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2020-05-06(Wed)

【ロー過去】中大ロー2019年度民事訴訟法

≪問題≫

 次の【事例】を読み,下記の【設問】に答えなさい。なお,下記の【設問】における各問はそれぞれ独立したものである。解答用紙は,表面(30行)のみを使用すること。

【事例】
 XはYに対し500万円の貸金返還請求訴訟を提起して,500万円の貸渡しの事実を主張したが,Yはこれを否認し,仮定的に500万円は弁済したと主張した。これに対し,Xは弁済について否認した。

【設問】
問1 証拠調べの結果,裁判所は,Xが主張する500万円の貸渡しの事実は認定できないが,この主張にかかる貸金債権とは社会的事実として同一性があるとは認められない別個のXのYに対する600万円の貸金債権があるとの心証を形成した。この場合,裁判所は,Yに対し600万円の支払いを命ずる判決をすることができるか。

問2 証拠調べの結果,裁判所は,500万円の貸渡しの事実は認定できるが,弁済の事実は認定することはできないとの心証を形成した。他方で,貸金債権の弁済期から10年以上経過していることが判明した。この場合,裁判所は,消滅時効を理由としてXの請求を棄却する判決をすることができるか。

≪出題趣旨≫

 本問は,民事訴訟法における基本原則である「処分権主義」および「弁論主義」について正しく理解しているか,事例に即してこれらの基本原則を適切に用い正確に結論を導くことができるか,を問うものである。

問1 処分権主義の意義と当てはめ
 民事訴訟において,裁判所による審判を求めるかどうか,求めるとして何を審判対象とするか,どの範囲で審判を求めるか,の決定は当事者に委ねられている(処分権主義)。その結果,裁判所は,当事者が申し立てていない事項について,判決をすることができない(民訴法246条)。当事者が申し立てている事項(申立事項)は,審判の対象となるべき権利関係(訴訟物)と,それについての審判の形式を含み,訴えによって特定されることになる。
 本問における訴訟の訴訟物は,いわゆる旧訴訟物理論によれば「(XのYに対する)消費貸借契約に基づく500万円の貸金返還請求権」である。債権は同一当事者間に同一内容の権利がその発生原因を異にすることによって重複して存在しうることから,債権を訴訟物とする場合には,それを特定識別する事実(民訴規53条1項における「請求を特定するのに必要な事実」)として,権利主体(債権者),義務者(債務者),権利内容(権利類型と給付内容)のほかに,権利の発生原因事実が必要となる。したがって,Xは,たとえば①XはYに対して,平成○○年○月○日,500万円を貸し付けた,②XとYは,①に際し,弁済期(返還時期)を平成□□年□月□日と定めた,③平成□□年□月□日は到来した,との請求原因事実(主要事実)を主張しなければならない。しかし,Xがこれらの主要事実を主張したにもかかわらず,証拠調べの結果,裁判所は,①の主要事実を認定できないのであれば,Xの請求を棄却する判決をしなければならない。
 かりに,証拠調べの結果,このXのYに対する500万円の貸金債権とは発生原因事実を異にする(問題文では,このことを「社会的事実として同一性があるとは認められない」と表現している),XのYに対する600万円の貸金債権の存在が認められたとしても,裁判所は,Xが申し立てていない事項について判決をすることができないのであるから,Yに対し600万円の支払いを命ずる判決をすることは処分権主義に反する。

問2 弁論主義の意義と当てはめ
 弁論主義とは,判決の基礎となる資料(事実および証拠)の収集提出を当事者の権能かつ責任とする建前である。この弁論主義の内容のひとつとして,「裁判所は,当事者のいずれもが主張しない事実を判決の基礎としてはならない」(第1テーゼないし主張原則)というものがあり,ここにいう事実とは主要事実に限ると一般に解されている。主要事実とは,訴訟物たる権利法律関係の発生・消滅等という法律効果の発生に直接必要な事実であり,実体法上の法律要件として掲げられた事実(要件事実)に照応する事実である。
 本問において,抗弁事由である消滅時効における主要事実は「弁済期から10年が経過したこと」および「YがXに対して消滅時効の援用の意思表示をしたこと」であるが,これらの事実はいずれの当事者からも主張されていない。それにもかかわらず,裁判所が,消滅時効を認定し,これを理由としてXの請求を棄却する判決をすることは弁論主義(第1テーゼないし主張原則)に反する。


処分権主義と弁論主義に関する基本的な問題です。

民訴を少し勉強した人であれば,結論がどうなるかくらいは分かると思います。

そうすると,入試本番で差がつくポイントは,裁判所が判断できる範囲が申立事項に限られるとか,当事者から主張のない主要事実を判決の基礎とすることができないといった原則を,処分権主義や弁論主義の根拠に遡っていかに正確に論証することができるかという部分でしょう。

また,短いながらも事例として具体的事実が与えられているので,本問に即した検討がきちんとなされているかという点になるかと思います。

≪答案≫
1 (※1)問1で,裁判所が,Yに対し600万円の支払いを命ずる判決をすることは,処分権主義に反するため,許されない。
 処分権主義とは,訴訟の開始,終了,審判対象の特定を当事者が自由に決定することができる原則をいう(※2)。これは,訴訟物たる権利関係は,実体法上,私的自治の原則の下にその主体たる当事者の自由な管理処分に委ねられるところ,訴訟法上にもこれを反映したものである(※3)。その結果,当事者の申立事項が裁判所による審判の対象となるため,裁判所は当事者が申し立てていない事項について判決をすることができず(246条),申立事項以外のことについて判決をすると処分権主義違反となる。申立事項である訴訟物は,請求の趣旨及び原因によって特定される(※4)
 本問で,XのYに対する請求の訴訟物は,消費貸借契約に基づく貸金返還請求権である。Xは,その請求原因事実として,①金銭の返還の合意をしたこと,②金銭を交付したこと,③消費貸借契約が終了したことのそれぞれに係る具体的事実を主張して,前記訴訟物を特定することとなる(※5)。そして,これらの事実が認められない場合には,裁判所は,Xの請求を棄却しなければならない。ここで,裁判所が,Xの主張する貸金債権とは社会的事実として同一性があるとは認められない別個の貸金債権があるとの心証を形成したとしても,それは,Xの主張した前記事実とは別の事実に基づいて発生した債権である。そうすると,裁判所が心証を形成した貸金債権は,Xの主張した事実によって特定される貸金債権とは別個の債権であるから,Xが申し立てた訴訟物とはならない。したがって,裁判所は,処分権主義から,心証を形成した600万円の貸金債権について判決をすることができない。
 よって,裁判所は,Yに対し600万円の支払いを命ずる判決をすることができない。
2 問2で,裁判所が,消滅時効を理由としてXの請求を棄却する判決をすることは,弁論主義に反するため,許されない。
 弁論主義とは,裁判資料の収集提出を当事者の権能かつ責任に委ねる原則をいう(※6)。これも,私的自治の原則を権利関係の判断のための裁判資料の収集提出について適用したものである(※7)。その結果,当事者が自由に処分できる権利関係を直接に基礎づける事実,すなわち主要事実については(※8)(※9),私的自治の反映として,当事者による主張がなされない限り,裁判所は,これを判決の基礎とすることができない(※10)
 本問で,裁判所が認定しようとしている消滅時効の抗弁に係る主要事実は,ⓐ権利を行使することができる状態になったこと(民法166条1項2号),ⓑⓐから10年間が経過したこと,ⓒ援用権者が相手方に対し時効援用の意思表示をしたことである(※11)。しかし,Yからは,ⓐないしⓒのいずれの事実も主張されていない。したがって,裁判所は,これらの事実を判決の基礎とすることができない。
 よって,裁判所は,消滅時効を理由としてXの請求を棄却する判決をすることができない。

以 上


(※1)答案用紙の30行制限があるので,「第1 問1について」というタイトルなどは記載せず,1行目から本題に入りましょう。
(※2)「民事訴訟では,当事者が審判対象たる権利関係について処分権を有していることを反映して,当事者が,訴えの定期,審判対象の特定,審判対象の実体的処分および訴訟の終了について自由に決定できるとの原則を認めている。これを広く処分権主義と呼ぶが,そのうち,審判対象を特定し,その上限を明示する権限については,申立事項に関する処分権主義,あるいは申立事項拘束主義と呼ばれる(246条)。私的自治原則の訴訟手続への反映である。」山本和彦『Law Practice民事訴訟法〔第2版〕』(商事法務,2014年)104頁
(※3)「訴訟物たる権利関係は,実体法上は,私的自治の原則の下にその主体たる当事者の自由な管理処分に委ねられる。訴訟法上も,このことを反映して,いかなる権利関係について,いかなる形式の審判を求めるかは,当事者の判断に委ねられる。これが訴訟物についての処分権主義であり,246条がこれを規定する。」伊藤眞『民事訴訟法〔第6版〕』(有斐閣,2018年)219頁
(※4)「246条は,当事者の申立事項が裁判所による審判の対象となることを規定する。ここでいう申立事項は,訴訟物およびそれについての審判の形式を含み,訴状の請求の趣旨および原因によって特定される。裁判所は,申立事項の範囲内で申立てに理由があるか否かを審判しなければならないことが,処分権主義の帰結である。」前掲伊藤220頁
(※5)「確定期限による返還時期の合意がある場合の貸金返還請求権を発生させる要件は,次のとおりとなります。
 ア 消費貸借契約の成立
 (ア)金銭の返還の合意をしたこと(①)
 (イ)金銭を交付したこと(②)
 イ 消費貸借契約の終了(返還時期の合意とその到来)
 (ア)返還時期の合意をしたこと(③)
 (イ)イ(ア)の返還時期の到来(④)
 一方,当事者間に返還時期の合意がない場合には,イに代えて,
 イ’消費貸借契約の終了(催告と催告後相当期間の経過)
 (ア)アの債務の履行を催告したこと(③’)
 (イ)イ’(ア)の催告後相当の期間が経過したこと(④)
が要件となります。」司法研修所『新問題研究要件事実』(司法研修所,2011年)40頁
(※6)「弁論主義とは,訴訟物たる権利関係の基礎をなす事実の確定に必要な裁判資料の収集,すなわち事実と証拠の収集を当事者の権能と責任に委ねる原則である。」前掲伊藤309頁
(※7)「訴訟物たる私人間の権利関係は,私的自治の原則に服し,当事者の自由な処分に委ねられる。弁論主義は,その権利関係の判断のための裁判資料の収集について私的自治の原則が適用されることを根拠としたものである。」前掲伊藤310頁
(※8)「弁論主義の根拠を私的自治に求める以上,その対象も権利関係の発生・消滅・変更の原因となる主要事実に限られるという結論が導かれる。」前掲伊藤312頁
(※9)弁論主義が適用される事実の範囲を主要事実に限ることの理由付けについて,間接事実にまで適用すると自由心証主義に反するというものがありますが,これは間接事実に適用することに消極的な理由付けにすぎず,主要事実に限ることの積極的な理由付けにはなっていません。したがって,この理由付けを書くこと自体は誤りではないですが,弁論主義の本質と結び付けた理由付けをすべきです。もっとも,本問では,間接事実への適用が問題となる事案ではないため,弁論主義の適用される事実の範囲について大展開する必要はなく,簡潔に流すべきでしょう。
(※10)「弁論主義の具体的内容は,以下の3つに区分される。第1に,権利関係を直接に基礎づける事実,すなわち主要事実については,当事者による主張がなされない限り,裁判所は,これを判決の基礎とすることはできない。この原則から,主張責任の概念,および判決の基礎となる事実によって構成される訴訟資料とその認定のための証拠資料の区別などが派生する。」「弁論主義の第1の内容,すなわち主要事実についての当事者の提出責任は,その事実にもとづく権利関係について私的自治が認められることを反映している。」前掲伊藤309,311頁
(※11)「新民法においては,債権の消滅時効の法律要件は,
【主観的起算点から5年の場合】
① 権利を行使することができる状態になったこと(新民法166条1項1号)
② 債権者が上記①を知ったこと(同上)
③ 上記②から5年間が経過したこと(同上)
④ 援用権者が相手方に対し時効援用の意思表示をしたこと
又は
【客観的起算点から10年の場合】
①’権利を行使することができる状態になったこと(新民法166条1項2号)
②’上記①’から10年間が経過したこと(同上)
③’援用権者が相手方に対し時効援用の意思表示をしたこと
となります。」司法研修所『新問題研究要件事実追補-民法(債権関係)改正に伴う追補-』(司法研修所,2019年)1頁


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