FC2ブログ
2019-02-18(Mon)

【新司】倒産法平成29年第1問

平成22年の第2問もやってしまおうかと思いましたが,

さすがにちょっと疲れが……

もう年ですね……

ということで,またも,だいぶ前に答案を書いたシリーズで,

倒産法の平成29年を掲載することとします。

≪問題≫

〔第1問〕(配点:50)
 次の事例について,以下の設問に答えなさい。
 【事 例】
 個人A(57歳)は,「A金属工業」の屋号で,妻B(55歳)を含む従業員5名と共に,父の代から続く金属加工業を営んでいた。Aは,目立った遊興等に興じることもなく,真面目に仕事に精を出し,平成25年頃までは,おおむね順調に事業を遂行していた。
 しかし,平成26年頃から,資材の高騰や受注件数の減少,取引先の経営悪化等により,Aの資金繰りは徐々に悪化していった。平成28年には,Aの主要取引先であったCに対する売掛金債権約100万円が未払いとなったまま,Cが廃業して音信不通となり,また,同じく主要取引先であったDは,同年6月に破産手続開始決定を受け,Dに対する売掛金債権約200万円についても破産手続による配当はなかった。さらに,同年11月,Aの従業員Eが売上金約100万円を持ち逃げして行方不明となったことで,Aは,ますます資金繰りに窮するようになった。
 その結果,Aは,新たな融資を受けない限り,F銀行からの借入金債務のうち,弁済期を平成29年3月末日とする分割金100万円の弁済に窮する見通しとなり,債務整理を行うことで立て直しを図りたいと考え,同月15日,弁護士Yに債務整理を依頼した。Yは,同月17日,同日付けで,Aから聴取して判明した債権者宛てに,下記の内容の通知(以下「本件通知」という。)を発送した。

   記

 当職は,この度,Aから依頼を受けて,同人の債務整理の任に当たることとなりました。
 債務整理の方針については,Aの債務及び資産の状況を調査の上,慎重に決定することとなりますが,これらの全てについて当職がAの代理人としてAと協議の上行うこととなります。
 つきましては,以後,Aとの債権債務関係に関する連絡の一切は,当職宛てにしていただき,Aやその家族への連絡や取立行為は一切中止願います


Yが本件通知発送時までに行った調査の結果によれば,Aの主な債務は,F銀行からの事業資金の借入金債務の残額が約1500万円,同じくF銀行からの自宅兼工場の建物のローンの残額が約2000万円あるほか,金融業者4社からの若干の借入金債務がある程度であり,Aの説明では,Aの取引先に対する買掛金債務は存在しないとのことであった。
 平成29年3月30日,Aは,Yとの間で債務整理の方針についての打合せを行ったところ,やはり同月末の支払を行うことは困難であるとの結論に達し,破産手続開始の申立てを行うことを決意してその旨をYに委任した。
 平成29年4月10日,Aは,Yを申立代理人として破産手続開始の申立てを行い,裁判所は,同月12日午後5時,Aについて破産手続開始の決定を行い,破産管財人として弁護士Xを選任した。
 XがAの資産状況等を調査したところ,次の事実が判明した。
① Aは,債務整理を依頼した後も,Yに相談することなく資金の融通先を探しており,平成29年3月18日の深夜,長年の取引先で個人的な親交もあった取引先業者(個人)Gの自宅にBとともに赴き,100万円の融資を依頼した。Gは,同日の時点でAに対し,弁済期を4月末日とする80万円の売掛金債権を有していたが,Aが「どうしても今月末の支払に100万円が必要なのです。今回をしのげば絶対立て直せます。取引先Cからの売掛金100万円の入金があれば必ず返せますから。決して御迷惑はお掛けしません。」と懇願するので同情し,「うちも楽ではないし100万円までは貸せないけど,せめてこれくらいなら」と,その場でAに50万円を貸し付けた。
② Aは,Gから受領した金員をF銀行に対する平成29年3月末日の分割金の弁済に充てようと思っていたが,まだ50万円ほど不足しており,これ以上のあても思い付かずにいたところ,同月25日の早朝,Bから,Bの父親Hが倒れ,入院費用が必要になったことを聞いた。Aは,昨年12月末頃にHから「立て直しに成功したら返してくれればよい」として60万円を借りていたことを思い出し,平成29年3月26日,Bを通じて,Gから受領した50万円をHに弁済した。
③  Aの資産としては,現金約20万円,預貯金30万円のほか,自宅兼工場としている借地上の建物がある。ただし,当該建物には,F銀行の根抵当権が設定されており,その被担保債権の残額は,借地権付建物の現在の評価額を上回っている。Aは,破産手続開始の決定に伴い「A金属工業」を廃業した。その後,就職を試みてハローワークに通うなどしているものの,未だ就職先は決定しておらず,その見通しもない。Bは,Aの破産手続開始後,それまでの心労がたたって倒れ,以後入退院を繰り返している。

 〔設 問〕
1.Xは,AのHに対する50万円の弁済を否認することができるか否かを調査検討している。
 本件通知が「支払の停止」に該当するかについて触れつつ,平成29年3月17日の時点でAに「支払不能」が認められるかについて,論じなさい。
2.Aの債権者であるGは,債権者集会兼免責審尋期日に出頭し,Aの免責を許可することについて強く反対する旨の意見を述べた。
 他方,Aは,免責許可決定を受けることを強く希望している。Aは,債権者集会兼免責審尋期日に出頭したほか,Xによる事情聴取にも素直に応じ,Gからの借入れやHに対する弁済について説明するなど,Xの管財業務に積極的に協力していた。
 ⑴ Aに免責不許可事由が認められるか否かについて,論じなさい。
 ⑵ 仮にAに免責不許可事由が認められるとして,破産裁判所は,Aの免責を許可するべきか否かについて,肯定的に考慮すべき事情,否定的に考慮すべき事情双方を挙げつつ,論じなさい。


弁護士の一人称って,なんで「当職」なんですかね。

どうでもいいですね。

答案の中身はたぶんクソです。

≪答案≫
第1 設問1
 1 平成29年3月17日の時点で,Aに「支払不能」が認められるか。
 2⑴ 「支払不能」とは,債務者が,支払能力を欠くために,その債務のうち弁済期にあるものにつき,一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう(破産法2条11項)。債務者が支払不能にあるときは,これが破産手続開始の原因となる(同法15条1項)。また,債務者が支払を停止したときは,支払不能にあるものと推定される(同条2項)ほか,否認権行使の要件となる(同法160条1項1号)。
  ⑵ Aから債務整理を依頼された弁護士Yは,債権者宛に本件通知を発しているので,これをもって「支払の停止」に該当するか検討する。
 「支払の停止」とは,債務者が資力欠乏のため債務の支払をすることができないと考えてその旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいう
 本件通知は,Aが債務整理を行うこととなったことを示すものであるが,未だAの債務及び資産の状況は調査されておらず,債務整理の方針についても今後の協議による旨の記載しかされていない。そうすると,本件通知がなされただけでは,Aが弁済期にある債務を一般的かつ継続的に支払うことができるか否か判然としない。したがって,本件通知がされたことをもって,Aが弁済期にある債務を一般的かつ継続的に支払うことができないことが外部に表示されたということはできない(※1)(※2)
 よって,Yが本件通知を発したことは,「支払の停止」に該当しない。
  ⑶ そこで,上記時点において,Aが「支払不能」にあるか検討すると,Aは,F銀行からの借入金債務のうち,弁済期を平成29年3月末日とする分割金100万円の弁済に窮する見通しとなっているにとどまるから,この状態で「支払不能」ということができるか問題となる。
 支払不能を判断するにあたり,弁済期にない債務あるいは弁済期にないが到来が確実である債務については考慮することができるとする見解がある。しかし,法が「その債務のうち弁済期にあるもの」と明示した文言に反することとなり,妥当ではない。また,安易な「支払不能」の認定により,破産手続開始の決定がされることを防止するためにも,厳格に解釈すべきであるから,弁済期の到来した債務のみをもって,支払不能を判断すべきである。
 これを本件についてみると,F銀行からの借入金債務のうち100万円については,本件通知を発した時点では弁済期が到来していないから,同月末においてこの弁済ができないとしても,当該時点における支払不能においては考慮されない。そうすると,Aは,平成29年3月17日の時点で,債務を一般的かつ継続的に支払うことができないとはいえない。
 3 以上から,上記の時点で,Aは「支払不能」が認められない。
第2 設問2
 1 小問⑴
 Aに免責不許可事由が認められるか(破産法252条1項)。
 Aは,Gから50万円を借り入れ,これをHの弁済にあてているが,「著しく不利益な条件で債務を負担し」たとはいえず,「浪費又は賭博その他の射幸行為」にもあたらず,Gに対し「詐術を用い」ることをしていないから,同項2号,4号及び5号には該当しない。また,同項6号ないし11号に該当する行為も行っていない。そして,Aが,Hに対して弁済を行ったのは,Hが倒れ入院費用が必要になったからであって,「債権者を害する目的」はないものと考えられるから,同項1号にも該当しない。
 そこで,同項3号に該当するかどうか検討すると,Aは「特定の債権者」Hに対する60万円の「債務」について,50万円を弁済することによって「債務の消滅に関する行為」をしている。そして,この弁済はHの入院を機に,弁済を思い立ったものであり,他の債権者からも多額の借入金を抱える中でHのみに利益となるものであるから「当該債権者に特別の利益を与える目的」であると認められる。また,Aは,Hから60万円を借り入れるに当たって,「立て直しに成功したら返してくれればよい」と言われているから,立て直しに成功することを停止条件として返済義務が生じるものであると考えられる。そうすると,Aは未だ立て直しに成功していないどころか債務整理を行うことをYに依頼している状況にあるから,立て直しに成功しておらず,停止条件が成就していない。したがって,Aとしては,未だ60万円の借入金について返済する必要がないのであるから,「時期が債務者の義務に属しない」と認められる。したがって,同項3号に該当する。
 以上から,Aに免責不許可事由が認められる。
 2 小問⑵
 Aに免責不許可事由が認められる場合でも,破産裁判所は,裁量的に免責許可をすることができる(破産法252条2項)。
 そこで,裁量免責の可否について検討すると,Aが「破産手続開始の決定に至った経緯」としては,資材の高騰や受注件数の減少,取引先の経営悪化といった,Aの努力では如何ともしがたい事情によって,資金繰りが悪化したこと,C及びDの廃業や破産手続開始決定により,計300万円の回収ができなくなったこと,従業員Eが100万円を持ち逃げしたことによるものである。そうすると,Aは,自己の事情によらず,外部的な要因によって資金繰りが立ち行かない状態に陥ったということができる。
 一方で,Aは,債務整理の依頼後であるにもかかわらず,Yに相談することなく,独断でGから50万円を借り入れているうえ,この50万円を借り入れの目的と異なるHへの弁済に充てている。そうすると,Aの行為によって新たに債務が発生し,共同担保を害している。しかし,Hへの弁済は,Hが入院費用を必要としていたことからしたものであって,他の債権者を害するといった悪質な目的を有していたものとはいえない。
 そして,Aは,破産手続開始の決定後も就職を試みてハローワークに通うなど,一定の努力をしている。また,Bが,入退院を繰り返していることから,免責を認める必要性が高い。
 以上からすると,Aについて免責を認める必要があり,これによる弊害も少ないということができるから,「免責を許可することが相当である」ということができる。よって,破産裁判所は,Aの免責を許可すべきである。

以 上


(※1)「破産法七四条一項の『支払ノ停止』とは、債務者が資力欠乏のため債務の支払をすることができないと考えてその旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいうものと解すべきところ、債務者が債務整理の方法等について債務者から相談を受けた弁護士との間で破産申立の方針を決めただけでは、他に特段の事情のない限り、いまだ内部的に支払停止の方針を決めたにとどまり、債務の支払をすることができない旨を外部に表示する行為をしたとすることはできないものというべきである。」最判昭和60年2月14日判時1149号159頁
(※2)「破産法162条1項1号イ及び3項にいう『支払の停止』とは,債務者が,支払能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えて,その旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいうものと解される……。」「これを本件についてみると,本件通知には,債務者であるAが,自らの債務の支払の猶予又は減免等についての事務である債務整理を,法律事務の専門家である弁護士らに委任した旨の記載がされており,また,Aの代理人である当該弁護士らが,債権者一般に宛てて債務者等への連絡及び取立て行為の中止を求めるなどAの債務につき統一的かつ公平な弁済を図ろうとしている旨をうかがわせる記載がされていたというのである。そして,Aが単なる給与所得者であり広く事業を営む者ではないという本件の事情を考慮すると,上記各記載のある本件通知には,Aが自己破産を予定している旨が明示されていなくても,Aが支払能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないことが,少なくとも黙示的に外部に表示されているとみるのが相当である。」「そうすると,Aの代理人である本件弁護士らが債権者一般に対して本件通知を送付した行為は,破産法162条1項1号イ及び3項にいう『支払の停止』に当たるというべきである。」最判平成24年10月19日集民241号199頁




2019-02-17(Sun)

【新司】倒産法平成22年第1問

今日は,大阪から知人が遊びに来ておりまして,

朝から大宮の鉄道博物館に訪問していました。

10年近くぶりだと思いますが,

未だに会館前から行列ができており,

その人気ぶりに驚愕させられました。

リニューアルオープンがされて,館内も見どころにつきませんでした。

詳しい記事は,また後日(書く暇があれば)(書く気が起きたら)(書く内容を覚えていれば)書きます。

さて,帰宅後の倒産法,今日は平成22年第1問です。

≪問題≫

〔第1問〕(配点:50)
 次の事例について,以下の設問に答えなさい。
 【事 例】
 建設業を営むA株式会社(以下「A社」という。)は,区分所有建物(以下「本件建物」という。)を所有していたところ,金融業を営むB株式会社(以下「B社」という。)から弁済期を2年後として3000万円を借り入れ(以下,この貸付金の返還請求権を「本件貸付債権」という。),本件貸付債権を被担保債権として,B社のために,本件建物に1番抵当権(以下「本件抵当権」という。)を設定し,その登記がされた。その直後,A社は,C株式会社(以下「C社」という。)に対し,本件建物を賃料月30万円で賃貸し,C社は,ここで店舗の営業を始めた。
 ところがその半年後,A社は,経営不振から急速に資金繰りに窮してきた。そこで,A社の内情を知ったB社は,A社との間で,A社が所有していた中古トラック(以下「本件トラック」といい,道路運送車両法第5条第1項の適用を受けるものとする。)を,本件貸付債権のうちの100万円の弁済に代えて譲り受ける旨の合意をし,その引渡しを受けて登録名義もA社からB社に移転した(この代物弁済契約を,以下「本件代物弁済」という。)。そして,B社は,直ちにこれを100万円で第三者に売却して,引き渡した。
 それから20日後,A社は,とうとう資金繰りがつかずに,手形の不渡りを出した。そして,その翌日,A社は,自己破産を申し立て,直ちに破産手続開始決定がされて,破産管財人Kが選任された。
 Kは,本件トラックについて調査をしたところ,現在の所在は不明で,現物を取り戻すことは不可能であるが,時価は150万円と算定することができることが明らかとなった。また,Kは,本件建物についても調査したところ,C社がそこで店舗の営業を続けており,本件建物の時価は約1500万円であった。

 〔設 問〕 以下の1及び2については,それぞれ独立したものとして解答しなさい。
1⑴ 本件代物弁済に関して,KはB社に対してどのような請求をすることができるかを論じなさい。
 ⑵ 設問の事実関係で,仮に本件代物弁済がされた際に本件トラックの登録名義の移転がされず,登録名義がA社に残ったままであったとしたならば,本件代物弁済に関して,KはB社に対してどのような請求をすることができるか,上記⑴と比較しながら論じなさい。
2 B社は,A社の破産手続開始決定後に,本件貸付債権の残額をどのように回収することができるか,その場合の手続はどのようになるかについて,本件貸付債権の破産手続の中での行使と,本件抵当権の行使との両方を踏まえて,説明しなさい。

(参照条文)道路運送車両法
第5条 登録を受けた自動車の所有権の得喪は,登録を受けなければ,第三者に対抗することができない。
2 (省略)


倒産法は,平成30年から遡る形で過去問を進めていますが,

そうすると,この年の問題は,ほとんどどの年度かと出題がかぶっていることに気が付きます。

意外と同じような問題が繰り返し出題されているようです。

とはいえ,前に解いたことを今も覚えているとは限らない(真理)

≪答案≫
第1 設問1
 1 小問⑴
  ⑴ Kは,B社に対して,本件代物弁済について偏頗行為否認(破産法162条1項2号)をした上で,本件トラックの返還を請求することが考えられる。
   ア A社は,本件貸付債権に係る債務のうち100万円の弁済に代えて本件トラックをB社に譲渡しているから,「既存の債務についてされた債務の消滅に関する行為」である。
   イ 本件貸付債権に係る契約においては,その弁済期が2年後とされているのに対して,本件代物弁済は,当該契約締結から半年しか経過していない段階でされたものであって,未だ弁済期が到来していないにも関わらず,その弁済をさせるものであるから,「その時期が破産者の義務に属しない行為」である。
   ウ A社の「支払不能」となった時期について,A社が手形の不渡りを出した時点で「支払の停止」(同法162条3項)があったとして,同時点をもって「支払不能」を推定することが考えられる。
 「支払の停止」とは,債務者が資力欠乏のため債務の支払をすることができないと考えてその旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいう(※1)。手形の不渡りは,これが6か月の間に2回されると,銀行取引停止処分がされ,これによって取引会社としては資金源が絶たれることとなる。そのため,2回目の手形不渡りを出した時点では,資金欠乏のため債務の支払ができないことが外部に表示されたとみることができ,「支払の停止」があるということができる。そうすると,1回目の手形不渡りを出した時点であれば,未だ銀行取引を行うことはできるから,直ちに資金欠乏であるとは認められないが,その背後にある客観的財産状態から債務超過が認められ,1回目の手形不渡りがそれを表明しているものであるときには,資金欠乏のため支払をすることができない旨が外部に表示されたとみることができるから,「支払の停止」にあたる(※2)(※3)
 これを本件についてみると,A社は,手形不渡りを出す直前から,既に急速に資金繰りに窮する状態に陥っており,本件代物弁済に出るなど,自己の財産を売り飛ばして債務の弁済を行い,無理くり食いつないでいる状態にある。そうすると,A社は,遅くとも1回目の手形不渡りを出した時点では,客観的財産状態から債務超過あったと認められるから,A社が出した1回目の手形不渡りは,その背後にある客観的財産状態が支払不能にあることを表明するものであるということができる。したがって,A社の手形不渡りの時点で,「支払の停止」が認められるため,手形不渡り時点での「支払不能」が推定される。
   エ 本件代物弁済は,上記手形不渡りから20日前に行われたものであるから,「支払不能になる前三十日前にされたもの」である。
   オ B社は,A社から本件代物弁済を受けた当時,A社の資金繰りに窮する内情を知って,本件代物弁済の合意を取り付けているのであるから,「債権者がその行為の当時他の破産債権者を害する事実を知らなかった」とはいえない。
   カ よって,本件代物弁済については,偏頗行為否認の要件を満たす。
  ⑵ もっとも,本件トラックは,その所在が不明であるため,現物を取り元図ことは不可能であるとされている。そこで,Kとしては,B社に対し,否認による原状回復の効果として(同法167条1項),価格賠償請求を行うことが考えられる。
 否認の効果は,その権利を行使した時点で生ずるから,価格の算定は,その権利行使時を基準として行う。そうすると,本件トラックは,否認権の行使時点で,その時価が150万円であるとされている。したがって,Kは,B社に対し,150万円の賠償請求をすることができる。
 2 小問⑵
  ⑴ア Kは,B社に対して,所有権に基づいて,本件トラックの引渡しを請求することが考えられる。Kの主張は,B社が代物弁済によって本件トラックを取得したことについて登録を経ていないことから,B社は本件トラックの所有権を「第三者」であるKに対抗することができず,B社からの対抗要件の抗弁は認められないとするものである。
   イ そこで,Kの法的地位について検討すると,破産管財人は,破産手続開始と同時に,裁判所によって選任され(破産法74条1項),破産者の破産財団に属する財産の管理処分権限を取得する(同法78条1項)。そうすると,破産管財人は,破産者の破産手続開始と同時に,破産財団に属する権利義務について,破産者の地位を承継することとなる。
 一方で,破産手続が開始されると,破産債権の行使は破産手続外でなし得ないなど(同法100条1項),破産債権者による破産債権の個別行使ができなくなり,それに代替する包括的差押の性質を有し,破産管財人は破産財団の管理に関し善管注意義務を負う(同法85条1項)。そうすると,破産管財人は,破産債権者の地位をも代替する者として,第三者的地位をも有することとなる。
 以上からすると,破産管財人が第三者的立場に立つのは,破産債権者の利益を代替する場合であるから,第三者からの解除権の行使に対して破産管財人が第三者的立場を主張することができるのは,破産債権者の利益が影響を受ける場合に限られる(※4)
 これを本件についてみると,本件トラックは時価が150万円であって,破産手続における換価を通じて,破産債権者に対する配当原資とすることができるものであるから,破産債権者の利益に影響を及ぼす場合である。したがって,KがB社に対し本件トラックの返還を求めることとの関係では,Kは第三者的立場に立つのであるから,B社が本件トラックの所有権をKに対抗するためには,対抗要件としての登録を備えている必要がある。しかし,B社は,これを備えていないから,Kにその所有権を対抗することができない。
   ウ したがって,Kの上記主張は認められる。
  ⑵ もっとも,本件トラックはその所在が不明のため,現物を取り戻すことができない状態にある。そこで,Kとしては,B社に対し,不当利得に基づく利得金返還請求をすることが考えられる(民法703条)。
 B社は,本件トラックを第三者に転売し,その対価として100万円を受領しているから,100万円の「利得」がある。一方,Kは,本件トラックの所有権を侵害されたことによる「損害」を生じている。両者は,B社による本件トラックの転売から生じた表裏の事象であるから,因果関係がある。そして,上記のように,B社は,本件トラックの所有権をKに対抗しえない以上,本来本件トラックを転売し得る地位にはなく,転売代金100万円の保持権原がなく,「法律上の原因」がない。
 したがって,KのB社に対する上記請求は,その要件を満たすため,100万円の返還請求をすることができる。
 なお,この場合には,小問⑴の場合よりも,返還請求し得る金額が50万円減縮されることとなるが,否認権は上記のようにその効果として原状回復をさせるものであるのに対し,不当利得返還請求は当事者間の衡平の観点からその損得を調整する機能を有するにすぎないから,B社が現実に利得している100万円を超えて返還請求し得るものではないため,結論を異にすることはやむを得ない。
第2 設問2
 1 前提として,B社の,A社の破産手続における地位について検討すると,B社は,「破産者」であるA社に対し,A社の破産手続開始前に3000万円を貸し付けているから,本件貸付債権が「破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」として「破産債権」にあたるため(破産法2条5項),B社は「破産債権者」である(同法2条6項)。また,B社は,A社の「破産手続開始の時において破産財団に属する」本件建物について「抵当権」を有し,「破産手続によらないで」これを行使できるとされているから(同法65条1項),「別除権」(同法2条9項)を有する者として「別除権者」にあたる(同法2条10項)。
 2⑴ まず,B社は,上記別除権の行使として,本件抵当権を実行することができる。このときの方法としては,担保不動産競売(民執法180条1号)によって時価の1500万円を回収する方法と,担保不動産収益執行(同法180条2号)による方法とがある。
  ⑵ また,B社は,上記別除権の行使として,本件建物の賃料について本件抵当権の効力による物上代位(民法372条,304条1項)をすることが考えられる。前提として,賃料に対する物上代位も,抵当権設定者の目的物に対する使用を妨げるものではないから,認められる(※5)。ここで,A社の破産手続が開始によって本件建物についても包括的差押がされているため,なお物上代位を行い得るかが問題となる(同法304条1項ただし書)。
 物上代位にあたって「差押え」が必要とされている趣旨は,これによって第三債務者がその弁済する相手方を判断し,二重弁済の危険から保護する点にある(※6)。そして,抵当権の効力が物上代位の目的債権についても及ぶことは抵当権設定登記により公示されていることから,「差押え」は第三債務者が先行する差押えを行った者に対して弁済を行うまでにすれば上記趣旨を害することなく,また,差押えを行った者との利害調整も図ることができる。そして,破産手続が開始した場合の効果について,一般債権者による差押と別異に考えるべき理由はないから,破産手続開始後であっても,抵当権者は物上代位権を行使することができる(※7)
 本件でも,B社は,A社が本件建物をC社に賃貸することによって得る賃料について,物上代位権を行使することができる。
 3 次に,B社は,破産債権者として,破産債権の2900万円を行使することが考えられる。
 もっとも,B社は上記のように,別除権を行使し得る地位にあるから,B社が破産債権者として権利を行使し得るのは,「別除権の行使によって弁済を受けることができない債権の額についてのみ」となる(破産法108条1項本文)。したがって,B社が上記の担保不動産競売を行った場合には,残額である1400万円について届出を行い(同法111条以下),その調査・確定を経て(同法117条以下),配当を受けることとなる。なお,配当にあたっては,別除権者は,「担保権にの行使によって弁済を受けることができない債権の額を証明しなければならない」ため(同法198条3項),B社が除斥期間内に担保不動産競売を終結させない限り,破産債権者としての配当を受けることができなくなる。
 そこで,このような事態を避けるため,B社は,抵当権を放棄して,2900万円全額を破産債権として届け出ることもできる(同法108条1項ただし書)。
以 上

(※1)最判昭和60年2月14日判時1149号159頁
(※2)1回目の手形の不渡りの段階で「支払の停止」を認めたものとして,事例判断ではありますが,最判平成6年2月10日集民171号445頁があります。
(※3)加藤哲夫「一回目の手形不渡りが支払いの停止にあたるとされた事例」ジュリ1068号135頁(前掲最判平成6年2月10日の重判解説)は,前掲最判平成6年2月10日について,「本件判例は,一回目の手形不渡りであってもその背後にある客観的財産状態が支払不能であり一回目の手形不渡りがそれを表明しているとみられる場合に,右手形不渡りも相殺禁止との関係で支払停止になりうるとの判断を最高裁として示した点に意義がある。」と解説しています。なお,本問で,「客観的財産状態として支払不能」があるということを求めると,これが問題文の事情から認められない可能性が多分にあるため,ここは債務超過ということにしておきました。この点については,福永有利「Ⅳ 法的回収(執行・倒産)概観」金法1460号62頁が,東京地判平成6年9月26日金法1426号94頁について,「経営不振に陥り債務超過となった会社が,一回目の手形不渡を出したときは,資金の手当てを失念したというような事情がない限り,支払停止に当たるとした」としていることが参考になると思います。
(※4)平成23年第1問で書いたものをそのまま貼り付けてしまいましたが,今回の問題は明らかに破産債権者の利益を代替する場面ですので,破産管財人が第三者的立場にあることを端的に説明できれば足りるものだと思います(だったら答案も最初からそう書け。)。
(※5)「抵当権は,目的物に対する占有を抵当権設定者の下にとどめ,設定者が目的物を自ら使用し又は第三者に使用させることを許す性質の担保権であるが,抵当権のこのような性質は先取特権と異なるものではないし,抵当権設定者が目的物を第三者に使用させることによって対価を取得した場合に,右対価について抵当権を行使することができるものと解したとしても,抵当権設定者の目的物に対する使用を妨げることにはならないから,前記規定に反してまで目的物の賃料について抵当権を行使することができないと解すべき理由はな[い]」最判平成元年10月27日民集43巻9号1070頁
(※6)「民法372条において準用する304条1項ただし書が抵当権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要するとした趣旨目的は,主として,抵当権の効力が物上代位の目的となる債権にも及ぶことから,右債権の債務者(以下「第三債務者」という。)は,右債権の債権者である抵当不動産の所有者(以下「抵当権設定者」という。)に弁済をしても弁済による目的債権の消滅の効果を抵当権者に対抗できないという不安定な地位に置かれる可能性があるため,差押えを物上代位権行使の要件とし,第三債務者は,差押命令の送達を受ける前には抵当権設定者に弁済をすれば足り,右弁済による目的債権消滅の効果を抵当権者にも対抗できることができることにして,二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護する点にある」最判平成10年1月30日民集52巻1号1頁
(※7)最判昭和59年2月2日民集38巻3号431頁は,破産手続開始決定があった後の先取特権者による物上代位権の行使について,「債務者が破産宣告決定を受けた場合においても,その効果の実質的内容は,破産者の所有財産に対する管理処分権能が剝奪されて破産管財人による個別的な権利行使を禁止されることになるというにとどまり,これにより破産者の財産の所有権が破産財団又は破産管財人に譲渡されたことになるものではなく,これを前記一般債権者による差押の場合と区別すべき積極的理由はない。したがって,先取特権者は,債務者が破産宣告決定を受けた後においても,物上代位権を行使することができる」と判示しています。この理由づけからすれば,抵当権による物上代位権の行使についても,同様の理が当てはまると思われます。



2019-02-17(Sun)

【新司】倒産法平成30年第2問

第2問もたぶんいろいろ落としている気がしますが,

修正するのも面倒なので,とりあえずそのまま掲載します。

気が向いたら,出題趣旨とかを見ながら修正をかけていきたいと思います。

≪問題≫

〔第2問〕(配点:50)
次の事例について,以下の設問に答えなさい。
【事 例】
 食品製造業を営むA株式会社(以下「A社」という。)は,味に定評のある老舗であり,自らが所有する甲食品工場で弁当等を生産し,特に定番の総菜商品は有名デパートを含む得意先各社から受注を得ていた。しかし,A社は,平成30年正月に向けて発売した期待の新商品が不人気に終わり,不良在庫を抱えて資金繰りが悪化した。折悪しく大口の売掛先から受け取っていた同年3月末日を満期とする手形が不渡りとなったことから,A社は資金繰りに窮して破綻が決定的となり,A社代表取締役社長B(以下「B社長」という。)は,C弁護士に民事再生手続による事業再生を依頼した。
 A社は,自ら振り出した同年4月25日を満期とする手形を決済できないことが確実になったことから,同月20日,C弁護士が申立代理人となって再生手続開始の申立てをし,必要な手続費用を予納した。同日,この申立てが受理されて,裁判所は監督委員としてD弁護士を選任した。A社には,税金の滞納や労働債権の未払は生じていない。B社長は,従来どおり甲食品工場を生産拠点として事業を継続し,得られる収益によって再生債権を弁済する内容の再生計画案を想定している。
 C弁護士は,同月21日にA社の主要債権者である以下の3者に連絡したところ,以下のとおりのコメントを得たので,その旨を裁判所に報告した。
<コメント①:E銀行>
 E銀行は,A社の総債権者の中で唯一の担保権者であり,甲食品工場に抵当権を有している。A社の再生手続開始の申立時に判明している全ての債権者が再生債権者としてその権利を行使することが見込まれる額の総額(以下「総権利行使見込額」という。)に対して,E銀行が再生債権者としてその権利を行使することが見込まれる額が占める割合は30%である。
 E銀行のコメントは,「突然の申立てに困惑して行内の考えもまとまっておらず,現時点で手続に賛成とは到底申し上げられない。担保権の行使についてはこれから検討する。」とのことであった。
<コメント②:F株式会社(以下「F社」という。)>
 F社は,A社の最大の仕入先である。総権利行使見込額に対して,F社が再生債権者としてその権利を行使することが見込まれる額が占める割合は15%である。
 F社のコメントは,「どうせ再建はできないと思うので,協力することは考えていない。」とのことであった。
<コメント③:G株式会社(以下「G社」という。)>
 G社は,F社に次ぐA社の仕入先である。総権利行使見込額に対して,G社が再生債権者としてその権利を行使することが見込まれる額が占める割合は10%である。
 G社のコメントは,「定番の総菜を中心にすれば,A社の業績回復も不可能ではないと思う。自社の債権については,再生債権として再生計画に基づく弁済を受けることは仕方がないが,再生手続開始の申立て後も取引を継続して新たに食材をA社に卸した場合,その代金までも回収することができないとすれば被害が拡大してしまうので,不安である。」とのことであった。

〔設問1〕
⑴ 裁判所が再生手続開始の決定をすることができるかどうかについて,E銀行,F社及びG社のコメントを踏まえ,理由を付した上で論じなさい。
⑵ A社は,G社に食材の取引を継続してもらえるようにするため,どのような方策を採ることが考えられるか。

【事 例(続き)】
 裁判所は,平成30年4月30日,再生手続開始の決定をした。当該決定がされた後に,監督委員D宛てにB社長の不正を知らせる匿名の通知があり,これを契機として以下の事実が判明した。
<判明した事実①>
 A社の仕入先であるH株式会社(以下「H社」という。)は,同年3月末日現在,A社に対し食材等に係る売掛債権を有していた。A社の手形不渡りが確実であることを知ったH社は,同年4月19日,A社と協議し,再生手続開始の申立て後もA社との取引を継続することを約束する一方,A社は,在庫として保有する食材をH社に代物弁済した。
<判明した事実②>
 A社は,長年にわたりF社から食材を仕入れてきた。平成25年頃,F社はA社に対して代金の割引を申し出た。しかし,B社長は,これを断り,F社に対し,仕入価額はそのまま据え置きつつ,F社が申し出た割引額に相当する額をバックマージンとしてB社長の妻への顧問料の名目で支払うように求め,再生手続開始の申立ての直前まで,B社長の妻名義の預金口座に毎月送金させていた。B社長の妻がF社の顧問となっている実態はなく,B社長が当該預金口座を実質的に管理しており,当該預金口座に送金された金銭は,B社長の個人的な遊興費に充てられていた。

〔設問2〕
⑴ <判明した事実①>について,A社が行った代物弁済につき,監督委員Dが訴え又は否認の請求によって否認権を行使してH社に価額の償還を求めるためには,A社は,どのような手続を採る必要があるか。また,そのような手続を採ることが必要とされる理由についても,管財人が選任されている場合と対比しつつ論じなさい。
⑵ <判明した事実②>について,A社は,B社長に対して,F社からB社長の妻名義の預金口座に送金された金額に相当する額の支払を求めることとしたが,B社長は,C弁護士の説得にもかかわらず,これを任意に支払おうとはしなかった。この事情を知ったG社は,「A社の主張どおり,B社長はA社に当該額を支払うべきだが,このままではB社長がこれを支払わずに費消してしまうおそれがある。C弁護士の説得を待っていてはらちが明かない。」と考えた。この場合に,G社は,A社の再生手続において,どのような方策を採ることが考えられるか。


破産の方の問題もそこそこ長かったのに,

さらに民再でもこれだけの分量の問題をぶつけてくるの,

普通に考えて頭おかしいと思うんですよね。

≪答案≫
第1 設問1
 1 小問⑴
 裁判所が,再生手続開始の決定をするには,民再法「第二十一条に規定する要件を満た」し,かつ,「第二十五条の規定によりこれを棄却する場合」にあたらないことが必要である。
  ⑴ A社は,自ら振り出した平成30年4月25日を満期とする手形を決済できないことが確実になっており,今後この状態が係属した場合には再び手形を決済できない事態が想定され,このとき銀行取引の停止により,「支払を停止」することとなり「支払不能」が推定されることとなる(破産法15条2項)。したがって,A社は現時点において「破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれ」があるということができるから,「第二十一条の規定する要件を満た」す。
  ⑵ C弁護士がA社の申立代理人として必要な手続費用を予納しており,他の倒産手続は係属しておらず,A社は破綻が決定的になったことから民事再生手続をとることを決断しているから「不当な目的」を有するものとは考えられず,民再法25条1号,2号及び4号の事由は存在しない。
 再生計画案の可決のためには,議決権者の過半数の同意及び議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意が必要である(民再法172条の3第1項)。A社の再生について明確に反対していてるのは,権利行使額が総額の15%であるF社のみであるから,上記同意がとれないことが明白な状況に至っていない。そして,最大の権利行使額を有するE銀行は,賛否を決めかねている状態にあり,これを説得して賛成してもらうことができれば,上記同意を十分にとることができる。したがって,「再生計画案の作成若しくは可決の見込みがないことが明らか」とはいえない。また,E銀行は担保権の実行も検討しているが,別途,別除権協定を結ぶことで回避することができるものであるから,「再生計画が遂行される見込みがない」とはいえず(民再法174条2項2号),「再生計画の認可の見込みがないことが明らかである」とはいえない。以上から,民再法25条3号事由も存しない。
 よって,「第二十五条の規定によりこれを棄却する場合」にはあたらない。
  ⑶ ゆえに,裁判所は,再生手続開始の決定をすることができる。
 2 小問⑵
 A社は,G社に食材の取引を継続してもらえるようにするため,食材取引によって生ずるG社のA社に対する代金債権を共益債権とする旨の許可をとることを裁判所又は監督委員Dに対して申し立てることが考えられる。
 A社は,食品製造業を営んでおり,原材料となる食材の仕入れが不可欠となるところ,G社はA社にとって第2位の仕入先である。そうすると,A社としては,G社から食材を仕入れることは,「事業の継続に欠くことができない行為」にあたる。
 G社としては,新たにA社に食材を卸したとしても代金が回収できないのではないかとの懸念を抱いているが,共益債権とすることで,再生手続における弁済禁止(民再法85条1項)を回避し,随時弁済を受けることができるため(民再法121条1項),G社の上記懸念も取り除くことができる。
 したがって,A社は,裁判所に対し,上記許可をすることを申し立てることができる(民再法120条1項)。また,裁判所が,Dに対し,上記許可に代わる承認をすることができる権限を付与した場合には,A社はD社に対し,上記承認をすることを申し立てる。
第2 設問2
 1 小問⑴
 A社では,監督委員Dが選任されているから,この者をして否認権を行使するためには,A社が「利害関係人」として裁判所に対し,「否認権を講師する権限を付与する」ことを申し立てる必要がある(民再法56条1項)。
 これに対し,管財人が選任されている場合には,上記のような権限の付与をまたずして当初から否認権を有する。このような差異は,管理処分権の所在について差異があることから生ずる。すなわち,民再法の基本原則としては,再生債務者のもとに財産の管理処分権を遺しておきながらも,再生債務者が自己の行為を否認できるとすると,自己矛盾の行動となってしまうため,監督委員の選任をもってこれを回避しているにすぎない。したがって,財産の管理処分権が再生債務者に残っているから(民再法38条1項),否認権という例外的な行為をするために上記権限の付与が必要となる。他方で,管財人が選任された場合には,財産の管理処分権が管財人に移転するため(民再法66条),上記のような配慮が必要とならず,権限の付与が必要とならない
 2 小問⑵
 G社は,A社の再生手続において,B社長の財産に対する保全処分をすることが考えられる(民再法142条1項)。
 B社長は,A社の「取締役」であるところ,B社長は,F社からの割引の申出を断り,その相当額を個人的な遊興費として使用しているから,本来であればA社が支払わなくて済んだ分の差額についてA社に損害を生じさせている。したがって,A社からB社長に対しては,任務懈怠に基づく損害賠償請求権(会社法423条1項)が成立しているため,「取締役の責任に基づく損害賠償請求権」が発生している。
 そして,「法人である再生債務者」であるA社については,「再生手続開始の決定」がされている。したがって,要件を充足する。
 A社の再生手続においては,「管財人が選任されていない」から,「再生債権者」であるG社が保全処分の申立てをすることができる(民再法142条3項)。

以 上




2019-02-17(Sun)

【新司】倒産法平成30年第1問

倒産法の平成29年と平成30年をまだ掲載していませんでした。

こちらについては,随分前に書いておりまして,

その随分前に書いた答案が発掘されましたので,

こちらをそのまま掲載することにします。

随分前に書いたことから,答案の中身が,

これちょっとどうなの?みたいなのが混じっていますが,

そこは大目に見てください。

≪問題≫

〔第1問〕(配点:50)
 次の事例について,以下の設問に答えなさい。
 【事 例】
1 A株式会社(以下「A社」という。)は,複数のビルを所有して不動産賃貸業を営む株式会社であり,その代表取締役はBである。
 A社は,平成20年夏頃,甲ビル及びその敷地(以下「本件不動産」という。)を購入することとし,C銀行から3億円を借り入れ,その担保として本件不動産にC銀行を1番抵当権者とする抵当権を設定し,その旨の登記がされた。
 A社は,平成23年4月1日,Dに対し,賃貸期間を10年,賃料を月額100万円と定めて,甲ビルを貸し渡した(以下,この契約を「本件賃貸借契約」という。)。その際,Dは,A社に対し,敷金1000万円を交付した。
2 A社は,平成27年頃から,借り手のつかない所有ビルが多くなってきたことや,かねてより手掛けていた株式取引の失敗等が重なったことにより,次第に経営が悪化し,所有するビルのメンテナンス費用の捻出や借入金の返済にも窮するようになった。そこで,A社は,平成28年秋頃,E信用金庫から5000万円を借り入れ,その担保として本件不動産にE信用金庫を2番抵当権者とする抵当権を設定し,その旨の登記がされた。
 しかし,A社は,その後も一向に経営状態が好転せず,平成30年1月末には,従業員に対する給料も支払えない事態に陥った。また,A社は,同年2月末日を支払期日とする多数の取引先に対する債務の弁済に充てる資金がない状態にあることが判明した。そこで,A社は,同月26日,裁判所に破産手続開始の申立てをした。
 申立てを受けた裁判所は,同月27日,破産手続開始の決定を行い,A社の破産管財人としてXを選任した。
 A社が破産手続開始の決定を受けた時点におけるC銀行が有する貸金債権の額は2億5000万円,E信用金庫が有する貸金債権の額は4000万円であり,他方で,本件不動産の評価額は2億円であった。

〔設問1〕
⑴ A社の破産手続が開始された後も,本件賃貸借契約は継続され,Dは,そのまま甲ビルを使用していた。この場合に,Dは,A社に対して有する敷金返還請求権を自働債権として,毎月の賃料債務と相殺することができるか,論じなさい。また,相殺することができないとした場合に,敷金返還請求権の保全のためにDが採ることのできる法的手段として,どのようなものがあるか,論じなさい。
⑵ 上記⑴のとおり,A社の破産手続開始後も本件賃貸借契約が継続されていたところ,C銀行が,A社のDに対する賃料債権を物上代位により差し押さえた。この場合に,Dは,⑴で論じた敷金返還請求権の保全のための法的手段を採ることができるかどうかについて,理由を付した上で論じなさい。

〔設問2〕
⑴ A社の破産管財人Xは,本件不動産を除き,破産財団に属する財産の換価を終了した。Xは,本件不動産をそのまま管理していても,担保余剰がなく,固定資産税や管理費用が掛かるだけで破産債権者にとって何のメリットもないため,本件不動産を破産財団から放棄した上,早期に配当を実施したいと考えている。この場合に,Xは,本件不動産を破産財団から放棄するために,どのような手続を採る必要があるか,また,破産財団から放棄された本件不動産は,誰に帰属するか,説明しなさい。
⑵ Xは,上記⑴の手続を行って,本件不動産を破産財団から放棄した。その後,E信用金庫は,本件不動産からは到底その貸金債権4000万円を回収する見込みはないと考えた。この場合に,E信用金庫がA社の破産手続に参加して配当を受けるためには,どのような手続を採る必要があるか。破産手続開始の時において破産財団に属する不動産に抵当権を有する者が,破産手続において行使することができる破産債権の額についての原則,及び,E信用金庫が採るべき手続の相手方に触れつつ,論じなさい。


こんな問題でしたねえ。

自由財産とか,もう忘れたよっていう感じです。

≪答案≫
第1 設問1
 1 小問⑴
  ⑴ Dは,A社に対して有する敷金返還請求権を自働債権として,毎月の賃料債務と相殺することができるか。敷金返還請求権の法的性質と関連して問題となる。
 敷金は,賃貸借関係にある賃借人が賃貸人に対して債務を負担する場合に,この関係を終了するにあたって残債務にこれを充当し清算する目的で賃借人から賃貸人に対して交付される金銭である。したがって,敷金返還請求権は,これらの清算が終わった後,なお残額がある場合にはじめて発生するものとするのが当事者の意思であるから,その法的性質は,賃借人の負担する債務が清算された後になお残額があることを停止条件として発生する債権である(※1)
 そこで,このような停止条件付債権を自働債権とする相殺が破産手続上認められるかについて検討すると,破産法67条1項でいう相殺は,同条2項との対比から,破産債権者の有する債権が条件や期限が付されていないものである場合に限られるため,同項の要件を満たさない。また,同条2項には,解除条件付債権については規定されているものの,停止条件付債権については規定されていない。したがって,同項の要件も満たさない。よって,停止条件付債権は,破産手続上認められる自働債権とならないから,これをもって相殺することはできない。これを本件についてみると,Dの有する敷金返還請求権は,停止条件付債権であるから,相殺の要件を満たさず,これを自働債権とする相殺は認められない。
  ⑵ そこで,Dは,「敷金の返還請求権を有する者」であるから,「破産者」であるA社に対して,「賃料債務を弁済する」にあたり,敷金返還請求権の「額の限度において弁済額の寄託を請求する」こととなる(破産法70条後段)。
 2 小問⑵
  ⑴ まず,C銀行は,本件不動産に抵当権を有しており,破産手続上別除権者となる(破産法65条1項)。そこで,C銀行は,破産手続によらないで,別除権を行使することもできるが,民法372条が同法304条1項を準用し,実体法上抵当権に基づく物上代位をすることができるから,破産手続上もC銀行はA社のDに対する賃料債権も物上代位により差し押さえることができる。
  ⑵ そうすると,Dが寄託請求をすることができるとした場合には,A社はDから賃料を支払われることがないにもかかわらず,寄託にあてる額を破産財団から捻出しなければならないこととなる。A社がこのような不利益を受ける場合にも,Dが寄託請求をすることができるか問題となる。
 破産法70条後段の趣旨は,敷金返還請求権の上記法的性質から,破産手続の終結までに条件成就するか不明の債権による相殺は認めることはできないが,救済的に寄託を請求できるとして相殺の機会を与えた点にある。そうすると,同条の適用にあたっては,前提として破産財団から必要以上に財産が流出しないように解釈すべきであるから,「賃料債務を弁済する場合」には,物上代位権が行使され賃貸人以外の者に賃料が支払われる場合は含まれない(※2)
 これを本件についてみると,C銀行がA社のDに対する賃料債権に対して物上代位をしたことにより,当該賃料はA社ではなくC銀行に支払われることとなるから,「賃料債務を弁済する場合」にあたらない。
 したがって,DはA社に対して,寄託請求をすることができる。
第2 設問2
 1 小問⑴
  ⑴ 「破産管財人」であるXが本件不動産を破産財団から放棄するためには,裁判所の許可が必要である(破産法78条2項12号),また,本件では,「破産者」であるA社に意見を聴いても「遅滞を生ずるおそれ」が生じるものと考えられる事情はなく,「第三項各号に掲げる場合」にもあたらないから,Xは,A社の「意見を聴」く必要がある(同条6項)。
  ⑵ それでは,A社の破産財団から放棄された本件不動産は誰に帰属するか。法人であるA社にも自由財産が認められるかどうかと関連して問題となる。
 自由財産は,自然人との関係においては,その生活上の必要から破産手続に組み込まれない財産として,その者の手元に残しておく趣旨で認められるものである。一方で,法人の場合には,独立して生活を営むものではないことから,上記の趣旨はあてはまらない。しかし,上記の趣旨は,破産財団の範囲を確定する上で要請されるものにすぎず,後に破産管財人が破産財団から放棄した財産を自由財産に組み入れることを禁止するまでの趣旨を有するものではないと考えられる。したがって,法人であっても,破産管財人が破産財団から財産を放棄した場合のような限定的な場合にあっては,自由財産が認められる
 これを本件についてみると,Xは,本件不動産を破産財団から放棄しているため,本件不動産はA社の自由財産となる。したがって,本件不動産は,A社に帰属することとなる。
 2 小問⑵
  ⑴ 破産手続開始の時において破産財団に属する不動産を有する者は,破産手続において,破産債権のうち,「別除権の行使によって弁済を受けることができない債権の額についてのみ」権利行使することができる(破産法108条1項本文)。もっとも,「当該担保権によって担保される債権の全部又は一部が破産手続開始後に担保されないこととなった場合には,その債権の当該全部又は一部の額」について,権利行使することができる(同項ただし書)。この場合に,別除権者が最後配当手続に参加するためには,除斥期間内に破産管財人に対し,「担保権によって担保される債権の全部若しくは一部が破産手続開始後に担保されないこととなったことを証明」することが必要である(同法198条3項)。E信用金庫としては,本件不動産からは回収が見込めないと考えているが,別除権を有している間は,上記の108条1項本文の適用を受けるから,これを放棄し,除斥期間内に,Xに対し,上記証明をすることで,A社の破産手続に参加して配当を受けることができる。
  ⑵ それでは,E信用金庫は,上記手続のうち,別除権の放棄は,誰を相手方としてすることができるか。
 破産手続が開始すると,破産管財人に会社の総財産の管理処分権が専属することとなり,取締役は財産に関する管理処分権を失う。別除権の放棄は,会社の財産に付着した権利の放棄であって,財産関係に関する処分である。したがって,この場合,取締役は,管理処分権を有しないから,別途清算人(会社法477条1項)を置き,それに対して意思表示をすることとなる(※3)
 これを本件についてみると,E信用金庫は,別除権を放棄するにあたっては,A社の取締役は管理処分権を有しないから,清算人を相手方としてする必要がある。これに伴い,E信用金庫は,清算人の選任を「利害関係人」として申し立てる必要がある(会社法478条2項)。

以 上


(※1)「家屋賃貸借における敷金は、賃貸借存続中の賃料債権のみならず、賃貸借終了後家屋明渡義務履行までに生ずる賃料相当損害金の債権その他賃貸借契約により賃貸人が貸借人に対して取得することのあるべき一切の債権を担保し、賃貸借終了後、家屋明渡がなされた時において、それまでに生じた右の一切の被担保債権を控除しなお残額があることを条件として、その残額につき敷金返還請求権が発生するものと解すべきであり、本件賃貸借契約における前記条項もその趣旨を確認したものと解される。」最判昭和48年2月2日民集27巻1号80頁
(※2)「破産財団に属する賃料債権について賃貸不動産の抵当権者が物上代位権を行使し,賃借人が抵当権者に対し賃料債務の弁済をする場合に寄託請求ができるかについては議論が分かれている。寄託請求は弁済金が破産財団に入ることを前提とするものであり,寄託請求が認められるとしても,賃借人の抵当権者に対する支払によって破産財団が利益を得た部分に限られよう。抵当権者による賃料債権に対する物上代位については,それ自体批判が多く,この局面において,賃借人の敷金返還請求権よりも抵当権者による物上代位を否定すべきであるとする見解も有力である。また,寄託請求の局面でも,賃借人による寄託請求を全面的に認めるべきであるという見解や寄託請求が認められる暫定的な性質の弁済であることに照らして,停止条件が成就したときには賃借人は弁済の失効を理由として抵当権者に対する不当利得返還請求ができるとする見解がある。」山本和彦ほか『倒産法概説〔第2版補訂版〕』252頁
(※3)「破産管財人が賃貸物件を放棄すると,当該物件は,破産者の『自由財産』となる。それに伴い,賃貸人の地位もまた破産者の『自由財産』に属することとなる。したがって,修繕請求や解約申入れ・契約解除など賃貸借契約上の請求や意思表示は,破産者に対して行うことになる。破産者が会社である場合には,財産関係については,従前の取締役が当然に清算人となるものではなく,定款の定めや株主総会による選任があった場合を除き,利害関係人の請求により裁判所が清算人を選任するとされ(最判昭和43年3月15日民集22巻3号625頁,最決平成16年10月1日判時1877号70頁[百選59事件]),一方,組織法的事項については,従前の取締役がその地位を維持し,その任務を遂行する(最判平成21年4月17日判時2044号74頁[百選16事件],最判平成16年6月10日民集58巻5号1178頁[百選15事件],概説362-363頁参照)。これによれば,賃貸借契約上の請求や意思表示の相手方は,清算人であり,それが存しないときは,賃借人は利害関係人としてその選任を申し立てるべきことになる。」山本和彦ほか『倒産法演習ノート〔第3版〕』208頁


2019-02-16(Sat)

【新司】倒産法平成23年第2問

そういえば,TKCとかいうところの模試を受けることにしました。

元々模試を受ける予定はなかったのですが,

某塾の口述模試を受けたおかげで,この模試が安く受けられるとのことで,

場慣らし的な意味で受験することにしました。

ここで悪い結果が出てしまうと,その後の精神状態に響きそうなので,

頑張りたいと思います。

その模試までに,倒産法の過去問,事例研究行政法,短答の過去問は終わらせておきたいところです。

というわけで,倒産法平成23年第2問を解きます。

≪問題≫
〔第2問〕(配点:50)
 次の事例について,以下の設問に答えなさい。
 【事 例】
 X株式会社(以下「X社」という。)は,甲建物をY株式会社(以下「Y社」という。)に賃貸し,Y社は,甲建物において製造業を営んでいた。ところが,Y社が賃料の支払を怠ったため,X社は,賃料不払を理由に賃貸借契約を解除したと主張して,平成20年1月7日,Y社を被告として,賃貸借契約の終了に基づき,甲建物の明渡し並びに未払賃料及び明渡し済みに至るまでの賃料相当損害金の支払を求める訴えを提起した(以下,提起された訴訟を「本件訴訟」という。)。
 その後,Y社は,同年2月1日,裁判所から,再生手続開始決定を受けたが,同時に監督命令が発せられ,監督委員として弁護士Aが選任された。Y社は,同年5月1日,再生計画案を作成して裁判所に提出した。
 Y社の再生計画案は,届出再生債権者の多数の賛成を得て可決され,同年8月1日に再生計画の認可決定が確定した。
 認可された再生計画(以下「本件再生計画」という。)の骨子は,次のとおりである。

 ・ 再生の基本方針
   Y社は,コストの削減に努めるとともに,売れ筋商品に特化して収益を上げる。そして,その収益でもって,確定再生債権額に対し,破産配当率3%を超える8%に相当する額を平成21年から平成28年まで毎年4月末日限り均等分割で支払う。
 ・ 再生債権の総額及び債権者数
    再生債権の総額 10億円
    債権者数    40名
 再生計画の認可決定の確定後,Aは,Y社の本件再生計画の遂行を監督し,Y社は,本件再生計画に基づき,平成21年4月末日に第1回目の,平成22年4月末日に第2回目の支払をしたが,その後,コストの削減が思うようにいかず,販売不振も重なって収益が上がらず,全ての再生債権に対する平成23年4月末日の第3回目の支払をしなかった。
 本件再生計画の定めによって認められた確定再生債権の総額は,8000万円であり,同日時点において履行された額は,2000万円である。

 〔設 問〕 以下の1及び2については,それぞれ独立したものとして解答しなさい。
1.本件訴訟は,Y社についての再生手続開始決定によりどのような影響を受けるか論じなさい。
2.上記事例において,確定した1億円の再生債権を有しており,本件再生計画の定めによって200万円の弁済を受けているZは,このままの状態が続くと,Y社の損失はますます膨らみ,自己の債権の残額の回収が著しく困難になると考えた。Zは,民事再生法上,どのような措置を採ることができるか論じなさい。


これ,本件訴訟とか一括りにしていますけど,

よく見たら,3つくらい訴訟物あるじゃないですか……

天下の司法試験にしてはやり口が汚いです。

これは訴訟物が1個だと勘違いした受験生もいるんじゃないですか???

いないですよね。書いてありますもんねちゃんと。

≪答案≫
第1 設問1
 1 本件訴訟は,X社がY社に対し,①甲建物の明渡し,②未払賃料の支払,③賃料相当損害金の支払をそれぞれ求めるものである。このように,本件訴訟は異なる請求が混在しているため,これらを別個に検討する。
 2 ①について
 ①の訴訟物は,賃貸借契約終了に基づく目的物返還請求権としての甲建物明渡請求権である。そうすると,これは債権的請求権であるが,その実質は,X社が所有するためY社に属しない甲建物をY社から取り戻すものであるから,取戻権として扱われる(民再法52条1項)(※1)。そうすると,取戻権に係る訴訟手続について規律する民再法上の規定はないため,中断するものではない。
 3 ②について
 ②の訴訟物は,賃貸借契約に基づく賃料支払請求権である。そして,X社とY社との間の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)は,Y社の再生手続開始前に締結されたものであるから,これに基づく賃料支払請求権は,「再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」にあたり,「再生債権」となる(民再法84条1項)。
 再生債権に関する訴訟手続は,再生手続開始の決定により中断するから(民再法40条1項),②の請求に係る訴訟も中断する。再生債権は,再生計画によらなければ弁済を受けることができないから(民再法85条1項),X社は,②の請求に係る債権をY社の再生手続に参加するために届出を行い(民再法94条1項),調査を受ける(民再法99条以下)。そして,調査の結果,Y社がこれを認め,かつ届出再生債権者の異議がなかった場合には,同債権は確定する。一方で,Y社がこれを認めず,又は届出再生債権者の異議があった場合には,異議者等の全員を相手方として,中断していた訴訟の受継を申し立てることとなる(民再法107条1項)。
 4 ③について
  ⑴ ③の訴訟物は,不法行為に基づく損害賠償請求権である。このうち,Y社の再生手続開始前までに発生した賃料相当損害金は,Y社の再生手続開始前にY社が甲土地を不法に占有していたことを原因として生じたものであるから,「再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」にあたり,「再生債権」である。そうすると,この部分については,②の請求に係る訴訟と同様の取扱いを受けることとなる。
  ⑵ ③の請求のうち,Y社の再生手続開始後に発生したものについては,Y社の再生手続開始後,その再生手続の遂行のために甲建物を使用していたことにより生じたものであると考えられる。そうすると,この部分は,「再生手続開始後の再生債務者の業務に関する費用の請求権」にあたり,「共益債権」である(民再法119条2号)。共益債権は,再生手続によらないで随時弁済を受けることができ(民再法121条1項),これに係る訴訟について民再法上の規定はないから,訴訟は中断しない。
第2 設問2
 1 まず,Zとしては,再生債権者表に基づく強制執行をすることが考えられる。Y社の再生計画では,確定再生債権に対し8%に相当する額を支払うこととされているから,確定した1億円の債権を有しているZは,800万円の権利が認められている。そして,再生計画の条項が再生債権者表に記載されることにより(民再法180条1項),ZはY社に対して,再生債権者表の記載に基づき強制執行をすることができる(民再法180条3項)。
 2 次に,Zとしては,再生計画の取消し(民再法189条1項)の申立てをすることが考えられる。
 Y社は,本件再生計画に定める第3回目の支払を怠っているから,「再生債務者等が再生計画の履行を怠ったこと」にあたる(民再法189条1項2号)。
 「再生計画の定めによって認められた権利の全部について裁判所が評価した額」は確定再生債権の総額である8000万円から既に履行された2000万円を差し引いた6000万円であるところ,Zは確定債権として1億円を有し,これの8%弁済を受けることから元々800万円の権利を有し,これに対して200万円の弁済を受け,結局600万円の権利を有しているため(※2),「十分の一以上に当たる権利を有する再生債権者」である。そして,Zは,再生計画の定めによる第3回目の支払を受けていないから,「その有する履行期限が到来した当該権利の一部について履行を受けていないもの」である。したがって,Zは,Y社の再生計画の取消しの申立てについて,申立適格を有する(民再法189条3項)。
 そして,この場合には,再生債権は原状に復することとなる(民再法189条7項)。その上で,Zは,Y社について破産手続開始の申立てを行うことが考えられる(民再法249条1項,250条1項)。これにより,破産配当率3%に従った,最低限の配当を得ることができる。
 3 また,再生計画認可後の手続廃止(民再法194条)も考えられるが,これは申立権者が「再生債務者等」(民再法2条2号)及び「監督委員」に限定されているから,再生債権者にすぎないZが当然にこれを申し立てることはできず,事実上これを促すことのみすることができる。
以 上

(※1)「一般の取戻権は,『破産者に属しない財産を破産財団から取り戻す権利』(破62条)が破産手続の開始によって影響を受けることなく行使できることを破産手続において認める制度であるから,その有無は,実体法上『破産者に属しない財産を破産財団から取り戻す権利』があるかどうかによって決まる。例えば,破産者が第三者の所有する動産を占有しており,破産管財人の管理下へと移行されて破産管財人が占有している場合,破産者が何ら適法な占有権原を有しないときは,所有者である第三者は『破産財団に属しない財産を破産財団から取り戻す権利』を有する。破産者の占有が賃貸借や使用貸借に基づくものであったが,それらの契約が終了・解消されて破産者が返還義務を負う場合にも,貸主は,取戻権の行使として破産管財人に対し目的物の返還請求ができる。」山本和彦ほか『倒産法概説[第2版補訂版]』183頁
(※2)ここでいう「十分の一以上に当たる権利」の該当性について,既に再生計画に従った弁済を受けている場合には,その弁済後の額を基準とするのか,再生計画によって確定した債権額を基準とするのかは,よく分からないところです。これは予備校などが出している解説を読んでも,結論が割れていますとはいえ,600万円にしろ800万円にしろ,「十分の一」要件は満たすことには変わりありません。


2019-02-16(Sat)

【新司】倒産法平成23年第1問

2月13日に大阪の某事務所のウィンタークラークに参加していまして,

翌日の朝には東京に戻ってきたんですが,

どういうわけか,今日(16日)の朝までずっと自宅のお布団に入りっぱなしでした。。。

別にそんなに疲れていたわけではないと思うんですが……

おかげさまで,2日を丸々無駄にしてしまいました。

アーメン

今日は平成23年の倒産法です。

まずは第1問から。

≪問題≫

〔第1問〕(配点:50)
 次の事例について,以下の設問に答えなさい。
 【事 例】
 A株式会社(以下「A社」という。)は,B株式会社(以下「B社」という。)との間で,平成21年4月1日,甲土地を,期間を30年として賃貸するとの土地賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し,B社は,賃借後に甲土地上に乙建物を建てて使用していた。
 本件賃貸借契約においては,
① 賃料は,月額100万円とし,毎月末日限り翌月分を前払とする。
② 賃借人が賃料の支払を3か月分以上怠ったときは,賃貸人は,賃借人に対し7日以上の期間を定めて催告の上,本件賃貸借契約を解除することができる。
との約定があった。
 その後,B社は,経営状態が悪化したことから,平成23年3月16日に破産手続開始を申し立て,同日,破産手続開始決定がされ,Xが破産管財人に選任された。

 〔設 問〕 以下の1及び2については,それぞれ独立したものとして解答しなさい。
1.上記事例において,B社が平成23年1月分から同年3月分まで3か月分の賃料の支払をしなかったため,A社は,B社に対し,平成23年3月3日にB社に到達した内容証明郵便により10日以内に賃料を支払うよう催告したが,B社からの賃料の支払はなかった。そこで,A社は,同月17日,Xに対して本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。これに対して,Xは,「自分は,第三者的立場にあるので,A社の解除権の対抗を受けることはない。」と主張した。
 このA社による解除が認められるかについて,Xの主張に対するA社の反論も含めて,論じなさい。
2.上記事例において,B社は,平成21年7月1日に,C株式会社(以下「C社」という。)から2億円を借り入れるのと同時に,乙建物について,C社のために前記2億円の貸金債権を被担保債権とする抵当権を設定し,その設定の登記がされた。
 そして,B社は,A社に対して賃料を約定どおり支払い続け,賃料不払当の債務不履行はない状態で,破産手続開始決定に至った。
 破産手続開始後において,C社は,Xに対し,賃料の支払を継続しつつ,乙建物を売却して2億円の貸付金の一部を返済するよう求めた。乙建物及び甲土地についての借地権の時価は,合計約1億円程度であり,Xとしても,時価が被担保債権を大きく下回る状況であり,破産財団にとって月々の賃料負担が生ずる乙建物をできるだけ早く処理したいと考えたが,借地権付建物であることもあり,売却まで相当時間がかかりそうであった。
 ⑴ この状況で,Xが,破産法第53条に基づき本件賃貸借契約を解除することの当否について論じなさい。
 ⑵ Xは,本件賃貸借契約を解除せず,乙建物の買受希望者を募ったところ,破産手続開始後6か月を経過したところで,ようやくD株式会社(以下「D社」という。)が,乙建物及び甲土地についての借地権を合計1億円で買い受けたいとの意向を表明し,A社も,D社に対してであれば,賃借権の譲渡を認めてもよいと回答した。そこで,Xは,C社に対し,乙建物及び甲土地についての借地権を1億円で売却したいが,破産財団から支払った賃料合計600万円を売却代金から差し引いた額をC社に支払うことで,抵当権の設定の登記の抹消に応じてもらいたい旨を申し入れた。これに対して,C社は,賃料600万円を差し引くことは受け入れ難いと反発し,交渉は成立しなかった。
 この場合にXが採ることができる法的手段について論じなさい。また,それに対してC社が採ることができる対抗手段について述べなさい。


倒産法の問題は,年を遡るにつれて,段々問題文が短くなってきているような……

気のせいかな……

そして,問題自体も,そんなに細かいことを聞いてきているような感じでもないし……

もしかして昔の方が簡単だった……!?

簡単とか言って解けなかったら恥ずかしいので撤回します。

激ムズです

≪答案≫
第1 設問1
 1 A社の主張する解除は,B社との間でされた本件賃貸借契約に係る賃料の不払を理由とするものである。すなわち,本件賃貸借契約には,②の約定が定められているところ,B社は,平成23年1月分から同年3月分まで3か月分の賃料の支払を怠っており,これに対してA社は,10日以内に賃料を支払うよう催告をしており,それにもかかわらずB社はこれを支払っていないから,②の約定に定められた解除の要件を満たす。したがって,A社の主張する解除には,理由がある。
 2 本件賃貸借契約では,①の約定があることから,毎月末日に翌月分の賃料が支払われることとなる。そうすると,平成23年3月分の賃料は,同年2月28日が支払期日となる。その後,A社は,B社がこれの支払を怠ったことを理由に10日間の催告をしているから,同年3月10日までにはA社の解除権が発生している。
 A社が解除権を行使したのは,同月17日であるから,B社の破産手続が開始した後であるが,破産手続の開始は,相手方の契約上の地位を奪うまでの効力を有するものではないから,A社は,B社の破産手続開始後であっても,本件賃貸借契約の約定に従って,解除をすることができる。
 3⑴ それでは,A社は,上記解除を,Xにも対抗することができるか。Xが,Xの主張するような第三者的立場を,A社との関係でも主張できるかが問題となる。
  ⑵ 破産管財人は,破産手続開始と同時に,裁判所によって選任され(破産法74条1項),破産者の破産財団に属する財産の管理処分権限を取得する(同法78条1項)。そうすると,破産管財人は,破産者の破産手続開始と同時に,破産財団に属する権利義務について,破産者の地位を承継することとなる。
 一方で,破産手続が開始されると,破産債権の行使は破産手続外でなし得ないなど(同法100条1項),破産債権者による破産債権の個別行使ができなくなり,それに代替する包括的差押の性質を有し,破産管財人は破産財団の管理に関し善管注意義務を負う(同法85条1項)。そうすると,破産管財人は,破産債権者の地位をも代替する者として,第三者的地位をも有することとなる。
 以上からすると,破産管財人が第三者的立場に立つのは,破産債権者の利益を代替する場合であるから,第三者からの解除権の行使に対して破産管財人が第三者的立場を主張することができるのは,解除権の行使により破産債権者の利益が影響を受ける場合に限られる(※1)
  ⑶ これを本件についてみると,A社による解除は,解除権の発生の根拠となったB社との間の本件賃貸借契約を対象とするものであり,上記のように解除権自体は破産手続開始前に発生している以上,債権者が本件賃貸借契約上の権利を差し押さえても,A社は解除権を差押債権者に対抗することができるのであるから,A社がこれを行使しても,破産債権者の利益に影響を及ぼすものではない。
 したがって,A社の解除権の行使との関係では,Xは第三者的立場を主張し得るものではないから,B社の地位を代替するものにすぎない。
 4 よって,A社による解除は認められる。
第2 設問2
 1 小問⑴
  ⑴ 本件賃貸借契約は,A社がB社に対し甲土地の使用収益をさせ,これの対価としてB社がA社に賃料を支払うものであるから(民法601条参照),「双務契約」である。そして,本件賃貸借契約は,その期間が30年とされているから,本件賃貸借契約の締結から約2年しか経過していない現段階では,将来分の使用収益及び賃料支払がともに「履行を完了していない」場合にあたる。したがって,「破産管財人」であるXは,本件賃貸借契約の「解除」を選択し得る(破産法53条1項)。
  ⑵ もっとも,Xが本件賃貸借契約の解除を選択した場合には,B社は,甲土地を使用する権限を失い,乙建物を収去することとなるが,このとき,乙建物に設定された抵当権も消滅することとなり,抵当権者であるC社との関係で,担保価値維持義務に違反することとならないか。
 抵当権設定者であるB社は,抵当権者であるC社に対して,抵当権の設定から当然に抵当不動産である乙建物を健全に維持すべき義務を負い(※2),乙建物の担保価値を害する行為を行うことは同義務に違反するものとして許されないところ,乙建物の存続の前提となる甲土地に係る本件賃貸借契約を解除することは,乙建物の担保価値を害する行為である。そして,抵当権は破産手続において別除権として扱われ(破産法2条9項),班手続によってその効力に影響を受けないものとされており,他に抵当権設定者と抵当権者との間の法律関係が破産管財人に承継されないとする法律上の根拠もないから,Xは,B社がC社に対して負う上記義務を承継する(※3)(※4)。したがって,Xが,正当な理由に基づくことなく抵当不動産である甲土地の賃借権を解除することは,C社に対して負う上記義務に反する。
  ⑶ それでは,本件賃貸借契約を解除することが,正当な理由に基づくものであるかを検討すると(※5),Xは破産管財人として,破産財団の減少を防ぐ観点から,甲土地の賃料の負担を免れるべく,本件賃貸借契約を解除する方策も考えられるところではある。しかし,本件賃貸借契約を解除した場合には,乙建物は甲土地上に存続する権限を失い,実質的に無価値に等しい状況となり,これを売却することは困難になることが予想される。そうすると,月々100万円程度の負担から免れるために,甲土地の借地権と乙建物とを合わせた約1億円の価値を放棄することとなり,C社に対して極端に不利益を被らせることとなる。したがって,本件賃貸借契約を解除することが正当な理由に基づくものであるとは考えられない(※6)
  ⑷ よって,Xが本件賃貸借契約を解除することは不当である(※7)
 2 小問⑵
  ⑴ Xが採ることができる法的手段としては,担保権消滅の許可の申立て(破産法186条1項)が考えられる。
 乙建物は,B社が破産手続開始時に有していた財産であって(破産法34条1項),これについてC社が抵当権を設定しているから,「破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき担保権が存する場合」である。Xは,乙建物をD社に任意に売却し,C社が有する抵当権を抹消しようとしているから,「当該財産を任意に売却して当該担保権を消滅させる」場合である。
 それでは,これが「破産債権者の一般の利益に適合するとき」にあたるか。破産法186条1項は,破産財団の拡充の観点から,担保権の消滅を認め,任意売却を促進させるものであるから,「破産債権者の一般の利益に適合するとき」とは,当該財産を任意に売却し,担保権を消滅させることが,破産財団の拡充に資する場合をいう(※8)。本件では,乙建物及び甲土地の借地権を売却すれば,D社から対価として1億円の支払を受け,このうち既に破産財団から支払を行った賃料相当額の600万円を破産財団に組み入れることができるから,これによって破産財団の拡充に資することができる。したがって,「破産債権者の一般の利益に適合するとき」にあたる。
 次に,「当該担保権を有する者の利益を不当に害することとなる」かにつき検討すると(※9),乙建物及び甲土地の借地権の時価は約1億円であるのに対して,D社の買受金額も1億円であるから,任意売却が不当に廉価であることはない。また,組入金額も,売却価格である1億円のうち,600万円に過ぎないから,これが過大であるようにも思われない。さらに,Xの売却の意向はあらかじめC社に対して示されているのであるから,担保権消滅許可の申立てをしても,C社にとって不意打ちとはならない。そうすると,乙建物についての抵当権の消滅許可の申立てをすることは,「当該担保権を有する者の利益を不当に害することとなる」とはいえない。
 したがって,Xによる担保権消滅の許可の申立ては認められる。
  ⑵ これに対してC社が採ることができる対抗手段としては,担保権の実行の申立て(破産法187条1項)が考えられる。C社がこれを行うには,Xによる担保権消滅許可の申立てに係る申立書及び書面の「送達がされた日から一月以内」に,「担保権の実行の申立てをしたことを証する書面を裁判所に提出する」必要がある。
 また,C社が採ることができる対抗手段としては,買受けの申出(破産法188条)が考えられる。この場合には,上記の期間内に,C社自身又は他の者が「財産を買受ける旨の申出」をする必要がある。
以 上

(※1)「破産管財人をめぐる法律関係の解決にあたり破産管財人の立場をどのようにとらえるかについて,近時の学説では,破産管財人には,①破産者の財産の管理処分権を包括的に承継するという意味での破産者の一般承継人としての立場と,②総債権者の利益を図るための独立の機関であることに基づく立場の2つの側面があり,破産管財人の職務をめぐる法律問題を解決するための指針としては,個々の法律関係に照らしてこれらの立場のいずれを優先させるべきかを考慮すべきであるとする見解が有力となっているように思われる。この見解によれば,破産手続は,破産者からその所有財産についての管理処分権を奪い,これを破産管財人に専属させることにより,債権者に対する公平な弁済に供していくための手続であり,破産管財人は,飽くまで破産者が宣告時[破産手続開始時]に有していた財産の管理処分権を引き継ぐのであるから,破産法等の明文の規定がない限り,破産管財人を破産者の一般承継人として取り扱って法律関係を規律するのを原則としつつ,総債権者のための包括執行という破産手続の特質にかんがみ,実体法上,差押債権者が保護されるべきものとされている法律関係においては,破産管財人に差押債権者と同様の保護を与えて法律関係を規律することになろう。」最判解民事篇平成18年度(下)1370頁
(※2)抵当権設定者による抵当目的物についての担保価値維持義務については,最判平成11年11月24日民集53巻8号1899頁が,抵当不動産が不法占有されていた事例において,「抵当不動産の所有者は、抵当権に対する侵害が生じないよう抵当不動産を適切に維持管理することが予定されているものということができる」と述べた上で,「抵当権の効力として、抵当権者は、抵当不動産の所有者に対し、その有する権利を適切に行使するなどして右状態を是正し抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を有するというべきである」と示しています。
(※3)最判平成18年12月21日民集60巻10号3964頁は,破産管財人が担保価値維持義務を負う根拠として,元々質権設定者が負っているとされる担保価値維持義務を,破産管財人が承継する点を挙げています。「債権が質権の目的とされた場合において,質権設定者は,質権者に対し,当該債権の担保価値を維持すべき義務を負い,債権の放棄,免除,相殺,更改等当該債権を消滅,変更させる一切の行為その他当該債権の担保価値を害するような行為を行うことは,同義務に違反するものとして許されないと解すべきである。(中略)また,質権設定者が破産した場合において,質権は,別除権として取り扱われ(旧破産法92条),破産手続によってその効力に影響を受けないものとされており(同法95条),他に質権設定者と質権者との間の法律関係が破産管財人に承継されないと解すべき法律上の根拠もないから,破産管財人は,質権設定者が質権者に対して負う上記義務を承継すると解される。」
(※4)前掲最判平成18年12月21日の射程について,前掲最判解民事篇平成18年度(下)1372頁は,「本判決の担保価値維持義務に関する判断は,あくまで約定担保権である債権質に関するものであって,例えば,動産先取特権のような法定担保権にその射程が及ぶものではない。」としています。本問は,約定担保権である抵当権が問題となっており,この最判解の解説によっては明示的には射程外とされていませんので,前掲最判平成18年12月21日に沿った論述をすることが誤りであるとはならないと思われます。
(※5)前掲最判平成18年12月21日は,担保価値維持義務違反の行為が「正当な理由」に基づくものであるのか否かという判断枠組みのもと検討されているように読めます。したがって,答案においても,担保価値維持義務違反行為であることを認定した上で,それが正当な理由に基づくものであったか否かという順序で論述しています。
(※6)「正当な理由」のあてはめ方は不明です。
(※7)採点実感では,「結論として,解除可能とする答案も多く,関係者の利害状況を的確に捉えるとともに,事案に即したバランスの良い妥当な結論を導くための感覚が十分に備わっていないとの感じを受けた。」との指摘があることから,結論としては,解除は不当とするのが筋であるようです。
(※8)「破産債権者の一般の利益に適合するときとは,この制度により当該財産を任意に売却し,担保権を消滅させることが,破産財団の拡充に資する場合を指す。」山本和彦ほか『倒産法概説第2版補訂版』119頁
(※9)「担保権者の利益を不当に害することとなると認められるときとしては,例えば,組入れがある場合において,組入金の額が明らかに過大であるときや,担保権者との間で組入れについて事前の協議がまったくなく担保権者に対して不意打ち的に申立てが行われたときがある。任意売却が不当に廉価であるような場合も,担保権者の利益を不当に害することとなると認められるが,この場合には,そもそも破産債権者一般の利益に適合するという要件も満たされないであろう。」前掲山本119頁


2019-02-11(Mon)

【新司】倒産法平成24年第2問

試験前の限られた時間で何をどこまでやるべきなのか,

そろそろ計画を立てないといけないなという気はしているのですが,

その「どこまで」やればいいのかが未だに見極められていません。

試験のレベル自体は過去問をやっていれば分かりますし,

自分自身のレベルもこれまでの勉強の経過から大体分かっているつもりです。

そうすると,周囲のレベルがいかがなものかということが最大の関心になってくるわけですね。

こればかりは模試とか受けてみないと分からないのでしょうけど,

未だに模試の申込みすらできていないという。

もう1か月きっているんですが,まだ間に合うのでしょうか。。。

ところで,倒産法の平成24年第2問を解きます(またも唐突)。

≪問題≫
〔第2問〕(配点:50)
 次の事例について,以下の設問に答えなさい。
 【事 例】
 金属製品のリサイクル業等を営むA株式会社(以下「A社」という。)は,債権者50社に対して総額約10億円の負債を負っていたことから,破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとして,平成23年5月30日に再生手続開始の申立てを行ったところ,同日に監督委員として弁護士Xが選任された上,同年6月3日に再生手続開始の決定を受けた。

 〔設 問〕 以下の1及び2については,それぞれ独立したものとして解答しなさい。
1.A社は,平成23年1月21日,その主要な取引銀行であるB銀行から1億円の融資を受けるに当たり,その担保として,B銀行に対し,取引先のC株式会社(以下「C社」という。)外10社に対する金属製品の販売に係る売掛金債権をそれぞれ譲渡した。その際,対抗要件の具備については留保し,B銀行がA社を代理して譲渡通知を行うことができる旨の委任がA社からB銀行にされた。
 B銀行は,A社が再生手続開始の申立てを行ったことを受け,同年6月1日,上記の売掛金債権の譲渡担保について確定日付のある証書による債務者らに対する譲渡通知をしたものの,C社に対する売掛金債権については,この譲渡通知を行うことを失念していた。B銀行は,同月13日になってこれに気付いたことから,同日,C社に対し,当該売掛金債権につき確定日付のある証書によって譲渡通知をするとともに,同月15日には,C社から確定日付のある証書による承諾も,取得した。
 以上の場合において,A社がB銀行に対してC社に対する売掛金債権がA社に帰属することを主張することができるかどうかについて,B銀行の譲渡通知及びC社の承諾がそれぞれ再生手続上どのように取り扱われるかを踏まえて,論じなさい。
2.A社は,財産評定を完了し,平成23年7月29日,裁判所に対し,財産目録及び貸借対照表を提出した。これらによれば,A社の再生手続開始の時点における資産総額は,3億円であり,共益債権,一般優先債権及び破産手続において清算するための費用等を控除して算定した予想破産配当率は,10%とされていた。Xが調査を進めたところ,A社について,主要な取引先であるD株式会社(以下「D社」という。)から再生債権である未払の売掛金を即時に弁済しなければ新規の取引を全て打ち切る旨を告げられたため,やむを得ず,再生手続開始後財産評定前の段階で,D社に対し,裁判所に無断で,500万円の弁済をしていたという事実が当該財産評定後に判明した。
 なお,当該財産評定においては,上記の500万円の弁済後の資産が計上されていた。
 その後,A社は,同年8月29日,裁判所に対し,再生計画案を提出した。当該再生計画案における権利の変更の一般的基準の要旨は,次の①から④までのとおりであった。
① 再生債権の元本並びに再生手続開始の決定の日の前日までの利息及び遅延損害金の合計額のうち,10万円までの部分は,免除を受けず,10万円を超える部分は,再生計画の認可の決定が確定した時にその95%の免除を受ける。
② 再生手続開始の決定の日以後の利息及び遅延損害金は,再生計画の認可の決定が確定した時に全額の免除を受ける。
③ 権利変更後の債権額のうち,10万円までの部分は,再生計画の認可の決定が確定した日から2か月以内に支払う。
④ 権利変更後の債権額のうち,10万円を超える部分は,均等額で5回に分割し,平成24年から平成28年までの間,毎年7月末日限り,支払う。
 以上の事実関係を踏まえ,裁判所がA社の提出した再生計画案を決議に付すかどうかを判断するに当たり,どのような法律上の問題点があるかを論じ,あわせて,XがA社に対してどのような是正措置を採るように勧告すべきかについて,論じなさい。


設問1はなんとか耐えられるかな……?

ただ,注のところにいくつか判例を示しましたが,

これらの判例って,この年からしたら,最新判例の部類に入るわけですよね。

これらの判例を使うことは必ずしも求められていないのかもしれませんが,

直近の判例を知っているかいないかでだいぶとっつきやすさが変わると思います。

ちなみに,百選の5版が出たのが,平成25年のようなので,

百選掲載判例ではないわけです。

一方で重判には刑裁があるようなので,

やはり司法試験の直前に重判をある程度つぶしておくのも重要かもしれません。

果たしてそんな時間はあるのでしょうか……。

≪答案≫
第1 設問1
 1 B銀行は,A社との間で,A社のC社に対する売掛金債権(以下「本件債権」という。)について譲渡担保を設定しており,これの譲渡を受けている。平常時であれば,B銀行はA社との関係で当事者であるから,これを対抗要件の具備をすることなく対抗することができる。
 しかし,A社について再生手続が開始すると,A社は債権者に対して公平誠実義務を負い(民再法38条2項),債権者の利益を代表する機関となるから,差押債権者類似の地位に立つといえ,第三者性を帯びることとなる(※1)。したがって,B銀行がA社からの債権譲渡をA社に対抗するためには,債権譲渡の第三者対抗要件を備える必要がある(民法467条)。
 そうすると,B銀行の譲渡通知及びC社の承諾は,いずれも本件債権の譲渡について第三者対抗要件を備えるためのものである。
 2 もっとも,B銀行の譲渡通知及びC社の承諾は,A社の再生手続開始決定の後にされたものである。この場合にも,B銀行は本件債権の譲渡をA社に対抗することができるかが問題となる。
  ⑴ まず,B銀行の譲渡通知について検討すると,民再法45条1項は,「不動産又は船舶」に関する登記を再生手続開始後に具備しても,「再生手続の関係においては,その効力を主張することができない」旨を規定し,同条2項は,「権利の設定,移転若しくは変更に関する登録」について準用する旨を規定している。そうすると,債権譲渡の第三者対抗要件については,同条の明文上規定されていないため,再生手続開始後にこれを具備した場合でも再生債務者に対抗することができるようにも思える。
 しかし,同条の趣旨は,再生手続が開始した場合において再生債務者の財産について特定の担保権を有する者の別除権の行使が認められるためには,個別の権利行使が禁止される一般債権者と再生手続によらないで別除権を行使することができる債権者との衡平を図る点にある(※2)(※3)。そうすると,一般債権者との衡平を図る要請は,同条に規定する場合に限られず求められるから(※4),債権譲渡の第三者対抗要件との関係でも,同条を類推適用するべきである。
 そうすると,B銀行は,本件債権の譲渡通知を,A社の再生手続開始後に行っているから,民再法45条1項の類推適用により,これをA社の再生手続との関係では対抗することができない。
  ⑵ 次に,C社の承諾について検討すると,C社の承諾は,「再生債務者の行為によらないで権利を取得」した場合(民再法44条1項)にあたるとして,やはりB銀行は本件債権の譲渡をA社に対抗することができないのではないか。
 民再法44条も,同法45条と同様の趣旨の下,再生手続開始後に権利を取得したとしても,これを再生手続の関係で主張することができないとしたものである。そうすると,確定日付のある証書による承諾についても,対抗力のある権利取得を可能にする点で,再生手続開始後の権利取得というべきであるから,同時用が適用される。
 そうすると,B銀行は,C社の承諾によっても,本件債権の譲渡をA社に対抗することができない。
 3 以上から,本件債権についての債権譲渡担保の設定は,A社の再生手続との関係で対抗することができないから,A社はB銀行に対して本件債権がA社に帰属することを主張することができる。
第2 設問2
 1 裁判所がA社の提出した再生計画案を決議に付すかどうかを判断するに当たっては,民再法169条1項各号に掲げる事由があるかどうかを検討することとなる。そして,同項に掲げる事由のいずれかがある場合には,再生計画案の付議決定を行うことができないこととなる。
 2⑴ まず,A社は,再生手続開始後財産評定前の段階で,D社に対し,裁判所に無断で,500万円の弁済を行っている。再生手続開始後は,再生債権については,再生計画の定めるところによらなければ弁済をすることができないから(民再法85条1項),A社がD社に対し行った500万円の弁済は,「法律の規定に違反」しており(民再法174条2項1号),「再生計画案について第百七十四条第二項各号に掲げる要件のいずれかに該当する」として(民再法169条1項3号),再生計画案の付議決定が行われないという法律上の問題点がある。
  ⑵ また,A社の作成した再生計画案①は,再生債権のうち10万円を超える部分は95%をカットする旨が規定されているから,同債権は5%の配当しか受けられないこととなる。一方で,A社が清算手続を行った場合の予想破産配当率は10%とされている。そうすると,上記再生計画案の規定によると,同債権については,A社について清算手続を行う場合よりも低い配当しか受けられないのであるから,清算価値保障原則に反するものであって,「再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反する」として(民再法174条2項4号),「再生計画案について第百七十四条第二項各号に掲げる要件のいずれかに該当する」として(民再法169条1項3号),再生計画案の付議決定がオナ割れないという法律上の問題点がある。
 3⑴ そこで,XがA社に対して勧告すべき是正措置について検討すると,まずD社に対する500万円の弁済については,弁済を再生手続に対抗できないとして不当利得に基づく利得金返還請求権(民法703条)の行使を行うことが考えられる。
  ⑵ また,D社に対する500万円の弁済について,民再法85条5項の許可を裁判所に求めることも考えられる。この場合,A社の資産総額は3億円であって,これに比して500万円は「少額」である。また,D社は主要な取引先であり,今後の新規取引を行う必要性があることから,「事業の継続に著しい支障」が生じるおそれを回避するため弁済を行う必要性が肯定される。したがって,A社としては,裁判所に対し,上記の許可の申立てをすべきである。
  ⑶ 再生計画案①については,裁判所の許可を得て,再生計画案の修正を行うことが考えられる(民再法167条)。
以 上

(※1)「再生債務者について……第三者性を認めるべきか否かについて……通説はこれを肯定する……。その論拠としては,①破産の場合と同様に,再生手続開始決定も包括的差押えの実質を有し,再生債務者も再生手続開始決定によりいったんは管理処分権を剝奪されるが,しかしそれと同時に,再生債権者の利益を擁護すべき公平誠実義務(民再38条2項)が課される管理処分権があらためて付与される,などという理由から,再生債務者は再生債権者の利益を代表すべき機関として差押債権者類似の地位に立つと説明されるのが一般的である」近藤隆司「21 再生債務者の第三者性-民法177条の第三者」伊藤眞ほか『倒産判例百選[第5版]』45頁
(※2)最判平成22年6月4日民集64巻4号1107頁
(※3)このような理由づけをわざわざ書かなくても,その上に書いたA社の第三者性をそのまま引用すれば足りるような気もします。この点,加毛明「58 所有権留保と民事再生手続」伊藤眞ほか『倒産判例百選[第5版]』119頁は,「本判決[前掲最判平成22年6月4日]は再生債務者の第三者性に言及しないものの,別除権行使に登記・登録等の具備を要求する前提として,一般債権者が個別の権利行使を禁止されることを挙げるので,民事再生手続の開始によって対抗問題が生じることを肯定する見解と親和的である」としています。
(※4)「この理由づけによれば,45条が規定する登記・登録のある財産に限らず,差押債権者との関係で対抗要件の具備が実体法上要求される場合一般について,対抗要件具備が必要とされることになろう」前掲加毛119頁



2019-02-11(Mon)

【新司】倒産法平成24年第1問

2月中に倒産の過去問は全部終わらせておきたいですよね……。

という淡い希望の下,今日もひたすら過去問です。

平成24年までやってきました。

丁度折り返し地点です。

≪問題≫
〔第1問〕(配点:50)
 次の事例について,以下の設問に答えなさい。
 【事 例】
 A株式会社(以下「A社」という。)は,コンピュータ・ソフトウェアの製造及び販売を業とする会社であり,平成20年頃には,年間で50億円を超える売上げを計上するなど,順調な業績を維持していたが,平成22年末頃以降は,徐々にその経営が悪化し,平成23年9月5日には,破産手続開始の申立てをするに至り,同月15日,破産手続開始の決定を受け,弁護士Xが破産管財人に選任された。

 〔設 問〕 以下の1及び2については,それぞれ独立したものとして解答しなさい。
1.A社は,平成22年12月頃,売上げの半分以上を占めていた取引先が破綻し,当該取引先からの支払が突然途絶えたため,以後は,その資金繰りが悪化した。
 そこで,A社は,メインバンクを含む金融機関に新規の融資を求めたものの,十分な額の融資を得ることができそうになかったため,取引先からの紹介を受け,いわゆる事業再生ファンドであるBアセット株式会社(以下「B社」という。)と交渉した結果,将来の他社とのM&Aを念頭に置いてB社から最大で20億円をめどに融資を受けられることとなり,まず,平成23年2月1日に5億円の融資を受ける旨の契約をB社との間で締結し,その融資は,同日,実行された(以下においては,利息については考慮せず,当該契約に基づくA社の債務額は,5億円とする。)。この契約においては,A社は,同年8月1日をもって,借入金を返済する旨の条項が含まれていた。
 A社によるスポンサー企業等の開拓は,その後も精力的に続けられたが,業界の景気の更なる悪化などのため,適当なスポンサー企業等を獲得するには至らなかった。その結果,A社の経営状況は,同年6月頃から深刻さを増したものの,B社からの上記の5億円の融資金の残りを利用することができたため,一部の金融機関に対する債務の返済計画を相手方の同意を得て変更した以外は,全ての債務を約定どおり弁済していた。
 一方,B社は,同年6月頃には,A社への上記の融資は失敗であり,その回収に向けた準備が必要であるとの判断に至ったことから,当該融資の段階でその担保のために抵当権の設定を受けていたA社所有の不動産の評価を進めたところ,2億円しか満足を受けられる見込みがないことが明らかになった。そこで,同年7月25日,B社の代表取締役らがA社を訪れ,5億円の融資の返済期日を同年9月1日に変更するとともに,その見返りとして,A社の有する複数の売掛金債権(全てが優良債権であり,その評価額は,2億円であった。)を追加担保(譲渡担保)としてB社に差し入れることを求めた。A社の代表取締役であるCは,同年7月25日,やむを得ず,これに応じて,当該売掛金債権について債権譲渡担保を設定し(以下「本件債権譲渡担保設定行為」という。),A社とB社は,同月28日に債権譲渡登記を経由した。A社は,この当時,同年8月中旬までに弁済期が到来する債務を幾つか負担し(この他には,同年8月中に弁済期が到来する債務はなかった。),その総額は,1億円に達していたが,B社に対する債務の支払の猶予を受けたことで余裕ができたため,何とか,これらの債務を全額決済することができた。ただし,CらA社の経営陣は,同年7月末時点で,A社の余裕資金はぎりぎり1億円であり,他方で,同年8月中に新たな弁済資金の調達の見込みがなかったため,同年8月中旬には弁済資金が枯渇するものと予想していた。そして,実際にも,その予想どおりに資金状況は推移し,返済期日が同年9月1日に変更されたB社に対する上記の債務の支払をすることができなかった。
 以上の場合において,A社の破産手続開始後,A社がB社のためにした本件債権譲渡担保設定行為をXが否認することができるかどうかについて,予想されるX及びB社の主張を踏まえて,論じなさい。
2.A社は,平成23年5月27日,株主総会を開催し,①取締役としてDらを選任すること,②定款を変更して,本店を移転すること,③1株当たり5000円の配当をすることをそれぞれ決議した。ところが,A社の株主Eは,同年7月29日,当該株主総会の決議の取消しの訴えを提起した。
 なお,この訴訟においては,DがA社を代表して訴訟追行をしていた。
 以上の場合において,当該訴訟は,A社に対する破産手続開始の決定によってどのような影響を受けるかについて,論じなさい。


今回は,適用される条文の特定は簡単です。





し   か   し   ・   ・   ・





中身が非常に濃い。

特に設問1。

求められていることを全部書いていたらきりがないです。

ってか,問題文で普通にM&Aとか出てきていますけど,

企業法務志望でない人には分かるんですかね……。

もう一般的な用語なんでしょうか。

≪答案≫
第1 設問1
 1 本件債権譲渡担保設定行為は,B社がA社に対して既に有する5億円の返還請求権について,A社の有する売掛金債権を担保とするものであるから,「既存の債務についてされた担保の供与に関する行為」にあたる。そこで,Xとしては,本件債権譲渡担保設定行為について,偏頗行為否認(破産法162条1項)をすることが考えられる。
 2⑴ ここで,同項1号又は2号の要件を検討する上で,A社が「支払不能」となった時期がいつであるかが問題となる。
   ア まず,B社からは,「支払不能」とは「その債務のうち弁済期にあるものにつき」弁済ができない状態とされているのであるから(破産法2条11項),「支払不能」の時期の判断にあたっては,弁済期が到来した債務についてのみ判断されるとの主張が考えられる。この見解による場合には,A社は,平成23年8月中旬までに弁済期が到来する債務については全額弁済をすることができているから,この段階では,「弁済することができない状態」には陥っていない。また,この他に,同年8月中に弁済期が到来する債務はなかったのであるから,A社は平成23年8月の間は「支払不能」とはなっていない。そして,A社は,同年9月1日に返済期日とされたB社に対する債務の支払をすることができなくなっているから,同日をもって「支払不能」に陥ったということができる。そうすると,本件債権譲渡担保設定行為は,「支払不能になった後にした行為」(破産法162条1項1号)にも,「支払不能になる前三十日以内にされたもの」(破産法162条1項2号)にも該当しないこととなるから,Xは本件債権譲渡担保設定行為について,偏頗行為否認をすることはできない。
   イ これに対して,Xからは,「支払不能」の判断は,条文の文言に沿った形式的判断によるのではなく,実質的に行うべきであるとして,近い将来の支払不能が確実に予想される時点で支払不能を認定すべきであるとの主張が考えられる。この見解による場合には,A社は,平成23年7月末時点で余裕資金は1億円程度しかなく,同年8月中に新たな弁済資金の調達の見込みもなかったにもかかわらず,同月には総額1億円の複数の債権の弁済期が到来することとなるのであるから,これの支払をすれば,A社の余裕資金は無に等しいものとなり,支払不能に陥ることが確実に予想される状態になっていたということができる。したがって,遅くとも,総額1億円の複数の債権が到来する同年8月中旬には「支払不能」に陥っていたものと認められるから,本件債権譲渡担保設定行為はそれから「三十日以内にされたもの」にあたることとなる。
   ウ そこで,両者の主張について検討すると,破産法が「支払不能」の意義を「その債務のうち弁済期にあるもの」としたのは,支払不能が外部的には判断することが困難である場合が多いため,これに一定の基準を設ける趣旨である(※1)(※2)。そうすると,「支払不能」の判断は,既に弁済期の到来している債務のみをもって形式的に判断されるべきである。したがって,「支払不能」となる時期については,B社の主張の通り考えるべきである。
  ⑵ア そうだとしても,Xからは,「支払不能」となる時期の判断について,B社の主張を前提としつつも,本件では特にA社のB社に対する5億円の債務の返済時期を変更されており,これが否認権行使を潜脱する目的とみられるから,当初の返済期日の到来をもって「支払不能」にあたるとの主張が考えられる。この主張による場合には,A社のB社に対する5億円の債務の当初の返済期日は平成23年8月1日とされており,この段階でA社の余裕資金は1億円程度しかなかったことからすれば,同日をもって支払不能となっており,本件債権譲渡担保設定行為は「支払不能になる前三十日以内にされた行為」にあたることとなる。
   イ そこで,Xの主張の当否について検討すると,「支払不能」の判断を,既に弁済期が到来している債務に限って行うこととしたのは,その明確性の観点からであるから,将来における返済期日における債務状況とは異なり,過去の返済期日を基準とした債務状況の算定は確実性という不確定要素を容れずに行うことができるのであるから,過去の返済期日を支払不能における基準とすることは明確性の要請に反しない。もっとも,返済期日の猶予が,債務者の倒産を避けるために信用の供与としたされる場合もあるから,このような場合には,信用の観点から未だ「弁済することができない状態」にあるとはいえないが,単に否認権の行使を免れるために返済期日の猶予がされた場合には,もはや信用の供与とはいえないから,当初の返済期日の時点において支払不能にあるといえる。
 これを本件についてみると,B社は,A社への融資は失敗であると判断し,これを回収する必要があると考えているところ,当初設定した抵当権によっては全額の回収が見込まれず,そのために新たに追加担保を設定するとともに返済期日を1か月猶予している。そして,単に返済の引当てを増加させようとするのであれば,追加担保の設定だけで足りるにもかかわらず,あえて支払期日の猶予まで行ったのは,B社がA社の資産状況からして8月中に弁済資金が枯渇するものと考え,そこに自社の債権まで支払期日が到来すると,A社の破産手続開始により追加担保の設定が否認されるおそれがあると考えたからであると考えられる。そうすると,B社は,専ら自己の債権を回収する目的で,追加担保の設定について否認権を行使されるのを免れる目的で,返済期日の猶予を行っているのであるから,当初の返済期日を基準に支払不能か否かを判断すべきである。したがって,上記のXの主張は妥当である。
  ⑶ 以上から,A社の支払不能時期は,平成23年8月1日であり,本件債権譲渡担保設定行為は「支払不能になる前三十日以内にされたもの」である。
 3 そして,A社とB社との当初の契約では追加担保の設定について何ら取り決めがなかったのであるから,A社はそもそも追加担保を設定する義務を負っておらず,本件債権譲渡担保設定行為は「破産者の義務に属」しない行為である。また,B社は,A社の弁済資金が平成23年8月中旬には枯渇するものと予想しており,近日中に支払不能に陥ることを知っていたのであるから,「債権者がその行為の当時他の破産債権者を害することを」知っていたものと認められる(破産法162条1項2号ただし書)。
 4 よって,Xの行使する偏頗行為否認は,その要件を満たし,認められる。
第2 設問2
 1⑴ 破産法44条1項は,破産手続開始決定により,破産者を当事者とする破産財団に関する訴訟手続は中断する旨を規定しているから,A社に係属している株主総会の決議の取消しの訴えが「破産財団に関する訴訟手続」にあたるかを検討する。
  ⑵ 破産法44条1項の趣旨は,破産手続開始により破産財団に関する破産者の管理処分権が失われ,破産管財人に帰属するため(破産法78条1項),破産者に破産財団に関する訴訟を追行させるべきではなく,これを中断させるものである。したがって,「破産財団に関する訴訟手続」とは,破産者の管理処分権が失われる財産関係に影響を及ぼす事項を対象とする訴訟を意味する。
  ⑶ア ①取締役としてDらを選任することは,会社の組織的事項を定めるものであって,これによってA社の財産関係に影響を及ぼすものではないから,「破産財団に関する訴訟手続」にはあたらない。
   イ ②定款を変更して,本店を移転することも,会社の組織的事項を定めるものであって,これによってA社の財産関係に影響を及ぼすものではないから,「破産財団に関する訴訟手続」にはあたらない。
   ウ ③1株当たり5000円の配当をすることは,A社の剰余金を減少させることを意味するから(会社法453条),A社の最三関係に影響を及ぼす事項を対象とするものであって,「破産財団に関する訴訟手続」にあたる。
  ⑷ 以上から,①及び②の決議に係る取消しの訴えは中断しないが,③の決議に係る取消しの訴えは中断することとなる。
 2⑴ ③の決議に係る取消しの訴えについては,「破産債権に関しないもの」であるから,「破産管財人」Xが「受け継ぐ」こととなる(破産法44条2項)。
  ⑵ 他方,①及び②については,従前から訴訟を追行している代表者のDがそのまま訴訟を追行することができるか。会社と取締役との関係は委任契約であるところ(会社法330条,民法643条),委任者について破産手続開始決定があったことは委任の終了事由とされているから(民法653条2号),なおDがA社の代表者としての地位を有し続けるかが問題となる。
 民法653条は,破産手続開始により委任者が自らすることができなくなった財産の管理又は処分に関する行為は,受任者もまたこれをすることができないため,委任者の財産に関する行為を内容とする通常の委任は目的を達し得ず終了することとしたものである。会社が破産手続開始の決定を受けた場合,破産財団についての管理処分権限は破産管財人に帰属するが,破産財団に関する管理処分権限と無関係な会社組織に係る行為等は,破産管財人の権限に属するものではなく,破産者たる会社が自ら行うことができる。そうすると,同条の趣旨に照らし,会社につき破産手続開始の決定がされても直ちには会社と取締役との委任関係は終了するものではないから,破産手続開始当時の取締役は,破産手続開始によりその地位を当然には失わず,会社組織に係る行為等については取締役としての権限を行使し得る(※3)
 そうすると,本件でも,①及び②の決議に係る取消しの訴えについて,DはA社との間で委任関係がなお存続しているものと考えられるから,Dが訴訟を追行することとなる。
 3 以上から,①及び②の決議に係る取消しの訴えと③の決議に係る取消しの訴えとで,訴訟を追行する者が異なることとなるから,弁論を分離して,別個に審理・判断することとなる。
以 上

(※1)「支払不能は,客観的状態であって,支払停止と異なり外部的な表示を伴わない。ゆえに,一義的な明確性を確保する見地から……定義規定が設けられたのであ[る。]」粟田口太郎「25 支払不能-否認の要件⑴」伊藤眞ほか『倒産判例百選[第5版]』53頁
(※2)「支払不能が外部的な表示を伴わず,もともと不明確な要素を含んでいること,それにもかかわらず破産手続開始・否認・相殺禁止という重大な問題の結論を左右する基準であること,非義務行為の偏頗行為否認の対象は『支払不能になる前30日以内にされたもの』に拡張されており(破162条1項2号),30日起算点としての明確性を要すること……,再生手続・更生手続の開始原因は『破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがある』こと……であり,『おそれ』の対象たる支払不能概念の拡大は再生・更生手続開始原因の解釈をも曖昧としかねないことなどに照らすと,前記諸規定の基準時または外延が不明確となるような解釈の採否は,慎重な検討を要するであろう」前掲粟田口53頁
(※3)最判平成21年4月17日判時2044号74頁



2019-02-09(Sat)

【新司】倒産法平成25年第2問

第1問が難しすぎて,倒産法選択をやめようか考えてしまいましたが,

試験まであと3か月しかないのに他の科目をやっている暇はないことに気づき,

3秒で断念しました。

これから選択科目を選ばれる方向けに言っておくことは,

倒産法は絶対に選ばない方がいい

≪問題≫
〔第2問〕(配点:50)
 次の事例を読んで,以下の設問に答えなさい。
 【事 例】
 建設業を営むX株式会社(以下「X社」という。)は,A株式会社(以下「A社」という。)からマンションの建築工事の注文を受け,平成24年9月1日,A社との間で,請負代金総額10億円,工事期間10か月間として,建築工事請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結し,着工した。本件請負契約においては,請負代金の支払条件として,着工時である同日に前受金として4億円を支払い,その後は,同年12月末日に5億円の中間金を支払い,マンションの引渡し時に 1 億円を支払うことと約定されていた。また,本件請負契約の締結に際し,A社は,B銀行との間で,本件請負契約に基づいてX社が受領した請負代金を何らかの事情によりA社に返還しなければならない場合には,X社の当該返還債務をB銀行が連帯して保証する旨の契約を締結した。
 ところが,X社は,C銀行を始めとする金融機関から総額35億円の融資を受けていたほか,下請業者に対して買掛金債務等を合計2億2000万円負担し,総額で,37億2000万円の負債を有しており,平成25年4月15日には,同日を支払期日とする7500万円の約束手形の決済が困難なことが判明した。そこで,X社は,同日,裁判所に破産手続開始の申立てを行ったため,即日に破産手続開始の決定を受けるに至り,弁護士Yが破産管財人に選任された。
 当該破産手続開始の決定の時において,X社がA社から請け負ったマンションの出来高は,85%に過ぎなかったが,X社は,前受金を含め,A社から,既に9億円の請負代金を受領していた。また,X社は,本件請負契約に関し,下請業者であるD株式会社(以下「D社」という。)との間で,毎月末日に出来高を確認して翌月末日にその出来高相当額を支払うという条件により,請負契約(以下「本件下請契約」という。)を締結しており,X社に対する破産手続開始の決定があった時点におけるD社の施工の出来高も,本件下請契約の対象となる工事全体の85%であったが,X社は,本件下請契約の請負代金総額6億円のうち,出来高70%相当額の4億2000万円しか支払っておらず,同年3月分の請負代金6000万円と同年4月の15日間の請負代金3000万円の合計9000万円が未払の状態となっている。
 なお,本件請負契約及び本件下請契約において,出来高は,A社に帰属するものとされている。

 〔設 問〕以下の1及び2については,それぞれ独立したものとして解答しなさい。
1.⑴  Yは,本件請負契約に基づく建築工事の継続を断念し,D社との間の本件下請契約も,解除した。この場合において,D社の有する本件下請契約に基づく請負代金請求権の行使方法について,論じなさい。
  ⑵ Yは,裁判所の許可を得て,本件請負契約に基づく建築工事を継続することとし,D社との間の本件下請契約に基づく建築工事は,継続されることとなった。この場合において,D社が有する本件下請契約に基づく請負代金請求権の行使方法について,論じなさい。
2.Yは,本件請負契約に基づく建築工事について,このままD社を含む下請業者へ即時現金払で継続した場合には,資金繰りが続かないおそれがあると判断し,本件請負契約を破産法第53条第1項の規定に基づき,解除した。しかし,出来高がいまだ85%に過ぎなかったため,A社は,Yに対し,既にX社に支払った本件請負契約に基づく請負代金9億円のうち,出来高の未達成部分である5000万円の返還を請求した。
 ⑴ A社のYに対する請負代金返還請求権の破産手続における法的性質について,論じなさい。
 ⑵ A社は,請負代金の返還を求めるに当たり,X社の破産財団が換価手続中であり,いまだ資金がない状態であると考え,連帯保証人であるB銀行に対し,保証債務の履行を求めたため,B銀行は,この連帯保証債務を履行し,5000万円の求償債権を有するに至った。この場合において,B銀行のYに対する権利行使の方法について,論じなさい。


この年は,第1問が民再だったので,

破産は第2問に回されています。

このフェイクというかトラップというかはなんなんですかね。

普通に第1問で破産出せよっていう感じです。

≪答案≫
第1 設問1
 1 小問⑴
 X社とD社との間の本件下請契約は請負契約(民法632条)であり,マンションの工事も報酬の支払も一部未履行となっているから,双方未履行双務契約として破産法53条1項がてきようされるのが原則である。もっとも,X社はその注文者であって,破産手続を開始しており,本件下請契約を解除しているから,請負契約における注文者の破産に関する民法642条の規定が適用される。同条による解除は,出来高部分にはその効果が及ばないから,D社の有する請負代金請求権の行使方法については,マンションの出来高部分に関する部分と未履行の部分とに分けて検討する。
 まず出来高部分については,「請負人は,既にした仕事の報酬……について,破産財団の配当に加入することができる」とされている(民法642条1項後段)。D社は,X社の破産手続開始時までに,工事全体の85%を完成させており,それに相当する額のうち,9000万円の支払を受けていないのであるから,9000万円について破産債権として行使することができる。破産債権は,破産手続によらなければ行使することができず(破産法100条1項),D社としては,当該債権を破産債権として届出を行う(破産法111条1項)。
 次に未履行部分については,その対価としての報酬は「既にした仕事の報酬」にはあたらないから,民法642条1項後段による破産債権としての行使をすることはできない。しかし,この場合には,請負人としては,工事の完成により得べかりし利益がある場合には,これを損害として,その賠償を請求することができる(民法642条2項)。そうすると,D社に,仮に得べかりし利益があった場合には,これを破産債権として届出をすることができる。
 2 小問⑵
 上記のように,X社とD社とは請負契約を締結しているから,破産管財人Yのみならず,請負人であるD社もこれを解除できるのであるから(民法642条1項前段),本件下請契約に基づく建築工事が継続されることは,双方の解除権が放棄されたことを意味する。そして,この場合には,民法642条の適用はなく,原則通り,破産法53条の規定によることとなり,これに基づいて履行選択がされたものと考えることができる。
 破産管財人による履行選択がされた場合には,この後にされたD社による下請工事に係る報酬請求権は,財団債権として扱われる(破産法148条1項7号)。
 これに対して,破産管財人による履行選択がされるまでに発生した報酬請求権がどのように扱われるかは,明文の規定がなく問題となる。この点,本件下請契約の一体性を重視すれば,履行選択後の報酬請求権と履行選択前の報酬請求権とは不可分であるから,一体的に破産法148条1項7号の適用を受けると考えることもできる。しかし,破産法148条1項7号の趣旨は,破産手続が開始した後にもあえて契約関係を存続させることによる相手方に対する負担に鑑みて,衡平の観点から特に履行選択後の反対債権を財団債権として保護するものである。そうすると,一個の契約に基づく債権であっても,その支払時期が分割されているなどの特約がある場合には,可分な債権として扱うことができるから,履行選択後に支払時期が到来する債権についてのみ財団債権となると考えるべきである。X社とD社との間では,「毎月末日に出来高を確認して翌日末日にその出来高相当額を支払う」という条件が付されているから,債権の支払時期が特約により分割されている。そうすると,可分な債権として,履行選択後に支払時期が到来する部分のみが財団債権となるから,それ以前に発生した報酬請求権は,破産債権として行使し得るにすぎない。
第2 設問2
 1 小問⑴
 本件請負契約は,特に代替性が認められないものではないから,Yは本件請負契約を破産法53条1項により解除することができる(※1)。この場合には,A社の支払済みの請負報酬の内金から工事出来高部分を控除した残額である5000万円については,「反対給付が破産財団中に現存するとき」にあたるから,破産法54条2項前段に基づき財団債権としてその返還を求めることができる(※2)
 2 小問⑵
  ⑴ B銀行が取得したX社に対する5000万円の求償債権は,X社の破産手続開始前に締結されたA社との保証契約に基づく保証債務の履行の結果として取得したものであるから,「破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」であって,破産債権(破産法2条5項)である。そうすると,B銀行が,求償債権として5000万円の請求権を行使する場合には,破産手続による必要があるから,これの届出を行う必要がある。
  ⑵ また,B銀行は,A社との間で保証契約を締結した者であり,「正当な利益を有する者」として,X社に代わって,A社に対して5000万円の支払を行っているため,弁済による代位(民法500条)により,A社のX社に対して有する原債権である5000万円の返還請求権も取得している。この債権は,A社が行使する限りは,上記のように財団債権として扱われるものであるが,これをB銀行が行使する時にも財団債権として行使することができるのかが問題となる。
 この点,原債権は,求償債権を担保するものであるから,求償債権が破産債権としてしか行使し得ない以上,担保としての性質しか有しない原債権に破産債権としての性質以上のものを付与することは妥当でないとし,破産債権としてのみ行使し得るとする考え方もあり得る。しかし,破産手続上,原債権の行使自体は制約されていない以上,これを破産債権としてしか行使し得ないとする根拠はない。また,他の破産債権者は原債権者による財団債権としての行使を甘受せざるを得ない立場にあったのであるから,原債権を財団債権として行使することを許容しても,不当に不利益を被るということはできない。したがって,弁済による代位により財団債権を取得した者は,同人が破産者に対して取得した求償権が破産債権にすぎない場合であっても,破産手続によらないで上記財団債権を行使することができるというべきである(※3)
 そうすると,B銀行は,求償債権が破産債権であるにもかかわらず,原債権が財団債権としての性質を有することをもって,5000万円の債権を破産手続によらずして行使することができる(破産法2条7項)。
以 上

(※1)最判昭和62年11月26日民集41巻8号1585頁「法59条[現行破産法53条]は,請負人が破産宣告を受けた場合であっても,当該請負契約の目的である仕事が破産者以外の者において完成することのできない性質のものであるため,破産管財人において破産者の債務の履行を選択する余地のないときでない限り,右契約について適用される」
(※2)前掲最判昭和62年11月26日
(※3)最判平成23年11月22日民集65巻8号3165頁多数意見




2019-02-07(Thu)

【新司】倒産法平成25年第1問

そんなわけで,刑法事例演習教材をもうすぐ1周し終わるんですが,

なんでもっと早くやっておかなかったんだろうと思いますよね。

予備論文も口述も,全部ここに書いてあるじゃないですか。

失敗しましたね。

本自体は学部のときに購入してあったので,やろうと思えばもっと早くからやれたんですがね。

過去の自分最低ですね。

ところで,今日は平成25年倒産法です(唐突)。

≪問題≫
〔第1問〕(配点:50)
 次の事例について,以下の設問に答えなさい。
 【事 例】
 精密機械の製造等を営む取締役会設置会社であるA株式会社(以下「A社」という。)は,経営不振となり,その財産をもって債務を完済することができない状態に陥ったため,再生手続開始の原因があるとして,平成24年4月5日に再生手続開始の申立てを行ったところ,同日中に監督命令を受け,同月10日,再生手続開始の決定を受けるに至った。

 〔設 問〕 以下の1及び2については,それぞれ独立したものとして解答しなさい。
1.A社は,平成22年4月1日,B株式会社(以下「B社」という。)との間で,精密機械の製造に使用するための機械設備(以下「」本件設備」という。)を目的として,契約期間を8年とし,フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約(以下「本件リース契約」という。)を締結し,その後,B社から本件設備の引渡しを受けて使用するとともに,本件リース契約の約定に従い,毎月末日にリース料を支払ってきた。本件リース契約には,A社が1回でもリース料の支払を怠った場合に関し,A社は,期限の利益を喪失し,また,B社は,本件リース契約を解除し,本件設備を引き揚げることができるとの約定がある。
 A社は,嗄声性手続開始の申立ての準備に伴う混乱から,再生手続開始の決定の前である平成24年3月末日を支払期日とするリース料の支払いを怠ってしまったものの,再生手続開始の決定の後,B社との間で,改めて本件設備を継続して使用することができるよう,協議を行ってきた。しかし,B社からは,本件設備の使用による減価が著しいことから,同年3月末日支払分を含めたリース料の残りの全額を支払うことができないのであれば,一日も早く引き上げたいとの意向を示されており,このままでは,B社から本件リース契約を解除されるおそれがある。
 本件設備は,A社の事業の継続に不可欠な設備であり(なお,本件設備には,他に何らの担保権等の設定はない。),また,B社以外の者から新たにリース契約等を締結することによって同等の設備を調達することも困難であることから,A社としては,債務不履行を理由にB社から契約を解除され,本件設備を引き揚げられてしまう前に,本件設備を継続的に使用することができるよう,B社とのごういを成立させたいと考えている。
 以上の場合において,A社の依頼を受けた弁護士として,当該合意を成立させるべく,B社との間の協議を行う機会を確保するため,どのような申立てをすべきであるかについて,A社が申立てをした場合の裁判所における審理の方法に関する問題点にも触れつつ,論じなさい。また,既にB社が解除の意思表示を行い,A社に本件設備の引渡しを求めているとして場合に違いが生ずるかどうかについて,B社の権利行使の方法にも触れつつ,論じなさい。
2.C株式会社(以下「C社」という。)は,A社に精密機械の部品を供給している会社であり,A社に対して再生債権として売掛金債権を有している者であるが,かねてより,A社の技術力を高く評価していたため,A社の経営の再建に当たり,そのスポンサー候補として,名乗りを上げた。
 A社の経営は,創業者の息子であり,その全ての株式を保有する代表取締役Dがその実権を把握していたが,今般のA社の経営不振は,Dが採算性を十分に考慮することなく,他の分野に業務を拡大し,多額の赤字を出したことが主たる原因であった。そこで,C社は,A社に資金を供給するに当たり,Dの取締役からの退任を求めるとの方針の下,A社との間の交渉に入った。しかし,A社は,Dの退任を拒否し,C社との間の交渉を打ち切った上で,スポンサーを得ることなく,自ら経営を合理化し,今後の経営によって得られる利益から再生債権の弁済を行うという再生計画案を作成し,裁判所に提出した。
 C社は,A社の大口債権者であるE銀行などの複数の再生債権者が,Dが引き続きAA社の経営に当たることは望ましくなく,C社がスポンサーとなることが再生債権者全体の利益になるとして,C社がスポンサーとなるのであれば,支援をする旨を伝えられた。そこで,C社は,A社の作成した再生計画案に対抗するため,届出再生債権者案として,A社がその事業を1億円でC社に譲渡し,A社は,当該事業譲渡の代金を弁済原資として,再生計画認可の決定の確定から3か月後に再生債権額の8%を弁済し,弁済時にその余の再生債権額については免除を受けるとの内容の再生計画案を作成し,裁判所に提出した。
 その後,債権者集会において,A社が提出した再生計画案は否決され,他方,C社が提出した再生計画案が可決され,裁判所は,再生計画認可の決定をした。
 しかし,A社は,当該再生計画認可の決定があった後も,当該事業譲渡の実施を拒み,株主総会を開催しようともしない。
 以上の場合において,C社は,A社の再生手続が廃止されることを避けるため,どのような申立てをすべきかについて,論じなさい。


なんか,倒産法の問題って毎回毎回なんとなくリアルですよね。

そりゃ実務家の先生も入って問題作ってるんだから,そうなんでしょうけど,

自分が実務に出てからも普通にありそうな事例ですよね。

特に設問2とか,中小企業の経営者であれば結構いそうじゃないですか。

知らんけど。

っていうか,なんで第1問から民再なんですか。

≪答案≫
第1 設問1
 1 前段
  ⑴ A社としては,本件設備がB社によって引き上げられないよう,担保権の実行手続の中止命令(民再法31条)の申立てをすべきである。
 フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約は,リース期間満了時にリース物件に残存価値はないものとみて,リース業者がリース物件の取得費その他の投下資本の全額を回収できるようにリース料が算定されているものであって,その実質はユーザーに対して金融上の便宜を付与するものである(※1)。そうすると,本件リース契約は,消費貸借契約の一形態であって,その返済が滞ったときに,本件設備を引き上げることを担保とするものである。したがって,債務不履行時に本件設備を引き上げることは,担保権の実行としてみることができる。A社としては,本件設備が引き上げられるのを阻止したいのであるから,これを中止させるためには担保権の実行手続の中止命令の申立てをすることとなる。もっとも,リース物件の引上げは,民再法53条1項に規定された「担保権」ではないが,上記のように実質的に担保権と同様の役割を果たしているから,民再法31条を類推適用し,その実行の中止命令を申し立てる。
  ⑵ 本件設備は,A社の事業の継続に不可欠な設備であり,B社以外の者から新たにリース契約等を締結することによって同等の設備を調達することも困難であるとされているから,担保権実行手続を中止しなければ,A社は事業を継続することができず,再建が著しく困難になる。したがって,本件設備の引上げを阻止することは,A社の再建の上で必要不可欠であって,これを事業に用いることにより,A社が再建し,再生計画に定める弁済を行うことができるようになるから,清算価値保障原則の観点からも,「再生債権者の一般の利益に適合」するといえる。また,A社は,B社に対し,平成24年3月末日分のリース料の支払いを怠っているが,A社はこれまでにリース料の支払いを怠ったことはなく,同月末日分のリース料も支払うことができなかったわけではなく,たまたま支払忘れてしまっただけであって,将来的なリース料の支払をすることができないことを意味するものではない。また,本件設備は,当初の合意と同様に精密機械の製造ために用いられるものとされているから,中止命令前後で使用態様が変わるものではなく,中止命令による特段の損害を生じさせるものではないから,B社に「不当な損害を及ぼすおそれがないものと認めるとき」にあたる。したがって,本件設備の引上げに対する担保権の実行手続の中止命令の申立ては,その発令要件を満たしている。
  ⑶ なお,この手続によると,裁判所は,B社の「意見を聴かなければならない」とされている(民再法31条2項)。そうすると,B社に対する必要的審尋において,B社が解除権を行使する機会を与えてしまう可能性がある。そこで,これを避けるために,裁判所としては,必要的審尋の手続をとらずに中止命令を発令することが考えられる。
 民再法31条2項の趣旨は,裁判所が競売申立人の意見を聴き,同条1項の要件を充足するかを判断するためにされるものである。しかし,ここでの審尋は,典型担保のように,その実行に一定の時間を要する場合を前提に,その間を利用して審尋を行うこととしたものであり,非典型担保のようにその実行に時間がかからない場合はそもそも同項の前提が欠ける。そこで,実行に時間を要しない担保権の実行手続の中止命令を発令するにあたっては,必要的審尋の手続をとることを要しないものと考える。
 これを本件についてみると,B社の担保権の実行は,解除権の意思表示をもって終了するのであるから,時間を要するものではない。そのため,裁判所は,B社による本件設備の引上げの中止命令を出すにあたり,必要的審尋を行わないこととすることができる。
 2 後段
 B社が解除の意思表示を行い,本件リース契約が解除された場合には,A社の本件設備に対する利用権は消滅し,B社に完全な所有権が復帰することとなる。そうすると,B社が解除の意思表示をした時点で,本件設備に対する担保権の実行は終了しており,B社が解除の意思表示を行った後にする本件設備の引上げは,その所有権に基づくものであるから,取戻権(民再法52条)の行使となる。したがって,この場合には,もはや担保権実行手続の中止命令を発令することはできない。
第2 設問2
 1 A社は,A社がその事業を1億円でC社に譲渡する内容の再生計画が裁判所において認可されたにもかかわらず,その内容たる事業譲渡の実施を拒んでいるため,「再生計画が遂行される見込みがないことが明らかになった」として,再生手続が廃止されるおそれがある(民再法194条)。
 2 そこで,まずC社としては,管理命令(民再法64条1項)の申立てをすることが考えられる。「再生債務者」であるA社の経営は代表取締役のDが実権を把握している状態であるが,A社が経営不振に陥ったのは,まさにDが採算性を十分に考慮することなく業務を拡大したことにあるから,「再生債務者の事業の再生のために特に必要がある」場合にあたる。したがって,裁判所は,管理命令を発令し,A社の財産の管理処分を管財人に行わせることとする(民再法66条)。
 3⑴ 次に,上記管理命令によって選任された管財人により,A社の事業の譲渡を実行することが考えられる。しかし,事業を譲渡するにあたっては,原則として株主総会の特別決議が必要であるが(会社法467条1項1号,309条2項11号),A社の株主はD一人のみであるところ,DはA社の代表取締役として事業譲渡を拒んでいる立場であるから,株主総会による事業譲渡の決議をすることは不可能であると考えられる。そこで,管財人としては,裁判所に対して,株主総会の決議による承認に代わる許可を求めることが考えられる(民再法43条1項)。
  ⑵ A社は,「その財産をもって債務を完済することができない」状態に陥っている。
 「当該事業等の譲渡が事業の継続のために必要である場合」とは,当該事業が譲受人のもとで再生することが見込まれるという意味で事業譲渡が必要な場合を含む(※2)。A社は,Dの経営能力がなかったことから経営不振に陥っているのであるから,A社の事業を再生するためには,A社から当該事業を切り離す必要がある。そして,A社の大口債権者であるE銀行などの複数の再生債権者は,C社がスポンサーとなるのであれば,支援をする旨を伝えているのであるから,譲受人であるC社のもとであれば,取引が継続し,事業が再生することが見込まれる。したがって,A社の事業を譲渡することは,「当該事業等の譲渡が事業の継続のために必要である場合」にあたる。
  ⑶ よって,裁判所は,事業譲渡に係る代替許可をすることができる。
以 上

(※1)最判平成7年4月14日民集49巻4号1063頁
(※2)「許可の要件は,『当該再生債務者の事業の再生のために必要である』ことである(民再42条1項後段)。これは,再生債務者自身が経済的に再生するために当該事業を切り離すことによって,当該事業が譲受人のもとで再生することが見込まれるという意味で事業譲渡が必要な場合を含む。これは,民事再生法が,営業ないし事業の全部譲渡をも想定しており,必ずしも再生債務者のもとでの事業再生のみを目的としているわけではないことから正当化される。したがって,再生債務者自身は当該事業に関する取引先の信用を失っているが,譲受人のもとで営業をすれば取引が継続し,事業が再生することが見込まれるといった場合も,事業譲渡を認めるべき適例とされている。」山本和彦ほか『倒産法概説第2版補訂版』421頁



プロフィール

||中央特快||高尾||

Author:||中央特快||高尾||
お疲れ様です。

最新記事
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
訪問者数
カレンダー
03 | 2021/04 | 05
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード