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2019-02-28(Thu)

【事例研究行政法】第2部問題6

行政法のお勉強が進んでいなさすぎて,

答案構成に時間がかかるんですよね。

1日のほとんどが事例研究1問だけで終わってしまいます(大問題)

そして,今日1日かけて解いた問題はこちらです。

≪問題≫

 次の文章を読んで,資料を参照しながら,以下の設問に答えなさい。

 甲県に所在する乙市においては,パチンコ店の立地については,風営法に基づく規制と自主条例である「乙市パチンコ店等,ゲームセンター及びラブホテルの建築等に関する条例」(以下「乙市条例」という)による規制とが行われている。
 まず,風営法に基づく規制は以下のとおりである。風営法は,パチンコ店等の風俗営業を都道府県公安委員会の許可にかからしめるとともに(風営3条1項),立地にかかる許可要件は,政令(風営法施行令)が定める基準に従って都道府県条例によって具体化する,という仕組みを設けている(風営4条2項2号)。甲県は,風営法4条2項2号に基づく条例として,「甲県風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例」(以下「甲県条例」という)を定め,「第1種地域」での営業を禁止している。「第1種地域」とは,風営法施行令6条1号イにいう「住居集合地域」を具体化したものであり,第1種低層住居専用地域をはじめとする,都計法上の住居系用途地域が,第1種地域に指定されている(甲県条例別表〔第1条関係〕を参照)。なお,乙市内の用途地域は,都計法および同法施行令により,甲県が定めるものとされている。
 他方,乙市は,ベッドタウンとして知られる都市であり,都計法上の住居系用途地域以外の地域であっても住宅の比率が高いことから,乙市の良好な住環境の保全のためには,より広範な地域に風俗営業の規制を及ぼす必要があると考え,独自に,「乙市パチンコ店等,ゲームセンター及びラブホテルの建築等に関する条例」(以下「乙市条例」という)を制定し,甲県条例にいう第1種地域に当たらない地域についても,パチンコ店等の建築等を規制している。
 Xは,乙市内における,都計法上の準工業地域に当たる地域において,パチンコ店を開業しようと考え,乙市条例による乙市市長Pの同意を求めたところ,Pは,Xに対し,2010年3月に,同条例4上により同意することはできない旨の通知をした。これに対し,Xが,Pの同意を得ないままパチンコ店の建築工事を開始したため,Pは,Xに対し,建築を中止するよう指導し,Xがこれに応じないため,乙市条例8上に基づき建築の中止を命じたが,Xはこれを無視して建築を続け,公示を完成させた。
 乙市条例に基づく規制を無視してパチンコ店の建築を強行した者はXが初めてであり,Xの建築・営業を放置しておくと乙市条例による規制が骨抜きになってしまうおそれがあること,また,条例を遵守している他の業者や市民による批判も高まってきたことから,Pは,Xに対して強硬な姿勢で臨むことにし,同年7月,Xが建築したパチンコ店用の建築物につき,乙市行政手続条例が定める手続を経て,1ヵ月の履行期限を定めて,乙市条例8条に基づき,原状回復措置としてパチンコ店の建物の除却を命じた。Xがこれに従わなかったため,Pは,除却命令の代執行をすることを決意し,同年8月に,1ヵ月の履行期限を定めて,行政代執行法(以下「代執行法」という)3条1項に基づく戒告を行った。

〔設問〕
1.Xが代執行を阻止するためには,行政機関のいかなる行為を捉えて,いかなる訴訟を提起すべきか。仮の救済の手段も含めて論じなさい(いずれも,行訴法に定められたものに限る)。
2.Xが勝訴するためには,本案においてどのような主張をすべきか。複数の訴訟を提起しうると考える場合には,それぞれの訴訟ごとに検討せよ。なお,乙市条例が都計法・建基法に違反するという主張も考えられるが,この点については論じなくてもよい。


半分憲法

そういう印象です。

特に法令と条例の関係のくだり。

実際の試験で解いたことないんですよね。

いざ出されたら木端微塵になりそうです。

この問題で触れられてよかったですね。

≪答案≫
第1 設問1
 1 まずXは,乙市条例3条による乙市市長Pの同意の求めに対してしたPによる不同意(以下「本件不同意」という。)の取消訴訟(行訴法3条2項)及びPが当該同意をすべきことの義務付け訴訟(同条6項2号)を併合提起し(同法37条の3第3項2号),Pが当該同意をすべきことの仮の義務付け(同法37条の5第1項)を申し立てることが考えられる。
 もっとも,このような訴訟によっては,目前に迫った代執行を阻止するための救済手段としては,迂遠であり現実的ではない。したがって,本件不同意の取消訴訟及び同意の義務付け訴訟の提起は適切ではない。
 2 次にXは,Pのした乙市条例8条に基づく原状回復命令(以下「本件原状回復命令」という。)の取消訴訟を,乙市を被告として提起し(同法11条1項1号),その執行停止(行訴法25条2項)を申し立てることが考えられる。
 本件原状回復命令は,Pがその優越的地位に立って一方的にXの建築したパチンコ店(以下「本件パチンコ店」という。)の原状回復というXの財産権に制約を加える行為であるから,「処分」にあたる。Xは本件原状回復命令の名宛人であるから原告適格を有し(同法9条1項),出訴期間(同法14条)も問題ないものと考えられる。したがって,本件原状回復命令の取消訴訟は,これを適法に提起することができる。
 本件原状回復命令がされた場合には,一度完成させた本件パチンコ店をすべて取り壊すこととなり,工事途中での原状回復と比してもその損害の程度が大きい(※1)。また,本件原状回復命令を受けることで,本件パチンコ店の取引先等との業務上の信頼関係等の毀損も生じかねず,このような損害は回復が困難であると認められる(※2)。したがって,本件原状回復命令によって生じる「損害の困難の程度」を考慮し,「損害の程度」を勘案すると,Xが負担する損害は「重大な損害」であるといえる。また,Xに対しては,既に行政代執行の手続が開始されているから,上記の損害を「避けるため緊急の必要がある」と認められる。以上から,上記本件原状回復命令の執行停止の申立ては,これを適法にすることができる。
 3 またXは,Pのした行政代執行法3条1項に基づく戒告(以下「本件戒告」という。)の取消訴訟を,乙市を被告として提起し,その執行停止を申し立てることが考えられる。
 「処分」とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。本件戒告は,Pが優越的地位に立って一方的にする行為であって,公権力の主体たる公共団体が行う行為である。本件戒告は,それ自体によってXに新たな義務を課すものではない事実行為であるが,代執行の前提要件として代執行手続の一環をなすとともに,代執行が行われることをほぼ確実に示す表示でもある。そして,戒告がされてから事前に代執行をとどめる手段がないことからすれば,戒告は後に続く代執行と一体的な行為である。その結果,本件戒告はXの権利義務を形成するものであるということができる。したがって,本件戒告は「処分」にあたる。(※3)(※4)Xは「義務者」として本件戒告を受けた者であるから原告適格が認められ,出訴期間も徒過していないものと考えられる。したがって,Xは本件戒告の取消訴訟を適法に提起することができる。
 そして,本件原状回復命令の取消訴訟におけるのと同様に,本件戒告により「重大な損害」が生じ,Xはこれを「避けるため緊急の必要がある」と認められるから,本件戒告の執行停止の申立ても,これを適法にすることができる。
 4 さらにXは,Pが行政代執行法3条2項に基づいてする通知(以下「本件通知」という。)又は同法2条に基づいてする代執行(以下「本件代執行」という。)の差止訴訟(行訴法3条7項)を提起し,これらの仮の差止め(同法37条の5第2項)を申し立てることが考えられる。
 もっとも,Xとしては,上記のように本件戒告の取消訴訟を提起することができ,その方が要件が緩和されているのであるから,あえて本件通知及び本件代執行の差止訴訟を提起する実益がなく,また,「その損害を避けるため他に適当な方法があるとき」(行訴法37条の4第1項ただし書)にあたる可能性がある。したがって,Xが本件通知及び本件代執行の差止訴訟を提起するのは,適切ではない。
第2 設問2
 1 本件原状回復命令の取消訴訟について
  ⑴ まずXは,乙市条例が風営法並びにその委任を受けた同法施行令及び甲県条例に違反し,条例制定権の限界(憲法94条)を超え違法であるとの主張を行う。
 条例が国の法令に違反するかどうかは,両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく,それぞれの趣旨,目的,内容及び効果を比較し,両者の間に矛盾抵触があるかどうかを判断する。(※5)
 乙市条例は良好な環境を確保することを目的としている一方,風営法は善良な風俗と清浄な風俗環境を保持し少年の健全な育成を目的としているから,少なからず良好な環境を確保する点も含んでいると考えられ,両者は同一の目的に出たものであると考えられる。風営法は,具体的な規制の基準を都道府県条例に委任しており(風営法4条2項2号),その限りで地方の実情に応じた規制を予定しているとも思える。しかし,当該委任は,都道府県条例によって基準を具体化し,都道府県公安委員会が執行することによって実現されるものであり,市町村条例が上乗せ規制をすることは予定していないというべきである。また,風営法による規制は,営業の自由に対する強力な規制を施すものである上,風営法施行令6条3号は制限地域の指定を良好な風俗環境を保全するため必要な最小限度とすることを定めていることからすれば,風営法に基づく規制を超える規制をすることを同法は予定していない。したがって,風営法の規制に上乗せして規制を置く乙市条例は,風営法と矛盾定食するものである。
 そうすると,乙市条例は,憲法94条に違反するから,無効となる。
 よって,本件原状回復命令は,その根拠を有しないから,法律による行政の原理に反し違法である。
  ⑵ またXは,仮に風営法が,地方の実情に応じた規制を容認する趣旨であるとしても,乙市条例は都計法上の商業地域以外の地域においてパチンコ店の建築を例外なく不同意にするという仕組みを設けていることは,営業の自由に対する過剰な制約であって,憲法22条1項に違反する疑いのある,合理性を欠くものであって,憲法94条に違反し無効であると主張する。その結果,本件原状回復命令は,その根拠を有しないから,違法である。
  ⑶ 次にXは,仮に乙市条例が憲法94条に違反するものではなくとも,乙市条例8条の文言は,建築の前または工事中の命令権限について定めたものであり,完成した建物の除却を命ずることはその要件外であるから,同条を根拠として本件原状回復命令をすることはできないと主張する。その結果,本件原状回復命令は,その根拠を有しないから,違法である。
  ⑷ さらにXは,仮に乙市条例8条を根拠として本件原状回復命令をすることができるとしても,本件パチンコ店は都計法・建基法に違反していないうえ,乙市条例の実質的な目的は営業を阻止することにあると考えられるから,その目的のために完成した建物の除却を命じるのは財産権の過剰な侵害であって,比例原則に反すると主張する。その結果,本件原状回復命令は,比例原則に反し,違法である。
 2 本件戒告の取消訴訟について
  ⑴ 本件原状回復命令の取消訴訟におけるのと同様に,乙市条例が憲法94条に違反し無効である結果,Xが従うべき義務が存在せず,これを強制執行する代執行の前提となる本件戒告もその前提を欠くから,「法律に基づき行政庁により命ぜられた行為」(行政代執行法2条)の要件を欠き,違法である。
  ⑵ またXは,本件パチンコ店は準工業地域(都計法9条10項)に立地するため,その周囲の状況から本件パチンコ店が存在することで直ちに良好な環境が害されることになるとは考えにくく,「その不履行を放置することが著しく公益に反する」とはいえないから,本件戒告はその要件を欠き,違法である。

以 上


(※1)「改正法における『重大な損害』の文言は,損害の『性質』のみに着目した要件から,損害の『程度』ないし『量』に着目した要件に改め,執行停止について個別・具体的な紛争状況に即した適切な判断を担保することを目的としている。」櫻井敬子=橋本博之『行政法[第4版]』332頁
(※2)最決平成19年12月18日判時1994号21頁は,弁護士が所属弁護士会から懲戒処分を受けた事例で,「上記懲戒処分によってXに生ずる社会的信用の低下,業務上の信頼関係の毀損等の損害が同条[行訴法25条]2項に規定する『重大な損害』に当たるものと認めた原審の判断は,正当として是認することができる。」として,「社会的信用の低下」,「業務上の信頼関係の毀損」等も「重大な損害」の要素となることを指摘しています。
(※3)「もつとも戒告は代執行そのものではなく、またこれによつて新な義務ないし拘束を課する行政処分ではないが、代執行の前提要件として行政代執行手続の一環をなすとともに、代執行の行われることをほぼ確実に示す表示でもある。そして代執行の段階には入れば多くの場合直ちに執行は終了し、救済の実を挙げえない点よりすれば、戒告は後に続く代執行と一体的な行為であり、公権力の行使にあたるものとして、これに対する抗告訴訟を許すべきである。」大阪高決昭和40年10月5日行集16巻10号1756頁
(※4)「戒告,代執行令書の通知は,いずれも事実行為であり,義務者に新たな義務を課したり権利を制約するものではない。しかし,行われようとしている代執行が要件を充足していない等違法なものである場合に,義務があるとされた者には事前にこれをとどめる手段がないことから,戒告・代執行令書の通知について,救済の見地から処分性を認め,取消訴訟の対象とするのが通説・判例である。」前掲櫻井=橋本181頁
(※5)最判昭和50年9月10日刑集29巻8号489頁は,法律と条例との抵触について,「地方自治法一四条一項は、普通地方公共団体は法令に違反しない限りにおいて同法二条二項の事務に関し条例を制定することができる、と規定しているから、普通地方公共団体の制定する条例が国の法令に違反する場合には効力を有しないことは明らかであるが、条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾牴触があるかどうかによつてこれを決しなければならない。例えば、ある事項について国の法令中にこれを規律する明文の規定がない場合でも、当該法令全体からみて、右規定の欠如が特に当該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解されるときは、これについて規律を設ける条例の規定は国の法令に違反することとなりうるし、逆に、特定事項についてこれを規律する国の法令と条例とが併存する場合でも、後者が前者とは別の目的に基づく規律を意図するものであり、その適用によつて前者の規定の意図する目的と効果をなんら阻害することがないときや、両者が同一の目的に出たものであつても、国の法令が必ずしもその規定によつて全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく、それぞれの普通地方公共団体において、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解されるときは、国の法令と条例との間にはなんらの矛盾牴触はなく、条例が国の法令に違反する問題は生じえないのである。」と判示していますが,さすがにどう考えてもこれを全部答案に示すことは不可能ですし不要だと思われ,どうにかしてコンパクトにする必要があるんですが,どこまで書けばいいのかもよく分からないところです。とりあえず,「例えば」以下の部分は,単なる例示であって規範ではないと思われるため,答案上はごっそり切り落とすことにしました。


【事例研究行政法の他の問題・答案は下記のリンクから】
第1部 
問題1問題2問題3問題4問題5問題6問題7問題8
第2部
問題1問題2問題3問題4問題5問題6問題7問題8問題9問題10
問題11問題12問題13問題14問題15問題16問題17
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2019-02-27(Wed)

【事例研究行政法】第2部問題5

行政法は予備論文の手応え的に,

出来はそんなに良くないけど,周りも出来ていないためか,

評価は良いという感じだったので,

極端に沈むということはないんでしょうけど,

予備は憲法とセットという点で新司と事情が違うので,

行政単体にかける時間が平等になると,

周りの人がどこまで行政の点を伸ばしてくるかが心配になります。

そういうことを考えるとやっぱり行政も手を抜くことはできないですね。

なので早いところ事例研究を終わらせておきたいです。

今日は問題5です。

≪問題≫

 大規模小売店舗の規制については,かつては「大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律」(以下では「大店法」という)により,小規模小売店舗の保護のため,既存商店の経営を圧迫するような新規出店を制限するように需給調整されていた。しかし,この法律は,中小企業の利益を保護する目的で,かえって消費者の権利を制限するものであり,また商業者の自由な商業活動を規制するものであるとの指摘を受けて廃止され,代わって新たに,「大規模小売店舗立地法」(平成10年法91号,以下「大店立地法」または単に「法」という)が制定された。
 大店立地法の運用に関して,次の文章を読んで,資料を参照しながら,以下の設問に答えなさい。

Ⅰ 大店立地法の規制だけでは中心市街地の衰退化を防げないと考えた甲県では,「大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する指導要綱」を策定し,大店立地法による規制手段が始まる前段階から事業者を行政指導することにした。
 この要綱に基づき,甲県は,2016年2月1日,乙市の市街地の外れの工場跡地に大規模小売店(スーパーマーケット)を出店しようとしている事業者Xに対して,出店構想段階での情報提供を求めるとともに,乙市中心市街地の商店街が衰退しないように,地元商店街や関係地方公共団体から意見を聴くこと,地元との軋轢を避けるため営業規模を縮小し,営業時間を短縮して深夜に及ばないようにすることを求める行政指導をした。Xは,出店構想の情報は提供したものの,大店立地法ではこのような営業規模の規制は認められないはずだと主張して,行政指導に従うことを拒否し,大店立地法5条により義務付けられた届出の書類を県に提出した。これに対して県知事Aは,上記の行政指導を拒否したことを理由に届出書類を返戻した。

〔設問1〕
 Aが届出書類を返戻したことに対して,Xは不服である。この場合,Xはどのような訴訟を提起して争うことができるか。なお,本案については検討しなくてもよい。

Ⅱ Ⅰの場合とは異なり甲県が事前の行政指導をしなかった場合について考える。事業者Xが,大店立地法に基づく届け出を提出した。住民説明会では届出内容の説明がなされたが,周辺住民から,計画地である工場跡地付近は,道路が狭く,違法駐車が多い地域なのでこれ以上違法駐車が増えるようなスーパーの進出には反対であり,24時間営業は深夜の静穏な環境を破壊するとの意見が多数寄せられた。
 甲県が,この届出の内容を検討したところ,狭く交通量も多い道路であるにもかかわらず,車で来店いる場合には,右折入出庫を前提とする計画で道路交通上も危険があり,24時間営業は騒音問題を含め,地域の生活環境を悪化するおそれがあると判明した。そこで,甲県は,Xに対して①道路路に面した敷地に左折での入庫待ちのスペースを確保すること,②交通上の危険防止のため右折入出庫をやめ,入出庫は左折のみに限定するか,右折入出庫のためアンダーパスまたはオーバーブリッジを道路管理者と協議のうえ設置すること,③24時間営業は深夜の車両騒音で環境基準を超えるため午後10時から早朝6時まで駐車場の半数を利用中止とすることの3点を内容とする大店立地法8条4項に基づく意見を述べた。
 ところが,Xは,たしかに騒音は環境基準を超えてはいるが,超過はわずか2dBにすぎず,この程度では被害の発生はないと主張し,また,それ以上の対策は採算上問題があり,また,左折入出庫に限定すると自動車での来店が限定されることとなって売り上げが確保できない可能性があるし,アンダーパスやオーバーブリッジ設置は莫大なコストの増大につながること等を指摘して,甲県の意見は,事業者の営業に過度に介入する過大な要求であるとして,意見には対応しない旨,甲県知事Aに通知をした。
 このため甲県は,大店立地法9条1乞うに基づき,Xに対応し,上記の状況を改善するため必要な措置を講ずるよう勧告した。勧告の内容は,上記意見と同様であり,①入庫待ちスペースの確保,および②来客者の左折入出庫の徹底,③アンダーパスまたはオーバーブリッジ設置,④駐車場の深夜早朝に関する利用規制であった。しかし,Xは,この勧告内容は商業活動を不当に制限し,営業上の損害を与えるものとして,特に計画を変更しない旨を届け出た。

〔設問2〕
1.上記の大店立地法8条4項に基づく意見と大店立地法9条1項に基づく勧告に対して,Xは,これらの意見,勧告は,正当な理由なく事業者の営業活動に対する過剰な介入を測ろうとするものであり,従う必要がないと考えている。これらの意見や勧告の違法性を争うためには,Xはいかなる訴訟を提起することができるのか,検討しなさい。なお,本案については検討しなくてもよい。
2.Xが韓国に従わないために,甲県は,大店立地法9条7乞うに基づいて,勧告に従わない旨の事実を公表しようと考えている。しかしXは,勧告に従わないことには正当な理由があり,公表は違法であると考えている。公表がされる前に事情を説明する機会も与えられていないことにも不満がある。さらに,公表によって,企業イメージが大幅にダウンし,営業上大きな損失を受けることも予想される。そこで,公表の違法性を公表前に訴訟で争いたい。どのような訴訟を提起すればいいのか。勝訴の可能性についても検討しなさい。
3.また,公表されてしまってからはどのような訴訟が考えられるか。勝訴の可能性についても検討しなさい。


なんか,しれっと国賠入れ込んできてますけど,

国賠に対するセンサーが養われていないため,

あからさまに国賠聞いてきてんなみたいな問題でないと,

なかなか気付けないような気が,この問題を解いていてしました。

こんな形で国賠が放り込まれるよという意味ではいい機会だったように思います。

≪答案≫
第1 設問1
 1 Aは,大店立地法5条1項に基づいて甲県に出店届出(以下「本件届出」という。)を行ったのに対し甲県がこれを返戻したことについて不服としているが,前提として,この届出の法的性質について検討する。
 「届出」とは,行政庁に対し一定の事項の通知をする行為であって,法令により直接に当該通知が義務付けられているものであって(行手法2条7号),「申請」との対比から,当該通知に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。
 大店立地法5条に基づく出店届出は,届出後,都道府県は届出内容に対する審査を行うものの,当該審査に基づいた許認可などは予定されておらず,当該審査はその後8か月の間に(大店立地法5条4項),意見(同法8条4項)又は勧告(同法9条1項)などの行政指導を行うためのものであり,それに事業者が任意の服従をなすことが期待されている。そうすると,大店立地法5条に基づく出店届出は,その届出の後,都道府県知事による諾否の応答が予定されていないものであるから,行手法上の届出にあたる。
 したがって,本件届出は,行手法上の届出である。
 2 Xとしては,本件届出に対して,甲県知事が届出書類を返戻した行為(以下「本件返戻行為」という。)について,Xが届出義務を履行したことの確認訴訟(行訴法4条後段)を提起することが考えられる。
 確認訴訟においては,訴訟要件として,確認の利益として,①確認対象としての適切性,②方法選択の適切性及び③即時確定の必要性があることが必要である。
 ①Xは,現に届出義務を履行したか否かについての確認を求めているのであって,Xと甲県との現在の法律関係を確認対象とするものであるから,確認対象として適切である。②本件届出が行手法上の届出あることからすると,これが甲県の提出先に到達したときに義務が履行されたこととなるから(行手法37条),甲県知事による不受理行為は観念され得ず,返戻行為を「処分」と捉えることはできない。そうすると,Xは甲県知事が返戻した行為について取消訴訟(行訴法3条2項)を提起することができず,その他にXの不服を争う適切な方法が存在しないから,届出義務を履行したことの確認訴訟は,その方法として適切である。③Xが届出義務を履行しないものとされたまま店舗の新設を行った場合には,刑罰が科せられるおそれがあるから(大店立地法17条1号),Xには既に法的地位に対する危険を負っており,現時点において届出義務を履行したか否かを確定させておく必要がある。したがって,即時確定の利益も認められる。
 よって,Xが届出義務を履行したことの確認訴訟は,その確認の利益を有するから,訴訟要件を満たし,Xはこれを適法に提起することができる。
第2 設問2
 1 小問1
  ⑴ 大店立地法8条4項に基づく意見
   ア Xは,甲県がした大店立地法8条4項に基づく意見(以下「本件意見」という。)が「処分」にあたるとして,取消訴訟(行訴法3条2項)を提起することが考えられる。
 「処分」とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。
 本件意見が述べられた場合には,①本件意見は公告・縦覧に供され(大店立地法8条6項),②Xはこれに対して変更の届出又は変更しない旨の通知をし,その後2か月間店舗の新設が制限されることとなる(同条9項)。
 そこで,これらの効果により,Xの権利義務が形成され又はその範囲が確定するといえるかについて検討すると,①本件意見はそもそもXの任意の服従を期待するものにすぎず,Xが本件意見に従うかどうかは自由である。公告・縦覧により,本件意見が広く住民に知られることになるが,それは単なる情報提供にとどまるものであり,Xはその内容に不服があれば独自に反論をすることができる。そうすると,本件意見が公告・縦覧に供されることによって,Xの権利義務に対して何らの影響を及ぼすものではないから,公告・縦覧に供されることをもってXの権利義務が形成され又はその範囲が確定されるものではない。
 次に②新設の期間制限については,その間にXが店舗の新設を行うことができなくなり,これに違反した場合には罰則が科せられるため(同法18条),Xの権利義務を形成するものであるとも思える。しかし,新設の期間制限は,都道府県が市町村の意見を聴いて事業者に行政指導を行う期間を確保するため,大店立地法が直接事業者に課したものであるとみることができる。そうすると,大店立地法上,当該期間は新設することができないのが原則であって,都道府県が意見を有しない場合に例外的にこれらの制限を解除するという仕組みになっているのであり(同法8条9項),都道府県の意見が新設の期間制限の効果を生じさせるものではない。したがって,甲県が本件意見を述べたことによってXが新設の期間制限を受けるものではないから,Xの権利義務が形成され又はその範囲が確定されたとはいえない。
 したがって,本件意見は「処分」にあたらないため,Xはこれの取消訴訟を提起することはできない。
   イ もっとも,甲県が不当な目的をもって意見を述べるなど,意見を述べること自体が違法である場合には,2か月の新設制限も違法となるから,新設が2か月遅延したことによって生じた賠償を求める国家賠償請求訴訟(国賠法1条1項)を提起することが考えられる。
  ⑵ 大店立地法9条1項に基づく勧告
 Xは,甲県がした大店立地法9条1項に基づく勧告(以下「本件勧告」という。)が「処分」にあたるとして,取消訴訟を提起することが考えられる。
 本件勧告は,Xがこれに従わなくとも,罰則が科されるものではなく,その旨の公表がされるにすぎない(同法9条7項)。そうすると,本件勧告は,Xの法的地位を直接変動させる性質のものではない。したがって,本件勧告は,Xの権利義務を形成し又はその範囲を確定するものでなく,「処分」にあたらない。
 よって,Xは本件勧告の取消訴訟を提起することができない。
 2 小問2
  ⑴ 前提として,甲県が大店立地法9条7項に基づいて行う公表(以下「本件公表」という。)の法的性質は,公権力性がない事実行為である。そうすると,本件公表は「処分」にはあたらないため,Xは抗告訴訟として本件公表の差止訴訟(行訴法3条7項)を提起することはできない。
  ⑵ そこで,Xは,民事訴訟として,人格権に基づく本件公表の差止訴訟を提起することが考えられる(※1)。人格権に基づく差止請求が認められるためには,①違法な侵害が発生する蓋然性があること,②受忍限度を超える損害が発生する可能性があること(※2)(※3),③差止の必要性があることが必要である。
 ①大店立地法9条7項に基づく勧告は,事業者の出店計画が「周辺の地域の生活環境に著しい悪影響を及ぼす事態の発生を回避することが困難であると認めるとき」(同条1項)に出されるものである。Xの出店計画の下では,営業上生じる騒音は,環境基準からわずか2dBを超えるにすぎないものであり,周辺の地域の生活環境に与える影響はわずかであるから,本件公表はその要件を満たしていない。また,「勧告の内容は,同項に規定する事態の発生を回避するために必要な限度を超えないものであり,かつ,届出をした者の利益を不当に害するおそれがないものでなければならない」(同条2項)とされている。甲県がXに対して行った騒音対策案は,その採算上問題であって,Xの利益を不当に害するおそれがあり,本件公表はそのようけんを満たしていない。したがって,本件公表は,違法なものであって,その発生の蓋然性が認められる。
 ②もっとも,本件公表によりXの企業イメージが低下し,その営業上の損失が生ずるおそれがあるとしても,Xはこれに反論する意見を表明することができ,企業イメージの低下等の程度を抑えることができる。そうすると,本件公表は,社会生活上受忍すべき程度を超えてXが企業イメージを保持するという利益を侵害しているということはできない。したがって,受忍限度を超える損害が発生する可能性は認められない。
 したがって,Xは人格権に基づいて本件公表の差止請求をしても,それが認められる可能性は低い。
 3 小問3
  ⑴ Xとしては,A県に対して国家賠償請求訴訟(国賠法1条1項)を提起することが考えられる。
  ⑵ア A県知事は「公共団体の公権力の行使に当たる公務員」である。
   イ 公表は都道府県が行うものとされ(大店立地法9条7項),A県知事はA県の行政庁として本件公表を行う権限を有しているから,本件公表はA県知事の「職務を行うについて」されたものである。
   ウ 「違法」とは,公務員としての職務上の注意義務に違反することをいう(※4)。上記のように,本件公表は,A県知事が大店立地法9条1項の要件を逸脱し,また同条2項の要件にも違反するものであって,誤った事実認定によってXの営業の自由等を不当に制限するものであるから,A県知事が適正な事実認定に基づいて法令を遵守すべき義務に違反する。
 またXとしては,公表された事実認定に誤りがあり,またXがあたかも法律に違反しているというような情報を公表する手続としては,公表前に十分にXの言い分を聴く機会を与えるべきであるにもかかわらず,それを与えていない点で,A県知事がとるべき職務上の注意義務に違反していると主張することも考えられる。しかし,大店立地法上,意見を聴く機会を与えることは手続として要求されておらず,これを特に条理で規定している場合などは格別,そうでない限りは意見を聴く機会を与えなかったことが直ちに公務員の職務上の注意義務に違反したものであるとはいえない。
 したがって,A県知事が本件公表を行ったことは,A県知事が適正な事実に基づいて法令を遵守すべき義務に違反した限度で「違法」である。
   エ 本件公表により,Xは,名誉,信用が侵害され,企業としてのイメージが低下したものとして「損害」があったと認められる。
  ⑶ よって,Xが提起する国家賠償請求訴訟は認められる可能性が高い。

以 上


(※1)「公表は,義務履行確保の手段として高い効果が期待される半面,氏名を公表される当該個人ないし企業に深刻な不利益を与える可能性があり,また,いったん誤った情報が公にされると原状回復が事実上困難であるという点に,特徴がある。そこで,義務履行確保のための公表制度を設けるためには法律の根拠が必要というべきであり,公表に先立って直接の利害関係者に意見書提出を認める等の事前手続を整備するのが妥当である。公表により自己の権利利益が侵害されると考える者には,公表の前提となる義務賦課行為を取消訴訟(さらに執行停止申立て)で争うこと,人格権を根拠に公表の差止請求をすることなどの対抗手段があり得る。」櫻井敬子ほか『行政法[第4版]』188頁
(※2)この要件について判断したと思われるものとして,例えば最判平成22年6月29日集民234号150頁があります。「これらの事情を総合考慮すると,被上告人が,被上告人建物2階の各居室等から,本件葬儀場に告別式等の参列者が参集する様子,棺が本件葬儀場建物に搬入又は搬出される様子が見えることにより,強いストレスを感じているとしても,これは専ら被上告人の主観的な不快感にとどまるというべきであり,本件葬儀場の営業が,社会生活上受忍すべき程度を超えて被上告人の平穏に日常生活を送るという利益を侵害しているということはできない。」
(※3)「人格的利益をめぐる不法行為の成否に関する判断基準としては,学説上は,被侵害利益の性質と侵害行為の態様との相関関係において総合的に判断するという相関関係説が通説である。受忍限度論は,上記相関関係説を基礎として,人格的利益ないし人格権を侵害する行為の違法性の判断基準として発展したものであり,その内容は,事案の諸要素を比較検討して総合的に判断し,上記の侵害が一般社会生活上受忍すべき限度を超えるものかどうかによって判断するというものである。」最判解民事篇平成23年度(下)574頁
(※4)「民法709条とは異なり,国家賠償法1条は,『故意又は過失』とは分けて,『違法』を要件として明記しているが,公務員の公権力の行使は,どのような場合に『違法』と評価されることになるのであろうか。行政活動と法との関係は,多様であるから,国家賠償法における違法の意味も,一義的ではない。まだ,パトカー自己における警察官による運転や学校事故における教員による監督などを考えると,こうした例においては,事故を避けるために運転手や教員がなすべき行為について,法令が具体的なルール(行為規範)を定めているわけではない。したがって,こうした場合の運転手や教員の行為が違法とされるのは,たとえば道路交通法や学校教育法といった個別の法令の規定に違反するからではなく,より一般的に,公務員としての職務上の注意義務(安全に運転する義務,あるいは,生徒の安全を確保する義務)に違反する場合ということになる。そして,この注意義務違反の有無は,事故の予見可能性や回避可能性によって判断されることになるから,結局のところ,先に述べた客観化された過失としての回避義務違反と同義ということになる。」曽和俊文ほか『現代行政法入門[第3版]』367頁


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第1部 
問題1問題2問題3問題4問題5問題6問題7問題8
第2部
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2019-02-26(Tue)

【事例研究行政法】第2部問題4

やべぇ……

このペースだと模試までに事例研究解きおわんねえ……

どうしようかな……

やるしかないか……

≪問題≫

 次の文章を読んで,資料を参照しながら,以下の設問に答えなさい。

Ⅰ Aは,甲県の山林内の谷地にある土地(以下「本件土地」という)に土砂を搬入して,最終的にはこれを農地にすることを計画した。本件土地は,山林内の谷地のままの自然な状態に置かれていたものであり,一部においては樹木が生い茂っている。本件土地の地目は山林とされており,本件土地および周辺の山々においては,これまでのところ果樹園等の農地に利用されている様子はない。本件土地は,甲県知事により宅地造成等規制法(以下「宅造法」という)3条に基づき指定された宅地造成工事規制区域の中にある。
 Aは,本件土地における農地の造成が宅造法等による規制の対象になるかどうかについて,甲県の担当者と事前相談を行った。その際甲県の担当者は,農地の造成はそもそも宅造法による規制の対象外であり,本件土地に土砂を搬入して農地を造成する場合,面積1,000㎡程度であれば他の法令や条例による規制も受けない旨の回答をした。そこでAは,本件土地において土砂の搬入を開始した。Aはその後,断続的に土砂を本件土地に搬入し,土砂の埋立面積は500㎡を超えた。しかしながら本件土地は,土砂の搬入が開始されてから約5年が経過した時点においても,農地として提供できる状態には至っておらず,施工完成の時期がいつになるかさえ明らかでないという状況であった。
 この事態を知った甲県の担当課では,Aが本件土地で農地を造成するというのは単なる口実であって,Aは本件土地を土砂の堆積場として利用しているだけではないのか,本件土地への土砂の搬入が農地の造成に当たらないとすると,これを宅造法によって規制することができるのではないかという意見が出されるようになった。そこで甲県は,Aによる本件土地への土砂の班に雄(以下「本件土砂搬入」という)は宅造法2条2号にいう「宅地造成」に該当するという解釈を前提として,Aに対して本件土砂搬入を直ちに停止すること,および同法8条1項本文の許可を申請することを求める行政指導を行い,Aがこれに応じない場合には同法14条2項に基づく監督処分のほか刑事告発を検討するという方針を決定した。この方針に従って甲県の担当者がAに対して行政指導を行ったところ,Aは,本件土砂搬入が同法2条2号にいう「宅地造成」に該当すると判断されたことには不服があり,訴訟提起も辞さない意向である旨を表明した。

〔設問1〕
1.甲県の立場から,本件土砂搬入が宅造法2条2号にいう「宅地造成」に該当することを主張しなさい。
2.上記の甲県の主張に異論があるAとしては,行政訴訟を提起して争う場合,どのような訴訟を提起すれば良いか。訴訟要件充足性に注意して,複数の訴訟を検討しなさい。

Ⅱ 乙県では,「宅地造成等規制法第8条第1項本文に基づく宅地造成に関する工事の許可に係る事務取扱要綱」が作成されている。この要綱中には,上記許可の申請者は,宅地造成に伴う災害により被害を受けるおそれがある者との間で,災害の発生を防止するための措置,災害発生時の原状回復および補償に関する協定(以下単に「協定」という)を締結するよう努めなければならず,申請者が正当の理由なく協定を締結しない場合には許可を与えないという定めがある(以下この定めを「本件協定条項」という)。
 Bは,乙県知事により宅造法3条に基づいて指定された宅地造成工事規制区域の中にある土地において宅地造成に関する工事を行うことを計画し,乙県の担当者と事前相談を行った。その際乙県の担当者は,本件協定条項を示して,当該土地に隣接する場所にある土地(以下「本件隣接地」という)を所有しているCとの間で協定を締結するよう求めた。本件隣接地に住宅はなく,Cは同署に居住しているわけではないが,そこで樹木を植栽している。樹木の管理はCの親族であるDが行っており,Dは本件隣接地を頻繁に訪れている。
 Bは協定の締結について交渉するためCの自宅を訪問したが,その際Cは,Bが計画している工事によって土砂が流出し,本件隣接地および同所で植栽されている樹木が被害を受けるおそれがあると主張して,協定の締結を拒否した。Cとの間で協定を締結することは困難であると感じたBは,協定の締結は宅造法8条1項本文の許可を受けるための絶対条件ではないのではないかと考えるようになった。そこでBは,協定を締結しないまま,乙県知事に対して同許可を求める申請をした。しかしながら乙県知事は,Bの申請に係る工事に伴って土砂が流出した場合には本件隣接地が被害を受ける可能性があり,Cとの間で協定を締結しないことについて正当の理由は認められないとして,Bに対して不許可処分をした(以下「本件不許可処分」という)。
 CおよびDの住所は本件隣接地の付近にはない。Bが協定を締結するためにCの自宅を訪問したのはこれまで1回のみである。

〔設問2〕
1.本件不許可処分は適法化。反対説の主張にも留意しつつ検討しなさい(本件不許可処分に手続上の違法はないものとする)。
2.仮に乙県知事がBの申請を認めて許可処分をした場合,CおよびDはその取消訴訟を提起することができるか。原告適格に絞って検討しなさい。


1問でいろんなこと聞いてきすぎなんですよね。

だから答案を書くのにめちゃくちゃ時間かかるんですよね。

本当に困ります。

≪答案≫
第1 設問1
 1 小問1
 本件土砂搬入が「宅地造成」(宅造法2条2号)にあたるか。
 本件土地は,山林内にあり,一部においては樹木が生い茂っていることに加えて,地目としても山林とされているのであるから,「森林」(同法2条1号)にあたる。そうすると,本件土地は,「宅地以外の土地」にあたる。
 本件土砂搬入は,本件土地を,Aの相談のような農地造成のために用いるものではなく,土砂の堆積自体を目的として行われるものである。土砂の堆積場は,「農地,採草放牧地及び森林並びに道路,公園,河川その他政令で定める公共の用に供されている土地」にはあたらないから,それら以外の土地として「宅地」にあたる。そうすると,本件土砂搬入は,「宅地以外の土地を宅地にする」行為である。
 本件土砂搬入により,本件土地内に土砂が堆積されていることから,当該行為は「盛土」にあたる。これにより,土砂の埋立面積は500㎡を超えているから,「盛土であって,当該盛土をする土地の面積が500平方メートルを超えるもの」にあたり(宅造法施行令3条4号),「土地の形質の変更で政令で定めるもの」にあたる。
 したがって,本件土砂搬入は「宅地造成」にあたる。
 2 小問2
  ⑴ Aとしては,甲県知事が宅造法14条2項に基づいてする命令(以下「本件命令」という。)の差止訴訟(行訴法3条7項)を提起することが考えられる。
 本件命令は,Aに本件土砂搬入を停止させるものであるから,甲県知事がその優越的地位によって一方的にAの権利義務を形成するものであって,法律上認められているものであるから,「処分」にあたる。
 「一定の処分」とは,裁判所において判断が可能な程度に特定された処分を意味する。本件命令は,宅造法14条2項に基づくものであるから,その根拠法規が特定されている。この点,同項には,工事施行停止命令と措置命令とが予定されているが,Aは本件土砂搬入に宅造法が適用されないことを理由として本件命令の差止めを求めているから,両者を区別する意味はない。したがって,宅造法14条2項に基づく処分であることが特定されたことをもって,裁判所において判断が可能な程度に処分が特定されているということができる。
 また,甲県は,Aが行政指導に応じない場合には本件命令を行うことを予定しており,既にAはこの行政指導に不服であることを表明しているから,本件命令が発令される蓋然性が認められ,「処分がされようとしている場合」にあたる。
 「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるためには,国民の権利利益の実効的な救済及び司法と行政の権能の適切な均衡の観点から,処分がされることにより生ずるおそれのある損害が,処分がされた後に取消訴訟(行訴法3条2項)等を提起して執行停止(同法25条1項)の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく,処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要する(※1)。これを本件についてみると,本件命令によりAに生ずる損害は財産上の損害にすぎないから,金銭賠償による損害の回復が可能であって,直ちに回復困難な損害が生ずるものとは認められない。また,本件命令がされた後に,Aは本件命令の取消訴訟を提起し,その執行停止の決定を受ければ,損害の発生を避けることができる。したがって,本件命令によりAに「重大な損害を生ずるおそれ」があるとはいえない。
 よって,Aは本件命令の差止訴訟を提起することはできない。
  ⑵ そこで,Aとしては,本件土砂搬入が「宅地造成」にあたらないことの確認を求める当事者訴訟(行訴法4条後段)を提起することが考えられる。
 確認訴訟においては,訴訟要件として,確認の利益として,①確認対象としての適切性,②方法選択の適切性及び③即時確定の必要性があることが必要である。
 ①Aは,本件土砂搬入が「宅地造成」に該当するとの甲県の主張に異論があるため,本件土砂搬入が「宅地造成」に該当しないことを確認することが直截的である。そして,これは現在の法律関係に関するものであるから,確認対象として適切である。
 ②Aとしては,上記のように,差止訴訟を適法に提起することができないため,その他にとりうる手段がなく,方法選択の適切性が認められる。
 ③Aと甲県との間では,宅造法の適用をめぐる具体的な紛争が発生しており,本件土砂搬入に宅造法が適用されると本件命令がされるか否かに関わらず,Aによる本件土地の利用が制限され(宅造法8条),これに違反した場合には刑事罰も科される危険がある(同法27条3号)。そうすると,Aには既にその法的地位に具体的な危険が生じており,現時点において裁判所による確認を求める必要があるといえるから,即時確定の利益が認められる。
 したがって,上記当事者訴訟においては,確認の利益が肯定される。
 よって,Aは,本件土砂搬入が「宅地造成」にあたらないことの確認を求める当事者訴訟を適法に提起することができる。
第2 設問2
 1 小問1
  ⑴ 本件不許可処分は,BがCとの間で,乙県が作成した「宅地造成等規制法第8条第1項本文に基づく宅地造成に関する工事の許可に係る事務取扱要綱」(以下「本件要綱」という。)中に規定されている協定(以下「本件協定」という。)を締結していないことに正当な理由がないことを理由としてされたものである。
 そこで,前提として,本件要綱の法的性質について検討すると,宅造法では,宅地造成工事規制区域内における宅地造成工事については,都道府県知事の許可を受けなければならず(8条1項本文),申請に係る宅地造成工事計画が9条の規定に適合しないと都道府県知事かが認めるときには,許可がされない(同条2項)。そして,9条1項は,宅地造成工事が,政令または都道府県の規則で定める技術的基準に従い,宅地造成に伴う災害を防止するため必要な措置が講ぜられたものであることを要求している。また,宅造法施行令15条2項は,都道府県知事が規則で技術的基準を強化・付加することを認めている。申請に係る工事計画がこの規定に従っていない場合には,宅造法8条1項本文の許可は与えられない。
 しかし,本件協定条項は,甲県の規則の形式で定められたものではなく,内容面からみても,宅造法に言う技術的基準に当たるということはできない。したがって,本件協定条項は,行政規則(※2)の性質を有する審査基準である。
  ⑵ そこで,本件協定条項を設ける本件要綱の合理性について検討する。
 この点,Bとしては,本件要綱は,内容において不合理であると主張する。すなわち,宅造法8条1項本文に定める許可にあたって不許可事由を定める同法9条は,工事が技術的基準に従っているか否かにのみ着目していること,及び宅地造成に関する工事をすることは本来自由であることに鑑みれば,技術的基準に適合する工事については必ず許可が与えられなければならない。しかし,本件協定条項は,そのような工事であっても不許可処分をすることを認めるものであり,宅造法8条1項本文の許可の制度趣旨に反するものである。さらに,本件協定条項は宅地造成に伴う災害により被害を受けるおそれがある者に事実上工事に対する拒否権を与えるものであって,法が予定するところではない。したがって,本件協定条項を定める本件要綱は,その内容が不合理であるため,これに基づく本件不許可処分は違法である。
 しかし,宅造法8条2項は,同法9条の規定に適合する計画は必ず許可しなければならないとは規定しておらず,むしろ宅造法は宅地造成に伴う災害を防止し,国民の生命および財産の保護を目的としているから(1条参照),そのような災害により被害を受けるおそれのある者との間で災害防止に関する協定を締結することは同法の目的に反しない。また,本件協定条項は,正当な理由がある場合には,協定を締結することを強制しておらず,申請者に過度な負担を課すものではない。したがって,本件要綱は,その内容が不合理であるとは認められない。
  ⑶ 次に,本件協定条項の適用にあたり,「正当な理由」が存在するか否かについて検討する。
 この点,Bとしては,協定の締結に努力したにもかかわらず,Cが工事に反対しているため協定を締結することができなかったのであり,協定不締結についてBに責任はないといえるため,「正当な理由」があると主張する。
 しかし,Bは協定を締結するためにCの自宅を訪問したのは1度のみであって,未だに両者の間で協定が締結される可能性が全くないということはできない。また,Bの真正に係る工事に伴って土砂が流出した場合には,本件隣接地が被害を受ける可能性があり,協定を締結する必要性は未だ失われていない。そうすると,本件協定条項の適用にあたり「正当な理由」はない。
  ⑷ よって,本件不許可処分は適法である。
 2 小問2
  ⑴ C及びDは,乙県知事がBに対してした許可処分(以下「本件許可処分」という。)の取消訴訟を提起するための原告適格を有しているか。
  ⑵ 処分の取消訴訟の原告適格は「法律上の利益を有する者」に認められるところ(行訴法9条1項),「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。そして,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含む場合には,このような利益も法律上保護された利益にあたる(※3)
 本件許可処分の根拠法規は宅造法8条1項本文であり,この許可を行うにあたっては,宅地造成工事が技術的基準に従い,宅地造成に伴う災害を防止するため必要な措置を講ぜられたものでなければならない(9条1項)。また,都道府県知事は,工事の施工に伴う災害を防止するため必要な条件を許可に付することができる(8条3項)。これらの規定は,いずれも宅地造成工事に伴う災害を未然に防止しようとする趣旨に出たものである。加えて,宅造法1条は,宅地造成に伴う崖崩れまたは土砂の流出による災害の防止のため必要な規制を行うことにより,国民の生命および財産の保護を図ることを目的としており,同法3条は宅地造成に伴い災害が生ずるおそれの大きい地域を宅地造成工事規制区域に指定するものとしている。これらの規定を併せて考えれば,宅造法8条1項本文は,宅地造成工事規制区域内における宅地造成に関する工事に伴って崖崩れまたは土砂の流出による災害が発生することを防止し,国民の生命および財産を少なくとも一般的公益として保護しているものであると考えられる。
 そして,宅地造成に伴う崖崩れまたは土砂の流出による災害が発生した場合には,当該宅地造成に関する工事が行われる土地に近接する一定の範囲において,生命や身体,財産に関する直接的な被害が生ずることが予想される。このような被害の内容,性質等に鑑みれば,宅地造成に関する工事の許可についての宅造法の規定は,当該許可にかかる工事に伴う災害により直接的な被害を受けるおそれのある個々の生命・身体および財産を,個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと考えることができる。
 これを本件についてみると,Cは,その財産である本件隣接地を所有している者であり,宅地造成に伴う崖崩れ又は土砂流出が生じれば,本件隣接地に対する直接的な侵害を受けるから,本件隣接地はCの個別的利益として宅造法8条1項本文によって保護される。したがって,Cは「法律上の利益を有する者」として,原告適格を有する。
 また,Dは,本件隣接地を所有する者ではないが,同場所に頻繁に訪れ樹木の管理を行っている。そうすると,Dは,同場所に定住している者にも匹敵し得るほど本件隣接地に強い結びつきを有する者であるということができる。そして,宅地造成に伴う崖崩れ又は土砂流出にDが巻き込まれる可能性があり,その生命・身体に対する侵害を直接的に受ける可能性があるから,Dの生命・身体は,Dの個別的利益として宅造法8条1項本文によって保護される。したがって,Dは「法律上の利益を有する者」として,原告適格を有する。

以 上


(※1)「差止めの訴えの訴訟要件については,当該処分がされることにより『重大な損害を生ずるおそれ』があることが必要であり(行訴法37条の4第1項),その有無の判断に当たっては,損害の回復の困難の程度を考慮するものとし,損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとされている(同条2項)。行政庁が処分をする前に裁判所が事前にその適法性を判断して差止めを命ずるのは,国民の権利利益の実効的な救済及び司法と行政の権能の適切な均衡の双方の観点から,そのような判断と措置を事前に行わなければならないだけの救済の必要性がある場合であることを要するものと解される。したがって,差止めの訴えの訴訟要件としての上記『重大な損害を生ずるおそれ』があると認められるためには,処分がされることにより生ずるおそれのある損害が,処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく,処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要すると解するのが相当である。」最判平成24年2月9日民集66巻2号183頁
(※2)「委任命令にせよ執行命令にせよ,法規命令と見なされて国民に対する法的拘束性を認められるには,明示的であれ黙示的であれ法律のお墨付きを得たものでなければならない。これに対し,もともと国民に対する法的拘束力を認め得るものではないため,法律のお墨付きを直接得る必要もなく制定される行政立法のことを,『行政規則』という。行政規則には,『通達・訓令』と呼ばれるもの,『公営造物規則』と呼ばれるもの,『裁量基準』と呼ばれるもの等がある。」曽和俊文ほか『現代行政法入門[第3版]』37頁
(※3)「行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき『法律上の利益を有する者』とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。」最判平成17年12月7日民集59巻10号2645頁
(※4)原告適格の書き方例(一般的公益の認定)として,平成28年公法系科目第2問の優秀答案はこのような書き方をしています。「本件例外許可の根拠法規は法48条1項但書であり,それによれば,良好な住環境を害するおそれがないと認める場合に例外許可ができると定めており,また,本文においては,別表2(い)に掲げる建築物以外の建築を禁じている。そして,同項は建築確認(法6条)がなされる際の『建築基準法令の規定』の一つに位置付けられているところ,同じく『建築基準法令の規定』の一つに,建築物の敷地,構造または建築設備に関する法律として,都市計画法が存在する。すなわち,同法は『目的を共通にする関係法令』に位置付けられるため,同法の規定についても見る。ここで,同法8条1項1号において第一種低層住居専用地域を定義し,3項2号イにおいては建築物の容積率や敷地面積の最低限度等,市街地の環境を確保するための規定が置かれ,また,ロにおいては,建築物の建ぺい率や建築物の高さの限度等,第一種低層住居専用地域における良好な環境を保護するための規定が置かれている。これらの目的を共通にする関連法令の規定から,48条1項但書は,低層住宅にかかる良好な住環境を保護していることが推察でき,加えて法1条においては,国民の生命や健康の保護が目的として掲げられている。以上のことから,48条1項但書は,第一種低層住居専用地域における住民の良好な住環境を少なくとも公益として保護していると解される。」辰巳法律研究所編『平成28年司法試験論文合格答案再現集』6頁
(※5)原告適格の書き方例(個別的利益の認定)として,前掲優秀答案はこのような書き方をしています。「続いて,個別的法益としてもこれを保護しているかどうかについてみるに,本件例外許可がなされた場合には,自動車の騒音や排ガス,ライトグレア等による被害が発生しうる。そして,本件スーパー銭湯は年中無休で,しかも午前10時から午後12時までほぼ終日営業されており,また,土日休日には1日に約550台もの自動車が出入りするというのであるから,これらの被害の蓄積により重大な健康被害が生じるといえる。しかも,かかる被害は施設に近づけば近づくほど大きくなるという関係にある。また,48条14項は,利害関係人に対して公聴会を設ける旨定めている。そして,ここにいう『利害関係人』の意義は法からは明らかではないが,行政庁自ら要綱として申請建築物から一定の距離内の土地建物の所有者に対し案内書を送付するとしていることからすれば,同項にいう利害関係人には申請建築物の近隣住民が含まれていると解すべきである。以上より,近隣住民にとっての健康被害が重大なうえ,法も近隣住民に対する公聴会参加の機会を保障していることからして,上記利益は個々人の個別的利益としても保護されているといえる。そして,どの範囲の近隣住民まで認められるかについて検討するに,上記要綱は法令ではないものの,これを参考にし,申請建築物の50メートル内に居住し,重大な健康被害が生じうる者について,原告適格が認められると考える。」前掲辰巳6頁


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第2部
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問題11問題12問題13問題14問題15問題16問題17
2019-02-25(Mon)

【事例研究行政法】第2部問題3

今日からまた行政法を進めます。

一刻も早く事例研究を終わらせてしまわないといけません。

第2部は先がまたまだ長いです。

続きの問題3からです。

ちなみに先に言っておくと,同問題については,

平裕介先生によるとても参考になる答案が既にWeb上に公開されていますので(→こちら),

当ブログの答案を見る必要は1ミリもありません。

もっとも,平先生のブログは,さすが研究者ともあって,

方々の文献に当たられていますが,

こちらは所詮一受験生が書いた者にすぎないので,

たぶん多くの受験生が使用しているであろう一般的な基本書と,

事例研究の解説のみを使って答案を書いています。

その意味では,実際に答案に示すことができる

現実的な答案に近いものが示せているのではないかと思います。

(とはいえ平先生の答案が答案政策上とびきり現実的でないことを書いているわけでもありませんが。)

≪問題≫
 次の文章を読んで,資料を参照しながら,あなたが,Mの依頼を受けたP法律事務所の若手弁護士Qであるとして,以下の設問に答えなさい。

 Mは,介護保険法に基づく居宅介護支援事業などを目的として設立された株式会社である。2009年4月26日,Mは,甲県乙市内にある本件土地をBから購入し,そこに,老人デイサービスセンターを設置することを計画した。
 本件土地は市街化調整区域にあり,通常は開発が抑制されているところであったが,老人福祉施設である老人デイサービスセンターの経営は第2種社会福祉事業に該当し,その施設は「当該開発区域の周辺地域において居住している者の利用に供する政令で定める公益上必要な建築物」(都計34条1項1号)に該当するので,法制度上は開発許可を得て建設することができるものであった。そこでMは,甲県知事から都計法29条に基づく開発許可を得るための準備を始めた。
 ところで,開発許可申請を行うについては,当該開発行為に関係がある公共施設の管理者の同意(都計32条)が必要とされている。本件土地の東側には,開発行為に関係がある公共施設として市道丙号線および水路が存在していた(なお,本件で「関係がある」と言えるかどうかも問題となりうるが,この点につき「関係がある」ことについて争いがないものとする)。そこでMは,本件道路および水路の管理者である乙市の市長に対して,公共施設管理者の同意願を提出した。
 乙市市長は,Mに対して,2009年8月20日付けで,本件同意願に対して同意しない旨の通知をした。しかし,Mとしては,この不同意通知にはとうてい納得がゆかなかった。市道丙号線は,老人デイサービスセンターが設置された場合の送迎車両等の頻繁な通行に対しても十分な幅員を有しており,市道との関係で乙市市長が不同意をする理由はないはずであった。また,Mが計画している老人デイサービスセンターでは,法律の規制に適合した合併浄化槽を設置することを計画しており,飲用に耐えうる水質の排水がされ,汚水等が流れる可能性は全くないように工夫されていた。それゆえ本件開発行為による水路への排水によって放流先である水路の適切な管理に何ら支障も弊害も生じるおそれがないはずであった。
 そこでMは,2009年10月13日付けで,甲県開発審査会に対して本件不同意通知についての審査請求を行った。しかし,甲県開発審査会は,公開による口頭審理を実施したうえ,2010年1月6日付けで,本件審査請求を却下する旨の裁決を行った。却下裁決の理由は,開発審査会に与えられた権限が都計法50条に掲げる処分は存在せず,法32条の同意ないしこれを拒否する行為は,法50条に掲げられた行為に当たらないことから,これに対する審査権限を有しないというものであった。
 Mは,開発審査会に対する審査請求と並行して,2009年10月19日付けで,甲県知事に対して,乙市の同意書のないままに本件開発行為に係る開発許可を申請した。しかし,甲県知事は,2010年1月15日付けで,本件開発行為に関係のある公共施設の管理者である乙市の同意を得たことを証する書面が開発許可申請に添付されていないことを理由として不許可処分を行った。
 Mは,乙市の不同意通知に対して強い不満があり,また,同意書がないことを理由とする甲県知事の開発不許可処分に対しても納得がゆかない。そこで,訴訟を提起して,これらの違法性を争いたいと考えて,2010年1月20日,P法律事務所を訪ねた(P法律事務所でのやりとりの一部については後掲【資料1】を参照)。

〔設問1〕
1.不同意の違法性を争い,公共施設管理者の同意を得るためには,いかなる訴訟を提起すればいいのか。また,その場合に,訴訟要件において特に留意すべきことは何か。
2.不許可処分の違法性を争い,開発許可を得るためには,いかなる訴訟を提起すればいいのか。また,その場合に,訴訟要件において特に留意すべきことは何か。

〔設問2〕
 上記の設問1-1,1-2の訴訟の本案において,被告の行為の違法性をどのように主張すればいいのか。

【資料】略


最高裁を叩くだなんておこがましいこと,僕にはできません!!

っていうか,そんな知恵は僕にはありません!!

≪答案≫
第1 設問1
 1 小問1
  ⑴ Mは,乙市市長がした公共施設管理者としての不同意(以下「本件不同意」という。)について争おうとしている。この点,判例では,公共施設管理者の不同意について処分性(行訴法3条2項)を否定したものがある(※1)。そこで,本件不同意について,処分性を否定する場合と,これを肯定する場合とに分けて検討する。
  ⑵ 本件不同意の処分性を否定する場合
 Mとしては,乙市を被告として,同意義務があることの確認訴訟(行訴法4条後段)を提起することが考えられる。確認訴訟においては,訴訟要件として,確認の利益として,①確認対象としての適切性,②方法選択の適切性及び③即時確定の必要性があることが必要である(※2)
 これを本件についてみると,①同意義務の有無の確認は現在の法律関係の確認であるから,確認対象として適切である。②同意の処分性が否定される場合には,抗告訴訟によってこれを争うことができず,他に適切な救済手段がないから,方法選択として適切である。③同意が得られない場合には開発許可申請をすることができず,同意義務の有無を現時点で確認することが紛争の解決に必要であるから,即時確定の必要性もある。したがって,同意義務があることの確認訴訟は,その確認の利益を有し,訴訟要件を満たす。
 よって,Mは,同意義務があることの確認訴訟を適法に提起することができる。
  ⑶ 本件不同意の処分性を肯定する場合
   ア Mとしては,乙市を被告として(行訴法11条1項1号,38条1項),本件不同意の取消訴訟(同法3条2項)及び同意の義務付け訴訟(同条6項2号)を併合提起することが考えられる(同法37条の3第3項2号)。
   イ まず本件不同意の取消訴訟の訴訟要件について検討する。
 「処分」とは,公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(※3)
 これを本件についてみると,本件不同意は,乙市市長が都計法32条1項によって認められた優越的地位に基づいて一方的に行うものであって(※4),公権力の主体たる公共団体が行う行為である。
 判例によれば,公共施設管理者の同意の要件があってはじめて開発行為を認める法効果が生じるのであって,公共施設管理者の不同意は,開発行為を禁止又は制限する効果をもつものではなく,直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定するものではないとされている(※5)
 しかし,都計法30条2項及び32条1項によれば,開発許可の申請にあたっては,公共施設管理者の同意書面を添付する必要があり,この同意がないと開発許可の申請ができない構造となっており,公共施設の管理者がこの同意をしない場合には,開発許可の適否の判断を受ける機会自体が得られないこととなる。自己の所有地において開発行為を行うのは,憲法29条によって保障された財産権の行使であり,当該法令上の制限に適合しているのか否かの判定を受ける機会は保障されるべきであることからすると,公共施設管理者の不同意は,開発許可申請を適法に行う地位を侵害するものである(※6)。また,公共施設管理者による不同意の処分性を肯定しない場合には,開発行為の許可を求める国民は,開発行為の途を閉ざされることとなるから,その者の実効的な権利救済の観点からも,処分性が肯定されるべきである。そうすると,本件不同意は,国民の権利義務を形成またはその範囲を確定するものである。
 したがって,本件不同意は,「処分」にあたる。
 Mは本件不同意の相手方であるから,原告適格が認められる(行訴法9条1項)。
 本件不同意が通知されたのは2009年8月20日であるから,2010年1月20日現在では,出訴期間を徒過していない(同法14条1項)。
 よって,本件不同意の取消訴訟は,その訴訟要件を満たすから,適法に提起することができる。
   ウ 次に同意の義務付け訴訟に係る訴訟要件について検討すると,公共施設管理者による同意は,Mの開発行為を行う地位を付与するための一要件として機能し,裁判所に判断可能な程度に特定されているから,「一定の処分」(行訴法3条6項2号)にあたる。
 Mは,都計法32条1項による同意を得るための申請をしているから,「法令に基づく申請」(同法37条の3第1項2号)をしている。
 また,Mは,本件不同意の取消訴訟を適法に提起することができるから,これを併合提起することとなる(同法37条の3第3項2号)。
 よって,同意の義務付け訴訟は,その訴訟要件を満たすため,適法に提起することができる。
 2 小問2
 Mは,甲県を被告として,甲県知事がした不許可処分(以下「本件不許可処分」という。)の取消訴訟及び許可の義務付け訴訟を併合提起する。
 本件不許可処分は,甲県が都計法29条1項に基づいてした処分であって,「第50条第1項に規定する処分」にあたるから,これに対する処分の取消しの訴えを提起するにあたっては,開発審査会の裁決を経る必要がある(都計法52条)。したがって,Mは,上記訴え提起する前提として,甲県開発審査会に対して審査請求を行わなければならない点に留意すべきである。
第2 設問2
 1 設問1小問⑴の訴えとの関係
  ⑴ まず,Mとしては,本件不同意は,その要件を欠くため,違法であるとの主張を行う。
 本件不同意は,都計法32条1項の規定に基づいてされているところ,同条3項は同意の前提となる協議について,「公共施設の適切な管理を確保する観点から」行うものとしている。前提として,この点について乙市市長に裁量が認められるかについて検討すると,同意があることは開発許可申請の前提となっていることに鑑みると,不同意は公共施設の適切な管理に支障がある場合に限定されるべきであり,裁判所がその支障の有無について独自に判断できることからすると,司法審査との関係で認められる行政裁量はないというべきである(※7)
 そこで,Mが計画している老人デイサービスセンター(以下「本件センター」という。)の設置についてみると,本件センターからの排水は合併処理浄化槽で浄化された清水であり,放流先である水路の適切な管理に何らの支障も弊害も生じるおそれはないものである。また,市道丙号線は,本件センターへの送迎車両等の頻繁な通行に対しても十分な幅員を有しているので市道の適切な管理に対する支障もないということができる。したがって,本件センターの設置にあたり,開発行為に関係がある公共施設については,いずれもその適切な管理に支障を及ぼすおそれがないのであるから,都計法32条3項の指針に従えば,本件不同意はその要件を欠くこととなる。
 したがって,本件不同意は違法である。
  ⑵ なお,乙市からは,本件不同意は,都計法が都市計画について,健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと等の基本理念の下で(2条),都市開発に伴う公共施設への影響を考慮して,これの適切な管理を確保する観点から,開発許可申請者と公共施設管理者との間で協議を行うものとしているところ(32条3項),このような観点からの判断をするには,当該施設に関する諸般の事情を総合的に考慮した上で,政策的,技術的な見地からの判断が不可欠であるため,その同意にあたっては,行政庁の広範な裁量にゆだねられているとの反論が想定される(※8)(※9)
 そこで,Mとしては,仮に乙市市長に裁量が認められる場合であっても,本件不同意は,その裁量を逸脱・濫用したものであって,違法であるとの主張を行う(行訴法30条)。そして,乙市市長が本件不同意をすることの判断の内容が社会通念上著しく妥当性を欠く場合には,裁量の逸脱・濫用が認められる(※10)(※11)
 これを本件不同意についてみると,丙町協議会の排水同意は都計法上要求されておらず,これがないことを不同意の理由とすることはできない。また,同意は「公共施設の適切な管理を確保する観点から」行われるべきであり,地元団体からの反対署名があることを考慮して不同意とすることは,考慮すべきでない事情を考慮したものである。さらに,公共施設の適切な管理の支障が認められるかについて,客観的事実に照らして検証・検討することなく,住民団体の反対を理由に不同意とすることは,公共施設管理者としての責任を放棄したものである。以上に照らすと,乙市市長が本件不同意をすることの判断の内容が社会通念上著しく妥当性を欠くものということができるから,乙市市長が本件不同意をしたことは,その裁量を逸脱・濫用したものである。
 したがって,本件不同意は違法である。
 2 設問1小問⑵の訴えとの関係
  ⑴ 本件不同意の処分性が否定される場合
 Mとしては,本件不許可処分は,公共施設管理者である乙市市長の同意がないことによるから,上記のように本件不同意が違法であるとされる以上,乙市市長は同意をすることとなり,甲県のすべき許可処分の要件を満たすこととなる。したがって,本件不許可処分は,許可処分の要件を満たすにもかかわらず,これがされなかったものであるから,違法である。
 これに対して,甲県は,都計法上公共施設管理者の同意書を開発許可申請の添付資料としているのは(30条2項),同意・不同意の判断を公共施設管理者に委ね,知事としては同意書の有無の形式審査をするだけで足りるとする趣旨であるから,甲県知事の審査権限は同意・不同意にまで及ぶものではなく,裁判所の審査も同意・不同意にまで及ぶものではないとの反論をすることが想定される。
 しかし,甲県知事の審査権限と裁判所の審査範囲とは,必ず一致する必要があるものではなく,裁判所は独立して実体的判断をすることができる。したがって,裁判所は,本件不同意の違法性を理由として,本件不許可処分が違法であるとすることができる。
  ⑵ 本件不同意の処分性が肯定される場合
 Mとしては,乙市市長の同意は,甲県知事がする開発許可と一連の手続を形成しているから,本件不許可処分の取消訴訟の中で,本件不同意の違法性を主張することができるとの主張を行う。
 先行処分に係る違法性を後行処分の取消訴訟の中で主張することは,先行処分に係る排他的管轄に抵触するものであって,原則としては認められないが,先行処分と後行処分とが同一の目的を達成するために行われ両者が結合して初めてその効果を発揮する関係にあり,先行処分を争うための手続的保障が十分に与えられていない場合には,先行処分と後行処分とは一体的な手続であると評価され,先行処分に係る違法を後行処分の取消訴訟の中で主張することができる(※12)
 これを本件についてみると,公共施設管理者の同意は開発許可の前提として要求される行為であって,それ自体独立した意味をもつものではない。また,不同意が処分であるか否か不明である本件のような場合には,不同意の処分性を認めたからといって,不同意の違法性を不同意の取消訴訟の中でしか争えないとすることは,手続的保障を欠くものであるといえる。したがって,本件不同意と本件不許可処分とは,一体的な手続であると評価されるから,本件不同意の違法性を本件不許可処分の取消訴訟の中で主張することが可能である。
 したがって,本件不許可処分は違法である。

以 上


(※1)最判平成7年3月23日民集49巻3号1006頁は「公共施設の管理者である行政機関等が法三二条所定の同意を拒否する行為は、抗告訴訟の対象となる処分には当たらない」と判断しています。
(※2)「『確認の利益』の有無をいかなる基準で判断すべきかについては,以下のような議論がある。当事者訴訟も本質的には民事訴訟であるから,『確認の利益』も民事訴訟と同様に考えてよいというのが,通説・判例の考え方である。すなわち,①確認の対象は原則として『現在の法律関係』であり(確認対象選択の適切性),②給付訴訟や形成訴訟で救済できる場合にはそちらによる救済を優先すべきであり(方法選択の適切性あるいは確認訴訟の補充性),③法律関係や権利義務の存否を確認することで原告の救済がなされる場合,すなわち紛争が成熟性を有する場合に認められる(即時確定の必要性)。」曽和俊文ほか『現代行政法入門[第3版]』320頁
(※3)最判昭和39年10月29日民集18巻8号1809頁
(※4)櫻井敬子ほか『行政法[第4版]』280頁では,公権力性について,「裁判実務上,処分性を根拠づける『公権力の行使に当たる行為』とは,『法が認めた優越的地位に基づき,行政庁が法の執行としてする権力的な意思活動』であると解されてきた。」と紹介されていますが,一方で,「公権力性の具体的な内容は,それを『法が認めた優越的地位』や『私的利益に還元できない公益』と敷衍してみたところで,なお明確な基準とはいい難く,結局ところ,根拠法令において当該行為を抗告訴訟の対象とする趣旨が認められるかどうかにつき,総合的に判断するほかはない。」としていますので,単純に「優越的地位に基づいて一方的にする行為」などと評価をしただけでは公権力性は認定しきれていないのだろうと思います。もっとも,本問では少なくとも公権力性がそこまで問題とならないと思われるので,あまり詳細なあてはめは,かえって答案としてのバランスを欠くことになるのだろうと思われます。
(※5)「国若しくは地方公共団体又はその機関(以下「行政機関等」という。)が公共施設の管理権限を有する場合には、行政機関等が法三二条の同意を求める相手方となり、行政機関等が右の同意を拒否する行為は、公共施設の適正な管理上当該開発行為を行うことは相当でない旨の公法上の判断を表示する行為ということができる。この同意が得られなければ、公共施設に影響を与える開発行為を適法に行うことはできないが、これは、法が前記のような要件を満たす場合に限ってこのような開発行為を行うことを認めた結果にほかならないのであって、右の同意を拒否する行為それ自体は、開発行為を禁止又は制限する効果をもつものとはいえない。したがって、開発行為を行おうとする者が、右の同意を得ることができず、開発行為を行うことができなくなったとしても、その権利ないし法的地位が侵害されたものとはいえないから、右の同意を拒否する行為が、国民の権利ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすものであると解することはできない。」前掲最判平成7年3月23日
(※6)「法30条2項、32条1項によれば、開発許可の申請については、公共施設の管理者の同意書面を添付する必要があるので、この同意がないと開発許可の申請ができない構造となっており、公共施設の管理者がこの同意をしない場合には、前記同意書の添付がないという理由で開発許可の申請に対し不許可処分がなされる結果となる。このように開発許可の申請に対し、最終的に都道府県知事の許可に至るまで法32条の同意や協議が一つの仕組みを形成しているものであって、法32条の同意と開発許可との関係が、公共施設の管理者の同意がなければ、開発許可の申請そのものすらできないという結果をもたらすという意味で、双方が密接に連動する仕組みを形成している。本件においても、本件不許可処分(甲16)は、本件開発行為に関係のある公共施設の管理者の同意を得たことを証する書面が開発許可申請に添付されていないことのみを理由として却下されている。したがって、法32条所定の公共施設の管理者による同意が不当になされなかった場合には、正当に開発行為の許可を求める国民は、開発行為の途を閉ざされる結果となり、そのような場合にも法律の規定がない限りは救済されないとすることは、ひいては憲法29条あるいは22条1項の趣旨に反することとなる。」高松高判平成25年5月30日地自384号64頁
(※7)「設問2では,公共施設管理者の同意には裁量がある,と何ら説明なく前提とする答案が多いことに驚いた。被告であればともかく原告の立場からは,裁量を否定する主張をまずは展開すべきであろう。すなわち,同意があることが開発許可申請の前提となっていることに鑑みると,不同意は公共施設の適切な管理に支障がある場合に限定されるべきであり,裁判所がその支障の有無について独自に最終的に判断できるはずであるとすると,司法審査との関係で認められる行政裁量はないということになる。原告としてはまずこのように主張し,次に,仮に裁量があるとしてもそれは無制限ではなく,裁量権の範囲を逸脱しまたは濫用すれば違法であると論じていくべきであろう。」曽和俊文ほか『事例研究行政法[第3版]』189頁
(※8)「都市計画法は,都市計画について,健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと等の基本理念の下で(2条),都市施設の整備に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを一体的かつ総合的に定めなければならず,当該都市について公害防止計画が定められているときは当該公害防止計画に適合したものでなければならないとし(13条1項柱書き),都市施設について,土地利用,交通等の現状及び将来の見通しを勘案して,適切な規模で必要な位置に配置することにより,円滑な都市活動を確保し,良好な都市環境を保持するように定めることとしているところ(同項5号),このような基準に従って都市施設の規模,配置等に関する事項を定めるに当たっては,当該都市施設に関する諸般の事情を総合的に考慮した上で,政策的,技術的な見地から判断することが不可欠であるといわざるを得ない。そうすると,このような判断は,これを決定する行政庁の広範な裁量にゆだねられている」最判平成18年11月2日民集60巻9号3249頁
(※9)この部分は,自分の勉強のために長々と書いただけですし,実際の答案でこんなに書く必要はないと思いますし,裁量がある根拠を簡単に示すだけでいいと思います。
(※10)「裁判所が都市施設に関する都市計画の決定又は変更の内容の適否を審査するに当たっては,当該決定又は変更が裁量権の行使としてされたことを前提として,その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するのが相当である。」前掲最判平成18年11月2日
(※11)重要な事実の基礎を欠くこととなる場合と,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合との両方を答案上示す必要はないと思いますし,たぶん両方書いている時間もないと思うので,必要となる方だけ示しました。
(※12)「本件条例4条1項は,大規模な建築物の敷地が道路に接する部分の長さを一定以上確保することにより,避難又は通行の安全を確保することを目的とするものであり,これに適合しない建築物の計画について建築主は建築確認を受けることができない。同条3項に基づく安全認定は,同条1項所定の接道要件を満たしていない建築物の計画について,同項を適用しないこととし,建築主に対し,建築確認申請手続において同項所定の接道義務の違反がないものとして扱われるという地位を与えるものである。平成11年東京都条例第41号による改正前の本件条例4条3項の下では,同条1項所定の接道要件を満たしていなくても安全上支障がないかどうかの判断は,建築確認をする際に建築主事が行うものとされていたが,この改正により,建築確認とは別に知事が安全認定を行うこととされた。これは,平成10年法律第100号により建築基準法が改正され,建築確認及び検査の業務を民間機関である指定確認検査機関も行うことができるようになったこと(法6条の2,7条の2,7条の4,77条の18以下参照)に伴う措置であり,上記のとおり判断機関が分離されたのは,接道要件充足の有無は客観的に判断することが可能な事柄であり,建築主事又は指定確認検査機関が判断するのに適しているが,安全上の支障の有無は,専門的な知見に基づく裁量により判断すべき事柄であり,知事が一元的に判断するのが適切であるとの見地によるものと解される。以上のとおり,建築確認における接道要件充足の有無の判断と,安全認定における安全上の支障の有無の判断は,異なる機関がそれぞれの権限に基づき行うこととされているが,もともとは一体的に行われていたものであり,避難又は通行の安全の確保という同一の目的を達成するために行われるものである。そして,前記のとおり,安全認定は,建築主に対し建築確認申請手続における一定の地位を与えるものであり,建築確認と結合して初めてその効果を発揮するのである。他方,安全認定があっても,これを申請者以外の者に通知することは予定されておらず,建築確認があるまでは工事が行われることもないから,周辺住民等これを争おうとする者がその存在を速やかに知ることができるとは限らない(これに対し,建築確認については,工事の施工者は,法89条1項に従い建築確認があった旨の表示を工事現場にしなければならない。)。そうすると,安全認定について,その適否を争うための手続的保障がこれを争おうとする者に十分に与えられているというのは困難である。仮に周辺住民等が安全認定の存在を知ったとしても,その者において,安全認定によって直ちに不利益を受けることはなく,建築確認があった段階で初めて不利益が現実化すると考えて,その段階までは争訟の提起という手段は執らないという判断をすることがあながち不合理であるともいえない。」


【事例研究行政法の他の問題・答案は下記のリンクから】
第1部 
問題1問題2問題3問題4問題5問題6問題7問題8
第2部
問題1問題2問題3問題4問題5問題6問題7問題8問題9問題10
問題11問題12問題13問題14問題15問題16問題17
2019-02-22(Fri)

【新司】倒産法平成18年第2問

ついに




つ  い  に




倒産法の過去問が解き終わります!!!!!


いやー全年度分答案を作るのは結構大変でした。

やっぱり他の科目よりも勉強経験が浅い分,

何をどこまで書けばいいのかといった相場観が出来上がっておらず,

答案をどう構成するかというレベルでの悩みが多かった気がします。

でも,やっぱり13年分も解けば,それもなんとなくは分かってきたかなあ……

……

…………

……………………………………

そうでもないかもなあ……

≪問題≫

〔第2問〕(配点:50)
 次に掲げる事例について,以下の設問に答えなさい。
【事 例】
 A社は,建設工事を業とする株式会社であったが,折からの不況で,資金繰りが悪化していた。そこで,B信用金庫から1000万円の借入れをしようとしたところ,B信用金庫からは,A社の代表者であるCと,さらにもう1人十分な資力を有している者の計2名の連帯保証と不動産担保とがない限り,融資はできないと言われた。A社はいわゆる同族会社であり,その株式の70%はCが保有しており,代表者であるCのほか,親族である2名の取締役がいるが,業務はCが全面的に執り行っており,他の取締役には十分な資力がなかった。そこで,Cは,高校時代からの友人であり,以前若干の資金援助をしたこともあるDに「絶対に迷惑をかけることはないから。」と懇願し,連帯保証人となるとともに,Dの所有する山林を担保に提供することに同意してもらった。その結果,平成17年10月20日,B信用金庫は,C及びDを連帯保証人とし,D所有の山林に抵当権の設定を受けて,A社に対し1000万円を貸し付けた。なお,C及びDは,連帯保証や物上保証をするに際して保証料を受領していない。
 しかし,その後,A社の主要な受注先である大手建設株式会社が同年11月15日,突然更生手続開始の申立てをし,従来の下請関係を抜本的に見直す措置がとられたため,A社の売上高は大幅に減少した。その結果,平成18年2月24日,A社は,ついに振り出した約束手形を決済できず,当該手形が不渡りになってしまった。そして,3月3日,A社は,破産手続開始の申立てをし,同月10日,開始決定がされた。また,A社の代表者であるCも,多額の連帯保証債務を弁済できない状態になり,3月3日,自ら破産手続開始の申立てをし,同月10日,開始決定がされた。Dは,このような状況の推移に驚いていたが,4月初めになって,B信用金庫の担当者から連帯保証債務の即時の履行を強く請求された。ところが,D自身,自己の経営しているコンビニエンス・ストアについて,近くに24時間営業のスーパーマーケットが出店したことなどから急激にその売上げが落ち込んでいたところであり,そこにこのような連帯保証債務の履行の請求がされれば事業の継続は困難になると判断して,4月14日,再生手続開始の申立てをし,同月28日,開始決定がされた。
 B信用金庫は,A社の破産手続において1000万円の貸付債権について届出をし,Cの破産手続において1000万円の連帯保証債務に係る債権について届出をするとともに,D所有の山林に対する抵当権を近く実行する旨をDに通知した。ところが,Cの破産手続における債権調査では,Cの破産管財人Eは,上記連帯保証契約を否認する旨を主張して,B信用金庫の破産債権を認めない旨の認否をしたので,B信用金庫は破産債権査定申立てをした。また,B信用金庫がD所有の山林に対する抵当権を実行しようとしているので,Dの再生手続の監督委員Fは,否認権を行使する権限の付与を受け,上記抵当権設定契約を否認する旨を主張して,抵当権不存在確認の訴えを提起した。

〔設 問〕
1.あなたがFであるとして,B信用金庫に対する抵当権不存在確認訴訟において,否認権の行使を基礎づけるため,どのような主張をすることが考えられるか。想定されるB信用金庫からの反論も指摘しながら論じなさい。
2.あなたがB信用金庫の代理人であるとして,Cの破産手続における破産債権査定の手続において,Eの否認権の主張に反論するため,どのような主張をすることが考えられるか。CがA社の代表者であるという点を考慮に入れて,想定されるEからの反論も指摘しながら論じなさい。


どいつもこいつも倒産しやがってという感じの問題です。

破産も再生もどっも出てくるのでこんがらがりそうです。

それにしても,全体を通じて,最判昭和62年7月3日の判示をめちゃくちゃ聞いてきますね。

構造的に反対意見についても言及せざるを得ない問題になっています。

第1問との難易度の差が大きすぎではないですかね……

≪答案≫
第1 設問1
 1 Fとしては,DがB信用金庫のために抵当権を設定することを内容とする抵当権設定契約(以下「本件抵当権設定契約」という。)について,無償行為否認(民再法127条3項)をすることが考えられる。
 2⑴ Dは,平成18年4月14日に再生手続開始の申立てをしているから,平成17年10月20日にされた本件抵当権設定契約は,「支払の停止等の前六月以内」にされた行為である。
  ⑵ それでは,本件抵当権設定契約の締結は「無償行為」にあたるか。
 「無償行為」とは,「これと同視すべき有償行為」との対比から,外形的に対価を一切伴わない行為をいう(※1)。本件抵当権設定行為は,DがA社から保証料を支払われることなく,A社のために,A社のB信用金庫に対する1000万円の債務(以下「本件貸金債務」という。)について物上保証をして,対価なくDの所有する山林(以下「本件山林」という。)を担保に供するものであるから,「無償行為」にあたる。
 これに対して,B信用金庫は,債権者の立場からすれば,A社に対する出捐をしているのであり,Dもこの出捐を目的として保証をしているのであるから,両者は相互に密接に関連しており,一体として観察されるべきであり,A社にも。そして,Dは,本件抵当権設定契約をした時点では,自らは何らの出捐をしていないのであり,抵当権が実行されたときにはじめて出捐をするのであって,この場合には,実質的対価としての求償権を取得するのであるから,全く対価のない無償行為ということはできないと反論することが想定される(※2)
 しかし,無償行為が否認の対象となる根拠は,その対償たる破産者の行為が対価を伴わないものであって破産債権者の利益を害する危険が特に顕著であるため,破産者及び受益者の主観を考慮することなく,専ら行為の内容及び時期に着目して特赦な否認類型を認めたことにある。したがって,その無償性は,専ら破産者について決すれば足り,受益者の立場において無償であるか否かは問わない(※3)。また,求償権は,物上保証人が弁済をしたことに対する補てんを主たる債務者に求めるものにすぎず,物上保証をすることの対価としての性質を有するものではないから,無償行為であることに変わりはない(※4)。そうすると,本件抵当権設定契約については,Dについてのみその無償性を判断すれば足りる。そして,上記のように,Dとの関係では,何ら対価なく本件抵当権設定行為がされているのであるから,「無償行為」にあたる。
 3 よって,Fとしては,本件抵当権設定契約を無償行為否認することができる。
第2 設問2
 1 前提として,Eの主張する否認権は,CがB信用金庫のためにした連帯保証契約(以下「本件連帯保証契約」という。)が無償行為であるとする無償行為否認(破産法160条3項)である。
 2 これに対しては,B信用金庫としては,A社がいわゆる同族会社であって,Cはその代表者であるから,実質的には無償行為にはあたらないと反論することが想定される。一方で,Eからは,CとA社とは別人格であって,これを別個に判断すべきであるとの反論が想定される。
 そこでこの点について検討すると,CがA社に対する善管注意義務(会社法330条,民法644条)ないし忠実義務(会社法355条)を履行するとともに自己の出資の維持ないし増殖を図るために保証をしたものといえるときには,C自ら直接ないし間接に経済的利益を受け破産財団の保全に資したものとして対価関係が認められるため,無償行為にはあたらない(※5)。CはA社の株式を70%保有しており,A社の利益の大部分がCに還元されることとなっているとともに,CはA社の業務を全面的に執り行っているから,その業績を左右させる地位にある。そうすると,Cとしては,A社の代表者として,その資金繰りを安定化させるべ義務を有しており,その履行としてB信用金庫からの借入れを行っており,その結果として,自己の出資の維持ないし増殖にも資する構造となっている。また,CはA社の破産手続開始の申立てと同日に自己の破産手続開始の申立てをしていることから,その利害が密接に関連していたとものと考えられ,A社の資金繰りの維持がC自らの経済的利益に直結していたことが推認される。そうすると,Cは,A社に対する補償をすることによって,自ら直接ないし間接に経済的利益を受け。破産財団の保全に資したものと認められるから,対価関係を肯定することができる。
 したがって,Cが本件連帯保証契約を締結したことは,無償行為にはあたらない。
 3 よって,B信用金庫は以上の主張をすることによって,Eの否認権の主張は認められないこととなる。

以 上


(※1)「『無償行為と同視すべき有償行為』とは,『破産者が対価を出捐したが名目的な金額に過ぎず経済的には対価としての意味を有しない行為を指す』(東京高判平成9年3月25日判時1621号113頁)。したがって,『無償行為』とは外形的に『対価』を伴わないいわば『純粋の無償行為』であり,民法上の無償契約性の判断とは必ずしも一致しない。」山本和彦ほか『倒産法概説[第2版補訂版]』291頁
(※2)「多数意見は、破産者が保証等の行為をしたとしても、それだけでは破産者自身が反対給付を受けることはなく無償行為に当たると解するのであるが、債権者の立場からすれば、主たる債務者に対する出捐をしているのであり、破産者自身債権者の右出捐を目的として保証等の行為をしているのである。両者は相互に密接に関連しており、一体として観察されるべきであつて、別々に切り離して評価することは許されない。もちろん、破産者は、右行為の時点では、債権者から反対給付を受けることはないが、自らは何らの出捐をすることもなく、単に債務の負担をするだけであり、将来保証債務を履行し若しくは担保権を実行された場合にはじめて出捐をすることとなるのであつて、この場合には破産者は実質的対価としての求償権を取得する。したがつて、贈与のような、全く対価のない無償行為ということはできない。なおまた、担保の供与についてみるに、破産者が右のように他人の債務について担保の供与をした場合ではなく、破産者が自己の債務について破産債権者に担保を供与した場合には、破産法七二条二号ないし四号の危機否認の規定が適用されることになるのであるが、ここでは受益者の悪意が否認の要件となる。同じく破産者が担保の供与をした場合であつても、自己の債務についてしたときには主観的要件が必要とされるのに、他人の債務についてしたときにはこれを要しないというのでは、両者の均衡がとれず、甚だ不合理であるといわざるをえない。この二つの場合とも、別除権の対象となりうる点では同じである。」最判昭和62年7月3日民集41巻5号1068頁島谷六郎裁判官反対意見
(※3)「同号[現行破産法160条3項]にいう無償行為として否認される根拠は、その対象たる破産者の行為が対価を伴わないものであつて破産債権者の利益を害する危険が特に顕著であるため、破産者及び受益者の主観を顧慮することなく、専ら行為の内容及び時期に着目して特殊な否認類型を認めたことにあるから、その無償性は、専ら破産者について決すれば足り、受益者の立場において無償であるか否かは問わない」前掲最判昭和62年7月3日多数意見
(※4)「破産者が取得することのあるべき求償権も当然には右行為[破産者の保証等の行為]の対価としての経済的利益に当たるとはいえない」前掲最判昭和62年7月3日多数意見
(※5)「主たる債務者が破産者及びその一族の所有かつ経営にかかるいわゆる同族会社であり、破産者がその代表者で名実ともにこれを支配しうる経営者であるような関係にあつて、債権者が破産者の保証若しくは担保の供与(以下「保証等」という。)があればこそ会社に対して出捐をしたものであり、かつ、会社が右出捐を得られないことになれば、その営業の維持遂行に重大な支障を来たすため、破産者自らこれに代わる措置を講ずることを余儀なくされたなどの事情があつて、実質的に、破産者が会社に対する善管注意義務ないし忠実義務を履行するとともに自己の出資の維持ないし増殖を図るため保証等をしたものといえるときには、破産者自ら直接ないし間接に経済的利益を受け破産財団の保全に資したものとして、右行為は無償行為には当たらないものと解するのが相当である。けだし、右の経済的利益の有無は、具体的事案に即して実質的に考察すべきものであつて、多数意見が引用している大審院の判例も、対価関係の存否の判断については破産者の意思をも参酌しうるものとし、破産者自ら経済的利益を受けたといえる場合の例示として、主たる債務者の扶養義務者である破産者が保証等をすることにより債権者の出捐がされたため破産者の右義務の履行が緩和された場合、あるいは一種の企業形態である匿名組合において匿名組合員たる破産者が相手方の営業上の債務につき保証等をした場合を挙げているところ、その趣旨とするところは、前者にあつては、主たる債務者が債権者から出捐を得られなければ、それによる経済的不利益が破産者に帰するため、破産者のする保証等が右の不利益を免れさせる意義を有することとなり、また、後者にあつては、破産者が相手方の営業のために出資しその営業より生ずる利益の分配請求権を有する地位にあるため、自己のする保証等が利益分配請求権及び出資の維持ないし増殖に資するからにほかならないからであり、以上の理は、前述のような場合にも等しく妥当するものというべきである。」前掲最判昭和62年7月3日林藤之輔裁判官反対意見



2019-02-22(Fri)

【新司】倒産法平成18年第1問

今朝はとても早起きをして,京王ライナー2号の1番列車に乗ってきました。

1年前の下り京王ライナーのデビュー時のような華々しさはありませんでしたが,

調布の上り通過など見どころは多かったと思います。

初日ということで,座席は満席近く埋まっていたようですが,

今後利用者がどのように推移していくか注目したいところですね。

ちなみに,上りの調布通過シーンは,YouTubeにて公開しています。

2号は乗務員室のカーテンを閉めていたので,

前面展望で上り調布通過を拝めたのは4号が初ということになります。


ところで,今日は平成18年第1問です。

≪問題≫

〔第1問〕(配点:50)
 甲建物を所有するA社から同建物を賃借しているBが,次のような事情の説明及び質問をしてきたとする。Bの説明の中の事実関係はすべて証拠によって証明できるものと仮定して,Bの1から4までの質問にどのように回答すべきか検討しなさい。
 なお,回答に際しては,仮にA社について破産手続が開始された場合,A社にはある程度の財産があることから異時廃止になる見込みはなく,破産手続は7,8か月くらいで最後配当を経て終結するであろうことを前提としなさい。

【Bによる事情の説明】
 私は,甲建物の2階全部を所有者であるA社から賃借していて,現在事務所として使っています。賃貸借期間は3年,賃料は毎月50万円で,敷金として300万円(賃料6か月分)を差し入れています。
 賃貸借の開始からもうすぐ2年8か月が経過しますが,A社の債権者からの申立てに基づいて,間もなくA社について破産手続開始の決定がされるようです。約定期間の満了まであと約4か月ありますが,その残り4か月間は,私はまだ甲建物で仕事を続ける必要があります。ただ,賃料がほぼ同額でもう少し広い賃貸物件が見つかったので,約定期間が満了したら賃貸借契約は更新せずに,別の建物に事務所を移すつもりでいます。
 私は,今まで賃料の支払を怠ったことはなく,A社が破産したとしても,A社の社長のCには昔から世話になっていることから,取りあえず残り4か月分も約定どおりに支払うつもりでいます。なお,敷金については,今後万一賃料の不払等があれば格別,そうでなければ控除の対象となる損害金等は現時点ではない旨をCに確認済みです。

【Bの質問】
1.A社の破産管財人がA社の破産を理由として私に甲建物からの即時の退去を求めることはできますか。
2.A社の破産手続開始の決定後も私が賃料を支払い続けることを前提にして,後で敷金相当額を幾らかでも回収する方法はないのでしょうか。
3.A社の破産手続において敷金返還請求権を行使しなければならないとして,その行使はどのようにすればよいのでしょうか。また,どのように支払を受けることができるのでしょうか。
4.Cによると,A社は再生手続開始の申立てをすることを検討中であるとのことです。仮にA社について再生手続が開始されても,私は賃料を支払い続けるつもりですが,この場合,敷金返還請求権をどのように行使することができるでしょうか。


えっ……!!?!??!?!?!?!???

なんというか,

平和すぎじゃないですか???

込み入った論点は特にないように思うんですが……

え……逆に,この13年間で司法試験委員会に一体何があったんでしょう……

それくらい問題の難易度の差がすごいと感じました。

≪答案≫
第1 質問1
 1 A社とBとの間では,甲建物2階部分についての賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)が締結されている。これに基づいて,A社はBに対して甲建物を使用収益させ,BはAに対してこれの対価を支払う義務を負うこととなるから(民法601条),双務契約である。そして,約定の賃貸借期間は満了していないため,残期間分の双方の義務が未履行の状態となっている。この状態で,A社は破産手続が開始されようとしている。したがって,本件賃貸借契約は,双方未履行双務契約として,破産法53条の規律に従うこととなるのが原則である。
 この場合,A社の破産管財人は,本件賃貸借契約を「解除」するか,これを継続して「履行を請求する」かを選択することとなる(同条1項)。
 2 もっとも,本件賃貸借契約について,破産法56条1項の適用がある場合には,同法53条の適用はなくなり,本件賃貸借契約が係属することとなる。
 そこで,本件賃貸借契約について,同法56条1項の適用があるかについて検討すると,建物賃貸借の対抗力は建物の引渡しによって生ずるところ(借地借家法31条),BはA社から既に甲建物2階部分の引渡しを受けているから,Bは甲建物の賃借権について対抗力を有している。したがって,「賃借権を設定する契約について破産者の相手方が当該権利につき第三者に対抗することができる要件を備えている場合」にあたるから,破産法56条1項の適用がある。
 したがって,本件賃貸借契約について,同法53条1項の適用はないから,本件賃貸借契約が破産管財人によって解除されることはない。
 3 したがって,Bに対しては,A社の破産管財人はA社の破産を理由として甲建物からの即時の退去を求めることはできないであろうと回答することとなる。
第2 質問2
 1 BはA社に対して,本件賃貸借契約に付随する敷金契約に基づいて,敷金返還請求権を有する。前提として,敷金返還請求権の法的性質について検討すると,敷金は賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得することのあるべき一切の債権を担保し,賃貸借終了後建物明渡がなされた時において,それまでに生じた一切の被担保債権を控除しなお残額があることを停止条件として,その残額につき敷金返還請求権が発生する(※1)
 2⑴ そうすると,敷金返還請求権は,停止条件付債権であるから,これを自働債権として相殺をすることは原則としてできない(破産法67条1項,2項前段)。
  ⑵ もっとも,敷金返還請求権の上記性質に照らすと,賃借人としては,敷金を賃貸人に差し入れたときから,敷金と賃料とを相殺することに対する期待を少なからず有しており,賃貸人が破産した場合には特にそのような期待を強く有しているということができる。
 そこで,破産法70条後段は,賃借人は賃貸人に対し,賃料債務に弁済について,弁済額の寄託を請求することができるものとしている。Bは「敷金の返還請求権を有する者」であり,本件賃貸借契約に基づいて「賃料債務を弁済」する場合であるから,「弁済額の寄託を請求することができる」。
 この方法により,Bは,本件賃貸借契約に係る残賃貸期間分の賃料債務として支払う200万円分の寄託を請求することができ,本件賃貸借契約が終了したときに200万円の回収を図ることができる。
 3 したがって,Bに対しては,寄託請求により200万円の回収をすることができると解答することになる。
第3 質問3
 1 上記のように,BがA社に対して有する敷金返還請求権は,本件賃貸借契約に付随して締結された敷金契約に基づくものである。この敷金契約は,A社の破産手続開始前にされたものであるから,上記敷金返還請求権は,「破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」であるとして「破産債権」として扱われる(破産法2条5項)。
 2 破産債権は,破産手続によらなければ,これを行使することができない(同法100条1項)。上記敷金返還請求権は,停止条件付債権であるが,そうであっても破産手続に参加することはできる(同法103条4項)。したがって,Bは,上記敷金返還請求権を,破産債権として届出をする必要がある(同法111条1項)。その後,上記敷金返還請求権について,調査がされ(同法117条以下),異議等がなければ確定する(同法114条1項)。
 3 上記敷金返還請求権が確定すれば,A社の破産財団から配当を受けることとなるのが原則である(同法193条1項)。もっとも,上記敷金返還請求権は停止条件付債権である以上,その条件が成就するとは限らないから,本来的に配当を受ける基礎が不安定な状態である。そこで,停止条件付債権については,除斥期間内に条件が成就したことを証明しなければ,最後配当を受けることができない(同法198条2項)。
 したがって,Bとしては,A社の最後配当に関する除斥期間内に,上記敷金返還請求権の停止条件が成就したことを証明しなければならない。
第4 質問4
 1 A社が再生手続を開始した後に,Bが本件賃貸借契約に基づいて賃料を支払った場合には,Bが有する敷金返還請求権は,「賃料の六月分に相当する額の範囲内におけるその弁済額を限度として,共益債権」として扱われる(民再法92条3項)。そうすると,本件賃貸借契約の残賃貸借期間は4か月であるから,200万円を限度として,共益債権として扱われる。
 共益債権は,再生手続によらないで,随時弁済を受けることができる(同法121条1項)。
 2 Bの敷金返還請求権のうち,残部の400万円の部分(以下「本件残部債権」という。)については,A社の「再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」であるから「再生債権」として扱われる(同法84条1項)。
 再生債権は,再生計画の定めによらなければ弁済を受けることができない(同法85条1項)。そこで,Bとしては,本件残部債権について届出をする(同法94条1項)。そのうえで,これについて調査を受け(同法100条以下),異議等がなければ確定する(同法104条1項)。そして,再生手続においては,破産手続と異なり,弁済を受けるための除斥期間が設けられていないため,再生計画内で条件が成就すれば足りる。

以 上


(※1)「家屋賃貸借における敷金は、賃貸借存続中の賃料債権のみならず、賃貸借終了後家屋明渡義務履行までに生ずる賃料相当損害金の債権その他賃貸借契約により賃貸人が貸借人に対して取得することのあるべき一切の債権を担保し、賃貸借終了後、家屋明渡がなされた時において、それまでに生じた右の一切の被担保債権を控除しなお残額があることを条件として、その残額につき敷金返還請求権が発生するものと解すべきであり、本件賃貸借契約における前記条項もその趣旨を確認したものと解される。」最判昭和48年2月2日民集27巻1号80頁


2019-02-21(Thu)

【新司】倒産法平成19年第2問

こんばんは。

明日は,平成31年2月22日。

そうです。

京王電鉄のダイヤ改正が行われる日です。

明日の改正では,朝の時間帯に,京王八王子・橋本から新宿方面への京王ライナーが設定されます。

ついにきたかという感じですね。

ただ,京王八王子・橋本から,それぞれ2本ずつということで,

夜の新宿からの京王ライナーに比べれば,本数は少なめです。

やはり,ラッシュ時にライナーをねじ込むことができるほど線路容量に余裕はなさそうです。

どうせ明大前で団子運転する羽目になるでしょうし。

ちなみに私は,明日の京王八王子発の1番列車に乗車する予定です。

席は既に確保してあります。

あとは朝起きれるかどうかの問題です。

心配ですね。

ところで,倒産法平成19年第2問を解きます(唐突)(恒例)

≪問題≫

[第2問](配点:50)
 次の事例について,以下の設問に答えなさい。
 【事 例】
 Aは,宅地建物取引主任者の登録を経た上,宅地建物取引業の免許を受けて自ら不動産仲介業を営んでいたが,平成10年に購入したマンションの住宅ローンの返済のためや,平成15年ころから始めた株取引及び商品先物取引により生じた2000万円余りの損失の処理のために,いわゆる消費者金融業者からも借入れを繰り返すようになった。その結果,平成19年1月当時,Aの負債は,住宅ローンの残債務1600万円のほか,損失処理のための借入債務も,知人及び消費者金融業者からの借入れを主なものとして合計1500万円に達していた。他方,その当時のAのめぼしい財産としては,住宅ローンを被担保債権とする抵当権が設定されている時価1500万円のマンション,平成18年5月にBに絵画を時価相当額である50万円で売却したことにより生じた売買代金債権及び時価40万円の中古自動車があるだけであった。その上,収入が安定せず,その額もかろうじて生活費を賄える程度に減少していたので,Aは,弁済期にある債務を継続的に支払えない状況に陥った。そこで,Aは,平成19年1月下旬,債務の整理について,自治体が主催する法律相談を受けたこともあったが,その時は,破産手続を選択する決断ができなかった。
 Aは,その後も負債の返済に窮していたため,平成19年2月初旬,消費者金融業者に借入れを申し込む際,申込書の「他の業者からの借入額」を記載する欄に,正直に記載すると借入れを断られるとの思いから100万円と記載した。Aは,応対した従業員から「本当にこれ以上の負債はないのですか。」と尋ねられたものの,「他にはありません。」と答え,50万円を借りたが,この借入れについては,わずかの返済しかできなかった。
 また,Aは,借入先を探している際,クレジットカードを利用して家電量販店でパソコンを購入し,それを送ってくれれば購入価格の半額程度で買い取るとの情報をある業者から得た。藁にもすがる思いであったAは,平成19年3月上旬,クレジットカードを利用して家電量販店において60万円でパソコンを3台購入し,直ちにその業者に送って30万円を得た。しかし,その金員は他の返済に費消され,クレジットカード会社へはほとんど弁済することができなかった。
 平成19年3月下旬,返済の督促に耐えきれなくなったAは,弁護士Cに相談の上,同年4月6日,破産手続開始及び免責許可の各申立てをし,同月11日,破産手続が開始され,裁判所により破産管財人Dが選任された。

 〔設 問〕
1.Aは,自治体が主催した法律相談を受けた際,担当弁護士が説明してくれた小規模個人再生手続にも関心を持ったが,「不動産仲介業の収入が減って生活費を賄うのがやっとの状態だから,小規模個人再生手続を利用することは難しいと思う。」との説明を受けた。
 破産手続との比較において小規模個人再生手続の利点を指摘するとともに,担当弁護士が「小規模個人再生手続を利用することは難しい。」と判断した理由を簡潔に説明しなさい。
2.Bから次のような相談を受けた弁護士Eは,Bに対して,どのように答えるのが適切か検討しなさい。
【Bの相談】
 私は,平成18年5月にAから絵画1点を代金50万円で購入し,その引渡しを受けましたが,贋作ではないかとの疑いもあって代金を支払っていませんでした。その後,平成19年4月下旬に至り,本物であることが判明したので,Aに対し,50万円を支払いました。ところが,同年5月中旬になって,Aの破産管財人と称するDから,50万円をDに支払うように求められました。
 私は,Dの求めに応じなければならないのでしょうか。
3.破産手続開始の申立てを受任した弁護士Cは,Aから次の質問を受けた。どのように答えるのが適切か検討しなさい。
【Aの質問】
 私は,破産手続が開始された後は,業者から委託を受けて化粧品や健康食品の訪問販売の仕事に従事して生計を立てようと考えています。仕事をするためには自動車があった方が便利ですし,公共交通機関が乏しい地方であることから,高齢の母の通院の介助や日用品の買物といった日常生活の場面でも自動車が不可欠です。そこで,中古自動車を保有し続けることができるのであればありがたいのですが,それは可能でしょうか。
4.Aの免責許可の申立てについて裁判所が判断する際に検討すべき事項を指摘して説明しなさい。ただし,設問2及び3に現れた事実は考慮しないものとする。

(参照条文) 宅地建物取引業法
 (試験)
第16条第1項 都道府県知事は,国土交通省令の定めるところにより,宅地建物取引主任者資格試験(以下「試験」という )を行わなければならない。 。
 (取引主任者の登録)
第18条第1項 試験に合格した者で,宅地若しくは建物の取引に関し国土交通省令で定める期間以上の実務の経験を有するもの又は国土交通大臣がその実務の経験を有するものと同等以上の能力を有すると認めたものは,国土交通省令の定めるところにより,当該試験を行つた都道府県知事の登録を受けることができる。ただし,次の各号のいずれかに該当する者については,この限りでない。
 一,二 (略)
 三 破産者で復権を得ないもの
 四~八 (略)
 (登録の消除)
第68条の2第1項 都道府県知事は,その登録を受けている取引主任者が次の各号の一に該当する場合においては,当該登録を消除しなければならない。
 一 第18条第1項第1号から第5号の2までの一に該当するに至つたとき。
 二~四 (略)


なんだか,一大論点!!みたいなところはなく,

最初から最後まで,つらつらと平凡なことを書いて終わりな問題な気がします。

とりあえず条文を見つけるのを頑張ろうねという感じです。

≪答案≫
第1 設問1
 1⑴ 破産手続による場合は,自由財産又は差押禁止財産を除いて破産手続開始時に有する一切の財産が破産財団とされ(破産法34条1項,2項),裁判所による免責許可(同法252条1項)によって免責がされない限り(同法253条1項本文),破産財団から破産債権者のために配当が行われることとなる(同法193条1項)。したがって,破産者の手元には,自由財産又は差押禁止財産しか残らないこととなる。
 一方で,小規模個人再生による場合は,再生手続であるから,再生債務者が再生計画案を策定し(民再法154条以下),再生債権者による可決の決議(同法172条の3)及び裁判所による認可(同法174条)を経れば,その再生計画に従って弁済をすれば足り,自由財産又は差押禁止財産以外にも財産を手元に残すことができる。
  ⑵ 破産手続による場合には,免責不許可事由(破産法252条1項各号)が存する場合には,免責を受けることができないところ,Aには後述のように免責不許可事由が存すると判断される可能性がある。この場合には,上記のように破産手続による財産の換価配当がされることとなる。
 一方で,小規模個人再生による場合には,再生債務者に破産法上の免責不許可事由が存する場合であっても,上記のように,再生計画による弁済を完了すれば,その他の責任は免れることができる。
  ⑶ また,本問では特に,Aが宅地建物取引主任者であるところ,破産手続が開始した場合には,復権(破産法255条以下)を得ない限り,その登録が消除される(宅建業法68条の2第1項1号,18条1項3号)。そうすると,Aは,従来の職を続けることができなくなり,収入減が断たれることとなる。
 一方で,小規模個人再生による場合には,再生手続の開始は宅建業法上の登録の消除事由とされていないから,Aは従前どおり,不動産仲介着を得を営むことができる。
  ⑷ さらに,Aは住宅ローンとして1600万円の債務を負っているところ,小規模個人再生であれば,住宅資金特別条項を付することができ(民再法198条,199条),マンションを従前どおり使用し続けることができる。
 2 小規模個人再生が認可されるためには,再生計画の不認可事由(民再法174条2項,231条2項)がないことが必要である。
 そこで,Aが小規模個人再生を選択した場合に,再生計画に不認可事由が存在しないかについて検討すると,Aが自治体主催の法律相談を受けた当時,損失処理のための借入債務が計1500万円に達していたのであるから,これが「無異議債権」または「評価済債権」とされた場合には,同法231条2項4号の事由に該当しないことが必要である。しかし,当時Aは,不動産仲介業の収入が減って生活費を賄うのがやっとの状態であって,収入を原資として弁済をすることは困難である。そうすると,Aが弁済原資に充てられるのは,50万円の絵画の売買代金債権と40万円の中古自動車(以下「本件自動車」という。)だけであるから,「基準債権の総額の五分の一」である300万円を準備することができないものと考えられる。
 したがって,Aは小規模個人再生を利用することが難しいものと考えられる。
第2 設問2
 Bは,Aとの間で,絵画の売買契約(民法555条)を締結し,平成19年4月下旬に,当該契約に基づく代金支払債務の履行として50万円の支払をしている。しかし,これよりも前である同月11日に,Aは破産手続を開始している。そうすると,Bは,Aについて破産手続の開始があったことを「知らないで」弁済したのでなければ,支払をした全額についてAの破産手続との関係で効力を主張することができない(破産法50条1項)。
 そして,破産手続開始について公告がされた後には,Bは,Aの破産手続開始の事実を知っていたものと推定されるところ(同法51条),破産手続開始の公告はAの破産手続開始決定のあと直ちにされるから,Bが上記支払をした時点ではAの破産手続開始の公告はされていたものと考えられる。したがって,Bは,Aの破産手続開始の事実を知っていたものと推定される。
 よって,Bは,Aの破産手続開始の事実を知らなかったことを反証しない限り,全額の支払について効力を主張することができず,反証に失敗した場合には,Aの破産財団が受けた利益の限度でしか効力を主張することができず,その余の部分についてDに支払をしなければならない。
第3 設問3
 1 本件自動車は,「破産手続開始の時において有する一切の財産」に含まれるものであるから,破産財団に属するのが原則である(破産法34条1項)。したがって,Aは本件自動車を保有し続けることができないのが原則である。
 2⑴ 本件自動車は,差押禁止動産(民執法131条)には該当しないため,当然に自由財産になるものではない(破産法34条2項)。
  ⑵ もっとも,裁判所の決定により,破産者の自由財産の範囲を拡張することはできる(同条4項)。そこで,裁判所が,本件自動車について自由財産とすることの裁判をすることができるかについて検討する。
 「破産者の生活状況」としては,Aの生活地域は,公共交通機関の乏しいところで,日常生活に自動車が不可欠とされる状況にある。したがって,Aの生活状況からすると,本件自動車が必要であるといえる。「財産の種類及び額」としては,本件自動車は,中古車であって,その価値も40万円とさほど高額ではない。そうすると,これを換価して配当に充てても,破産債権者の満足に資する程度は低い。したがって,本件自動車を自由財産としても,破産手続上の弊害は小さいと考えられる。そして,「収入を得る見込み」としては,Aは現在,破産手続開始により宅地建物取引主任者としての資格が制限され,無職の状態である。そこで,Aとしては収入の安定化を図るために早期に再就職する必要があるところ,Aは訪問販売の仕事を始めようと考えている。これを始めるにあたっては,自動車があった方が便利であるとされている。したがって,本件自動車は,Aの収入の安定化のためにも,必要であると考えられる。また,「その他の事情」としては,Aの高齢の母の通院の介助のためにも本件自動車が必要である。
 以上からすると,本件自動車を自由財産とすべき必要性が高く,その場合の弊害も小さいのであるから,裁判所としては,本件自動車を破産財団に属しないこととする決定をすることができる。
 3 したがって,Cとしては,Aに対して,裁判所に対して上記決定をすることの申立てをすることによって,本件自動車を破産財団に属しないこととすることができる可能性がある旨を伝えるべきである。
第4 設問4
 1 裁判所は,Aの免責許可の申立てについて判断する際に,免責不許可事由(破産法252条1項)の存否について検討する。
 2⑴ まず,Aが株取引及び商品先物取引により2000万円の損失を生じさせたことが,「浪費行為」(同項4号)にあたらないか。
 Aは,平成10年にマンションを購入し,多額の住宅ローンの返済債務を負っていたのであるから,宅地建物取引主任者としての収入等に照らして堅実な返済方法をとるべきであったにもかかわらず,株式投資や商品先物投資を行い,その結果2000万円もの過大な債務を負担したものであるから,「浪費行為」にあたる(※1)。したがって,Aには,免責不許可事由が存する。
 もっとも,この場合にも裁判所は,裁量的に免責許可の決定をすることができるが(破産法252条2項),Aは上記の損失を出したあとも,消費者金融業者から借入れを繰り返すなど,その場しのぎの借財を行うなどして,結局自己の債務を増やすような行動に出ているのであるから,一切の事情を考慮しても免責許可の決定はできないように思われる。
  ⑵ また,Aが,消費者金融業者に借入れを申し込む際に,自己の借入額をについて虚偽の申告をしたことが,「詐術」にあたらないか。
 「詐術を用いて」とは,破産者が信用取引の相手方に対し自己が支払不能等の破産原因事実のないことを信じさせ,あるいは相手方がそのように誤信しているのを強めるために,資産若しくは収入があることを仮装するなどの積極的な欺罔手段を取った場合若しくはこれと同視すべき場合をいい,破産者が破産原因事実があることを黙秘しただけでは足りない(※2)。しかし,Aは,従業員から,記入した額以上の債務がないことについて念押し的に確認されているにもかかわらず,これに対して虚偽の回答をするなどして,Aが借入額が100万円程度しかなく,Aに破産原因事実がないものとの従業員の誤信を強めているから,「詐術を用いて」にあたる。したがって,Aには,免責不許可事由が存する。
 そして,Aには,特に裁量免責を認めるべき事情が存しないから,裁量免責もされない。
  ⑶ さらに,Aが60万円でパソコンを購入し,それを30万円で業者に売却したことが,「著しく不利益な条件で処分した」ものとされないか。
 Aは,当該パソコンを購入してから直ちに業者に売却しているから,購入から売却までの間に当該パソコンの価値が半減するはずがなく,当初から,クレジットを現金化することのみを目的としてされた転売行為であるといえ,「著しく不利益な条件で処分」したことにあたる。したがって,Aには,免責不許可事由が存する。
 そして,Aには,裁量免責が認められるべき事情はないから,裁量免責はされない。

以 上


(※1)東京高決平成8年2月7日判時1563号114頁は,借金をして株式投資を行ったもののこれに失敗し多額の債務を負担したため,再度株式投資を行ってこれを返済しようと計画して,新たな借金をして株式投資を行ったものの,株価の暴落により大きな損失を被った者の免責不許可決定の抗告事件において,「抗告人は、投資顧間会が倒産したことにより株式投資により得た利益を失い、債務を弁済するために再度株式投資を始めた昭和六二年には、約三〇〇〇万円の借財をしていたのであるから、銀行員としての収入等に照らして堅実な返済方法をとるべきであったにもかかわらず、再度株式投資を計画し、当時の抗告人の財産状態に照らして不相応な計三六五〇万円もの多額な借入れを行って、その大部分をもとに株式投資を再開し、その結果過大な債務を負担したものであって、その行為は、破産法三七五条一号所定の浪費行為に該当するというべきである。」と述べて,浪費行為該当性を肯定しています。
(※2)「『詐術ヲ用ヒ』たとは、破産者が信用取引の相手方に対し自己が支払不能等の破産原因事実のないことを信じさせ、あるいは相手方がそのように誤信しているのを強めるために、資産もしくは収入があることを仮装するなどの積極的な欺罔手段をとった場合もしくはこれと同視すべき場合を指すのであって、破産者が単に支払不能等の破産原因事実があることを黙秘して相手方に進んで告知しなかったことのみでは『詐術ヲ用ヒ』た場合に当たらないものと解するのが相当である」大阪高決平成2年6月11日判時1370号70頁



2019-02-21(Thu)

【新司】倒産法平成19年第1問

ついに平成10年代に入りました。

あと2年分です。

長い道のりでした。

気付いたら,今月書いた記事の数は,既に20を超えていました。

当ブログ開設以来初めての更新頻度です。

当ブログを開設した当初は,

まさかこんな司法試験の答案をひたすら掲載するだけのブログに成り下がるとは,

到底思ってもみなかったでしょう。

人生何が起きるか分かりませんね。

≪問題≫

〔第1問〕(配点:50)
 次の事例について,以下の設問に答えなさい。
 【事 例】
 A株式会社は,かねてから代表取締役Bの親友であるCの経営するD社に無担保で貸付けをしていたところ,この貸付金の回収が不能になったことから,経営状況が著しく悪化した。いち早くA社が支払不能の状況にあると判断した同社の取引債権者であるE社は,平成19年3月2日,裁判所に対し,A社についての破産手続開始の申立てをし,同月23日,破産手続開始の決定がされ,破産管財人Xが選任された。破産管財人Xは,調査の結果,Bに資産があることが判明したので,A社がD社に対して有する債権のうち回収不能になった3000万円について,Bに対して役員としての損害賠償責任を追及したいと考えている。
 他方,E社は,A社に対して500万円の債権を有していたので,A社に対する破産手続において破産債権の届出をしたが,Bの妻であるFは,平成18年10月に当該債権につきE社との間で連帯保証契約を締結していたことから,E社からの求めに応じ,同社が破産債権の届出をた後,当該連帯保証債務の全額につき弁済した。

〔設 問〕
 以下の小問1から3までについては,それぞれ独立したものとして解答しなさい。
1.⑴ 破産管財人XによるBの責任追及のための手続について説明しなさい。
  ⑵ 破産手続開始前から,D社への無担保の貸付けを理由として,A社の株主GからBに対し,回収不能分である3000万円について,適法に株主代表訴訟(会社法第847条第3項)が提起されていた場合には,破産管財人Xは,Bの責任追及のためにどのように対応すべきか。⑴で説明した手続との関係にも留意しながら解答しなさい。
2.Bは,A社に対し平成17年に2000万円貸し付けたとして,A社に対する破産手続において当該貸付金について破産債権の届出をしたが,取引債権者の多くは,A社の破綻の原因を作ったBが他の破産債権者と同様の配当を受けることに不満を持っている。他方で,Bは,以前から資産をはるかに上回る多額の債務を負っており,近々自己破産の申立てをすると噂されている状況にある。破産管財人Xとしては,Bが届け出た破産債権について,どのように対応することが考えられるか。
3.Fは,破産手続開始の直前まで,A社所有名義の建物につき,A社との間で賃貸借契約を結んで居住していたが,賃料債務については合計600万円が未払状態になっていた。Fは,E社に対する連帯保証債務についての弁済に係る以下の⑴⑵の債権を自働債権,上記賃料債務に係る債権を受働債権として,相殺しようとしている。⑴⑵のそれぞれの場合について相殺は認められるか。
 ⑴ 弁済による代位によって取得した原債権
 ⑵ 求償権


役員責任査定の申立ては,どっかの年でも出題されていましたね。

どの年だったか忘れてしまいましたが。

やっぱり繰り返し出題されるんですね。

一方で,45条を類推適用するとかいう考えは,正直すぐには思いつきませんでした。

言われてみれば,株主代表訴訟も債権者代位も法定訴訟担当ですもんね。

似てる似てる。

最後は委託保証ですが,無委託保証の有名な判例が出たのは平成24年。

したがって,当該判例の知識を使うことは求められていない,というか無理ですね。

しかし,当該判例が委託保証も含めていろいろ判示してくれているので,

それに乗っかってしまえば少しは楽にはなります。

≪答案≫
第1 小問1
 1 ⑴について
  ⑴ A社は,「取締役」であるBがD社に対して無担保で貸付を行うなどして,その回収不能によりA社の経営状況を悪化させたとして,任務懈怠責任に基づく損害賠償請求権(会社法423条1項)を有しているものと考えられる。したがって,A社の破産管財人であるBとしては,直接この損害賠償請求権を行使するため,通常の民事訴訟を提起することが考えられる。
  ⑵ もっとも,Xは,役員責任査定決定の制度(破産法177条以下)を利用することもできる。これは,役員に対する責任追及の実効性を上げるため,より簡易な決定手続によっても責任追及を可能としたものである(※1)
 Xが役員責任査定の申立て(同法178条1項)を行うためには,「その原因となる事実」として,BがD社に対して無担保で貸付けを行った任務懈怠の事実を疎明しなければならない(同条2項)。この申立てがあって場合には,裁判所は,「役員」であるBを審尋した上で(同法179条2項),理由を付して役員責任査定決定または役員責任査定の申立てを棄却する決定をする(同条1項)。
 裁判所において役員責任査定決定があった場合に,Bが「不服がある者」として,異議の訴えを提起してくる可能性がある(同法180条1項)。このとき,被告は「破産管財人」であるXとなるから(同条2項),Xは当該異議訴訟を追行する必要がある。
 Bが前記異議の訴えを提起せず,または提起したが却下されたときは,役員責任査定決定は,給付確定判決と同一の効力を有する(同法181条)。したがって,Xは,これを債務名義(民執法22条7号)として,Bの財産に対して強制執行を行うことができる。また,Bが前記異議の訴えを提起した場合に,役員責任査定決定を認可した場合にも,強制執行との関係で給付確定判決と同一の効力を有するから(同法180条5項),これを債務名義として強制執行を行うことができる。
 なお,一連の手続の間,Bが財産を逸失させることを防止するために,Xは,Bの「財産に対する保全処分をすることができる」(同法177条1項)。
 2 ⑵について(※2)
  ⑴ GがBに対し提起した株主代表訴訟は,A社がBに対して有する任務懈怠責任に基づく損害賠償請求権をGがA社に代わって行使する形態のものであり,その性質は法定訴訟担当である(※3)。そうすると,債権者が債務者に代わって第三債務者に対して権利を行使する債権者代位(民法423条1項)と,その性質,構造を同じくするものである。
  ⑵ この点,債権者代位訴訟の係属中に債務者が破産手続を開始した場合には,その訴訟手続は中断する(破産法45条1項)。これは,債権者代位の目的となる被代位債権が,債務者の破産手続開始により,債務者の破産財団に属することとなる(同法34条1項)と同時に,その管理処分権が破産管財人に専属することとなるため(同法78条1項),これに係る訴訟手続を中断させて,破産管財人に当該訴訟を受継するか否かを判断させるものである(※4)
 株主代表訴訟においても,会社が役員に対して有する損害賠償請求権は,会社の破産手続の開始と同時に,その破産財団に属することとなり,破産管財人にその管理処分権が専属することとなる点は,債権者代位の場合と異なる所はない(※5)。そうすると,破産法45条の規律は,株主代表訴訟の場合にも及ぶと考えることができるから,株主代表訴訟の係属中に会社が破産手続を開始した場合には,破産法45条の類推適用を受けるものと考える(※6)
  ⑶ そうすると,GがBに対して提起した株主代表訴訟は,A社の破産手続開始により,中断する(同法45条1項)。そして,Xは,これを受継することができる(同条2項)。
 なお,Xとしては,これとは別個に役員責任査定の申立てをすることができるが,Gの提起した株主代表訴訟の進捗を見て,これが短期間で完結する見込みであれば受継することとし,他方でこれが当分の間完結しない見込みであれば,受継をせずに別途役員責任査定の申立てをすべきである(※7)
第2 小問2
 1 BがA社に対して有する2000万円の貸金返還請求権は,A社の「破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」であるから,「破産債権」である(破産法2条5項)。
 2 まず,Xとしては,Bが届け出た破産債権を,劣後的に取り扱うことが考えられる。
 しかし,破産手続においては,破産債権を平等に取り扱うことが要請され(同法194条2項),民再法155条1項ただし書のように権利変更を行うことができる旨の規定を置いていない。また,破産手続において特定の破産債権を劣後的に取り扱うための合意は,破産手続開始前にされている必要がある(同法99条2項)。そうすると,破産手続において,特定の破産債権を,破産手続開始後に劣後化することはできない。
 したがって,Xは,Bが届け出た破産債権を劣後的に取り扱うことはできない。
 3 次に,Xは,Bが有する破産債権と,A社がBに対して有する「破産財団に属する債権」である損害賠償請求権とを相殺することが考えられる(同法102条)。
 「破産債権者の一般の利益に適合するとき」とは,破産管財人による相殺が配当以外の方法により破産債権の満足を図る例外的な方法であることから,それによって破産債権の満足を程度を増加させることができる場合を意味する。本件では,Bが資産をはるかに上回る多額の債務を負っており,近々自己破産の申立てをすると噂されるに至っていることからすると,A社がBに対して損害賠償請求権を行使したところで,全額の回収は見込まれない。そうすると,Bを破産債権者としてA社の破産手続に入れた上で,Bからわずかながら上記の損害賠償請求権に対する配当を受け,これを配当原資に組み入れるよりも,上記相殺を行った方が,A社の破産手続における配当割合を増加させることができる。そうすると,破産債権に対する満足の程度を増加させることができるのであるから,「破産債権者の一般の利益に適合するとき」にあたる(※8)
 したがって,Xは,Bが有する破産債権と,A社のBに対する損害賠償請求権とを相殺することができる。
第3 小問3
 1 ⑴について
  ⑴ Fは,A社のE社に対する500万円の債務を連帯保証しているため,FがE社に弁済をした場合には,A社に対して求償権を取得することとなる(民法459条1項)。したがって,Fは,「破産者に対して将来行うことがある求償権を有する者」であり,FはA社の破産手続開始後にE社に対して全額の弁済をしているから,E社がA社に対して有していた500万円の債権を「破産債権者として行使することができる」(破産法104条4項)。したがって,Fは,「破産債権者」である。
 そして,Fは,A社に対して,未払賃料債務として600万円の「債務を負担」している。
 したがって,Fは,A社に対する500万円の債権と,600万円の債務とを相殺することができるのが原則である(同法67条1項)。
  ⑵ もっとも,上記代位取得は,「破産者に対して債務を負担する者」であるFが,A社の「破産手続開始後」の平成18年10月にしたものであって,これによって「他人の破産債権」であるA社に対する500万円の債権を取得したものである。したがって,両債権は,相殺が禁止される(同法72条1項1号)(※9)
  ⑶ よって,Fは,弁済による代位によって取得した原債権を自働債権として相殺をすることはできない。
 2 ⑵について
  ⑴ FのA社に対する求償権(以下「本件求償権」という。)が「破産債権」にあたるかについて検討すると,保証人は弁済をした場合,民法の規定に従って主たる債務者に対する求償権を取得する関係にある。そうすると,保証人の弁済が破産手続開始後にされても,保証契約が主たる債務者の破産手続開始前に締結されていれば,当該求償権の発生の基礎となる保証関係は,その破産手続開始前に発生しているということができるから,当該求償権は,「破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」であって,「破産債権」にあたる(※10)
  ⑵ 本件求償権は,Fが代位弁済を行うことを法定の停止条件として発生する事後求償権であるところ,A社の破産手続開始時には停止条件が成就していないから,相殺適状にない。
 しかし,破産法67条は,相殺の担保的機能に対する破産債権者の期待を保護することは,債権者間の公平・平等な扱いを基本原則とする破産制度の趣旨に反するものではないことから,原則として破産手続開始時において破産者に対して債務を負担する破産債権者による相殺を認めたものである。したがって,破産手続開始後に破産債権者の有する破産債権に係る停止条件が成就した場合であっても,それが破産債権者の期待として保護に値し得るものであれば,これを自働債権として相殺することができる(※11)
 これを本件についてみると,FがA社の破産手続開始前にA社の委託を受けて保証契約を締結し,同手続開始後に弁済をして本件求償権を取得した場合には,本件求償権を自働債権とする相殺は,他の破産債権者が容認すべきものであり,同相殺に対する期待は,破産法67条によって保護される合理的なものである(※12)
  ⑶ よって,Fは,求償権を自働債権として相殺することができる(※13)(※14)

以 上


(※1)「破産した企業の取締役・執行役・監査役等の役員が違法な行為を行い,法人に対して損害賠償義務を負っている場合が少なくない。このような場合には,破産管財人はそのような法人役員の責任を通常の訴訟手続で追及することができるが,破産法は,このような責任追及を実効的なものとするため,より簡易な決定手続でも責任追及を可能としている。それが役員責任査定決定の制度である……。」山本和彦ほか『倒産法概説[第2版補訂版]』388頁
(※2)「株式会社について倒産手続が開始した場合に株主は株主代表訴訟を提起することができるか,係属中の株主代表訴訟はいかに処理されるかという問題がある。前者の問題については,株式会社の破産後には株主代表訴訟の提起は不適法とされ,また,会社更生手続の開始後に株主が株主代表訴訟を提起できるかという問題についても裁判例及び多数説は消極に解している。後者の問題については,係属中の株主代表訴訟は中断し,破産管財人又は更生管財人が株主の地位を受継することができるとされている。これらの裁判例や学説の根拠とされているのは,次のような点である。①破産財団又は更生会社の財産の管理処分権は破産管財人又は更生管財人に専属すること……②破産財団に関する訴え又は更生会社の財産関係の訴えについて,破産管財人又は更生管財人が当事者適格を有することになること……③既に係属している訴訟は中断し……,破産管財人又は更生管財人と相手方との間で受継されること……」最判解民事篇平成15年度(上)351頁
(※3)三木浩一ほか『(LEGAL QUEST)民事訴訟法[第2版]』125頁
(※4)「債権者代位訴訟(民423条)……についても,破産手続開始により訴訟手続は中断し,破産管財人が選択して樹形することになる。債権者代位については,破産財団の管理処分権が破産管財人に一元化することを根拠とする。」前掲山本ほか364頁
(※5)「会社が破産手続開始の決定を受けると,訴訟目的物ため損害賠償請求権の管理処分権は破産管財人に専属し,訴訟追行権限も会社から破産管財人に専属するので,まずその前提が欠ける。また会社財産に対して株主より優先する債権者ですら個別的権利行使等が禁じられるのであるから,劣後する株主にも会社財産に関する個別的権限を禁止するのが相当である。また破産管財人が取締役等との特殊な関係から損害賠償請求権の行使を怠ることはありえないので,株主代表訴訟を認めるべき実質的な根拠もないと解される。従前の訴訟手続も当然終了とはせず,破産管財人による受継を認めた方が,訴訟資料の利用を通じて訴訟経済に資することになると考えられる。これらの事情は,債権者代位訴訟における状況と同じであるので,株主代表訴訟につき本条の類推適用を認めて,中断および破産管財人による受継を認めるのが相当である。」伊藤眞ほか『条解破産法[第2版]』372頁
(※6)「株主代表訴訟は,取締役の責任追及の実効性を確保するため,株主が会社に代位して取締役に対する損害賠償請求権を行使するものであり,債権者代位訴訟とその性質を同じくする訴訟である。ところで,債権者代位訴訟は,債権者が債務者の第三債務者に対する権利について管理処分権を行使するものであるところ,破産手続の開始後は,破産管財人が総債権者の利益を代表して破産財団の保全,回復にあたることが予定されているものであり,破産者の債権者や株主との関係においても,破産財団の管理処分権は破産管財人が専有するところ,破産財団に属する権利を行使する債権者代位訴訟の原告は,債務者の破産により代位行使している当該権利に対する管理処分権を喪失して当該訴訟にかかる当事者適格を喪失すると解するのが相当である。次に,原告が当事者適格を喪失した後に破産管財人が訴訟を受継することが認められるべきか,訴訟は当然に終了するかが問題となる。この点,前述のとおり破産管財人は債権者代位訴訟の訴訟物の処分権者であり当該訴訟を継続させるかどうかの判断は,その時点における当該訴訟の状況等を考慮した上での破産管財人の判断に委ねるのが相当なこと,破産管財人が新訴を提起するよりも破産管財人の受継を認める方が訴訟経済に資するといえる面もあることから,債権者代位訴訟において,債務者が破産した場合には,民事訴訟法125条1項,破産法86条1項の準用により中断し,破産管財人においてこれを受継できると解することが相当である。右に述べたところは,債権者代位訴訟とその性質を同じくする株主代表訴訟にも当てはまるものであるところであり,したがって,株主代表訴訟の訴訟追行中において,会社が破産した場合,当該損害賠償請求権は破産財団に属する権利であるから,会社の破産によって訴訟は中断し,破産管財人においてこれを受継することができると解すべきである。」東京地判平成12年1月27日金判1120号58頁
(※7)ここは全くの想像で書きましたが,査定の申立ての趣旨が簡易の方法による責任追及であるということからすれば,従前の株主代表訴訟を利用するのと査定を申し立てるのとでどちらが便宜にかなうかという視点で選択することになるのではないかなあと思いました。
(※8)「破産管財人による相殺が破産債権者の一般の利益に適合する場合としては,相手方(破産債権者)も破産しているような場合の用に破産財団所属の債権の実価が破産債権の実価よりも低下している場合(破産財団が相手方の破産手続における配当によって回収できる分よりも,破産財団から配当する分が大きい場合)がある。」前掲山本ほか266頁
(※9)「保証人が破産手続開始後に弁済して取得することとなった原債権は保証人が破産手続開始後に取得した債権であり,保証人がその原債権を自働債権として相殺することは許されない(破産法72条1項1号)。本判決[最判平成24年5月28日民集66巻7号3123頁]も,このことを前提として,本件求償権を自働債権とすめ相殺がゆるされるか否かを論じていると解される。」最判解民事篇平成24年度(下)608頁
(※10)前掲最判平成24年5月28日は,無委託保証人の事後求償権の破産債権該当性について,「保証人は,弁済をした場合,民法の規定に従って主たる債務者に対する求償権を取得するのであり(民法459条,462条),このことは,保証が主たる債務者の委託を受けてされた場合と受けないでされた場合とで異なるところはない(以下,主たる債務者の委託を受けないで保証契約を締結した保証人を『無委託保証人』という。)。このように,無委託保証人が弁済をすれば,法律の規定に従って求償権が発生する以上,保証人の弁済が破産手続開始後にされても,保証契約が主たる債務者の破産手続開始前に締結されていれば,当該求償権の発生の基礎となる保証関係は,その破産手続開始前に発生しているということができるから,当該求償権は,『破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権』(破産法2条5項)に当たるものというべきである。」としており,委託の有無を問わないとしているため,委託保証人の事後求償権についても破産債権該当性が認められることになると思われます。
(※11)「相殺は,互いに同種の債権を有する当事者間において,相対立する債権債務を簡易な方法によって決済し,もって両者の債権関係を円滑かつ公平に処理することを目的とする合理的な制度であって,相殺権を行使する債権者の立場からすれば,債務者の資力が不十分な場合においても,自己の債権について確実かつ十分な弁済を受けたと同様の利益を得ることができる点において,受働債権につきあたかも担保権を有するにも似た機能を営むものである(最高裁昭和39年(オ)第155号同45年6月24日大法廷判決・民集24巻6号587頁参照)。上記のような相殺の担保的機能に対する破産債権者の期待を保護することは,通常,破産債権についての債権者間の公平・平等な扱いを基本原則とする破産制度の趣旨に反するものではないことから,破産法67条は,原則として,破産手続開始時において破産者に対して債務を負担する破産債権者による相殺を認め,同破産債権者が破産手続によることなく一般の破産債権者に優先して債権の回収を図り得ることとし,この点において,相殺権を別除権と同様に取り扱うこととしたものと解される。」前掲最判平成24年5月28日
(※12)「破産者に対して債務を負担する者が,破産手続開始前に債務者である破産者の委託を受けて保証契約を締結し,同手続開始後に弁済をして求償権を取得した場合には,この求償権を自働債権とする相殺は,破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続の下においても,他の破産債権者が容認すべきものであり,同相殺に対する期待は,破産法67条によって保護される合理的なものである。」前掲最判平成24年5月28日
(※13)「本判決[前掲最判平成24年5月28日]は,主債務者の委託がある場合(委託保証)の法律関係を直接説示するものではない。もっとも,法定意見には,『(委託保証の場合の事後)求償権を自働債権といる相殺は,破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本減速とする破産手続の下においても,他の破産債権者が容認すべきものであり,同相殺に対する期待は,破産法67条によって保護される合理的なものである。』との説示があり,この求償権を自働債権とする相殺ができることを前提としていると解される。」前掲最判解613頁
(※14)「破産法72条1項1号の類推適用の場面において,本判決[前掲最判平成24年5月28日]は,本件求償権を自働債権とする相殺について『破産者の意思に基づくことなく』との点を強調している。委託保証の場合には『破産者の意思に基づく』ということができ,状況が違うと考えているのではないかと考えられる。」前掲最判解618頁




2019-02-20(Wed)

【新司】倒産法平成20年第2問

何やら今日は夕方に雨が降るようですね。

洗濯物を干しているので,早く答案を書きあげないと大変なことになってしまいます。

そんなデッドラインを勝手に設けながら,平成20年第2問です。

≪問題≫

〔第2問〕(配点:50)
 次の事例について,以下の設問に答えなさい。設問の各問いは相互に独立したものとして答えなさい。
 【事 例】
 A株式会社(以下「A社」という。)の従業員B及びCは,平成20年3月31日付けでA社を退職した。退職時にB及びCの給料はすべて支払われていたものの,A社の退職金規程に従えば,Bの退職金額は退職時の月給の5か月分相当額,Cの退職金額は退職時の月給の2か月分相当額であるところ,BにもCにも退職金はまだ支払われていない。A社は同年2月1日に貸金業者Dより500万円を,同日貸金業者Eより300万円を,いずれも弁済期は同年3月31日かつ無担保という約定で,A社の代表取締役Fの個人保証付きで借り入れていた。

 〔設 問〕
1.B及びCは,平成20年4月に入ってからFが会社財産の隠匿を始めていると疑っており,退職金の支払を確保するためにA社の財産を保全したいと考えている。Bは,A社について破産手続開始の申立てをすることができるか。また,Cは,A社について破産手続開始の申立てをすることができるか。B及びCの有する権利の破産手続上の地位を明らかにした上で理由を付して説明しなさい。
2.A社について平成20年5月1日に破産手続が開始された後,債権調査期日において,Dが届け出た貸金返還請求権について,既にFが弁済したことを理由に全額について異議が述べられた。以下の⑴⑵のそれぞれの場合に,述べられた異議がDの貸金返還請求権の確定を妨げるかどうかについて,理由を付して説明しなさい。Dの貸金返還請求権にはほかに異議等がないものとする。
 ⑴ 異議を述べたのは,貸金返還請求権について債権届出をしたEであった。
 ⑵ 異議を述べたのは,退職金請求権について債権届出をしたBであった。
3.平成20年4月に入ってからもA社はDに返済をしなかったため,同月7日にDがA社について破産手続開始の申立てをしたところ,この申立てに対する裁判がされる前である同月10日になって,A社は再生手続開始の申立てをした。この場合,A社の破産手続及び再生手続の帰すうについて説明しなさい。


何やら,設問1と設問2は,二者間の対比を求めているような形になっていますね。

これまで,破産と民再との対比はさんざんさせられましたが,

同手続内での対比はあまりさせられなかった気がしますね。

なので,少し動揺させられました。

というより,書き方が固まっていないので,困惑したという感じでしょうか。

その一方で設問3はバリバリの手続です。

これはとにかく手続をたくさん挙げていけばいいのでしょうかねえ……

羅列してもしょうがない気がしますが,

如何せん問題文に事情が落ちていないので,

細かく検討することもできないというか,求められていないのでしょう。

そういうことにしておきます。

≪答案≫
第1 設問1
 1⑴ Bは,A社に対し,退職時の月給の5か月分相当額の退職金請求権を有している。A社は未だ破産手続が開始されていないから,Bは「破産手続の終了前に退職した破産者の使用人」であって,上記退職金請求権は,その「退職手当の請求権」である。そうすると,「退職前三月間の給料の総額に相当する額」は「財団債権」として扱われる(破産法149条2項)。したがって,B社の有する上記退職金請求権のうち,退職時の月給の3か月分相当額の部分は財団債権となるから,当該部分についてBは「財団債権者」としての地位を有する(同法2条8項)。
 一方で,上記退職金請求権のうち,残部である退職時の月給の2か月分相当額に部分については,BがA社とA社の破産手続開始前に締結した雇用契約(民法623条)に基づいて生じた債権であるから,「破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」であって,上記の財団債権に関する規律の適用を受けず「財団債権に該当しないもの」であるから,「破産債権」にあたり(破産法2条5項),Bは「破産債権者」としての地位を有する(同条6項)。なお,上記請求権は,「雇用関係」に基づいて生じていることから,BはA社に対し一般の先取特権を有しており(民法306条2号,308条),優先的破産債権として扱われる(破産法98条1項)。
  ⑵ Cは,A社に対し,退職時の月給の2か月分相当額の退職金請求権を有している。そして,これは「退職前三月間の給料の総額に相当する額」の範囲内であるから,「財団債権」として取り扱われ,Cは「財団債権者」としての地位を有する。
 2 それでは,B及びCは,A社の破産手続開始の申立てをすることができるか。
  ⑴ 破産手続開始の申立てをすることができるのは「債権者及び債務者」とされている(破産法18条1項)。この文言からすると,破産者に対して何らかの債権を有する債権者であれば,当然に破産手続開始の申立権者となるようにも思える。
 しかし,破産手続が,債権者の個別執行を包括的に禁止し,債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図ることを目的とした手続である(破産法1条)ことに照らすと,このような手続によって利益を享受することができる者に限って,破産手続開始の申立権を認めるべきである。
  ⑵ これを本件についてみると,Cは財団債権者としての地位のみを有する者である。
 この点,財団債権者は,破産手続によらずとも随時弁済を受けることができ(同法2条7項),破産手続による利益を享受するものではない。したがって,破産手続開始の申立権者としての「債権者」には,財団債権者は含まれない(※1)
 そうすると,財団債権者であるCは,「債権者」にあたらないから,A社の破産手続開始の申立をすることができない。
  ⑶ 一方,Bは,財団債権者であるとともに,破産債権者でもある。
 この点,破産債権者は,破産手続によらなければ,これを行使することができないため(同法100条1項),破産手続によって配当を受けるという利益を享受することができる。優先的破産債権であっても,他の破産債権に優先する効力を有するに過ぎないのであって,あくまでその行使は破産手続による必要があるのであるから,上記の理は,優先的破産債権にも妥当する。したがって,破産債権者は,「債権者」にあたる。
 そうすると,破産債権者であるBは,「債権者」にあたるから,A社の破産手続開始の申立てをすることができる。
第2 設問2
 1 前提として,Dの貸金返還請求権は,DがA社の破産手続開始前に500万円を貸し付けたことにより生じたものであるから,「破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」であって「破産債権」にあたるため,Dは「破産債権者」としての地位を有する。なお,当該破産債権については,特に優先的地位は認められていない(破産法98条1項参照)。
 2 小問⑴
  ⑴ Eは,A社の破産手続開始前に,A社に対し300万円を貸し付けているから,これに基づく貸金返還請求権は「破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」であって「破産債権」にあたるため,「破産債権者」としての地位を有する。
  ⑵ Eは,貸金返還請求権について債権届出をしているから,「届出をした破産債権者」である。したがって,一般調査期日において,届出がされた「破産債権」であるDの有する貸金返還請求権について,「異議を述べることができる」(同法121条2項)。
  ⑶ 届出がされた破産債権について異議が述べられると,その破産債権に係る認否書記載事項は,確定が妨げられる(同法124条1項参照)。
 3 小問⑵
  ⑴ Bは,上記のように,財団債権者としての地位及び破産債権者としての地位を有している。したがって,Bが破産債権者としての地位を併存的に有している以上,退職金請求権について債権届出を行えば,「届出をした破産債権者」にはあたる。
  ⑵ もっとも,「異議」の制度は,他の債権者が実際の債権額よりも多い額で手続に参加すると,自分の配当額が減少する関係にあるために,他の破産債権者に対して異議を述べることができるとするものである(※2)。そうすると,異議の対象となる破産債権に対して優先的地位を有する者は,「異議」を述べる利益がないというべきである。
  ⑶ まず,Bの財団債権者としての地位についてみると,財団債権は手続外で随時弁済を受けるのであるから,他の債権者が実際よりも多い額を届け出たところで,自分の弁済を受ける額に影響しない。したがって,Bの財団債権部分については,「異議」を述べる利益を有しない。
 また,Bの破産債権者としての地位についてみると,上記のように,Bの有する破産債権は優先的破産債権である一方,Dの貸金返還請求権は優先権のない破産債権であるから,Bの破産債権はDの破産債権よりも優先的に弁済を受けることができる。したがって,Dの届け出た破産債権の額の多寡は,Bの受けることができる配当の多寡に影響を及ぼさないため,Bは「異議」を述べる利益を有しない。
 したがって,Bはいずれの地位によっても「異議」を述べる利益を有しないから,Bが異議を述べても,Dの貸金返還請求権の確定は妨げられない。
第3 設問3
 1 A社については,破産手続開始の申立てがされた後に再生手続開始の申立てがされている。
 まず,再生手続については,「破産手続によることが債権者の一般の利益に適合するとき」,すなわち清算価値保障原則の観点から破産配当利率が再生手続による弁済率を上回るときには,再生手続開始の申立てが棄却されることとなる(民再法25条2号)。
 2 次に,再生手続開始の申立てがされた場合には,裁判所は,破産手続の中止命令を発令することができる(同法26条1項1号)。
 3 そして,再生手続開始の決定がされたときは,破産手続は中止する(同法39条1項)。
 4 再生計画認可の決定が確定すると,破産手続はその効力を失う(同法184条)。
 5 一方で,再生手続が終了した場合には,裁判所は,職権で,破産手続開始の決定をすることができる(同法250条1項)。

以 上


(※1)「申立権を有する債権者は,開始した破産手続において破産債権者の地位を認められる債権者である(手続開始後財団債権者となるべき債権者には申立権は認められない)。」山本和彦ほか『倒産法概説[第2版補訂版]』350頁
(※2)「各破産債権者は,他の債権者が実際の債権額よりも多い額で手続に参加すると,自分の配当額が減少する関係にあるので,他の破産債権者に対して異議を述べる利益が認められる。」前掲山本ほか381頁



2019-02-20(Wed)

【新司】倒産法平成20年第1問

昼飯を食べすぎてめちゃくちゃ気持ち悪いんですが……

頑張って今日も答案を書きます……

平成20年代最後になります。

≪問題≫

〔第1問〕(配点:50)
 次の事例について,以下の設問に答えなさい。
 【事 例】
 A株式会社(以下「A社」という。)は,取引先の倒産を契機として経営状態が著しく悪化した。A社のメインバンクとして,同社の全債務3億円のうち2億5000万円について貸付けを行っていたB銀行は,平成19年12月になり,債権全額についてA社から回収することは困難であると考え,A社との間で再建計画を作成し,弁済期の到来した2億5000万円の債務について期限を猶予した。しかし,その後A社の経営状態に不安を抱いたB銀行が経理状況を改めて調査したところ,A社には,実際は,総額1億円の簿外債務が存在することが判明した。B銀行は,A社の破たんはいずれ避けられないものと判断して再建計画に基づく協力を取りやめることを決定し,平成20年1月25日にはその旨をA社に告げて再建計画を破棄した。
 他方,以前からB銀行を抵当権者とする抵当権が設定されていたA社所有の甲土地については,周辺地域の再開発計画が発表され,地価が上昇したことから,2000万円分の担保余剰が生じた。そこで,A社は,平成20年2月1日,これに抵当権を設定して資金を調達すべく,C銀行に融資を申し込み,C銀行は,同月4日,A社の救済策として,甲土地について第2順位の抵当権を設定して,2000万円を貸し付けた。しかし,A社の破産は必至であると考えていた同社の代表者Dは,融資を受けるに当たり,貸付金を妻のEに贈与することを意図しており,その後貸付金はEに交付された。
 また,F株式会社(以下「F社」という。)は,A社に対して無担保の債権3000万円(以下「S債権」という。)を有していたが,B銀行が再建計画を破棄したことを知り,平成20年2月5日,A社から,同社所有の土地のうち唯一担保の設定されていない乙土地(価格3000万円)を代金3000万円で買い受け,同日,既に弁済期の到来していたS債権をもって乙土地についての売買代金債権と相殺する旨の意思表示をした。
 その後資金繰りに窮したA社は,平成20年3月3日に裁判所に対し自ら破産手続開始の申立てをし,同月10日に破産手続開始の決定がされ,破産管財人Xが選任された。

 〔設 問〕
1.破産管財人Xは,甲土地に関しC銀行に対して否認権を行使することができるか。
2..破産管財人Xは,F社に対してどのような請求をすべきか。


問題文は短めです。

しかし,その割には,検討事項が多そうです。

否認のオンパレードという感じです。

≪答案≫
第1 設問1
 1⑴ Xは,A社がC銀行のために甲土地に抵当権を設定した行為(以下「本件抵当権設定行為」という。)が「担保の供与」にあたるとして,偏頗行為否認(破産法162条1項)を行使することが考えられる。
  ⑵ もっとも,本件抵当権設定行為は,C銀行がA社に対して2000万円を貸し付ける行為(以下「本件貸付行為」という。)と引き換えにされているから,同時交換行為であるとして,「既存の債務についてされた担保の供与」とはいえないのではないか。
 破産法162条1項が既存の債務についてされた担保の供与を否認の対象としたのは,本来の優先関係を潜脱する抜け駆け的回収を否定するためである。これに対して,同時交換的行為は,当初から優先的地位が付与された債権が与えられるため,既存の優先関係を潜脱するものではない。そのため,同時交換的行為にあたる場合には,「既存の債務についてされた担保の供与」にはあたらない(※1)
 そこで,本件抵当権設定行為が同時交換的行為であるかについて検討すると(※2),本件抵当権設定行為は,甲土地の地価の上昇により2000万円の担保余剰が生じたことから,本件貸付行為を行う前提としてされたものである。そうすると,本件抵当権設定行為は,取引通念に照らして,本件貸付行為と同時に行われたものであるから,同時交換的行為であるといえる。したがって,本件抵当権設定行為は,「既存の債務についてされた担保の供与」にはあたらない。
  ⑶ よって,本件抵当権設定行為について,偏頗行為否認をすることはできない。
 2⑴ そこで,Xとしては,本件抵当権設定行為について,相当対価処分行為否認(破産法161条1項)を行使することが考えられる(※3)
  ⑵ア 本件抵当権設定行為は,「破産者」であるA社の「有する財産を処分する行為」である(同項柱書)。
   イ 本件抵当権設定行為は,甲土地の交換的価値をもって,2000万円の貸付けを行わせるものであり,「当該処分による財産の種類の変更」を生じさせている(※4)。そして,総債務者の共同担保としての確実性の高い不動産の価値を,費消隠匿しやすい金銭に換えるものであるから,「破産者において破産債権者を害することとなる処分をするおそれを現に生じさせるもの」である(同項1号)。
   ウ 「破産者」であるA社は法人であるから,その「隠匿等の処分をする意思を有していた」かどうかは,その代表者Dの意思をもって判断すべきところ,Dは本件抵当権設定行為の「対価として取得した」貸付金2000万円を妻のEに贈与することを意図しており,「無償の供与」として「隠匿等の処分をする意思を有していた」ということができる(同項2号)。
   エ 本件抵当権設定行為の「相手方」であるC銀行は,A社の救済策として本件貸付行為を行うに至っているから,貸付金がDを通じてEに贈与されるものと考えていた可能性は低い。また,銀行という性質上,貸付を行うにあたっては,厳格な審査が行われるはずであり,Dが貸付金をEに贈与する意図を有していることを知っていれば,本件貸付行為は行われていなかったと考えられる。そうすると,C銀行が,本件抵当権設定行為の「当時」,A社が「隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていた」とは考えにくい(同項3号)。
   オ 以上からすると,本件抵当権設定行為について,相当対価処分行為否認の要件を満たさない。
  ⑶ したがって,Xは,相当対価処分行為否認を行使することはできない。
 3 よって,Xは,甲土地に関しC銀行に対して否認権を行使することができない。
第2 設問2
 1⑴ まず,Xとしては,乙土地をF社に売却した行為(以下「本件売却行為」という。)について相当対価処分行為否認を行使し,乙土地の返還を請求することが考えられる。
  ⑵ア 本件売却行為は,「破産者」であるA社の「有する財産を処分する行為」である(破産法161条1項柱書)。
   イ 本件売却行為により,「不動産」である乙土地が3000万円の「金銭への変換」がされており,上記のように,不動産に比して金銭は費消隠匿がしやすいから,「破産債権者を害することとなる処分をするおそれを現に生じさせるもの」である(同項1号)。
   ウ もっとも,本件売却行為の当時,A社としては,S債権を弁済する手段として乙土地を売却することにより生ずる売買代金請求権と相殺することを認識していたにとどまるものと考えられるから,「対価として取得した金銭について,隠匿等の処分をする意思を有していた」とは認められない。
   エ 以上からすると,本件売却行為について,相当対価処分行為否認の要件を満たさない。
  ⑶ したがって,Xは,本件売却行為について,相当対価処分行為否認を行使することはできない。
 2⑴ 次に,Xとしては,本件売却行為がS債権を消滅させるものとして偏頗行為否認(破産法162条1項)を行使し,乙土地の返還を請求することが考えられる。
  ⑵ア 本件売却行為は,「既存の債務」であるS債権に係る債務を相殺によって「消滅」させる行為である(同項柱書かっこ書)。
   イ 本件売却行為の時点で,A社が「支払不能」の状態にあったかを検討すると,A社は平成19年12月の時点で,B銀行の貸付金2億5000万円の弁済期が到来しており,一旦はB銀行による再建計画のもと期限が猶予されたが,平成20年1月25日にB銀行が当該再建計画を放棄したことによって,期限の猶予も放棄されたこととなるから,2億5000万円の債務の弁済期が到来している状態にある。しかし,A社がこれを弁済するのは困難な状況にあるから,「その債務のうち弁済期にあるものにつき,一般的かつ継続的に弁済することができない状態」にあるということができる(同法2条11項)。したがって,A社は,平成20年1月25日の時点で「支払不能」の状態にある。そうすると,本件売却行為は,「支払不能になった後にした行為」である(同法162条1項1号本文)。
   ウ F社は,B銀行が再建計画を放棄したことを知っているから,これによってA社が「支払不能」の状態に陥っていることを「知っていた」と考えられる(同項1号ただし書イ)。
   エ 以上からすると,本件売却行為について,偏頗行為否認の要件を満たす。
  ⑶ したがって,Xは,本件売却行為について偏頗行為否認を行使し,乙土地の返還を請求することができる。
 3⑴ また,Xとしては,本件売却行為により生じた売買代金債権とS債権との相殺は,相殺禁止にあたると主張して,売買代金の支払を請求することが考えられる。
  ⑵ア S債権は,A社の「破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」であって,「破産債権」(破産法2条5項)にあたるから,F社は「破産債権者」である(同条6項)。
   イ 上記のとおり,本件売却行為の時点でA社は「支払不能」に陥っているから,本件売却行為に係る契約(以下「本件売買契約」という。)は「支払不能になった後」の契約である。これによって,F社は,売買代金として3000万円を支払う「債務」を負担している。F社は,本件売買契約に基づいて乙土地を買受けるのと同日に,売買代金債権とS債権とを相殺する旨の意思表示をしているが,F社がこのような行動に出たのは,B銀行が再建計画を破棄したことを知り,A社が支払不能に陥ったことを認識したことから,自社の早期な債権回収を図る目的があったものと考えられる。そうすると,F社が本件売買契約を結んだのは,「専ら破産債権をもってする相殺に供する目的」があったものと認められる(※5)。このような目的のもと,F社は,乙土地の「処分を内容とする」本件売買契約を締結しているということができる。
 そして,F社は,上記のように,「当該契約の締結の当時」,A社が「支払不能であったことを知っていた」ものと認められる(破産法71条1項2号)。
   ウ 以上からすると,本件売却行為により生じた売買代金債権とS債権との相殺は,相殺禁止に該当する。
  ⑶ したがって,Xは,F社に対し,上記売買代金の支払を請求することができる。
 4 そこで,Xとしては,乙土地の返還と,上記売買代金の支払と,どちらを請求すべきかが問題となる。乙土地の返還を受けたところで,結局のところ,これを換価することとなるし(破産法184条以下),これが時価相当額で売却できるかは不明であるから,売買代金の支払を受け,3000万円を確実に破産財団に組み入れる方が妥当であると考える(※6)
 したがって,Xは,F社に対して,本件売買契約に基づき売買代金の支払を請求すべきである。

以 上


(※1)「偏頗行為否認が問題とするのは,本来の優先関係を潜脱する『抜け駆け的』回収であるのに対し,担保供与を前提として行われる新規融資の場合は当初から担保の付与された優先的な地位が付与された債権であり,既存の優先関係を潜脱するとは評価できない。また,このような行為が否認されると,経済的窮境にある債務者に対しその債権を図るために行われる融資(「救済融資」と呼ばれる)が,否認リスクのために萎縮し,倒産を加速させかねない。そのため,同時交換的行為は明示的に偏頗行為否認の対象から除外されている(破162条1項柱書かっこ書,160条1項柱書かっこ書)。」山本和彦ほか『倒産法概説[第2版補訂版]』300頁
(※2)「担保提供と『同時』といえるかどうかは取引通念に照らして判断される。その観点から担保提供を前提とした融資であるといえるならば『同時』と評価される。」前掲山本ほか301頁
(※3)「同時交換的行為が否認の対象から除外されるのは,担保提供について偏頗行為否認を問題とする場合であり,およそ同時交換的行為が否認の対象とならないわけではない。担保提供と新規融資を全体として捉えれば,担保の対象となった財産の処分行為とみることができる。したがって,清算義務が課されている限りは相当の対価による処分行為の否認の規律(破161条)が適用され,例えば,新規融資による融資金の使途が財産の隠匿や無用の費消のためである場合には,同条の要件のもとで否認が可能である……。また,清算義務が課されないような場合には,端的に財産減少行為となる。」前掲山本ほか301頁
(※4)「新たに担保権を設定して借入れを行う行為……も,全体としてみると担保権の設定の客体である財産の換価行為であり,財産の種類の変更をもたらす処分に該当しうる。」前掲山本ほか288頁
(※5)「『契約によって負担する債務を専ら破産債権をもってする相殺に供する目的』とは,契約の目的が『専ら』相殺による債権回収を目的とすることをいう。例えば,支払不能を知って,(ⅰ)代物弁済の実を図るために破産者の財産を買い受け,さして感覚を置かずに相殺をする場合や,(ⅱ)将来の相殺による債権回収のために預金の積み増しを求め,それに応じて積み増しが行われた場合は,これに該当する。『専ら』は幅のある概念であり,相当に評価の余地がある。一般的にいえば,事業や取引関係の平常の過程から突出した債権回収のための行為は『専ら』相殺による債権回収を目的とするものと判断される。」前掲山本ほか258頁
(※6)出題趣旨では,「否認と相殺制限の優先関係や得失等についても言及することが求められる。」と書かれているので,最後に簡単に触れてはいますが,果たしてこの結論が通るのかは分かりません。



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