるAを早く落ち着かせるため,Aの手足をロープで縛り,口にガムテープを貼ることもしばしばあった。
2 2018年8月某日の午前6時頃,Aは,相当に酩酊した状態で帰宅したが,ちょうどパート先に赴くところであった甲から,「働きもしないで朝帰りか。」などとたしなめられて激高し,ふらつく足で甲に殴りかかろうとしたので,乙がAを後ろから羽交い締めにしてこれを制止した。乙は,Aが後頭部で乙に頭突きをしようとするので,Aをそのまま床に組み伏せ,そこに甲が加わり,乙がうつ伏せのAの上半身を,甲がAの下半身を押さえ付けて動けないようにした。それでもAが手足を激しく動かして起き上がろうとするので,甲は全力で背後から腰の部分を押さえ付け,乙は,Aを早くおとなしくさせるため,頸部を強く締めるのがよいと考え,右ての親指と揃えた他の4本の指とでAの頸部を挟む形で,思い切り体重を掛け,Aが抵抗しなくなるまで全力で押さえ続けた。甲は,下半身を押さえるのに懸命であり,乙がAの頸部を押さえ付けていることは知らなかった。5分ほどしてAが動かなくなったので,甲と乙は手を離し,傍らにあったロープをAの両足首に巻き付けて縛り,また,Aの両手を後ろ手に回し両手首をあわせて縛りつけた。Aがすぐにおとなしくなったので,口にガムテープを貼ることはしなかった。
3 甲は,同日午前6時30分頃,パート先に向かうため,「後はよろしく。」と言ってアパートを出たので,そこには乙とAが残された。同日午前7時過ぎ,乙は,Aの頸部を少し強く絞めすぎたかもしれないと思って心配になり,Aの様子を見たところ,呼吸をしておらず,身体を揺さぶってもまったく反応せず,すでに死亡しているように見えた。乙は気が動転し,ひどい親のせいで自分の人生までメチャクチャにされてはたまらない,遠くに逃げて警察に逮捕されることだけは免れたい,と考え,当座の逃走資金にする目的で,Aが甲に内緒で現金を保管していた机の引き出し(乙のみはそのことに気づいていた)を開け,その中にあった現金15万円を取り出してそれを自分のポケットに押し込み,アパートから立ち去った。
4 同日の午後になって,帰宅した甲がアパート内で死亡しているAを発見し,すぐに警察に通報した。Aの死因は,乙による頸部圧迫に起因する窒息死であり,すでに同日午前6時30分頃には死亡していたものと推定された。

【設問】甲及び乙の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く)。

≪出題趣旨≫

 本問の設例における甲と乙の刑事責任を明らかにするに当たっては,⑴甲と乙が,暴れるAを押さえつけ,頸部を圧迫することでAを死亡させたことについて,それぞれがどのような罪責を負うか,そして,⑵乙が,Aがすでに死亡していることに気づき,生前のAが所有していた現金15万円を持ち逃げした点について乙にいかなる犯罪が成立するか,という2つの問題について検討することが必要である。
 まず,⑴について見ると,乙の頸部圧迫行為とAの死亡の結果の発生との間に法的因果関係が肯定されることから,乙は傷害致死罪(刑法205条)の構成要件に該当する行為を行っている。そこで,甲と乙との間で,傷害致死罪の共同正犯(の構成要件該当性)を認めうるかどうかが問題となる。判例・通説は,暴行の故意さえあれば傷害致死罪が成立とうるとするとともに,結果的加重犯の共同正犯についてもこれを肯定することから,暴行の故意しかなかった(すなわち,暴行の限度で乙との間に意思連絡がある)甲についても,傷害致死罪の構成要件該当性が認められることになろう。ただし,結果的加重犯については,重い結果の発生との関係で過失を要求する学説も多く,その見解(判例の「過失不要説」に対し,「過失必要説」とも呼ばれる)によれば,乙がAの頸部を強く圧迫していることをまったく認識していなかった甲には,重い結果との間に過失がなく,甲の行為については傷害罪の限度でしか共同正犯の構成要件該当性を認めることができないとする結論をとることも可能であろう。
 次に,甲・乙のAに対する行為が正当防衛(刑法36条)として違法性が阻却されうるかどうかが問題となる。Aの甲・乙に対する暴行は,急迫・不正の侵害といいうるし,乙がAを組み伏せた段階ではまだ侵害の継続性を肯定できる。しかし,酩酊したAを二人で押さえつけ,しかも頸部を思いきり圧迫することは,防衛の意思をもって行われているとしても,もはや必要最小限の反撃とはいえず,防衛行為の相当性が否定されるであろう。乙については,過剰性ある事実を認識していることから傷害致死罪が成立するが,過剰防衛(刑法36条2項)となる。これに対し,乙による頸部の圧迫のことを知らなかった甲については,護送防衛(相当性を基礎づける事実の誤信)としてせいぜい過失致死罪の罪責を負うにとどまることとなろう。
 ⑵について見ると,乙が現金を持ち逃げした時点において,すでにAは死亡していたことから,相続財産に帰属する当該の現金15万円については相続人(という他人)の所有が認められるとしても,占有侵害の要件を肯定することができず,窃盗罪(刑法235条)ではなく,占有離脱物横領罪(254条)しか成立しないのではないかが問題となる。この点につき判例は,一定の要件の下に,死後における行為であっても被害者の生前の占有を侵害しうることを認めており,この事例でもその要件が充足されると考えられるところから,乙には窃盗罪の成立が認められることになろう。その上で,親族相盗例(244条1項)の適用の可否が問題となるが,同条の適用にあたっては所有者と占有者の両方との間に所定の親族関係があることが必要とされるところ,本事例では,占有者がAであり,Aと乙との間に直系血族の関係があるとしても,所有者たる相続人(全員)と乙との間に所定の相続関係があるかどうかが明らかではない。ただ,解答に当たっては,およそ親族相盗例の適用の問題とし,それを本事例に適用する上での論点を指摘すれば,それに対し十分に高い評価が与えられることになる。



令和元年度中央大学法科大学院入試
刑法 解説篇
(※1)

第1 はじめに
  新型コロナウィルスの影響により中央大学が誇る炎の塔が閉鎖されて久しい。司法試験も延期となり,今後のスケジュールに不安を覚えている受験生も多かろうと思う。本稿は,そんな受験生のために昨年度の法職専門指導員が開講したロー入試通信対策ゼミの解説篇である。
 もとより,本稿は一司法修習生にすぎない小生の筆によるもので,絶対の解説ではない。むしろ,このような考え方もありますよね,ということを示しているだけであると御理解いただきたい。よもやそのような方はおられまいが,本稿を金科玉条にすることだけは現に慎んで欲しいのである。むしろ本稿が読者諸兄の積極的な批判に晒され,より良い解説を産み出すことの嚆矢となれたのであれば,それは筆者にとり望外の喜びというほかない。
  なお,本問を単なる刑法の問題として終わらせて欲しくないというのが,筆者のひそかな願いであったりする。これが実際の事件であったならば,Aは死亡し,甲乙は精神的に大きな打撃を受けることになる。我々が目指す法曹は,刑事裁判が終わればそれまでのように思いがちであるけれども,当事者にとって事件は一生終わらないのである。
 そこで考えて欲しいのが,どうすればこの事件を防げたか,ということである。本件は典型的なDVが発端となっているから,甲乙はAから逃れるために役所にDV被害の相談をしに行くべきであった。その相談をしにくい現状があるのであれば,その障壁を取り除かなくてはならない。AのDVの原因が失業であったなら,職探しの支援が行われるべきであるし,アルコール中毒になっていたならば,断酒会に参加することも考えられる。いや,そもそも失業しなければ普通の生活が起こらなかったというのであれば,会社が倒産しないように不況を改善すべきであったかもしれない(※2)
 フランツ・リストは,「最良の刑事政策は最良の社会政策である」という格言を残している。刑事裁判に携わることを希望するのであれば,幅広い学問に携わることが重要である(※3)。ぜひ研鑽を積んで欲しい。
 では,始めよう。

(※1)本稿で引用する文献の凡例は,以下のとおりである。
・井田良『講義刑法学・総論 第2版』(有斐閣,2018)→ 井田総論
・井田良『講義刑法学・各論』(有斐閣,2016)→ 井田各論
・小林充・植村立郎編『刑事事実認定重要判決50選上 第2版』(立花書房,2013)→ 50選上〔執筆者〕
(※2)経済的苦境が犯罪を引き起こすというのは,過去の歴史が裏付けている。たとえば,現在では死刑の基準として知られている永山事件も,経済的苦境が犯罪の背景にあったのである。この点については,夏樹静子『裁判百年史ものがたり』(文藝春秋,2012)273頁以下。
(※3)この点,刑法学は学際科学であると評される(井田良『入門刑法学総論』(有斐閣,2013)16頁)。経済学(岩田規久男『経済学を学ぶ』(筑摩書房,1994)),政治哲学(サンデル〔鬼澤忍訳〕『これからの「正義」の話をしよう』(早川書房,2011),歴史学(川北稔『世界システム論講義』(筑摩書房,2016)),精神医学(フロイト〔高橋義孝・下坂幸三訳〕『精神分析入門』(新潮社,1977)),古典(橋本治『これで古典がよくわかる』(筑摩書房,2001)),哲学(木田元『わたしの哲学入門』(講談社,2014),筒井康隆『誰にもわかるハイデガー』(河出書房,2018))など,多くの学問を学んで欲しい。最近,私が読んで深い示唆を受けたのは,ほぼ日刊イトイ新聞編『岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。』(株式会社ほぼ日,2019)である。


第2 総論
 1 題材について
   本稿がテーマとするのは,2020年度中央大学法科大学院入試問題の刑法である。中央大学法科大学院では,2019年度以来入試問題の出題趣旨を公表するようになっており,これを参考にすることが重要となる。問題文と出題趣旨は別紙として末尾に添付しておくので,適宜参照されたい。
   本論に入る前に,中央大学法科大学院入試について触れておこう。受験生の方々には釈迦に説法であろうから,読み飛ばしてもらったとしても構わない。
    まず問題となるのは,刑法では30行指定があることである。今後,どのようになるかは定かでないものの,2020年度入試まででは,刑法は配布される解答用紙の表面30行ですべてを書ききらなくてはならないこととされている。したがって,コンパクトに法的三段論法を書くことが重要になってくる。
 法的三段論法といえば,

「規範定立→事実の当てはめ→結論」

という流れを指すものであると,受験業界的には理解されている(※4)。しかし,これをフルスケールで示すと,とてもではないが圧倒的に行数が足りない。したがって,これを適切に圧縮することが必要となる。一例を示そう。
 住居等侵入罪は,簡潔に書かなければならない犯罪の代表格であるといえよう。読者諸兄は,住居等侵入罪を起案する際,「侵入」の該当性について,次のように論じているのではなかろうか。
     
「AはV宅に無断で入っているのであるから,当該行為は住居権者たるVの意思に反する立ち入りであるといえ,「侵入」に該当する。」
    
 これを抽象的に言えば,

「事実の指摘→規範による事実の抽象化→結論」

といことになる。ポイントは,従来の法的三段論法とは,規範と事実の順序が逆転していることである。意識すれば何のことはない。
 このように,コンパクトな法的三段論法は意外とできている人が多かったりする。小生が添削をしていても,すんなり出来ている人は相当数いるものだ。しかし,これが他の犯罪になると出来なかったりする。住居侵入罪は住居侵入罪,他の犯罪は他の犯罪という風に,ある意味で型に囚われてしまっているからだと思料するが,どうだろう。上記の流れも一種の型ではあるものの,より一般的な型であるから,参考にされたい(※5)
 それと,これは豆知識であるが,ボールペンで起案することだけは避けて欲しい。ただでさえギッチリ書くことになるのだから,加筆修正などできるはずもない。ボールペンで書いて真っ黒な起案を提出するくらいなら,シャープペンシル等で起案して消しゴムを使えるようにしておこう。
    次に問題となるのは,問題の難しさである。
 中央大学法科大学院は,はなはだ不思議なことに,他の法分野に比べると刑事法のスペシャリストが非常に多い。過去には,安廣文夫元東京高裁判事や中山隆夫元福岡高裁長官が在籍しておられ,現在は,髙橋直哉教授や佐伯仁志教授,そして小生が尊敬してやまない井田良教授が教鞭を振るっておられるのである。中央大学法科大学院に進学すれば間違いなく刑事法のスペシャリストになれるといっても,決して過言ではないと思う。
 そのような神々が作問をしているだけあって,なかなか骨の折れる問題が多い。特に,2019年度の問題は,30行指定も相まって凶悪な難易度となっていた。2020年度もそうである。
 しかし,骨の折れる問題といっても,決して奇をてらった問題というわけではない。判例通説の知識さえ押さえておけば十分に料理できるような「良問」である。事前の準備さえしておけば,あとはその場でコンパクトに仕上げてしまえば対応は十分に可能である。
 とはいえ,言うは易し行うは難し,といった至言もある。徹底的な訓練が必要だということにはなろうが,それは逆に言えば,徹底的な訓練さえすればどうとでもなる,ということでもあるのである。
   長々と中央大学法科大学院について書きすぎた。首を長くしている読者諸兄もおられようから,そろそろ本題に入ることにしよう。
 2 出典
   本問を見たとき,既視感を覚えるようであれば,その人は十分に学習が進んでいるものと思われる。本稿を読む必要などないから,手持ちの基本書や演習書でガンガン勉強を進めていただきたい。見覚えがないというのであれば,本稿を読んでおくことを手前味噌ながら推奨しておこう。
   本問の前半部分は,黄色本との愛称で親しまれている井田良ほか『刑法事例演習教材 第2版』(有斐閣,2014)74頁以下に収録されている「哀しき親子」が題材になっている(その元ネタは東京地判平成14年11月21日判時1823号156頁であるので,余裕があれば読んでおくとよい。)。そのため,黄色本をやっていた人にとっては,まさにラッキー問題であったといえよう。ここに,演習書をやるうま味がある。
 しかし,思わぬ落とし穴もある。30行指定である。人間,知っている問題が出ると有頂天になり,オレはこんなに知っているんだぜ,と言わんばかりに衒学的に知識を披露したがる。そうなると,30行はすぐに埋まってしまい,後半部分がスッカスカになってしまうのだ。これは非常にもったいない。しかも,衒学的であると友達も減る。心していただきたい。
   後半部分は,いわゆる死者の占有の典型的な問題である。ここも落としてはいけないポイントである。というより,中央大学法科大学院を受験するような受験生であれば,およそ知っている論点であり,ここを落とすようだと,言い方は厳しいが,不合格推定が働くようになる。入試には「疑わしきは受験生の利益に」などという原則はない。
   さて,ここまで書けばお分かりなとおり,本問は非常に典型的な問題であり,事前準備の差が合否を分けたといえるだろう。特に司法試験までの試験では,事前準備で引出しを増やしておくことが非常に重要である。本稿も,読者諸兄の引出しを増やすことに貢献させていただきたい。

(※4)法学的な意味での法的三段論法は,少し異なる。筆者は,法学的な意味での法的三段論法をマクロな意味での法的三段論法と,受験業界的な意味での法的三段論法をミクロな意味での法的三段論法と呼んで峻別しているが,本稿で触れるべきポイントではないので,割愛する。
(※5)刑事法の答案の書き方については,田中和壽子「結論から書く司法試験答案」法学セミナー2014年9月号32頁以下が大いに参考になる。


第3 哀しき親子
 1 論点と判例
   大まかな論点を先に紹介しておこう。こうすると,論点主義の誹りを免れないかもしれないが,体系的な知識さえあれば,論点主義も悪くはないだろう(そうなってしまうと,もはや論点主義ではない,との批判は甘んじて受け止めよう。)。
   まず大切なのが,相当性の議論である。相当性については,最判平成元年11月13日刑集43巻10号823頁が最重要判例であるから,丁寧に復習しておいていただきたい。重要なのは,武器対等の原則を基本に,行為者と被害者の性別,年齢,体格等を適切かつ具体的に検討していくことである(※6)
 なお,「やむを得ずにした行為」については必要性と相当性に分けられることがあるが,ここにいう必要性は,自己又は他人の法益を防衛するのにどうしても必要な行為でなければならない,ということまでは含意していない。そこまで要求するのは,緊急避難における補充性である。ここにいう必要性とは,攻撃防止のための手段として何ら役に立たない行為が行われた場合に否定される要件である(※7)。憲法論でいうところの適合性と同義である,と表現すれば理解が促されようか。
   次に問題となるのが,違法の連帯の議論である。この論点については最決平成4年6月5日刑集46巻4号245頁という重要判例があるから,しっかりと押さえておいていただきたい。もっとも,この議論は非常に難しいものであるから,あとで詳しく触れておくことにする。
 2 問題点
   中心的論点について解説する前に,添削をしていて見受けられた問題点について触れておくことにしよう。なお,本項で指摘する問題点は,小生が「そうかなるほど!」と相槌を打つようなものであるから,本項で取り上げられたことで恥じ入る必要はまったくない。
   正当防衛を論じる上で,入口の議論になるのが急迫性要件である。最近になって,急迫性の議論に激しい動きが生じていることから,本問でも急迫性の問題ではないかと考えた方がいた。問題意識としては決して悪いものではないが,ともすると衒学的答案との烙印を押されかねないので,まずは適切に議論を辿っていこう。
    従来,急迫性が否定されるのは主に積極的加害意思がある場合とされていた(※8)。積極的加害意思とは,「予期された侵害の機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思」と定義されるもので,侵害の確実な予期が前提となる(※9)。そのため,積極的加害意思を分解すると,①侵害の確実な予期と②積極的に相手に対して加害行為をする意思の存在という二つの要件が必要だ,ということになる。
 本問の場合,Aの従前の態度や酒乱具合に鑑みれば,侵害の確実な予期はあったと評価することも可能であるように思われる。しかし,甲及び乙がAを押さえつけるのに乗じて同人を痛めつけようと画策していたとの事情は存在しないのであるから,②の要件に該当する事実が存在しないということになる。積極的加害意思を肯定するのは困難であるといわざるを得ない。
    さて,積極的加害意思が否定される場合,従来であれば急迫性の議論は終わっていた。しかし,最決平成29年4月26日刑集71巻4号275頁(※10)が出た今日にあっては,積極的加害意思の検討以外にも急迫性が否定される場合があるとして,その検討をしなくてはならないのである(※11)。とはいえ,本決定で示された要素をすべて覚える必要はない。本決定は,正当防衛という難解な法律概念をどのようにして裁判員に説明するかという議論の延長に位置付けられたものであるから,ある意味で一般人の常識的な議論が反映されることになる。無論,我々は法律家を志すものであるから,単なる感想を並べ立てるのは御法度であり,起案に表現する場合には,本決定を意識した丁寧な議論が求められるであろう(※12)
 しかし,いずれにせよ本件で急迫性が否定されるような事情は存在しない。本決定によったとしても,急迫性は何の疑いもなく肯定されるべきであろう。
   次に,甲及び乙の行為を分析的に捉えて,上半身と下半身を押さえつけた行為を第1行為,頸部を挟む形で押さえつけた行為を第2行為とした答案があった。これも,分からないではない。しかし,原則は全体的評価であり,分析的評価は例外的なのである。
 そもそも,全体的評価か分析的評価が問題となるのは,いわゆる量的過剰防衛が問題となる場面である。そして,量的過剰防衛が問題となる場合というのは,あくまで短時間のうちの一連の行動が問題となっている場合なのであるから,人の行動についてその刑事責任を過不足なく捉えることが要求される刑事裁判においては,あえてその行動を分節するというのは合理的な扱いとはいえないであろう。むしろ,「短時間のうちに連続的に推移し,社会的には一つのエピソードとして存在する事態の取り扱い方」としては,全体的評価の方が合理的な選択なのである。かくして,分析的評価は特殊な事情が認められる場合の例外,全体的評価が原則的な場合であるという結論が導かれることになる(※13)。この点は,喧嘩闘争について全体的考察をした最判昭和32年1月22日刑集11巻1号31頁が参考になるところである。
 一方,分析的考察が有益な場合もある。その点が示されたのが,最決平成20年6月25日刑集62巻6号1859頁と最決平成21年2月24日刑集63巻2号1頁である。前者では,分析的考察の要件として,①第2行為につき侵害の継続性と防衛の意思の双方が否定されること,②第1行為と第2行為の態様がそれぞれ異なること,が挙げられている。したがって,これらの要件に該当するような事実が無い場合,原則として全体的考察によるべきだということになる。
 本問において,例えば,甲及び乙がAを押さえつけたことで同人が全く身動きの取れない状況になり,かつ,乙が憤激にかられていたような場合には,単なる押さえつけと頸部を指で挟みながらの押さえつけとは異なる態様であると評価して,分析的評価をするべきであると考えることも可能であろう。しかし,本問のようにAが酒に酔って暴れていたような場合に単なる押さえつけ程度でAが暴れるのをやめるといえるであろうか。むしろ,押さえつけを解除した途端に再びAが暴れだすと考えるのが自然であろうから,侵害の継続性が否定されるようなことはないだろう(※14)。したがって,本問のような場合に分析的評価をすることは考えにくい。素直に全体的評価をすべきである。
   ほかに,本問を共謀の射程論で処理した答案もあった。共謀の射程論は目新しい議論である(※15)から,使いたくなる気持ちも分からないではない。しかしながら,共謀の射程論を論じて欲しい場合には,共謀から生じた結果発生の危険が現実化しなかったということを基礎づける事実が多く散りばめられているはずであるから,そこに注意しなくてはならない(※16)。これは問題と対話するということであり,問題演習には欠かせないスキルであるから,徹底的に訓練することが必要である。
 3 構成要件該当性
   共同正犯を論じる場合,難しいのが論じ方である。共同正犯の構成要件は,実務の立場に従う限り,共謀(意思連絡+正犯意思)及び共謀に基づく実行行為であるとされている。もっとも,その前提として実行行為を筆頭とする客観的構成要件要素充足性(※17)が必要になる。そして,ここまでは共同正犯で共通に考えればよく,後述の制限従属性の立場からは,故意などの主観的要素については各個人につき別々に検討すべきだということになる。論じる順番としては,①客観的構成要件充足性,②共謀,③共謀に基づく実行行為,④故意ということになるだろう(※18)
 とはいえ,これはあくまで検察の終局処分起案の考え方である。司法修習前の試験答案においては,行為者から論じるのが通常であるから,行為者の段階で①及び④を論じて,それ以外の者は①を前提として②以下を論じることになるだろう(※19)。典型的な実行共同正犯の場合には,行為ごとに論じることになるため,端的に①以下を検討すれば足りることになるはずである。
   では,正当防衛はどこで論じるべきか。これは非常に難しい問題であるといえる。井田教授の提唱される消極的構成要件要素の理論(※20)によれば,①から④のすべての段階で意識されることになるだろう。すなわち,①では急迫性や防衛の対象となる法益,相当性といった客観的な要素が,④では積極的加害意思や防衛の意思といった主観的な要素が問題となるはずである。一方,検察の終局処分起案では,①から④の検討を終えた後にその存否について検討することになる。
では,資格試験の答案ではどうすべきか。さしあたり,実行行為者から論じることになる場合には,①及び④の検討だけで終わることが多いから,その際は④の後で検討すれば足りるだろう。一方,行為ごとに論じる場合には,検察の終局処分起案に倣い,①から④の後で検討するということになるだろうか。大切なことは,判例通説に従うのであれば,構成要件該当性を論じた後に違法性阻却事由を論じるということであり,正当防衛を論じる上でも,客観から主観という風に検討を進めていくべきであるということである。
   本問では,中心的な実行行為者は乙であるから,まずは乙を単独正犯に準じて検討すればよい。本問では暴行罪から論じて,最終的に結果的加重犯としての傷害致死罪を論じるべきだろう。中には傷害罪を検討している者もいたが,故意論で暴行罪について論じるのであれば,客観的構成要件も暴行罪に揃えなくてはならない。なお,故意も構成要件要素なのであるから,これを論じないと刑罰権が生じないことに留意するべきである。
 その後,乙については正当防衛を論じることになる。急迫性については前の段で論じたし,専ら積極的加害意思がある場合でない限り防衛の意思も否定されることはない。残すは相当性である。
    乙の罪責について論じ終えたら,次は甲である。具体的な客観的構成要件要素については乙で論じているから,それを前提にして②以下を検討すればよい。本問は典型的な現場共謀であるから,共謀が否定されることはないだろう。なお,共謀の認定には意思連絡が必要であるところ,具体的な謀議行為がなくとも単なる目配せ程度でも肯定されることがある。本問もそのパターンに該当するだろう。共謀に基づく実行行為が肯定された時点で,違法が連帯することになる。そして,最後に誤想防衛について論じることになるわけである(※21)
 4 相当性
   それでは,相当性の議論に移ろう。刑法の答案の場合,行為者から論じていくのがセオリーであるから,まずは危険な行為をした乙の罪責から論じていくべきである。
   相当性は,前述したとおり必要性の議論と相当性の議論とに分けることのできる法概念である。そして,必要性が否定される場合というのは事例問題において通常考えられないから,検討するにしても一言で終わらせて相当性の議論に移るのが賢明であろう。
 さてその相当性である。相当性は「当該具体的事態の下において当時の社会通念が防衛行為として当然性,妥当性を認め得るもの」であると定義される(※22)から,その判断は畢竟,判断する人の常識に委ねられる。そこにこそ,相当性の議論の難しさがあるといえよう。
   もちろん,社会通念だからといってフリーハンドの議論であってはならない。あくまで,指針となる判断要素を適切に把握する必要がある。ここで一般的に挙げられるのが,①武器対等の原則,②侵害者と防衛行為者の身体的条件,③侵害行為の態様,④防衛行為の態様,⑤侵害排除のための代替手段の有無である(※23)。そして,事例問題においては上記の要素に該当するような事情が大量に散りばめられているのであるから,これを丁寧に拾って評価していけば,高得点を得られることは間違いない。このような規範的要件というのは非常に当てはめが難しいけれども,難しいからこそ体得すれば合格に近づくのである。
   さて,本問ではどうか。まず,①甲及び乙もAも素手であるから,武器対等の原則からすれば相当性が肯定されよう。②Aは52歳の男性であって高齢ではあるものの体力があるといえる一方,甲は50歳の女性であり通常は非力であると考えられるから,28歳の男性で力があると考えられる乙と共同でAを押さえつけたとしても,それだけで不相当であるとはいえない。③Aはふらつく足で甲を殴ろうとしたのみであるから,侵害行為は軽いものであると評価できるといえるものの,従前のAの酒乱具合からすればその後の苛烈な暴行は想像に難くないから,侵害行為の態様としては激しいものであると考えることも可能である。④単に上半身や下半身を押さえつけるだけであれば生命に対する危険性は乏しいものの,人体の枢要部である頸部を押さえつける行為は相手を窒息死させる危険性がある行為であるから,全体として考えれば侵害行為に対して過剰な防衛行為であると考えられよう。⑤最後に,甲及び乙は,Aが暴れないようにロープで緊縛するなどしていたことがあり,そちらの方が頸部を押さえるよりも危険性が低いのであるから,今回もそれによれば足りたと考えられ,しかも実際にロープで縛りあげているのであり現実的に採りえない行動ではなかったといえるし,ロープを使わずとも,そのままAが眠るまで押さえつけるということも過去に成功していた以上は採り得たといえよう。
 これらの事情を考えれば,本件で相当性を肯定するのは困難であるといえよう。
 5 違法の連帯
   本来であれば,そのまま乙の窃盗罪の罪責について論じるのが答案上の流れであるものの,甲の誤想防衛について論じるのが便宜であるため,先に甲の罪責を検討することにする。
   甲の罪責を検討する上で欠かせないのは,違法の連帯,という議論である。違法の連帯とは,違法行為に協力した場合には協力者の行為も違法であると評価される,というものである(※24)。これは,広義の共犯における制限従属性説を前提としたものであり,これに対して責任は個別に検討されることになる。もっとも,行為無価値論を前提とする限り,行為者の主観的認識の違いにより違法の有無が相対的に決せられることになる(※25)。これは違法の本質を法益侵害に求める結果無価値論からは導かれない結論なのであって,規範に違反した行為をしたという点を違法の本質とする行為無価値論の特徴の一つであるといえるだろう。
 さてそうなると,誤想防衛では責任故意が阻却されることになるのであるから,仮に過剰防衛によって違法が連帯することになったとしても,責任が個別に判断される以上,その者は何らの罪責も負わないことになるわけである。本問も,甲は過剰性を認識しておらず,その認識としては正当防衛の要件を完全に充足していたのであるから,一種の誤想防衛として責任故意が阻却されることになるだろう。
 ここで注意されるべきは,誤想防衛と誤想過剰防衛の区別である。誤想防衛とは,その者の頭の中では眼前の状況が正当防衛であることを意味するのであるから,過剰性を認識していない以上,その者の頭の中では相当性が充足されていることになるわけであって,これは一種の誤想防衛であると評価できることになる。一方,誤想過剰防衛とは,その者の頭の中では眼前の状況が過剰防衛であることを意味するのであり,過剰性の認識自体はあることになる。この点を誤ると頓珍漢な議論になるため,十分な注意が必要である。
   最後に問題となるのは,甲について何らの罪責も負わないことになるのかである。誤想防衛による責任故意阻却説によれば,論理上の難点はあるけれども,死の結果発生に関する予見可能性さえあれば過失致死罪になるとされる。過失致死罪を成立させるならば,その点の論述を忘れてはならないだろう。

(※6)50選上101頁以下〔松井芳明〕。
(※7)井田総論314頁以下。
(※8)最決昭和52年7月21日刑集31巻4号707頁。
(※9)50選上79頁〔栃木力〕。なお,栃木判事は司法研修所の現所長である。
(※10)この判例の批評として面白いものに,高橋則夫「急迫性の判断構造」研修837号3頁以下がある。刑法総論の奥深さを味わえることだろう。
(※11)正当防衛論については,井田良「正当防衛をめぐる議論の現状」季刊刑事弁護96号10頁以下に詳しいので,一読を推奨する。また,刑事弁護を志す方は,井田良ほか「座談会 正当防衛の成否は何で決まるのか」季刊刑事弁護96号44頁以下も読んでおくとよいだろう。
(※12)なお,本決定には退避可能性の議論も影響しているように思われる。退避可能性については,佐藤文哉「正当防衛における退避可能性について」『西原春夫先生古稀祝賀記念論文集第1巻』(成文堂,1998)242頁以下参照。なお,髙橋直哉「正当防衛状況の判断」法学教室453号10頁以下。
(※13)以上,永井敏雄「量的過剰防衛」『現代裁判法体系30〔刑法・刑事訴訟法〕』(新日本法規,1999)132頁以下。
(※14)この侵害の継続性については,最判平成9年6月19日刑集51巻5号435頁を参考にしてほしい。
(※15)実はその出自は古く,因果的共犯論をドイツから本邦に輸入した平野龍一博士により,その議論の萌芽は示されていたのである(平野龍一『刑法 総論Ⅱ』(有斐閣,1975)343頁)。
(※16)共謀の射程論について,因果関係論における危険の現実化説とパラレルに考える見解が有力である(橋爪隆「共同正犯をめぐる問題⑷ 共謀の射程について」警察学論集70巻10号160頁以下)。
(※17)すべての構成要件を充たしていることを構成要件充足性ということがある。これは団藤重光博士からの伝統であり,大谷實教授に引き継がれている。もっとも,最近は充足性という言葉はあえて使われないようである。
(※18)司法研修所検察教官室『検察終局処分起案の考え方(令和元年版)』25頁以下。
(※19)二人組の共謀共同正犯の場合を想像してもらえれば足りる。つまり,実行行為者は単独正犯に準じて検討し,共謀者は共同正犯として論じるわけである。本文はこのことを示しているに過ぎない。
(※20)井田総論96頁以下。
(※21)なお,誤想防衛で責任故意が阻却される場合,それは責任阻却事由であるから,まずは構成要件要素としての故意を検討しなければならないように思われる。しかし,その場合に暴行罪の故意があるとした場合,行為無価値論を前提とする以上は,誤想防衛について過失致死罪に問うことはできないはずなのである。この辺りは非常に難しい問題であり,これを解決する唯一の道は消極的構成要件要素の理論を採用することであるように思われる。実際に起案する場合には,この辺りには目をつぶり,共謀に基づく実行行為を認定し終えてから誤想防衛の問題を検討すれば足りようか。
(※22)最判昭和24年8月18日刑集3巻9号1465頁。
(※23)武器対等の原則を唯一絶対の指針とし,これを形式的にではなく実質的なものとして捉える見解も有力である(50選上106頁以下〔松井芳明〕)。
(※24)井田総論388頁。
(※25)井田総論485頁以下。


第4 死者の占有
 1 議論状況
   次に論じられるべきは死者の占有である。これは,窃盗罪における「窃取」概念の論点であるから,そこに引き付けて検討されなくてはならないといえる。このように,条文の文言に照らして論点を考えることは,法解釈において最重要の作法であるから,常に気を配らなくてはならない。
   死者の占有という論点は,被害者を死に至らしめた者が,被害者の死亡後にはじめて領得意思を生じた場合に顕在化する。被害者を死に至らしめた者以外が同人から財物を持ち去った場合,被害者は死んでおり占有を観念できないから,単なる占有離脱物横領罪となる。そして,この場合と平衡を保つために,被害者を死に至らしめた者が事後的に領得意思を生じた場合にも死者の占有を認める必要はない,というのが有力説であるとされている(※26)
 一方,判例は上記の有力説とは異なる結論を採用する。ここで重要なのが,判例は決して死者の占有を肯定しているわけではない。最判昭和41年4月8日刑集20巻4号207頁は,あくまで「被害者が生前有していた財物の所持はその死亡直後においてもなお継続して保護するのが法の目的にかなう」としているのである。したがって,判例実務の見解に立脚する場合,死者の占有が肯定されるとすることは誤りである。
 2 要件論
   それでは,被害者の生前有していた占有が保護されるには,どのような要件が必要になるのであろうか。この点,一般的には①被害者を死に至らしめたこと,②被害者から財物を持ち去ったこと,③①と②が時間的場所的に近接していること,が必要であるといわれている。通常の問題であればこれで足りるであろう。そして,故意の対象は構成要件該当事実なのであるから,①から③までを認識認容していることを示してようやく故意が認められることになる。この点を的確に示している答案は皆無であったため,十分な注意を促したい。
   さて,本稿ではこの議論をもう少し先に進めてみたい。ここで注目されるべきは,東京高判昭和39年6月8日高刑集17巻5号446頁である。この裁判例では,被害者の死亡から財物の奪取まで4日の開きがあったことが問題になり,結果として窃盗罪の成立を肯定した。もちろん,死者の占有を肯定したのではなく,被害者の生前の占有が保護に値するとしているのである。
 しかし,先ほどの要件から考えてみると,③を満たさないのではないだろうか。4日という時間的な開きが,時間的近接性を基礎づけるものとは考えにくい。では,この裁判例の結論は誤りなのであろうか。私としてはそれにも異論を唱えたい。
 それでは,どのように考えるべきか。実はこの裁判例では,被害者は自室で殺害されており,問題となった財物も被害者の占有が残っているかのように放置されていたという特殊事情があったのである。これを例外のための要件と位置付けることも可能ではあるだろうが,むしろこれを統一的に捉え直してみたい。すなわち,③の要件について,③´社会通念上被害者の生前の占有を保護すべきと認められる事情があること,と構成し直すのである。確かに,かなり漠然としてしまうから基準としての明確性は損なわれてしまうかもしれない。しかし,このような規範的要件は刑法においては数多くみられるし,死者の占有が問題となる場面では「犯人自らが被害者を殺害した被害者が占有する財物を占有離脱物に変えたのに,そのことにより犯人が有利に扱われて刑法による占有保護が否定されてしまう(殺害と財物取得のわずかな時間的な先後関係の違いで占有保護が左右されてしまう)のは不当であるとする考え方がある」(※27)とされているのであるから,その問題意識を端的に要件に落とし込んでしまうべきであるとはいえるはずである(※28)
 無論,上記の見解は私見であるから,答案上で展開するのは避けるべきであろう。解釈論としては考えられなくはないことを示してみただけである。
 3 本件の処理
   現金15万円が「財物」に該当することは疑いない。また,①乙はAを死亡させており,②乙はAが甲に内緒で保管していた現金15万円を持ち出しており,そして③Aの死亡と現金15万円の持ち出しとは約30分しか離れておらず場所も同じA方居室であるから時間的場所的に接着しているものといえるだろう。したがって,現金15万円に関するAの生前の占有が保護されることになり,これを持ち出しているのであるから「窃取」に該当することになる。
 乙は自分がAの頸部を強く締めすぎたから死んだと考えており,その上で逃走資金のために現金15万円を持ち出しているのであるから,①から③の認識認容もあるといえよう。そして,逃走資金として持ち出している以上は,不法領得の意思も認められることになる。不法領得の意思を無視している人もいたが,その事情も問題文には示されているから,これを考慮しないのは悪手であろう。
 4 親族相盗例?
 出題趣旨を見ると,親族相盗例に触れることができれば高得点が得られたとの指摘がある。なるほど,確かに本件のような親族間の死者の占有が問題となる場合には,相続人が誰であるか,つまり本件の現金の所有者が誰であるかによってその適用の有無が変わり得るから,論じる実益があるといえよう。しかし,それならば問題文で明示しているはずであるし,わざわざ問題文からは明らかではないなどと言及しないはずである。
 思うに,この点は作問者としても予想外のことだったのではないだろうか。そうであるならば,30行指定がある中で,あえてこれに触れる実益があるとは思われない。もちろん,実際の事件であれば,必ず事実認定をしなくてはならない点であるし,おそらく弁護人の弁護方針となることであろうから,検討しなくてよいということにはならない。しかし,これはあくまで入学試験であり,畢竟,合格さえしてしまえばよい。そのためには,本項で中心的に検討した論点を必要十分に論じれば足りるはずなのである。

(※26)井田各論216頁以下。
(※27)井田各論216頁。
(※28)なお,井田各論216頁では,「どの程度の時間が経過すると「死亡直後」とは言えなくなるのかが問題となる」という問題意識を持ちつつ,「具体的な状況により判断が異なってくる」としているのであるから,特別の事情が認められる場合には時間的場所的接着性の幅が広がるものと考えているのだと思われる。

以上

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