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2021-02-13(Sat)

【ロー過去】神戸ロー2020年度民法

お久しぶりです。

私はついに弁護士になりました。

あと副業で,ロー進学の学生を対象にしたオンライン家庭教師も始めました。

その関係で,今後もちょっとずつ答案を書くことになりそうです。

今回は神戸ローの2020年度の民法です。

≪問題≫

 平成29年10月10日,XはAから代金3千万円を借り入れるとともに,自己所有の土地甲に抵当権を設定する旨Aと合意し,契約書を交わした。同年10月20日,Xは甲に抵当権を設定するにあたり,その登記手続をZに委任した。その際,Zは登記手続に必要だからと述べ,実印,印鑑証明書および甲の登記済証(以下「実印等」という。)の交付をXに求め,Xは登記手続をなすものと信頼し,Zに実印等を交付した。しかし,Zは登記手続をなすことなく,同年11月20日に,Xの承諾を得ないまま,交付された実印等を用い,甲を5千万円で譲渡する旨の契約をYとの間で締結した。同日Zは売買代金の支払いを受けるとともに,Yへの移転登記を完了した。同年11月30日に,Aから抵当権設定登記が完了していない旨の問いあわせを受け,Xは初めて甲がYに譲渡されていることを知った。そこで直ちにXは甲の所有権は自分にあると主張し,Yに対し移転登記の抹消を求めた。
 以上の事実関係に加え,以下の事実関係1または2の下で,Xの主張は認められるか,根拠条文を示しつつ論じなさい。その際,事実関係1と2においてZのとった行為の違いにより,Xの主張に対するYの反論を基礎付ける法的構成にどのような相違が生じるかを意識しつつ論述しなさい。なお,事実関係1,2は互いに独立したものと扱い,事実関係1に基づく解答は〔第1問の答案用紙〕に論述し,事実関係2に基づく解答は〔第2問の答案用紙〕に論述しなさい。

〔事実関係1〕(60点)
 契約を締結するにあたり,Zは一貫してXの名をかたり,契約書面にも「売主X」とのみ署名捺印してYとの間で契約を締結していた。

〔事実関係2〕(40点)
 ZはXから実印等の交付を受けた後,必要書類を偽造し,甲の登記名義をZに移転した上で,「売主Z」と署名捺印してYとの間で契約を締結していた。

≪出題趣旨≫

 事実関係1は,Xが物権的請求権(妨害排除請求権)に基づき登記抹消を請求したことに対して,表見代理(110条)に基づき法律行為(売買契約)の効果がXに帰属し,これによりXは請求の根拠となる所有権を失っている旨Yが抗弁することの成否を問うものである。まず,Zの行為が代理行為といえるためには,本人名を用いて行為しているZに99条1項の顕名が認められるかどうかが問題となり,論拠を示しつつ論じることが求められる。次に,顕名が認められるとしても,Zは本人Xから甲についての抵当権設定行為をなす権限を与えられているにすぎず,この権限が110条で求められる基本代理権に該当するかを論じる必要がある。抵当権設定行為はXA間で抵当権設定の合意により既に発生した物権変動につき対抗力を与える行為に過ぎず,私法上の権利変動を惹起する行為ではない。このため,原則として110条の基本代理権要件を満たさない。しかし,判例は,当該行為が私法上の契約による義務履行のためになされる場合には,基本代理権要件が充足され110条が適用されるとしており,この点を踏まえて示しつつ論じることが求められる。

 事実関係2においては,相手方Yは登記に公示されたZの所有権限を信頼しており,事実関係1と異なり行為者Zの代理権限に対する信頼を有する者ではない。さらに,Zは無権利者であるにもかかわらず実体的権利関係を反映しない虚偽の登記を用いてYと売買契約を締結している。よって,事実関係2は表見代理の問題とはならず,虚偽表示(94条2項の類推適用事例)の問題となる。事実関係2では,Yの抗弁を支える法律構成に事実関係1と比較していかなる理由で相違が生ずるかを明示しつつ,94条2項の類推適用,ないし,110条を併せた法意に基づき相手方が保護されるとするためには,94条2項における通謀要件と比較してどの程度の帰責性が本人Xに求められるかという点を踏まえ論述することが求められる。

110条とか94条2項とか問題にさせる割には過失要件に使える事情が少ない気がします。

これは仮定的に事実関係を設定させる趣旨なのか,もうこれだけで事案を検討させる趣旨なのか,よく分かりません。

余裕があればいろいろ書けばいいと思いますが,問題文に書かれていない事実を勝手に書くのは勇気がいります。

無難に書いた方がいいんでしょう。

≪答案≫
第1問
1 XはYに対し,所有権に基づく妨害排除請求権 として土地甲の所有権移転登記抹消登記請求をする(※1)。これが認められるためには,①自己が所有していること,②相手方名義の登記があることが必要である。
 ①Xは,平成29年11月20日時点で,土地甲を所有しており(※2),②土地甲にはY名義の所有権移転登記が存在する。したがって,Xの上記請求は認められるようにも思われる。
2⑴ これに対して,Yは,Zが土地甲をXの名でYに対し売却しており,これが代理(民法99条)にあたり,その効果がXに帰属するため,これにより土地甲の所有権がYに移転する反面Xは所有権を喪失したとして,Xの上記①の主張に対して反論することが考えられる。
Zは,自身がXの代理人であることを示していないが,一貫してXの名をかたり,契約書面にも「売主X」とのみ署名捺印しているため,Xが法律行為の当事者となる者であることが明らかとされているといえ(※3),「本人のためにすることを示して」いるといえる。しかし,XがZに対して土地甲の売却につき代理権を授与した事実はないから,Yのこの反論は認められない。
 ⑵ そうだとしても,Yは,表見代理(民法110条)が成立するから,上記⑴と同様に,土地甲の所有権がYに移転したとして,Xの上記①の主張に対して反論することが考えられる。
  ア 本条の「代理人」すなわち基本代理権の授与があるといえるためには,事実行為にとどまらず法律行為について代理権が授与される必要がある(※4)。本件で,XはZに対して,土地甲に抵当権を設定する登記手続を委任したものであるが,登記申請行為は公法上の行為にすぎず,法律行為について代理権が授与されたとはいえないようにも思われる(※5)
 しかし,本件の登記手続は,XがAから代金3000万円を借り入れるにあたって抵当権を設定するものであり,私法上の法律行為を原因として行われるものであるから,抵当権設定登記がされれば債務の弁済とその受領という私法上の効果が生ずる。そのため,本件の登記手続の委託は,法律行為による法律関係の形成に準ずるものとみることがでるから(※6),上記の代理権の授与をもって基本代理権とすることができる(※7)
  イ Zは,Xから委託を受けた登記手続を行わず,土地甲をYに売却しているから,「その権限外の行為をした場合」にあたる。
  ウ それでは,「第三者」であるYがZに「代理人の権限があると信ずべき正当な理由」,すなわちZに代理権があると信じたことにつき過失がないといえるか(※8)
 通常であれば,実印,印鑑証明書,登記済証といった重要な書類は本人しか持ち得ない上,これを無権限の第三者に預ける事態も稀である。また,契約締結にあたり,Zは一貫してXの名をかたり,契約書面にも「売主X」とのみ署名押印していたのであるから,YからすればX本人が前記の重要書類を持参して契約締結に臨んでいたものと受け取るしかない。そうすると,YはZが土地甲を売却するにつき代理権があると信じたことにつき過失があったとはいえない。
  エ 以上から,Yの上記反論は認められる。
3 よって,Xの上記請求は認められない。
第2問
1 XはYに対し,第1問と同様の請求を行う。
2⑴ これに対し,Yは,土地甲をZから売買契約(民法555条)によって取得しているから,Xは土地甲の所有権を喪失したとして,上記①の主張に反論する。しかし,Zは土地甲の所有者ではないから,他人物売買であり,YはXに対して土地甲の所有権を主張できるものではない。
 ⑵ そこで,Yは,土地甲の所有権移転登記の名義がZになっており,これを信じて土地甲を購入したのであるから,民法94条2項の「第三者」にあたり,Xはもはや土地甲の所有権をYに対抗することができないと反論する。
  ア XはZに対して,土地甲につき抵当権設定のための登記手続を依頼したにすぎず,不実の所有権移転登記の作出を通じたわけではないから,そもそも通謀虚偽表示がなく,民法94条2項を直接適用することはできない。
 もっとも,同項の趣旨は,自らは虚偽の外観を作出した真正権利者を犠牲にした上で,不実の外観を信頼して取引に入った者を保護し,取引の安全を図る点にある。そこで,ⓐ虚偽の外観が存在し,ⓑ真正権利者がその外形を作出し,ⓒ第三者がその外観を信頼して取引に入ったことの要件をそれぞれ満たす場合には,同項の上記趣旨が妥当するから,同項を類推適用することができる。
  イ これを本件についてみると,ⓐ真実はXからZに土地甲の所有権が移転した事実はないにもかかわらず,Z名義の所有権移転登記が存在する点で,虚偽の外観が認められる。
 ⓑ土地甲のZ名義の所有権移転登記は,ZがⅩから必要書類を預かっていたことを奇貨として,Zが自ら行ったものであり,Xは虚偽の外観の作出について何ら関与していない。
 この点,真正権利者が虚偽の外観の作出に加担していなくとも,虚偽の外観の作出を容易にする著しい不注意が存在し,一定期間の放置があった場合には,真正権利者自身が虚偽の外観を作出したものと同視し得るほどの帰責性が認められ。この場合には,民法94条2項のほか同法110条も類推適用し,第三者の善意無過失が要求して保護する(※9)。しかし,本件の事実関係から,Xに,虚偽の外観を作出するにつき著しい不注意があったとの事実は認められず,また,Xが,虚偽の外観が作出されていることを知ったのは,XがZに登記手続を委任してから約2か月後であり,特段長期間が経過していたとも認められない。
 したがって,本件では,Xに,Z名義の所有権移転登記の作出につき帰責性が認められない。
  ウ 以上から,Yの上記反論は認められない。
3 よって,Xの上記請求は認められる。

以 上


(※1)所有権に基づく「返還請求権」なのか「妨害排除請求権」なのかは,物権に対する侵害が「占有」によって行われているか否かにより区別します(占有による場合は返還請求権で,占有以外の方法による場合は妨害排除請求権です。)。相手方の登記の存在は,占有以外の方法による物権(本問では所有権)の侵害と考えることができますので,同登記の抹消を求める場合には,妨害排除請求権が請求の根拠になります(司法研修所編『新問題研究要件事実』(法曹会,2011年)88頁)。
(※2)所有権に基づく物権的請求をする場合の原告所有の要件については,「現在(口頭弁論終結時)の所有」を主張立証する必要があります。しかし,いったん取得した所有権は,喪失事由が発生しない限り,現在もその者に帰属していると扱われます。したがって,過去のある時点で原告が所有権を有していたことが指摘できれば,請求原因レベルでは足ります。また,所有権については,実務上は権利自白が認められていますから,権利自白が成立する時点での所有権の存在が主張されれば,喪失事由がない限り,現在も原告が所有権を有していると考えられます。そうすると,本問の事案は,Yが代理人Zを経由してXから甲を買ったというものであから,Yは,甲を買った平成29年11月20日時点で,Xに甲の所有権があったこと自体は争わないものと予想されます。そうすると,Yは,平成29年11月20日時点でXが甲を所有していたことにつき権利自白が成立することが予想されますので,答案上も平成29年11月20日時点でのXの所有が示せれば足りるのではないかと思われます(以上につき,前掲新問研59頁以下参照。)。
(※3)「「本人のためにすることを示して」とは,法律行為の当事者となる者を明らかにして,という意味である。」佐久間毅『民法の基礎Ⅰ総則〔第4版〕』(有斐閣,2018年)251頁
(※4)金融会社Zの投資勧誘員をしていたAが病弱であったためBに勧誘を委ねていた事案で,最判昭和35年2月19日民集14巻2号250頁は,「勧誘それ自体は、論旨の指摘するごとく、事実行為であつて法律行為ではないのであるから、他に特段の事由の認められないかぎり、右事実をもつて直ちにBがAを代理する権限を有していたものということはできない」と判断しています。
(※5)「登記申請行為は(登記所という国の機関に対してする)公法上の行為であり,これを委任しても法律行為を委ねたことにならない。」前掲佐久間Ⅰ・280頁
(※6)「登記申請が法律行為を原因としておこなわれる場合,登記がされれば債務の弁済とその受領という私法上の効果が生ずる。そのため,この登記申請の委託は,法律行為による法律関係の形成に準ずるものとみることができる。したがって,この委託をした本人に表見代理責任を課すことは,私法関係の変動を企図した本人にのみ法律行為的責任を負わせるという考え方に,矛盾するものではない。」前掲佐久間Ⅰ・280頁
(※7)「不動産登記法が登記申請についての形式的要件(特に、同法三五条一項五号)を定めている主要な目的は、登記義務者の意思に基づかない虚偽の登記申請による登記がなされることにより、実体上の権利関係と登記上の権利関係との不合致を生ずることを防止し、公示制度としての登記の目的を達成せしめようとするにあることはいうまでもない。しかるに、本件においては、前記のように、本件根抵当権設定契約は表見代理の規定により実体上の効力を生じているから、本件根抵当権設定登記は、実体上の権利関係に符合するものであるからその登記手続の申請行為の登記所に対する関係はしばらくおき、登記権利者が登記義務者に登記申請行為をなすべく請求(登記請求権の行使)する場合は、被上告人はこれに応じて登記に協力すべき義務あるを免れないものと解すべく、この関係は私法関係であることは論なきところである。それ故、原判決が確定した前記事実関係の下においては、訴外Aがなした本件根抵当権設定登記申請行為については、それが前記のごとく私法関係と解せられる以上、これに民法一一〇条による表見代理の成立を認めて妨げない……。」最判昭和37年5月24日民集16巻7号1251頁
(※8)最判昭和44年6月24日判時570号48頁は,「民法一一〇条にいう「正当ノ理由ヲ有セシトキ」とは,無権代理行為がされた当時存した諸般の事情を客観的に観察して,通常人において右行為が代理権に基づいてされたと信ずるのがもっともだと思われる場合,すなわち,第三者が代理権があると信じたことが過失とはいえない(無過失な)場合をい」うとしています。
(※9)「前記確定事実によれば,上告人は,Aに対し,本件不動産の賃貸に係る事務及び**番*の土地についての所有権移転登記等の手続を任せていたのであるが,そのために必要であるとは考えられない本件不動産の登記済証を合理的な理由もないのにAに預けて数か月間にわたってこれを放置し,Aから**番*の土地の登記手続に必要と言われて2回にわたって印鑑登録証明書4通をAに交付し,本件不動産を売却する意思がないのにAの言うままに本件売買契約書に署名押印するなど,Aによって本件不動産がほしいままに処分されかねない状況を生じさせていたにもかかわらず,これを顧みることなく,さらに,本件登記がされた平成12年2月1日には,Aの言うままに実印を渡し,Aが上告人の面前でこれを本件不動産の登記申請書に押捺したのに,その内容を確認したり使途を問いただしたりすることもなく漫然とこれを見ていたというのである。そうすると,Aが本件不動産の登記済証,上告人の印鑑登録証明書及び上告人を申請者とする登記申請書を用いて本件登記手続をすることができたのは,上記のような上告人の余りにも不注意な行為によるものであり,Aによって虚偽の外観(不実の登記)が作出されたことについての上告人の帰責性の程度は,自ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重いものというべきである。そして,前記確定事実によれば,被上告人は,Aが所有者であるとの外観を信じ,また,そのように信ずることについて過失がなかったというのであるから,民法94条2項,110条の類推適用により,上告人は,Aが本件不動産の所有権を取得していないことを被上告人に対し主張することができないものと解するのが相当である。上告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断は,結論において正当であり,論旨は理由がない。」最判平成18年2月23日民集60巻2号546頁


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2020-05-03(Sun)

【ロー過去】中大ロー2020年度民法


≪問題≫

 次の【事実】を読み,下記の【設問】に答えなさい。

【事実】
Ⅰ 次の1から9までの事実があった。

1 Aは,プロの写真家として,東京都内で写真スタジオを営む傍ら,世界各地の様子を撮影し各種メディアや収集家に販売することを業としていた。Aは,10年前に購入したプロカメラマン用の高級カメラ甲(以下「甲カメラ」)を所有し使用してきたが,新機能を搭載した高級カメラ乙(以下「乙カメラ」)が新発売されたためこれを購入し,最近ではもっぱら乙カメラを持って世界中を撮影旅行している。
2 Bは,Aの友人であり,照明技術師として写真スタジオや劇場,テレビ局等で照明の仕事を請け負うことを業としていたが,Aが海外出張中はAの写真スタジオの管理を任されるとともに,Bが必要とするときはその写真スタジオを使用することや,スタジオの維持に必要な消耗品の購入をすることが認められ,Aから写真スタジオの鍵を預かって自由に出入りしていた。
3 Bは,Aが海外に長期撮影旅行に出ていたあるとき,仕事でたまたま知り合ったCから,「もうすぐ定年退職して時間ができるので,これからは趣味の写真をこれまで以上に楽しみたいと思っているのだが,自分が持っているカメラはアマチュア用の簡単なものなので,プロが使うような精密なものが欲しいと思っている。ついては,中古でよいので,そうしたカメラを安く手に入れることはできないか。」と相談された。
4 Bは,Aの写真スタジオには甲カメラがあり,最近ではもっぱら乙カメラを使用していて甲カメラは使用されていないことを思い出し,甲カメラを売却処分して金銭に換えておいてやればAも喜ぶだろうと考え,Cに対し,「丁度良いカメラがある。今度持ってくるので,見て気に入ったら買ってくれ。」と言ったところ,Cもこれを快諾した。
5 後日,Cの職場を訪れたBから甲カメラを見せられたCは,これを大変気に入り,購入することにした。売買代金は,Bが提案した300万円とすることが合意された。

(以下の6から9までは設問1のみに関する事実)
6 上記5の合意にあたり,Bは,Cに対し,このカメラは以前から写真家のAが使ってきたものだという説明はしたが,現在の所有者が誰であるかの説明はしておらず,Cから訊かれることもなかった。
7 Cは,その場でBから甲カメラを受け取って持ち帰り,翌日,Bが指定したB名義の銀行預金口座に300万円を振込入金して支払った。
8 その後半月ほどしてAが帰国し,甲カメラがないことに気付いた。AがBに連絡したところ,上記の各事実が判明した。
9 Aは,甲カメラを売却するつもりはないとして,Cに対し甲カメラの返還請求をした。

【設問1】(前記1から9までの事実を前提とする。)
 Cは,Aからの返還請求に対し,甲カメラは売買契約に基づき取得したものであることを主張して反論したいと考えている。この場合の売買契約の当事者としては,(ア)売主をBとする構成,(イ)売主をAとする構成,の二つが考えられるが,(ア)及び(イ)それぞれの法律構成の概略を説明したうえで,それらのCの反論が認められるか否かについて検討して論ぜよ。

Ⅱ 前記1から5までの事実に加えても次の事実があった(事実6から9までは前提としない。)。
10 前記5の合意にあたり,Bは,Cに対し,このカメラは以前からBが所有するものであると説明していた。しかし,Cは,それがAの所有物であることを写真雑誌で見て知っており,Bがウソをついて甲カメラを売ろうとしていることに気付いていたが,甲カメラを手に入れるチャンスだと思って何も言わずに購入したのであった。
11 CはBから甲カメラを受け取って持ち帰ったが,まだ支払はしていない。Cは,Bに対して以前に200万円を貸し付けており,返してもらう約束の時期が過ぎているので,それと相殺して残額100万円を支払うつもりであった。ただ,前記5の合意の際には,支払時期や支払方法について特に決めなかった。
12Aは,帰国してBによる売却の事実を知ったが,丁度甲カメラの換金を考えていたところだったとしてBにお礼を言ったうえで,Cに対し,「それは自分の所有物だがBさんが売ってくれて喜んでいる。代金300万円は私の銀行口座に支払ってほしい。」と述べ,Aの銀行預金口座を指定してきた。

【設問2】(前記1から5までの事実及び10から12までの事実を前提とする。)
 Aから300万円の支払を求められたCは,誰に,いくら支払えばよいか,検討して論ぜよ。

≪出題趣旨≫

 設問1は,BC間の売買合意により,Aにあった目的物の所有権をCが取得する法律構成を確認したうえで,その成否を検討する問題である。要件事実的には,Aからの所有権に基づく返還請求に対しCはAの所有権喪失の抗弁として主張できるか,という枠組みとなるが,そこまでの指摘を必須とするものではない。
 売主をBとする(ア)の構成としては,Cの即時取得(192条)が考えられ,その成否を検討することになる。192条の要件を指摘して吟味する姿勢を示してもらえればよい。Cが無過失といえるかどうかについては設問中で十分な基礎付け事実も与えておらず,見方が分かれるかもしれないが,結論はいずれでもかまわない。
 他方,売主をAとする(イ)の構成としては,BがAの代理人となって代理行為をしたことによりその効果がAに帰属し,AC間に承継取得が生じるとするものであるが,AからBへの代理権授与行為やAの追認がなさそうな本件では,せいぜい表見代理の成否が問題となる程度と思われる。Bは,Aの留守中には鍵を預かってスタジオの管理を任されていたというのであるが,スタジオ維持に必要な消耗品の購入という法律行為らしきことについても認められていたことなどに着目すると,これを基本代理権とする110条の表見代理は検討の余地がありそうである。もっとも,Cに正当の理由が認められるかどうかは,即時取得の場合と同様,見方が分かれるところであろう。結論はいずれでもよい。なお,Bの行為は事務管理(697条)に該当しそうであるが,事務管理では代理権が生じることはないとするのが判例通説である。しかし少数説に立って代理権を認める解答も,理由がしっかりしていれば評価できる。
 また,BはAのためにすることを示していたか(顕名)も定かでないが,顕名がなくとも100条但書でCが知りまたは知り得た可能性はある。

 設問2は,即時取得は成立しないことを前提としたうえ,他人物売買(561条)の追認があった場合におけるその後の法律関係を問うものである。
 まず,事実12のAの言動は他人物売買の追認に該当することを指摘して欲しい。そのうえで,この場合の法律関係につき,判例(最判昭和37年8月10日民集16-8-1700)は,116条を類推適用して他人物買主Cの所有権取得を認めるが,その物権的効力を越えて契約上の代金債権取得という債権的効果まで追認をした本人に認めるべきかの点については,否定している(販売委託契約に関する最判平成23年10月18日民集65-7-2899)。ここは,判例の知・不知にかかわらず,本件のCのように他人物売主に対する反対債権があり相殺の抗弁への期待がある場合に,その期待をどのように処理するか,各人の思考態度を示してもらえればよい。なお,判例の考え方に従えば,CはBに対して相殺後の100万円を支払えばたりるとの結論になろうが,Aに債権的効果が生じることを認めつつ,Aに対しても相殺の抗弁を主張できるとの見解もあり得よう。柔軟な思考は評価に値する。



この問題は,私が担当したゼミで扱った問題でしたので,答案を20通弱添削しました。

添削していてよくあるミスであるとか,こうしたらもっといい答案になると思った点を以下羅列します。

下の参考答案とあわせて「参考」にしていただければと思います(鵜呑みにしないでください。)。

・ 設問1は,Cの反論として構成できるものが問われていますので,答案の冒頭から「Cの反論として~~が考えられる。」と書き始めても問題ないとは思いますが,Cの反論はAの主張を前提として成り立つはずですから,冒頭で簡潔にAの主張に触れ,その主張のどの部分に対する反論として構成するのかを示した方が,答案の流れもよくなって読みやすくなると思います。

・ 設問1(ア)の構成で,BC間の売買が他人物売買であることを指摘している答案がほとんどでした。それ自体は誤りではないものの,Aの追認の可能性がない本問では,他人物売買がされたことを反論として用いることは難しいです。指摘するにしても簡潔なものにとどめておきましょう。

・ 要件を先出しにする(「即時取得の要件は,①……,②……,……である。」というもの。)答案が多くみられましたが,それは条文を読めば分かることですから,要件の先出しは不要です。

・ 即時取得に限った話ではないですが,善意・無過失の要件が出てきたときには,その対象は何か(何について善意・無過失である必要があるのか)を示してください。

・ 186条1項や188条の推定規定を指摘している答案が多く,その点は良いですが,これらの条文によって推定されるということを示しただけでは,要件充足性の判断としては不十分です。要件事実の問題ではなく民法の問題ですから,要件を充足するのか最終的な判断をきちんと示してください(具体的には,推定を覆すような事情があるかどうかを検討することになります。)。もっとも,本問では,「平穏」「公然」「善意」についてはほぼ争いなく認められると思われるので,簡単に「これらの推定を覆す事情はない。」ということを指摘すれば足ります。

・ 過失要件は,対立当事者のそれぞれの利益を最終的に調整する機能を有する要件です。ここでは,過失の評価にかかる事情を全て取り上げて,総合考慮したうえで,利益衡量を行うことになります。したがって,188条によって推定されるというだけでは不十分で,Cにとって有利な事情(Cに過失なしとする事情)と不利な事情(Cに過失ありとする事情)の双方の事情をできる限り指摘して,それらの事情を全部見たうえで,Cに過失があるかどうかを判断してください。答案では,自分の出したい結論に使える事情だけ取り上げて評価するというものがかなりありましたが,反対事情もしっかり考慮する必要があります。

・ 設問1(イ)の構成で,表見代理の検討をしていない答案が意外と多くありました(それらの多くは,Bが無権代理であることを指摘して答案を終わらせていました。)。単純な有権代理の主張だけでは,本問では認められる可能性はほぼないので,Cとしてはさらに反論を組み立てる必要があるはずです。答案の分量が大事というわけではないですが,極端に分量が少なくなってしまった場合は,何かしらの検討を漏らしている可能性が高いので,さらに何か考えられる主張はないのかを検討するようにしてください。

・ 110条の検討をするときに,その要件は,①基本代理権の存在,②越権行為,③正当な理由とする答案がほとんどでした。しかし,110条の条文には「基本代理権」という文言は出てきません。あくまで要件は「代理人がその権限外の行為をした場合」ですから,これを要件として捉えたうえで,このあてはめの中で基本代理権の認定とその越権行為の認定を行うことになります。

・ 「正当な理由」の意義が何であるかについて全く触れていない答案や,触れていても善意・無過失の対象が何かを示していない答案がほとんどでした。

・ 表見代理の無過失の検討で,即時取得の無過失での検討をそのまま引用している(「前述のように」で済ませている)答案がかなりありましたが,表見代理の無過失の対象と即時取得の無過失の対象とは異なるはずですから,使う事実は共通するとしても,評価方法は変わるはずです。したがって,ここでは,改めて事実を評価する作業が必要になります。

・ 設問2では,Bの行為を無権代理と捉えている答案が半数近くありました。問題文をよく読んでください。

・ 無権代理と捉えている答案の多くは,Aが追認したことにより甲カメラの売買契約がAC間に効果帰属するとしたうえで,CがAに対しても相殺の主張をすることができるかということを検討していました。しかし,AはCに対して何ら同種の債務を有していないため,相殺の要件(505条1項本文)を満たさないでしょう。答案の中には,さらに,そうだとしてもCの期待を保護すべきではないかということを検討しているものがありましたが,無権代理構成をとっているということは,前提としてCは売買契約の効果がAとの間に帰属することを予め理解しているはずですから,そもそもCに相殺の期待は生じていないと考える方が自然です。

・ 設問2の問題点はどこなのかが把握できていない答案もありましたが,現場思考型の問題(もっとも,設問2はもとになる判例があるため,それを知っていれば現場思考要素は薄れますが。)では,対立当事者のそれぞれの利益(生の主張)が何なのかをきちんと把握することが大事です。本問でいえば,AはCから300万円払ってほしいという利益,Cは相殺をして100万円だけ払いたいという利益を主張するはずです。これらの利益の衝突がどこで生じるのかを特定するのが,現場思考型の問題の核です。ここでは,それらの利益を実現する方法を個別に考えてみる必要があります。Aとしては,300万円を請求するとなれば,まずその訴訟物を特定する必要があり,例えばBC間の売買契約を追認することによって同契約に基づく当事者の地位が移転する,あるいは同契約に基づく代金債権を取得するという主張をすることが考えられます。一方で,Cは,相殺をするためには,代金債務はBに対して負い続ける必要があるため,Aの主張は受け入れがたいはずです。そうすると,本問の対立点は,Aの追認によって,BC間の売買契約に基づく当事者の地位がAに移転するかどうかということになり,ここが論点ということになります。

≪答案≫

第1 設問1
 1 前提として,Aは,Cに対し,所有権に基づく返還請求権として甲カメラの引渡しを請求する。①甲カメラはAの所有物であるところ,②これをCが占有しているから,Aの請求は認められそうである。(※1)
 2 (ア)の法律構成としては(※2),Cが甲カメラを即時取得(192条(※3))したことで,Aが甲カメラの所有権を喪失し,上記①の要件が欠けるとの反論が考えられる。
 そこで,Cの即時取得の成否について検討すると,Cは甲カメラについて無権利であるB(※4)から売買契約(555条)という「取引行為」によって「動産」である甲カメラを取得して「占有を始め」ている。このときに,Bが「平穏に,かつ,公然と」占有を始めたこと,及びBが無権利者であることについて(※5)「善意」であったことの推定(186条1項)を覆すような事情はない(※6)
 それでは,CはBが無権利者ではないと信じるにつき(※7)「過失がない」といえるか(※8)。甲カメラは,中古品であるにもかかわらず,BC間での売買代金が300万円と高額に設定されていることからすると,甲カメラは,一般人が使用するようなカメラではなく,カメラに精通した者が使用することが予定されているカメラであると考えられる。Bは照明技術師であり,必ずしもカメラそのものを取り扱う職業ではないから,Bがこのような甲カメラを所持していることは不自然であると考える余地がある。これに加えて,BがCに対して,甲カメラはもともとAが使ってきたものであると説明しながら現在の所有者が誰であるか説明をしなかったのであれば,余計にBが甲カメラをなぜ所有しているのか疑問が生じる。たしかに,Cからすれば,Bが照明技術師としてAと仕事上深くかかわりを持っている関係にあると考えれば,BがAから甲カメラを譲り受けている可能性も考えられる。しかし,Cとしても,Bに対して,甲カメラの所有者が誰であるのかを尋ねるという簡単な作業によって,甲カメラの所有関係を把握することができるため,Cにとって大きな負担とはならないから,不自然に思われる点があるのであればこれを確認すべきである。また,BとCとは,仕事でたまたま知り合ったにすぎない間柄であるから,CとBとの間で過去に何らかの取引が何度もあったということもない。そうすると,Cが,Bに対して,甲カメラの所有者を疑うべき事情があるから,Bが無権利者ではないと信じるにつき過失がある(※9)
 したがって,Cが甲カメラを取得するにつき即時取得の要件を満たさないから,(ア)の法律構成によるCの反論は認められない。
 3 (イ)の法律構成としては,BがAの代理人としてCに甲カメラを売却したことで,Cが甲カメラの所有権を取得する結果,Aがその所有権を喪失し,上記①が欠けるとの反論が考えられる。もっとも,本問では,AからBに対して,甲カメラをCに売却することについて代理権が授与されていない(※10)。また,Aは甲カメラを売却するつもりはないとしているから,Bの無権代理行為を追認する(116条本文)ことも期待できない(※11)。そこで,Cは,Bの無権代理行為に表見代理(110条)が成立し,Cが甲カメラを取得するとして,Aの所有権喪失の抗弁を主張する。
 Bは,Aの留守中には鍵を預かってスタジオの管理を任されており,スタジオ維持に必要な消耗品の購入についても認められていたことからすると,少なくともAのためにスタジオを管理し消耗品を購入するのに必要な範囲の代理権を有している(※12)。そうすると,Bはこのような基本代理権を有していながら,その代理権の範囲に含まれない甲カメラの売却をAの代理人として行っているから,「代理人がその権限外の行為をした場合」にあたる。
 それでは,「第三者」(※13)であるCがBに「代理人の権限があると信ずべき正当な理由」,すなわちBに代理権があると信じたことに過失がないといえるか(※14)。前述のように,甲カメラの売買代金が300万円と高額に設定されていることからすると,通常のカメラの売買よりも代理権の有無をより慎重に確認すべきである。また,甲カメラがもともとAの使っていたものであるとの説明を受けた段階で,甲カメラを売却するに至るまでの経緯等を確認して,本当にAが甲カメラを売る意思があるのか,すなわちBに対して代理権を与えているのかどうかを解明する動機が生じるはずである。それにもかかわらず,Cは,漫然Bに代理権があるものと信じたのであるから,代理権の有無に関する調査が欠如しており,過失が認められる。
 したがって,Bの無権代理行為には表見代理が成立しないから,(イ)の法律構成によるCの反論は認められない(※15)
第2 設問2
 1 前提として,Aの請求の根拠について考える。AがCに対して売買契約に基づく代金支払請求として300万円の支払を請求するためには,AC間で売買契約が成立している必要がある。しかし,本問では,AC間では売買契約が締結されていない。また,Bは甲カメラをBの所有物と説明してCに売却しているから,Bを代理人としてAC間で売買契約が成立したとみることもできない。
 そうすると,BC間の甲カメラの売買契約は他人物売買(561条)となるところ,AはBにお礼を言い,Cに対して代金を振り込む口座を指定するなど,売買契約が成立したことを前提とする行動をとっているから,前記他人物売買を追認したものとみることができる。そこで,Aは,この追認により,BC間の売買契約に基づく代金支払請求権(以下「本件代金債権」という。)がAに移転したと主張することが考えられる。
 2 それでは,Aは追認により本件代金債権を取得することができるか。
 この点,他人物売買は,無権代理との関係では,無権限者が代理人と称して第三者と取引をしたか否かの違いしかなく,真の所有者にとっての利害状況は異ならない。したがって,他人物売買を真の所有者が追認した場合には,116条類推適用により,処分の時に遡って効力を生じ(※16),当該第三者は物の所有権を取得する。そうすると,真の所有者の犠牲のもとに第三者は所有権を取得しているから,第三者はその対価的価値を真の所有者に返還すべきであり,それに相当する売買代金債権の取得のために,追認により契約に基づく当事者の地位が真の所有者に移転するとも思える(※17)(※18)
 しかし,追認により,売買契約に基づく契約当事者の地位が真の権利者に移転するとなれば,第三者が無権限者に対して有していた抗弁を主張することができなくなるなど,第三者に不測の不利益を与えることになり,相当ではない(※19)。また,真の権利者は,無権限者に対して不当利得あるいは不法行為に基づいて代金相当額の回収する方法もあるため,売買代金債権が移転しないとしても,真の権利者に大きな不利益は生じない。
 したがって,真の権利者の追認によっても,他人物売買に基づく代金債権は,真の権利者には移転しないと考える。
 3 本問でも,AがBC間の他人物売買を追認したところで,本件代金債権はAには移転しない。したがって,Aは,Cに対して,本件代金債権に基づいて300万円の支払を請求することはできない。
 4 そうすると,本件代金債権は,いまだBC間にとどまるから,CはBに対してその履行をすることになる。このとき,CはBに対して200万円の貸金債権を有しているから,本件代金債権と相殺して(505条1項),CはBに対して残額の100万円を支払えばよい。

以 上


(※1)本来であれば,所有権に基づく返還請求権としての動産引渡請求権の要件を摘示したうえであてはめるべきですが,本問は,もっぱらCの反論の成否を問われていますから,その前提にすぎないAの請求権の成否に関する論述は軽めにとどめておくべきです(出題趣旨にもあるように,最悪全部カットしてもいいと思います。)。
(※2)中大ロー入試は,憲法と民法を除き,答案用紙に30行制限があり,答案に見出しをつけて改行していると,あっという間に30行に達してしまいます。民法には30行制限はありませんが,答案の行を有効活用する癖をつけておくためにも,見出しはあえてつけないでおくことをお勧めします。もっとも,これは中大ロー特有の対策であって,他大のロー入試や予備試験・司法試験などでは,読みやすい答案にするためにも,むしろ見出しを付けた方がいいと思います。
(※3)条文摘示のときも,本来であれば法律名まで記載((民法192条)など)すべきでしょうが,紙幅も時間もない中では省略してもいいのではないかと思います。私も条文摘示で法律名はほとんど書いていませんが,中大ローは全免でしたし,予備試験・司法試験でも普通にAがついているので,法律名を書かなくても特に減点がされるということはないと考えていいでしょう。
(※4)前主が無権利者であることは,条文上の要件ではありませんが,「前主が処分権限をもっていれば,譲受人は権利を承継取得するわけで,即時取得を問題とするまでもない」ため(川島武宜=川井健『新版注釈民法⑺物権⑵』(有斐閣,2007年)181頁),即時取得の成否を検討する上では一言触れておくべきです。もっとも,前主が無権利であることは,消極要件である解されています(前掲注釈183頁)。
(※5)「善意」の対象が何かをしっかりと示してください。最判昭和26年11月27日民集5巻13号775頁は「民法一九二条にいわゆる「善意ニシテ且過失ナキトキ」とは,動産の占有を始めた者において,取引の相手方がその動産につき無権利者でないと誤信し,且つかく信ずるにつき過失のなかつたことを意味する」としています。
(※6)主張立証責任を意識して論述するとこうなると思いますが,単に「「平穏に,かつ,公然と」「善意で」占有を始めている。」とするだけでも足りるとかもしれません。
(※7)無過失についても,その対象を示しましょう。前掲最判昭和26年11月27日は,「民法一九二条にいわゆる「善意ニシテ且過失ナキトキ」とは,動産の占有を始めた者において,取引の相手方がその動産につき無権利者でないと誤信し,且つかく信ずるにつき過失のなかつたことを意味する」としています。
(※8)「過失の有無は,前主の処分権限につき取得者に疑念が生じなければならなかったかどうか,もしそれが肯定されるとすれば,取得者が正しい認識を得るために相当と認められる措置を講じたかどうか,にかかる。そして,過失を肯定するためには,通常人なら当然に気付いたし,またそれに必要な注意を払ったはずなのにかかる注意に欠けていた,という積極的な評価に達しなければならない……。その際,とりわけ取引の実情ないし慣行,商慣習,従来の当事者間の諸関係などが総合的に考慮されなければならない。」前掲注釈185頁
(※9)過失の評価の一例です。出題趣旨にもあるように,過失がないと認定してもかまいません。
(※10)ここで,代理の要件を全て検討する必要はなく,代理権授与行為がないことを端的に指摘すれば足ります。
(※11)無権代理であっても,追認があれば本人に効果帰属するため,表見代理の話に移る前に一言追認の可能性についても触れておくべきです。
(※12)基本代理権が認められるか微妙な事案のようにも思えますが,答案戦略上は正当事由の検討までいきたいので,一応肯定してくべきでしょう。例えば,大判昭和16年6月26日新聞4716号11頁は,薪炭の製造販売をしていたAが,製造に際してBを雇い,自分は現場へは一度も行かずBに全般を委ねていたところ,BがAの代理人としてCに薪を売却した事案で,このような事実関係のもとでは,Bが自由裁量で人夫の雇入れや資材購入などの取引をしていたことは容易に想像であるとしたうえで,「仮令,AがBを管理人と云うが如きものに選任したることなしとするも,特殊の自由なき限り,Bは少くともAの為右薪炭の製造並其の製品の保管を為すに付必要なる或る範囲の代理権を有し居たるものと推認する」のが相当であり,したがって,本件売買は「仮令其の権限なしとするも,権限踰越の代理行為と謂うを妨げ」ないとしています(於保不二雄=奥田昌道『新版注釈民法⑷総則⑷』(有斐閣,2015年)221頁)。
(※13)本問とは全く関係ありませんが,短答知識として,民法110条にいう「第三者」の範囲は代理人の相手方として行為をした者に限られることも確認しておきましょう(大判昭和7年12月24日新聞3518号17頁)。
(※14)「正当な理由」とは何を意味するのかを示しましょう。最判昭和44年6月24日判時570号48頁は,「民法一一〇条にいう「正当ノ理由ヲ有セシトキ」とは,無権代理行為がされた当時存した諸般の事情を客観的に観察して,通常人において右行為が代理権に基づいてされたと信ずるのがもっともだと思われる場合,すなわち,第三者が代理権があると信じたことが過失とはいえない(無過失な)場合をい」うとしています。
(※15)仮に,即時取得と表見代理とで結論を分ける場合は,その理由をしっかりと示す必要があります。試験時間上それが難しいのであれば,結論を両方あわせてしまうのも戦略としてはありです。
(※16)「或る物件につき,なんら権利を有しない者が,これを自己の権利に属するものとして処分した場合において真実の権利者が後日これを追認したときは,無権代理行為の追認に関する民法一一六条の類推適用により,処分の時に遡つて効力を生ずるものと解するのを相当とする(大審院昭和一〇年(オ)第六三七号同年九月一〇日云渡判決,民集一四巻一七一七頁参照)。」最判昭和37年8月10日民集16巻8号1700頁
(※17)争点が法解釈論のレベルで設定されているため,この場合には考えられる反対の見解に触れておくとベターです。もっとも,(事前に用意していたら別ですが)現場で反対の見解まで考えてそれを批判するには時間的余裕がないことがほとんどですから,反対の見解に触れるとしても軽くで十分ですし,反対の見解に触れられなくてもそれだけで不合格とはならないでしょう。自説をしっかり示した方が点は伸びます。
(※18)この反対の見解は,私が勝手に考えたものであり,ソースは特にありません。したがって,理論的にこのような反対の見解がそもそも成り立ち得るのか,検証する必要はありますが,一応悩みを見せるというレベルでは十分だと思います。
(※19)「無権利者を委託者とする物の販売委託契約が締結された場合に,当該物の所有者が,自己と同契約の受託者との間に同契約に基づく債権債務を発生させる趣旨でこれを追認したとしても,その所有者が同契約に基づく販売代金の引渡請求権を取得すると解することはできない。なぜならば,この場合においても,販売委託契約は,無権利者と受託者との間に有効に成立しているのであり,当該物の所有者が同契約を事後的に追認したとしても,同契約に基づく契約当事者の地位が所有者に移転し,同契約に基づく債権債務が所有者に帰属するに至ると解する理由はないからである。仮に,上記の追認により,同契約に基づく債権債務が所有者に帰属するに至ると解するならば,上記受託者が無権利者に対して有していた抗弁を主張することができなくなるなど,受託者に不測の不利益を与えることになり,相当ではない。」最判平成23年10月18日民集65巻7号2899頁





2017-06-25(Sun)

【ロー過去】中大ロー2017年度民法

続いて民法になります。

≪問題≫
Ⅱ 民 法

 次の【事実1】【事実2】【事実3】を読み,【設問1】【設問2】に答えなさい。

【事実1】2014年11月初旬,Aは東京近郊の田園地帯に所有する庭付き木造二階建て住宅(以下「甲建物」という。)を,都心から郊外への転居を希望していたBに,一切の家具調度品付き(目録あり)で賃貸し引き渡した。賃貸期間は2年,敷金は30万円,月額賃料は15万円であった。なお,甲建物は最近1年半ほど借り手がなく空き家であった。

【事実2】2015年1月中旬,BはガールフレンドCの歓心を買うため,甲建物内の家具調度品の一つであるA所有の装飾用置物(目録に記載あり,以下「乙置物」という。)を,自らが海外旅行先で見つけ購入した掘り出し物と偽り,旅行土産としてCに贈与し引き渡した。しばらくしてこの乙置物の贈与引渡しを知ったAは,同年2月下旬,Cに乙置物の返還又はその価格の返還を求めた。そのときAC間には次のようなやり取りがあった。
  A「それはBに預けてあった私の大事な品物だから返してほしい。」
  C「前はあなたの物でも,今はBからもらって私の物です。返す必要なんてありません。」
  A「一銭も身銭を切ることなく他人の物をわが物にして,これから先そのままで済むと思っているの。世間の常識や公平感は,そんな不当なこと決して許しませんよ。」
  C「あなたにそんな説教をされる覚えはありません。文句があるならBに言うべきでしょ。」

【事実3】2015年3月中旬,Bは実際に住んでみて甲建物が気に入ったので,これを4000万円でAから購入し,敷地所有者Lから借地権譲渡の承諾を受け,所有権移転登記も経由した。ところが,夏に近づき気温が上昇するにつれ,どこからともなく異臭がするようになった。同年7月下旬,たまりかねたBがその原因を業者に調べさせたところ,甲建物の屋根裏が野生のコウモリの巣になっており,その排泄物が異臭を放っていることが判明した。建物本体にまでこびりついた排泄物の厚さからして,コウモリがすみつき始めたのは遅くとも甲建物が空き家になった1年半前ころではないかと推測された。そこで,Bは屋根裏からの巣の一掃,屋根裏及びその周辺部分の消毒,脱臭,補修を業者に依頼し,工事代金として300万円の支出を余儀なくされた。同年10月上旬,BがAに対してこの工事代金相当額の支払いを請求したところ,BA間には次のようなやり取りがあった。
  B「コウモリが巣くっている家を売りつけるなんてひどいじゃないか。」
  A「この辺りじゃ屋根裏にコウモリがすんでいる家は珍しくないですよ。」
  B「周りと比べてもこの臭いはひどすぎる。とても住めたものじゃない。」
  A「今さら言いがかりをつけるのはやめてほしいですね。あなたも買う前にちょっと天井裏をのぞけば分かったはずでしょう。」


【設問1】上記【事実1】【事実2】につき,Aは法律上Cに対して乙置物の返還又はその価格の返還を請求できるかどうかを検討しなさい。【事実3】は無視すること。

【設問2】上記【事実1】【事実3】につき,Bは法律上Aに対して300万円の支払いを請求できるかどうかを検討しなさい。【事実2】は無視すること。

(120点)

中大の民法は,他の科目に比べて,明らかに事実が長いです。

使えそうな事情がまぁまぁあります。

一番差が出る科目なのではないかと,個人的には思っています。

民法で外さなければ,中大の合格はかなり近づくのではないでしょうか。

そんなことを言っていてあれなんですが,今年の民法は正直よく分かりませんでした。

特に【設問1】は問題の所在がいまいち掴みきれないところがあり,思考があやふやなところが答案に思いっきり反映されてしまいました。

【設問2】も整理しきれていない部分があり,全体としてダメダメな答案です。

≪再現答案≫

第1.設問1
 1⑴ Aは,Cに対し,所有権に基づく返還請求権として乙置物の引渡しを請求する。これが認められるためには,①Aが乙置物を所有すること,②Cが乙置物を占有することが必要である。本件では,①乙置物は,甲建物とともにBに引き渡された家具調度品の一部であり,Aの所有に属する。②Cは,Bから引渡しを受けたことにより,乙置物を占有している。したがって,上記請求は認められるようにも思える。
  ⑵ これに対して,Cは,自己は乙置物について,Bから贈与を受けたのであり,Aは乙置物について所有権を喪失したと反論する。
 しかし,Bは,乙置物について,Aからあくまで賃貸しているにすぎないため,乙置物の処分権限を有さない。したがって,Cは,無権利者からの贈与を受けたにすぎず,その効力をAに対して主張することはできない。
  ⑶ そこで,Cは,乙置物について,その所有権を即時取得したと反論する。即時取得(192条)が成立するためには,①取引行為,②平穏・公然,③善意,④無過失,⑤動産であること,⑥前主が無権利者であることが必要である。
 これを本件についてみると,①Cは,Bとの間で,乙置物について贈与契約(549条)を締結しており,無償契約であっても,取引の安全を保護する即時取得制度の趣旨は妥当するから,これは取引行為にあたる。②については,186条1項によって推定される。④についても,188条によって推定される。⑤乙置物は,動産である。⑥上記のように,Bは乙置物の処分権限を有しないから,無権利者である。それでは,④Cは,乙置物の処分権限がBにないことについて善意であったといえるか。乙置物は,AからBに引き渡された家具調度品の一部であって,目録に記載があるものである。そうすると,目録の記載をもって,Cは,乙置物がBの所有に属しないことを知り得るから,Cは善意ではないと考えることもできそうである。しかし,不動産における登記制度のような公示制度がない動産については,その権利関係の把握は,現実の占有状態によって判断するのが通常である。したがって,目録に記載があろうとも,その目録自体が誰からも認識しうる状態にあり,容易にこれを知り得たというような特段の事情がない限り,目録への記載のみをもって,取得者の悪意を推定することはできない。以上からすれば,Cは,Bが乙置物について処分権限を有しないことについて知り得た事情が特に存しない本件では,善意であるといえる。
 したがって,Cは,乙置物を即時取得する。
  ⑷ よって,Aの上記請求は認められない。
 2.そこで,Aは,Cに対して,乙置物が「盗品」にあたるとして,193条に基づく回復請求をすることが考えられる。しかし,AはBに対して乙置物を適法に賃貸している本件では,乙置物は「盗品」にあたらない。したがって,上記請求は認められない。
 3.そこで,Aは,Cに対し,不当利得(703条,704条)として,乙置物の時価相当額の返還を請求することが考えられる。しかし,Cは,Bとの贈与契約によって,乙置物を取得しているから,「法律上の原因」がある。したがって,上記請求も認められない。
第2.設問2
 1.Bは,Aに対し,瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求(570条)として300万円の支払を請求することが考えられる。これは認められるか。
 2.「隠れた」とは,取引上要求される注意をもってしても発見することができないことをいう。「瑕疵」とは,取引上通常要求される性能・品質を欠いていることをいう。
 これを本件についてみると,まず,建物の売買においては,建物にコウモリが住み着いていないことが,通常の取引上は要求されると考えられる。たしかに,甲建物の周辺では,コウモリが住み着いていることも珍しくないことから,当該地区での取引上要求される性能・品質は保っているとも思えるが,これに伴う異臭が生じている本件では,それによって住環境が阻害され,住居としての甲建物の目的が達成されない状態にある。そうすると,やはり建物として通常要求される性能・品質を欠いているといわざるを得ない。したがって,甲建物には「瑕疵」がある。
 それでは,上記瑕疵は,「隠れ」ていたといえるか。この点,Aとしては,天井裏をのぞくことによって,これを発見することができたのであるから,取引上要求される注意をもってして発見できると主張すると考えられる。たしかに,天井裏は,通常,押し入れの奥に入ればのぞくことができ,その確認は容易であるといえる。しかし,実際の建物の売買がなされるときに,わざわざ押し入れに潜って天井裏まで確認することは,通常なされないと考えられる。また,本件売買がされたのは,3月中旬であり,未だ気温がそこまで高くない時期であるから,コウモリの住み着きによる異臭の発生もそれほど生じていないものと考えられる。そうすると,天井裏にコウモリが住み着いていることの方が珍しいことに鑑みれば,甲建物にコウモリが住み着いていることを発見することは容易であったとはいえない。以上から,甲建物にコウモリが住み着いていることについて,取引上要求される注意をもってしても発見することは困難であったといえる。したがって,上記瑕疵は,「隠れ」ていたといえる。
 3.よって,上記請求は認められる。
以 上

たたき台にしかならない答案です。

よく分からないけれど,あてはめに注力していた気がします。

諦めないで最後まで書ききればなんとかなるんじゃないでしょうか(適当)。

次回は,刑法です。

以上
プロフィール

||中央特快||高尾||

Author:||中央特快||高尾||
お疲れ様です。

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