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2019-03-31(Sun)

【基礎演習民事訴訟法】問題16「争点効・信義則」

明日から4月ということですが,

ついに新しい元号が発表されます。

何になるんでしょうかね。

気になりますね。

正直そんな気になんないですね(突然の矛盾挙動)

ところで,今回は,基礎演習の16問目です。

ついに半分を超えました。

≪問題≫

 Yらの先代Aは,訴外Bから期限を定めずに,金3,500万円を借り受けるに際して,A所有の土地(以下,「本件土地」という)につきBのために代物弁済予約および抵当権設定契約をなし,停止条件付所有権移転請求権保全の仮登記および抵当権設定登記を経由した。その後,Bは,Aが事業不振により金500万円を弁済しただけで利息さえ支払えない状況に陥ったため,Aが元利金を返済すれば,本件土地をAに返還する意思のもとに,本件代物弁済予約の完結権を行使し,本件土地についてBのために上記仮登記に基づく本登記の完結権を行使し,本件土地についてBのために上記仮登記に基づく本登記を経由した。しかしながら,Aは,2年4カ月余りを経過しても元利金を返済することができなかったため,Bとの間において,AのBに対する本件借受金債務の弁済に代えて,本件土地の所有権を確定的にBに移転させることに合意し,Bにその旨を記載した確認書を差し入れた。
 Xは,本件土地をBから買い受け,自己名義に所有権移転登記を経由したうえで,本件土地上に建物を所有し本件土地を占有しているYらに対して,土地所有権に基づき建物収去土地明渡しを求めて本訴を提起した。
 ところで,本訴に先立ち,Aは,Xを相手取り,Bから上記金員を弁済期の定めなく借り受け,Bのために本件土地を売渡担保に供したものであるが,ABおよびX間で協議し,本件土地の所有名義をXに移し,XがAのためにBにAの残債務金3,000万円を代払いし,AにおいてXからの下請工事代金のうちから適宜弁済する旨の債権者の交代による債務の更改をなし,その後,AはXに対し金3,000万円の弁済を提供しており,また,同額以上のXに対する下請工事代金債権を有しているとして,本件土地所有権に基づき所有権移転登記手続をなすことを求めて前訴を提起した。しかしながら,A主張に係る請求原因事実は認められないとして請求を棄却する判決が下され,Aは控訴,上告したものの,結局,いずれも棄却され,前訴判決は確定した。
〔設問〕
1.本訴において,Yらは,前訴においてAが請求原因事実として主張したものの,裁判所により審理の結果,そのような事実は認められないとして排斥された事実を再度主張して,Xの本訴請求を争うことは前訴判決の既判力に触れないか?
2.前訴判決の既判力に触れないとしても,Yらが前訴においてAが請求原因事実として主張した事実と同一の事実を再度主張することは許されないのではないか?
 なお,前訴において,Aが第1審判決に対し,控訴したものの,控訴を取り下げ,第1審判決が確定していた場合はどうか?
3.本訴において,Yらが,前訴ではAによって主張されなかった,「AB間の本件代物弁済契約またはその予約は,Aの窮状に乗じてなされた著しい暴利行為であって,公序良俗に反し無効である」との主張をし,Xの本訴における請求を争うことは許されるか?


なんだか小難しい事例ですね。

もっと簡潔な事例で学びたいものです。

基礎演習なんだしね。

あと,争点効とかもうそういうのいいから。

≪答案≫
第1 設問1
 1 既判力とは,前訴確定判決の後訴に対する通用力ないし拘束力をいう。前提として,Yらは,Aの相続人であるから(民法887条1項),Aについての権利義務を包括的に承継するため(同法896条本文),前訴の確定判決の既判力を受けるAからの「承継人」にあたり,当該既判力はYらにも拡張される(民訴法115条1項3号)。したがって,Yらは,前訴の確定判決の既判力が生じる事項について本訴で争うことは,前訴確定判決の既判力と抵触するため許されない。
 2 そこで,前訴において,どの範囲に既判力が生じているかについて検討する。
 既判力が生じるのは,「主文に包含するもの」に限られるところ(民訴法114条1項),既判力は裁判所の公権的な判断に付与された強制力であるから,広い範囲に効力を及ぼすべきではなく,当事者が意識的に審判対象とした訴訟物についてのみこれを認めれば,当事者間の紛争解決のためには必要十分であるから,「主文に包含するもの」とは訴訟物を指す。また,訴訟物の判断についてのみ既判力が生じるとすることによって,裁判所は,実体法の論理的順序にとらわれずに弾力的で迅速な審理を行うことができる。そうすると,既判力は,判決理由中の判断には生じないというべきである。
 そして,既判力が生じるのは,訴訟物の存否についての判断であることから,それが後訴に作用するのは,後訴の訴訟物と前訴の訴訟物とが同一関係にある場合,先決関係となっている場合,矛盾関係にある場合である(※1)
 これを本件についてみると,前訴における訴訟物は,AのXに対する所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権であり,これに係る請求が棄却され,これが確定しているから,同請求権が不存在であることについて既判力が生じている。これに対して,本訴における訴訟物は,XのYらに対する所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権である。そうすると,両訴の訴訟物間には,前記のような関係が認められないのであるから,前訴における確定判決の既判力は,本訴には作用しない。また,前訴における請求原因事実についての判断は,理由中の判断にすぎないのであるから,この点について既判力が生じるものではないため,前訴におけるこの点についての判断が本訴における主張を拘束するものではない。
 3 よって,Yらは,前訴において認められなかった請求原因事実を本訴において主張することは,前訴判決の既判力に触れない。
第2 設問2
 1 前訴で請求原因事実として争われた事実について,本訴で再度主張することは,前記のように既判力に抵触するものではないが,別個の理由から制限される場合があるか。
 2 この点,前訴で主要な争点として争われた点についての裁判所の判断に生じる拘束力(以下「争点効」という。)を認める見解がある。この見解は,係争利益をほぼ同じくする前訴後訴両請求の当否の判断過程で主要な争点となった事項について,当事者が前訴において主張立証を尽くし,裁判所も当該争点について実質的に判断を下した場合には,判決理由中の判断であっても争点効が認められるとする(※2)。本件についてこの見解によれば,前記の通り,前訴の訴訟物は土地についての所有権移転登記請求権であり,本訴は同一土地の明渡請求権であって,いずれも同一の土地の所有権に関する紛争であるから,係争利益はほぼ同一である。そして,Aが前訴において主張する請求原因事実が争点とされていたところ,AとXはこれを上告審まで争ったのであるから,前訴において主張立証が尽くされ,裁判所も当該争点について実質的に判断を下していると考えられるから,前訴の請求原因事実についての判断には争点効が生じている。したがって,本訴において前訴の請求原因事実と同一の事実を争うことは,前訴の争点効が及ぶから,認められないことになる。
 しかし,このような効力を認める民訴法上の規定はない上に,判決理由中には既判力が生じないものとする民訴法の規定と抵触するものである。したがって,前訴確定判決の理由中の判断について,争点効が生じるとする見解は採り得ない(※3)(※4)
 3 そこで,前訴における請求と後訴における請求との関係や当事者の紛争解決に対する期待等を考慮して,具体的状況の下で,当該請求をすることが当事者間の公平を害するものとして,後訴における主張を信義則により遮断することが考えられる(※5)(※6)
 これを本件についてみると,XY間の事実関係によれば,本件土地はAがBから金員を借り入れた際の担保とに供され,債権者がBからXに交替したことにより,本件土地がXの下にあり,しかしAが3000万円を弁済したことから,担保権の消滅により本件土地がAの下に復帰するため,前訴において所有権移転登記手続を請求したものである。しかし,前訴においては,これらの事実が認められなかったため,Aの請求は棄却されているのである。そうすると,本件土地がXに帰属したまま,その担保権消滅がないことが事実として認定されているのであり,事実上Xに所有権が認められるものと判断しているものと考えられる。そうすると,前訴を終えた段階で,Xは本件土地の所有権の帰属についての紛争が解決したもののと期待しているものと考えられる。これに反して,本訴において,同事実を再び争うことは,実質的に前訴の蒸し返しであり,Xの前記期待を裏切るものである。そうすると,本訴においてYらが,前訴においてAが主張した請求原因事実を再び主張することは信義則に反して許されない。
 なお,このように考える場合には,控訴の有無が直接的に結論を左右する事情とはならない。
第3 設問3
 Yらは,前訴において主張されていないものの,前訴の結論を左右するような事実を本訴において主張することが許されるか。
 既判力の観点からは,訴訟物さえ異なれば前訴判決の既判力は後訴には及ばず,前訴とは訴訟物を異にする後訴請求を基礎づけるためであれば,前訴において主張することができた主張であっても,当然には遮断されない。そうすると,このような建前を覆してまで信義則による遮断を認めるためには,相手方当事者に前訴における紛争が解決済みであるとの信頼を抱かせるような事情があり,これを覆すような新たな主張を行うことが当事者間の公平を害することとなるかどうかによって決せられるべきである。
 本件では,前記のように,Xにおいては,本件土地の所有権の帰属についてまで,前訴において解決したものとの信頼を抱いているというべきであるから,Yらがこれを覆すような主張をすることは許されない。

以 上


(※1)「既判力が生じるのは,原則として訴訟物の存否についての判断であることから……,それが実際に後訴において作用するのは,後訴の訴訟物と前訴の訴訟物とが次のような関係にある場合である。」「第1は,後訴の訴訟物が前訴の訴訟物と同一の場合である。この場合に関しては,①後訴を提起するのが前訴で敗訴した当事者か,②勝訴した当事者かによって,取扱いが異なる。①の場合,たとえば,ある土地の所有権確認請求訴訟において敗訴した原告が,再び同一土地の所有権確認請求訴訟を提起した場合,前訴の時点において原告に所有権がないことが既判力によって確定されているから,原告が前訴の基準時,すなわち前訴の事実審口頭弁論終結時以後……に新たに所有権を取得したなどの新事情が認められない限り,後訴でも請求が棄却されることになる。また,貸金返還請求訴訟において敗訴した被告が,当該貸金債務の不存在確認訴訟を提起した場合にも,同様に,弁済などの新事情が認められない限り,請求が棄却されることになる。これに対して,②の場合,たとえば,貸金返還請求訴訟において勝訴した原告が再度同一の貸金について返還請求訴訟を提起することは,前訴既判力に反する主張をするものではないから,それ自体としては,既判力の拘束力は問題とならない。しかし,既に給付判決を得ている原告が同一の訴訟物について再度給付判決を得る利益は通常は存在しないから,このような訴えは,原則として訴えの利益を欠くものとして却下されることになる。もっとも,例外として再訴の利益が肯定される場合には……,後訴において,前訴の既判力は被告の不利に作用することとなる。」「第2は,前訴の訴訟物が後訴の訴訟物の先決問題となっている場合である。この場合には,後訴裁判所は,当該先決問題に関する前訴判決の判断に拘束され,これを前提としながらその他の争点を整理したうえで,本案判決をすることになる。たとえば,ある建物の所有権確認請求訴訟において勝訴した原告が,同一の被告に対して,所有権に基づいて当該建物の後訴を提起した場合,後訴裁判所としては,前訴の基準時において当該建物の所有権が原告に属することを前提として明渡請求の当否を判断することになる。したがって,後訴において被告は,原告の所有権取得の事実等を争うことはできず,基準時後の所有権の喪失や,自己の占有の有無等を争うことができるにとどまる。」「なお,同様の拘束力は,建物所有権確認の前訴で勝訴したXに対して,Yが土地所有権を主張して,建物収去土地明渡請求の後訴を提起した場合にも作用する。この場合には,Xは,後訴において,自分が前訴の口頭弁論基準時において建物所有者であったことを否認することは許されない。このように,既判力による拘束は,通常は前訴の勝訴当事者の有利に働くが,場合によっては前訴の勝訴当事者に対してかえって不利に働くこともある。このことを指して,既判力の双面性と呼ぶ。」「第3は,前訴の訴訟物と後訴の訴訟物とが矛盾関係に立つ場合である。この場合に該当する例としては,ある土地がXの所有であることを確認する前訴判決の確定後に,前訴の被告であったYが同一土地についてのYの所有権の確認を求めて後訴を提起する場合がある。この場合には,前訴の訴訟物はXの土地所有権であるのに対し,後訴の訴訟物はYの土地所有権であり,訴訟物は異なるし,一方が他方の先決関係であるというわけでもない。しかし,実体法上の一物一権主義を前提とすれば,同一の土地についてXとY双方の単独所有権が認められることはあり得ない。したがって,後訴裁判所としては,前訴の基準時において土地所有権がXに帰属していたことを前提としつつ,基準時後にYが所有権を取得したかどうかについて審理・判断することになる。」三木浩一ほか『LEGAL QUEST民事訴訟法〔第2版〕』421頁
(※2)「『争点効』とは,前訴で主要な争点として争われた点についての裁判所の判断に生じる拘束力として学説上提唱されたものがある。具体的には,①前訴および後訴の主要な争点について,②当事者が前訴において自白などをすることなく実際に争い,③裁判所が実質的な判断を示した場合には,④前訴と後訴の計総利益がほぼ同等である限り,争点効が生じ,⑤当事者がこれを援用することにより,後訴裁判所は前訴判決の判断に拘束される。ただし,⑥ある争点の判断について不服を有する当事者が,結論としては勝訴しているため上訴の利益……が認められず,その点を上訴で争えなかった場合には,拘束力は生じないとされる。こうした拘束力は,ある争点について現に攻撃防御を尽くした当事者に課される結果責任に基礎を置くものであり,その理論的根拠は,信義則ないし当事者間の公平の観点に求められる。」前掲三木ほか438頁
(※3)「このような効力を認めることができるかについては,見解が分かれている。問題点としては,民訴法に明文の根拠がないことのほか,理論的には,①判決理由中の判断について既判力が生じないとされていることと矛盾するのではないか,②中間確認の訴えの制度(145条)は,このような効力が認められないことを前提としているのではないか,③争点の主要性,係争利益の同等性といった要件は,十分に明確なものとはいえないのではないか,といった点が指摘される。しかし,これらに対しては,それぞれ,①争点効が認められるのは,当事者が実際に争った場合に限られるので,審理の弾力性や当事者の争点処分の自由を確保するという既判力限定の趣旨に必ずしも矛盾しない,②中間確認の訴えの対象となるのは,『争いとなっている法律関係』に限定されるのに対して,争点効は事実の存否など他の争点についても生じ得る点で,両者は適用対象を異にする,③要件をあまりに画一化することは,逆に弾力性を損なうし,一般条項である信義則と比較すれば,争点効の方が要件が明確である,といった反論がある。」前掲三木ほか438頁
(※4)「所論の別件訴訟について上告人(別件訴訟の被上告人)勝訴の確定判決があつた事実は、当裁判所に顕著な事実である。しかし、右別件訴訟における上告人(別件訴訟の被上告人)の請求原因は、被上告人(別件訴訟の上告人)所有にかかる原判決末尾添付の別紙目録記載の建物(以下単に「本件建物」という。)およびその敷地(以下両者を指称するときは、単に「本件不動産」という。)について、被上告人と上告人との間に売買契約が締結され、その旨の所有権移転登記を経由したが、被上告人(別件訴訟の上告人)が約定の明渡期日に至つても、本件建物を明け渡さないので、上告人(別件訴訟の被上告人)は、右契約の履行として本件建物の明渡および約定の明渡期日の翌日以降の右契約不履行による損害賠償としての金銭支払を求める、というのであり、右別件訴訟の確定判決は、被上告人(別件訴訟の上告人)主張の右契約の詐欺による取消の抗弁を排斥して、上告人(別件訴訟の被上告人)の請求原因を全部認容したものである。されば、右確定判決は、その理由において、本件売買契約の詐欺による取消の抗弁を排斥し、右売買契約が有効であること、現在の決律関係に引き直していえば、本件不動産が上告人(別件訴訟の被上告人)の所有であることを確認していても、訴訟物である本件建物の明渡請求権および右契約不履行による損害賠償としての金銭支払請求権の有無について既判力を有するにすぎず、本件建物の所有権の存否について、既判力およびこれに類以する効力(いわゆる争点効、以下同様とする。)を有するものではない。一方、本件訴訟における被上告人の請求原因は、右本件不動産の売買契約が詐欺によつて取り消されたことを理由として、本件不動産の所有権に基づいて、すでに経由された前叙の所有権移転登記の抹消登記手続を求めるというにあるから、かリに、本件訴訟において、被上告人の右請求原因が認容され、被上告人訴の判決が確定したとしても、訴訟物である右抹消登記請求権の有無について既判力を有するにすぎず、本件不動産の所有権の存否については、既判力およびこれに類以する効力を有するものではない。以上のように、別件訴訟の認定判決の既判力と本件訴訟において被上告人勝訴の判決が確定した場合に生ずる既判力とは抵触衝突するところがなく、両訴訟の確定判決は、ともに本件不動産の所有権の存否について既判力およびこれに類以する効力を有するものではないから、論旨は採るをえない。なお、右説示のとおり、両訴訟の確定判決は、ともに本件不動産の所有権の存否について既判力およびこれに類以する効力を有するものではないから、上告人は、別に被上告人を被告として、本件不動産の所有権確認訴訟を提起し、右所有権の存否について既判力を有する確定判決を求めることができることは、いうまでもない。」最判昭和44年6月24日集民95号613頁
(※5)「前訴と訴訟物を異にし,前訴判決の既判力が作用しない後訴においても,一定の場合には,前訴判決理由中の判断に反する主張が訴訟上の信義則(2条参照)に反して許されなくなるとする考え方も,有力である。一般条項であるという信義則の性質上,その適用範囲を明確に画することは困難であるが,代表的な学説によれば,信義則が機能する場面として,①禁反言ないし矛盾挙動禁止の原則が適用される場合と,②権利失効の原則が適用される場合とが挙げられる。」「それによれば,①の禁反言ないし矛盾挙動禁止の原則が適用されるのは,前訴における主張が認められて勝訴した当事者が,それと矛盾する主張をして,前訴で得たのと両立しない利益を得ようとする場合である。たとえば,前訴で売買契約の無効を主張して買主からの目的物引渡請求の棄却判決を得た売主が,代金請求の後訴を提起して,売買契約が有効であると主張することは,この理由によって許されないとする。」「これに対して,②の権利失効の原則が適用されるのは,前訴においてある主張をしたにもかかわらずそれが認められずに敗訴した当事者が,前訴と社会関係上同一の紛争関係に関する後訴において,同一の主張を繰り返そうとする場合である。たとえば,売買契約に基づく建物の移転登記手続請求訴訟において,契約の錯誤無効を主張したが認められずに敗訴した被告が,建物引渡請求の後訴において再び錯誤無効を主張することは,この理由によって許されないとされる。」前掲三木ほか439頁
(※6)「最高裁およびこれに倣う下級審裁判例が信義則に反するとして後訴を遮断すべきかを判断する際に考慮すべきものとして挙げたファクターは,①前訴における請求あるいは主張と後訴におけるそれとが実質上同一であること,②後訴で提出されている請求あるいは主張を前訴で提出し得たこと,③勝訴当事者が前訴判決により紛争が解決済みであるとの信頼を抱いており,法的安定の要求を保護する必要があること,④前訴判決の正当性を確保するほどに前訴において充実した審理が行われていること,⑤前訴において当事者が争う誘因を有していたことなどである」解説192頁



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2019-03-31(Sun)

【基礎演習民事訴訟法】問題15「既判力の主観的範囲」

眠いけど寝るほどの眠さではない。

そんなときってありますよね。

私は最近ずっとそんな感じです。

ところで,今回は,基礎演習の15問目です。

≪問題≫

 Xは,その所有する土地をYに賃貸した。Yはこの土地の上に建物をたてて,その保存登記をしたうえ,そこに住んでいた。とかとYは,月々支払うことになっていた土地の賃料の支払を怠るようになった。XはYに対して,再三にわたり賃料の支払を要求したところ,Yも初めのうちは遅れがちに賃料の支払に応じていたのであるが,とうとうその支払がなされなくなったので,Xは,Yにこの土地から出ていってもらって,もとの更地だった状態に戻してほしいと考えるようになった。そのためXとYとの間で交渉が行われたが,なかなからちがあかず,話し合いがつかなかった。そこでXは,正式な法的手段をとってYとの賃貸借契約を解除しようと決意して,Yに内容証明郵便を送り,催告をした上で,解除の意思表示をした。それでもYは建物を引き払ってこの土地を更地にしてXに戻すことをしなかったので,Xは,Yを相手に,建物収去土地明渡請求を求める訴えを提起した。Xの請求は認容され,Yに対して建物収去土地明渡を命ずる判決が確定した。ところが,この訴訟の口頭弁論終結後に,Yは本件土地の上の建物をZに売却して,この土地から出ていき,現在はZがこの建物に居住していることが判明した。
〔設問〕
 XがYに対して得た,Xの請求を認容する確定判決の既判力は,Zにも及ぶか。ZがXとYの間で訴訟が行われていることを知っていた場合と,知らなかった場合とで区別があるか。


既判力の主観的範囲です。

主観的範囲については条文が割としっかり書いてあるので,

民訴の他の論点に比べれば解釈問題として展開しやすいです。

といってもちゃんと書けるわけではないんですがね。

≪答案≫
1 XのYに対する所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求を認容する判決(以下「本件判決」という。)の既判力は,その口頭弁論終結後に土地上の建物を特定承継したZに対しても及ぶか。本件判決の既判力がどの範囲で及ぶのか,その主観的範囲が問題となる。
2 既判力とは,前訴確定判決の後訴に対する通用力ないし拘束力をいう。確定判決のこのような効力が正当化されるのは,当事者は既に前訴において特定の権利関係について裁判資料提出の機会を与えられたという意味での手続保障が与えられた点にある。そうすると,既判力が及ぶ主観的範囲は,ここでの手続保障が与えられていたと認められる範囲に限られるため,原則として,当事者に及ぶこととされている(民訴法115条1項1号)。また,既判力は,「口頭弁論終結後の承継人」にも及ぶとされているが(同項3号),ここでいう「承継人」とはいかなる者を指すかについて検討する。
 民訴法115条1項3号が口頭弁論終結後の承継人に既判力を拡張させたのは,これを認めなければ判決によって得られた勝訴当事者の地位が容易に損なわれる一方,承継人は実体法上前主のした処分の結果を承継すべき地位にあることから,その手続保障が前主たる当事者に代替されているからである(※1)。そうすると,承継人に対する既判力の拡張は,承継人と前主との実体法上の依存関係によって基礎づけられているから,訴訟物に関連する実体法上の地位を承継した者を「承継人」とすべきである(※2)
3 これを本件についてみると,XがYに対して求めたのは,Xの所有する土地(以下「本件土地」という。)の明渡しであって,その訴訟物は所有権に基づく返還請求権としての本件土地明渡請求権であり,その被告となるべき地位は本件土地を占有している者に認められる。Yは,本件土地をその上の建物(以下「本件建物」という。)を所有することによって占有しているのであるから,前記訴訟物における被告となるべき地位を有している。Zは,そのようなYとの間で,本件建物を譲り受けており,その所有権を取得している。そうすると,Zは,Yとの間の実体法上の権利移転関係により,本件土地の占有を明け渡すべき地位を取得しているというべきであるから,Zには,被告となるべき地位をYの実体法上の依存関係に基づいて取得しているということができる。したがって,Zは,訴訟物に関連する実体法上の地位を承継した者であるから,「承継人」にあたる。
 そうすると,本件判決の既判力は,Zに対しても及ぶように思われる。
4 もっとも,ZがXY間の訴訟を知らなかったことにより,何らかの固有の抗弁を有するに至った場合にも,なおZを「承継人」とすることができるかは別途問題となる。
 しかし,既判力が後訴に対する強い拘束力を有していることからすれば,その範囲を決める基準は明確である必要があり,画一的に決められるべきである。また承継人にも既判力を拡張させたのは,前記の通り,勝訴当事者の地位を安定化させるための立法政策である。そうすると,第三者の主観によって,既判力の拡張される範囲が左右されることは望ましくはない。したがって,第三者に固有の抗弁がある場合であっても,前記のように実体法上の地位を承継した者であれば,「承継人」にあたる。なお,この場合の承継人の固有の抗弁は,基準時後の事由であるから,既判力によって遮断されないため,承継人は別途これを争うことができる。
 本件でも,Zに固有の抗弁がある場合であっても,「承継人」であることに変わりはない。したがって,Zの主観にかかわらず,本件判決の既判力はZにも及ぶ。
以 上

(※1)「口頭弁論終結後の承継人に対して既判力が拡張される根拠は,次のように説明される。すなわち,まず,①既判力拡張を認めなければ,判決によって得られた勝訴当事者の地位が容易に損なわれることになるため,権利の保護ないし紛争解決という確定判決の機能を十分に果たすためには,拡張の必要が認められる。たとえば,XのYに対する甲土地所有権確認の訴えにおいてXの請求を認容する判決が確定し,Xの甲土地所有権が既判力によって確定されても,Yは口頭弁論終結後にXから甲土地所有権の譲渡を受けたZに対して,Xが所有権者であった事実を再び争えるということになると,実際上甲土地の譲渡は困難となり,勝訴したXの地位が害されることになる。逆に,この訴訟で請求棄却判決が確定し,Xの甲土地所有権の不存在が既判力によって確定されたにもかかわらず,承継人ZがYに対して再び前主たるXから土地所有権を承継したとして自己の土地所有権を主張できるということになると,勝訴したYの地位が害されることになる。他方で,②承継人は,自らは前訴において当事者として手続保障が与えられていた者ではないが,実体法上,元来前主のした処分の結果を承継すべき地位にあることから(これを,実体法上の依存関係と呼ぶ),前主の受けた確定判決による不利益を甘受させられてもやむを得ないともいえるし,③承継が口頭弁論終結後にされている以上,相手方当事者としては,承継人に対する手続保障を講じるための手段は前訴当時存在しなかったことを考えると,この場合にあくまで承継人自身に対する手続保障を要求するのは,相当でないと考えられるのである。」「このように,口頭弁論終結後の承継人に対する既判力の拡張は,前訴の勝訴当事者の地位の安定という要請と,承継人に対する手続保障の要請との対立を立法的に調整したものといえ,現行法の規律が,想定できる唯一の解決というわけではない。たとえば,日本法の母法であるドイツ法は,口頭弁論終結前の承継人であっても,訴訟係属後の承継人に対しては原則として既判力を及ぼすものとして……,日本法よりもいっそう勝訴当事者の保護に傾斜しているなど,立法政策としては多様な解決があり得るところである。」三木浩一ほか『LEGAL QUEST民事訴訟法〔第2版〕』450頁
(※2)「前訴当事者から何を承継した場合に既判力の拡張を受ける承継人となるかについては,議論がある。訴訟物である権利義務関係そのものを承継した者のがここでの承継人に該当することについては,異論がないが,承継人の範囲をこの場合にのみ限定すると,……既判力拡張の趣旨が十分に果たされない場合も考えられる。たとえば,XのYに対する所有権確認請求訴訟の口頭弁論終結後に係争物をYから譲り受けたZや,XのYに対する建物収去土地明渡請求訴訟の口頭弁論終結後にYから家屋を譲り受けたり,賃借したZは,訴訟物である権利義務関係そのものを承継した者とはいえないが,これらの場合にZに対する既判力の拡張を認めないとすると,Xが勝訴判決を得たとしても,その結果は容易に潜脱し得ることになってしまう。そこで,判例および多数説は,訴訟物である権利義務の承継人に限らず,これらの者についても,承継人として既判力の拡張を認めている(最判昭和26・4・13民集5巻5号242頁等)。もっとも,承継の対象を訴訟物そのものから拡大した場合に,その範囲をどのように画するかについては,さまざまな説明が試みられている。その中で代表的な見解としては,①当事者適格の承継とするもの,②紛争の主体たる地位の承継とするもの,③訴訟物に関連する実体法上の地位の承継とするものが挙げられる。」「このうち,①については,当事者適格の有無は,主張される訴訟物の内容にしたがって定まるものであるから……,前訴と後訴とでは訴訟物が異なる以上,当事者適格そのものの承継は考えられないとの批判が妥当する。また,②は,訴訟承継の場面において判例でも用いられる概念であり(最判昭和41・3・22民集20巻3号484頁。……),その実質的に意図するところは③と異ならないものと考えられるが,紛争の主体たる地位という概念の内容は不明確であり,どのような場合にその移転が認められるかが明らかでないという問題がある。むしろ,……承継人に対する既判力の拡張が承継人が前主に対して実体法上依存する地位に立つことによって基礎づけられることを考えると,承継の対象としては,③訴訟物に関連する実体法上の地位,言い換えれば,その訴訟物について原告または被告となることを適切なものとするような実体法上の地位と説明するのが最も適切であろう。」前掲三木ほか451頁



2019-03-31(Sun)

【基礎演習民事訴訟法】問題14「既判力の客観的範囲・一部請求・相殺」

さて,3月も今日で終わりです。

司法試験が来月なのか再来月なのかでは,

心の持ちようが全然違ってきます。

あーーー天皇代わるし恩赦で司法試験合格とかになんねえかなーーー

≪問題≫

 Aは,住宅の建設・販売を業とするBから,「住宅を建設するための建設資材を仕入れたい」という申出を受けたので,交渉の上,代金800万円で資材を納品する売買契約を締結した。ところが,Aが資材を納品し,代金の支払期日が経過してもBは支払をしないことから,争いが生じている。
〔設問〕
1.Aが売買代金800万円の支払を請求する訴訟を提起したところ,Bは,Aが資材の性能に関して虚偽の情報を提供してBを欺いたと主張し,詐欺による取消権を行使した。裁判所はこれを認めてAの訴えを全部棄却した。ところで,Bは,Aが提供した資材では耐震基準を満たせないために別な業者から資材を新たに購入せざるをえなくなったと主張して,この判決の確定後,Aを相手にして右の新たな資材の代金相当額について損害賠償請求の訴えを提起した。この場合,この訴訟でAは,前訴の判決理由で認定された欺罔行為につきその不存在を主張して争うことはできるか。
2.Aが売買代金800万円の支払を請求する訴訟を提起したところ,Bは,第1次的に詐欺による取消しの抗弁を主張し,予備的に,BがAに対して有すると主張する800万円の損害賠償請求権による相殺の抗弁を主張した。この場合における2つの抗弁の審理順序について説明しなさい。また,予備的相殺の抗弁を①全額認めてAの請求を棄却する判決が確定した場合,②400万円の限度で認めてAの請求を一部棄却する判決が確定した場合,③Bの反対債権が不成立と判断してAの請求を認容する判決が確定した場合における既判力の範囲を説明しなさい。
3.Aが,売買代金800万円のうち600万円に限定して支払を請求する訴訟を提起したところ,Bは,詐欺による取消しの抗弁を主張し,裁判所はこれを認めて請求棄却判決を言い渡した。この判決が確定した後に,AがBに対して残代金の支払を求める訴えを提起した場合,裁判所はこの後訴をどのように扱うべきか説明しなさい。また,前訴判決が請求を全部認容する判決であったときはどうか。
4.Aが,売買代金800万円のうち600万円に限定して支払を請求する訴訟を提起したところ,Bは,BがAに対して有すると主張する600万円の損害賠償請求権による相殺の抗弁を主張した。この場合の審理方法を説明しなさい。また,裁判所が,この相殺の抗弁を①400万円の限度で認める場合,②100万円の限度で認める場合のそれぞれについて,判決が確定したときの既判力の範囲を説明しなさい。


一部請求あたりは,民訴の一個山場みたいなところですが,

毎回なんとなく判例っぽいこと書いて,

それっぽいあてはめしてで終わってるんですよね。

それでダメな気もしないので,

あんまり深く考えたことない分野でもあります。

≪答案≫
第1 設問1
 1 AのBに対する売買契約に基づく代金支払請求権として800万円の支払を請求する訴訟(以下「本件前訴①」という。)において,Bの詐欺取消権(民法96条1項)が認められて請求が棄却されている。これに対して,BのAに対する債務不履行に基づく損害賠償請求権として新たな資材の代金相当額の損害賠償請求訴訟(以下「本件後訴①」という。)において,Aは本件前訴①で争ったのと同一の詐欺取消権について,その不存在を主張して再びこれを争おうとしている。そこで,本件後訴①においてAが本件前訴①で判断されたことと矛盾する主張をすることは,本件前訴①の既判力に抵触しないかどうかについて検討する。
 2 既判力とは,前訴確定判決の後訴に対する通用力ないし拘束力をいう。既判力が生じるのは,「主文に包含するもの」に限られるところ(民訴法114条1項),既判力は裁判所の公権的な判断に付与された強制力であるから,広い範囲に効力を及ぼすべきではなく,当事者が意識的に審判対象とした訴訟物についてのみこれを認めれば,当事者間の紛争解決のためには必要十分であるから,「主文に包含するもの」とは訴訟物を指す。また,訴訟物の判断についてのみ既判力が生じるとすることによって,裁判所は,実体法の論理的順序にとらわれずに弾力的で迅速な審理を行うことができる。そうすると,既判力は,判決理由中の判断には生じないというべきである(※1)
 3 これを本件についてみると,Aが本件後訴①において争おうとしている詐欺取消権に係る欺罔行為について,本件前訴①においても詐欺取消権を認める上で当然審理されているものと考えられるが,詐欺取消権自体が訴訟物を構成するものではなく,あくまでBが提出した攻撃防御方法にすぎないのであるから,本件前訴①においては判決理由中の判断としか示されていない。そうすると,本件前訴①においては,詐欺取消権に係る判断について既判力が生じていないから,本件後訴①において,これについての判断が本件前訴①の判断によって拘束される関係にはない。
 したがって,Aは,既判力の観点からは,本件後訴①において詐欺取消権に係る欺罔行為の不存在を争うことに問題はない。
 4 よって,Aは,本件後訴①において,本件前訴①の判決理由で認定された欺罔行為につきその不存在を主張して争うことはできる。
第2 設問2
 1 前段
 本件前訴①において,Bは,弁済の抗弁とともに相殺の抗弁を提出している。これらの抗弁は,ともにBが提出する攻撃防御方法であって,いずれが認められても,本件前訴①に係るAの請求は認められなくなる。そうすると,前記のように,裁判所は,その順序にとらわれずに弾力的に審理判断をすることができるようにも思える。
 もっとも,弁済の抗弁とは異なり,相殺の抗弁については,その対抗した額について既判力が生じる(民訴法114条2項)。相殺の抗弁に既判力が生じるとされるのは,相殺は,訴訟物たる権利とは別個独立の債権の主張わ基礎とするものであり,その実質としては自働債権についての反訴の提起と類似する性質を有しており,これを後訴で改めて争うことができるとすると,実質的に同一債権について紛争の蒸返しを認めることになり,自働債権の債権者に訴訟上の二重の利益を与えることになるから,これを防ぐためである(※2)
 相殺の抗弁のこのような性質に鑑みると,裁判所は,訴求債権が成立していることについて判断した後でなければ,相殺の抗弁について審理判断することは許されない。そうでなければ,仮に訴求債権が成立していないにもかかわらず相殺の抗弁が認められれば,これよって対抗した額について既判力が生じ,本来その後に請求出来たはずの自働債権を訴求することが妨げられることになるからである。
 これを本件についてみると,Bが提出した弁済の抗弁が認められる場合には,Aが訴求する債権は成立しないこととなるから,相殺の抗弁を認めることによって自働債権に既判力を生じさせることはBにとって酷である。一方で,弁済の抗弁については,判決理由中の判断にすぎず,相殺の抗弁のように例外的に既判力が生じる旨の規定がないことから,この点の判断について既判力が生ぜず,再びこの点を別の訴訟において争うことができる。したがって,裁判所は,相殺の抗弁について判断する前に,弁済の抗弁について判断しなければならない。
 2 後段
 相殺の抗弁に関する判断についての既判力は,「対抗した額」について生じる。したがって,その既判力の範囲は,訴求債権との関係で決定されることとなり,訴求債権が成立する範囲で対抗した額に限定される。そして,相殺の抗弁に既判力を認めた前記の理由から,相殺の抗弁に係る自働債権が認められた範囲が対抗した額より小さいとしても,対抗した額の範囲でその不存在について既判力が生じなければ紛争の蒸返しを防ぐことができないから,この場合にも「対抗した額」について既判力が生じる。なお,自働債権が成立していると認められる場合には受働債権との相殺により基準時における不存在が確定され,自働債権が成立していないと認められる場合には同様に基準時における不存在が確定されるから,相殺の抗弁に関する判断についての既判力は,その不存在にしか生じない(※3)
 これを本件についてみると,Aの訴求する債権の額は800万円であるのに対し,Bの相殺に供する自働債権の額は800万円である。そうすると,①裁判所が自働債権の全額を認めた場合には,自働債権の全額が訴求債権に「対抗した額」となり,相殺によって自働債権は基準時において不存在となるから,自働債権の全額の不存在について既判力が生じる。また,③の場合にも,全額が「対抗した額」とされた上で,自働債権が不成立とされその不存在が確定するから,自働債権の全額の不存在について既判力が生じる。また,③自働債権のうち400万円についての成立が認められ,この限度で相殺が認められた場合には,当該400万円は相殺によって消滅し,基準時において不存在となる。一方,残部の400万円については,そもそも不成立とされることから,同様に基準時において不存在となる。したがって,結局,自働債権の全額について不存在であることについて既判力が生じる。
第3 設問3
 1 Aは,800万円の債権のうち600万円に限定して訴求しているが,まずこのように1個の債権の数量的な一部のみを訴訟上請求すること(以下「一部請求」という。)が認められるかどうかについて検討する。訴訟物たる権利ないし法律関係は私法の適用を受けるものである結果,私法の領域で妥当する私的自治の原則が民事訴訟でも妥当するため,民事訴訟においては,訴訟の開始及び終了並びに審判の対象・範囲を当事者が決定すべきである処分権主義が妥当する(※4)。したがって,私法上債権の一部行使は認められるのであるから,訴訟上も一部請求が認められる。
 2⑴ それでは,Aは一部請求として800万円のうちの600万円を請求する訴訟(以下「本件前訴②」という。)の後に,残部である200万円を請求する訴訟(以下「本件後訴②」という。)を提起することができるか。本件前訴②の既判力が本件後訴②に及ぶ関係にある場合には,本件後訴②は認められないこととなるため,本件前訴②に係る判決に生じる既判力の範囲について検討する。
  ⑵ 前記のように,既判力は訴訟物について生じるから,一部請求における訴訟物が何であるかが問題となる。この点,前記のように,処分権主義の観点から,原告が意識的に一部請求をしている場合には,その一部のみが訴訟物になるようにも思われる。また,原告が試験訴訟を求めたり,損害の総額が不明である場合に算定可能な部分について請求するといったことを可能にするため,訴訟物を分断する必要性もある(※5)。これに対して,被告側及び裁判所にとっては,複数回の応訴や審理の負担があるため,訴訟物を分断すべきでないとも考えられる(※6)
 そこで,両者の調整を図るべく,一部請求訴訟において一部である旨の明示がある場合には,債権のうち訴求された一部のみが訴訟物となるが,明示がなかった場合には,債権全体が訴訟物となると考える。この場合には,訴訟物をその一部に限定する原告の意思が表示され,かつ,被告も残部請求の可能性を認識して,必要があれば残部の債務不存在確認の反訴を提起することにより,再度の応訴の負担を免れることができるためである(※7)
 したがって,一部請求訴訟の判決の既判力は,明示がある場合にはその一部のみについて生じ,明示がなければ債権全体について生じる。
 3⑴ これを本件についてみると,Aが一部請求をするに際して,訴求している600万円が800万円の債権の一部であることを明示しているか否かは判然としない。そこで,まずAが一部であることを明示していなかった場合について考えると,この場合には,本件前訴②の訴訟物は,売買契約に基づく代金支払請求権の全体となる。したがって,本件前訴②においてこれの全部を棄却する判決がされたときには,800万円の債権の全体が不存在であることについて既判力が生じるから,Aは本件後訴②において,同債権のうちの200万円を請求したとしても,本件前訴②の確定判決の既判力が作用するため,請求棄却判決が出されることになる。
 また,本件前訴②において訴求債権の全部を認容する判決が出された場合にも,800万円の債権全体についてそれが存在することについて既判力が生じているから,再び本件後訴②で同債権のうちの200万円を請求したとしても,本件前訴②の既判力が作用するため,請求棄却判決がされることになる。
  ⑵ 次に,Aが一部であることを明示していた場合には,本件前訴②における訴訟物は,売買契約に基づく代金支払請求権のうちの600万円部分に限定される。そうすると,本件前訴②においてこれを全部認容する判決が出されたときには,その後本件後訴②において残部の200万円を請求しても,本件前訴②の既判力は作用しないから,本件後訴②において200万円部分について改めて審理を行い,これが認められるのであれば請求認容判決がされ,認められないのであれば請求棄却判決がされる。
 本件前訴②でこれを全部棄却する判決が出されたときには,同様に本件前訴②の判決の既判力は本件後訴②には及ばないから,Aは本件後訴②において残部の200万円を請求できるようにも思われる。しかし,一部請求においてもその審理は債権全体についてされるのであるから,その上で全部認容されなかった場合には,実質的には一部請求の残部についてもそれが不存在であるとの判断がされている。そうすると,本件後訴②において残部200万円を請求することは,実質的には本件前訴②の蒸返しであり,これによって紛争が解決されたとのBの合理的期待に反し,Bに二重の応訴の負担を強いるものである。したがって,一部請求訴訟で敗訴したAが残部請求の訴えを提起することは,特段の事情がない限り,信義則(民訴法2条)に反して許されない(※8)。よって,裁判所は,本件後訴②を,不適法なものとして却下すべきである。
第4 設問4
 1 前段
 一部請求は,特定の金銭債権について,その数量的な一部を少なくともその範囲においては請求権が現存することを前提として請求するものである。したがって,当該債権の総額が減少している場合に,債権の総額からではなく,一部請求の額から減少額を控除することは,一部請求の趣旨に反する。したがって,一部請求において,当該債権の総額が減少している場合には,まず,当該債権の総額を確定し,その額から減少額を控除した残存額を算定した上,原告の請求に係る一部請求の額が残存額の範囲内であるときはそのまま認容し,残存額を超えるときはその残存額の限度でこれを認容すべきである(※9)
 2 後段
 前記のように明示がされた一部請求の場合には,訴求債権の訴訟物がその一部に限定され,また相殺の抗弁により自働債権の存否について既判力が生じるのは,請求の範囲に対して「対抗した額」に限られるから,当該債権の総額から自働債権の額を控除した結果残存額が一部請求の額を超えるときは,一部請求の額を超える範囲の自働債権の存否について既判力は生じない(※10)
 これを本件についてみると,①自働債権が400万円である場合には,訴求債権の全額である800万円からこれを控除すると400万円が残存額となる。そうすると,残存額が一部請求の額である600万円よりも少なくなるから,両者の差額である200万円の限度で自働債権の不存在について既判力が生じる。
 また,②自働債権が100万円である場合には,700万円が残存額となるから,一部請求の額を超えるため,自働債権について既判力は生じない(※11)

以 上


(※1)「判決理由中の判断について既判力が生じないとされるのは,次のような考慮に基づく。まず,判決理由中の判断に既判力を及ぼさないことにより,弾力的で迅速な審理が可能になると考えられる。すなわち,もし判決理由中の判断についても拘束力が生じるものとすれば,どのような理由で請求の当否を決するかが重要な問題となるから,裁判所としては,実体法の論理的な順序に従って審理・判断をすることとならざるを得ない。たとえば,貸金返還請求訴訟において,契約の成立を争うとともに,予備的に消滅時効を主張する場合,契約の成否についてまず審理判断したうえで,契約の成立が認められる場合に限って消滅時効の成否についての審理判断に進まなければならないことになる。これに対して,判決理由中の判断については拘束力は生じないものとすれば,どのような理由で結論を出そうとも,判決効の面では差異が生じないことになるから,消滅時効の成立が明らかであれば,契約の成否について審理するまでもなく,請求を棄却することが可能となるし,当事者としても,特定の攻撃防御方法に過度にこだわることなく,柔軟に争点を絞り込むことが可能になる。また,上訴の局面においても,判決理由中の判断に拘束力を認めるとすれば,結論において勝訴している当事者に対しても,その理由が不利だという点で上訴の利益を認める必要が生じるが,拘束力がないとすれば,そうした上訴による手続の遅延を避けることが可能となるという利点がある。」「加えて,訴訟物は,訴状によって訴訟手続の当初から明確に特定されるべきものであるから,これを既判力の範囲を基準とすることは,当事者にとって明確かつ安定した基準を提供することになり,手続保障の観点からも利点がある。また,訴訟物ため権利義務関係の存否についての争いの蒸返しを防ぐことは,その判決による紛争解決の実効性を確保するために必要不可欠であるが,理由中の判断は,いわば手段的な意味を有するにとどまるのが通常であり,拘束力を認める必要性は,相対的に低いといえる。」三木浩一ほか『LEGAL QUEST民事訴訟法〔第2版〕』434頁
(※2)「たとえば自働債権による相殺の抗弁を排斥して請求認容する判決が確定した後に,被告が自働債権を訴求することを認めると,後訴が認容されたときには,一方で原告が前訴判決で得た地位が実質的に覆滅されるとともに,他方では,被告が,前訴では自働債権を抗弁の基礎として用い,後訴では,訴訟物として用いるという,訴訟上の二重の利益を得ることになる。逆に,前訴において相殺の抗弁にもとづく請求棄却判決が確定した後に,被告が相殺によって消滅したはずの自働債権を訴求することを認めると,やはり原告は,自己の受働債権の犠牲において自働債権の負担を免れた地位を覆滅されることになるし,被告は,前訴で自働債権にもとづく相殺の抗弁を主張し,後訴で同一の債権を訴訟物として訴求するという二重の利益を得ることになる。法が自働債権のうち相殺対抗額部分についての判断に既判力を認めるのは,このような不合理な結果を防ごうとするものである。」「理論的にみると,相殺の抗弁の成否についての判断は,訴訟物たる受働債権の存否を定めるための判決理由中のものにすぎない。したがって,114条2項は,既判力の範囲が判決主文中の判断に限定されるとする,同条1項の原則に対する例外をなす。それにもかかわらず,上記のような実際的考慮にもとづいてこの判断に既判力を認めることは,相殺の抗弁の性格によるところが大きい。二重起訴禁止と相殺との関係にもみられるように,相殺は,訴訟物たる権利とは別個独立の債権の主張を基礎とするものであり,その実質としては,自働債権についての反訴の提起と類似する性質をもっている。したがって,抗弁として提出された場合であっても,その判断に既判力を認めることが,理論的にも不合理とはいえない。」伊藤眞『民事訴訟法〔第4版補訂版〕』525頁
(※3)「114条2項は,相殺のために主張した請求の成立または不成立の判断について既判力が生じるとしているが,立法の経緯に照らしても,また既判力の基準時の性格からいっても,『請求の成立または不成立』の文言は,基準時における請求の存在または不存在と解されるべきである。また,相殺の抗弁についての判断内容としては,自働債権が不存在であるとして,抗弁が排斥されるか,相殺の抗弁を認めて自働債権が消滅するかのいずれかであるが,いずれの場合であっても,基準時には自働債権が不存在であると認められることになる。したがって,請求すなわち自働債権の存在に該当する判断は考えられず,自働債権の不存在についてのみ既判力が生じると解する以外にない。」前掲伊藤526頁
(※4)『処分権主義』とは,①訴訟の開始,②審判の対象・範囲,③判決に依らない訴訟の終了に関する決定を当事者に委ねる考え方をいう。このような考え方が民事訴訟に妥当するのは,訴訟物たる権利ないし法律関係は私法の適用を受けるものである結果,私法の領域で妥当する私的自治の原則は民事訴訟においても妥当すると考えられるからである。なお,①の決定が当事者に委ねられるということは,原告にる訴えの提起がないにもかかわらず,裁判所が職権で訴訟を開始することはできないということを意味するが,このことは,『訴えなければ裁判なし』あるいは『不告不理の原則』と表現される」前掲三木ほか55頁
(※5)「原告が一部請求をする動機には,勝訴の可能性が不明であるため,とりあえず債権の一部について裁判所の判断を求めようとする場合(いわゆる試験訴訟)や,損害の総額が不明であるためにとりあえず算定可能な部分について請求する場合,被告の資力に応じた金額を請求する場合など,さまざまなものがある。これらの背景としては,提訴手数料や弁護士費用が訴額に応じて定められているため,請求額を低く設定した方が,原告にとって費用の面で有利であるとの事情が指摘されることが多い。しかし,現実には,そうした動機は試験訴訟や被告の資力を考慮した一部請求に当てはまるにすぎず,多くの場合には,むしろ立証の困難や,不合理な請求であるとの外観を回避したいといった動機の方が重要な要因となっている。」前掲三木ほか442頁
(※6)「こうした議論においては,実質的には,同一債権を複数回に分けて訴求することについての原告の利益と,同一の債権について複数回の応訴や審理を迫られる被告や裁判所の負担をどのように調整するかが問題となるが,理論構成としては,一部請求訴訟における訴訟物をどのように構成するか,という点が検討の出発点となる。」前掲三木ほか442頁
(※7)「一部請求において一部である旨の明示があった場合には,債権のうち訴求された一部のみが訴訟物となるが,明示がなかった場合には,債権全体が訴訟物となるとする見解である……。その根拠は,明示があれば,訴訟物をその一部に限定する原告の意思が表示されているといえること,また,被告としても,残部請求の可能性を認識して,必要があれば残部の債務不存在確認の反訴を提起するなど,再度の応訴の負担を免れるための対応が可能であることに求められる。」前掲三木ほか444頁
(※8)「一個の金銭債権の数量的一部請求は、当該債権が存在しその額は一定額を下回らないことを主張して右額の限度でこれを請求するものであり、債権の特定の一部を請求するものではないから、このような請求の当否を判断するためには、おのずから債権の全部について審理判断することが必要になる。すなわち、裁判所は、当該債権の全部について当事者の主張する発生、消滅の原因事実の存否を判断し、債権の一部の消滅が認められるときは債権の総額からこれを控除して口頭弁論終結時における債権の現存額を確定し……、現存額が一部請求の額以上であるときは右請求を認容し、現存額が請求額に満たないときは現存額の限度でこれを認容し、債権が全く現存しないときは右請求を棄却するのであって、当事者双方の主張立証の範囲、程度も、通常は債権の全部が請求されている場合と変わるところはない。数量的一部請求を全部又は一部棄却する旨の判決は、このように債権の全部について行われた審理の結果に基づいて、当該債権が全く現存しないか又は一部として請求された額に満たない額しか現存しないとの判断を示すものであって、言い換えれば、後に残部として請求し得る部分が存在しないとの判断を示すものにほかならない。したがって、右判決が確定した後に原告が残部請求の訴えを提起することは、実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり、前訴の確定判決によって当該債権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し、被告に二重の応訴の負担を強いるものというべきである。以上の点に照らすと、金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは特段の事情がない限り、信義則に反して許されないと解するのが相当である。」最判平成10年6月12日民集52巻4号1147頁
(※9)「特定の金銭債権のうちの一部が訴訟上請求されているいわゆる一部請求の事件において、被告から相殺の抗弁が提出されてそれが理由がある場合には、まず、当該債権の総額を確定し、その額から自働債権の額を控除した残存額を算定した上、原告の請求に係る一部請求の額が残存額の範囲内であるときはそのまま認容し、残存額を超えるときはその残存額の限度でこれを認容すべきである。けだし、一部請求は、特定の金銭債権について、その数量的な一部を少なくともその範囲においては請求権が現存するとして請求するものであるので、右債権の総額が何らかの理由で減少している場合に、債権の総額からではなく、一部請求の額から減少額の全額又は債権総額に対する一部請求の額の割合で案分した額を控除して認容額を決することは、一部請求を認める趣旨に反するからである。」最判平成6年11月22日民集48巻7号1355頁
(※10)「一部請求において、確定判決の既判力は、当該債権の訴訟上請求されなかった残部の存否には及ばないとすること判例であり……、相殺の抗弁により自働債権の存否について既判力が生ずるのは、請求の範囲に対して『相殺ヲ以テ対抗シタル額』に限られるから、当該債権の総額から自働債権の額を控除した結果残存額が一部請求の額を超えるときは、一部請求の額を超える範囲の自働債権の存否については既判力を生じない。」前掲最判平成6年11月22日
(※11)これに対して,黙示的一部請求の場合に,相殺の抗弁の自働債権のについての判断に生じる既判力がどの範囲となるかはかなり悩んでいます。訴求債権の訴訟物が800万円全額になることから,自働債権の400万円全額が「対抗した額」になるのか,それとも明示的一部請求の場合と同様に100万円の限度となるのか,はたまたこの場合には債権の全額が口頭弁論終結時までに算定されていないとして,訴求債権600万円からそのまま相殺を認め(つまり内側説っぽくなる。ただし残部が観念されていないので,単純な相殺にすぎない。),400万円が「対抗した額」となるのか,色々考えられると思います。私にはよく分かりませんが,債権全額から400万円を引いて400万円が「対抗した額」となるのかなと思っています。



2019-03-30(Sat)

【基礎演習民事訴訟法】問題13「基準時後の形成権の行使」

1日4通が限界ですね。

疲れます。

ほんとに。

頭がしおれている感じがします。

≪問題≫

 Aは,Bとその所有する土地を購入するとの売買契約を締結した。それは,Bが自分の所有するこの土地は大規模なリゾート開発の対象となることがすでに決まっており,すぐに値段が上がると述べたからであった。
 しかし,Aはすぐに売買代金を支払うことができなかったために,Bから売買代金請求訴訟を提起され,その支払を命じる判決は確定した。
 ところが,Aはその後このリゾート開発の話は全くの嘘であり,この土地は将来性のない原野であることを知った。そこでBに騙されたことに気づいたAは,詐欺により自らの買受けの意思表示を取り消す(民法96条)という書面をBに送った。しかし,Aは,先の確定判決がBへの売買代金の支払を命じたことから,この確定判決に基づきBが自分の財産に対して強制執行を行うことが予測されるので,これを阻止するために,取消しにより売買代金請求権は消滅したことを理由として「Bからの強制執行は許さない」という判決を求めて請求異議の訴え(民執35条)を提起した。
〔設問〕
 Aは,Bに対するこの請求異議の訴えにおいて,取消しによる売買代金請求権の消滅を理由として強制執行の不許を宣言する判決を求めることができるか。


このタイミングで既判力。

重い。

≪答案≫
1 請求異議の訴えで異議事由とすることができるのは,「口頭弁論の終結後に生じたもの」に限られる(民執法35条2項)。Aが,既に確定判決が出ているBのAに対する売買契約に基づく代金支払請求権について,新たに詐欺を理由とする取消権を行使することが,異議事由となり得るかどうかについて検討する。
2⑴ 請求異議の訴えにおいて,異議事由が口頭弁論終結後の事由に限られるのは,確定判決の口頭弁論終結前の事由は既判力に抵触するためである(※1)
 ここで,既判力とは,前訴確定判決の後訴に対する通用力ないし拘束力をいい(※2),その消極的作用として,当事者は,後訴において,既判力の生じた前訴判決の判断に反する主張,立証をすることが許されず,裁判所もそのような主張,立証を取り上げることができない(以下,この効力を「遮断効」という。)(※3)。確定判決のこのような効力が正当化されるのは,当事者は既に前訴において特定の権利関係について裁判資料提出の機会を与えられたという意味での手続保障が与えられた点にある(※4)。そして,前記の既判力の正当化根拠に照らすと,既判力によって確定される権利関係の存否の時点(以下「基準時」という。)は,当事者が事実と証拠を提出することができる事実審の口頭弁論終結時である(※5)
 そうすると,本件では,Aが主張する取消権は,売買代金支払請求訴訟(以下「本件訴訟」という。)の基準時よりも前に発生しているため,本件判決の遮断効によって,後に取消権を行使することは遮断されるように思われる。
 ⑵ もっとも,形成権である取消権が本件訴訟の基準時前に存在していたとしても,形成権行使の意思表示が相手方に到達してその効力を生じた時期が基準時よりも後であれば,その効果の主張は本件訴訟の遮断効によって遮断されないようにも思われる。そこで,このような見解の当否について検討する。
 取消権は,権利の発生そのものの障害事由であるから,権利そのものに付着する瑕疵というべきであり,このような瑕疵は前訴でその権利自体が審理判断される際に共に審理判断されるべき性質を有している。そして,取消権が口頭弁論終結前に成立していれば,前訴においてそれを行使しておくことを通常期待できる。このような取消権の性質に鑑みれば,取消権が基準時前に成立しているのであれば,基準時後における当該取消権の行使は,確定判決の遮断効によって遮断されることとなる(※6)
 なお,このように考えると民法126条が取消権の消滅時効期間を5年としたことの保障を奪うこととなり,妥当ではないとする見解がある。しかし,民法126条は,権利関係を安定させるために期間経過後の取消権行使を禁じたものにすぎず,期間内の行使を積極的に保障したものではない(※7)(※8)
 また,このように考えると当事者がその責に帰さない事情のため取消原因を知らなかった場合にまで遮断効を認めることになり,債務者に酷であるとする見解がある。しかし,同様のことは,当然無効や弁済,免除,時効完成などの消滅原因を知らなかった場合についてもいえるのであるから,取消しについてのみ別異に取り扱う理由はない(※9)
 ⑶ これを本件についてみると,Aが主張する取消権は,Bの詐欺によるものであり,当該詐欺は売買契約締結の段階でなされたものであるから,本件訴訟の基準時前に取消権が発生している。そうすると,Aが取消権を本件訴訟において主張せず,本件訴訟の判決の確定後になって初めて主張することは,本件訴訟の確定判決の遮断効によって遮断される。
3 よって,Aは,Bに対する請求異議の訴えにおいて,取消しによる売買代金請求権の消滅を理由として強制執行の不許を宣言する判決を求めることができない。

以 上


(※1)「確定判決を対象とする請求異議の事由は,口頭弁論の終結後に生じたものに限られる(35条2項)。確定判決の基準時前の事由は,既判力に抵触するので,主張できないのである」上原敏夫ほか『民事執行・保全法〔第5版〕』80頁
(※2)「いったん判決が確定すると,もはやその判決を上訴等の通常の不服申立方法によって覆すことができなくなる(形式的確定力)のはもちろん,新たな訴えを提起するなどの方法によってその判断内容を争うことも許されないものとされる。このように,確定判決は,その事件を決着済みのものとし,判決の内容を以後の当事者間の関係を規律する基準として通用させる効力を有する。確定判決の持つこうした通有性ないし拘束力を,既判力と呼ぶ。既判力は,手続を形式的に終結させる形式的確定力との対比において,実体的確定力または実質的確定力と呼ばれることもある。」三木浩一ほか『LEGAL QUEST民事訴訟法〔第2版〕』418頁
(※3)「既判力が現実に作用するのは,既に確定判決の存在する事件に関連して後訴が提起された場合である。この場合の作用の形態としては,積極的作用と消極的作用とがあるといわれる。」「消極的作用とは,当事者は,後訴において,既判力が生じた前訴判決の判断に反する主張・立証をすることが許されず,裁判所もまたそうした主張・立証を取り上げることができないことを指す。たとえば,XのYに対する売買代金支払請求訴訟において請求認容判決が確定した後に,Yがその執行力を争って請求異議の後訴を提起した場合,売買契約は錯誤により無効であるとか,問題となっている契約は売買ではなく贈与であったから代金支払債務は存在しないといった主張は,既判力によって遮断されることになる。」「消極的作用は,遮断効または失権効と呼ばれることもある。しかし,既判力とは独立にそのような効力が認められるわけではなく,消極的作用とは,既判力の攻撃防御方法のレベルにおける作用を表現したものである。」前掲三木ほか420頁
(※4)「憲法上保障されている裁判を受ける権利の内容を考えれば,受訴裁判所が確定判決の拘束力を受け,その結果として,当事者が裁判所の判断形成のための裁判資料提出の機会を制限されることは,憲法の理念に反する。そこで,既判力の根拠として手続保障の理念が援用される。すなわち,当事者は,すでに前訴において特定の権利関係に関して裁判資料提出の機会を与えられ,その結果として一定の判断が確定した以上,後訴においてもその判断の拘束力によって裁判資料提出の機会が制限されてもやむをえないというものである。」伊藤眞『民事訴訟法〔第4版補訂版〕』508頁
(※5)「訴訟物たる権利関係の存否について受訴裁判所は,弁論主義の原則によって当事者が提出した事実と証拠にもとづいて判断を行う。当事者が事実と証拠を提出できるのは,事実審の最終口頭弁論終結時までであるから,裁判所の判断資料もこの時点によって画され,権利関係の存否もこの時点を基準とする。このことを既判力の時的限界または基準時は事実審の最終口頭弁論終結時であると表現する。」前掲伊藤515頁
(※6)「基準時後の取消権行使を認めない見解の根拠としては,①取消権は,相殺権とは異なり,権利の発生そのものの障害事由であるから,要素の錯誤,強行法規違反などと等しく権利そのものに付着する瑕疵とみることができ……,このような瑕疵は,法的安定性をその本質とする判決の既判力により最初の訴訟に際して全部洗い流されるべきであること……,②取消権や解除権については,それが口頭弁論終結前に成立していれば,前訴で行使しておくことを通常期待できること……,③基準時後の取消権行使を認めるとすれば,前訴の基準時前に主張されなかった,より重大な瑕疵である当然無効の事由が遮断されることと釣り合いがとれないこと……,が挙げられる。」高橋宏志ほか『民事訴訟法判例百選〔第5版〕』165頁
(※7)「遮断を肯定すると民法126条が保障する5年間の行使期間が奪われることになり,実体法の規定に反するとの批判がされる。この点は,実体法の解釈問題であるが,多数説の立場からは,この規定は権利関係を安定させるために期間経過後の取消権行使を禁じたものにすぎず,期間内の取消権の行使を積極的に保障したものではない,と解することになる。」前掲三木ほか430頁
(※8)「中野説の最も重要なポイントは,民法126条が取消権行使につき期間を保障しているとする点である。しかし,この期間制限は,この期間を過ぎれば取消権行使はできないということを意味するにとどまるのではなかろうか。それを超えて,この期間内は権利行使が当然に保障されているとまで強く捉えるべきものかは疑問がある。少なくとも,相手方が訴訟を提起して決着を求めてきたときまでも権利行使が保障されている期間と見るべきではないのではあるまいか。訴訟が提起されたときには,特別の事情がない限り,被告もその訴訟の中で取消事由をも含めて決着をつけるべきであり,それを被告に要求しても不当とは言えないからである。」高橋宏志『重点講義民事訴訟法・上〔第2版補訂版〕』615頁
(※9)「通説によると,債務者がその責に帰すべからざる事情のため取消原因を知らなかったような場合にまで遮断効を認めることになって債務者に酷な結果となるが,そのことは,当然無効や弁済,免除,時効完成などの消滅原因を知らなかった場合についてもいえるところであり,取消についてのみ別異に解すべき理由にはならない」最判解民事篇昭和55年度327頁



2019-03-30(Sat)

【基礎演習民事訴訟法】問題12「文書提出命令」

本日の(起きてからの)3通目です。

なぜか左側の鼻の奥がとても痛みます。

水を鼻から吸ったときみたいな痛さです。

なぜでしょうか。

何もしてないのに。

≪問題≫

 平成2年5月,相当の不動産資産を有していたAは,B銀行のなじみの行員Cから,B銀行と事業提携しているD生命保険会社が扱う終身型の一時払変額保険に加入するよう勧誘された。Cによれば,変額保険の投資対象である株式は高利回りの運用が期待でき,保険料の一括の支払をすべてB銀行からの借入れで行っても,死亡保険金や解約返戻金によって元利返済は確実に見込める上,むしろ借入れによりA死亡時の相続税額の経験も期待できる,とのことだった。地価の高騰による相続税額の膨張を苦慮していたAは,Cの勧めに従い,保有不動産すべてを担保としてB銀行に提供し,保険料額相当金10億円を借り入れ,そのまま全額を保険料としてD生命保険会社に支払った。
 ところが,その後,本件保険の解約返戻金の額は支払保険料額を大幅に下回り,借入れのみ膨らむ事態となったので,AはB銀行に対し,本件変額保険契約ならびに金銭消費貸借契約が一体として錯誤により無効であるとして,債務不存在確認の訴えを提起した。その訴訟においてAは,B銀行が所持する以下の文書につき,文書提出命令の申立てをした。
① B銀行が,融資一体型の変額保険の勧誘販売に伴う貸付にあたり,相続税対策としての有効性を誤信させる説明をCに行わせたことを明らかにするため,本件貸付に際して作成された貸出稟議書。
② 変額保険勧誘にあたりB銀行が主体的役割を担ったことを明らかにするため,平成2年にB銀行本部から各営業部長にあてて発出された変額保険の販売にあたっての業務提携に関する社内通達文書。
〔設問〕
1.①の貸出稟議書,②の社内通達文書につき,それぞれ文書提出義務は認められるのか。
2.文書提出命令にB銀行が従わない場合,どのような効果が認められるのか。


文書提出命令です。

判例がたくさんあるので,規範はちゃんと覚えるところから始めたいですね。

しかし,設問2の最後のところ,

証明すべき事実に色々ぶち込んだときに,

どこまで真実擬制させていいのかという議論は,

初めて知りました。

へえ,勉強になるなあと思いました。

≪答案≫
第1 設問1
 1 Aが申し立てた,B銀行の貸出稟議書及び社内通達文書(以下,それぞれ「本件貸出稟議書」,「本件社内通達文書」といい,これらをまとめて「本件貸出稟議書等」という。)の文書提出命令(民訴法223条1項)の申立て(同法221条1項)に係る文書提出義務は認められるか。
 2⑴ 本件貸出稟議書等は,同法220条1号及び2号の文書には該当しない。
  ⑵ 「挙証者の利益のために作成され」た文書(同条3号前段)とは,挙証者の地位や権利などを直接的に基礎づけ,かつ,そのことを目的として作成された文書をいう(※1)。本件貸出稟議書等は,ともにB銀行の内部においての用に供されるにとどまる文書であるから,「挙証者の利益のために作成され」た文書ではない。
 また,「法律関係について作成された」文書(同条3号後段)とは,挙証者と所持者との間の具体的な法律関係及びこれと密接な関連を有する事項について,それを対外的に明らかにする目的を持って作成された文書をいう(※2)。したがって,B銀行の内部使用目的で作成された本件貸出稟議書等は「法律関係について作成された」文書ではない。
  ⑶ そこで,Aとしては,本件貸出稟議書等が同条4号の文書に該当するとして,文書提出命令を申し立てることとなる。B銀行としては,本件貸出稟議書等が,「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」(同条4号ニ)であるとして,提出義務を負わないと反論することが想定される。
 ある文書が,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には,特段の事情がない限り,当該文書は「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」にあたる(※3)
 これをまず本件貸出稟議書についてみると,銀行の稟議書とは,支店長等の決裁限度を超える規模,内容の融資案件について,本部の決裁を求めるために作成されるものであって,通常は,融資の相手方,融資金額,資金使途,担保・保証,返済方法といった融資の内容に加え,銀行にとっての収益の見込み,融資の相手方の信用状況,融資の相手方に対する評価,融資についての担当者の意見などが記載され,それを受けて審査を行った本部の担当者,次長,部長など所定の決裁権者が当該貸出しを認めるか否かについて表明した意見が記載される文書である。このような文書作成の目的や記載内容等からすると,銀行の貸出稟議書は,銀行内部において,融資案件についての意思形成を円滑,適切に行うために作成される文書であって,法令によってその作成が義務付けられたものでもなく,融資の是非の審査に当たって作成されるという文書の性質上,忌たんのない評価や意見も記載されることが予定されているものである。したがって,貸出稟議書は,専ら銀行内部の利用に供する目的で作成され,外部に開示することが予定されていない文書であって,開示されると銀行内部における自由な意見の表明に支障を来し銀行の自由な意思形成が阻害されるおそれがあるものとして,特段の事情がない限り,「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たる(※4)
 次に,本件社内通達文書についてみると,B銀行本部から各営業部長にあてて発出されたものであって,その内容は,一時払変額保険の販売にあたっての業務提携について記載したものであり,取引先の顧客の信用情報やB銀行の高度なノウハウに関する記載は含まれておらず,その作成目的は,上記の業務提携を各営業部長に周知伝達することにある。このような文書の作成目的や記載内容等からすると,本件社内通達文書は,基本的にはB銀行の内部の者の利用に供する目的で作成されたものということができる。しかし,本件社内通達文書は,B銀行の業務の執行に関する意思決定の内容等をその各営業部長に周知伝達するために作成され,法人内部で組織的に用いられる社内通達文書であって,B銀行の内部の意思が形成される過程で作成される文書ではなく,その開示により直ちにB銀行の自由な意思形成が阻害される性質のものではない。さらに,本件社内通達文書は,個人のプライバシーに関する情報やB銀行の営業秘密に関する事項が記載されているものではない。そうすると,本件社内通達文書はが開示されることによってB銀行に看過し難い不利益が生ずるおそれがあるということはできない。したがって,本件社内通達文書は,「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」には当たらないというべきである(※5)
 3 よって,B銀行は,本件貸出稟議書については文書提出義務を負わないが,本件社内通達文書については文書提出義務を負う。
第2 設問2
 B銀行は,本件訴訟における「当事者」であるから,裁判所が本件社内通達文書について文書提出命令を発令した場合に,B銀行がこれに従わないときは,本件社内通達文書の記載に関するAの主張を真実と認めることができる(民訴法224条1項)。したがって,Aが本件社内通達文書の文書提出命令の申立てにあたり記載した「文書の趣旨」(同法221条1項2号)について,裁判所はそれが真実であると認めることができる。
 もっとも,文書提出命令を申し立てる当事者には,その提出の対象となる文書の記載内容について具体的に記載することについては限界があり,ある程度概括的にしかその内容が示されない。そうすると,文書所持者としては,当該文書を提出するよりも,これを提出しないで真実擬制を受けた方が有利であり,これでは文書提出命令の不服従の制裁としての実効性が欠ける。そこで,文書所持者が文書提出命令に従わず,当該文書により証明すべき事実を他の証拠により証明することが著しく困難である場合には,裁判所は,その事実に関する相手方の主張を真実と認めることができる(同条3項)(※6)。したがって,Aは本件社内通達文書について,変額保険勧誘にあたりB銀行が主体的役割を担ったことを証明すべき事実としているから,裁判所は,当該事実が真実であると認めることができる。この場合には,B銀行は,勧誘はD生命保険が積極的に行い,B銀行は顧客を紹介したにすぎない等の事実を別の証拠によって示すことにより,同項の効果の発生を妨げることができる。
 なお,仮にAが,本件社内通達文書によって証明すべき事実として,本件貸出稟議書によって証明しようとしていた,B銀行が融資一体型の変額保険の勧誘販売に伴う貸付にあたり相続税対策としての有効性を誤信させる説明をCに行わせたことを追加していた場合に,同項の効果としてこの点まで真実である認めてよいかが問題となる。この点,文書が実際に提出された以上の利益を挙証者に与える必要はないから,証明すべき事実と当該文書との間に関連性がないことが明らかである場合や,当該時事に対する証拠価値が期待できない場合には,同項の効果を認めるべきではないとする見解もある。しかし,同項の趣旨は,文書の不提出の動機付けを可能な限り減じて審理の充実を図る点にある。したがって,証明すべき事実と当該文書との関連性が直ちに肯定できなくとも,同項の効果を認めるべきである。このように考えても,文書所持者は,不利益を回避したいのであれば当該文書を提出すればよいのであるから,文書所持者に特段不利益を負わせるものではない。

以 上


(※1)『挙証者の利益のため』とは,その文書が挙証者の地位や権利などを直接的に基礎づけるものであり,かつ,そのことを目的として作成されたことを意味する。文書作成の目的が,挙証者の法的地位や権利義務を発生させるものであるときや,挙証者の法的地位や権利義務を証明するものであるときには,その文書を訴訟において証拠方法として利用することを認めるのが相当であるからである。ただし,挙証者に事実認定上の有利な結果が生じるというだけでは,利益文書には当たらない(広島地決昭和43・4・6訟月14巻6号620頁,大阪高決昭和54・3・15判タ387号73頁等)。挙証者が文書の提出を求めるときは,多かれ少なかれ事実認定上の有利な結果を期待しているので,『利益』をこのように捉えると,利益文書の範囲は無限定になるからである。利益文書の例としては,挙証者を受遺者とする遺言状,挙証者のためにする契約の契約書,挙証者の代理権を証明する委任状,挙証者を支払人とする領収書,挙証者にた意思て出された同意書,挙証者の身分を証明する身分証明書などがある。」三木浩一ほか『LEGAL QUEST民事訴訟法〔第2版〕』321頁
(※2)『法律関係』とは,挙証者と所持者の間の具体的な法律関係およびこれと密接な関係を有する事項を意味する。挙証者と所持者の間において,文書に関する共同の法律関係が存在する場合には,挙証者が文書という物の共有権を有していないとしても,その記載内容に対しては一種の支配権を有するとする考え方に基づく。法律関係それ自体が記載されている文書の例としては,契約書,解除通知,家賃通帳などがあり,法律関係と密接な関連を有する事項を記載した文書の例としては,印鑑証明書,商業帳簿などがある。私法上の法律関係だけではなく,公法上の法律関係でもよい。公法上の法律関係の例としては,挙証者に対する捜索差押許可状および捜索差押令状請求書(最決平成17・7・22民集59巻6号1837頁),勾留状(最決平成19・12・12民集61巻9号3400頁)などがある。しかし,文書の所持者による内部使用のみが想定されている文書……は,法律関係文書に当たらない。法律関係文書は,作成者が法律関係またはそれと密接な関連を有する事項を対外的に明らかにする目的を持って作成した文書であることを要するが,内部使用のみを想定した文書はこの目的を欠くからである。」前掲三木ほか321頁
(※3)「ある文書が、その作成目的、記載内容、これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯、その他の事情から判断して、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であって、開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど、開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には、特段の事情がない限り、当該文書は民訴法220条4号ハ所定の『専ら文書の所持者の利用に供するための文書』に当たると解するのが相当である。」最決平成11年11月12日民集53巻8号1787頁
(※4)「これを本件についてみるに、記録によれば、銀行の貸出稟議書とは、支店長等の決裁限度を超える規模、内容の融資案件について、本部の決裁を求めるために作成されるものであって、通常は、融資の相手方、融資金額、資金使途、担保・保証、返済方法といった融資の内容に加え、銀行にとっての収益の見込み、融資の相手方の信用状況、融資の相手方に対する評価、融資についての担当者の意見などが記載され、それを受けて審査を行った本部の担当者、次長、部長など所定の決裁権者が当該貸出しを認めるか否かについて表明した意見が記載される文書であること……が明らかである。」「右に述べた文書作成の目的や記載内容等からすると、銀行の貸出稟議書は、銀行内部において、融資案件についての意思形成を円滑、適切に行うために作成される文書であって、法令によってその作成が義務付けられたものでもなく、融資の是非の審査に当たって作成されるという文書の性質上、忌たんのない評価や意見も記載されることが予定されているものである。したがって、貸出稟議書は、専ら銀行内部の利用に供する目的で作成され、外部に開示することが予定されていない文書であって、開示されると銀行内部における自由な意見の表明に支障を来し銀行の自由な意思形成が阻害されるおそれがあるものとして、特段の事情がない限り、『専ら文書の所持者の利用に供するための文書』に当たると解すべきである。」前掲最決平成11年11月12日
(※5)「これを本件各文書についてみると,記録によれば,本件各文書は,いずれも銀行である抗告人の営業関連部,個人金融部等の本部の担当部署から,各営業店長等にあてて発出されたいわゆる社内通達文書であって,その内容は,変額一時払終身保険に対する融資案件を推進するとの一般的な業務遂行上の指針を示し,あるいは,客観的な業務結果報告を記載したものであり,取引先の顧客の信用情報や抗告人の高度なノウハウに関する記載は含まれておらず,その作成目的は,上記の業務遂行上の指針等を抗告人の各営業店長等に周知伝達することにあることが明らかである。」「このような文書の作成目的や記載内容等からすると,本件各文書は,基本的には抗告人の内部の者の利用に供する目的で作成されたものということができる。しかしながら,本件各文書は,抗告人の業務の執行に関する意思決定の内容等をその各営業店長等に周知伝達するために作成され,法人内部で組織的に用いられる社内通達文書であって,抗告人の内部の意思が形成される過程で作成される文書ではなく,その開示により直ちに抗告人の自由な意思形成が阻害される性質のものではない。さらに,本件各文書は,個人のプライバシーに関する情報や抗告人の営業秘密に関する事項が記載されているものでもない。そうすると,本件各文書が開示されることにより個人のプライバシーが侵害されたり抗告人の自由な意思形成が阻害されたりするなど,開示によって抗告人に看過し難い不利益が生ずるおそれがあるということはできない。」「以上のとおりであるから,本件各文書は,民訴法220条4号ニ所定の『専ら文書の所持者の利用に供するための文書』には当たらないというべきである。」最決平成18年2月17日民集60巻2号496頁
(※6)「所持者が訴訟当事者である場合には,制裁は事実認定,ひいては訴訟の勝敗に結びつけられる。その方が制裁として強力だからである。本則は,224条1項により,裁判所は,当該文書の記載に関する相手方当事者(文書提出命令申立人)の主張を真実だと認めることができる。当該文書の記載に関する相手方の主張とは,文書提出命令申立ての手続における221条1項1号・2号の文書の表示・趣旨に対応する。要するに,その文書に何が書かれているかという主張である。文書提出命令に従わないときの制裁としては,論理的には,文書が提出されたと同じ状態に持ち込めば必要にして十分である。そこで,文書が提出されたのと同じ状態とするために,当該文書の記載に関する相手方の主張を真実だと認め,事実認定に役立てるとしたのである。しかし,この論理は,実際には完全ではない。当該文書の記載に関する相手方の主張は,多かれ少なかれ,文書そのものよりは簡潔である。文書そのものを読むよりは,迫力を欠き証拠力は縮減するのが道理である。書証は,文書の紙質,筆跡などについての検証を兼ねるのであるが……,この部分の証拠力もない。したがって,一般的には,所持者側当事者としては,文書を提出してしまうよりも,提出せず224条1項の真実擬制を受ける方が立証上有利である。しかも,224条の真実擬制は裁判官の裁量によるのであって,必ず擬制されるとは限らない。」「そこで,所持者側当事者に対する制裁は強化しなければならない。224条3項は,申立人当事者の側が,文書の記載に関して具体的な主張をすることが著しく困難であり,かつ,その文書で証明しようとした要証事実を他の証拠で証明することが著しく困難である場合には,裁判所は要証事実そのものを真実擬制することができるとした。」高橋宏志『重点講義民事訴訟法・下〔第2版補訂版〕』210頁



2019-03-30(Sat)

【基礎演習民事訴訟法】問題11「自由心証・証明度」

とりあえず基礎演習は3分の1が終わりました。

3分の1を終わらせるのに約5日かかっているので,

このペースでいくとあと10日かかります。

それはマズいですね。

ペースをあげないといけないなと思います。

とりあえず,今回は,11問目です。

≪問題≫

 Aは,P会社に勤務する28歳の男性である。休日に1人で自動車を運転して高速道路を走行していたところ,午前2時頃に,時速100キロメートルを超えるスピードで分離帯に衝突する事故を起こしてしまった。Aは病院に運ばれたが,直後に死亡した。
 本件事故の4か月前に,Aは,職場にセールスに来たQ保険会社の販売員に勧められて傷害保険に加入していた。この契約に適用される約款には,被保険者が自動車運行中に急激かつ偶然な外来の事故により傷害を負う場合を保険事故とすること,Q社は被保険者の自殺行為による傷害を負う場合については保険金を支払わないこと,保険事故を理由として死亡した場合に3,000万円の死亡保険金を支払うことが記載されていた。
 Aは未婚であり,Aの母Bが唯一の相続人であった。BがQ社に対して保険金の支払を求めたところ,担当者は,Aに自殺の疑いがあることを理由として支払を拒絶した。そこで,Bは,Q社を被告として,3,000万円の死亡保険金支払請求訴訟を提起した。
 この訴訟の口頭弁論において,Bは,本件事故は偶然な(Aの故意によらない)事故であると主張し,Aは事故の数日前にもBと電話で明るく話していたこと,勤務態度にも変化はなく,友人らも悩みを聞いていないこと,Aは1人で旅行に出ることも多いが,今回は大きなプロジェクトが終わった直後で疲労が重なっていたため不注意で運転を誤ったと思われること,P社には事故の翌日に出金予定である旨連絡してあったことを主張・立証した。Q社は,Aが事故の1週間前に消費者金融から100万円の借金をしたが弁済しておらず,また,事故時の所持金は数千円であったこと,事故現場にはブレーキ痕がなかったこと,AはQ社と契約する直前に他の2社と傷害保険契約を結んでおり,これをQ社に告知していなかったこと,保険料は本件契約分(3万円)を含めて毎月6万円にのぼっていたが,Aの賃金は月25万円程度であることを主張・立証した。
〔設問〕
 裁判所が,本件事故はAの故意によらない事故であると認定するには,どのような問題があるか。BおよびQ社は,どのような証明活動をしなければならないだろうか。


立証活動というまたもよく分からないところ。

たぶん素でこの問題を解いたら,

ルンバールだよなあ,という頭の悪い答案構成しかできません。

≪答案≫
1⑴ AがQ社との間で締結した傷害保険契約(以下「本件傷害保険契約」という。)における約款(以下「本件約款」という。)では,被保険者が自動車運行中に急激かつ偶然な外来の事故により傷害を負う場合を保険事故とする旨が定められているとともに,被保険者の自殺行為による傷害を負う場合には保険金を支払わない旨を定めている。そこで,本件傷害保険契約の下で,BがQ社に対して保険金を請求するに際しての証明責任の所在が,前記保険事故を原因とする保険金請求権(以下「本件保険金請求権」という。)の成立要件との関係で問題となる。
 ⑵ 本件約款においては,その理由のいかんを問わずに自動車運行中に生じた事故により傷害を負ったことを傷害保険金請求権の成立要件とするものではなく,保険事故として急激かつ偶然な外来の事故であることを定めているのであるから,発生した事故が急激かつ偶然な事故であることが保険金請求権の成立要件であるというべきである。また,このように考えなければ,保険金の不正請求が容易となるおそれが増大する結果,保険制度の健全性を阻害し,ひいては誠実な保険加入者の利益を損なうおそれがある。そうすると,本件約款のうち,被保険者の自殺行為により傷害保険金の支払事由に該当したときは傷害保険金を支払わない旨の定めは,傷害保険金が支払われない場合を確認的注意的に規定したものにとどまり,被保険者の自殺行為により傷害保険金の支払事由に該当したことの主張立証責任を保険者に負わせたものではない。したがって,本件約款に基づき,保険者に対して傷害保険金の支払を請求する者は,発生した事故が急激かつ偶然な事故であることについて主張,立証責任を負う(※1)(※2)(※3)
 ⑶ 本件でも,Aについて生じた事故が急激かつ偶然な事故であることが本件傷害保険金請求権の成立要件であるから,Bにおいてこれに該当する事実について主張,立証する責任がある。
2⑴ 次に,Bにおいて,Aについて生じた事故が急激かつ偶然な事故であることについてどの程度証明する必要があるかが問題となる。
 ⑵ 証明は,証拠調べ期日を中心とする審理手続の制約された時間内で行う必要があることから,一点の疑義も許されない自然科学的証明を要求することは裁判所及び当事者に対して不可能を強いるものである。他方で,単なる蓋然性を基礎として裁判所が確信を形成することは,裁判所の事実認定に対する通常人の信頼を危うくする。そこで,訴訟上の立証の程度としては,高度の蓋然性が認められることが必要であり,その判定は通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを要する(※4)(※5)(※6)
 ⑶ そうすると,本件でも,Bは,Aについて生じた事故が急激かつ偶然な事故であることについて,通常人が疑いを挟まない程度に真実性の確信を持ち得る程度に立証する必要がある。Q社からは,Aに自殺の疑いがあることを理由に支払が拒絶されており,それを推認させる間接事実が主張,立証されているから,Bは,Aに自殺の意思がなかったことについて立証する必要がある。
3⑴ しかし,Aの内面である自殺の意思について立証を行うことは,特にAが死亡しており,直接的な証拠が存在しない本件においては,著しく困難である。そこで,Bにおける立証活動を軽減することができないかが問題となる。
 ⑵ 間接事実とは,主要事実の存否を経験則によって推認させる具体的な事実をいう(※7)。裁判所は,証拠及び間接事実の証明力,並びに経験則の蓋然性を考慮して,間接事実に基づいて主要事実の存在を事実上推定することができる。この場合には,相手方は,他の間接事実を裁判所に確信させる反証を行うことによって,事実上の推定を覆すこととなる(※8)
 本件では,Bが,Aの死亡前の言動や旅行後の出社予定などの間接事実から,人が自殺をする前にはその兆候があり,自殺をしようとする人は将来の予定を立てないという経験則によって,Aに自殺意思がなかったという主要事実を推認させることとなる。この場合,Q社は,B事故現場の状況やAの事故直前の言動などの間接事実から,自殺意思があったことを推認させ,あるいは,Bの主張する間接事実の推認力を減殺し,又は,Aが内心を打ち明けない性格であるなどの事実を以て前記の経験則を破るといった反証を行うこととなる。
 ⑶ なお,具体的な事実を主張・立証しなくとも裁判所が要件事実の充足を認める一応の推定という考え方もあり得るが,これは実体法上の要件事実の解釈問題にすぎず,立証活動の問題ではない。

以 上


(※1)「本件約款に基づき,保険者に対して災害割増特約における災害死亡保険金の支払を請求する者は,発生した事故が偶発的な事故であることについて主張,立証すべき責任を負うものと解するのが相当である。けだし,本件約款中の災害割増特約に基づく災害死亡保険金の支払事由は,不慮の事故とされているのであるから,発生した事故が偶発的な事故であることが保険金請求権の成立要件であるというべきであるのみならず,そのように解さなければ,保険金の不正請求が容易となるおそれが増大する結果,保険制度の健全性を阻害し,ひいては誠実な保険加入者の利益を損なうおそれがあるからである。本件約款のうち,被保険者の故意により災害死亡保険金の支払事由に該当したときは災害死亡保険金を支払わない旨の定めは,災害死亡保険金が支払われない場合を確認的注意的に規定したものにとどまり,被保険者の故意により災害死亡保険金の支払事由に該当したことの主張立証責任を保険者に負わせたものではないと解すべきである。」最判平成13年4月20日民集55巻3号682頁
(※2)「商法は、火災によって生じた損害はその火災の原因いかんを問わず保険者がてん補する責任を負い、保険契約者又は被保険者の悪意又は重大な過失によって生じた損害は保険者がてん補責任を負わない旨を定めており(商法665条、641条)、火災発生の偶然性いかんを問わず火災の発生によって損害が生じたことを火災保険金請求権の成立要件とするとともに、保険契約者又は被保険者の故意又は重大な過失によって損害が生じたことを免責事由としたものと解される。火災保険契約は、火災によって被保険者の被る損害が甚大なものとなり、時に生活の基盤すら失われることがあるため、速やかに損害がてん補される必要があることから締結されるものである。さらに、一般に、火災によって保険の目的とされた財産を失った被保険者が火災の原因を証明することは困難でもある。商法は、これらの点にかんがみて、保険金の請求者(被保険者)が火災の発生によって損害を被ったことさえ立証すれば、火災発生が偶然のものであることを立証しなくても、保険金の支払を受けられることとする趣旨のものと解される。このような法の趣旨及び前記1(2)記載の本件約款の規定に照らせば、本件約款は、火災の発生により損害が生じたことを火災保険金請求権の成立要件とし、同損害が保険契約者、被保険者又はこれらの者の法定代理人の故意又は重大な過失によるものであることを免責事由としたものと解するのが相当である。」「したがって、本件約款に基づき保険者に対して火災保険金の支払を請求する者は、火災発生が偶然のものであることを主張、立証すべき責任を負わないものと解すべきである。これと結論において同旨をいう原審の判断は正当である。所論引用の最高裁平成10年(オ)第897号同13年4月20日第二小法廷判決・民集55巻3号682頁、最高裁平成12年(受)第458号同13年4月20日第二小法廷判決・裁判集民事202号161頁は、いずれも本件と事案を異にし、本件に適切でない。論旨は採用することができない。」最判平成16年12月13日民集58巻9号2419頁
(※3)「商法629条が損害保険契約の保険事故を「偶然ナル一定ノ事故」と規定したのは,損害保険契約は保険契約成立時においては発生するかどうか不確定な事故によって損害が生じた場合にその損害をてん補することを約束するものであり,保険契約成立時において保険事故が発生すること又は発生しないことが確定している場合には,保険契約が成立しないということを明らかにしたものと解すべきである。同法641条は,保険契約者又は被保険者の悪意又は重過失によって生じた損害については,保険者はこれをてん補する責任を有しない旨規定しているが,これは,保険事故の偶然性について規定したものではなく,保険契約者又は被保険者が故意又は重過失によって保険事故を発生させたことを保険金請求権の発生を妨げる免責事由として規定したものと解される。」「本件条項は,「衝突,接触,墜落,転覆,物の飛来,物の落下,火災,爆発,盗難,台風,こう水,高潮その他偶然な事故」を保険事故として規定しているが,これは,保険契約成立時に発生するかどうか不確定な事故をすべて保険事故とすることを分かりやすく例示して明らかにしたもので,商法629条にいう「偶然ナル一定ノ事故」を本件保険契約に即して規定したものというべきである。本件条項にいう「偶然な事故」を,商法の上記規定にいう「偶然ナル」事故とは異なり,保険事故の発生時において事故が被保険者の意思に基づかないこと(保険事故の偶発性)をいうものと解することはできない。原審が判示するように火災保険契約と車両保険契約とで事故原因の立証の困難性が著しく異なるともいえない。」「したがって,車両の水没が保険事故に該当するとして本件条項に基づいて車両保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負わないというべきである。」最判平成18年6月1日民集60巻5号1887頁
(※4)訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。」最判昭和50年10月24日民集29巻9号1417頁
(※5)「行政処分の要件として因果関係の存在が必要とされる場合に、その拒否処分の取消訴訟において被処分者がすべき因果関係の立証の程度は、特別の定めがない限り、通常の民事訴訟における場合と異なるものではない。そして、訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではないが、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とすると解すべきであるから、法八条一項の認定の要件とされている放射線起因性についても、要証事実につき『相当程度の蓋然性』さえ立証すれば足りるとすることはできない。」最判平成12年7月18日集民198号529頁
(※6)証明は,証拠調べ期日を中心とする審理手続という,制約された時間の中で行わなければならず,そのために用いられうる証拠の範囲も無限定ではありえない。したがって,自然科学的証明の表現が適切か否かはともかくとして,万人が疑いを差し挟む余地のない確信の形成を要求することは,裁判所および当事者に対して不可能を強いることになる。逆に,訴訟制度が納税者の負担による公の制度として設けられている以上,単なる蓋然性を基礎として裁判所が確信を形成することは,裁判所の事実認定に対する通常人の信頼を危うくする結果となる。判例が,通常人が疑いを差し挟まない程度の高度の蓋然性を基礎として確信を形成することを要求するのは,このような趣旨として理解される。」伊藤眞『民事訴訟法〔第4版補訂版〕』332頁
(※7)「『間接事実』は,主要事実の存否を経験則によって推認させる具体的な事実である。たとえば,200万円の現金の受渡しという主要事実を推認させる間接事実として,貸し手の銀行口座からの200万円の引落しの事実と,借り手の銀行口座への同金額の同時期における入金の事実などである。」三木浩一ほか『LEGAL QUEST民事訴訟法〔第2版〕』208頁
(※8)「法律上の推定の主体が立法者であるのに対して,事実上の推定の主体は,自由心証にもとづいて事実認定を行う裁判所である。裁判所は,争いのある事実に関して,証拠から直接,または証拠にもとづいて間接事実を認定し,間接事実にもとづいて主要事実の存在を推定する。証拠にもとづく主要事実の証明を直接証明と呼び,間接事実にもとづく主要事実の証明を間接証明と呼ぶ。この推定は,経験則を用いて行われ,事実上の推定と呼ばれる。事実上の推定は,裁判官の自由心証によって立証主題たる事実について確信が形成される過程を示すものであり,法律上の推定と異なって,法律要件事実についての証明責任の転換をもたらすものではない。したがって,要件事実について証明責任を負う当事者は,裁判官の確信を形成しない限り,法規不適用の危険を免れないし,逆に相手方は,当該事実についての心証を真偽不明に追い込むだけで法規の適用による法律効果の発生を妨げられる。」「事実上の推定が成立するかどうかは,証拠および間接事実の証明力,ならびに経験則の蓋然性との間の相対的関係によって決定される。たとえば,手元不如意の状態にある借主が,貸主が金銭授受が行われたとする日時の直後にそれに相当する金額をもって第三者に弁済を行った間接事実が認められれば,裁判所は,他に特段の事情が認められない限り,金銭授受の事実を確信することが許されよう。反証の負担を負う借主としては,別の者から融資を得たなど,他の間接事実を裁判所に確信させない限り,上の事実上の推定を覆すことは困難である。このように,証明責任を負わない当事者が主要事実の反証にあたって,その基礎となる間接事実について裁判所の確信を形成する負担を負うことがあるが,これは,証明責任と矛盾するものではない。」前掲伊藤366頁
(※9)「『一応の推定』は,明治期の判例で登場した概念であり,近年に至るまで,わが国の裁判例において,主張・立証負担を軽減するための道具概念として,広く用いられてきた。また,『表見証明』は,ドイツの判例・学説において形成されてきた概念であり,実質的には,一応の推定とほぼ同様の考え方である。具体的には,いずれも,主として,不法行為における『過失』などの規範的要件を認定する場面で用いられるもので,たとえば,不法行為における損害賠償請求訴訟において,過失に該当する具体的な事実の立証が十分でなくても,一定の経験則を強く働かせることにより,要件事実の充足を認めて損害賠償請求を認容してよいとする法理である。もっとも,一応の推定(表見証明)についての学説の理解は一致しておらず,どのような事案をもって一応の推定(表見証明)が使われた事例と考えるのかも,論者ごとに異なっている。したがって,以下に述べるところは,1つの視点に立った整理である。」「たとえば,開腹手術後にガーゼが腹腔内に遺留されていたのが発見された場合において,遺留の経緯や病院の過失に関する具体的な主張・立証がない場合であっても,通常ではガーゼが腹腔内に遺留されることは起こり得ないとの経験則を重くみることによって,抽象的かつ不十分な主張・立証に基づいて病院の過失を認定する場合などが,一応の推定(表見証明)の典型例であるとされる。これによって,被害者である原告が具体的な経過を知ることのできない手術室で起こった事実に関して,原告の主張・立証負担が緩和される。」「もっとも,一応の推定(表見証明)が,一般的な通用性を有する主張・立証負担の軽減手段であるかどうかは疑問である。過失などの規範的要件は,法的評価概念であって主要事実ではなく,これらに該当する具体的な事実こそが主要事実である……。そして,法的評価のための主要事実の具体性の程度は,訴訟上の問題というよりも,規範的要件の解釈という実体法上の問題であるからである。すなわち,前述の例でいえば,過失に該当する主要事実として,執刀医や看護師のうちの特定の者が行った特定の行為という具体性の高い事実を設定するか,それとも手術に関与した病院関係者のいずれかの何らかの不注意な行為という抽象性の高い事実を設定するかは,規範的要件の解釈問題である。つまり,一応の推定(表見証明)は,規範的要件という特殊な法律要件に固有の問題であり,主張・立証負担の軽減手段の種類としては,実体法の解釈における証明主題の選択の問題として位置付けられよう。」前掲三木ほか278頁



2019-03-30(Sat)

【基礎演習民事訴訟法】問題10「主張・証明責任-要件事実入門」

おはようございます。

久々に定時(朝7時)に起きれました。

今日はちゃんとお勉強をすることができます。

今回は,基礎演習の10問目です。

≪問題≫

 XがYに対し,建物収去土地明渡しおよび土地所有権移転登記手続を求めて訴えを提起した(本件訴訟)。X・Yは,本件に関する事情をそれぞれ次のように説明している。
 Yの説明によれば,店舗用地を物色していたところ,適当な場所に甲土地が更地として売りに出されていることを発見し,甲土地の登記簿上Aに所有権の登記があることを確認し,甲土地上の看板に記載されていたAの連絡先に電話した。電話では,Aを名乗る者が応答し,甲土地は自分(A)が所有していること,売買契約の交渉には代理人としてBを当たらせることを,Yに告げた。Yは,Aの委任状を持参したBと売買契約交渉に入り,数か月後,諸条件に合意して,Aの代理人としてのBと甲土地の売買契約を締結し,甲土地の引渡しを受け,所有権移転登記を経由し,甲土地上に店舗建物(乙建物)を建築して,営業を開始した。
 Xの説明によれば,甲土地は,もともとAの所有地であったところ,Aの単独相続人CからXが買い受けたものである。Xは,Yに対し,甲土地上で店舗営業を継続したいのであれば甲土地を更地評価額で買い取るように求めたが,Yに拒絶されたため,その交渉を断念し,本件訴訟を提起するものである。
〔設問〕
 本件訴訟の訴訟物を明らかにし,これをめぐるX・Yの攻撃防御方法を整理せよ。


要件事実……

民訴っちゃ民訴なのかな……

予備試験の科目的には民実ですよね。

(途中から答案書くのが面倒になっています)

≪答案≫
1 本件訴訟の訴訟物は,所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権及び所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権である(※1)
2⑴ 所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権の発生要件は,①原告がその物を所有していること,②被告がその物を占有していることである(※2)
 ①原告の所有については,口頭弁論終結時における所有を立証する必要があるが,過去の所有権取得原因を主張立証すれば,その喪失事由がない限り現在まで継続してその者に帰属しているものとして扱われるところ,この場合には所有権取得の前主がその物を所有していたことまで主張立証しなければならない。しかし,特に土地についての来歴をその原始取得まで遡って主張立証することは現実的に不可能であるから,原告及び被告の間である時点での所有についての主張の一致があるときは,権利自白が成立したものとみて,その時点におけるその者の所有を裁判の基礎とすることができる。
 これを本件についてみると,Yは甲土地をAから購入し,その際にAが所有していたことを主張している。一方で,Xも甲土地をAの単独相続人Cから購入したと主張しているから,元々Aが所有していたことについては認めている。したがって,両者の主張が一致するAの所有の限度で権利自白が成立している。そこで,XはCがAから甲土地を相続したこと,及びCから本件土地を購入したことを主張立証することによって,甲土地の所有を主張立証することができる。
 ②Xとしては,Yが甲土地上に建築した建物の収去まで求めたいのであるから,Yが甲土地上に建物を所有して土地を占有していることを主張立証する必要がある(※3)
 ⑵ア これに対して,Yは,自身もAから甲土地を購入したことから,対抗要件の抗弁を主張する。甲土地については,Aを起点として,Xに対する物権変動とYに対する物権変動が生じているようにみえるので,YはXとの関係で「第三者」(民法177条)である。そこで,XがYに甲土地の所有権を対抗するためには,登記を具備していることが必要である。そこで,Yとしては,Xが甲土地の登記を具備するまで,Xを所有者として認めないとの主張を行うこととなる。したがって,この場合の主張は,Xの主張する請求原因事実と両立し,その法律効果の発生を妨げる働きをするから,抗弁として位置づけられる。
 そこで,Yは対抗要件の抗弁を主張するために,③自己が「第三者」にあたることを主張する必要がある。ここでは,YはAとの間の甲土地の売買の事実を主張することとなる。本問では,AY間の売買は,Aの代理人Bを通じて行われていることから,Bについて代理の要件(民法99条)を満たしていることが必要である。代理の要件は,④代理人と相手方との法律行為,⑤代理人による顕名,⑥④に先立って本人が代理人に④についての代理権を授与したことが必要である。そこで,Yとしては,これらの事実について主張立証することとなる。
  イ また,Yとしては,対抗要件具備による所有権喪失の抗弁を主張する。Yは,自身もAから甲土地を購入している上,その移転について登記を具備しているのであるから,民法177条の「第三者」にあたり,Xの請求は認められないとの主張である。この場合には,YがAから確定的に所有権を取得し,その結果,Xが所有者であったことはなかったことになるから,Xの主張する物権的請求権は発生しない。そうすると,第三者であるYが対抗要件を具備したことは,請求原因事実と両立し,その法律効果の発生を妨げる働きをするから,抗弁として位置づけられる。
 Yが対抗要件具備による所有権喪失の抗弁を主張するためには,⑦自己が「第三者」にあたること,⑧対抗要件を具備したことが必要である(※4)。したがって,Yはこれらの事実を主張立証することとなる。
  ウ また,Yが甲土地を取得した時期によっては,取得時効を理由として所有権喪失の抗弁を主張することも考えられる。取得時効の要件は,民法162条1項によれば,⑨所有の意思をもって,⑩平穏に,かつ,公然と,⑪他人の物を,⑫20年間占有したことである。しかし,占有の事実があれば⑨及び⑩は推定される(同法186条)。また,判例によれば,自己の物についても時効取得が成立する余地があるから,⑪は要件とならない。さらに,占有の最初の時点と時効完成時の2点の占有を主張立証すれば,その間の占有の継続が推定される(同法186条2項)。したがって,Yが時効取得を主張するためには,結局のところ,時効期間の起算点における目的物の占有と,時効期間経過時の目的物の占有を主張立証すれば足りる。
  エ なお,Yが短期取得時効(同法162条2項)を主張するためには,前記に加えて,⑫無過失であることも主張立証することが必要である。無過失のような規範的要件にあっては,それ基礎づける具体的事実たる評価根拠事実を主張立証することになる。
 ⑶ア 以上に対して,Xは,Yが背信的悪意者であることを主張立証することによって,対抗要件具備による所有権喪失の抗弁を覆す再抗弁を主張することができる。
  イ また,Xは,Yに所有意思がないことや,無過失の評価障害事実等を主張立証することによって,Yの取得時効の主張を覆す再抗弁を主張することができる。
3⑴ 所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権の発生要件は,⑬原告がその不動産を所有していること,⑭その不動産について相手方名義の所有権移転登記が存在することである。Xは,これらの事実を主張立証することとなる。その立証方法については,前記と同様である。
 ⑵ 抗弁以下は,前記と同様である。

以 上


(※1)解説114頁では「本件の訴訟物は,XのYに対する所有権妨害排除請求権としての土地明渡請求権および登記回復請求権である(請求の趣旨は,建物収去土地明渡請求および真正の登記名義回復のための所有権移転登記手続請求となる)。」としていますが,司法研修所の整理(ローでもこちらで学びますし,予備試験でもこの見解を前提とするはずです。)では,物権的妨害排除請求権は「他人の占有以外の方法によって物権が侵害されている場合」に立つものであり(司法研修所『新問題研究要件事実』55頁),「他人の占有によって物権が侵害されている場合」には物権的返還請求権が立つとされています(前掲新問研55頁)。本問では,Yは甲土地上に建物を建築して占有しているので,土地の明渡しを求めるのであれば,返還請求権としての明渡請求権になるはずです。一方で,登記は占有以外の方法によって物権を侵害するものであるので,妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権でよいと思います。
(※2)「所有権に基づく返還請求権を発生させるための実体法上の要件については様々な考え方がありますが,所有権の内容を完全に実現することが相手方の占有によって妨げられている場合には,所有者は,占有者に対して,所有権の内容の完全な実現を可能にするために,所有権に基づいてその物の返還を請求することができ,ただし,相手方が正当な占有権原を有する場合にはその請求ができないと解釈する立場があります。この立場によれば,所有権に基づく返還請求権の発生要件は,ⅰ その物を所有していること ⅱ 相手方がその物を占有していること であり,ⅲ 相手方がその物に対する正当な占有権原を有していること は発生障害要件であると解されます(最判昭35.3.1民集14.3.327[20])。」前掲新問研57頁
(※3)「Yが土地上に建物を所有して土地を占有しているとして,建物収去土地明渡請求をする場合には,建物収去の主文を導くため,占有についての争いの有無にかかわらず,被告が土地上に建物を所有して土地を占有していることを主張・立証しなければならない。」大島眞一『完全講義民事裁判実務の基礎〔第2版〕上巻』292頁
(※4)「対抗要件具備による所有権喪失の抗弁の要件としては,民法177条の第三者であることと対抗要件を具備したことが必要です。」前掲新問研81頁



2019-03-30(Sat)

【基礎演習民事訴訟法】問題9「釈明権」

この記事を投稿する頃には,日付が変わっている気がするので,

【昨日の一品】のコーナーです。

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こちらは,いわゆる「すた丼」と呼ばれる類のもの。

『伝説のすた丼屋』国立東店でいただきました。

一橋ローの周辺は,学生向けの飲食店が意外とそんなにあるわけではないので,

すた丼はかなり重宝されている店の一つです。

昨日は29日ということで,「肉の日」。

肉の日は肉が増量されるようです。

とはいえ,普段から頻繁に通っているわけではないので,

一体どれだけ増量されたのかという実感が持てているわけでもなく,

普通のすた丼を食べていただきましたという感じですね。

味はとてもしょっぱいので,たまに来るくらいがいいです個人的には。

でも,意外と盲点ですけど,

味噌汁をいただけるのって,こういう店とか定食屋に行ったときだけですよね。

ところで,今回は,基礎演習の9問目です。

≪問題≫

【ケース1】
 Aは,半年ほど前にインターネットの掲示板で知り合ったBから,「簡単に儲けが出る新しいe-ビジネスを始めようと思っているが,事業資金がないので投資してくれないか」と持ちかけられ,100万円を渡した。当初の3か月間は,毎月5万円がAの預金口座に振り込まれていたが,その後の振込はされなかった。そこで原告Aは,Bを相手取り,Bの詐欺に基づきこの投資契約を取り消したと主張して,投資金100万円の返還請求訴訟を提起した。これに対し,Bは,詐欺の事実はなく,4回目以降の配当ができなかったのは,事業が不振に陥ってしまったためであると反論した。
 裁判所は,投資契約が締結されたというAの主張に疑問をもっており,したがって,投資契約の際の詐欺も認定できず,このままでは請求は棄却すべきであるが,この契約が単なる100万円の消費貸借契約にあたるとすれば,全額とは言えないまでも(月5万円のはいとうは利息制限法違反の利息にあたる可能性が大であるから),一部認容判決をしうると考えていた。
〔設問〕
 このとき,裁判所は,Aが訴えの変更をするべく,釈明権を行使すべきか。

【ケース2】
 Cは,親友であるDの委託を受けて,DがE銀行より借りた1,000万円の債務の保証人となった。この1,000万円は,小売業を営むDがその店舗を改築し,新規事業を行うための資金であった。弁済期が来てもDが返済をしなかったため,E銀行はCに返済を請求し,Cは利息を含めた1,100万円をしはらった。
 しばらく経ってから,Cは,Dを被告として,求償権に基づき1,100万円の支払を持とめて訴えを提起した。Dは,すでに求償債務については弁済したとして争った。審理を進めるうちに,Dが求償金を支払った有力な証拠は存在しないこと,さらに,CがE銀行に保証債務を返済したのが7年前であったことが明らかとなった。判例(最判昭和42年10月6日民集21巻8号2051頁)によれば,本件求償請求権は5年の商事消滅時効(商522条)にかかる可能性がある。
〔設問〕
 このとき,裁判所は,Dに時効の抗弁を提出させるために,Dに対し,釈明権を行使することができるか。

【ケース3】
 F,GおよびHは甲土地の共有者であった。Fは,Gが無断で乙建物を建築したとして,Gを被告として建物収去土地明渡請求訴訟を提起した。GはHより賃借しており不法占有ではないと争った。これに対して,裁判所は,不法占有の事実を認定するとともに,Fの権利濫用を基礎づける事実も存在する心証を得た。
〔設問〕
 このとき,裁判所は,Fの権利濫用を理由にFの請求を棄却しようと考えているが,釈明をする必要があるか。


釈明権です。

苦手な人が多いです。

苦手っていうかなんでしょうね。

何言ってんのか分かんないというか,

学説とかでごちゃごちゃ言われていることを,

どのように答案化するかがしっかり固まっていないというところでしょうか。

事柄の性質上,規範がきっちり立つところでもないので,

論証化がなかなかしにくい側面もあります。

結局個別事案ごとの検討をするよっていうことを言えればいいのでしょうかねぇ……

≪答案≫
【ケース1】
1 裁判所は,訴訟関係を明瞭にするため,釈明権を行使することができる(民訴法149条)。釈明権は,当事者の主張・立証を正確に受領するとともに,当事者にできる限り十分な手続保障の機会を与えるために行われるものである。裁判所が当事者にこのような機会を与えることは,単に裁判所の権能にとどまらず,適正かつ公平な裁判の実施を国民から付託された裁判所の義務でもあるというべきである(以下,この義務を「釈明義務」という。)(※1)
2 もっとも,弁論主義のもとでは,訴訟資料・証拠資料提出の責任は,当事者に課されているのであるから,裁判所による釈明権の不行使が,すべて釈明義務違反と評価されるものではない(※2)。特に,当事者が申立てや主張をしていない場合にこれを積極的に示唆する積極的釈明(※3)を行う場合には,裁判所が一方当事者に加担する形を招きやすく,裁判所の中立性や公平性の観点から問題があるため,釈明義務違反と評価することは限定的であるべきである(※4)
 そこで,裁判所が釈明義務を負うか否かは,具体的な訴訟の状態に照らして,判決における勝訴逆転の可能性,当事者による法的構成の当否,当事者自治の期待可能性,当事者間の実質的公平など諸般の事情を総合的に衡量して決すべきである(※5)
3 これを本件についてみると,裁判所はAB間で投資契約が締結されたことについて疑問を持っている一方,消費貸借契約であるとすれば一部認容することができると考えているから,勝敗の逆転する可能性はあり得る。しかし,紛争の実質は,現実にAからBにわたった100万円の返還についてであること,また,既に提出された訴訟資料,証拠資料からすれば消費貸借契約の成立が窺われることからすれば,裁判所が全く新しい観点から釈明を行うものではないから,当事者間の実質的公平を害することにはならない。したがって,裁判所は,Aが訴えの変更をするべく,釈明権を行使すべきである(※6)(※7)(※8)
【ケース2】
 本件においても,裁判所がDに対して釈明権を行使すべきかどうかについて,前記の観点から検討する。
 裁判官が消滅時効の抗弁を提出させるべく釈明権を行使した場合には,釈明を受けた当事者は当然のことながら消滅時効の抗弁を提出し,その結果抗弁が容れられて,請求が棄却されることとなる。そうすると,判決の勝敗が逆転することは容易に予想される。また,時効は,その援用がない限りその効力を生じないものとして,当事者に効力発生の契機を委ねていると考えられるところ(民法145条),そのような主張がDから全くされていないにもかかわらず,これを裁判所が積極的に示唆することは,当事者間の実質的公平を著しく害するものである。そうすると,裁判所は,時効の抗弁の提出について釈明義務を負うものではないと考えられるから,裁判所は,釈明権を行使すべきではない(※9)
【ケース3】
1 裁判所は,F及びGが権利濫用の法的構成を主張していないにもかかわらず,このような構成をとって判決をすることができるか。
2 民事訴訟における当事者には,裁判の基礎となる主張及び立証の機会を与えられる権利(以下「弁論権」という。)を有している(※10)。当事者が事実の主張や立証に際してある法的観点を前提としているときに,裁判所が別の法的構成の方が妥当であると考えた場合に,裁判所が当事者にこれを示して議論や再考の機会を与えずに判決で当事者と異なる法的観点を採用することは,当事者に攻撃防御を行うのに必要な情報を与えないことによる不意打ちとなるものであり,弁論権を侵害するものである(※11)。したがって,最判所が,訴訟の経過等から当事者に予測困難な法的構成を採る場合には,当事者に十分な攻撃防御の機会を与えるべく,釈明権を行使しなければならない(※12)(※13)
3 これを本件についてみると,裁判所は,F及びGの主張する事実から,Fの権利濫用を基礎づける事実が存在するとの心証を得ているものの,両当事者からはこのような法的構成が主張されていたものとはうかがわれない。また,権利濫用という一般条項の法的構成が,従前の訴訟経過から当然に予想されるものとも限らない。したがって,裁判所は,Fの権利濫用の事実を認定して判決をするためには,当事者に釈明をしなければならない。

以 上


(※1)釈明権と釈明義務との関係については,三木浩一ほか『LEGAL QUEST民事訴訟法〔第2版〕』218頁は,「釈明権と釈明義務の関係については,①釈明権は事実審の権限行使の問題であるが,釈明義務は事実審の権限不行使に関する上告審の評価の問題であるから,両者の範囲はおのずから異なるとする見解もあれば,②釈明権と釈明義務は表裏の関係にあり,両者の範囲は一致するが,上告審での破棄事由となるのは釈明義務違反の一部にとどまるとする見解もある。事実審の行為規範としての釈明義務の範囲は釈明権と一致するが,上告審の評価規範としての釈明義務は行為規範としての釈明義務よりも狭くなるものと解すべきであるから,②の立場が妥当である。もっとも,いずれの見解をとろうと,具体的な結論に違いはなく,理念としての差異にとどまる」としています。リークエは②の見解を推していますが,この記述からはなぜ②の見解が妥当なのか説明されているとはいえない(事実審の行為規範としての……の部分は,②の見解を言い換えているだけにしか読めない)と思います。
(※2)「弁論主義の下では,訴訟資料・証拠資料提出の責任は,当事者に課されているのであるから,裁判所による釈明権の不行使が,すべて釈明義務違反と評価されるわけではない。具体的な訴訟の状態に照らして,釈明権が行使されなければ不合理な結果が生じる場合であって,かつ,適切な申立てや主張をなさなかった当事者が釈明権不行使の違法を主張することが訴訟上の信義則に反しない場合,はじめて釈明義務違反が肯定される。」伊藤眞『民事訴訟法〔第4版補訂版〕』306頁
(※3)「『積極的釈明』とは,当事者が申立てや主張をしていない場合に,これを積極的に示唆する釈明権の行使である。」前掲三木ほか221頁
(※4)「積極的釈明は,一方当事者に対して裁判所が新たな武器を与えることにつながりやすく,中立性や公平性の観点から慎重な態度が要求されるので,釈明義務違反となる場合は限定的に解すべきである。」前掲三木ほか221頁
(※5)「具体的に,いかなる場合が積極的釈明における釈明義務違反となるかについては,事案ごとに多面的な利益衡量が要求されるので一概に論じることは困難であるが,考慮要素としては,判決における勝訴逆転の可能性,当事者による法的構成の当否,当事者自治の期待可能性,当事者間の実質的公平などが挙げられる。また,当事者の本人訴訟か弁護士による代理訴訟かも,釈明権が当事者の手続保障を実質化する制度である以上,考慮要素となり得ることは否定できない。」前掲三木ほか221頁
(※6)「釈明の制度は、弁論主義の形式的な適用による不合理を修正し、訴訟関係を明らかにし、できるだけ事案の真相をきわめることによつて、当事者間における紛争の真の解決をはかることを目的として設けられたものであるから、原告の申立に対応する請求原因として主張された事実関係とこれに基づく法律構成が、それ自体正当ではあるが、証拠資料によつて認定される事実関係との間に喰い違いがあつて、その請求を認容することができないと判断される場合においても、その訴訟の経過やすでに明らかになつた訴訟資料、証拠資料からみて、別個の法律構成に基づく事実関係が主張されるならば、原告の請求を認容することができ、当事者間における紛争の根本的な解決が期待できるにかかわらず、原告においてそのような主張をせず、かつ、そのような主張をしないことが明らかに原告の誤解または不注意と認められるようなときは、その釈明の内容が別個の請求原因にわたる結果となる場合でも、事実審裁判所としては、その権能として、原告に対しその主張の趣旨とするところを釈明することが許されるものと解すべきであり、場合によつては、発問の形式によつて具体的な法律構成を示唆してその真意を確めることが適当である場合も存するのである。」最判昭和45年6月11日民集24巻6号516頁
(※7)「事実審における釈明の必要は,個々の具体的事件においてその事件の訴訟状態に応じて個別的に決定されるべきもので,一般的抽象的に或る場合については釈明は許されるが,他の或る場合については絶対に釈明は許されないと論断することは不可能なのであるが,請求原因の変更を示唆する結果となるような場合の釈明の可否についても同様のことがいえると思う。現在の実務のとる旧訴訟物理論に立てば,請求原因を異にするかぎり,一定の事実関係の主張に基づいて敗訴しても既判力が及ばず,再訴は妨げられない故,敗訴は原告にとって決定的な打撃ではない。しかし,抽象的にそうはいえても,及ぶかぎり,現に係属する訴訟において当事者間の紛争を終息させるのが訴訟制度本来の目的と訴訟経済からいってそれ自体適正,妥当な解決というるのであるから,形式的公平に勝る実質的公平を保つことのできる状況にある場合には,形式的な訴訟物の異同にこだわる必要はむしろ存在しないといってよく,いちがいに請求原因を異にするというだけの理由で釈明権能を否定する理由は乏しいものと思われる」最判解民事篇昭和45年度(上)296頁
(※8)「当事者,特に原告による申立てが不明瞭な場合,たとえば主張事実を前提とすれば,他の種類の請求権を訴訟物とするのが適当な場合などにおいては,裁判所の釈明義務が肯定される。これらは,多くの場合訴えの変更を生じさせるものであるが,一般に訴えの変更を促す釈明権行使も許され,かつ,当事者の訴訟追行能力や訴えの変更を余儀なくされる事情などを考慮して裁判所に釈明権行使が期待される場合には,釈明義務が肯定される。特に,……旧訴訟物理論を採用する場合には,紛争の抜本的解決という視点からも,裁判所は,同一の社会生活関係が前提とされている限り,請求原因の変更による訴えの変更について積極的に釈明権を行使すべきである。」前掲伊藤307頁
(※9)「所論原審の陳述は、本件175番山林の客観的範囲を明らかならしめる事情を陳述したにとどまり、その取得時効完成の要件事実を陳述したものとは解されないのみならず、仮りに、その陳述の真意が後者を陳述するにあつたとしても、時効を援用する趣旨の陳述がなかつたのであるから、原審が時効取得の有無を判断しなかつたのは不当でなく、その陳述の足らなかつたことの責任を裁判所に転嫁し、釈明権不行使の違法をもつて非難し得べき限りではない。」
(※10)「『手続保障』は,現在の民事訴訟法学における最重要概念の1つである。しかし,その意味するところは,論者や論じられる場面によって,必ずしも同一ではない。一般的には,憲法32条が保障する『裁判を受ける権利』を具体化するために,当事者に手続主体としての地位を保障すべき理念として観念される。手続主体としての地位にある者に認められる諸権能は『当事者権』と呼ばれるので……,この意味における『手続保障』は,当事者権の保障とほぼ同義といってもよい。」「当事者権の中核に位置するのは弁論権である。『弁論権』とは,裁判の基礎となる資料を提出する権利,すなわち主張および立証の機会を与えられる権利である。こうした弁論権およびこれを保障するための諸権利を包含するものとして,ドイツから輸入された『審尋請求権(審問請求権ともいう)』という概念もある。したがって,『手続保障』の中でもとくに重要なのは,当事者権のうちの『弁論権』ないし『審尋請求権』の保障である。後者の意味における手続保障は,判決手続のみならず,非訟手続を含むあらゆる司法上の手続において,等しく尊重されるべきものである。」前掲三木ほか23頁
(※11)「『法的観点指摘義務』とは,裁判官が当該事案に関して採用を考えている法的観点について,そのことを当事者に示すべき義務をいう。当事者が,事実の主張や立証に際してある法的観点を前提としているときに,裁判所が別の法的構成の方が妥当であると考えた場合には,裁判所がこれを当事者に示すことによって,当事者に裁判所と議論する機会や再考の機会を与えるべきである。裁判所が,これをせずにいきなり判決で当事者とは異なる法的観点を採用すると,当事者は不意打ちを受けることになって手続保障の侵害が生じる。弁論主義との関係では,裁判所は,当事者が主張しない事実を判決の基礎にするわけではないので,弁論主義違反の問題は直接的には生じないが,弁論権との関係では,攻撃防御を行うのに必要な情報が与えられていないことになるので,裁判所が法的観点指摘義務を十分に果たさない場合には弁論権の侵害となる。すなわち,法的観点指摘義務は手続保障の中でも弁論権に関わるものであり,したがって職権探知主義のもとでも問題となり得る。」前掲三木ほか222頁
(※12)「(1) 本件訴訟において,被上告人は,前記1(3)の事実を,本件合意の存在を推認させる間接事実としては主張していたが,当事者双方とも,上告人が定年規程による定年退職の効果を主張することが信義則に反するか否かという点については主張していない。」「かえって,記録によれば,本件訴訟の経過として,① 本件は,第1審の第2回口頭弁論期日において弁論準備手続に付され,弁論準備手続期日において本件の争点は本件合意の存否である旨が確認され,第3回口頭弁論期日において,弁論準備手続の結果が陳述されるとともに,被上告人本人及び2名の証人の尋問が行われ,第4回口頭弁論期日において口頭弁論が終結されたこと,② 第1審判決は,本件合意があったとは認められないとして被上告人の請求を棄却するものであったところ,これに対し,被上告人から控訴が提起されたこと,③ 原審の第1回口頭弁論期日において,控訴状,被上告人の準備書面(控訴理由が記載されたもの)及び上告人の答弁書が陳述されて口頭弁論が終結されたところ,控訴理由もそれに対する答弁も,専ら本件合意の存否に関するものであったこと,以上の事実が認められる。」「(2) 上記(1)のような訴訟の経過の下において,前記3のように信義則違反の点についての判断をするのであれば,原審としては,適切に釈明権を行使して,被上告人に信義則違反の点について主張するか否かを明らかにするよう促すとともに,上告人に十分な反論及び反証の機会を与えた上で判断をすべきものである。とりわけ,原審の採った法律構成は,① 上告人には,被上告人に対し,定年退職の1年前までに,定年規程を厳格に適用し,かつ,再雇用をしない旨を告知すべき信義則上の義務があったとした上,さらに,② 具体的な告知の時から1年を経過するまでは,賃金支払義務との関係では,信義則上,定年退職の効果を主張することができないとする法律効果を導き出すというもので,従前の訴訟の経過等からは予測が困難であり,このような法律構成を採るのであれば,なおさら,その法律構成の適否を含め,上告人に十分な反論及び反証の機会を与えた上で判断をすべきものといわなければならない。」「(3) 原審が,上記(1)のような訴訟の経過の下において,上記(2)のような措置をとることなく前記3のような判断をしたことには,釈明権の行使を怠った違法があるといわざるを得ず,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。」最判平成22年10月14日集民235号1頁
(※13)「狭義の一般条項[公序良俗規定(民法90条),信義則および権利濫用規定(民法1条3項)]について,仮に主張不要説に従うと,信義則違反等の規範的要件に該当する事実が証拠資料から明らかになった場合,裁判所は,当該事実について当事者の主張がなくても信義則違反等に基づく裁判をすることができる。このような場合,例えば,あらかじめ,信義則が問題となることが当事者に知らされていれば,当事者の一方が信義則違反を妨げる事由を主張する可能性や,信義則を適用する法的構成を問題にする機会が保障される。当事者にそうした機会が保障されていなければ,当事者に事実的または法的な側面で不意打ちを与えるであろうことは十分に推測できる。それゆえ,主張不要説の下でも,当事者に不意打ちを与えないよう,裁判所は,信義則違反等に該当する事実が証拠資料などから現れたときは,それを当事者に釈明し,当事者に事実主張や法的討議を促す義務--いわゆる法的観点指摘義務(法的問題指摘義務)--を負うとする見解が有力に主張されている……。」「このような見解を前提にすると,信義則違反に該当する事実を当事者自らが主張している場合でも,当事者が信義則適用を自覚していないときは,裁判所による法的観点指摘義務が必要になるものと考えられる……。なぜなら,かかる場合も,自覚がないために当事者は,信義則違反を根拠づける事実を補充する機会や,信義則適用を妨げる事由を提出したり,信義則という法的構成を争う機会を失うことによって,不意打ちを受ける危険が存するからである……。したがって,当事者による事実の主張がある場合でも,不意打ち防止の観点から,裁判所には,信義則違反の法的観点を当事者に指摘することが要求されうる。もっとも,このような法的観点指摘義務を理論的にどう位置づけるか,例えば釈明義務(民訴149条)の一態様と見るかは,その根拠と同様,さらに詰める必要がある。」髙田昌宏「信義則違反の主張と釈明義務」ジュリ1420号162頁



2019-03-29(Fri)

【基礎演習民事訴訟法】問題8「自白」

今日も見事な二度寝をかました影響で,

答案を書く予定がズレにズレています。

ヤバいです。

≪問題≫

 Yは本件土地をAから借り受けたと称して使用している。Aの死後,相続により本件土地の所有権を取得した長男Xは,Yを被告として,所有権に基づき土地の明渡しを求める訴えを提起した。
 第1回口頭弁論期日において,この事件は弁論準備手続に付されることになった。
 弁論準備手続において,Yは,Xの所有権を認めたうえで,AY間で本件土地をYが無償で使用することを認める合意がなされたこと,および,その合意に基づいてYは本件土地の引渡しを受けたこと(使用貸借契約の事実)を主張した。これに対して,Xは,使用貸借契約締結の事実の存在を認めたうえで,本件使用貸借契約には返還の時期の定めがないので,ただちに解約すると主張した。Yは,返還時期の定めはあり,未だにその時期は到来していない,したがって即時の解約は許されないと反論した。そこで,返還時期の定めの有無が本件訴訟における証明すべき事実であることが,裁判所および両当事者間で確認され,弁論準備手続は終了した。
 その1か月後に第2回の口頭弁論期日が開かれ,弁論準備手続の結果の陳述,および,AY間の返還時期の定めの有無を明らかにするための当事者尋問および証人尋問が行われた。証人尋問終了後,裁判所は,最終口頭弁論期日を2週間後に指定した。
 最終口頭弁論期日において,Yは,Aとの間で本件土地を無償で貸してもらう合意をしたことはない,AY間でなされたのは,Yが相当な賃料を支払って本件土地を使用する旨の合意(賃貸借契約締結の事実)であり,30年の存続期間はまだ経過していないためXの解約は効力を生じない,と主張をあらためた。
〔設問〕
 裁判所は,Yの賃貸借契約締結の事実の主張について,どのような扱いをするべきかを論じなさい。


自白です。

でも,この問題でXには自白が成立しないので,

自白絡みではほとんど問題がありません。

自白を学ぶ章の問題で,

こんな問題を取り扱ってもいいのでしょうか。

なんなら自白よりも時機に後れた攻撃防御方法の方が問題となるような気がします。

おかしいですね。

≪答案≫
1⑴ 本件の弁論準備手続においては,Yが,AY間で本件土地について使用貸借契約がされたと主張しており,Xはその事実の存在を認めている。これに対して,Yは最終口頭弁論期日において,AY間で本件土地について賃貸借契約がされたと主張し,弁論準備期日とは異なる主張をしている。そこで,賃貸借契約の事実は,弁論準備手続における使用貸借契約の事実について裁判上の自白が成立していることを理由として認められないのではないかが問題となる。
 ⑵ 裁判上の自白とは,口頭弁論又は弁論準備手続における相手方の主張と一致する自己に不利益な事実の陳述をいう。民事訴訟においては,訴訟外の私的自治の原則を訴訟上にも反映した弁論主義,すなわち判決の基礎となる事実及び証拠の収集及び提出を当事者の権能かつ責任とする原則が妥当するため,裁判所は,当事者間で争いのない事実については,証拠調べなしに裁判の基礎にしなければならない。そのため,裁判上の自白の効力として,証明不要効(民訴法179条),判断拘束効及び審理排除効が生じる(※1)。また,いったん自白が成立した事実についてその撤回が自由にできることとなると,証明不要効が事実上意味を持たなくなるから,自白の効果として不可撤回効も生じる。
 また,裁判上の自白の根拠を弁論主義に求める以上,自白が成立する事実は,主要事実に関する陳述に限られる。また,自白の成立には,その事実の陳述が一方当事者にとって不利益となる事実であることが必要だから,自白が成立するのは,その不利益を被る一方当事者についてのみである。
 ⑶ これを本件についてみると,Yは,弁論準備手続において,本件土地についてAY間で使用貸借契約がされたとの事実を陳述しているところ,この事実をXは認めているので,当該事実について両当事者における主張の一致が認められる。本件における訴訟物は,XのYに対する所有権に基づく本件土地の明渡請求権であるが,使用貸借契約の事実が認められる場合には,Yは本件土地を占有する正当な権限が認められるから,使用貸借契約の事実は抗弁事実として位置づけられる事実であって,自白の対象となる主要事実である。そして,Xが当該事実について認める旨の陳述をすることは,相手方であるYが証明責任を負う抗弁事実について認めるものであるから,Yを証明責任の負担から解放する点で,Xに不利益な陳述となる。したがって,本件土地について賃貸借契約が成立したとの事実について,Xに自白が成立している。
 そうすると,Yについては,当該事実について自白が成立しているわけではないので,Yとの関係では当該事実についての不可撤回効は働かない。そうすると,Yは当該事実と異なる陳述をしても,自白の不可撤回効と抵触するものではない。したがって,Yが賃貸借契約締結の事実を陳述しても,自白の不可撤回効との関係で問題となるものではない。
2⑴ もっとも,Yが賃貸借契約の事実について主張したのは,最終口頭弁論期日においてであるから,この主張を時機に後れた攻撃防御方法であるとして却下することはできないか(民訴法157条1項)。
 ⑵ 「時機に後れた」とは,より早期の適切な時期に提出できたことを意味する(※2)。本件では,弁論準備手続が行われ,既に主張や証拠方法などについての整理が行われているのであるから,この段階で主張すべき法律構成についても整理されているため,弁論準備手続以降で主張すべき法律構成を変更することは時機に後れたものであるというべきである。
 本件でYが賃貸借契約の事実を主張するに至ったのは,弁論準備手続において,使用貸借契約の返還の定めの有無が争点となり,第2回口頭弁論期日における証人尋問等を踏まえ,返還時期の観点で賃貸借契約を主張する方がより有利であると考えたからであると考えられる。しかし,そうであれば,弁論準備手続において,返還時期の定めの有無が争点として整理された段階で賃貸借契約の事実を主張する予定であることを明らかにすべきであり,このように予めそのことを明らかにしてもYにとって特段不利益となる事実はない。したがって,Yが最終口頭弁論期日になって賃貸借契約の事実を主張することは,「重過失」があるというべきである(※3)
 「訴訟の完結の遅延」とは,その攻撃防御方法を却下した場合に想定される訴訟完結時と,その攻撃防御方法の審理を続行した場合に想定される訴訟完結時を比較して判断する(※4)。Yが賃貸借契約の事実を主張したのは,最終口頭弁論期日であって,既に使用貸借契約における返還時期の定めの有無について焦点を絞った審理が,証人尋問などを通じてほぼ完結した段階である。そうすると,これまで審理されてきた使用貸借契約とは別の構成となる賃貸借契約の事実については別途それを基礎づける事実関係を取り調べる必要があるのであるから,この攻撃防御方法を採用すると,これを却下した場合に想定される訴訟完結時よりも,その訴訟完結時が引き伸ばされる可能性が高い。したがって,賃貸借契約の事実を攻撃防御方法として採用することは「訴訟の完結の遅延」となる。
 ⑶ したがって,裁判所は,Yの賃貸借契約締結の事実について,時機に後れた攻撃防御方法として却下すべきである。

以 上


(※1)判断拘束効と審理排除効の差異については,三木浩一ほか『LEGAL QUEST民事訴訟法〔第2版〕』232頁を参照。「一般的には,自白の効果として,『証明不要効』,『審判排除効』,『撤回制限効』の3つが挙げられることが多い。このうち,『審判排除効』は,裁判所の審理および判断を排除する効果であり,本書にいう『審理排除効』と『判断拘束効』の両者を含む意味で使われる。しかし,『審理排除効』は,審理途中で問題になる効果であるのに対し,『判断拘束効』は,審理終結後の判決作成の時点で問題になる効果であるので,両者はその機能する場面が異なる。また,擬制自白においては,『審理排除効』は観念できないが,『判断拘束効』は,通常の自白と同様に認められるという差異が生じる。そこで,本書では,議論の混乱や概念の矛盾を避けるために,『審判排除効』に代えて,『審理排除効』および『判断拘束効』の言葉を用いる。」
(※2)「『時機に後れた』とは,より早期の適切な時期に提出できたことを意味する。弁論準備手続などの争点整理手続が行われたときは,その終了後の提出は,特段の事情がない限り,時機に後れたものと判断される。控訴審での提出は,続審制がとられているので,控訴審の手続のみで判断するのではなく,第1審からの手続の過程を通じて判断すべきである(最判昭和30・4・5民集9巻4号439頁)」前掲三木ほか192頁
(※3)「『故意または重過失』は,攻撃防御方法の酒類を考慮して判断する必要がある。たとえば,相殺の抗弁のように実質的な敗訴を前提とした攻撃防御方法は,たとえ提出が遅れても,故意または重過失は認定されにくい。また,争点整理手続の終了後に攻撃防御方法が提出され,これについて説明義務が履行されないときは,重過失が推定されると解すべきである。」前掲三木ほか192頁
(※4)「『訴訟の完結の遅延』は,その攻撃防御方法を却下した場合に想定される訴訟完結時と,その攻撃防御方法の審理を続行した場合に想定される訴訟完結時を比較して判断する。既に弁論を終結している場合や,弁論終結の直前の場合には,この要件を満たしやすい。その場ですぐに取調べが可能な証拠の申出などは,訴訟の完結を遅延させるとはいえない。」前掲三木ほか192頁



2019-03-29(Fri)

【基礎演習民事訴訟法】問題7「弁論主義」

最近完全に忘れてましたが,ここで,

【昨日の一品】のコーナーです。

S__14647298.jpg

この見栄えの最悪なラーメン。

間違いなく二郎です。

今回は府中店です。

府中の二郎は,他店に比べるとスープが薄めな気がします。

二郎といわれてイメージするようなギトギトでメッタメタのスープではありません。

あと麺がめちゃくちゃ太いです。

人の指くらいの太さはあります。

私は太めの面の方が好きですが,これは好みが真っ二つになるでしょう。

豚は,まぐろの角煮のような硬さ。

なかなかクセがあります。

府中駅から比較的近いところにあるので,

通いやすいと思います。

気になる方は是非。

ところで,今回は,基礎演習の7問目です。

≪問題≫

 X株式会社は,平成24年5月15日,Y(自然人)を被告として,「Xは,平成23年11月11日にYに対し,英会話教材1セットを代金40万円で売ったので,その売買代金の支払を求める」旨を記載した訴状を甲簡易裁判所に提出し,40万円の支払を求める訴えを提起した(なお,Xは,少額訴訟による審理および裁判を求めていない)。
 Xの訴訟代理人は,第1回口頭弁論期日に,訴状を陳述し,書証として平成23年11月11日付けの契約書(本件契約書)を提出した。本件契約書には,購入者が英会話教材1セットを代金40万円でXから買う旨の記載があり,購入者の欄にYの氏名の記載とその姓を示す印影があった。
 これに対し,同期日に裁判所に出頭したYは,裁判所から答弁を求められ,請求棄却判決を求めるとともに,「Xが主張するような売買契約を締結した覚えはなく,そのような契約書は見たことがないし,印影や印鑑もYには無関係である」旨を述べた。
 そこで,Xの訴訟代理人は,「Xの従業員AがYとの契約に関する交渉一切を担当した」と説明してAの証人尋問の申出をした。
 裁判所は,Aの証人尋問を採用したほか,職権でYの本人尋問をすることとし,同期日にこれらの尋問を実施した。その結果,裁判所は,YがXとの間でXの主張する売買契約を締結した事実が認められるとの心証を得た。他方,裁判所は,同期日のうちに,本件契約書(X会社の事務所に保管されていた原本)に,手書きの「’12.4.1. 15万円,Yの父Bから代金受領済み(A)」という記載があることに気付き,Yの父Bが平成24(2012)年4月1日に代金の一部である15万円をYに代わってXに弁済した事実があるとの心証を抱いた。
 後記の設問1と2は,以上を共通の前提とするが,相互に独立した問題であり,次のように,当事者の主張または立証についての異なる状況を前提とする。
 (設問1が前提とする状況)
 設問1は,XもYも上記のほかに特段の事実を主張していない場合を前提とする。
 (設問2が前提とする状況)
 設問1が前提とする状況とは異なり,Yも本件契約書の手書きの記載に気づいたため,Yは,第1回口頭弁論期日のうちに,「仮にYがXから英会話教材を購入していたとしても,Yの父Bが平成24年4月1日に代金15万円をXに弁済した」と主張し,かつ,Yは,これに加えて,「YがXに同月15日に当該英会話教材の残代金25万円を弁済した」と主張した。これらのYの主張についてXの訴訟代理人は全部否認する旨陳述したが,この事実関係について尋問に答えた証人Aは,「Yの父Bから平成21年4月1日に本件英会話教材の代金15万円の弁済を受けたことは間違いなく,また,AがXの担当者として同月15日にYから25万円の支払を受けたこともあるが,その25万円は,平成20年12月12日にXがYに代金25万円で販売したドイツ語教材の代金であった」旨証言した。
〔設問〕
1.裁判所は,BがXに15万円を弁済した事実が認められることを前提に,「Xの請求のうち25万円は認容するが,15万円分は棄却する」旨の判決(実務上の主文例では,「被告は,原告に対し,25万円を支払え。原告のその余の請求を棄却する。」との判決。以下同じ)をすることができるか。
2.裁判所は,Xの請求する英会話教材の売買代金のうちBからXへの15万円の弁済の事実は認められるが,YからXへの25万円の支払についてはAが証言するドイツ語会話教材の代金であると認められるから,本件英会話教材の代金の支払とは認められないとの理由で,「Xの請求のうち25万円分は認容するが,15万円分は棄却する」旨の判決をすることができるか。その結論は,Xの訴訟代理人が「Yが25万円を支払ったことは認めるが,その25万円はXY間のドイツ語会話教材の売買代金である」と主張していた場合とそのような主張をしていなかった場合とで異なるか。


弁論主義です。

TKC模試でも出題されていましたが,

ちんぷんかんぷんでしたね。

あの模試を受けて民訴やべえなって思いました。

模試を受けることは大事なのかもしれません。

≪答案≫
第1 設問1
 1 裁判所は,BがXに15万円を弁済した事実(以下「本件弁済事実①」という。)を認定することができるか。本件弁済事実①は,本件契約書にその旨の記載があることから裁判所が心証を得たにとどまり,X及びYから本件弁済事実①に関する主張はされていない。そこで,裁判所が証拠資料から当該事実の認定をすることができるかどうかについて検討する。
 2⑴ 弁論主義とは,判決の基礎となる事実及び証拠の収集及び提出を当事者の権能かつ責任とする原則をいう。民事訴訟の対象たる訴訟物は私人間の権利であり,当事者の自由な処分を認める私的自治の原則が妥当するので,訴訟物の判断のための訴訟資料の収集と提出についても,同じく私的自治の原則が妥当することから,民事訴訟においては弁論主義が採用される(※1)(※2)
 そこで,私的自治の観点から,訴訟上の争点を自治的に設定する権能を当事者に保障するため,弁論主義の内容として,裁判所は,当事者のいずれもが主張しない事実を,裁判の基礎にしてはならないとの原則(以下「主張原則」という。)が導かれる(※3)。したがって,裁判所は,証拠調べの結果からある事実の存否について心証を得たとしても,その事実が当事者のいずれかから口頭弁論で主張されていなければ,その事実を基礎として裁判をすることはできず,これに反して事実を認定した場合には,弁論主義違反となる(※4)
  ⑵ これを本件についてみると,裁判所が認定しようとしている本件弁済事実①は,書証である本件契約書に手書きで代金受領済みの旨の記載があったことから,裁判所が本件弁済事実①が存在しているとの心証を得たにとどまるうえ,当該事実については,X及びYから口頭弁論において主張されてはいないのであるから,主張原則から,裁判所は本件弁済事実①を認定することができない。
 3⑴ そこで,裁判所としては,X又はYから本件弁済事実の主張がされることを促すため,本件弁済事実①の存否について釈明権を行使することが考えられる。釈明権の行使により,X又はYが口頭弁論において本件弁済事実①について主張をすれば,裁判所は当該事実を認定することができる。
 もっとも,裁判所が過度に釈明権を行使したときには,当事者間の公平を害するばかりでなく,司法の中立に対する国民の信頼を失わせる危険がある。そこで,釈明権の行使は,それまでの審理経過や訴訟資料から合理的に予想できる範囲を超えて一方当事者に申立てや主張を促したり,実質的に職権証拠調べに当たるような形で証拠の提出を示唆するなどにわたる態様では認められない(※5)
  ⑵ これを本件についてみると,裁判所は本件弁済事実①を,Xが提出した本件契約書からその旨の心証を抱いたのであり,あくまで当事者の提出した証拠に基づくものであるから,これに基づいて釈明権を行使したとしても,実質的に見て職権証拠調べに当たるとまではいえない。また,Yは,本件契約を締結していないことを理由に請求の全部棄却を求めており,弁済の事実については主張がされていないが,弁済の事実が認定された場合には,請求の一部が棄却されるという意味では,Yの主張する結論と方向性を一にするし,売買代金を争う上で弁済の事実が認定されることが不合理であるともいえないから,それまでの審理経過や訴訟資料から合理的に予想される範囲を超えた釈明権の行使であるともいえない。
 したがって,裁判所は,本件弁済事実について,X又はYに対して釈明権を行使して,その主張を促すことができる。これによって,X又はYが本件弁済事実①について主張すれば,裁判所は当該事実を認定することができる。この場合には,裁判所は,設問のような判決をすることができる。
 4 裁判所が,前記釈明権を行使せずに,X及びYから本件弁済事実についての主張がないまま,当該事実を認定して判決をした場合には,控訴審における取消事由となる(民訴法305条)。この場合,控訴審裁判所は,本件弁済事実①についての主張がないことを前提として,判決をすべきである。
第2 設問2
 1 本件弁済事実①について
 本件弁済事実①については,Yが第1回口頭弁論において同旨の主張を行っているため,裁判所が当該事実を認定しても主張原則に反するものではない。したがって,裁判所は,本件弁済事実①が認められることを前提として判決をすることができる。
 2 YがXに25万円を弁済した事実(以下「本件弁済事実②」という。)について
  ⑴ 裁判所は,本件弁済事実②について,これがドイツ語会話教材の代金であることを理由として本件英会話教材の代金の支払ではないとの事実を認定しようとしている。
 この点,本件における訴訟物は売買契約に基づく代金支払請求権であって,代金の弁済の事実は請求原因に対する抗弁事実となる。そして,弁済の抗弁は,一定の給付がなされたこと及びその給付が当該債務の履行としてなされたことを内容とするものであるから(※6),YがXに英会話教材の代金の支払として25万円を弁済した事実が主要事実となる。これに対して,本件弁済事実②がドイツ語会話教材の代金の支払としてなされたとの事実は,本件弁済事実②が英会話教材の代金の支払としてなされなかったことを推認する間接事実である。
 そこで,裁判所が間接事実を認定する上で,主張原則の適用があるかどうかについて検討する。
  ⑵ 前記のように,弁論主義が私的自治の訴訟上の反映であることからすれば,弁論主義の対象となるのは,権利の発生・消滅・変更の原因となる主要事実に限られる。そして,主要事実についての裁判所の認定は,247条に基づいて自由な心証によってなされる以上,間接事実についても当事者の主張がされない限り資料とすることができないとするのは,自由心証主義を不当に制約する。したがって,弁論主義の適用対象は,主要事実のみに限られる(※7)
  ⑶ これを本件についてみると,前記のように,本件弁済事実②がドイツ語会話教材の代金の支払としてなされたとの事実は,間接事実であるから,この点について弁論主義の適用はない。そうすると,裁判所は当該事実を証拠資料によっても認定することができるところ,当該事実については証人Aが同旨の証言をしているため,裁判所はX又はYの主張の有無にかかわらず当該事実を認定することができる。
 よって,Xの訴訟代理人が同旨の主張をしているか否かにかかわらず,裁判所は,証人Aの証言のみをもって,本件弁済事実②がドイツ語会話教材の代金の支払としてなされた事実を認定して,これに基づいて判決をすることができる。

以 上


(※1)「通説は,民事訴訟の対象たる訴訟物は『私人間』の権利であり(ここでいう『権利』は,法律関係や法的利益などを広く含む。……),当事者の自由な処分を認める『私的自治の原則』が妥当するので,訴訟物の判断のための訴訟資料の収集と提出についても,同じく私的自治の原則が妥当することに弁論主義の実質的な根拠を求める」三木浩一ほか『LEGAL QUEST民事訴訟法〔第2版〕』202頁
(※2)弁論主義の根拠と各テーゼとの関係については,伊藤眞『民事訴訟法〔第4版補訂版〕』296頁を参照。「民事訴訟の基本原則としてなぜ弁論主義が採用されているかを説明する議論として,本質説,手段説,法主体探索説,多元説,および手続保障説などが唱えられているが,本質説が妥当であり,その内容は以下のようなものである。訴訟物たる私人間の権利関係は,私的自治の原則に服し,当事者の自由な処分に委ねられる。弁論主義は,その権利関係の判断のための裁判資料の収集について私的自治の原則が適用されることを根拠としたものである。上に述べた弁論主義の第1内容,すなわち主要事実についての当事者の提出責任は,その事実にもとづく権利関係について私的自治が認められることを反映している。同様に,第2の内容たる自白の拘束力も,いかなる主要事実について裁判所の判断を求めるかという点についての当事者の支配権を認めるものである。また,第3の内容たる職権証拠調べの禁止も,私的自治に服する権利関係存否の判断は,当事者が提出する証拠にもとづいて行えば足り,裁判所が職権によって証拠を収集する必要はないとする点で,やはり私的自治を理念的基礎としている。」
(※3)「『主張原則(弁論主義の『第1テーゼ』とも呼ばれる)』は,『裁判所は,当事者のいずれもが主張しない事実を,裁判の基礎にしてはならない』という原則である(人訴20条前段の前半部分参照)。これは,どのような事実を審理対象とするかについては,当事者が決定する権限を有することを意味する。これにより,証拠調べの範囲は当事者が口頭弁論で主張した事実に限定されることになる。したがって,主張原則は,訴訟上の争点を自治的に設定する権能を当事者に保障する原理として機能する。」前掲三木ほか203頁
(※4)「主張原則により,裁判所は,たとえ証拠調べの結果からある事実の存否について心証を得たとしても,その事実が当事者のいずれかから口頭弁論で主張されていなければ,その事実を基礎として裁判をすることはできないことになる。これは,証拠調べによって得た訴訟資料(これを『証拠資料』という)と,当事者の主張によって得た訴訟資料(これを『主張資料』という)を厳格に区別することを意味する(これを『証拠資料と主張資料の峻別』という)。したがって,当事者が主張していない事実(当事者が気づかなかった事実や意識的に主張しなかった事実)について,証人の証言や書証の記載などから,裁判所が勝手にそれを認定することは許されない。」前掲三木ほか203頁
(※5)「釈明権の範囲という命題は,裁判所の行為規範として,釈明権の行使にどのような限界があるかという形で問題となる。釈明権は,その適切な行使を怠る場合には,……釈明義務違反の問題となるが。その行使が過度な場合にも問題が生じる。釈明権の行使が過度にわたる場合には,①裁判所に対する依存を助長するおそれ,②当事者間の公平を損なう危険,③真相を裁判所の意向に沿って曲げるおそれ,④判決による紛争解決の受容を妨げるおそれ,⑤司法の中立に対する社会の信頼を失わせる危険などがあるからである。いかなる場合に釈明権の行使が過度となるかは見解が分かれるが,それまでの審理経過や訴訟資料から合理的に予想できる範囲を超えて一方当事者に申立てや主張を促したり,実質的に職権証拠調べに当たるような形で証拠の提出を示唆するなどの釈明権の行使は,許されないであろう。」前掲三木ほか220頁
(※6)「弁済の抗弁については、弁済の事実を主張する者に立証の責任があり、その責任は、一定の給付がなされたこと及びその給付が当該債務の履行としてなされたことを立証して初めてつくされたものというべきであるから、裁判所は、一定の給付のなされた事実が認められても、それが当該債務の履行としてなされた事実の証明されない限り、弁済の点につき立証がないとして右抗弁を排斥することができるのであつて、右給付が法律上いかなる性質を有するかを確定することを要しないものと解するを相当とする。」最判昭和30年7月15日民集9巻9号1058頁
(※7)「弁論主義の内容のうち,主張原則および自白の拘束力は,いずれも事実に関するものであるが,そこでいう事実が主要事実のみを意味するのか,それとも間接事実をも含むのかが問題となる。しかし,弁論主義の根拠を私的自治に求める以上,その対象も権利関係の発生・消滅・変更の原因となる主要事実に限られるという結論が導かれる。これに対して,いったん弁論に上程され,相手方によって争われる主要事実についての裁判所の認定は,247条にもとづいて自由な心証によってなされる。したがって,裁判所が証拠調べなどの中で知った間接事実であっても,それが当事者によって弁論に上程されない限りは,主要事実認定の資料とすることができないとするのは,自由心証主義を不当に制約する。このような見地から弁論主義の適用対象は,主要事実に限定される。もっとも,その前提として,ある事実を主要事実とみるか間接事実とみるかの問題がある。」前掲伊藤298頁



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