2017-10-23(Mon)

【新司】刑事系科目平成26年第2問

ついに新司に手を出してみようと思います(震え声)

年度・科目の順番はてきとーに……

まずは,平成26年刑事訴訟法から。

[刑事法科目]

〔第2問〕(配点:100)
 次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事 例】
1 L県警察は,平成26年2月9日,Wから「自宅で妻のVが死亡している。」との通報を受けた。同日,L県M警察署の司法警察員Pらは,L県M市N町にあるW方に臨場したところ,Vは頭部を多数回殴打されて死亡しており,Wは「私は,本日,2週間にわたる海外出張から帰宅した。帰宅時,玄関の鍵が掛かっておらず,居間に妻の死体があった。家屋内は荒らされていないが,妻のダイヤモンドの指輪が見当たらない。」と供述した。
2 Pらは,Vに対する殺人・窃盗事件として捜査を開始し,その一環として,Wが供述する指輪について捜査したところ,同月10日,M市内の質屋から,同月3日午前中に甲がダイヤモンドの指輪を質入れしたとの情報を得た。そこで,Pがその指輪を領置し,Wに確認したところ,Wは「指輪は妻のものに間違いない。甲は,私のいとこで,多額の借金を抱えて夜逃げしたが,時々金を借りに来ていた。」と供述した。そして,甲が,隣県であるS県T市所在のU建設会社で作業員として働き,同社敷地内にある従業員寮に居住していることが判明したことから,Pは,同月11日,同所に赴き,午後1時頃,寮から出てきた甲に対し,「M市内の質屋にダイヤモンドの指輪を質入れしたことはないか。」と言ってM市所在のM警察署までの同行を求め,甲は素直にこれに応じた。
3 P及び甲は,同日午後4時頃,M警察署に到着し,Pはその頃から,同署刑事課取調室において,甲に供述拒否権があることを告げ,その取調べを開始した。甲は,当初,「私がダイヤモンドの指輪を質入れしたことは間違いないが,その指輪は拾ったものである。」と供述したが,同日午後7時頃,「指輪は,私がW方から盗んだものである。」と供述した。さらに,Pは,甲に対し,V死亡の事実を告げて,甲の関与について尋ねたものの,甲は「私は関係ない。」と答え,同日午後10時頃には,「先ほど指輪を盗んだと言ったのは嘘である。私は,Ⅴを殺していないし,指輪を盗んでもいない。指輪は知人からもらった。」と供述を変遷させた。
4 この時点で夜も遅くなっていたため,Pは取調べを中断することとしたが,翌日も引き続き甲を取り調べる必要があると考え,甲に対し,「明日朝から取調べを再開するので,出頭してほしい。」と申し向けた。すると,甲は,翌日はS県内の建設現場で働く予定があるとして出頭に難色を示したものの,Pから,捜査のため必要があるので協力してほしい旨説得され,「1日くらいなら仕事を休んで,取調べに応じてもよい。しかし,今から寮に帰るとなると,タクシーを使わなければならない。安いホテルに泊まった方が安上がりだと思うので,泊まる所を紹介してほしい。」と述べた。そこで,Pが,甲に対し,M警察署から徒歩約20分の距離にあるビジネスホテル「H」を紹介したところ,甲は,Hホテルまで自ら歩いて行き,同ホテルに自費で宿泊した。なお,Pは,甲に捜査員を同行させたり,甲の宿泊中に同ホテルに捜査員を派遣したりすることはしなかった。
 翌12日午前10時頃,捜査員が同行することなく,甲が1人でM警察署に出頭したので,Pは,前日に引き続き,同署刑事課取調室において,甲に供述拒否権があることを告げ,①甲の取調べを開始した。甲は,当初,殺人及び窃盗への関与を否認したものの,Pが適宜食事や休憩を取らせながら取調べを継続したところ,同日午後6時頃,甲は,殺人及び窃盗の事実を認め,「指輪を質入れした日の前日の昼頃,W方に金を借りに行ったが,Wは不在で妻のⅤがいた。居間でⅤと話をするうち口論となり,カッとなって部屋にあったゴルフクラブでⅤの頭などを多数回殴り付けて殺害した。殺害後,Ⅴがダイヤモンドの指輪を着けていたことに初めて気付き,その指輪を盗んだ。ゴルフクラブは山中に捨てた。」と供述するとともに,ゴルフクラブの投棄場所を記載した図面を作成した。また,Pは,甲の上記供述を記載した甲の供述録取書を作成した。なお,取調べ開始からこの時点まで,甲が取調べの中止を訴えたり,取調室からの退去を希望したりすることはなかった。
5 この時点で午後9時になっていたので,Pは取調べを中断することとし,甲に対し,「ゴルフクラブを捨てた場所に案内してもらったり,更に詳しい話を聞きたいので,ホテルにもう1泊してもらい,明日も取調べを続けたいがよいか。」と申し向けた。これに対し,甲は「宿泊する金がないし,続けて仕事を休むと勤務先に迷惑をかけることになるので,一旦寮に帰って社長に相談したい。落ち着いたら必ず出頭する。」と述べたものの,Pから「社長には電話で相談すればいいのではないか。宿泊費は警察が出すので心配しなくてもよい。」と説得され,渋々ながら「分かりました。そうします。」と答えた。
 そこで,Pは警察の費用でHホテルの客室を確保した。同客室は同ホテルの7階にあり,6畳和室と8畳和室が続いていて,奥の6畳和室からホテルの通路に出るためには,必ず8畳和室を通らなければならず,両室の間はふすまで仕切られているだけで,錠が掛からない構造であった。Pは,部下であるQら3名の司法警察員に対し,警察車両で甲をHホテルまで送り届けて上記客室の6畳和室に宿泊させ,Qら3名の司法警察員は同客室の8畳和室で待機するよう指示した。甲は,Qらと共に上記客室に到着し,Qらも宿泊することを知ると,「人がいると落ち着かない。警察官は帰ってほしい。せめて私を個室にして警察官は別室にいてもらいたい。」と訴えた。しかし,甲は,Qから「ふすまで仕切られているのだから,別室と同じようなものだろう。私達は隣の部屋にいるだけで,君の部屋をのぞくようなことはしない。」と説得されると,諦めて6畳和室で就寝し,Qら3名の司法警察員は8畳和室で待機した。
 翌13日午前9時頃,甲が警察車両に乗せられてM警察署に出頭したので,Pは,前日に引き続き,同署刑事課取調室において,甲に供述拒否権があることを告げ,②甲の取調べを開始したところ,甲は前夜同様に,Vを殺害して指輪を窃取した旨供述した。そこで,Pは,甲にゴルフクラブの投棄場所まで案内するように求め,これに応じた甲を警察車両に乗せ,甲の案内で山中まで赴いたところ,同所から血のついたゴルフクラブが発見された。Pは,これを領置した上,Wに確認を求めたところ,Wは,同クラブは特注品であり,自宅にあったものに間違いない旨供述した。また,同クラブからは数個の指紋が検出され,そのうち一つが甲の指紋と合致した。Pは,これらの捜査を踏まえて甲に対する殺人及び窃盗の被疑事実で逮捕状を請求し,裁判官から逮捕状を得た上,同日午後4時,M警察署において甲を通常逮捕した。なお,この日も,Pは,甲に適宜食事や休憩を取らせ,甲は,取調べ開始から逮捕まで,取調べの中止を訴えたり,取調室からの退去を希望したりすることはなかった。
6 甲は,逮捕後の弁解録取においても両被疑事実を認め,翌14日午前9時,検察官に送致された。甲は,検察官Rによる弁解録取においても両被疑事実を認め,Rは,殺人及び窃盗の被疑事実により甲の勾留を請求し,同日,勾留状が発付された。甲は,その後も両被疑事実を認め,「2月2日午後1時頃,借金を申し込むためにW方に行ったがWは不在だった。Ⅴと口論となり,Vから『Wの金ばかり当てにしている甲斐性なし。』などと罵られ,カッとなってゴルフクラブでVを殴り殺した。その後,Ⅴがダイヤモンドの指輪を着けていたことに初めて気付き,金に換えようと思ってその指輪を盗んだ。ゴルフクラブは山中に捨てた。」と供述した。Rは,その他所要の捜査を遂げ,延長された勾留期間の満了日である同年3月5日,甲を殺人罪及び窃盗罪により起訴した(公訴事実は【資料】のとおり。)。
7 同月8日,別の窃盗事件により勾留中の乙が,警察による取調べにおいて,W方でダイヤモンドの指輪及びルビーのペンダントを窃取し,ダイヤモンドの指輪は友人の甲に無償で譲渡し,ルビーのペンダントは自ら質入れした旨供述した。警察がこの供述に従い捜査したところ,W方にあったVの宝石箱から検出された指紋の一つが乙のものと合致するとともに,乙が供述した質屋からルビーのペンダントが発見され,そのペンダントは,VがWの出張中に購入したものであり,Vの所有物に間違いないことが判明した。さらに,甲がV殺害に使用したと供述するゴルフクラブから検出された数個の指紋のうち,一つは乙のものと合致することが判明したが,乙は「室内で金目の物を探しているうちに,ゴルフクラブに私の指紋が付いたと思う。私はV殺害には関係ない。」と供述した。
 上記事情を把握したRは,第1回公判前整理手続期日前である同月24日,甲が勾留されているL拘置所において,甲に対し,「君が起訴されている事件につき,もう一度,取調べを行うが,嫌なら取調べを受けなくてもよいし,取調べを受けるとしても,言いたくないことは言わなくてもよい。」と告げ,甲が取調べに応じる旨述べたので,Rは,弁護人を立ち会わせることなく,③甲の取調べを開始した。Rは,甲に対し,「乙という人物を知っているか。殺人・窃盗事件に乙が関係しているのではないか。」と質問したところ,甲は,しばらく逡巡していたものの,「乙は友人で,借金を肩代わりしてもらったことがある。今回の殺人事件に乙は関係していないが,実は,ダイヤモンドの指輪は私が盗んだのではなく,乙が盗んだものである。以前,私は,乙に,資産家であるいとこのWについて話したことがあった。2月2日午後7時頃,乙が寮の私の部屋に来て,『今日,W方から盗んできた。』と言ってダイヤモンドの指輪をただでくれた。私は,2月3日午前中にその指輪を質入れしたが,期待していたほどの金にならなかったので,Wから借金をしようと考え,その日の午後1時頃にW方に行った。しかし,Wはおらず,Vと口論になり罵られてカッとなって,ゴルフクラブでⅤを殺した。金目の物を探したり盗んだりすることなく,直ちにその場から逃げてゴルフクラブを捨てた。殺害の方法はこれまで話してきたとおりであり,私一人でしたことである。そして,私は,乙には日頃から世話になっていたことから,乙をかばうために,ダイヤモンドの指輪を私が盗んだと嘘をつき,それとつじつまを合わせるために,Vを殺したのは質入れの前日だということにした。」と供述した。
 その後,Rは,乙をも取り調べるなど所要の捜査を遂げた結果,甲及び乙の各供述に矛盾はなく,本件の真相は,甲が,平成26年2月2日午後7時頃,U建設会社従業員寮の甲の居室において,乙から盗品と知りつつダイヤモンドの指輪を無償で譲り受け,同月3日午後1時頃,W方居間において,単独で,Vを殺害した事件であると認め,④公判において,その旨立証するとの方針を立てた。

〔設問1〕1. 【事例】中の4及び5に記載されている①及び②の甲の取調べの適法性について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。
2. 【事例】中の7に記載されている③の甲の取調べの適法性について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。

〔設問2〕 検察官は,④の方針を前提とした場合,【資料】の公訴事実に関し,どのような措置を講じるべきかについて論じなさい。


さすが新司,長いですね。

長いです。いやぁ,長い。

≪参考答案≫
第1.設問1
 1.小問1
  ⑴ ①の甲の取調べの適法性について
   ア、「司法警察職員」である司法警察員Pは,Vに対する殺人・窃盗事件の「捜査をするについて必要がある」として,甲をM警察署まで同行させ,取調べを行っている。そうすると,①の甲の取調べは,198条1項の任意同行,任意取調べとして,任意捜査の一環として行われている。もっとも,①の甲の取調べに際しては,宿泊を伴うなど,その拘束時間等に鑑み,実質的にみれば「逮捕」(199条1項)にあたり,令状(憲法33条,刑訴199条1項)がないため,違法とならないか。「逮捕」すなわち「強制の処分」(197条1項但書)の意義が問題となる。
   イ、197条1項但書の趣旨は,現行刑事訴訟法が定める強制処分(199条,218条)に鑑み,それと同程度に厳格な要件,手続を定めて保護に値する程度の権利や利益が侵害されている場合にも,立法的コントロールを及ぼす点にある。そこで「強制の処分」とは,個人の意思を制圧し,重要な権利を制約する処分をいうと考える。
 そして,任意捜査の名目でなされた同行,取調べが個人の意思を制圧するか否かは,(ⅰ)同行を求めた時刻・場所,(ⅱ)同行の方法・態様,(ⅲ)被疑者の属性,(ⅳ)同行後の取調べの時間・場所・方法,(ⅴ)その間の監視状況,(ⅵ)被疑者の対応状況等の諸般の事情を総合的に考慮して客観的に判断する。
   ウ、これを本件についてみると,甲は,Pから同行を求められ,素直に応じてM警察署に出頭しており,これを拒絶するような意思は特段表明していない。
 また,(ⅰ)Pが同行を求めたのは午後1時であって,深夜のように通常外出しないようなプライベートな時間ではない。ばしょも,甲が寮から出てきたところであって,あくまで公共的な空間である。したがって,これらの事情からは,上記取調べが甲の意思に反することは推定されにくい。
 さらに,(ⅱ)項の取調べを行うにあたって,供述拒否権があることを告げ,甲の権利に配慮した適正な手続きが踏まれている。その他,取調べが圧迫感を感じさせるような態様で行われたといった事情はない。したがって,これらの事情からも,上記取調べが甲の意思に反することは推定されにくい。
 たしかに,(ⅳ)取調べは,午後4時頃から午後10時すぎまで,少なくとも6時間以上にわたる長時間をもって行われており,夜遅くまで続けられていた。しかし,Pはそれ以降当日中の取調べを中断しており,続きは翌日とする態様をとっている。取調べが開始された時刻が,夕方と比較的遅い時であったことからすれば,当該取調べは甲の意思に反しておらず,それに続く上記取調べも甲の意思に反するものとは推定されにくい。
 (ⅵ)当日中の取調べ後,甲は,翌日の取調べのため,寮に帰ることなく,M警察署の知覚にあるビジネスホテルに宿泊している。しかし,この宿泊については,甲が寮に帰るよりも安上がりであるとして,自らPに紹介を求めたものである。そうすると,甲としては,積極的にホテルに泊まることを希望していたものと考えられる(※1)。加えて,ホテルの宿泊は,甲の自費であったことからも,甲がホテルへの宿泊について意欲的であったものと推定される。したがって,これらの事情からしても,上記取調べが甲の意思に反していたものとは推定されにくい。
 そして,(ⅴ)甲がホテルに宿泊するに際して,Pは,甲に捜査員を同行させたり,甲の宿泊中に捜査員を派遣したりすることはなく,また,出頭にあたっても捜査員を同行させるようなことはなかった(※2)のであるから,甲のプライベートな時間は確保されており,不当に甲を拘束する態様ではなかったとみられる。したがって,上記取調べは,甲の意思に反するとは推定されにくい。
 以上からすれば,翌日甲が取調べを受けるにあたって,それが甲の意思に反していたとみることはできないから,甲の特段の拒絶意思はなかったとみるべきである。したがって,①の甲の取調べは,甲の意思を制圧するものではない。よって,①の甲の取調べは「強制の処分」にあたらない。
   エ、もっとも,取調べは,甲の精神的・肉体的苦痛や疲労を課すものである。そこで,「目的を達するために必要な」(197条1項本文)という捜査比例の原則が妥当し,必要性,緊急性を考慮し,具体的状況の下で相当といえなければ違法である。
 これを本件についてみると,甲にすけられている嫌疑は,殺人罪という最高刑である「死刑」が法定刑とされる重大犯罪であり(刑法199条),嫌疑がほぼ固まっている甲を取り調べることによって犯人を探る必要がある(※3)。また,再びこのような犯罪が生じないように犯人を確保する緊急性も強く認められる事案である(※4)(※5)。そして,上記のように,甲に対する取調べは夜遅くまで続けられていたものの,その時点をもって取調べは中断されており,甲の精神的・肉体的ストレスは大きいとまではいえない。さらに,宿泊を自ら申し出ており,かつ,捜査員の同行もないことからしても,プライベートな時間は確保されており,甲の精神的・肉体的ストレスは小さいものと考えられる。
 以上から,上記取調べは,甲の被侵害利益を考慮しても,具体的状況の下相当であったというべきである。したがって,上記取調べは,任意取調べの限界を逸脱しない。
 よって,①の甲の取調べは適法である。
  ⑵ ②の甲の取調べの適法性について
   ア、②の甲の取調べも,「強制の処分」にあたらないか,検討する。
   イ、上記第1.1.⑴イと同様の基準によって判断する。
   ウ、(ⅰ)及び(ⅱ)については,①の甲の取調べと同様である。そして,(ⅳ)取調べの間,Pは,適宜食事や休憩をとらせながら取調べを行っており,甲の疲労等に配慮がなされた態様であって,無理矢理取調べを受けさせるといったものではなく,また,圧迫的な取り調べがなされた事情もないことから,これらの事情から甲の意思に反することは推定されにくい。また,(ⅵ)甲は,取調べ開始から,取調べの中止を訴えたり,取調室からの退去を希望したりすることはなかったとあるから,甲は取調べに対しさほど抵抗していなかったと思われ,上記の取調べが甲の意思に反することは推定されにくい。
 もっとも,翌日以降も取調べを行いたい旨Pが申し向けた際,甲は,一旦寮に帰って社長と相談したいと述べている。したがって,甲としては,翌日以降の取調べに対して消極的であることが推認される。それにもかかわらず,Pは,社長には電話で相談すればよいとして,甲の上記意向を無視している。したがって,このような態様で行われた②の甲の取調べは,甲の意思に反するものと推定される。
 さらに,①の甲の取調べの場合と異なり,甲は宿泊の意向を示していない。むしろ寮に帰りたい旨示している。また,①の甲の取調べの場合は,前日の取調べが夜遅くまで続きタクシーでしか帰れなくなったために,金銭面の事情から宿泊を選択したにとどまり,②の甲の取調べの場合は,前日の取調べが午後9時頃には終了しており,まだタクシー以外の手段で帰ることができた可能性がある。そうすると,①の甲の取調べの前日にされた宿泊の同意は,②の甲の取調べの前日にされた宿泊については及ばないというべきである。加えて,ホテル内では,Qら3名の司法警察員が動向している。両室の間はふすまで仕切られているとはいえ,錠も掛けられない上,構造上Qらがいる部屋を通らなければホテルの通路に出られないものとなっている。他人の出入りを遮断できてはじめて外部からのプライバシーが保護されることからすれば,甲とQらは別室にいたものとみることはできず,実質的に甲はQらと同室で宿泊したものとみるべきである。そうすると,甲のプライベートな空間が確保されていたものとは到底いうことができず,これに引き続く甲の取調べは,甲の意思に反していたものと強く推認される。
 以上からすると,②の甲の取調べについて,甲はこれを拒絶する強い意思があったとみるべきであり,このような状況下で行われた取調べは,甲の意思を制圧するものである。
 そして,取調べによって甲は移動の自由を奪われ,また,精神的・肉体的ストレスを強く生じさせているから,重要な権利利益の侵害がある。
 よって,②の甲の取調べは,「強制の処分」にあたる。それにもかかわらず,令状なくして行われた②の甲の取調べは,令状主義違反の違法がある。
 2.小問2
  ⑴ ③の甲の取調べは,甲が殺人罪及び窃盗罪により起訴された後になされたものであるが,このように公訴提起後にも被告人を取り調べることは適法か。
  ⑵ 197条1項本文は,「目的を達するため必要な取調をすることができる」とし,客体について被疑者及び被告人の別を問うていない。そして,公訴提起後であっても,公訴維持の目的があるから,これに基づく捜査としての取調べも行うことができるというべきである(※6)
 しかし,公訴提起後は,検察官と被告人とは,相対立する当事者の関係になる。したがって,上記取調べも,被告人の当事者としての地位に配慮し,無制限に認めるべきではなく,被告人が自ら申し出たか,被告人がこれを拒絶できることを十分に承知していた場合に限られるべきである。
  ⑶ これを本件についてみると,Rは,③の甲の取調べを行うにあたり,嫌なら取調べを受けなくてもよいし,取調べを受けるとしても,言いたくないことは言わなくてもよい旨告げており,甲は取調べを拒絶できることを承知していたようにも思われる。
 しかし,突然取調べを行う旨を告げられ,その際に簡単に供述拒否権があることを告げられたとしても,素人である被告人には正確に判断することが期待できるようには思われない。したがって,甲の取調べを行うに当たっては,弁護人の意見を聞かせるなどしない限り,甲は十分承知していたものとはいえないと考えるところ,本件でRは弁護人を立ち会わせていない。
 したがって,甲は,取調べを拒絶できることを十分に承知していたものとはいえない。
 よって,③の甲の取調べは,「目的を達するため必要」ということができず,違法である。
第2.設問2(※7)
 1.公訴事実中殺人罪の嫌疑にかかる部分について
  ⑴ 公訴事実によれば,甲がVを殺害したのは,平成26年2月2日午後1時頃とされているが,甲の供述によれば,それは同月3日午後1時となっており,両者に差異が生じている。そこで,この場合に,訴因を変更することが必要であるか。
  ⑵ 当事者主義を採用する現行法(256条6項,298条1項,312条1項)の下では,裁判所の審判対象は,検察官の主張する具体的犯罪事実たる訴因であるところ,その機能は,裁判所に対し審判対象を画定し,その限りにおいて被告人に防御範囲を明示する点にある。したがって,審判対象の画定に必要不可欠な事実,すなわち,①被告人の行為が特定の犯罪構成要件に該当するかどうかを判定するに足る具体的事実,及び,②他の犯罪事実と区別するに足る事実に変更がある場合には,訴因変更手続が必要である。また,③訴因変更と異なる認定事実が一般的に被告人の防御にとって重要な事項であるときは,争点明確化による不意打ち防止の要請がとられるべきであり,検察官が訴因においてこれを明示した場合,原則として,訴因変更手続を要する。もっとも,④被告人の防御の具体的な状況等の審理経過に照らし,被告人に不意打ちとならず,判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には,訴因変更は不要である。
  ⑶ これを本件についてみると,①日時は構成要件ではなく,②殺人は論理的に一回しかなしえないから,他の犯罪事実と区別するに足る事実に変更はない。しかし,③日時が公訴事実中に記載されている以上,原則として検察官は訴因変更すべきである。もっとも,④日時について公訴事実と異なる供述を行ったのは甲自身であり,これに基づいて訴因変更がされようとしているのであるから,この場合,甲に不意打ちはないというべきである。そして,日時が変わるのみで罪状に変更はないのであるから,より不利益な認定がされるものではない(※8)
 したがって,上記の点について検察官は訴因変更をする必要はない。
 2.公訴事実中窃盗罪の嫌疑にかかる部分について
  ⑴ 公訴事実によれば,甲は指輪を窃取したものとされているが,甲の供述によれば,甲は乙が窃取した指輪を譲り受けているにすぎないから,盗品等無償譲受罪(刑法256条1項)が成立するはずであり,両者に差異が生じている。
 両者は,構成要件が異なるから,訴因変更をしなければ公訴維持ができない。それでは,訴因変更をすることは可能か。「公訴事実の同一性」(312条1項)の範囲内といえるか,その判断基準が問題となる。
  ⑵ 「公訴事実の同一性」の範囲内で訴因変更が認められているのは,二重起訴禁止(338条3号,339条1項5号)や一事不再理効(337条1項)と一体となって,これらの範囲内にある犯罪事実を検察官に一回の手続で訴追することを要求する趣旨である。そして,刑事訴訟法が刑罰権の実現を目的とする以上,刑罰権が1個しか発生しない事実については,訴訟法上も一回の手続で処理すべきである。したがって,①両訴因の基本的事実が社会通念上である場合,または,②両訴因が実体法上一罪の関係にある場合には「公訴事実の同一性」の範囲内にあると考える。そして,基本的事実が社会通念上同一といえるか否かは,犯罪の日時,場所,行為態様,方法,相手方,両訴因の非両立性などから判断する(※9)(※10)
  ⑶ 両者における被害品は指輪であって,被害品,法益が共通している。また,犯罪日時は,両者とも平成26年2月2日であり,時刻も6時間程度しか差がなく,近接している。たしかに,行為態様は,窃取と譲受けでは異なるが,被害者はVであることは共通し,そこから運び出されたものである点も共通している。そして,窃盗罪と盗品等無償譲受罪とは併合罪(刑法45条前段)の関係にあるから,訴因として両立しない。
 異常からすれば,両訴因は,その基本的事実が社会通念上同一から,訴因変更をすることができる。
 よって,検察官は上記の点につき訴因変更措置を講じるべきである。
以 上(※11)


(※1)そうはいっても,タクシーでしか帰宅できない状況を作り出したのはPによる取調べであるから,甲としてみれば渋々ビジネスホテルに泊まるという選択をとったものとみるべきなのかもしれない。

(※2)問題文だと,ここの部分は,「警察が甲に捜査員を同行させて甲が出頭してきたわけではない」というよりも「甲は捜査員の同行がなくても出頭してきた」というような書き方になっているので,むしろ甲の態度として考慮すべき事情であったのかもしれない。

(※3)この点について出題趣旨(http://www.moj.go.jp/content/001127521.pdf)13頁では
本件が殺人・窃盗という重大事件であることや,甲が窃盗の被害品である指輪を質入れしたとの情報がある一方,それ以外の証拠はなく,甲を取り調べる必要性があること……は,「①甲の取調べ」及び「②甲の取調べ」の双方に共通する
としているので,必要性を基礎づける事情として,甲が質入れをした事情を指摘するべきであった。

(※4)この点について出題趣旨13頁では
「殺人・窃盗は同一犯人によって実行された可能性が高く,甲には窃盗のみならず殺人の嫌疑も存在することは,「①甲の取調べ」及び「②甲の取調べ」の双方に共通する」
としているので,緊急性(又は必要性)の考慮事情として,このことも指摘すべきであった。

(※5)必要性・緊急性の考慮について,学部の刑訴の教授は,必要性が肯定されれば緊急性は当然に肯定される,とおっしゃっていたように記憶しているので,必要性を認定したのであれば,別個に緊急性と明示して検討する必要はないのではないかとも思う。その場合は,緊急性で拾うはずだった事情は必要性の中に放り込んでしまえばいいのか。必要性と緊急性が隔たりのあり概念ではなく,連続したものであるならば,このような事情の拾い方をしてもよさそう。

(※6)この点について採点実感(http://www.moj.go.jp/content/001130132.pdf)39頁では
多くの答案は,起訴後の被告人の取調べが公判中心主義及び当事者主義の要請の少なくともいずれかと抵触するおそれがあり,その許容性に問題があることは指摘できていたものの,その一方で,刑事訴訟法第198条は取調べの対象を「被疑者」とするのみで,「被告人」の取調べについては何ら規定がないところ,この点を指摘・検討した答案は少なかった。
としている。上記答案では専ら当事者主義との関係からでしか論じられていないので,公判中心主義の観点からの論述も取り入れたいところである。しかし紙幅が足りない。どこを削るべきなのかを,じっくり検討したい。また,198条との関係について言及しなければならなかったようである。つらい。

(※7)設問1に時間と行数を費やしすぎたため,この時点で129行目に達しており,設問2にあまり紙面を割くことができなかった。悔やまれる。

(※8)この点について出題趣旨14頁では
検察官による訴因の変更が問題となる場合には,大別して,検察官が起訴状の記載と異なる事実を意識的に立証しようとして,証拠の提出に先立って訴因変更しようとする場合と,証拠調べの結果,起訴状の記載と異なる事実が証明されたと考えられることから,訴因変更しようとする場合とがあることについて,留意する必要がある。本問は,検察官が,公判前整理手続開始前,すなわち具体的な主張・立証を展開する以前に訴因と異なる心証を得て,その心証に基づく主張・立証活動を行おうとする場合に採るべき措置について検討を求めるものであるから,前者の局面の問題である。一般に「訴因変更の要否」と呼ばれ,上記の最高裁判例でも扱われた後者の問題とは局面を異にするから,その差異を意識して論じなければならない。
としている。その差異がどのように答案上表現されるかについて,現時点では分かっていない。

(※9)ここの規範をどうにかしてもう少し短くしたい。

(※10)この点について出題趣旨14頁では
本問で問題となるいわゆる「狭義の同一性」について,最高裁の判例は,「基本的事実関係が同一」かどうかを基準とした判断を積み重ねてきているが,その判断に当たっては,犯罪の日時,場所,行為の態様・方法・相手方,被害の種類・程度等の共通性に着目して結論を導くものと,両訴因の非両立性に着目して結論を導くものがある……。そこで,一連の判例の立場も踏まえつつ,「公訴事実の同一性」の判断基準を明らかにした上で,本件の各公訴事実につき訴因変更の可否を論じる必要がある。
としている。単純に読んだ限りでは,「犯罪の日時,場所,行為の態様・方法・相手方,被害の種類・程度等の共通性に着目して結論を導くもの」と,「両訴因の非両立性に着目して結論を導くもの」とは,択一的なものであるようにも思える。両者の関係について,答案上単に並列的に示していいものなのかは,はっきりしない。

(※11)196行目までいった。私が本番でここまで書くことは,およそ不可能であろう。

……といった感じで,出題趣旨と採点実感を読んだだけでも,これだけ粗が出てきてしまいました。

こんな調子で果たして合格することはできるのでしょうか。

果てしない。

以上


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||中央特快||高尾||

Author:||中央特快||高尾||
お疲れ様です。

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