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2019-04-02(Tue)

【基礎演習民事訴訟法】問題20「類似必要的共同訴訟」

すごい寝坊により午前中を溶かしました。

これはいけませんねえ。

≪問題≫
省略


昨日固有必要的共同訴訟をやりましたので,今日は類似必要的共同訴訟です。

固有の方と違って解説が読みやすかったです。

これは固有の方の解説がよくなかったのか,

それともちょうどそのとき私の頭がまわっていなかっただけなのかは分かりません。

分かんないけど多分前者です。

≪答案≫
第1 設問1
 1 Bの訴訟とCの訴訟とが必要的共同訴訟(民訴法40条1項)とされるのであれば,これらを別々の手続で進行させることはできなくなるため,この点について検討する。
 2 類似必要的共同訴訟とは,訴訟物たる権利関係の性質から確定判決の既判力が他の訴訟追行権者に対して拡張されるため,共同訴訟人独立の原則(同法39条)が排除される訴訟形態である。この場合,当事者適格そのものは各当事者に認められるため,常に共同訴訟人たるべき者の全員が当事者となる必要はないが,既判力が他の当事者たるべき者に拡張されることから,共同訴訟人ごとに異なる判決が出されると既判力の矛盾抵触を生じさせることとなり,紛争の統一的解決にとって望ましくない。したがって,既判力が共同訴訟人たるべき者に拡張される場合には,類似必要的共同訴訟となる(※1)
 これを本件についてみると,Bの訴訟もCの訴訟も,いずれも同一の株主総会の決議取消しの訴え(会社法831条1項)であるから,「会社の組織に関する訴え」にあたるため(同法834条17号),その請求を認容する確定判決の既判力は第三者に対しても及ぶとされている(同法838条)。この点,片面的な判決効拡張の場合には,一方の訴訟で判決が確定した場合には,他方の訴訟でも原告の請求認容となるはずであるから,判決効の衝突は起こらないため,類似必要的共同訴訟の根拠はあたらないとすることも考えられる。しかし,判決の結論が認容か棄却かは,審理の時点ではあらかじめ予測できないのであって,原告の勝訴と敗訴が同時に確定し,又は一方の原告の敗訴確定後に他方の原告の勝訴となる場合もあるのであるから,なおも既判力の矛盾抵触の可能性は残されている(※2)。したがって,株主総会取消しの訴えは類似必要的共同訴訟として扱われる。
 3 そうすると,BとCは,共同して訴訟を追行する必要があるから,これを別々の手続で進行させることはできない。
第2 設問2
 Bの訴訟とCの訴訟が併合されれば,類似必要的共同訴訟となるから,必要的共同訴訟の規律が妥当する(民訴法40条)。この点,仮にCが単独で追行する訴訟においてCが死亡した場合には,その訴訟手続は中断し,Cの相続人等がこれを受継することとなる(同法124条1項1号)。これは,受継すべき者が,受継をして訴訟追行をするための準備の期間を与えるものである。もっとも,Cに訴訟代理人がある場合には,引き続き当該訴訟代理人が訴訟追行すれば足り,相続人等が受継のための準備する期間を与える必要がないため,訴訟手続は中断しない(同条2項)。
 本件のように必要的共同訴訟とされる場合において,共同訴訟人の一人について訴訟手続の中断の原因があるときには,共同訴訟人の全員との関係で訴訟手続が中断する(同法40条3項)。なぜなら,前記の類似必要的共同訴訟の根拠から,共同訴訟人間において手続の進行が統一されなければならないところ,そのうちの一人に訴訟追行ができない事由があるのであれば,この者との手続進行の統一を図るためには全員との関係で手続進行を中断しなければならないからである。
 そうすると,本件では,Cに訴訟代理人がある場合には,中断の原因がないため,訴訟手続に影響はないが,Cに訴訟代理人がない場合には,中断の原因があるため,訴訟手続はBとの関係でも中断する。
第3 設問3
 まず,上訴は,原判決よりも有利な判決を求めて再審理を要求するものであるから,民訴法40条1項の「利益」になる行為であるとして,上訴をしなかった者も上訴人になるとする見解がある(※3)。しかし,敗訴判決を受けた上訴しなかった者は,訴訟活動を続行する意思を失っており,その者を上訴人として取り扱い続けることは実情に合わないばかりか,これらの者に上訴審当事者としての権利義務を課することはかえって不当であり,訴訟経済に反する(※4)(※5)
 類似必要的共同訴訟において共同訴訟人の一部の者が上訴すれば,それによって原判決の確定が妨げられ,当該訴訟は全体として上訴審に移審し,上訴審の判決の効力は上訴をしなかった共同訴訟人にも及ぶところ,類似必要的共同訴訟で要求される合一確定の要請は,前記の限度で上訴の効力が生ずれば足りるものである。そして,共同訴訟人各人の個別的な利益が直接問題となっているなどの特段の事情がない限り,提訴後に共同訴訟人の数が減少しても,その審判の範囲,審理の態様,判決の効力等には影響がない。したがって,前記の特段の事情がない限りは,自ら上訴をしなかった者は,上訴人にならない(※6)(※7)(※8)(※9)(※10)
 これを本件についてみると,株主総会取消しの訴えは,取消事由として規定される瑕疵によって公正な決議が妨げられたかもしれないことを是正するための手段であるうえ,会社法831条1項はその文言上「株主」の範囲を自己の利益を問題とする者に限定していない(※11)。そうすると,株主総会取消しの訴えは,実質的には他の株主全体を代表して提起追行する訴訟であって,共同訴訟人各人の個別的な利益が問題となっているものではない。そうすると,本件において,前記のような特段の事情はないのであるから,上訴をしなかった者を上訴人として取り扱う必要はないというべきである。
 したがって,Cは控訴審において控訴人とはならない。

以 上


(※1)「法は,必要的共同訴訟の成立要件として『訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合』と規定する(40Ⅰ)。ここでいわれる合一確定の必要は,訴訟物たる権利関係に関する判決を矛盾なく統一すべき必要といいかえられるが,その内容は以下のように分析される。」「第2は,訴訟物たる権利関係の性質から確定判決の既判力が他の訴訟追行権者に対して拡張される場合である。すなわち,権利関係についての訴訟追行権自体は,共同訴訟人たるべき各人に帰属するが,1人の共同訴訟人に対する判決の既判力が他の共同訴訟人に対して拡張されることから,既判力の抵触を防ぐ目的で判決内容の合一性が要請される。したがって,この場合にも共同訴訟人独立の原則は全面的に排除されるが,固有必要的共同訴訟と異なって,常に共同訴訟人たるべき者の全員が当事者とされなければならないわけではない。これが類似必要的共同訴訟である。」「固有必要的共同訴訟の場合には,当事者適格が共同で行使されなければならないことから判決の合一確定の必要がある。これに対して類似必要的共同訴訟の場合には,当事者適格そのものは,各当事者に認められるが,ある当事者に対する既判力が他の当事者たるべき者に拡張されるところから,合一確定の必要が生じる。すなわち,共同訴訟人独立の原則を適用すると,判決の内容が共同訴訟人ごとに異なる可能性が生じ,また,裁判所の弁論の分離によっても同様の可能性が生じる。しかし,共同訴訟人の1人に対する判決の既判力が他の共同訴訟人のについて拡張されることを前提とすると,このような可能性は,既判力の抵触を生じさせることになり,紛争の統一的解決にとって望ましいとはいえない。そこで,このような類型の訴訟においては,固有必要的共同訴訟と同様に共同訴訟人独立の原則が排除される。」伊藤眞『民事訴訟法〔第4版補訂版〕』623頁
(※2)「人事訴訟の場合には,請求認容判決の既判力も棄却判決の既判力も第三者に拡張されること(人訴24Ⅰ)が根拠とされるのに対して,会社関係訴訟の場合には,請求認容判決の既判力のみが拡張されること(会社838)が根拠となる。後者の場合でも,判決の結論が認容か棄却かは,審理の時点ではあらかじめ予測することはできないので,ありうべき認容判決の既判力の拡張可能性が合一確定の必要を基礎づける。」前掲伊藤630頁注40
(※3)「本件訴訟のように普通地方公共団体の数人の住民が当該地方公共団体に代位して提起する地方自治法二四二条の二第一項四号所定の訴訟は、その一人に対する判決が確定すると、右判決の効力は当該地方公共団体に及び(民訴法二〇一条二項)、他の者もこれに反する主張をすることができなくなるという関係にあるのであるから、民訴法六二条一項にいう「訴訟ノ目的カ共同訴訟人ノ全員ニ付合一ニノミ確定スヘキ場合」に当たるものと解するのが相当である。そうすると、本件訴訟を提起した一五名の第一審原告らのうち本件上告人ら五名がした第一審判決に対する控訴は、その余の第一審原告らに対しても効力を生じ(民訴法六二条一項)、原審としては、第一審原告ら全員を判決の名宛人として一個の終局判決をすべきところであつて、第一審判決に対する控訴をした本件上告人らのみを控訴人としてされた原判決は、違法であることが明らかである。」最判昭和58年4月1日民集37巻3号201頁
(※4)「そもそも、必要的共同訴訟において共同訴訟人の一部の者が上訴すればそれによつて他の者も上訴人としての地位に就くものと一般に解されているのは、要するに、本来合一的にのみ確定されるべき性質を持つ判決が区区になることを避けるための方法としてであるにほかならない。しかしながら、右のような目的のためには、必ずしもあらゆる場合において一部の共同訴訟人が上訴すれば他の者も上訴人としての地位に就くものとする必要はないばかりか、自ら上訴をせず上訴追行の意思を有しない者にも上訴人としての地位を付与し自ら上訴した者と同様の上訴審当事者としての権利、義務を課することはかえつて不当でもあり、訴訟経済に反するところでもある。」前掲最判昭和58年4月1日木下忠良反対意見
(※5)[前掲最判昭和58年4月1日]によれば,上訴審としては,上訴しなかった者も上訴人として取り扱い準備書面を送達したり,期日の呼出しをしたりす必要があるほか,判決に当事者として表示した上,その送達をしなければならない。しかし,実際には,敗訴判決を受けた上訴しなかった者は,訴訟活動を続行する意思を失っており,その者を上訴人として取り扱い続けることは実情に合わない面がある。そこで,[前掲最判昭和58年4月1日]の後は,むしろ訴えの取下げを勧告して,訴訟関係から完全に離脱させるように促すのが,一般的な取扱いとなっていた。ところが,上訴をした共同原告や訴訟代理人を通じて上訴をしなかった者と連絡をとることが困難であったり,両者の信頼関係が失われているため,取下げの手続を執ることが容易でない場合があるという問題があり,他方,万一このことを看過すれば,判決の内容に全く問題がない場合でも,破棄差戻しの理由にならざるを得ないこととなってしまう。」最判解民事篇平成9年度(中)577頁
(※6)「類似必要的共同訴訟については、共同訴訟人の一部の者がした訴訟行為は、全員の利益においてのみ効力を生ずるとされている(民訴法62条1項)。上訴は、上訴審に対して原判決の敗訴部分の是正を求める行為であるから、類似必要的共同訴訟において共同訴訟人の一部の者が上訴すれば、それによって原判決の確定が妨げられ、当該訴訟は全体として上訴審に移審し、上訴審の判決の効力は上訴をしなかった共同訴訟人にも及ぶものと解される。しかしながら、合一確定のためには右の限度で上訴が効力を生ずれば足りるものである上、住民訴訟の前記のような性質にかんがみると、公益の代表者となる意思を失った者に対し、その意思に反してまで上訴人の地位に就き続けることを求めることは、相当でないだけでなく、住民訴訟においては、複数の住民によって提訴された場合であっても、公益の代表者としての共同訴訟人らにより同一の違法な財務会計上の行為又は怠る事実の予防又は是正を求める公益上の請求がされているのであり、元来提訴者各人が自己の個別的な利益を有しているものではないから、提訴後に共同訴訟人の数が減少しても、その審判の範囲、審理の態様、判決の効力等には何ら影響がない。そうであれば、住民訴訟については、自ら上訴をしなかった共同訴訟人をその意に反して上訴人の地位に就かせる効力までが行政事件訴訟法7条、民訴法62条1項によって生ずると解するのは相当でなく、自ら上訴をしなかった共同訴訟人は、上訴人にはならないものと解すべきである。この理は、いったん上訴をしたがこれを取り下げた共同訴訟人についても当てはまるから、上訴をした共同訴訟人のうちの一部の者が上訴を取り下げても、その者に対する関係において原判決が確定することにはならないが、その者は上訴人ではなくなるものと解される。」最判平成9年4月2日民集51巻4号1673頁
(※7)「類似必要的共同訴訟において共同訴訟人の一部の者が上訴すれば、それによって原判決の確定が妨げられ、当該訴訟は全体として上訴審に移審し、上訴審の判決の効力は上訴をしなかった共同訴訟人にも及ぶと解される。しかしながら、合一確定のためには右の限度で上訴が効力を生ずれば足りるものである上、取締役の会社に対する責任を追及する株主代表訴訟においては、既に訴訟を追行する意思を失った者に対し、その意思に反してまで上訴人の地位に就くことを求めることは相当でないし、複数の株主によって株主代表訴訟が追行されている場合であっても、株主各人の個別的な利益が直接問題となっているものではないから、提訴後に共同訴訟人たる株主の数が減少しても、その審判の範囲、審理の態様、判決の効力等には影響がない。そうすると、株主代表訴訟については、自ら上訴をしなかった共同訴訟人を上訴人の地位に就かせる効力までが民訴法40条1項によって生ずると解するのは相当でなく、自ら上訴をしなかった共同訴訟人たる株主は、上訴人にはならないものと解すべきである」最判平成12年7月7日民集54巻6号1767頁
(※8)「株主代表訴訟は,……個々の株主が共益権に基づいて,実質的には他の株主全体を代表して,形式的には第三者の法定訴訟担当として提起追行する類似必要的共同訴訟であるところ,個々の株主にとっての個別的具体的利益が直接問題となるものではなく,原告株主の数が提訴後に減少しても,審判の範囲,審理の態様,判決の効力には格別差違を生じない点や,株主全体の代表として訴訟を追行する意思を失った者に対して上訴人の地位に就き続けることを求めることが相当でないという点では,住民訴訟と基本的に変わる所はないと思われる」最判解民事篇平成12年度(下)620頁
(※9)「数人の提起する養子縁組無効の訴えは,いわゆる類似必要的共同訴訟と解すべきであるところ……,記録によれば,上告人兼申立人が本件上告を提起するとともに,本件上告受理の申立てをした時には,既に共同訴訟人であるX1が本件養子縁組無効の訴えにつき上告を提起し,上告受理の申立てをしていたことが明らかであるから,上告人の本件上告は,二重上告であり,申立人の本件上告受理の申立ては,二重上告受理の申立てであって,いずれも不適法である。」最決平成23年2月17日家月63巻9号57頁
(※10)「本件の養子縁組無効の訴えでは,X1とX2にとって,自己の個別具体的な利益が直接に問題となっており,また,訴訟担当として訴訟追行するという関係にもないのであって,上記の二つの最高裁判決[前掲最判平成9年4月2日及び前掲最判平成12年7月7日]の類似必要的共同訴訟についての考え方が当てはまるとは決していえない。」判タ1375号49頁
(※11)「招集手続の瑕疵が決議取消しの事由とされているのは,手続瑕疵のそれ自体に対する非難というよりむしろその瑕疵によって公正な決議の成立が妨げられたかも知れぬことを是正するためである……。そして,会社法831条1項は,その文言上提訴株主について決議に対する異議を述べた,自分自身の利益が害されたなどといった要件を設けておらず,『株主』一般に対して決議取消し訴訟提起権を与えている……。さらにまた,それらに加えて総会決議取消しの訴えが法定[ママ]・定款を遵守した会社運営を求めるという基本的性格を有する訴訟であるため,株主によるコーポレート・ガバナンスを実現する重要な措置として位置づけられることを考え合わせると,他の株主に対する招集手続の瑕疵を理由にして株主が決議取消しの訴えを提起し得ると解することは妥当である。」岩原紳作ほか『会社法判例百選〔第3版〕』77頁



2019-04-01(Mon)

【基礎演習民事訴訟法】問題19「固有必要的共同訴訟」

「令和」の発表会見は,

リアルタイムで家で見ていたんですが,

ガースーのドヤ顔というかニヤケ顔がすごかったですね。

どういう気持ちだったんでしょうか。

その気持ちを探るべく,

そして,

あのドヤ顔を追体験できるように,

オリジナル「令和」を作成しました。

S__14696450.jpg

研究室にちゃんと飾ってあります。

ところで,今回は,基礎演習の19問目です。

≪問題≫
省略


固有必要的共同訴訟です。

今までは,どうせみんな出来ないだろみたいな感じで,

適当な論証でごまかしていましたが,

やっぱり論パに頼らずに,ちゃんと勉強しておかないといけないですよね。

まぁでも,そもそも論パ使ってないんですけどね。

≪答案≫
1 X1~47は,X1~47及びZ1~3が土地甲について入会権を有していることの確認の訴え(以下「本件訴訟」という。)を,Z1~3を除いて提起している。本件訴訟が固有必要的共同訴訟であれば,入会権を有するとされるZ1~3が訴訟に関与しないことは許されず不適法となるため,固有必要的共同訴訟にあたるかどうかについて検討する。
2 固有必要的共同訴訟とは,当事者適格にもとづく訴訟追行権が共同でのみ行使される以上,共同訴訟人がなす訴訟行為の間に相互に矛盾を生じさせることが許されず,その結果として判決の合一性が確保される訴訟形態である。そして,当事者適格は,特定の訴訟物について,誰が当事者として訴訟を追行し,また,誰に対して本案訴訟をするのが紛争の解決のために必要で有意義であるかという観点から決せられるところ,当事者適格の基礎となる管理処分権や法律上の利益が多数人に共同で帰属し,その帰属の態様から判決内容の合一性が要請される場合には,その全員が当事者として追行し本案判決を受けなければ紛争は解決しないから,この場合には当事者適格にもとづく訴訟追行権が共同でのみ行使されるため,固有必要的共同訴訟となる(※1)(※2)
 これを本件についてみると,入会権は入会集団の構成員に総有的に帰属するものであるから,ある土地上に入会権が成立することの確認を求めるときには,原告適格の基礎となる入会権についての管理処分権は,入会権者全員に共同で帰属しているため,固有必要的共同訴訟である(※3)(※4)。したがって,土地甲に入会権を有する構成員全員で共同して訴訟を提起する必要があるため,その構成員であるZ1~3を当事者として加えずに土地甲の入会権の確認を求める訴えを提起することは,不適法である。
3 そうすると,X1~47としては,Z1~3を本件訴訟に当事者として加えなければならないが,Z1~3がこれに同調しない以上,原告として加えることはできない。そこで,Z1~3を被告として当事者に加えることにより,訴訟共同の要請を満たすことはできないか。
 入会集団の構成員のうちに入会権の確認を求める訴えを提起することに同調しないものがいる場合であっても,入会権の存否について争いがあるときは,民事訴訟を通じてこれを確定する必要があるため,入会権の存在を主張する構成員の訴権は保護されなければならない。そして,固有必要的共同訴訟においては,判決内容の合一確定が要請されるため,全員の関与が必要であるとされているところ,原告であるか被告であるかにかかわらず,当事者である以上当該判決の効力を受けることとなるから(民訴法115条1項1号),被告として加えることによっても固有必要的共同訴訟の目的は達成される。また,構成員全員が訴訟の当事者として関与しているのであれば,判決の効力を構成員全員に及ぼしても,構成員の利益が害されることはない。したがって,入会集団のうちに入会権確認の訴えを提起することに同調しないものがいる場合には,入会権の存在を主張する構成員が原告となり,同訴えを提起することに同調しない者を被告に加えて,同訴えを提起することも許される(※5)
 本件でも,X1~47が土地甲の入会権の確認を求める訴えを提起するには,これに同調しないZ1~3を被告として加えて,同訴えを提起することができる。

以 上


(※1)「法は,必要的共同訴訟の成立要件として『訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合』と規定する(40Ⅰ)。ここでいわれる合一確定の必要は,訴訟物たる権利関係に関する判決の内容を矛盾なく統一すべき必要といいかえられるが,その内容は以下のように分析される。」「第1は,当事者適格の基礎となる管理処分権や法律上の利益が,多数人に共同で帰属し,その帰属の態様から判決内容の合一性が要請される場合である当事者適格にもとづく訴訟追行権が共同でのみ行使される以上,共同訴訟人がなす訴訟行為の間に相互に矛盾を生じることは許されず,その結果として判決内容の合一性が確保される。この類型が固有必要的共同訴訟と呼ばれるものであり,判決内容の合一性を確保するために共同訴訟人独立の原則が排除されるだけでなく,共同訴訟人たるべきものの一部を欠く訴えは不適法とされる。」「固有必要的共同訴訟の成否をめぐって判例・学説上もっとも議論が対立するのが,共同所有をめぐる紛争である。固有必要的共同訴訟の成立が認められるとすれば,共同訴訟人たるべき者の一部を脱落させた訴えは不適法なものとなる。特に共同原告側については,一部の者が共同提訴を拒絶すると,残りの者の訴権行使が不可能になるという問題をどのように解決すべきかが検討の対象となる。固有必要的共同訴訟の成否に関する一般的基準を考えれば,この場合においても,訴訟物たる権利関係についての当事者適格を基礎づける管理処分権や法律上の利益が共同訴訟人に共同で帰属するときに,固有必要的共同訴訟の成立が認められる。」伊藤眞『民事訴訟法〔第4版補訂版〕』623頁
(※2)ここの論証を作成する上ではこちらのサイトをとても参考にさせていただきました→
(※3)「入会権の法律上の性質としては,総有,すなわち共同所有者としての持分が存在せず,各共同所有者は,物の利用権を有するのみであるといわれる。そこで,入会権者が第三者を被告として,ある土地上に入会権が成立することの確認を求めるときには,原告適格の基礎となる入会権についての管理処分権は,入会権者全員に共同で帰属するから,固有必要的共同訴訟の成立が認められる。これに対して,同じく入会権にかかわる訴訟であっても,入会団体の構成員がその使用収益権の確認や,使用収益権にもとづく妨害排除請求をなす場合には,それらの権利についての当事者適格は,当該構成員自身に認められるものであるから,他の構成員を共同原告とする必要はない。」前掲伊藤627頁
(※4)「3 原審は,次のとおり判示して,本件訴えを却下すべきものとした。」「(1) 入会権は権利者である入会集団の構成員に総有的に帰属するものであるから,入会権の確認を求める訴えは,権利者全員が共同してのみ提起し得る固有必要的共同訴訟であるというベきである。」「特定の土地が入会地であることの確認を求める訴えは,原審の上記3(1)の説示のとおり,入会集団の構成員全員が当事者として関与し,その間で合一にのみ確定することを要する固有必要的共同訴訟である。」最判平成20年7月17日民集62巻7号1994頁
(※5)「入会集団の構成員のうちに入会権の確認を求める訴えを提起することに同調しない者がいる場合であっても,入会権の存否について争いのあるときは,民事訴訟を通じてこれを確定する必要があることは否定することができず,入会権の存在を主張する構成員の訴権は保護されなければならない。そこで,入会集団の構成員のうちに入会権確認の訴えを提起することに同調しない者がいる場合には,入会権の存在を主張する構成員が原告となり,同訴えを提起することに同調しない者を被告に加えて,同訴えを提起することも許されるものと解するのが相当である。このような訴えの提起を認めて,判決の効力を入会集団の構成員全員に及ぼしても,構成員全員が訴訟の当事者として関与するのであるから,構成員の利益が害されることはないというべきである。」前掲最判平成20年7月17日



2019-04-01(Mon)

【基礎演習民事訴訟法】問題18「通常共同訴訟(同時審判申出共同訴訟・訴えの主観的予備的併合)」

新元号が「令和」に決まったようです。

いろいろ賛否が分かれているようですけど,

個人的には割とすんなり受け入れることができました。

「令」の字が入ることは全然見当もつきませんでしたね。

でも,「令和」自体はいいんですけど,

「最判令和」っていう並びはあまりしっくりこないですね……

ところで,今回は,基礎演習の18問目です。

≪問題≫
省略


同時審判……!!

予備で出た……!!

書けなかった……!!!!!

≪答案≫
第1 設問1
 1 ①について
 XのYに対する訴えの訴訟物は,売買契約に基づく代金支払請求権である。したがって,その要件事実は,XとYとの間の売買契約(以下「本件売買契約」という。)の締結である。本件売買契約の締結は,ZがYの代理人として行っているから,代理の要件事実(民法99条)を併せて主張する必要がある。したがって,請求原因事実は,⑴Xは,Zに対し,平成24年4月17日,本件土地を代金3000万円で売った。⑵Zは,上記⑴の際,Yのためにすることを示した。⑶Yは,Zに対し,上記⑴に先立ち,本件売買契約の締結に関する代理権を授与した。である。
 XのZに対する訴えの訴訟物は,無権代理責任に基づく損害賠償請求権である。したがって,その請求原因事実は,⑴XはZに対し,平成24年4月17日,本件土地を代金3000万円で売った。⑵Zは,上記⑴の際,Yのためにすることを示した。である。なお,⑶Yは,Zに対し,上記⑴に先立ち,本件売買契約の締結に関する代理権を授与した。との事実は,Zが無権代理責任を免れるための抗弁事実に位置付けられる。
 2 ②について
  ⑴ 前提として,XのYに対する訴えとXのZに対する訴えについて,同時審判の申出をすることができるかどうかについて検討する。
   ア 同時審判申出訴訟(民訴法41条1項)は,通常共同訴訟の一形態であるから,共同訴訟の要件(同法38条)を満たす必要がある。前記の通り,XのYに対する訴訟物は売買契約に基づく代金支払請求権であり,XのZに対する訴訟物は無権代理責任に基づく損害賠償請求権であるところ,両訴訟物はZの代理権の有無という点において実体法上の択一的関係にあるから,「訴訟の目的である権利が同一の事実上の原因に基づくとき」にあたる。したがって,共同訴訟の要件を満たす。
   イ 「法律上併存し得ない関係」とは,同一事実について,一方の訴訟物との関係では請求原因事実となるが,他方の訴訟物との関係では抗弁事実となるように,その事実について真偽不明に陥ったとしても一方の請求が成立する関係にある場合をいう(※1)。前記のように,XのYに対する訴えの請求原因事実⑶は,XのZに対する訴えにおいては抗弁事実にまわるから,「法律上併存し得ない関係」にある。
   ウ Xが両訴訟について同時審判申出訴訟を求めるためには,控訴審の口頭弁論終結時までに原告が同時審判の申出をすることが必要である(同法41条1項,2項)。
   エ 以上から,Xが控訴審の口頭弁論終結時までに同時審判の申出をすれば,両訴訟を同時審判申出訴訟とすることができる。
  ⑵ 同時審判申出訴訟においては,弁論及び裁判の分離が禁止されるため(同法41条3項),両訴訟間で証拠共通の原則に従い矛盾のない事実認定が行われるため,Xが両訴訟において敗訴する事態は生じ得ない。
 これに対して,同時審判の申出がされない場合には,両訴訟が単純併合されたとしても,それは通常共同訴訟にすぎないから,裁判所は,口頭弁論を分離する裁量権を有することになる(同法152条1項)。仮に口頭弁論が分離された場合には,統一的な審判は保障されないから,一方でYに対する請求はZに対する代理権授与がないとの理由で棄却され,他方でZに対する請求は代理権授与があるとの理由で棄却されるという事態が生じることになる。このように,同時審判の申出がない場合には,Xは,両負けの不利益を負うおそれがある。
第2 設問2
 主観的予備的併合とは,主位的請求が認容されることを解除条件として予備的請求についての審理及び判決を求める併合形態をいう(※2)。この併合形態によると,予備的併合である結果,弁論の分離は禁じられるという効果が得られる。しかし,この併合形態によると,予備的請求における被告の防御が奏功して主位的請求が認容された場合には,予備的請求について判決が出されないことから,予備的請求における被告の訴訟上の地位が不安定となり,当事者公平の原則に反する。したがって,主観的予備的併合は,不適法である(※3)(※4)(※5)
 本件でも,Xは,Yを主位被告,Zを予備的被告とする主観的予備的併合の形態で訴えを提起することはできない。

以 上


(※1)「『法律上併存し得ない関係』の意味は必ずしも明らかではないが,前述の例における,Y1に対する契約上の債務の履行請求権と,Y2に対する無権代理を理由とする損害賠償請求権との関係は,この要件を満たすのに対し,契約締結の相手方がAであるかBであるかが争われている場合におけるAB双方に対する契約上の履行請求権は,事実上併存不可能であるにすぎず,『法律上併存し得ない関係』は認められないと考えられている。前者においては,代理権の存在はY1との関係では請求原因,Y2との関係では抗弁にあたるため,Xは,代理権の存在につき真偽不明となったとしても,Y2には勝訴できる立場にあるのに対し,後者においては,契約の相手方はABいずれの関係においても請求原因であり,ABのいずれが契約相手方であるかにつき真偽不明に陥れば原告はいずれにしても敗訴せざるを得ない地位に置かれている,という原告の要保護性の違いがかかる取扱いの背後にあると考えられる。もっとも,上記両類型における原告の要保護性の差異は必ずしも大きいものではなく,契約の相手方不明の例においても,運用上は特別の事情がないかぎり分離しないことが要請されよう」三木浩一ほか『LEGAL QUEST民事訴訟法〔第2版〕』543頁
(※2)「主体的予備的併合とは,Y1に対する請求(主位的請求)が認容されることを解除条件として,Y2に対する請求(予備的請求)についての審理および判決を求める併合形態である。」前掲三木ほか542頁
(※3)「訴の主観的予備的併合は不適法であつて許されないとする原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法は存しない。」最判昭和43年3月8日民集22巻3号551頁
(※4)「本判決[前掲最判昭和43年3月8日]の是認する原判決は,かかる併合訴訟を認めえない理由として,第二次被告の応訴上の地位の不安定不利益を強調し,第二次被告の犠牲において原告の保護に偏する結果を招来することは許されないとしている。けだし,かかる併合訴訟を認めることは,第二次被告を訴訟上甚だしく不安定不利益な地位に置く点において,民事訴訟の基本理念である当事者公平の原則に反すると解し,この点についての前掲否定説の見解を採用したものと思われる。」最判解民事篇昭和43年度(上)296頁
(※5)「主体的予備的併合の適法性については議論がある。同時審判申出訴訟によって主体的予備的併合の機能は代替できると考える論者は,主体的予備的併合を不適法と解する傾向にあるのに対して,なお主体的予備的併合には固有の意義があると考える論者は,適法説を採用する。主体的予備的併合固有の意義として考えられるのは次の2点である。第1に,主位的請求と予備的請求とが事実上併存し得ない場合,同時審判申出訴訟は利用できないが,主体的予備的併合であれば利用できると考える余地がある。第2に,主体的予備的併合については,40条を類推するという有力説があり,これによると,主位的請求棄却,予備的請求認容の場合に,原告が念のための上訴をしなくても,予備的請求に係る被告の上訴で当然に全請求について確定が遮断され,移審するために,上訴における合一確定は達成しやすくなる。もっとも,前者の点については事実上併存し得ない場合も,特段の事情がないかぎり,弁論は分離しないことが要請されると考えることができるのであるから,主体的予備的併合を認める必要はない。また,後者の点については,そもそも40条類推の根拠が必ずしも明らかではないだけではなく,40条を類推することには手続を重くするという副作用を伴うことを考えれば,主体的予備的併合を許容する根拠として十分ではない。したがって,主体的予備的併合は不適法である。」前掲三木ほか544頁



2019-04-01(Mon)

【基礎演習民事訴訟法】問題17「和解」

一日が終わるのがあっという間ですよね最近。

まだこの記事書いてるの朝10時半とかですけど。

司法試験まで50日きってるらしいですよ。

驚きですね。

ところで,今回は,基礎演習の17問目です。

≪問題≫
省略


和解ですねえ。

この章は解説がとても読みやすかったですし,

とても勉強になる記載が多かったと思います。

演習書に基礎演習を使っていない方でも,

この章だけは読む価値があるのではないでしょうか。

≪答案≫
第1 [ケース]①
 1 XとYとの間では,建物収去土地明渡請求訴訟の手続内において,甲土地に関する権利関係について,その所有がXに帰属し,甲土地上の乙建物の所有がYに帰属するとした上で,XとYとの間で甲土地について乙建物の所有目的での使用貸借契約があるものとする互譲を確認する合意がされているから,訴訟上の和解が成立している(※1)。しかし,Yは,自分が生きている間は甲土地を使用したいと考えているのに対して,前記の和解内容ではXが甲土地を他人に譲ることによりその使用ができなくなることの懸念がある。したがって,Yとしては,和解内容に錯誤(民法95条)があるとの主張をすることが考えられる。もっとも,訴訟上の和解が調書に記載されたときには,「その記載は,確定判決と同一の効力を有する」(民訴法267条)とされており,その効力として既判力(同法114条1項参照)が含まれるのであれば,和解内容について再び争うことができなくなるようにも思われる。そこで,和解調書の記載に認められる効力について検討する。
 2 当事者が和解の内容について既判力を生じさせる意思がないのであれば,訴訟外において和解契約(民法695条)を締結した上で訴えを取り下げる(民訴法261条1項)ことができる。それにもかかわらず,民訴法上これとは別個に訴訟上の和解の制度が設けられているのは,既判力をもった解決を望むという当事者の意思を反映した制度を用意することによって,当事者の意思決定に際しての選択肢を増やすことに目的がある(※2)。したがって,訴訟上の和解には,既判力が認められていると考える。もっとも,訴訟上の和解を選択することが当事者の意思に委ねられている以上は,和解をする際の当事者の意思に瑕疵がある場合には,もはや選択の基礎を欠くことになるから,和解の効力を争う余地を認めるべきである(※3)
 これを本件についてみると,Yにおいては,自身が亡くなるまでは甲土地を使用することができるとの理解の下で和解に応じているのであるから,Xが甲土地を他人に譲渡した場合であってもこれの使用を続けることができることが前提とされていると考えられる。そうすると,Xが甲土地を他人に譲渡することによってYがこれの使用を続けられなくなるのであれば,もはやYが和解に応じる前提に瑕疵があり,和解という手段を選択する基礎が欠けているというべきである。したがって,訴訟上の和解に既判力が生じるとしても,その前提となるYの意思に瑕疵があるのであるから,Yは錯誤を主張して和解内容を争うことができる。
 3 そこで,Yがこれを争うための手段について検討する。
  ⑴ 第1に,旧訴訟の続行期日指定の申立てを行うことが考えられる。この場合には,申立てに応じて口頭弁論期日を指定したうえで,和解が有効と判断されれば訴訟終了宣言判決をし,和解が無効と判断されれば旧訴訟を続行することになる。後者の場合には,旧訴訟の訴訟資料等をそのまま利用することができ,和解の有効性について和解に関与した裁判所自身が判断することとなる点で利点がある。もっとも,和解の効力について三審級が保障されない点や,裁判所の中立性の点で問題点がある。
  ⑵ 第2に,和解無効確認の訴えを提起する方法が考えられる。もっとも,前記のように,期日指定の申立てができる場合にも訴えの利益が認められるかどうかは問題となるが,旧訴訟の訴訟物は所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権であったのに対して,和解の内容には,旧訴訟の判決が出された場合に理由中の判断となる,甲土地の所有がXに帰属し,乙建物の所有がYに帰属する点についても含まれているから,旧訴訟とは別個の紛争解決の利益が存在しているということができ,訴えの利益が認められる。
第2 [ケース]②
 1 Xは,XとYとの間で成立した訴訟上の和解の効力がZにも及ぶため,Zは建物から退去しなければならないとの主張を行うことが考えられる。
 2 前記のように,和解調書の記載には既判力が生じているため,ZがYからの「承継人」にあたる場合には,Zに対しても和解調書の記載の既判力が拡張される。
 民訴法115条1項3号が口頭弁論終結後の承継人に既判力を拡張させたのは,これを認めなければ判決によって得られた勝訴当事者の地位が容易に損なわれる一方,承継人は実体法上前主のした処分の結果を承継すべき地位にあることから,その手続保障が前主たる当事者に代替されているからである。そうすると,承継人に対する既判力の拡張は,承継人と前主との実体法上の依存関係によって基礎づけられているから,訴訟物に関連する実体法上の地位を承継した者を「承継人」とすべきである。
 これを本件についてみると,和解内容には,Yが甲土地を明け渡すことが含まれており,ここにおいて被告となるべき者は甲土地を占有している者に認めれる。Zは,Yから甲土地上の乙建物の賃貸を受けることによって甲土地を占有しているから,被告となるべきものである。Zのこのような地位は,Yとの間の賃貸借契約という実体法上の関係に基づいて発生しているのであるから,Zは,訴訟物に関連する実体法上の地位を承継した者である。したがって,Zは「承継人」にあたるため,和解調書の記載の既判力の拡張を受ける。
 3 したがって,XはZに対して,和解調書の記載を主張して,その退去を求めることができる。なお,和解内容には,Xが甲土地を所有することについてまで含まれているから,この点についても既判力が生じており,Zは基準時後の事由または固有の攻撃防御方法ょ主張しない限り,Xの所有権を争うことはできない。

以 上


(※1)「『和解』とは,当事者が,一定の法律関係に関して,互いに譲歩して(これを『互譲』という),合意によってその間に存する争いをやめることをいう。」「和解の種類として,まず,大きく分けて,『裁判外の和解』(民695条・696条が定める契約であり,『民法上の和解』ともいう)と『裁判上の和解』とがある。そして,裁判上の和解には,訴え提起後,訴訟手続内で行われる『訴訟上の和解』(起訴後の和解ともいう)と簡易裁判所での手続であって訴訟係属を前提としない『即決和解』(275条。同条にいう『訴え提起前の和解』。『起訴前の和解』ともいう)とがある。民訴法上の和解に関する規定のうち89条のほか264条と265条は訴訟上の和解のみに適用される規定であり(275条4項参照,)和解調書の効力……に関する267条は訴訟上の和解と即決和解の双方に適用される規定である。」三木浩一ほか『LEGAL QUEST民事訴訟法〔第2版〕』479頁
(※2)「訴訟上の和解によって解決するという意思の中に,既判力のない形で訴訟を終了する意思を見出すということは,訴訟上の和解には既判力がないという制度的前提のもとで初めて可能になるものであり,実際には,当事者の一方または双方が和解という形でむしろ既判力のある解決を望むということも考えられるからである。そのように考えると,既判力を伴わない訴えの取下げとの対比において,既判力を伴う訴訟上の和解という制度を設けておくことが,当事者の意思決定に際しての選択肢を豊富にすることにつながる」解説204頁
(※3)「既判力のある解決を当事者に与えられた選択肢の一つとして把握することは,そうした解決を選択するかどうかはあくまでも当事者の意思に委ねられている,との理解を前提とする。したがって,ここでは,仮に既判力を肯定するとしても,訴訟上の和解を判決の代用物とみる伝統的な既判力肯定説とは異なり,和解をする際の当事者の意思に瑕疵がある場合には,もはやそうした選択の基礎を欠くことになるから,和解の効力を争う余地を認めるべきだということになりそうである」解説204頁



2019-03-31(Sun)

【基礎演習民事訴訟法】問題16「争点効・信義則」

明日から4月ということですが,

ついに新しい元号が発表されます。

何になるんでしょうかね。

気になりますね。

正直そんな気になんないですね(突然の矛盾挙動)

ところで,今回は,基礎演習の16問目です。

ついに半分を超えました。

≪問題≫
省略


なんだか小難しい事例ですね。

もっと簡潔な事例で学びたいものです。

基礎演習なんだしね。

あと,争点効とかもうそういうのいいから。

≪答案≫
第1 設問1
 1 既判力とは,前訴確定判決の後訴に対する通用力ないし拘束力をいう。前提として,Yらは,Aの相続人であるから(民法887条1項),Aについての権利義務を包括的に承継するため(同法896条本文),前訴の確定判決の既判力を受けるAからの「承継人」にあたり,当該既判力はYらにも拡張される(民訴法115条1項3号)。したがって,Yらは,前訴の確定判決の既判力が生じる事項について本訴で争うことは,前訴確定判決の既判力と抵触するため許されない。
 2 そこで,前訴において,どの範囲に既判力が生じているかについて検討する。
 既判力が生じるのは,「主文に包含するもの」に限られるところ(民訴法114条1項),既判力は裁判所の公権的な判断に付与された強制力であるから,広い範囲に効力を及ぼすべきではなく,当事者が意識的に審判対象とした訴訟物についてのみこれを認めれば,当事者間の紛争解決のためには必要十分であるから,「主文に包含するもの」とは訴訟物を指す。また,訴訟物の判断についてのみ既判力が生じるとすることによって,裁判所は,実体法の論理的順序にとらわれずに弾力的で迅速な審理を行うことができる。そうすると,既判力は,判決理由中の判断には生じないというべきである。
 そして,既判力が生じるのは,訴訟物の存否についての判断であることから,それが後訴に作用するのは,後訴の訴訟物と前訴の訴訟物とが同一関係にある場合,先決関係となっている場合,矛盾関係にある場合である(※1)
 これを本件についてみると,前訴における訴訟物は,AのXに対する所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権であり,これに係る請求が棄却され,これが確定しているから,同請求権が不存在であることについて既判力が生じている。これに対して,本訴における訴訟物は,XのYらに対する所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権である。そうすると,両訴の訴訟物間には,前記のような関係が認められないのであるから,前訴における確定判決の既判力は,本訴には作用しない。また,前訴における請求原因事実についての判断は,理由中の判断にすぎないのであるから,この点について既判力が生じるものではないため,前訴におけるこの点についての判断が本訴における主張を拘束するものではない。
 3 よって,Yらは,前訴において認められなかった請求原因事実を本訴において主張することは,前訴判決の既判力に触れない。
第2 設問2
 1 前訴で請求原因事実として争われた事実について,本訴で再度主張することは,前記のように既判力に抵触するものではないが,別個の理由から制限される場合があるか。
 2 この点,前訴で主要な争点として争われた点についての裁判所の判断に生じる拘束力(以下「争点効」という。)を認める見解がある。この見解は,係争利益をほぼ同じくする前訴後訴両請求の当否の判断過程で主要な争点となった事項について,当事者が前訴において主張立証を尽くし,裁判所も当該争点について実質的に判断を下した場合には,判決理由中の判断であっても争点効が認められるとする(※2)。本件についてこの見解によれば,前記の通り,前訴の訴訟物は土地についての所有権移転登記請求権であり,本訴は同一土地の明渡請求権であって,いずれも同一の土地の所有権に関する紛争であるから,係争利益はほぼ同一である。そして,Aが前訴において主張する請求原因事実が争点とされていたところ,AとXはこれを上告審まで争ったのであるから,前訴において主張立証が尽くされ,裁判所も当該争点について実質的に判断を下していると考えられるから,前訴の請求原因事実についての判断には争点効が生じている。したがって,本訴において前訴の請求原因事実と同一の事実を争うことは,前訴の争点効が及ぶから,認められないことになる。
 しかし,このような効力を認める民訴法上の規定はない上に,判決理由中には既判力が生じないものとする民訴法の規定と抵触するものである。したがって,前訴確定判決の理由中の判断について,争点効が生じるとする見解は採り得ない(※3)(※4)
 3 そこで,前訴における請求と後訴における請求との関係や当事者の紛争解決に対する期待等を考慮して,具体的状況の下で,当該請求をすることが当事者間の公平を害するものとして,後訴における主張を信義則により遮断することが考えられる(※5)(※6)
 これを本件についてみると,XY間の事実関係によれば,本件土地はAがBから金員を借り入れた際の担保とに供され,債権者がBからXに交替したことにより,本件土地がXの下にあり,しかしAが3000万円を弁済したことから,担保権の消滅により本件土地がAの下に復帰するため,前訴において所有権移転登記手続を請求したものである。しかし,前訴においては,これらの事実が認められなかったため,Aの請求は棄却されているのである。そうすると,本件土地がXに帰属したまま,その担保権消滅がないことが事実として認定されているのであり,事実上Xに所有権が認められるものと判断しているものと考えられる。そうすると,前訴を終えた段階で,Xは本件土地の所有権の帰属についての紛争が解決したもののと期待しているものと考えられる。これに反して,本訴において,同事実を再び争うことは,実質的に前訴の蒸し返しであり,Xの前記期待を裏切るものである。そうすると,本訴においてYらが,前訴においてAが主張した請求原因事実を再び主張することは信義則に反して許されない。
 なお,このように考える場合には,控訴の有無が直接的に結論を左右する事情とはならない。
第3 設問3
 Yらは,前訴において主張されていないものの,前訴の結論を左右するような事実を本訴において主張することが許されるか。
 既判力の観点からは,訴訟物さえ異なれば前訴判決の既判力は後訴には及ばず,前訴とは訴訟物を異にする後訴請求を基礎づけるためであれば,前訴において主張することができた主張であっても,当然には遮断されない。そうすると,このような建前を覆してまで信義則による遮断を認めるためには,相手方当事者に前訴における紛争が解決済みであるとの信頼を抱かせるような事情があり,これを覆すような新たな主張を行うことが当事者間の公平を害することとなるかどうかによって決せられるべきである。
 本件では,前記のように,Xにおいては,本件土地の所有権の帰属についてまで,前訴において解決したものとの信頼を抱いているというべきであるから,Yらがこれを覆すような主張をすることは許されない。

以 上


(※1)「既判力が生じるのは,原則として訴訟物の存否についての判断であることから……,それが実際に後訴において作用するのは,後訴の訴訟物と前訴の訴訟物とが次のような関係にある場合である。」「第1は,後訴の訴訟物が前訴の訴訟物と同一の場合である。この場合に関しては,①後訴を提起するのが前訴で敗訴した当事者か,②勝訴した当事者かによって,取扱いが異なる。①の場合,たとえば,ある土地の所有権確認請求訴訟において敗訴した原告が,再び同一土地の所有権確認請求訴訟を提起した場合,前訴の時点において原告に所有権がないことが既判力によって確定されているから,原告が前訴の基準時,すなわち前訴の事実審口頭弁論終結時以後……に新たに所有権を取得したなどの新事情が認められない限り,後訴でも請求が棄却されることになる。また,貸金返還請求訴訟において敗訴した被告が,当該貸金債務の不存在確認訴訟を提起した場合にも,同様に,弁済などの新事情が認められない限り,請求が棄却されることになる。これに対して,②の場合,たとえば,貸金返還請求訴訟において勝訴した原告が再度同一の貸金について返還請求訴訟を提起することは,前訴既判力に反する主張をするものではないから,それ自体としては,既判力の拘束力は問題とならない。しかし,既に給付判決を得ている原告が同一の訴訟物について再度給付判決を得る利益は通常は存在しないから,このような訴えは,原則として訴えの利益を欠くものとして却下されることになる。もっとも,例外として再訴の利益が肯定される場合には……,後訴において,前訴の既判力は被告の不利に作用することとなる。」「第2は,前訴の訴訟物が後訴の訴訟物の先決問題となっている場合である。この場合には,後訴裁判所は,当該先決問題に関する前訴判決の判断に拘束され,これを前提としながらその他の争点を整理したうえで,本案判決をすることになる。たとえば,ある建物の所有権確認請求訴訟において勝訴した原告が,同一の被告に対して,所有権に基づいて当該建物の後訴を提起した場合,後訴裁判所としては,前訴の基準時において当該建物の所有権が原告に属することを前提として明渡請求の当否を判断することになる。したがって,後訴において被告は,原告の所有権取得の事実等を争うことはできず,基準時後の所有権の喪失や,自己の占有の有無等を争うことができるにとどまる。」「なお,同様の拘束力は,建物所有権確認の前訴で勝訴したXに対して,Yが土地所有権を主張して,建物収去土地明渡請求の後訴を提起した場合にも作用する。この場合には,Xは,後訴において,自分が前訴の口頭弁論基準時において建物所有者であったことを否認することは許されない。このように,既判力による拘束は,通常は前訴の勝訴当事者の有利に働くが,場合によっては前訴の勝訴当事者に対してかえって不利に働くこともある。このことを指して,既判力の双面性と呼ぶ。」「第3は,前訴の訴訟物と後訴の訴訟物とが矛盾関係に立つ場合である。この場合に該当する例としては,ある土地がXの所有であることを確認する前訴判決の確定後に,前訴の被告であったYが同一土地についてのYの所有権の確認を求めて後訴を提起する場合がある。この場合には,前訴の訴訟物はXの土地所有権であるのに対し,後訴の訴訟物はYの土地所有権であり,訴訟物は異なるし,一方が他方の先決関係であるというわけでもない。しかし,実体法上の一物一権主義を前提とすれば,同一の土地についてXとY双方の単独所有権が認められることはあり得ない。したがって,後訴裁判所としては,前訴の基準時において土地所有権がXに帰属していたことを前提としつつ,基準時後にYが所有権を取得したかどうかについて審理・判断することになる。」三木浩一ほか『LEGAL QUEST民事訴訟法〔第2版〕』421頁
(※2)「『争点効』とは,前訴で主要な争点として争われた点についての裁判所の判断に生じる拘束力として学説上提唱されたものがある。具体的には,①前訴および後訴の主要な争点について,②当事者が前訴において自白などをすることなく実際に争い,③裁判所が実質的な判断を示した場合には,④前訴と後訴の計総利益がほぼ同等である限り,争点効が生じ,⑤当事者がこれを援用することにより,後訴裁判所は前訴判決の判断に拘束される。ただし,⑥ある争点の判断について不服を有する当事者が,結論としては勝訴しているため上訴の利益……が認められず,その点を上訴で争えなかった場合には,拘束力は生じないとされる。こうした拘束力は,ある争点について現に攻撃防御を尽くした当事者に課される結果責任に基礎を置くものであり,その理論的根拠は,信義則ないし当事者間の公平の観点に求められる。」前掲三木ほか438頁
(※3)「このような効力を認めることができるかについては,見解が分かれている。問題点としては,民訴法に明文の根拠がないことのほか,理論的には,①判決理由中の判断について既判力が生じないとされていることと矛盾するのではないか,②中間確認の訴えの制度(145条)は,このような効力が認められないことを前提としているのではないか,③争点の主要性,係争利益の同等性といった要件は,十分に明確なものとはいえないのではないか,といった点が指摘される。しかし,これらに対しては,それぞれ,①争点効が認められるのは,当事者が実際に争った場合に限られるので,審理の弾力性や当事者の争点処分の自由を確保するという既判力限定の趣旨に必ずしも矛盾しない,②中間確認の訴えの対象となるのは,『争いとなっている法律関係』に限定されるのに対して,争点効は事実の存否など他の争点についても生じ得る点で,両者は適用対象を異にする,③要件をあまりに画一化することは,逆に弾力性を損なうし,一般条項である信義則と比較すれば,争点効の方が要件が明確である,といった反論がある。」前掲三木ほか438頁
(※4)「所論の別件訴訟について上告人(別件訴訟の被上告人)勝訴の確定判決があつた事実は、当裁判所に顕著な事実である。しかし、右別件訴訟における上告人(別件訴訟の被上告人)の請求原因は、被上告人(別件訴訟の上告人)所有にかかる原判決末尾添付の別紙目録記載の建物(以下単に「本件建物」という。)およびその敷地(以下両者を指称するときは、単に「本件不動産」という。)について、被上告人と上告人との間に売買契約が締結され、その旨の所有権移転登記を経由したが、被上告人(別件訴訟の上告人)が約定の明渡期日に至つても、本件建物を明け渡さないので、上告人(別件訴訟の被上告人)は、右契約の履行として本件建物の明渡および約定の明渡期日の翌日以降の右契約不履行による損害賠償としての金銭支払を求める、というのであり、右別件訴訟の確定判決は、被上告人(別件訴訟の上告人)主張の右契約の詐欺による取消の抗弁を排斥して、上告人(別件訴訟の被上告人)の請求原因を全部認容したものである。されば、右確定判決は、その理由において、本件売買契約の詐欺による取消の抗弁を排斥し、右売買契約が有効であること、現在の決律関係に引き直していえば、本件不動産が上告人(別件訴訟の被上告人)の所有であることを確認していても、訴訟物である本件建物の明渡請求権および右契約不履行による損害賠償としての金銭支払請求権の有無について既判力を有するにすぎず、本件建物の所有権の存否について、既判力およびこれに類以する効力(いわゆる争点効、以下同様とする。)を有するものではない。一方、本件訴訟における被上告人の請求原因は、右本件不動産の売買契約が詐欺によつて取り消されたことを理由として、本件不動産の所有権に基づいて、すでに経由された前叙の所有権移転登記の抹消登記手続を求めるというにあるから、かリに、本件訴訟において、被上告人の右請求原因が認容され、被上告人訴の判決が確定したとしても、訴訟物である右抹消登記請求権の有無について既判力を有するにすぎず、本件不動産の所有権の存否については、既判力およびこれに類以する効力を有するものではない。以上のように、別件訴訟の認定判決の既判力と本件訴訟において被上告人勝訴の判決が確定した場合に生ずる既判力とは抵触衝突するところがなく、両訴訟の確定判決は、ともに本件不動産の所有権の存否について既判力およびこれに類以する効力を有するものではないから、論旨は採るをえない。なお、右説示のとおり、両訴訟の確定判決は、ともに本件不動産の所有権の存否について既判力およびこれに類以する効力を有するものではないから、上告人は、別に被上告人を被告として、本件不動産の所有権確認訴訟を提起し、右所有権の存否について既判力を有する確定判決を求めることができることは、いうまでもない。」最判昭和44年6月24日集民95号613頁
(※5)「前訴と訴訟物を異にし,前訴判決の既判力が作用しない後訴においても,一定の場合には,前訴判決理由中の判断に反する主張が訴訟上の信義則(2条参照)に反して許されなくなるとする考え方も,有力である。一般条項であるという信義則の性質上,その適用範囲を明確に画することは困難であるが,代表的な学説によれば,信義則が機能する場面として,①禁反言ないし矛盾挙動禁止の原則が適用される場合と,②権利失効の原則が適用される場合とが挙げられる。」「それによれば,①の禁反言ないし矛盾挙動禁止の原則が適用されるのは,前訴における主張が認められて勝訴した当事者が,それと矛盾する主張をして,前訴で得たのと両立しない利益を得ようとする場合である。たとえば,前訴で売買契約の無効を主張して買主からの目的物引渡請求の棄却判決を得た売主が,代金請求の後訴を提起して,売買契約が有効であると主張することは,この理由によって許されないとする。」「これに対して,②の権利失効の原則が適用されるのは,前訴においてある主張をしたにもかかわらずそれが認められずに敗訴した当事者が,前訴と社会関係上同一の紛争関係に関する後訴において,同一の主張を繰り返そうとする場合である。たとえば,売買契約に基づく建物の移転登記手続請求訴訟において,契約の錯誤無効を主張したが認められずに敗訴した被告が,建物引渡請求の後訴において再び錯誤無効を主張することは,この理由によって許されないとされる。」前掲三木ほか439頁
(※6)「最高裁およびこれに倣う下級審裁判例が信義則に反するとして後訴を遮断すべきかを判断する際に考慮すべきものとして挙げたファクターは,①前訴における請求あるいは主張と後訴におけるそれとが実質上同一であること,②後訴で提出されている請求あるいは主張を前訴で提出し得たこと,③勝訴当事者が前訴判決により紛争が解決済みであるとの信頼を抱いており,法的安定の要求を保護する必要があること,④前訴判決の正当性を確保するほどに前訴において充実した審理が行われていること,⑤前訴において当事者が争う誘因を有していたことなどである」解説192頁



2019-03-31(Sun)

【基礎演習民事訴訟法】問題15「既判力の主観的範囲」

眠いけど寝るほどの眠さではない。

そんなときってありますよね。

私は最近ずっとそんな感じです。

ところで,今回は,基礎演習の15問目です。

≪問題≫
省略


既判力の主観的範囲です。

主観的範囲については条文が割としっかり書いてあるので,

民訴の他の論点に比べれば解釈問題として展開しやすいです。

といってもちゃんと書けるわけではないんですがね。

≪答案≫
1 XのYに対する所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求を認容する判決(以下「本件判決」という。)の既判力は,その口頭弁論終結後に土地上の建物を特定承継したZに対しても及ぶか。本件判決の既判力がどの範囲で及ぶのか,その主観的範囲が問題となる。
2 既判力とは,前訴確定判決の後訴に対する通用力ないし拘束力をいう。確定判決のこのような効力が正当化されるのは,当事者は既に前訴において特定の権利関係について裁判資料提出の機会を与えられたという意味での手続保障が与えられた点にある。そうすると,既判力が及ぶ主観的範囲は,ここでの手続保障が与えられていたと認められる範囲に限られるため,原則として,当事者に及ぶこととされている(民訴法115条1項1号)。また,既判力は,「口頭弁論終結後の承継人」にも及ぶとされているが(同項3号),ここでいう「承継人」とはいかなる者を指すかについて検討する。
 民訴法115条1項3号が口頭弁論終結後の承継人に既判力を拡張させたのは,これを認めなければ判決によって得られた勝訴当事者の地位が容易に損なわれる一方,承継人は実体法上前主のした処分の結果を承継すべき地位にあることから,その手続保障が前主たる当事者に代替されているからである(※1)。そうすると,承継人に対する既判力の拡張は,承継人と前主との実体法上の依存関係によって基礎づけられているから,訴訟物に関連する実体法上の地位を承継した者を「承継人」とすべきである(※2)
3 これを本件についてみると,XがYに対して求めたのは,Xの所有する土地(以下「本件土地」という。)の明渡しであって,その訴訟物は所有権に基づく返還請求権としての本件土地明渡請求権であり,その被告となるべき地位は本件土地を占有している者に認められる。Yは,本件土地をその上の建物(以下「本件建物」という。)を所有することによって占有しているのであるから,前記訴訟物における被告となるべき地位を有している。Zは,そのようなYとの間で,本件建物を譲り受けており,その所有権を取得している。そうすると,Zは,Yとの間の実体法上の権利移転関係により,本件土地の占有を明け渡すべき地位を取得しているというべきであるから,Zには,被告となるべき地位をYの実体法上の依存関係に基づいて取得しているということができる。したがって,Zは,訴訟物に関連する実体法上の地位を承継した者であるから,「承継人」にあたる。
 そうすると,本件判決の既判力は,Zに対しても及ぶように思われる。
4 もっとも,ZがXY間の訴訟を知らなかったことにより,何らかの固有の抗弁を有するに至った場合にも,なおZを「承継人」とすることができるかは別途問題となる。
 しかし,既判力が後訴に対する強い拘束力を有していることからすれば,その範囲を決める基準は明確である必要があり,画一的に決められるべきである。また承継人にも既判力を拡張させたのは,前記の通り,勝訴当事者の地位を安定化させるための立法政策である。そうすると,第三者の主観によって,既判力の拡張される範囲が左右されることは望ましくはない。したがって,第三者に固有の抗弁がある場合であっても,前記のように実体法上の地位を承継した者であれば,「承継人」にあたる。なお,この場合の承継人の固有の抗弁は,基準時後の事由であるから,既判力によって遮断されないため,承継人は別途これを争うことができる。
 本件でも,Zに固有の抗弁がある場合であっても,「承継人」であることに変わりはない。したがって,Zの主観にかかわらず,本件判決の既判力はZにも及ぶ。
以 上

(※1)「口頭弁論終結後の承継人に対して既判力が拡張される根拠は,次のように説明される。すなわち,まず,①既判力拡張を認めなければ,判決によって得られた勝訴当事者の地位が容易に損なわれることになるため,権利の保護ないし紛争解決という確定判決の機能を十分に果たすためには,拡張の必要が認められる。たとえば,XのYに対する甲土地所有権確認の訴えにおいてXの請求を認容する判決が確定し,Xの甲土地所有権が既判力によって確定されても,Yは口頭弁論終結後にXから甲土地所有権の譲渡を受けたZに対して,Xが所有権者であった事実を再び争えるということになると,実際上甲土地の譲渡は困難となり,勝訴したXの地位が害されることになる。逆に,この訴訟で請求棄却判決が確定し,Xの甲土地所有権の不存在が既判力によって確定されたにもかかわらず,承継人ZがYに対して再び前主たるXから土地所有権を承継したとして自己の土地所有権を主張できるということになると,勝訴したYの地位が害されることになる。他方で,②承継人は,自らは前訴において当事者として手続保障が与えられていた者ではないが,実体法上,元来前主のした処分の結果を承継すべき地位にあることから(これを,実体法上の依存関係と呼ぶ),前主の受けた確定判決による不利益を甘受させられてもやむを得ないともいえるし,③承継が口頭弁論終結後にされている以上,相手方当事者としては,承継人に対する手続保障を講じるための手段は前訴当時存在しなかったことを考えると,この場合にあくまで承継人自身に対する手続保障を要求するのは,相当でないと考えられるのである。」「このように,口頭弁論終結後の承継人に対する既判力の拡張は,前訴の勝訴当事者の地位の安定という要請と,承継人に対する手続保障の要請との対立を立法的に調整したものといえ,現行法の規律が,想定できる唯一の解決というわけではない。たとえば,日本法の母法であるドイツ法は,口頭弁論終結前の承継人であっても,訴訟係属後の承継人に対しては原則として既判力を及ぼすものとして……,日本法よりもいっそう勝訴当事者の保護に傾斜しているなど,立法政策としては多様な解決があり得るところである。」三木浩一ほか『LEGAL QUEST民事訴訟法〔第2版〕』450頁
(※2)「前訴当事者から何を承継した場合に既判力の拡張を受ける承継人となるかについては,議論がある。訴訟物である権利義務関係そのものを承継した者のがここでの承継人に該当することについては,異論がないが,承継人の範囲をこの場合にのみ限定すると,……既判力拡張の趣旨が十分に果たされない場合も考えられる。たとえば,XのYに対する所有権確認請求訴訟の口頭弁論終結後に係争物をYから譲り受けたZや,XのYに対する建物収去土地明渡請求訴訟の口頭弁論終結後にYから家屋を譲り受けたり,賃借したZは,訴訟物である権利義務関係そのものを承継した者とはいえないが,これらの場合にZに対する既判力の拡張を認めないとすると,Xが勝訴判決を得たとしても,その結果は容易に潜脱し得ることになってしまう。そこで,判例および多数説は,訴訟物である権利義務の承継人に限らず,これらの者についても,承継人として既判力の拡張を認めている(最判昭和26・4・13民集5巻5号242頁等)。もっとも,承継の対象を訴訟物そのものから拡大した場合に,その範囲をどのように画するかについては,さまざまな説明が試みられている。その中で代表的な見解としては,①当事者適格の承継とするもの,②紛争の主体たる地位の承継とするもの,③訴訟物に関連する実体法上の地位の承継とするものが挙げられる。」「このうち,①については,当事者適格の有無は,主張される訴訟物の内容にしたがって定まるものであるから……,前訴と後訴とでは訴訟物が異なる以上,当事者適格そのものの承継は考えられないとの批判が妥当する。また,②は,訴訟承継の場面において判例でも用いられる概念であり(最判昭和41・3・22民集20巻3号484頁。……),その実質的に意図するところは③と異ならないものと考えられるが,紛争の主体たる地位という概念の内容は不明確であり,どのような場合にその移転が認められるかが明らかでないという問題がある。むしろ,……承継人に対する既判力の拡張が承継人が前主に対して実体法上依存する地位に立つことによって基礎づけられることを考えると,承継の対象としては,③訴訟物に関連する実体法上の地位,言い換えれば,その訴訟物について原告または被告となることを適切なものとするような実体法上の地位と説明するのが最も適切であろう。」前掲三木ほか451頁



2019-03-31(Sun)

【基礎演習民事訴訟法】問題14「既判力の客観的範囲・一部請求・相殺」

さて,3月も今日で終わりです。

司法試験が来月なのか再来月なのかでは,

心の持ちようが全然違ってきます。

あーーー天皇代わるし恩赦で司法試験合格とかになんねえかなーーー

≪問題≫
省略


一部請求あたりは,民訴の一個山場みたいなところですが,

毎回なんとなく判例っぽいこと書いて,

それっぽいあてはめしてで終わってるんですよね。

それでダメな気もしないので,

あんまり深く考えたことない分野でもあります。

≪答案≫
第1 設問1
 1 AのBに対する売買契約に基づく代金支払請求権として800万円の支払を請求する訴訟(以下「本件前訴①」という。)において,Bの詐欺取消権(民法96条1項)が認められて請求が棄却されている。これに対して,BのAに対する債務不履行に基づく損害賠償請求権として新たな資材の代金相当額の損害賠償請求訴訟(以下「本件後訴①」という。)において,Aは本件前訴①で争ったのと同一の詐欺取消権について,その不存在を主張して再びこれを争おうとしている。そこで,本件後訴①においてAが本件前訴①で判断されたことと矛盾する主張をすることは,本件前訴①の既判力に抵触しないかどうかについて検討する。
 2 既判力とは,前訴確定判決の後訴に対する通用力ないし拘束力をいう。既判力が生じるのは,「主文に包含するもの」に限られるところ(民訴法114条1項),既判力は裁判所の公権的な判断に付与された強制力であるから,広い範囲に効力を及ぼすべきではなく,当事者が意識的に審判対象とした訴訟物についてのみこれを認めれば,当事者間の紛争解決のためには必要十分であるから,「主文に包含するもの」とは訴訟物を指す。また,訴訟物の判断についてのみ既判力が生じるとすることによって,裁判所は,実体法の論理的順序にとらわれずに弾力的で迅速な審理を行うことができる。そうすると,既判力は,判決理由中の判断には生じないというべきである(※1)
 3 これを本件についてみると,Aが本件後訴①において争おうとしている詐欺取消権に係る欺罔行為について,本件前訴①においても詐欺取消権を認める上で当然審理されているものと考えられるが,詐欺取消権自体が訴訟物を構成するものではなく,あくまでBが提出した攻撃防御方法にすぎないのであるから,本件前訴①においては判決理由中の判断としか示されていない。そうすると,本件前訴①においては,詐欺取消権に係る判断について既判力が生じていないから,本件後訴①において,これについての判断が本件前訴①の判断によって拘束される関係にはない。
 したがって,Aは,既判力の観点からは,本件後訴①において詐欺取消権に係る欺罔行為の不存在を争うことに問題はない。
 4 よって,Aは,本件後訴①において,本件前訴①の判決理由で認定された欺罔行為につきその不存在を主張して争うことはできる。
第2 設問2
 1 前段
 本件前訴①において,Bは,弁済の抗弁とともに相殺の抗弁を提出している。これらの抗弁は,ともにBが提出する攻撃防御方法であって,いずれが認められても,本件前訴①に係るAの請求は認められなくなる。そうすると,前記のように,裁判所は,その順序にとらわれずに弾力的に審理判断をすることができるようにも思える。
 もっとも,弁済の抗弁とは異なり,相殺の抗弁については,その対抗した額について既判力が生じる(民訴法114条2項)。相殺の抗弁に既判力が生じるとされるのは,相殺は,訴訟物たる権利とは別個独立の債権の主張わ基礎とするものであり,その実質としては自働債権についての反訴の提起と類似する性質を有しており,これを後訴で改めて争うことができるとすると,実質的に同一債権について紛争の蒸返しを認めることになり,自働債権の債権者に訴訟上の二重の利益を与えることになるから,これを防ぐためである(※2)
 相殺の抗弁のこのような性質に鑑みると,裁判所は,訴求債権が成立していることについて判断した後でなければ,相殺の抗弁について審理判断することは許されない。そうでなければ,仮に訴求債権が成立していないにもかかわらず相殺の抗弁が認められれば,これよって対抗した額について既判力が生じ,本来その後に請求出来たはずの自働債権を訴求することが妨げられることになるからである。
 これを本件についてみると,Bが提出した弁済の抗弁が認められる場合には,Aが訴求する債権は成立しないこととなるから,相殺の抗弁を認めることによって自働債権に既判力を生じさせることはBにとって酷である。一方で,弁済の抗弁については,判決理由中の判断にすぎず,相殺の抗弁のように例外的に既判力が生じる旨の規定がないことから,この点の判断について既判力が生ぜず,再びこの点を別の訴訟において争うことができる。したがって,裁判所は,相殺の抗弁について判断する前に,弁済の抗弁について判断しなければならない。
 2 後段
 相殺の抗弁に関する判断についての既判力は,「対抗した額」について生じる。したがって,その既判力の範囲は,訴求債権との関係で決定されることとなり,訴求債権が成立する範囲で対抗した額に限定される。そして,相殺の抗弁に既判力を認めた前記の理由から,相殺の抗弁に係る自働債権が認められた範囲が対抗した額より小さいとしても,対抗した額の範囲でその不存在について既判力が生じなければ紛争の蒸返しを防ぐことができないから,この場合にも「対抗した額」について既判力が生じる。なお,自働債権が成立していると認められる場合には受働債権との相殺により基準時における不存在が確定され,自働債権が成立していないと認められる場合には同様に基準時における不存在が確定されるから,相殺の抗弁に関する判断についての既判力は,その不存在にしか生じない(※3)
 これを本件についてみると,Aの訴求する債権の額は800万円であるのに対し,Bの相殺に供する自働債権の額は800万円である。そうすると,①裁判所が自働債権の全額を認めた場合には,自働債権の全額が訴求債権に「対抗した額」となり,相殺によって自働債権は基準時において不存在となるから,自働債権の全額の不存在について既判力が生じる。また,③の場合にも,全額が「対抗した額」とされた上で,自働債権が不成立とされその不存在が確定するから,自働債権の全額の不存在について既判力が生じる。また,③自働債権のうち400万円についての成立が認められ,この限度で相殺が認められた場合には,当該400万円は相殺によって消滅し,基準時において不存在となる。一方,残部の400万円については,そもそも不成立とされることから,同様に基準時において不存在となる。したがって,結局,自働債権の全額について不存在であることについて既判力が生じる。
第3 設問3
 1 Aは,800万円の債権のうち600万円に限定して訴求しているが,まずこのように1個の債権の数量的な一部のみを訴訟上請求すること(以下「一部請求」という。)が認められるかどうかについて検討する。訴訟物たる権利ないし法律関係は私法の適用を受けるものである結果,私法の領域で妥当する私的自治の原則が民事訴訟でも妥当するため,民事訴訟においては,訴訟の開始及び終了並びに審判の対象・範囲を当事者が決定すべきである処分権主義が妥当する(※4)。したがって,私法上債権の一部行使は認められるのであるから,訴訟上も一部請求が認められる。
 2⑴ それでは,Aは一部請求として800万円のうちの600万円を請求する訴訟(以下「本件前訴②」という。)の後に,残部である200万円を請求する訴訟(以下「本件後訴②」という。)を提起することができるか。本件前訴②の既判力が本件後訴②に及ぶ関係にある場合には,本件後訴②は認められないこととなるため,本件前訴②に係る判決に生じる既判力の範囲について検討する。
  ⑵ 前記のように,既判力は訴訟物について生じるから,一部請求における訴訟物が何であるかが問題となる。この点,前記のように,処分権主義の観点から,原告が意識的に一部請求をしている場合には,その一部のみが訴訟物になるようにも思われる。また,原告が試験訴訟を求めたり,損害の総額が不明である場合に算定可能な部分について請求するといったことを可能にするため,訴訟物を分断する必要性もある(※5)。これに対して,被告側及び裁判所にとっては,複数回の応訴や審理の負担があるため,訴訟物を分断すべきでないとも考えられる(※6)
 そこで,両者の調整を図るべく,一部請求訴訟において一部である旨の明示がある場合には,債権のうち訴求された一部のみが訴訟物となるが,明示がなかった場合には,債権全体が訴訟物となると考える。この場合には,訴訟物をその一部に限定する原告の意思が表示され,かつ,被告も残部請求の可能性を認識して,必要があれば残部の債務不存在確認の反訴を提起することにより,再度の応訴の負担を免れることができるためである(※7)
 したがって,一部請求訴訟の判決の既判力は,明示がある場合にはその一部のみについて生じ,明示がなければ債権全体について生じる。
 3⑴ これを本件についてみると,Aが一部請求をするに際して,訴求している600万円が800万円の債権の一部であることを明示しているか否かは判然としない。そこで,まずAが一部であることを明示していなかった場合について考えると,この場合には,本件前訴②の訴訟物は,売買契約に基づく代金支払請求権の全体となる。したがって,本件前訴②においてこれの全部を棄却する判決がされたときには,800万円の債権の全体が不存在であることについて既判力が生じるから,Aは本件後訴②において,同債権のうちの200万円を請求したとしても,本件前訴②の確定判決の既判力が作用するため,請求棄却判決が出されることになる。
 また,本件前訴②において訴求債権の全部を認容する判決が出された場合にも,800万円の債権全体についてそれが存在することについて既判力が生じているから,再び本件後訴②で同債権のうちの200万円を請求したとしても,本件前訴②の既判力が作用するため,請求棄却判決がされることになる。
  ⑵ 次に,Aが一部であることを明示していた場合には,本件前訴②における訴訟物は,売買契約に基づく代金支払請求権のうちの600万円部分に限定される。そうすると,本件前訴②においてこれを全部認容する判決が出されたときには,その後本件後訴②において残部の200万円を請求しても,本件前訴②の既判力は作用しないから,本件後訴②において200万円部分について改めて審理を行い,これが認められるのであれば請求認容判決がされ,認められないのであれば請求棄却判決がされる。
 本件前訴②でこれを全部棄却する判決が出されたときには,同様に本件前訴②の判決の既判力は本件後訴②には及ばないから,Aは本件後訴②において残部の200万円を請求できるようにも思われる。しかし,一部請求においてもその審理は債権全体についてされるのであるから,その上で全部認容されなかった場合には,実質的には一部請求の残部についてもそれが不存在であるとの判断がされている。そうすると,本件後訴②において残部200万円を請求することは,実質的には本件前訴②の蒸返しであり,これによって紛争が解決されたとのBの合理的期待に反し,Bに二重の応訴の負担を強いるものである。したがって,一部請求訴訟で敗訴したAが残部請求の訴えを提起することは,特段の事情がない限り,信義則(民訴法2条)に反して許されない(※8)。よって,裁判所は,本件後訴②を,不適法なものとして却下すべきである。
第4 設問4
 1 前段
 一部請求は,特定の金銭債権について,その数量的な一部を少なくともその範囲においては請求権が現存することを前提として請求するものである。したがって,当該債権の総額が減少している場合に,債権の総額からではなく,一部請求の額から減少額を控除することは,一部請求の趣旨に反する。したがって,一部請求において,当該債権の総額が減少している場合には,まず,当該債権の総額を確定し,その額から減少額を控除した残存額を算定した上,原告の請求に係る一部請求の額が残存額の範囲内であるときはそのまま認容し,残存額を超えるときはその残存額の限度でこれを認容すべきである(※9)
 2 後段
 前記のように明示がされた一部請求の場合には,訴求債権の訴訟物がその一部に限定され,また相殺の抗弁により自働債権の存否について既判力が生じるのは,請求の範囲に対して「対抗した額」に限られるから,当該債権の総額から自働債権の額を控除した結果残存額が一部請求の額を超えるときは,一部請求の額を超える範囲の自働債権の存否について既判力は生じない(※10)
 これを本件についてみると,①自働債権が400万円である場合には,訴求債権の全額である800万円からこれを控除すると400万円が残存額となる。そうすると,残存額が一部請求の額である600万円よりも少なくなるから,両者の差額である200万円の限度で自働債権の不存在について既判力が生じる。
 また,②自働債権が100万円である場合には,700万円が残存額となるから,一部請求の額を超えるため,自働債権について既判力は生じない(※11)

以 上


(※1)「判決理由中の判断について既判力が生じないとされるのは,次のような考慮に基づく。まず,判決理由中の判断に既判力を及ぼさないことにより,弾力的で迅速な審理が可能になると考えられる。すなわち,もし判決理由中の判断についても拘束力が生じるものとすれば,どのような理由で請求の当否を決するかが重要な問題となるから,裁判所としては,実体法の論理的な順序に従って審理・判断をすることとならざるを得ない。たとえば,貸金返還請求訴訟において,契約の成立を争うとともに,予備的に消滅時効を主張する場合,契約の成否についてまず審理判断したうえで,契約の成立が認められる場合に限って消滅時効の成否についての審理判断に進まなければならないことになる。これに対して,判決理由中の判断については拘束力は生じないものとすれば,どのような理由で結論を出そうとも,判決効の面では差異が生じないことになるから,消滅時効の成立が明らかであれば,契約の成否について審理するまでもなく,請求を棄却することが可能となるし,当事者としても,特定の攻撃防御方法に過度にこだわることなく,柔軟に争点を絞り込むことが可能になる。また,上訴の局面においても,判決理由中の判断に拘束力を認めるとすれば,結論において勝訴している当事者に対しても,その理由が不利だという点で上訴の利益を認める必要が生じるが,拘束力がないとすれば,そうした上訴による手続の遅延を避けることが可能となるという利点がある。」「加えて,訴訟物は,訴状によって訴訟手続の当初から明確に特定されるべきものであるから,これを既判力の範囲を基準とすることは,当事者にとって明確かつ安定した基準を提供することになり,手続保障の観点からも利点がある。また,訴訟物ため権利義務関係の存否についての争いの蒸返しを防ぐことは,その判決による紛争解決の実効性を確保するために必要不可欠であるが,理由中の判断は,いわば手段的な意味を有するにとどまるのが通常であり,拘束力を認める必要性は,相対的に低いといえる。」三木浩一ほか『LEGAL QUEST民事訴訟法〔第2版〕』434頁
(※2)「たとえば自働債権による相殺の抗弁を排斥して請求認容する判決が確定した後に,被告が自働債権を訴求することを認めると,後訴が認容されたときには,一方で原告が前訴判決で得た地位が実質的に覆滅されるとともに,他方では,被告が,前訴では自働債権を抗弁の基礎として用い,後訴では,訴訟物として用いるという,訴訟上の二重の利益を得ることになる。逆に,前訴において相殺の抗弁にもとづく請求棄却判決が確定した後に,被告が相殺によって消滅したはずの自働債権を訴求することを認めると,やはり原告は,自己の受働債権の犠牲において自働債権の負担を免れた地位を覆滅されることになるし,被告は,前訴で自働債権にもとづく相殺の抗弁を主張し,後訴で同一の債権を訴訟物として訴求するという二重の利益を得ることになる。法が自働債権のうち相殺対抗額部分についての判断に既判力を認めるのは,このような不合理な結果を防ごうとするものである。」「理論的にみると,相殺の抗弁の成否についての判断は,訴訟物たる受働債権の存否を定めるための判決理由中のものにすぎない。したがって,114条2項は,既判力の範囲が判決主文中の判断に限定されるとする,同条1項の原則に対する例外をなす。それにもかかわらず,上記のような実際的考慮にもとづいてこの判断に既判力を認めることは,相殺の抗弁の性格によるところが大きい。二重起訴禁止と相殺との関係にもみられるように,相殺は,訴訟物たる権利とは別個独立の債権の主張を基礎とするものであり,その実質としては,自働債権についての反訴の提起と類似する性質をもっている。したがって,抗弁として提出された場合であっても,その判断に既判力を認めることが,理論的にも不合理とはいえない。」伊藤眞『民事訴訟法〔第4版補訂版〕』525頁
(※3)「114条2項は,相殺のために主張した請求の成立または不成立の判断について既判力が生じるとしているが,立法の経緯に照らしても,また既判力の基準時の性格からいっても,『請求の成立または不成立』の文言は,基準時における請求の存在または不存在と解されるべきである。また,相殺の抗弁についての判断内容としては,自働債権が不存在であるとして,抗弁が排斥されるか,相殺の抗弁を認めて自働債権が消滅するかのいずれかであるが,いずれの場合であっても,基準時には自働債権が不存在であると認められることになる。したがって,請求すなわち自働債権の存在に該当する判断は考えられず,自働債権の不存在についてのみ既判力が生じると解する以外にない。」前掲伊藤526頁
(※4)『処分権主義』とは,①訴訟の開始,②審判の対象・範囲,③判決に依らない訴訟の終了に関する決定を当事者に委ねる考え方をいう。このような考え方が民事訴訟に妥当するのは,訴訟物たる権利ないし法律関係は私法の適用を受けるものである結果,私法の領域で妥当する私的自治の原則は民事訴訟においても妥当すると考えられるからである。なお,①の決定が当事者に委ねられるということは,原告にる訴えの提起がないにもかかわらず,裁判所が職権で訴訟を開始することはできないということを意味するが,このことは,『訴えなければ裁判なし』あるいは『不告不理の原則』と表現される」前掲三木ほか55頁
(※5)「原告が一部請求をする動機には,勝訴の可能性が不明であるため,とりあえず債権の一部について裁判所の判断を求めようとする場合(いわゆる試験訴訟)や,損害の総額が不明であるためにとりあえず算定可能な部分について請求する場合,被告の資力に応じた金額を請求する場合など,さまざまなものがある。これらの背景としては,提訴手数料や弁護士費用が訴額に応じて定められているため,請求額を低く設定した方が,原告にとって費用の面で有利であるとの事情が指摘されることが多い。しかし,現実には,そうした動機は試験訴訟や被告の資力を考慮した一部請求に当てはまるにすぎず,多くの場合には,むしろ立証の困難や,不合理な請求であるとの外観を回避したいといった動機の方が重要な要因となっている。」前掲三木ほか442頁
(※6)「こうした議論においては,実質的には,同一債権を複数回に分けて訴求することについての原告の利益と,同一の債権について複数回の応訴や審理を迫られる被告や裁判所の負担をどのように調整するかが問題となるが,理論構成としては,一部請求訴訟における訴訟物をどのように構成するか,という点が検討の出発点となる。」前掲三木ほか442頁
(※7)「一部請求において一部である旨の明示があった場合には,債権のうち訴求された一部のみが訴訟物となるが,明示がなかった場合には,債権全体が訴訟物となるとする見解である……。その根拠は,明示があれば,訴訟物をその一部に限定する原告の意思が表示されているといえること,また,被告としても,残部請求の可能性を認識して,必要があれば残部の債務不存在確認の反訴を提起するなど,再度の応訴の負担を免れるための対応が可能であることに求められる。」前掲三木ほか444頁
(※8)「一個の金銭債権の数量的一部請求は、当該債権が存在しその額は一定額を下回らないことを主張して右額の限度でこれを請求するものであり、債権の特定の一部を請求するものではないから、このような請求の当否を判断するためには、おのずから債権の全部について審理判断することが必要になる。すなわち、裁判所は、当該債権の全部について当事者の主張する発生、消滅の原因事実の存否を判断し、債権の一部の消滅が認められるときは債権の総額からこれを控除して口頭弁論終結時における債権の現存額を確定し……、現存額が一部請求の額以上であるときは右請求を認容し、現存額が請求額に満たないときは現存額の限度でこれを認容し、債権が全く現存しないときは右請求を棄却するのであって、当事者双方の主張立証の範囲、程度も、通常は債権の全部が請求されている場合と変わるところはない。数量的一部請求を全部又は一部棄却する旨の判決は、このように債権の全部について行われた審理の結果に基づいて、当該債権が全く現存しないか又は一部として請求された額に満たない額しか現存しないとの判断を示すものであって、言い換えれば、後に残部として請求し得る部分が存在しないとの判断を示すものにほかならない。したがって、右判決が確定した後に原告が残部請求の訴えを提起することは、実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり、前訴の確定判決によって当該債権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し、被告に二重の応訴の負担を強いるものというべきである。以上の点に照らすと、金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは特段の事情がない限り、信義則に反して許されないと解するのが相当である。」最判平成10年6月12日民集52巻4号1147頁
(※9)「特定の金銭債権のうちの一部が訴訟上請求されているいわゆる一部請求の事件において、被告から相殺の抗弁が提出されてそれが理由がある場合には、まず、当該債権の総額を確定し、その額から自働債権の額を控除した残存額を算定した上、原告の請求に係る一部請求の額が残存額の範囲内であるときはそのまま認容し、残存額を超えるときはその残存額の限度でこれを認容すべきである。けだし、一部請求は、特定の金銭債権について、その数量的な一部を少なくともその範囲においては請求権が現存するとして請求するものであるので、右債権の総額が何らかの理由で減少している場合に、債権の総額からではなく、一部請求の額から減少額の全額又は債権総額に対する一部請求の額の割合で案分した額を控除して認容額を決することは、一部請求を認める趣旨に反するからである。」最判平成6年11月22日民集48巻7号1355頁
(※10)「一部請求において、確定判決の既判力は、当該債権の訴訟上請求されなかった残部の存否には及ばないとすること判例であり……、相殺の抗弁により自働債権の存否について既判力が生ずるのは、請求の範囲に対して『相殺ヲ以テ対抗シタル額』に限られるから、当該債権の総額から自働債権の額を控除した結果残存額が一部請求の額を超えるときは、一部請求の額を超える範囲の自働債権の存否については既判力を生じない。」前掲最判平成6年11月22日
(※11)これに対して,黙示的一部請求の場合に,相殺の抗弁の自働債権のについての判断に生じる既判力がどの範囲となるかはかなり悩んでいます。訴求債権の訴訟物が800万円全額になることから,自働債権の400万円全額が「対抗した額」になるのか,それとも明示的一部請求の場合と同様に100万円の限度となるのか,はたまたこの場合には債権の全額が口頭弁論終結時までに算定されていないとして,訴求債権600万円からそのまま相殺を認め(つまり内側説っぽくなる。ただし残部が観念されていないので,単純な相殺にすぎない。),400万円が「対抗した額」となるのか,色々考えられると思います。私にはよく分かりませんが,債権全額から400万円を引いて400万円が「対抗した額」となるのかなと思っています。



2019-03-30(Sat)

【基礎演習民事訴訟法】問題13「基準時後の形成権の行使」

1日4通が限界ですね。

疲れます。

ほんとに。

頭がしおれている感じがします。

≪問題≫
省略


このタイミングで既判力。

重い。

≪答案≫
1 請求異議の訴えで異議事由とすることができるのは,「口頭弁論の終結後に生じたもの」に限られる(民執法35条2項)。Aが,既に確定判決が出ているBのAに対する売買契約に基づく代金支払請求権について,新たに詐欺を理由とする取消権を行使することが,異議事由となり得るかどうかについて検討する。
2⑴ 請求異議の訴えにおいて,異議事由が口頭弁論終結後の事由に限られるのは,確定判決の口頭弁論終結前の事由は既判力に抵触するためである(※1)
 ここで,既判力とは,前訴確定判決の後訴に対する通用力ないし拘束力をいい(※2),その消極的作用として,当事者は,後訴において,既判力の生じた前訴判決の判断に反する主張,立証をすることが許されず,裁判所もそのような主張,立証を取り上げることができない(以下,この効力を「遮断効」という。)(※3)。確定判決のこのような効力が正当化されるのは,当事者は既に前訴において特定の権利関係について裁判資料提出の機会を与えられたという意味での手続保障が与えられた点にある(※4)。そして,前記の既判力の正当化根拠に照らすと,既判力によって確定される権利関係の存否の時点(以下「基準時」という。)は,当事者が事実と証拠を提出することができる事実審の口頭弁論終結時である(※5)
 そうすると,本件では,Aが主張する取消権は,売買代金支払請求訴訟(以下「本件訴訟」という。)の基準時よりも前に発生しているため,本件判決の遮断効によって,後に取消権を行使することは遮断されるように思われる。
 ⑵ もっとも,形成権である取消権が本件訴訟の基準時前に存在していたとしても,形成権行使の意思表示が相手方に到達してその効力を生じた時期が基準時よりも後であれば,その効果の主張は本件訴訟の遮断効によって遮断されないようにも思われる。そこで,このような見解の当否について検討する。
 取消権は,権利の発生そのものの障害事由であるから,権利そのものに付着する瑕疵というべきであり,このような瑕疵は前訴でその権利自体が審理判断される際に共に審理判断されるべき性質を有している。そして,取消権が口頭弁論終結前に成立していれば,前訴においてそれを行使しておくことを通常期待できる。このような取消権の性質に鑑みれば,取消権が基準時前に成立しているのであれば,基準時後における当該取消権の行使は,確定判決の遮断効によって遮断されることとなる(※6)
 なお,このように考えると民法126条が取消権の消滅時効期間を5年としたことの保障を奪うこととなり,妥当ではないとする見解がある。しかし,民法126条は,権利関係を安定させるために期間経過後の取消権行使を禁じたものにすぎず,期間内の行使を積極的に保障したものではない(※7)(※8)
 また,このように考えると当事者がその責に帰さない事情のため取消原因を知らなかった場合にまで遮断効を認めることになり,債務者に酷であるとする見解がある。しかし,同様のことは,当然無効や弁済,免除,時効完成などの消滅原因を知らなかった場合についてもいえるのであるから,取消しについてのみ別異に取り扱う理由はない(※9)
 ⑶ これを本件についてみると,Aが主張する取消権は,Bの詐欺によるものであり,当該詐欺は売買契約締結の段階でなされたものであるから,本件訴訟の基準時前に取消権が発生している。そうすると,Aが取消権を本件訴訟において主張せず,本件訴訟の判決の確定後になって初めて主張することは,本件訴訟の確定判決の遮断効によって遮断される。
3 よって,Aは,Bに対する請求異議の訴えにおいて,取消しによる売買代金請求権の消滅を理由として強制執行の不許を宣言する判決を求めることができない。

以 上


(※1)「確定判決を対象とする請求異議の事由は,口頭弁論の終結後に生じたものに限られる(35条2項)。確定判決の基準時前の事由は,既判力に抵触するので,主張できないのである」上原敏夫ほか『民事執行・保全法〔第5版〕』80頁
(※2)「いったん判決が確定すると,もはやその判決を上訴等の通常の不服申立方法によって覆すことができなくなる(形式的確定力)のはもちろん,新たな訴えを提起するなどの方法によってその判断内容を争うことも許されないものとされる。このように,確定判決は,その事件を決着済みのものとし,判決の内容を以後の当事者間の関係を規律する基準として通用させる効力を有する。確定判決の持つこうした通有性ないし拘束力を,既判力と呼ぶ。既判力は,手続を形式的に終結させる形式的確定力との対比において,実体的確定力または実質的確定力と呼ばれることもある。」三木浩一ほか『LEGAL QUEST民事訴訟法〔第2版〕』418頁
(※3)「既判力が現実に作用するのは,既に確定判決の存在する事件に関連して後訴が提起された場合である。この場合の作用の形態としては,積極的作用と消極的作用とがあるといわれる。」「消極的作用とは,当事者は,後訴において,既判力が生じた前訴判決の判断に反する主張・立証をすることが許されず,裁判所もまたそうした主張・立証を取り上げることができないことを指す。たとえば,XのYに対する売買代金支払請求訴訟において請求認容判決が確定した後に,Yがその執行力を争って請求異議の後訴を提起した場合,売買契約は錯誤により無効であるとか,問題となっている契約は売買ではなく贈与であったから代金支払債務は存在しないといった主張は,既判力によって遮断されることになる。」「消極的作用は,遮断効または失権効と呼ばれることもある。しかし,既判力とは独立にそのような効力が認められるわけではなく,消極的作用とは,既判力の攻撃防御方法のレベルにおける作用を表現したものである。」前掲三木ほか420頁
(※4)「憲法上保障されている裁判を受ける権利の内容を考えれば,受訴裁判所が確定判決の拘束力を受け,その結果として,当事者が裁判所の判断形成のための裁判資料提出の機会を制限されることは,憲法の理念に反する。そこで,既判力の根拠として手続保障の理念が援用される。すなわち,当事者は,すでに前訴において特定の権利関係に関して裁判資料提出の機会を与えられ,その結果として一定の判断が確定した以上,後訴においてもその判断の拘束力によって裁判資料提出の機会が制限されてもやむをえないというものである。」伊藤眞『民事訴訟法〔第4版補訂版〕』508頁
(※5)「訴訟物たる権利関係の存否について受訴裁判所は,弁論主義の原則によって当事者が提出した事実と証拠にもとづいて判断を行う。当事者が事実と証拠を提出できるのは,事実審の最終口頭弁論終結時までであるから,裁判所の判断資料もこの時点によって画され,権利関係の存否もこの時点を基準とする。このことを既判力の時的限界または基準時は事実審の最終口頭弁論終結時であると表現する。」前掲伊藤515頁
(※6)「基準時後の取消権行使を認めない見解の根拠としては,①取消権は,相殺権とは異なり,権利の発生そのものの障害事由であるから,要素の錯誤,強行法規違反などと等しく権利そのものに付着する瑕疵とみることができ……,このような瑕疵は,法的安定性をその本質とする判決の既判力により最初の訴訟に際して全部洗い流されるべきであること……,②取消権や解除権については,それが口頭弁論終結前に成立していれば,前訴で行使しておくことを通常期待できること……,③基準時後の取消権行使を認めるとすれば,前訴の基準時前に主張されなかった,より重大な瑕疵である当然無効の事由が遮断されることと釣り合いがとれないこと……,が挙げられる。」高橋宏志ほか『民事訴訟法判例百選〔第5版〕』165頁
(※7)「遮断を肯定すると民法126条が保障する5年間の行使期間が奪われることになり,実体法の規定に反するとの批判がされる。この点は,実体法の解釈問題であるが,多数説の立場からは,この規定は権利関係を安定させるために期間経過後の取消権行使を禁じたものにすぎず,期間内の取消権の行使を積極的に保障したものではない,と解することになる。」前掲三木ほか430頁
(※8)「中野説の最も重要なポイントは,民法126条が取消権行使につき期間を保障しているとする点である。しかし,この期間制限は,この期間を過ぎれば取消権行使はできないということを意味するにとどまるのではなかろうか。それを超えて,この期間内は権利行使が当然に保障されているとまで強く捉えるべきものかは疑問がある。少なくとも,相手方が訴訟を提起して決着を求めてきたときまでも権利行使が保障されている期間と見るべきではないのではあるまいか。訴訟が提起されたときには,特別の事情がない限り,被告もその訴訟の中で取消事由をも含めて決着をつけるべきであり,それを被告に要求しても不当とは言えないからである。」高橋宏志『重点講義民事訴訟法・上〔第2版補訂版〕』615頁
(※9)「通説によると,債務者がその責に帰すべからざる事情のため取消原因を知らなかったような場合にまで遮断効を認めることになって債務者に酷な結果となるが,そのことは,当然無効や弁済,免除,時効完成などの消滅原因を知らなかった場合についてもいえるところであり,取消についてのみ別異に解すべき理由にはならない」最判解民事篇昭和55年度327頁



2019-03-30(Sat)

【基礎演習民事訴訟法】問題12「文書提出命令」

本日の(起きてからの)3通目です。

なぜか左側の鼻の奥がとても痛みます。

水を鼻から吸ったときみたいな痛さです。

なぜでしょうか。

何もしてないのに。

≪問題≫
省略


文書提出命令です。

判例がたくさんあるので,規範はちゃんと覚えるところから始めたいですね。

しかし,設問2の最後のところ,

証明すべき事実に色々ぶち込んだときに,

どこまで真実擬制させていいのかという議論は,

初めて知りました。

へえ,勉強になるなあと思いました。

≪答案≫
第1 設問1
 1 Aが申し立てた,B銀行の貸出稟議書及び社内通達文書(以下,それぞれ「本件貸出稟議書」,「本件社内通達文書」といい,これらをまとめて「本件貸出稟議書等」という。)の文書提出命令(民訴法223条1項)の申立て(同法221条1項)に係る文書提出義務は認められるか。
 2⑴ 本件貸出稟議書等は,同法220条1号及び2号の文書には該当しない。
  ⑵ 「挙証者の利益のために作成され」た文書(同条3号前段)とは,挙証者の地位や権利などを直接的に基礎づけ,かつ,そのことを目的として作成された文書をいう(※1)。本件貸出稟議書等は,ともにB銀行の内部においての用に供されるにとどまる文書であるから,「挙証者の利益のために作成され」た文書ではない。
 また,「法律関係について作成された」文書(同条3号後段)とは,挙証者と所持者との間の具体的な法律関係及びこれと密接な関連を有する事項について,それを対外的に明らかにする目的を持って作成された文書をいう(※2)。したがって,B銀行の内部使用目的で作成された本件貸出稟議書等は「法律関係について作成された」文書ではない。
  ⑶ そこで,Aとしては,本件貸出稟議書等が同条4号の文書に該当するとして,文書提出命令を申し立てることとなる。B銀行としては,本件貸出稟議書等が,「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」(同条4号ニ)であるとして,提出義務を負わないと反論することが想定される。
 ある文書が,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には,特段の事情がない限り,当該文書は「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」にあたる(※3)
 これをまず本件貸出稟議書についてみると,銀行の稟議書とは,支店長等の決裁限度を超える規模,内容の融資案件について,本部の決裁を求めるために作成されるものであって,通常は,融資の相手方,融資金額,資金使途,担保・保証,返済方法といった融資の内容に加え,銀行にとっての収益の見込み,融資の相手方の信用状況,融資の相手方に対する評価,融資についての担当者の意見などが記載され,それを受けて審査を行った本部の担当者,次長,部長など所定の決裁権者が当該貸出しを認めるか否かについて表明した意見が記載される文書である。このような文書作成の目的や記載内容等からすると,銀行の貸出稟議書は,銀行内部において,融資案件についての意思形成を円滑,適切に行うために作成される文書であって,法令によってその作成が義務付けられたものでもなく,融資の是非の審査に当たって作成されるという文書の性質上,忌たんのない評価や意見も記載されることが予定されているものである。したがって,貸出稟議書は,専ら銀行内部の利用に供する目的で作成され,外部に開示することが予定されていない文書であって,開示されると銀行内部における自由な意見の表明に支障を来し銀行の自由な意思形成が阻害されるおそれがあるものとして,特段の事情がない限り,「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たる(※4)
 次に,本件社内通達文書についてみると,B銀行本部から各営業部長にあてて発出されたものであって,その内容は,一時払変額保険の販売にあたっての業務提携について記載したものであり,取引先の顧客の信用情報やB銀行の高度なノウハウに関する記載は含まれておらず,その作成目的は,上記の業務提携を各営業部長に周知伝達することにある。このような文書の作成目的や記載内容等からすると,本件社内通達文書は,基本的にはB銀行の内部の者の利用に供する目的で作成されたものということができる。しかし,本件社内通達文書は,B銀行の業務の執行に関する意思決定の内容等をその各営業部長に周知伝達するために作成され,法人内部で組織的に用いられる社内通達文書であって,B銀行の内部の意思が形成される過程で作成される文書ではなく,その開示により直ちにB銀行の自由な意思形成が阻害される性質のものではない。さらに,本件社内通達文書は,個人のプライバシーに関する情報やB銀行の営業秘密に関する事項が記載されているものではない。そうすると,本件社内通達文書はが開示されることによってB銀行に看過し難い不利益が生ずるおそれがあるということはできない。したがって,本件社内通達文書は,「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」には当たらないというべきである(※5)
 3 よって,B銀行は,本件貸出稟議書については文書提出義務を負わないが,本件社内通達文書については文書提出義務を負う。
第2 設問2
 B銀行は,本件訴訟における「当事者」であるから,裁判所が本件社内通達文書について文書提出命令を発令した場合に,B銀行がこれに従わないときは,本件社内通達文書の記載に関するAの主張を真実と認めることができる(民訴法224条1項)。したがって,Aが本件社内通達文書の文書提出命令の申立てにあたり記載した「文書の趣旨」(同法221条1項2号)について,裁判所はそれが真実であると認めることができる。
 もっとも,文書提出命令を申し立てる当事者には,その提出の対象となる文書の記載内容について具体的に記載することについては限界があり,ある程度概括的にしかその内容が示されない。そうすると,文書所持者としては,当該文書を提出するよりも,これを提出しないで真実擬制を受けた方が有利であり,これでは文書提出命令の不服従の制裁としての実効性が欠ける。そこで,文書所持者が文書提出命令に従わず,当該文書により証明すべき事実を他の証拠により証明することが著しく困難である場合には,裁判所は,その事実に関する相手方の主張を真実と認めることができる(同条3項)(※6)。したがって,Aは本件社内通達文書について,変額保険勧誘にあたりB銀行が主体的役割を担ったことを証明すべき事実としているから,裁判所は,当該事実が真実であると認めることができる。この場合には,B銀行は,勧誘はD生命保険が積極的に行い,B銀行は顧客を紹介したにすぎない等の事実を別の証拠によって示すことにより,同項の効果の発生を妨げることができる。
 なお,仮にAが,本件社内通達文書によって証明すべき事実として,本件貸出稟議書によって証明しようとしていた,B銀行が融資一体型の変額保険の勧誘販売に伴う貸付にあたり相続税対策としての有効性を誤信させる説明をCに行わせたことを追加していた場合に,同項の効果としてこの点まで真実である認めてよいかが問題となる。この点,文書が実際に提出された以上の利益を挙証者に与える必要はないから,証明すべき事実と当該文書との間に関連性がないことが明らかである場合や,当該時事に対する証拠価値が期待できない場合には,同項の効果を認めるべきではないとする見解もある。しかし,同項の趣旨は,文書の不提出の動機付けを可能な限り減じて審理の充実を図る点にある。したがって,証明すべき事実と当該文書との関連性が直ちに肯定できなくとも,同項の効果を認めるべきである。このように考えても,文書所持者は,不利益を回避したいのであれば当該文書を提出すればよいのであるから,文書所持者に特段不利益を負わせるものではない。

以 上


(※1)『挙証者の利益のため』とは,その文書が挙証者の地位や権利などを直接的に基礎づけるものであり,かつ,そのことを目的として作成されたことを意味する。文書作成の目的が,挙証者の法的地位や権利義務を発生させるものであるときや,挙証者の法的地位や権利義務を証明するものであるときには,その文書を訴訟において証拠方法として利用することを認めるのが相当であるからである。ただし,挙証者に事実認定上の有利な結果が生じるというだけでは,利益文書には当たらない(広島地決昭和43・4・6訟月14巻6号620頁,大阪高決昭和54・3・15判タ387号73頁等)。挙証者が文書の提出を求めるときは,多かれ少なかれ事実認定上の有利な結果を期待しているので,『利益』をこのように捉えると,利益文書の範囲は無限定になるからである。利益文書の例としては,挙証者を受遺者とする遺言状,挙証者のためにする契約の契約書,挙証者の代理権を証明する委任状,挙証者を支払人とする領収書,挙証者にた意思て出された同意書,挙証者の身分を証明する身分証明書などがある。」三木浩一ほか『LEGAL QUEST民事訴訟法〔第2版〕』321頁
(※2)『法律関係』とは,挙証者と所持者の間の具体的な法律関係およびこれと密接な関係を有する事項を意味する。挙証者と所持者の間において,文書に関する共同の法律関係が存在する場合には,挙証者が文書という物の共有権を有していないとしても,その記載内容に対しては一種の支配権を有するとする考え方に基づく。法律関係それ自体が記載されている文書の例としては,契約書,解除通知,家賃通帳などがあり,法律関係と密接な関連を有する事項を記載した文書の例としては,印鑑証明書,商業帳簿などがある。私法上の法律関係だけではなく,公法上の法律関係でもよい。公法上の法律関係の例としては,挙証者に対する捜索差押許可状および捜索差押令状請求書(最決平成17・7・22民集59巻6号1837頁),勾留状(最決平成19・12・12民集61巻9号3400頁)などがある。しかし,文書の所持者による内部使用のみが想定されている文書……は,法律関係文書に当たらない。法律関係文書は,作成者が法律関係またはそれと密接な関連を有する事項を対外的に明らかにする目的を持って作成した文書であることを要するが,内部使用のみを想定した文書はこの目的を欠くからである。」前掲三木ほか321頁
(※3)「ある文書が、その作成目的、記載内容、これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯、その他の事情から判断して、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であって、開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど、開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には、特段の事情がない限り、当該文書は民訴法220条4号ハ所定の『専ら文書の所持者の利用に供するための文書』に当たると解するのが相当である。」最決平成11年11月12日民集53巻8号1787頁
(※4)「これを本件についてみるに、記録によれば、銀行の貸出稟議書とは、支店長等の決裁限度を超える規模、内容の融資案件について、本部の決裁を求めるために作成されるものであって、通常は、融資の相手方、融資金額、資金使途、担保・保証、返済方法といった融資の内容に加え、銀行にとっての収益の見込み、融資の相手方の信用状況、融資の相手方に対する評価、融資についての担当者の意見などが記載され、それを受けて審査を行った本部の担当者、次長、部長など所定の決裁権者が当該貸出しを認めるか否かについて表明した意見が記載される文書であること……が明らかである。」「右に述べた文書作成の目的や記載内容等からすると、銀行の貸出稟議書は、銀行内部において、融資案件についての意思形成を円滑、適切に行うために作成される文書であって、法令によってその作成が義務付けられたものでもなく、融資の是非の審査に当たって作成されるという文書の性質上、忌たんのない評価や意見も記載されることが予定されているものである。したがって、貸出稟議書は、専ら銀行内部の利用に供する目的で作成され、外部に開示することが予定されていない文書であって、開示されると銀行内部における自由な意見の表明に支障を来し銀行の自由な意思形成が阻害されるおそれがあるものとして、特段の事情がない限り、『専ら文書の所持者の利用に供するための文書』に当たると解すべきである。」前掲最決平成11年11月12日
(※5)「これを本件各文書についてみると,記録によれば,本件各文書は,いずれも銀行である抗告人の営業関連部,個人金融部等の本部の担当部署から,各営業店長等にあてて発出されたいわゆる社内通達文書であって,その内容は,変額一時払終身保険に対する融資案件を推進するとの一般的な業務遂行上の指針を示し,あるいは,客観的な業務結果報告を記載したものであり,取引先の顧客の信用情報や抗告人の高度なノウハウに関する記載は含まれておらず,その作成目的は,上記の業務遂行上の指針等を抗告人の各営業店長等に周知伝達することにあることが明らかである。」「このような文書の作成目的や記載内容等からすると,本件各文書は,基本的には抗告人の内部の者の利用に供する目的で作成されたものということができる。しかしながら,本件各文書は,抗告人の業務の執行に関する意思決定の内容等をその各営業店長等に周知伝達するために作成され,法人内部で組織的に用いられる社内通達文書であって,抗告人の内部の意思が形成される過程で作成される文書ではなく,その開示により直ちに抗告人の自由な意思形成が阻害される性質のものではない。さらに,本件各文書は,個人のプライバシーに関する情報や抗告人の営業秘密に関する事項が記載されているものでもない。そうすると,本件各文書が開示されることにより個人のプライバシーが侵害されたり抗告人の自由な意思形成が阻害されたりするなど,開示によって抗告人に看過し難い不利益が生ずるおそれがあるということはできない。」「以上のとおりであるから,本件各文書は,民訴法220条4号ニ所定の『専ら文書の所持者の利用に供するための文書』には当たらないというべきである。」最決平成18年2月17日民集60巻2号496頁
(※6)「所持者が訴訟当事者である場合には,制裁は事実認定,ひいては訴訟の勝敗に結びつけられる。その方が制裁として強力だからである。本則は,224条1項により,裁判所は,当該文書の記載に関する相手方当事者(文書提出命令申立人)の主張を真実だと認めることができる。当該文書の記載に関する相手方の主張とは,文書提出命令申立ての手続における221条1項1号・2号の文書の表示・趣旨に対応する。要するに,その文書に何が書かれているかという主張である。文書提出命令に従わないときの制裁としては,論理的には,文書が提出されたと同じ状態に持ち込めば必要にして十分である。そこで,文書が提出されたのと同じ状態とするために,当該文書の記載に関する相手方の主張を真実だと認め,事実認定に役立てるとしたのである。しかし,この論理は,実際には完全ではない。当該文書の記載に関する相手方の主張は,多かれ少なかれ,文書そのものよりは簡潔である。文書そのものを読むよりは,迫力を欠き証拠力は縮減するのが道理である。書証は,文書の紙質,筆跡などについての検証を兼ねるのであるが……,この部分の証拠力もない。したがって,一般的には,所持者側当事者としては,文書を提出してしまうよりも,提出せず224条1項の真実擬制を受ける方が立証上有利である。しかも,224条の真実擬制は裁判官の裁量によるのであって,必ず擬制されるとは限らない。」「そこで,所持者側当事者に対する制裁は強化しなければならない。224条3項は,申立人当事者の側が,文書の記載に関して具体的な主張をすることが著しく困難であり,かつ,その文書で証明しようとした要証事実を他の証拠で証明することが著しく困難である場合には,裁判所は要証事実そのものを真実擬制することができるとした。」高橋宏志『重点講義民事訴訟法・下〔第2版補訂版〕』210頁



2019-03-30(Sat)

【基礎演習民事訴訟法】問題11「自由心証・証明度」

とりあえず基礎演習は3分の1が終わりました。

3分の1を終わらせるのに約5日かかっているので,

このペースでいくとあと10日かかります。

それはマズいですね。

ペースをあげないといけないなと思います。

とりあえず,今回は,11問目です。

≪問題≫
省略


立証活動というまたもよく分からないところ。

たぶん素でこの問題を解いたら,

ルンバールだよなあ,という頭の悪い答案構成しかできません。

≪答案≫
1⑴ AがQ社との間で締結した傷害保険契約(以下「本件傷害保険契約」という。)における約款(以下「本件約款」という。)では,被保険者が自動車運行中に急激かつ偶然な外来の事故により傷害を負う場合を保険事故とする旨が定められているとともに,被保険者の自殺行為による傷害を負う場合には保険金を支払わない旨を定めている。そこで,本件傷害保険契約の下で,BがQ社に対して保険金を請求するに際しての証明責任の所在が,前記保険事故を原因とする保険金請求権(以下「本件保険金請求権」という。)の成立要件との関係で問題となる。
 ⑵ 本件約款においては,その理由のいかんを問わずに自動車運行中に生じた事故により傷害を負ったことを傷害保険金請求権の成立要件とするものではなく,保険事故として急激かつ偶然な外来の事故であることを定めているのであるから,発生した事故が急激かつ偶然な事故であることが保険金請求権の成立要件であるというべきである。また,このように考えなければ,保険金の不正請求が容易となるおそれが増大する結果,保険制度の健全性を阻害し,ひいては誠実な保険加入者の利益を損なうおそれがある。そうすると,本件約款のうち,被保険者の自殺行為により傷害保険金の支払事由に該当したときは傷害保険金を支払わない旨の定めは,傷害保険金が支払われない場合を確認的注意的に規定したものにとどまり,被保険者の自殺行為により傷害保険金の支払事由に該当したことの主張立証責任を保険者に負わせたものではない。したがって,本件約款に基づき,保険者に対して傷害保険金の支払を請求する者は,発生した事故が急激かつ偶然な事故であることについて主張,立証責任を負う(※1)(※2)(※3)
 ⑶ 本件でも,Aについて生じた事故が急激かつ偶然な事故であることが本件傷害保険金請求権の成立要件であるから,Bにおいてこれに該当する事実について主張,立証する責任がある。
2⑴ 次に,Bにおいて,Aについて生じた事故が急激かつ偶然な事故であることについてどの程度証明する必要があるかが問題となる。
 ⑵ 証明は,証拠調べ期日を中心とする審理手続の制約された時間内で行う必要があることから,一点の疑義も許されない自然科学的証明を要求することは裁判所及び当事者に対して不可能を強いるものである。他方で,単なる蓋然性を基礎として裁判所が確信を形成することは,裁判所の事実認定に対する通常人の信頼を危うくする。そこで,訴訟上の立証の程度としては,高度の蓋然性が認められることが必要であり,その判定は通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを要する(※4)(※5)(※6)
 ⑶ そうすると,本件でも,Bは,Aについて生じた事故が急激かつ偶然な事故であることについて,通常人が疑いを挟まない程度に真実性の確信を持ち得る程度に立証する必要がある。Q社からは,Aに自殺の疑いがあることを理由に支払が拒絶されており,それを推認させる間接事実が主張,立証されているから,Bは,Aに自殺の意思がなかったことについて立証する必要がある。
3⑴ しかし,Aの内面である自殺の意思について立証を行うことは,特にAが死亡しており,直接的な証拠が存在しない本件においては,著しく困難である。そこで,Bにおける立証活動を軽減することができないかが問題となる。
 ⑵ 間接事実とは,主要事実の存否を経験則によって推認させる具体的な事実をいう(※7)。裁判所は,証拠及び間接事実の証明力,並びに経験則の蓋然性を考慮して,間接事実に基づいて主要事実の存在を事実上推定することができる。この場合には,相手方は,他の間接事実を裁判所に確信させる反証を行うことによって,事実上の推定を覆すこととなる(※8)
 本件では,Bが,Aの死亡前の言動や旅行後の出社予定などの間接事実から,人が自殺をする前にはその兆候があり,自殺をしようとする人は将来の予定を立てないという経験則によって,Aに自殺意思がなかったという主要事実を推認させることとなる。この場合,Q社は,B事故現場の状況やAの事故直前の言動などの間接事実から,自殺意思があったことを推認させ,あるいは,Bの主張する間接事実の推認力を減殺し,又は,Aが内心を打ち明けない性格であるなどの事実を以て前記の経験則を破るといった反証を行うこととなる。
 ⑶ なお,具体的な事実を主張・立証しなくとも裁判所が要件事実の充足を認める一応の推定という考え方もあり得るが,これは実体法上の要件事実の解釈問題にすぎず,立証活動の問題ではない。

以 上


(※1)「本件約款に基づき,保険者に対して災害割増特約における災害死亡保険金の支払を請求する者は,発生した事故が偶発的な事故であることについて主張,立証すべき責任を負うものと解するのが相当である。けだし,本件約款中の災害割増特約に基づく災害死亡保険金の支払事由は,不慮の事故とされているのであるから,発生した事故が偶発的な事故であることが保険金請求権の成立要件であるというべきであるのみならず,そのように解さなければ,保険金の不正請求が容易となるおそれが増大する結果,保険制度の健全性を阻害し,ひいては誠実な保険加入者の利益を損なうおそれがあるからである。本件約款のうち,被保険者の故意により災害死亡保険金の支払事由に該当したときは災害死亡保険金を支払わない旨の定めは,災害死亡保険金が支払われない場合を確認的注意的に規定したものにとどまり,被保険者の故意により災害死亡保険金の支払事由に該当したことの主張立証責任を保険者に負わせたものではないと解すべきである。」最判平成13年4月20日民集55巻3号682頁
(※2)「商法は、火災によって生じた損害はその火災の原因いかんを問わず保険者がてん補する責任を負い、保険契約者又は被保険者の悪意又は重大な過失によって生じた損害は保険者がてん補責任を負わない旨を定めており(商法665条、641条)、火災発生の偶然性いかんを問わず火災の発生によって損害が生じたことを火災保険金請求権の成立要件とするとともに、保険契約者又は被保険者の故意又は重大な過失によって損害が生じたことを免責事由としたものと解される。火災保険契約は、火災によって被保険者の被る損害が甚大なものとなり、時に生活の基盤すら失われることがあるため、速やかに損害がてん補される必要があることから締結されるものである。さらに、一般に、火災によって保険の目的とされた財産を失った被保険者が火災の原因を証明することは困難でもある。商法は、これらの点にかんがみて、保険金の請求者(被保険者)が火災の発生によって損害を被ったことさえ立証すれば、火災発生が偶然のものであることを立証しなくても、保険金の支払を受けられることとする趣旨のものと解される。このような法の趣旨及び前記1(2)記載の本件約款の規定に照らせば、本件約款は、火災の発生により損害が生じたことを火災保険金請求権の成立要件とし、同損害が保険契約者、被保険者又はこれらの者の法定代理人の故意又は重大な過失によるものであることを免責事由としたものと解するのが相当である。」「したがって、本件約款に基づき保険者に対して火災保険金の支払を請求する者は、火災発生が偶然のものであることを主張、立証すべき責任を負わないものと解すべきである。これと結論において同旨をいう原審の判断は正当である。所論引用の最高裁平成10年(オ)第897号同13年4月20日第二小法廷判決・民集55巻3号682頁、最高裁平成12年(受)第458号同13年4月20日第二小法廷判決・裁判集民事202号161頁は、いずれも本件と事案を異にし、本件に適切でない。論旨は採用することができない。」最判平成16年12月13日民集58巻9号2419頁
(※3)「商法629条が損害保険契約の保険事故を「偶然ナル一定ノ事故」と規定したのは,損害保険契約は保険契約成立時においては発生するかどうか不確定な事故によって損害が生じた場合にその損害をてん補することを約束するものであり,保険契約成立時において保険事故が発生すること又は発生しないことが確定している場合には,保険契約が成立しないということを明らかにしたものと解すべきである。同法641条は,保険契約者又は被保険者の悪意又は重過失によって生じた損害については,保険者はこれをてん補する責任を有しない旨規定しているが,これは,保険事故の偶然性について規定したものではなく,保険契約者又は被保険者が故意又は重過失によって保険事故を発生させたことを保険金請求権の発生を妨げる免責事由として規定したものと解される。」「本件条項は,「衝突,接触,墜落,転覆,物の飛来,物の落下,火災,爆発,盗難,台風,こう水,高潮その他偶然な事故」を保険事故として規定しているが,これは,保険契約成立時に発生するかどうか不確定な事故をすべて保険事故とすることを分かりやすく例示して明らかにしたもので,商法629条にいう「偶然ナル一定ノ事故」を本件保険契約に即して規定したものというべきである。本件条項にいう「偶然な事故」を,商法の上記規定にいう「偶然ナル」事故とは異なり,保険事故の発生時において事故が被保険者の意思に基づかないこと(保険事故の偶発性)をいうものと解することはできない。原審が判示するように火災保険契約と車両保険契約とで事故原因の立証の困難性が著しく異なるともいえない。」「したがって,車両の水没が保険事故に該当するとして本件条項に基づいて車両保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負わないというべきである。」最判平成18年6月1日民集60巻5号1887頁
(※4)訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。」最判昭和50年10月24日民集29巻9号1417頁
(※5)「行政処分の要件として因果関係の存在が必要とされる場合に、その拒否処分の取消訴訟において被処分者がすべき因果関係の立証の程度は、特別の定めがない限り、通常の民事訴訟における場合と異なるものではない。そして、訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではないが、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とすると解すべきであるから、法八条一項の認定の要件とされている放射線起因性についても、要証事実につき『相当程度の蓋然性』さえ立証すれば足りるとすることはできない。」最判平成12年7月18日集民198号529頁
(※6)証明は,証拠調べ期日を中心とする審理手続という,制約された時間の中で行わなければならず,そのために用いられうる証拠の範囲も無限定ではありえない。したがって,自然科学的証明の表現が適切か否かはともかくとして,万人が疑いを差し挟む余地のない確信の形成を要求することは,裁判所および当事者に対して不可能を強いることになる。逆に,訴訟制度が納税者の負担による公の制度として設けられている以上,単なる蓋然性を基礎として裁判所が確信を形成することは,裁判所の事実認定に対する通常人の信頼を危うくする結果となる。判例が,通常人が疑いを差し挟まない程度の高度の蓋然性を基礎として確信を形成することを要求するのは,このような趣旨として理解される。」伊藤眞『民事訴訟法〔第4版補訂版〕』332頁
(※7)「『間接事実』は,主要事実の存否を経験則によって推認させる具体的な事実である。たとえば,200万円の現金の受渡しという主要事実を推認させる間接事実として,貸し手の銀行口座からの200万円の引落しの事実と,借り手の銀行口座への同金額の同時期における入金の事実などである。」三木浩一ほか『LEGAL QUEST民事訴訟法〔第2版〕』208頁
(※8)「法律上の推定の主体が立法者であるのに対して,事実上の推定の主体は,自由心証にもとづいて事実認定を行う裁判所である。裁判所は,争いのある事実に関して,証拠から直接,または証拠にもとづいて間接事実を認定し,間接事実にもとづいて主要事実の存在を推定する。証拠にもとづく主要事実の証明を直接証明と呼び,間接事実にもとづく主要事実の証明を間接証明と呼ぶ。この推定は,経験則を用いて行われ,事実上の推定と呼ばれる。事実上の推定は,裁判官の自由心証によって立証主題たる事実について確信が形成される過程を示すものであり,法律上の推定と異なって,法律要件事実についての証明責任の転換をもたらすものではない。したがって,要件事実について証明責任を負う当事者は,裁判官の確信を形成しない限り,法規不適用の危険を免れないし,逆に相手方は,当該事実についての心証を真偽不明に追い込むだけで法規の適用による法律効果の発生を妨げられる。」「事実上の推定が成立するかどうかは,証拠および間接事実の証明力,ならびに経験則の蓋然性との間の相対的関係によって決定される。たとえば,手元不如意の状態にある借主が,貸主が金銭授受が行われたとする日時の直後にそれに相当する金額をもって第三者に弁済を行った間接事実が認められれば,裁判所は,他に特段の事情が認められない限り,金銭授受の事実を確信することが許されよう。反証の負担を負う借主としては,別の者から融資を得たなど,他の間接事実を裁判所に確信させない限り,上の事実上の推定を覆すことは困難である。このように,証明責任を負わない当事者が主要事実の反証にあたって,その基礎となる間接事実について裁判所の確信を形成する負担を負うことがあるが,これは,証明責任と矛盾するものではない。」前掲伊藤366頁
(※9)「『一応の推定』は,明治期の判例で登場した概念であり,近年に至るまで,わが国の裁判例において,主張・立証負担を軽減するための道具概念として,広く用いられてきた。また,『表見証明』は,ドイツの判例・学説において形成されてきた概念であり,実質的には,一応の推定とほぼ同様の考え方である。具体的には,いずれも,主として,不法行為における『過失』などの規範的要件を認定する場面で用いられるもので,たとえば,不法行為における損害賠償請求訴訟において,過失に該当する具体的な事実の立証が十分でなくても,一定の経験則を強く働かせることにより,要件事実の充足を認めて損害賠償請求を認容してよいとする法理である。もっとも,一応の推定(表見証明)についての学説の理解は一致しておらず,どのような事案をもって一応の推定(表見証明)が使われた事例と考えるのかも,論者ごとに異なっている。したがって,以下に述べるところは,1つの視点に立った整理である。」「たとえば,開腹手術後にガーゼが腹腔内に遺留されていたのが発見された場合において,遺留の経緯や病院の過失に関する具体的な主張・立証がない場合であっても,通常ではガーゼが腹腔内に遺留されることは起こり得ないとの経験則を重くみることによって,抽象的かつ不十分な主張・立証に基づいて病院の過失を認定する場合などが,一応の推定(表見証明)の典型例であるとされる。これによって,被害者である原告が具体的な経過を知ることのできない手術室で起こった事実に関して,原告の主張・立証負担が緩和される。」「もっとも,一応の推定(表見証明)が,一般的な通用性を有する主張・立証負担の軽減手段であるかどうかは疑問である。過失などの規範的要件は,法的評価概念であって主要事実ではなく,これらに該当する具体的な事実こそが主要事実である……。そして,法的評価のための主要事実の具体性の程度は,訴訟上の問題というよりも,規範的要件の解釈という実体法上の問題であるからである。すなわち,前述の例でいえば,過失に該当する主要事実として,執刀医や看護師のうちの特定の者が行った特定の行為という具体性の高い事実を設定するか,それとも手術に関与した病院関係者のいずれかの何らかの不注意な行為という抽象性の高い事実を設定するかは,規範的要件の解釈問題である。つまり,一応の推定(表見証明)は,規範的要件という特殊な法律要件に固有の問題であり,主張・立証負担の軽減手段の種類としては,実体法の解釈における証明主題の選択の問題として位置付けられよう。」前掲三木ほか278頁



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