2018-02-04(Sun)

【旧司】刑事訴訟法平成元年度第2問

普通に勉強ばかりやっていると運動不足になるので,

先日,筋トレをしに近所の体育館に行ったわけですが,

めちゃくちゃ筋肉痛になり,勉強に支障をきたしています。

筋トレも程よさと継続が求められます。

さて,今日の問題です。

≪問題≫
 甲が乙と共謀のうえ,スーパー・マーケットから現金を強取したとの甲に対する強盗被告事件の公判において,次のものを証拠とすることができるか。
⑴ 店員丙の公判廷における供述中,傍線①②の部分
 (検察官)「被告人と乙の2人が店内に入って来てどうしましたか。」
 (丙)「いきなり被告人が①『騒ぐと殺すぞ』と言ってレジにいた私に刃物を突きつけました。」
 (検察官)「それで金を取られたのですね。」
 (丙)「はい。乙がレジスター内の現金をわしづかみにして逃げました。」
 (検察官)「いくら取られたのですか。」
 (丙)「後に警察官から②『被告人は14万円ばかり取ったと言っている』と聞きました。」
⑵ 犯行に先立ち甲乙両名が決めた犯行計画を書き留めた乙のメモ


一応,スタ100には「再伝聞」というタイトルで収録されていましたが,

再伝聞以外にもいろいろくっついてきています。

面倒です。

≪答案≫
第1.設問⑴
 1.傍線①について
  ⑴ 丙が供述した,被告人の傍線①部分の発言(以下「本件発言①」という。)が,「公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とする」場合にあたる場合であれば,伝聞証拠として原則証拠能力を有しないこととなる(320条1項)。そこで,本件発言①は伝聞証拠にあたるか,伝聞証拠の意義が問題となる。
  ⑵ 320条1項の趣旨は,供述証拠は人の知覚,記憶,表現,叙述という過程を経ており,その各過程で誤りを生ずるおそれが高いにもかかわらず,反対尋問,偽証罪による制裁,裁判所による観察という真実性の担保が欠けているから,その証拠能力を否定する点にある。そこで,伝聞証拠とは,(ⅰ)公判廷外の供述を内容とする証拠で,(ⅱ)要証事実との関係で原供述の内容の真実性が問題となるものをいう。
  ⑶ これを本件についてみると,(ⅰ)本件発言①は,甲が強盗事件の現場において丙に対して発したものであるから,公判廷外の供述を内容とする証拠である。
 (ⅱ)本件の公訴事実は,甲の丙に対する強盗罪(刑法236条1項)である。ここで,検察官は,本件発言①の立証趣旨を「被告人の発言の存在」自体としていると考えられる。この場合,「騒ぐと殺すぞ」と甲が発言することによって,丙としては抵抗すれば自己の生命身体に危害が加えられることをおそれ,反抗が抑圧されるものと考えられる。そうすると,強盗罪の構成要件である「脅迫」があったことが立証でき,甲の行為に強盗罪を成立させるのに役立てることができる。したがって,「被告人の発言の存在」自体が要証事実となる。このとき,「騒ぐと殺すぞ」という発言の真実性を問わずとも,そのような発言があったこと自体をもって上記の推論を可能とするから,要証事実との関係で供述の内容の真実性が問題とならない。
 したがって,本件発言①は,伝聞証拠にあたらない。
  ⑷ よって,本件発言①は,「公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とする」場合ではないから,320条1項が適用されず,証拠能力が認められる。
 2.傍線②について
  ⑴ア.丙が供述した,警察官の傍線②部分の発言(以下「本件発言②」という。)も,「公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とする」場合にあたるか。
 (ⅰ)本件発言②は,警察官が丙の事情聴取などの際に発したものと考えられ,公判廷外の供述を内容とする証拠である。
 (ⅱ)上記のように,本件の公訴事実は,甲の丙に対する強盗罪である。ここで,検察官は,本件発言②の立証趣旨を「警察官の発言の存在」自体とすることも考えられる。この場合には,内容の真実性が問われないから,伝聞証拠にあたらない。しかし,本件発言②は,警察官が,甲は「14万円ばかり取った」と言ったことを伝えたことから,本件でのスーパー・マーケットにおける強盗事件による被害額などと照らし合わせて,甲が14万円をスーパー・マーケットから強取したことを認定し,もって甲の行為が「強取」という強盗罪の構成要件に該当することを立証するという推論過程を経てこと役立つものである。したがって,ここでの要証事実は,「甲が14万円を強取したこと」である。そして,上記推論は,警察官の発言内容が真実でなければ成立しないから,要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となる。
 したがって,本件発言②は,伝聞証拠にあたり,原則として証拠能力をが認められない。
   イ.そうだとしても,本件発言②について伝聞例外(321条以下)が適用され,例外的に証拠能力が認められないか。
    (ア) まず,甲側が,検察官による本件発言②の証拠調べ請求について「同意し」,「その書面が作成され……たときの情況を考慮し相当と認めるとき」は,本件発言②を証拠とすることができる(326条1項)。
    (イ) 本件発言は,「被告人以外の者」である丙の「公判期日における供述」であり,「被告人以外の者」である警察官の「供述をその内容とするもの」であるので,324条2項により準用される321条1項3号の要件を充たせば,証拠能力が認められる。
   ⑵ア.ところが,本件発言②中には,甲の供述(以下「本件供述」という。)が含まれている。そこで,本件供述も伝聞証拠に当たらないか。
 (ⅰ)本件供述は,甲が警察官から取調べを受けている際などに発した者と考えられるから,公判廷外の供述を内容とする証拠である。
 (ⅱ)上記のように,甲の行為が「強取」にあたるとの推論過程を導くためには,甲が「14万円ばかり取った」とした供述の内容が真実でなければ成立しない。そこで,本件供述は,要証事実との関係で供述の内容の真実性が問題となる。
 したがって,本件供述は,伝聞証拠にあたり,原則として証拠能力を有しない。
   イ(ア) そこで,伝聞例外について検討するに,本件供述は,伝聞証拠たる本件発言②に含まれる供述であるため,再伝聞証拠である。しかし,再伝聞証拠について証拠能力を認める規定は存在しないため,再伝聞証拠にも証拠能力が認められるかが問題となる。
    (イ) この点,本件供述は,「被告人以外の者」である警察官の「供述」ではあるが,本件発言②は「公判期日における供述」ではないから,324条1項の直接適用により,証拠能力が認められることはない。
 しかし,再伝聞証拠において,1つ目の伝聞証拠について321条以下の伝聞例外の要件を充たす場合には,当該証拠は,「公判期日における供述に代えて書面を証拠と」する場合(320条1項)にあたるため,「公判期日における供述」と同程度の証拠能力を有するものと考えられる。そこで,このような場合には,2つ目の伝聞証拠について324条を類推適用し,再伝聞証拠の信用性の状況的保障と必要性が認められれば,伝聞例外の適用と同様に,例外的に証拠能力が認められる。
    (ウ) これを本件についてみると,本件発言②が,上記のように伝聞例外の適用により証拠能力が認められる可能性がある。そうすると,本件発言②については「公判期日における供述」と同様に取り扱うことができる。そこで,本件供述についても324条1項を類推適用し,322条1項の規定が準用され,この要件を充たすときには,証拠能力が認められる。
 そして,「14万円ばかり取った」という事実の告白は,「不利益な事実の承認」にあたる。そこで,322条1項の要件を充たすから,324条1項により,証拠能力が認められる。
  ⑶ 以上から,本件発言②及び本件供述に証拠能力が認められる場合には,裁判所は,これを証拠として採用することができる。
第2.設問⑵
 乙のメモ(以下「本件メモ」という。)は,「公判期日における供述に代えて書面を証拠と」する場合にあたるか。
 本件では,強盗罪のうち,本件発言①から甲については「脅迫」部分を,本件発言②から乙については「強取」部分を,それぞれ認定できるが,それぞれ単独では強盗罪の構成要件を充足しないため,甲乙間の共謀を立証して,強盗罪の共同正犯として立件するものと考えられる。そこで,検察官としては,本件メモを,甲乙間の共謀の存在を推認するために証拠として提出するものと考えられる。
 ここで,作成者乙の当時の心理状態を立証するとすれば,内容の真実性が問題となるものの,知覚,記憶の過程が欠けるため,非伝聞証拠となる。しかし,乙の心理状態を立証しても,そこから甲との共謀を推認することはできないから,関連性を欠き,証拠能力は認められない。
 そこで,メモの存在と合理的な推認を担保しうる他の事実をもって,甲との共謀を立証することが考えられる。すなわち,本件メモの存在と,本件メモを共謀形成の道具として用いたという事実が認定できる場合には,そこから共謀を推認しても,不確かな推認ではない。この場合,320条の上記趣旨が妥当しないから,伝聞証拠にあたらない。したがって,「公判期日における供述に変えて書面を証拠と」する場合にあたらず,証拠能力が認められる。
 よって,裁判所は,本件メモを証拠とすることができる。
以 上


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2018-01-31(Wed)

【旧司】刑事訴訟法平成13年度第2問

長らく続いた検面調書シリーズもこれでひと段落です。

≪問題≫
 傷害事件の公判において,次の各場合に,犯行を目撃した旨のAの検察官面前調書を証拠とすることができるか。
1 Aは公判期日に証人として出頭し,「はっきりと覚えていない。」旨を繰り返すだけで,その外は何も述べなかった。
2 Aに対し,証人として召喚状を発したが,Aは外国に行っており,帰国は1年後の見込みであることが判明した。


今までやってきた検面調書の問題のまとめっていう感じです。

≪答案≫
第1.設問1
 1⑴ Aの検察官面前調書(以下「本件調書」という。)を証拠とすることができるか。本件調書は,Aの取調べ段階で作成されたものと考えられるので,「公判期日における供述に代えて書面を証拠と」する場合であれば,伝聞証拠として原則証拠能力を有しないこととなる(320条1項)。そこで,本件調書は伝聞証拠にあたるか,伝聞証拠の意義が問題となる。
  ⑵ 320条1項の趣旨は,供述証拠は人の知覚,記録,表現,叙述という過程を経ており,その各過程で誤りを生ずるおそれが高いにもかかわらず,反対尋問,偽証罪による制裁,裁判所による観察という真実性の担保が欠けているから,その証拠能力を否定する点にある。そこで,伝聞証拠とは,①公判廷外の供述を内容とする証拠で,②要証事実との関係で原供述の内容の真実性が問題となるものをいう。
  ⑶ これを本件についてみると,①本件調書は,Aの取調べ段階で検察官が録取したものであると考えられるから,公判廷外の供述を内容とする証拠である。また,②本件調書は,Aの犯行目撃情報を立証趣旨とする場合には,それにより犯行を行ったことが推認され,上記趣旨通りに要証事実が設定される。その場合には,要証事実との関係で内容の真実性が問題となる。したがって,本件調書は,伝聞証拠にあたり,原則として証拠能力を欠く。
 2.そうだとしても,本件調書について伝聞例外(321条以下)が適用され,例外的に証拠能力が肯定されないか。
  ⑴ まず,被告人側が,検察官による本件調書の証拠調べ請求について「同意し」,「その書面が作成され……たときの情況を考慮し相当と認めるとき」は,本件調書を証拠とすることができる(326条1項)。
  ⑵ア.本件調書は,取調べ段階でAが検察官に対してした供述を記録したものであるから,「検察官の面前における供述を録取した書面」(321条1項2号)にあたる。そこで,同号該当性を検討する。
   イ.検察官としては,Aが公判期日で「はっきり覚えていない。」との,記憶喪失の供述を繰り返していることから,より明確な供述が得られている本件調書を証拠調べ請求するものと考えられるが,これをもって供述不能(同号前段)ということができるか。同号前段には,供述不能事由について列挙されているが,記憶喪失はこれに含まれていないため,同号前段列挙事由が制限列挙か否かが問題となる。
 同号前段は,証拠として採用する必要が高い場合を列挙したものであるから,これらの事由に匹敵するような時事用であれば,供述不能の要件を充たす。ただし,これらの事由は,例外的に伝聞証拠を用いる必要性を基礎づけるものであるから,死亡以外の場合には,一時的な供述不能では足りず,その状態が相当程度継続して存続していることが必要である。記憶があいまいで供述することができない場合には,記憶喚起を試み,これが奏功しないことなどをもって,相当程度継続しているか否かを判断すべきである。
 本件でも,検察官はAの記憶を喚起するために,誘導尋問を行うなどして,それでもAの記憶が回復しなかった場合には,供述不能であるということができる。
   ウ.そして,本件調書にAの「署名若しくは押印」(321条1項柱書)があることが必要である。
   エ.これらの要件を充たしていれば,本件調書は321条1項2号前段により,例外的に証拠能力が認められる。
  ⑶ 以上のいずれかにあた場合には,裁判所は本件調書を証拠とすることができる。
第2.設問2
 1.設問1と同様に,本件調書は伝聞証拠であるので,伝聞例外の適用について検討する。
 2⑴ 設問1と同様に,被告人側の「同意」がある場合には,証拠能力が認められる。
  ⑵ア.それでは,321条1項2号には該当するか。上記のように,本件調書は「公判期日における供述に代えて書面を証拠」とする場合にあたる。
   イ.Aは,召喚状を発した当時,外国に行っており,1年は帰国しないことが分かっている。このことをもって「国外にいるため……公判期日において供述することができないとき」にあたるか検討するに,上記のように,同号前段は,例外的に伝聞証拠を用いる必要性を基礎づけるものであるから,相当程度継続して国外にいることが必要である。そして,可能な手段を尽くしても公判期日に証人を出頭させることができないことなどをもって,相当程度継続しているか否かを判断すべきである。
 本件でも,可能な手段を尽くしてもAを公判期日に出頭させることができないような場合には,「国外にいるため……公判期日において供述することができないとき」にあたる。
   ウ.そして,本件調書にAの「署名若しくは押印」(321条1項柱書)があることが必要である。
   エ.これらの要件を充たしていれば,本件調書は321条1項2号前段により,証拠能力が認められるように思われる。
 3.しかし,本件では,Aに対する反対尋問が行われていない。このような場合でも,本件調書の証拠能力を認めてもよいか。
  刑訴法は,その全体を通して手続的正義,具体的には手続的公正を要求していると考えられるところ,公判の場面においては,相手方当事者の論拠と証拠に抗弁する公正な機会が与えられることが求められる。このような機会が奪われるような場合など,手続的正義の観点から公正さを欠くと認められるときは,これを事実認定の証拠とすることが許容されず,証拠能力が否定される。そして,手続的正義の観点から公正さを欠くか否かの判断は,証人の国外渡航の理由及び時期,証人尋問請求の時期,証人尋問決定の時期などの諸事情を総合的に考慮して行う。(※1)
  本件でも,Aの国外渡航の理由などに照らして,手続的正義の観点から公正さを欠くと認められるときには,本件調書を事実認定の証拠とすることは許容されず,証拠能力が否定される。
 4.以上から,本件調書に伝聞例外の適用があり,手続的正義の観点から公正さを欠くと認められない場合には,証拠能力を有するため,裁判所は本件調書を証拠とすることができる。
以 上


(※1)総合考慮の判断要素については,最判平成7年6月20日の調査官解説を,一般的な国外渡航にも汎用できるように勝手に改変したものですが,これでいいのかどうかは分かりません。
2018-01-31(Wed)

【旧司】刑事訴訟法昭和61年度第2問

今日も今日とて証拠法。

もはやコメントはありません。

≪問題≫
 甲乙両名は,共謀の上丙を殺害したとして起訴された。甲に対する証拠として,乙の「甲に頼まれて丙を射殺した。」という検察官面前調書がある。しかし,乙は,公判廷ではあいまいな供述をするのみであった。一方,甲は,終始,乙に依頼したことを否認している。
 この場合において甲の有罪を認定する上での問題点を論ぜよ。


問題点を論ぜよって何だよ。

≪答案≫
1.甲は,丙に対する殺人罪の共謀共同正犯として起訴されている。ここで,乙が実行共同正犯であるとみれるから,甲の有罪を認定するためには,乙との共謀の事実の存在を立証する必要がある。共謀の事実は,共謀共同正犯の認定にあたり「罪となるべき事実」(335条1項)であるから,これを認定するためには,適法な証拠調べを経た証拠能力のある証拠によらなければならない(317条)。
2⑴ア.そこで,乙の「甲に頼まれて丙を射殺した。」という検察官面前調書(以下「本件調書」という。)を,甲乙間の共謀の事実の認定に際して証拠に供することはできないか。本件調書が「公判期日における供述に代えて書面を証拠と」する場合であれば,伝聞証拠として原則証拠能力を有さないこととなる(320条1項)。そこで,本件調書は伝聞証拠にあたるか,伝聞証拠の意義が問題となる。
  イ.320条1項の趣旨は,供述証拠は人の知覚,記憶,表現,叙述という過程を経ており,その各過程で誤りを生ずるおそれが高いにもかかわらず,反対尋問,偽証罪による制裁,裁判所による観察という真実性の担保が欠けることから,その証拠能力を否定する点にある。そこで,伝聞証拠とは,①公判廷外の供述を内容とする証拠で,②要証事実との関係で原供述の内容の真実性が問題となるものをいう。
  ウ.これを本件についてみると,①本件調書は,検察官が乙の取調べ段階で作成したものと考えられるから,公判廷外での供述を内容とするものである。
 また,②本件の公訴事実は,甲の丙に対する殺人罪の共謀共同正犯である。そして,甲は,終始,乙に依頼したことを否認しているから,公判廷での争点は,甲の殺人罪の共謀共同正犯としての構成要件該当性である。そして,検察官は,本件調書を,「共謀の事実の存在」を立証趣旨として提出することが考えられる。本件調書中の「甲に頼まれて」という部分が立証できれば,甲乙間で意思連絡があったことが認定できる。そして,その意思連絡に基づいて「丙を射殺した」ということであれば,丙の殺害について共謀があったことが推認できるから,上記立証趣旨が要証事実となる。そして,上記推認は,乙の供述の内容が真実でなければ成立しないものであるから,要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となるものである。
 したがって,本件調書は,伝聞証拠にあたり,原則として証拠能力を有しない。
 ⑵ そうだとしても,本件調書について伝聞例外(321条以下)が適用され,例外的に証拠能力が肯定されないか。
  ア.まず,甲側が,検察官による本件調書の証拠調べ請求について「同意し」,「その書面が作成され……たときの情況を考慮し相当と認めるとき」は,本件調書を証拠とすることができる(326条1項)。しかし,甲は,終始,乙に依頼したことを否認していることからすると,甲が上記同意をすることは考えにくい。
  イ(ア) そこで,上記同意がない場合であっても,本件調書は,取調べ段階で乙が検察官に対し供述した内容を記録したものであるから,「検察官の面前における供述を録取した書面」(321条1項2号)にあたる。そこで,同号該当性を検討する。
   (イ) 検察官としては,乙が公判廷であいまいな供述しかしないことから,より明確な供述が得られている本件調書を証拠調べ請求するものと考えられるが,このことをもって「公判期日において前の供述と……実質的に異なつた供述をしたとき」(同号後段本文)にあたるか。
 同号後段本文が,同項1号書面の場合と異なり,「実質的に異なつた」としている趣旨は,一方当事者である検察官の面前における供述は,公平中立な裁判官の面前での供述に比して信用性が劣るため,より高度な信用性を要求した点にある。そうすると,「実質的に異なつた供述」とは,要証事実との関係でその認定につき異なった結論を導く可能性のある供述をいう。
 これを本件についてみると,乙があいまいな供述しかしていない場合には,それ自体から甲乙間の共謀の事実を認定することは困難であり,他の証拠によって認定されない限り,甲乙間の共謀の事実は立証されない。そうすると,甲の殺人罪の共謀共同正犯としての構成要件該当性が欠けるため,甲の有罪を認定できなくなる。しかし,本件調書中の「甲に頼まれて」という部分が立証できれば,甲の殺人罪の共謀共同正犯としての構成要件を充足するから,甲の有罪を認定することができることとなる。したがって,本件調書は,その内容が,要証事実との関係でその認定につき異なった結論を導く可能性がある供述であるから,「公判期日において前の供述と……実質的に異なつた供述をしたとき」にあたる。
   (ウ) また,同号後段本文に該当する場合には,「公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存する」こと(以下「特信情況」という。)が必要である(同号後段但書)。このとき,特信情況は,前の供述と比較し相対的に認められるか否かで判断する。そして,この判断にあたり,供述内容の信用性を考慮すると証明力を評価しなければならず,証拠評価に混乱を生ずるおそれがあるから,当該供述のなされた際の外部的付随事情を基準として判断する。ただし,外部的付随事情を推知させる資料として,供述内容を考慮することはできる。
 本件調書についても,特信情況が認められる必要がある。
   (エ) また,本件調書に,乙の「署名若しくは押印」があることが必要である(321条1項柱書)。
   (オ) 以上の要件を充たしていれば,本件調書は,321条1項2号後段により,例外的に証拠能力が認められる。
3.以上のように,本件調書の証拠能力がみとられるとしても,本件調書の内容は,共犯者である乙自身の犯罪を認める旨の陳述であり,自白にあたる。そこで,共犯者の自白のみで他の共犯者の有罪を認定することは許されるか,共犯者の自白が「本人の自白」(憲法38条3項)にあたり,補強法則(同項,刑訴法319条2項)の適用があるかが問題となる。
 たしかに,共犯者の自白が第三者の自白と異なり,引っ張り込みの危険性があることに鑑みれば,共犯者の自白は「本人の自白」に含まれ,これのみで有罪とすることは補強法則に反し,許されないようにも思える。しかし,自白とは,被告人本人が自分の犯罪事実を認める供述のことであるから,共犯者の自白は,一体不可分とはいえ,本人にとっては第三者の供述に過ぎない。また,補強法則は自由心証主義の制限であるから,この規定を拡張して解釈するのは妥当ではない。したがって,共犯者の自白は,「本人の自白」には含まれない。
 本件でも,乙の供述は,甲との関係では「本人の自白」ではないから,補強法則の適用はない。
4.よって,本件調書の証拠能力が認められる場合には,裁判所はそれのみをもって,甲の有罪の認定に用いることができる。
以 上
 


2018-01-30(Tue)

【旧司】刑事訴訟法昭和51年度第2問

飽きました。

短答のお勉強もしなきゃいけないのに。

証拠法ばっかりやってる場合じゃないのに。。。

≪問題≫
 薬剤師甲は,顧客である乙の被告事件について証人として尋問を受けたが,乙の秘密に関する事項であることを理由に証言を拒んだ。
1 この証言拒絶は許されるか。
2 甲が捜査段階で検察官に対して任意に供述していたとすれば,その供述調書を証拠とすることができるか。


証言拒絶が正面から問われることなんかあるんですね。

薬剤師って列挙事由に入ってないですよね。

そんなもの聞いてくんなよって感じですね。

後半は普通の伝聞ですかね。

問題のバランスが意味不明です。

≪答案≫
第1.設問1について
 1.薬剤師甲の証言拒絶は許されるか。この点,149条本文は,一定の者に,「他人の秘密に関するものについては,証言を拒むことかできる」としている。しかし,明文上,薬剤師は含まれていない。そこで,同条に列挙されていない職業に就く者であっても,同条を根拠として証言拒絶できないか問題となる。
 2.国民の証言義務は,裁判を適正に行う上で協力しなければならない重大な義務であり,裁判所は何人でも証人としてこれを尋問できるのが原則である(143条)。そうすると,証言拒絶権は,このような重大な義務を免除するものであるから,極めて例外的な権利である。したがって,149条本文に列挙されている職業は,制限列挙であると考えるべきであり,秘密保護の実質的必要性のみをもって他の職業に適用を拡大すべきではない。
 3.これを本件についてみると,薬剤師は149条本文に列挙されている職業にあたらないから,同条の適用はない。したがって,甲は,証言拒絶することができない。
第2.設問2について
 1⑴ 検察官が作成した供述調書(以下「本件供述調書」という。)は,捜査段階で作成されているが,これが「公判期日における供述に代えて書面を証拠と」する場合であれば,伝聞証拠として原則証拠能力を有さないこととなる(320条1項)。そこで,本件供述調書は伝聞証拠にあたるか,伝聞証拠の意義が問題となる。
  ⑵ 320条1項の趣旨は,供述証拠は人の知覚,記憶,表現,叙述という過程を経ており,その各過程で誤りを生ずるおそれが高いにもかかわらず,反対尋問,偽証罪による制裁,裁判所による観察という真実性の担保が欠けることから,その証拠能力を否定する点にある。そこで,伝聞証拠とは,①公判廷外の供述を内容とする証拠で,②要証事実との関係で原供述の内容の真実性が問題となるものをいう。
  ⑶ これを本件についてみると,①本件供述調書は,捜査段階において甲が供述したものを記録したものであるから,公判廷外の供述を内容とする証拠である。そこで,②本件供述調書の内容の真実性が,要証事実との関係で問題となる場合には,本件供述調書は伝聞証拠にあたる。
 2.そうだとしても,本件供述調書について伝聞例外(321条以下)が適用され,例外的に証拠能力が肯定されないか。
  ⑴ まず,乙側が,検察官による本件供述証拠の証拠調べ請求について「同意し」,「その書面が作成され……たときの情況を考慮し相当と認めるとき」は,本件供述調書を証拠とすることができる(326条1項)。
  ⑵ア.上記の同意がない場合であっても,本件供述調書は,捜査段階で甲が検察官に対し供述した内容を記録したものであるから,「検察官の面前における供述を録取した書面」(321条1項2号)にあたる。そこで,同号該当性を検討する。
   イ.同号前段は,供述者が供述不能であることを要件とし,これに該当する事由を列挙している。しかし,これらの事由の中には,本件のように証人が証言を拒絶している場合が含まれていない。そこで,証言拒絶の場合にも,供述不能の要件を充たすかが問題となる。
 同号前段は,証拠として採用する必要が高い場合を列挙したものであるから,これらの事由に匹敵するような事情であれば,供述不能の要件を充たす。ただし,これらの事由は,例外的に伝聞証拠に用いる必要性を基礎づけるものであるから,死亡以外の場合には,一時的な供述不能では足りず,その状態が相当程度継続して存続していることが必要である。
 本件のように,証言拒絶権を有しない者が証言拒絶をしているような場合には,単なる供述拒否の場合と同視しうる。この場合には,公判廷において供述を得られない点及び被告人に反対尋問の機会を与えない点では,証人が死亡や行方不明となった場合等と異なるところがないから,同号前段列挙事由に匹敵する事情であるということができる。したがって,相当程度継続して商人が証言を拒絶した場合には,供述不能の要件を充たす。相当程度継続しているといえるか否かについては,事案の内容,証人の重要性,審理計画に与える影響,証言拒絶の理由及び態度等を総合考慮して判断すべきである。(※1)
 本件でも,証人が相当程度継続して証言を拒絶している場合には,供述不能の要件を充たす。
   ウ.そして,本件供述調書に証人の「署名若しくは押印」(321条1項柱書)があることが必要である。
   エ.これらの要件を充たしていれば,本件供述調書は321条1項2号前段により,例外的に証拠能力が認められる。
  ⑶ 以上のいずれかにあたる場合には,裁判所は,本件供述調書を証拠とすることができる。(※2)
以 上


(※1)この部分の論証は,完全に供述拒否の場合に寄せてしまいました。果たして,それでいいのかどうかは分かりませんが,証言拒絶権に基づくのであればともかく,そうでないのであれば,供述拒否と変わらないと思いますけれども。

(※2)参照した答案では,321条1項2号後段該当性まで検討していましたが,長くなりそうだったので省略してしまいました。証言拒絶している以上,公判廷に「供述」が出ていないので,「前の供述と相反するか若しくは実質的に異なつた供述をしたとき」にあたらないのではないかと思います。
2018-01-29(Mon)

【旧司】刑事訴訟法昭和43年度第2問

ひたすら証拠法ですが,古江本に続き,またも検面調書です。

予備校本などでは,ものによっては検面調書はCランク論点とされていたりしますが,

旧司では結構出ているみたいです。

旧司で出ていたなら新司でも出るんじゃないですか。

それとももう検面調書は流行りじゃなくなっていたり。

知らないですけど。

≪問題≫
 次の場合に,その者の検察官面前調書を証拠とすることができるか。
⑴ 証人が公判廷で供述を拒否したとき
⑵ 証人の公判廷での供述よりも,検察官面前調書中の供述が詳細であるとき


さすが,昭和時代の旧司というだけあって,5秒で読み終わる短さ。

何の具体的事情も落ちていない旧司の象徴のような問題です。

もう伝聞証拠にあたることを前提として話をしてしまっていいんですかね。

何から何まで書けばいいのか,相場観が全然わからないです。

≪答案≫
第1.設問⑴について
 1.証人の検察官面前調書(以下「本件調書」という。)は,公判期日外における取調べ等により作成されるため公判廷外の供述を内容とする証拠であり,要証事実との関係でその内容の真実性が問題となるため,「公判期日外における供述に代えて書面を証拠と」する場合にあたり,原則として証拠能力が否定される(320条1項)。
 2.それでは,本件調書について伝聞例外(321条以下)が適用され,例外的に証拠能力が認められないか。
  ⑴ まず,被告人が本件調書を「証拠とすることに同意した」場合には,「書面が作成され……たときの情況を考慮し相当と認めるときに限り」,本件調書を証拠とすることができる(326条1項)。
  ⑵ア.上記同意がない場合には,本件調書は「検察官の面前における供述を録取した書面」(321条1項2号)にあたるので,同号該当性を検討する。
   イ.同号前段は,供述者が供述不能である場合を要件とし,これに該当する事由を列挙している。しかし,これらの事由の中には,本件のように証人が公判廷で供述を拒否している場合が含まれていない。そこで,供述拒否の場合にも,供述不能の要件を充たすかが問題となる。
 同号前段は,証拠として採用する必要が高い場合を列挙したものであるから,これらの事由に匹敵するような事情であれば,供述不能の要件を充たす。ただし,これらの事由は,例外的に伝聞証拠を用いる必要性を基礎づけるものであるから,死亡以外の場合には,一時的な供述不能では足りず,その状態が相当程度継続して存続していることが必要である。
 証人が供述を拒否した場合には,公判廷において供述を得られない点及び被告人に反対尋問の機会を与えない点では,証人が死亡や行方不明となった場合等と異なるところがないから,同号前段列挙事由に匹敵する事情であるということができる。したがって,相当程度継続して証人が供述を拒否した場合には,供述不能の要件を充たす。相当程度継続しているといえるか否かについては,事案の内容,証人の重要性,審理計画に与える影響,証言拒絶の理由及び態度等を総合考慮して判断すべきである。(※1)
 本件でも,証人が一定程度継続して供述を拒否している場合には,供述不能の要件を充たす。
   ウ.そして,本件調書に証人の「署名若しくは押印」(321条1項柱書)があることが必要である。
   エ.以上の要件を充たしていれば,本件調書は321条1項2号前段により,例外的に証拠能力が認められる。
 3.以上のいずれかにあたる場合には,裁判所は,本件調書を証拠とすることができる。
第2.設問⑵について
 1.本件調書は,設問⑴と同様に伝聞証拠にあたる。
 2⑴ そこで,伝聞例外について検討すると,設問⑴と同様に326条1項の要件を充たす場合には,証拠能力が認められる。
  ⑵ それでは,321条1項2号の適用についてはどうか。
   ア.設問⑴と同様に,本件調書は「検察官の面前における供述を録取した書面」である。
   イ.検察官は,証人の公判廷における供述よりも詳細であるという理由で,本件調書の証拠調べ請求をしてきたものであると考えられるが,このことをもって「公判期日において前の供述と……実質的に異なつた供述をしたとき」(同号後段本文)にあたるか。
 同号後段本文が,同項1号書面の場合とは異なり,「実質的に異なつた」としている趣旨は,一方当事者である検察官の面前における供述は,公平中立な裁判官の面前での供述に比して信用性が劣るため,より高度な信用性を要求した点にある。そうすると,「実質的に異なつた供述」とは,要証事実との関係でその認定につき異なった結論を導く可能性のある供述をいう。
 これを本件についてみると,要証事実が争点となっていて厳密な認定が求められている場合には,その点を詳細に述べている供述により認定の可否が左右されるため,異なった結論を導く可能性があるといえ,「実質的に異なつた供述」にあたる。他方で,要証事実の認定がある程度概括的でもよい場合には,前の供述が詳細に述べられているからといって,認定に際して結論を左右しないから,「実質的に異なつた供述」にあたらない。
   ウ.同号後段本文に該当する場合には,「公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存する」こと(以下「特信情況」という。)が必要である(同号後段但書)。このとき,特信情況は,前の供述と比較し相対的に認められるか否かで判断する。そして,この判断にあたり,供述内容の信用性を考慮すると証明力を評価しなければならず,証拠評価に混乱を生じるおそれがあるから,当該供述のなされた際の外部的付随事情を基準として判断する。ただし,外部的付随事情を推知させる資料として,供述内容を考慮することはできる。
 本件調書についても特信情況が認められる必要がある。
   エ.また,本件調書についても,証人の「署名若しくは押印」があることが必要である。
   オ.以上の要件を充たしていれば,本件調書は321条1項2号後段により,例外的に証拠能力が認められる。
 3.以上のいずれかにあたる場合には,裁判所は,本件調書を証拠とすることができる。
以 上  


(※1)参照した答案によれば,「当該期日では証言を得ることが困難だが,期日を改めれば証言を得られる見込みがあるような場合に,常に供述不能事由に当たらないとすると,迅速な裁判の要請を害し妥当でない。そこで,証言拒絶が相当程度継続しているといえない場合であっても,事案の内容,証人の重要性,審理計画に与える影響,証言拒絶の理由及び態度等を総合考慮して,供述不能といえるかを判断すべき」としていましたが,この書き方ですと,証言拒絶の場合には一定程度継続していなくとも供述不能の要件を充たす場合があると捉えられてしまいます。総合考慮するという規範のようなものは,東京高判平成22年5月27日が示したもの使っているのだと思われますが,この判例では「同号前段の供述不能の要件は,証人尋問が不可能又は困難なため例外的に伝聞証拠を用いる必要性を基礎付けるものであるから,一時的な供述不能では足りず,その状態が相当程度継続して存続しなければならないと解される。証人が証言を拒絶した場合についてみると,その証言拒絶の決意が固く,期日を改めたり,尋問場所や方法を配慮したりしても,翻意して証言する見通しが少ないときに,供述不能の要件を満たすといえる。もちろん,期日を改め,期間を置けば証言が得られる見込みがあるとしても,他方で迅速な裁判の要請も考慮する必要があり,事案の内容,証人の重要性,審理計画に与える影響,証言拒絶の理由及び態度等を総合考慮して,供述不能といえるかを判断するべきである。」と判示されており,相当期間継続していることは必要であるとの前提に立っていると考えられます。したがって,総合考慮の部分は,あくまでどれくらいの継続をもって相当期間の継続といえるかを判断するための基準としているものであると考えた方が適切なような気がします。このような考えを反映させると,上のような答案になるのかなと思います。
2018-01-29(Mon)

【旧司】刑事訴訟法平成22年第2問

証拠法の旧司を解き始めて3問目になりましたが,どれも難しいです。

学部時代にちゃんと勉強してないと痛い目にあうということが分かりました(遅い)。

このブログを見た学部生がもしいたら,学部の間にちゃんと7法まわしておきましょう。

≪問題≫
 警察官は,Aを被害者とする殺人被疑事件につき,捜索差押許可状を得て,被疑者甲の居宅を捜索したところ,「①Aにレンタカーを借りさせる,②Aに睡眠薬を飲ませる,③Aを絞め殺す,④車で死体を運び,X橋の下に穴を掘って埋める,⑤明日,決行」と記載された甲の手書きのメモを発見したので,これを差し押さえた。その後の捜査の結果,X橋の下の土中からAの絞殺死体が発見され,その死体から睡眠薬の成分が検出された。また,行方不明になる直前にAがレンタカーを借りたことも判明した。
 甲が殺人罪及び死体遺棄罪で起訴された場合,上記メモを証拠として用いることができるか。

メモの証拠能力ということですが。

非伝聞証拠になんとかしてもっていくということをやらないといけないらしいです。

知らねえ。

≪答案≫
1.甲の手書きのメモ(以下「本件メモ」という。)は,犯行計画と思われる事実が記載されているが,これが「公判期日における供述に代えて書面を証拠と」する場合であれば,伝聞証拠として原則証拠能力を有さないこととなる(320条1項)。そこで,本件メモは伝聞証拠にあたるか,伝聞証拠の意義が問題となる。
2.320条1項の趣旨は,供述証拠は人の知覚,記憶,表現,叙述という過程を経ており,その各過程で誤りを生ずるおそれが高いにもかかわらず,反対尋問,偽証罪による制裁,裁判所による観察という真実性の担保が欠けることから,その証拠能力を否定する点にある。そこで,伝聞証拠とは,①公判廷外の供述を内容とする証拠で,②要証事実との関係で原供述の内容の真実性が問題となるものをいう。
3⑴ これを本件についてみると,①本件メモは公判期日外で作成されたものであるから,公判廷外の供述を内容とする証拠である。
 ⑵ア.また,②公判においては,Aに対する殺人及び死体遺棄事件に関する甲の犯人性について,甲が否認し,問題になると考えられる。この場合,検察官は本件メモの存在を立証趣旨として,本件メモを提出する。これが認められれば,本件メモの内容の真実性が問題とならないから,伝聞証拠とはならない。
 しかし,本件メモのような犯行計画と思われる記載のあるメモの存在から,作成者がその後に計画通り犯行を遂行したことを推認することは,不確かな推認であり,許されない。
  イ.もっとも,本件では,以下のように本件メモの存在以外の犯人性に関する推認事情があり,これをもって合理的な推認ということができる。
 まず,本件メモは,甲の居宅から発見されており,かつ,甲の手書きで作成されたものであるから,甲が作成したものであるということが強く推認される。そうすると,以下のような推認が可能となる。
 本件メモ④にはX橋の下に穴を掘って埋めると記載されているが,これは本件メモ③でAを絞め殺すと記載されていることから,殺害したAを埋めるということを意味するものと考えられる。そして,実際に,AはX橋の下から絞殺死体として発見されている。特定の人物が絞殺状態で橋の下の土中に埋まっていることは一般的なことではないことからすると,この事実と同一の内容が本件メモに記載されていたことは,偶然一致しただけであるということは考えにくい。そうすると,本件メモに従って犯行が遂行されたことが強く推認される。
 そして,本件メモ①Aにレンタカーを借りさせる,②Aに睡眠薬を飲ませるという記載も,実際にAが行方不明になる直前にAがレンタカーを借りていることや,Aの死体から睡眠薬の成分が検出されたことから,客観的事実と合致している。たしかに,レンタカーを借りることや睡眠薬を服用することは,ごく一般的な出来事ではあるが,上記のように犯行が遂行されたことが強く推認されている状況においては,これらの事実との合致は,甲の犯行計画の一端が確かに遂行されていたことを十分に推認するものである。
 以上から,本件メモの存在から,実際に犯行が遂行されたことを推認することは,確かな根拠によって支えられたものであるといえ,不確かな推認ではない。
  ウ.したがって,本件の要証事実は本件メモの存在とすることができ,これとの関係で本件メモを提出することは,要証事実との関係で内容の真実性が問題とならない。
 ⑶ よって,本件メモは,伝聞証拠にはあたらない。
4.そこで,本件メモを証拠として用いることができる。
以 上

2018-01-28(Sun)

【旧司】刑事訴訟法昭和53年度第2問


証拠法シリーズ第2弾。

≪問題≫
 殺人被告事件において,目撃者である証人甲は,公判期日に,検察官の主尋問に対し「ピストルを撃った犯人は被告人に間違いない」と述べた。弁護人は,甲の検察官に対する供述調書中では被告人が犯人である点については明確な供述がないと考えていたので,反対尋問の準備のためその延期を申し出て,反対尋問は次回期日に行われることとなった。ところが,甲は,次回期日前に急死してしまった。裁判所は,甲の右証言を被告人の有罪の証拠とすることが許されるか。この場合,右証言が被告人と犯行を結びつける唯一の証拠であるか否かによって差異を生ずるか。

伝聞です。

形式説と実質説で分かれるところです。

多くの人が形式説を採ると思いますが,その場合,この問題はどう処理すればいいのでしょうか。

普通に書いたらめちゃくちゃ短い答案が出来上がると思うのですが……。

≪答案≫
第1.設問前段
 1.裁判所は,甲の証言(以下「本件証言」という。)を証拠とすることができるか。甲は,公判期日において検察官の主尋問を受けているが,被告人側からの反対尋問を受けていない。そこで,このような証拠は伝聞証拠として証拠能力が認められないのではないか(320条1項)。(※1)
 2.320条1項の趣旨は,供述証拠は人の知覚,記憶,表現,叙述という過程を経るため,その各過程で誤りを生じるおそれが高いにもかかわらず,反対尋問,偽証罪による制裁,裁判所による観察という真実性の担保に欠けるため,証拠能力を否定する点にある。そこで,伝聞証拠とは,①公判廷外の供述を内容とする証拠で,②要証事実との関係で原供述の内容の真実性が問題となるものをいう。
 これを本件についてみると,本件証言は①甲が公判期日において直接供述したものであるから,公判廷外の供述を内容とするものではない。したがって,本件証言は伝聞証拠にはあたらない。(※2)
 よって,本件証言は証拠能力を否定されないから,裁判所は本件証言を証拠とすることが許される。
 3.なお,320条1項の趣旨について反対尋問の機会を重視し,伝聞証拠とは,事実認定をする裁判所の前での反対尋問を経ていない供述証拠をいうとする見解もある。この見解によれば,本件供述は,被告人側からの反対尋問を経る前に甲が死亡したことによって,反対尋問を経ることができなくなっているから,裁判所の前での反対尋問を経ていない供述証拠にあたり,伝聞証拠となる。
 しかし,被告人の公判廷供述を伝聞証拠とするのは320条1項の文言と整合せず,伝聞法則を反対尋問だけで説明することは無理があるというべきである。したがって,この見解は採用することができない。(※3)
第2.設問後段
 上記のように,本件証言はそもそも伝聞証拠にあたらず,証拠能力が認められるので,本件証言が被告人と犯行を結びつける唯一の証拠であるか否かによって差異を生じない。(※4)
以 上


(※1)問題提起の段階で,「公判期日における供述に代えて書面を証拠とし」,または,「公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とする」にあたるかどうか,という形を示したいところではあります(新司の出題趣旨でも,たとえば「(立証趣旨から想定される要証事実は,いずれもWが知覚・記憶してノートに記載した事実の真実性を前提とするものであるから,これが「伝聞証拠」,すなわち刑事訴訟法第320条第1項の定める「公判期日における供述に代えて書面を証拠と」する場合であることは明瞭である。)」(平成20年新司法試験論文式試験問題出題趣旨7頁)というような書き方がされており,320条1項の文言に引き付けて検討されています。)。しかし,本問のような場合には,文言にあたらないことが明らかなので,文言にひきつけての問題提起をしにくいような気がします。そこで,今回の答案では,あえて文言には言及しないという形を採りました。
(※2)本当に①要件だけで切れてしまう気がするので,あてはめもクソもないです。こんなに短くていいのか不安になりますが,かといって他に書くべきことはないように思います。こんな書き方でいいのか,後日改めて検討してみたいところです。
(※3)まさに,ここの見解の採否によって,結論が変わってくるので,一応反対説に言及すべきなのかと思います。ただ,新司でこんなことを書いている時間は多分ないです。
(※4)形式説で伝聞証拠にあたらないという結論を採った以上はこうならざるを得ないと思いますが,果たしてこれでいいのか再度検討してみたいところです。
2018-01-25(Thu)

【旧司】刑事訴訟法平成21年第2問

遅くなりましたにもほどがありますが,あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

私の今年の,というより春休み中の目標の1つに,

証拠法を勉強する

というのがあります。

これは,どういうことか。

新司で周りに差をつけることができるようなテクニックを学ぶちゃんとした勉強をするとか,

誰も研究していない未知の論点について深く勉強するとか,

そういうことではないです。

あろうことか,私は,もうロースクールも半分が終わろうとしているのに,

まだ生まれてこの方一度も証拠法を勉強したことがないのです。


入学した当初は,証拠法もやってない奴がよくロースクールに受かったなくらいで笑い話にしていたわけですが,

司法試験まで残り1年ちょっととなってくると,さすがに焦ります。

選択科目もちゃんと勉強し始めないといけないのに,基本7法ですら未完成だったとは。

おそるべし。

ということで,これから証拠法をちゃんと真剣に勉強していきます。

その過程で,旧司や新司の問題も解いていこうと思いますので,その際に書いた答案をここに掲載していこうと思います。

というわけで,第一弾は,自白の問題。

旧司の平成21年第2問です。

≪問題≫

 警察官Aは,強盗殺人の被疑事実で勾留中の甲を取り調べたが,その際,黙秘権の告知をしなかった。甲は,当初,アリバイを主張して犯行を否認したが,Aが「犯行現場の防犯カメラにあなたの顔が写っていた 。」旨の虚偽の事実を告げたところ,甲は犯行を自白し,被害品を友人宅に隠匿していることも供述したので,その内容を録取した供述調書①が作成された。そこで,Aは,供述調書①を疎明資料として捜索差押許可状の発付を受けて甲の友人宅を捜索したところ,被害品が発見されたので,これを差し押さえた。その後,別の警察官Bが,黙秘権を告知して取り調べたところ,甲が犯行を再度自白したので,その内容を録取した供述調書②が作成された。
 裁判所は,供述調書①,甲の友人宅で差し押さえられた被害品及び供述調書②を証拠として採用することができるか。

勉強したところによると,自白法則についてはいろんな説が対立しているようです。

どれがいいのかわからないので,とりあえず,人権擁護説はないなくらいのスタンスでいようと思います。

早速答案を……

≪答案≫

第1.供述調書①の証拠としての採否について
 1.警察官Aは,甲の取調べにあたり,黙秘権の告知を行わず,また虚偽の事実を告げており,これに引き続いて供述調書①を作成している。このような状況下で作成された,供述調書①は「任意にされたものでない疑のある自白」(319条1項)にあたり,証拠として採用することができないのではないか。
 2⑴ 自白法則(憲法38条2項,刑訴法319条1項)の趣旨は,類型的に虚偽の自白を誘発するおそれがある状況下でされた自白を予め排除することで,誤判の防止を図る点にある。そこで,「任意にされたものでない疑のある自白」か否かは,類型的に虚偽の自白を誘発するおそれがあったか否かによって判断する。
  ⑵ これを本件についてみると,黙秘権の告知は取調べによる心理的圧迫から被疑者を解放するためになされるところ(※1),これがされないことにより,甲が心理的圧迫を感じ,正常な判断能力に支障をきたすことで,冷静な供述をすることができなくなるおそれを生じている。このような状況のもと,Aは犯行現場の防犯カメラに甲の顔が写っていた旨の虚偽の事実を告げている。そうすると,甲としては,アリバイ主張が否定され,もはやどのような弁解をしても無駄であると考えるにいたるおそれがある。そして,黙秘権の告知がないことと相俟って,甲は何らかの供述をしなければならないと考え,事実に反して犯行をした旨の供述をしてしまうおそれがある。
 以上から,供述調書①の作成におよぶ取調べの段階では,類型的に虚偽の自白を誘発するおそれがあったと認められる。
  ⑶ したがって,供述調書①は,「任意にされたものでない疑のある自白」にあたる。
 3.よって,供述証拠①は,証拠能力が認められないため,裁判所はこれを証拠として採用することができない。
第2.被害品の証拠としての採否について
 1.被害品については,供述調書①を疎明資料として発付を受けた捜索差押許可状に基づく捜索により発見,差押を受けたものである。そこで,供述調書①と同様に「任意にされたものでない疑のある自白」として証拠能力が否定されないか検討するに,被害品自体は供述ではなく,虚偽が混入するおそれがないから,これにあたらない。
 しかし,供述調書①の取調べにおいては,上記のように黙秘権の告知を行わなかったという198条2項に反する法令違反がある。そこで,このような違法な手段によって収集された証拠は,証拠能力が否定されないか。
 2⑴ 違法な手続によって獲得した証拠を採用することは,司法の無瑕性と将来の違法捜査抑止の観点から問題がある。もっとも,獲得手続に軽微な違法があるにすぎない場合にも証拠能力を否定してしまうことは,かえって司法の無瑕性が害される。そこで,①憲法および刑訴法の所期する基本原則を没却するような重大な違法があり(※2),②これを証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑止の見地からして相当でないと認められる場合には,その証拠物の証拠能力は否定されるべきである。
  ⑵ これを本件についてみると,①198条2項で要求される黙秘権の告知は,憲法上規定されているものではなく,これに違反したことをもって直ちに重大な違法があるということはできない。しかし,Aは,黙秘権の告知を行わなかったことに加えて,虚偽の事実によって自白を獲得している。このような一連のAの取調べ態様からすると,Aが黙秘権の告知を行わなかったのは,単にそれを失念していたにとどまらず,あえてそれを行わないことにより,Aの心理状態を圧迫し自白を促すことを狙っていた可能性が高い。そうすると,198条2項に反する法令違反は,Aが刑訴法の基本原則を潜脱する意図のもと行われたものと認められる。したがって,上記手続違反は刑訴法の所期する基本原則を没却するような重大な違法ということができる。
 また,②Aが特段の理由なくこのような態度に出たことからすれば,今後も違法な取調べを繰り返し行う可能性はかなり高いと考えられる。そして被害品は,違法な取調べによって作成された供述調書①を疎明資料として発付された捜索差押許可状に基づく捜索によって発見され,差し押さえられたものであるから,違法手続と被害品との間には関連性がある。この点,捜索差押許可状の発付段階で裁判所による審査を経てはいるものの,疎明資料には供述調書①が提出されたのみで,裁判所としてはそれに基づいて審査を行っていることからすれば,違法手続と被害品との間の関連性は密接である。そうすると,違法手続と被害品獲得との因果性は強いということができる。したがって,被害品を証拠として許容することは,将来における違法な捜査の抑止の見地からして相当でないと認められる。
 3.よって,被害品は,証拠能力が認められないため,裁判所はこれを証拠として採用することができない。
第3.供述調書②の証拠としての採否について
 1.供述調書②は,警察官Bが黙秘権の告知を行ったうえでされた取調べによって作成されており,それ自体の手続違反は認められない。しかし,ここでの甲の供述内容は,供述調書①におけるのと同様であるから,このような自白についても「任意にされたものでない疑のある自白」にあたり,証拠として採用することができないのではないか。
 2⑴ 自白法則の上記趣旨に照らし,先行する取調べによって獲得された自白が虚偽であるおそれがある場合の,後行の取調べによって獲得された自白の任意性は,同様に,類型的に虚偽の自白を誘発するおそれがあったか否かによって判断する。
  ⑵ BがAと同じ警察官という立場にあることからすれば,Aに対して弁解しても無駄であればBに対して同じことをしても無駄であろうと考えても自然である(※3)。そうすると,Bが積極的にAの取調べによる心理的圧迫を遮断するような措置を講じない限り,Bによる取調べにおいても類型的に虚偽の自白を誘発するおそれが継続していると言わざるを得ない。そして,Aによる取調べとBによる取調べとは時間的間隔があまりないと考えられるうえ,BはAの指摘した事実は虚偽である旨を説明したうえで,再度供述内容を考えなおさせる等,積極的にAの取調べによる心理的圧迫を遮断するような措置を講じていない。
 以上からすると,Bによる取調べにおいても類型的に虚偽の自白を誘発するおそれがあるといえる。
  ⑶ したがって,供述調書②は,「任意にされたものでない疑のある自白」にあたる。
 3.よって,供述調書②は,証拠能力が認められないため,裁判所はこれを証拠として採用することができない。
以 上



(※1)浦和地裁平成3年3月25日判決(刑訴百選10版72事件)のかっこ書部分参照。
(※2)違法収集証拠排除法則の1つ目の要件は,判例では「憲法35条及びこれを受けた刑事訴訟法218条1項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法があり」とされていますが,本件では取調べの態様を問題としており,「令状主義」の話にそもそもならないため,このような言い回しに代えています。古江刑訴でも触れられていたかと思います。
(※3)はじめにこの部分を「……と考えるのが通常である」としていましたが,本当にそれが通常かどうかわからないですし,仮にマイナーな考えであったとしたら,採点実感でキレられるので(過去に変なことを欠いた答案に対して常識を疑うみたいな記述をしていた気がします。),まぁこう考えてもおかしくはないよね???くらいの記述にとどめました。
2017-10-23(Mon)

【新司】刑事系科目平成26年第2問

ついに新司に手を出してみようと思います(震え声)

年度・科目の順番はてきとーに……

まずは,平成26年刑事訴訟法から。

[刑事法科目]

〔第2問〕(配点:100)
 次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事 例】
1 L県警察は,平成26年2月9日,Wから「自宅で妻のVが死亡している。」との通報を受けた。同日,L県M警察署の司法警察員Pらは,L県M市N町にあるW方に臨場したところ,Vは頭部を多数回殴打されて死亡しており,Wは「私は,本日,2週間にわたる海外出張から帰宅した。帰宅時,玄関の鍵が掛かっておらず,居間に妻の死体があった。家屋内は荒らされていないが,妻のダイヤモンドの指輪が見当たらない。」と供述した。
2 Pらは,Vに対する殺人・窃盗事件として捜査を開始し,その一環として,Wが供述する指輪について捜査したところ,同月10日,M市内の質屋から,同月3日午前中に甲がダイヤモンドの指輪を質入れしたとの情報を得た。そこで,Pがその指輪を領置し,Wに確認したところ,Wは「指輪は妻のものに間違いない。甲は,私のいとこで,多額の借金を抱えて夜逃げしたが,時々金を借りに来ていた。」と供述した。そして,甲が,隣県であるS県T市所在のU建設会社で作業員として働き,同社敷地内にある従業員寮に居住していることが判明したことから,Pは,同月11日,同所に赴き,午後1時頃,寮から出てきた甲に対し,「M市内の質屋にダイヤモンドの指輪を質入れしたことはないか。」と言ってM市所在のM警察署までの同行を求め,甲は素直にこれに応じた。
3 P及び甲は,同日午後4時頃,M警察署に到着し,Pはその頃から,同署刑事課取調室において,甲に供述拒否権があることを告げ,その取調べを開始した。甲は,当初,「私がダイヤモンドの指輪を質入れしたことは間違いないが,その指輪は拾ったものである。」と供述したが,同日午後7時頃,「指輪は,私がW方から盗んだものである。」と供述した。さらに,Pは,甲に対し,V死亡の事実を告げて,甲の関与について尋ねたものの,甲は「私は関係ない。」と答え,同日午後10時頃には,「先ほど指輪を盗んだと言ったのは嘘である。私は,Ⅴを殺していないし,指輪を盗んでもいない。指輪は知人からもらった。」と供述を変遷させた。
4 この時点で夜も遅くなっていたため,Pは取調べを中断することとしたが,翌日も引き続き甲を取り調べる必要があると考え,甲に対し,「明日朝から取調べを再開するので,出頭してほしい。」と申し向けた。すると,甲は,翌日はS県内の建設現場で働く予定があるとして出頭に難色を示したものの,Pから,捜査のため必要があるので協力してほしい旨説得され,「1日くらいなら仕事を休んで,取調べに応じてもよい。しかし,今から寮に帰るとなると,タクシーを使わなければならない。安いホテルに泊まった方が安上がりだと思うので,泊まる所を紹介してほしい。」と述べた。そこで,Pが,甲に対し,M警察署から徒歩約20分の距離にあるビジネスホテル「H」を紹介したところ,甲は,Hホテルまで自ら歩いて行き,同ホテルに自費で宿泊した。なお,Pは,甲に捜査員を同行させたり,甲の宿泊中に同ホテルに捜査員を派遣したりすることはしなかった。
 翌12日午前10時頃,捜査員が同行することなく,甲が1人でM警察署に出頭したので,Pは,前日に引き続き,同署刑事課取調室において,甲に供述拒否権があることを告げ,①甲の取調べを開始した。甲は,当初,殺人及び窃盗への関与を否認したものの,Pが適宜食事や休憩を取らせながら取調べを継続したところ,同日午後6時頃,甲は,殺人及び窃盗の事実を認め,「指輪を質入れした日の前日の昼頃,W方に金を借りに行ったが,Wは不在で妻のⅤがいた。居間でⅤと話をするうち口論となり,カッとなって部屋にあったゴルフクラブでⅤの頭などを多数回殴り付けて殺害した。殺害後,Ⅴがダイヤモンドの指輪を着けていたことに初めて気付き,その指輪を盗んだ。ゴルフクラブは山中に捨てた。」と供述するとともに,ゴルフクラブの投棄場所を記載した図面を作成した。また,Pは,甲の上記供述を記載した甲の供述録取書を作成した。なお,取調べ開始からこの時点まで,甲が取調べの中止を訴えたり,取調室からの退去を希望したりすることはなかった。
5 この時点で午後9時になっていたので,Pは取調べを中断することとし,甲に対し,「ゴルフクラブを捨てた場所に案内してもらったり,更に詳しい話を聞きたいので,ホテルにもう1泊してもらい,明日も取調べを続けたいがよいか。」と申し向けた。これに対し,甲は「宿泊する金がないし,続けて仕事を休むと勤務先に迷惑をかけることになるので,一旦寮に帰って社長に相談したい。落ち着いたら必ず出頭する。」と述べたものの,Pから「社長には電話で相談すればいいのではないか。宿泊費は警察が出すので心配しなくてもよい。」と説得され,渋々ながら「分かりました。そうします。」と答えた。
 そこで,Pは警察の費用でHホテルの客室を確保した。同客室は同ホテルの7階にあり,6畳和室と8畳和室が続いていて,奥の6畳和室からホテルの通路に出るためには,必ず8畳和室を通らなければならず,両室の間はふすまで仕切られているだけで,錠が掛からない構造であった。Pは,部下であるQら3名の司法警察員に対し,警察車両で甲をHホテルまで送り届けて上記客室の6畳和室に宿泊させ,Qら3名の司法警察員は同客室の8畳和室で待機するよう指示した。甲は,Qらと共に上記客室に到着し,Qらも宿泊することを知ると,「人がいると落ち着かない。警察官は帰ってほしい。せめて私を個室にして警察官は別室にいてもらいたい。」と訴えた。しかし,甲は,Qから「ふすまで仕切られているのだから,別室と同じようなものだろう。私達は隣の部屋にいるだけで,君の部屋をのぞくようなことはしない。」と説得されると,諦めて6畳和室で就寝し,Qら3名の司法警察員は8畳和室で待機した。
 翌13日午前9時頃,甲が警察車両に乗せられてM警察署に出頭したので,Pは,前日に引き続き,同署刑事課取調室において,甲に供述拒否権があることを告げ,②甲の取調べを開始したところ,甲は前夜同様に,Vを殺害して指輪を窃取した旨供述した。そこで,Pは,甲にゴルフクラブの投棄場所まで案内するように求め,これに応じた甲を警察車両に乗せ,甲の案内で山中まで赴いたところ,同所から血のついたゴルフクラブが発見された。Pは,これを領置した上,Wに確認を求めたところ,Wは,同クラブは特注品であり,自宅にあったものに間違いない旨供述した。また,同クラブからは数個の指紋が検出され,そのうち一つが甲の指紋と合致した。Pは,これらの捜査を踏まえて甲に対する殺人及び窃盗の被疑事実で逮捕状を請求し,裁判官から逮捕状を得た上,同日午後4時,M警察署において甲を通常逮捕した。なお,この日も,Pは,甲に適宜食事や休憩を取らせ,甲は,取調べ開始から逮捕まで,取調べの中止を訴えたり,取調室からの退去を希望したりすることはなかった。
6 甲は,逮捕後の弁解録取においても両被疑事実を認め,翌14日午前9時,検察官に送致された。甲は,検察官Rによる弁解録取においても両被疑事実を認め,Rは,殺人及び窃盗の被疑事実により甲の勾留を請求し,同日,勾留状が発付された。甲は,その後も両被疑事実を認め,「2月2日午後1時頃,借金を申し込むためにW方に行ったがWは不在だった。Ⅴと口論となり,Vから『Wの金ばかり当てにしている甲斐性なし。』などと罵られ,カッとなってゴルフクラブでVを殴り殺した。その後,Ⅴがダイヤモンドの指輪を着けていたことに初めて気付き,金に換えようと思ってその指輪を盗んだ。ゴルフクラブは山中に捨てた。」と供述した。Rは,その他所要の捜査を遂げ,延長された勾留期間の満了日である同年3月5日,甲を殺人罪及び窃盗罪により起訴した(公訴事実は【資料】のとおり。)。
7 同月8日,別の窃盗事件により勾留中の乙が,警察による取調べにおいて,W方でダイヤモンドの指輪及びルビーのペンダントを窃取し,ダイヤモンドの指輪は友人の甲に無償で譲渡し,ルビーのペンダントは自ら質入れした旨供述した。警察がこの供述に従い捜査したところ,W方にあったVの宝石箱から検出された指紋の一つが乙のものと合致するとともに,乙が供述した質屋からルビーのペンダントが発見され,そのペンダントは,VがWの出張中に購入したものであり,Vの所有物に間違いないことが判明した。さらに,甲がV殺害に使用したと供述するゴルフクラブから検出された数個の指紋のうち,一つは乙のものと合致することが判明したが,乙は「室内で金目の物を探しているうちに,ゴルフクラブに私の指紋が付いたと思う。私はV殺害には関係ない。」と供述した。
 上記事情を把握したRは,第1回公判前整理手続期日前である同月24日,甲が勾留されているL拘置所において,甲に対し,「君が起訴されている事件につき,もう一度,取調べを行うが,嫌なら取調べを受けなくてもよいし,取調べを受けるとしても,言いたくないことは言わなくてもよい。」と告げ,甲が取調べに応じる旨述べたので,Rは,弁護人を立ち会わせることなく,③甲の取調べを開始した。Rは,甲に対し,「乙という人物を知っているか。殺人・窃盗事件に乙が関係しているのではないか。」と質問したところ,甲は,しばらく逡巡していたものの,「乙は友人で,借金を肩代わりしてもらったことがある。今回の殺人事件に乙は関係していないが,実は,ダイヤモンドの指輪は私が盗んだのではなく,乙が盗んだものである。以前,私は,乙に,資産家であるいとこのWについて話したことがあった。2月2日午後7時頃,乙が寮の私の部屋に来て,『今日,W方から盗んできた。』と言ってダイヤモンドの指輪をただでくれた。私は,2月3日午前中にその指輪を質入れしたが,期待していたほどの金にならなかったので,Wから借金をしようと考え,その日の午後1時頃にW方に行った。しかし,Wはおらず,Vと口論になり罵られてカッとなって,ゴルフクラブでⅤを殺した。金目の物を探したり盗んだりすることなく,直ちにその場から逃げてゴルフクラブを捨てた。殺害の方法はこれまで話してきたとおりであり,私一人でしたことである。そして,私は,乙には日頃から世話になっていたことから,乙をかばうために,ダイヤモンドの指輪を私が盗んだと嘘をつき,それとつじつまを合わせるために,Vを殺したのは質入れの前日だということにした。」と供述した。
 その後,Rは,乙をも取り調べるなど所要の捜査を遂げた結果,甲及び乙の各供述に矛盾はなく,本件の真相は,甲が,平成26年2月2日午後7時頃,U建設会社従業員寮の甲の居室において,乙から盗品と知りつつダイヤモンドの指輪を無償で譲り受け,同月3日午後1時頃,W方居間において,単独で,Vを殺害した事件であると認め,④公判において,その旨立証するとの方針を立てた。

〔設問1〕1. 【事例】中の4及び5に記載されている①及び②の甲の取調べの適法性について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。
2. 【事例】中の7に記載されている③の甲の取調べの適法性について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。

〔設問2〕 検察官は,④の方針を前提とした場合,【資料】の公訴事実に関し,どのような措置を講じるべきかについて論じなさい。


さすが新司,長いですね。

長いです。いやぁ,長い。

≪参考答案≫
第1.設問1
 1.小問1
  ⑴ ①の甲の取調べの適法性について
   ア、「司法警察職員」である司法警察員Pは,Vに対する殺人・窃盗事件の「捜査をするについて必要がある」として,甲をM警察署まで同行させ,取調べを行っている。そうすると,①の甲の取調べは,198条1項の任意同行,任意取調べとして,任意捜査の一環として行われている。もっとも,①の甲の取調べに際しては,宿泊を伴うなど,その拘束時間等に鑑み,実質的にみれば「逮捕」(199条1項)にあたり,令状(憲法33条,刑訴199条1項)がないため,違法とならないか。「逮捕」すなわち「強制の処分」(197条1項但書)の意義が問題となる。
   イ、197条1項但書の趣旨は,現行刑事訴訟法が定める強制処分(199条,218条)に鑑み,それと同程度に厳格な要件,手続を定めて保護に値する程度の権利や利益が侵害されている場合にも,立法的コントロールを及ぼす点にある。そこで「強制の処分」とは,個人の意思を制圧し,重要な権利を制約する処分をいうと考える。
 そして,任意捜査の名目でなされた同行,取調べが個人の意思を制圧するか否かは,(ⅰ)同行を求めた時刻・場所,(ⅱ)同行の方法・態様,(ⅲ)被疑者の属性,(ⅳ)同行後の取調べの時間・場所・方法,(ⅴ)その間の監視状況,(ⅵ)被疑者の対応状況等の諸般の事情を総合的に考慮して客観的に判断する。
   ウ、これを本件についてみると,甲は,Pから同行を求められ,素直に応じてM警察署に出頭しており,これを拒絶するような意思は特段表明していない。
 また,(ⅰ)Pが同行を求めたのは午後1時であって,深夜のように通常外出しないようなプライベートな時間ではない。ばしょも,甲が寮から出てきたところであって,あくまで公共的な空間である。したがって,これらの事情からは,上記取調べが甲の意思に反することは推定されにくい。
 さらに,(ⅱ)項の取調べを行うにあたって,供述拒否権があることを告げ,甲の権利に配慮した適正な手続きが踏まれている。その他,取調べが圧迫感を感じさせるような態様で行われたといった事情はない。したがって,これらの事情からも,上記取調べが甲の意思に反することは推定されにくい。
 たしかに,(ⅳ)取調べは,午後4時頃から午後10時すぎまで,少なくとも6時間以上にわたる長時間をもって行われており,夜遅くまで続けられていた。しかし,Pはそれ以降当日中の取調べを中断しており,続きは翌日とする態様をとっている。取調べが開始された時刻が,夕方と比較的遅い時であったことからすれば,当該取調べは甲の意思に反しておらず,それに続く上記取調べも甲の意思に反するものとは推定されにくい。
 (ⅵ)当日中の取調べ後,甲は,翌日の取調べのため,寮に帰ることなく,M警察署の知覚にあるビジネスホテルに宿泊している。しかし,この宿泊については,甲が寮に帰るよりも安上がりであるとして,自らPに紹介を求めたものである。そうすると,甲としては,積極的にホテルに泊まることを希望していたものと考えられる(※1)。加えて,ホテルの宿泊は,甲の自費であったことからも,甲がホテルへの宿泊について意欲的であったものと推定される。したがって,これらの事情からしても,上記取調べが甲の意思に反していたものとは推定されにくい。
 そして,(ⅴ)甲がホテルに宿泊するに際して,Pは,甲に捜査員を同行させたり,甲の宿泊中に捜査員を派遣したりすることはなく,また,出頭にあたっても捜査員を同行させるようなことはなかった(※2)のであるから,甲のプライベートな時間は確保されており,不当に甲を拘束する態様ではなかったとみられる。したがって,上記取調べは,甲の意思に反するとは推定されにくい。
 以上からすれば,翌日甲が取調べを受けるにあたって,それが甲の意思に反していたとみることはできないから,甲の特段の拒絶意思はなかったとみるべきである。したがって,①の甲の取調べは,甲の意思を制圧するものではない。よって,①の甲の取調べは「強制の処分」にあたらない。
   エ、もっとも,取調べは,甲の精神的・肉体的苦痛や疲労を課すものである。そこで,「目的を達するために必要な」(197条1項本文)という捜査比例の原則が妥当し,必要性,緊急性を考慮し,具体的状況の下で相当といえなければ違法である。
 これを本件についてみると,甲にすけられている嫌疑は,殺人罪という最高刑である「死刑」が法定刑とされる重大犯罪であり(刑法199条),嫌疑がほぼ固まっている甲を取り調べることによって犯人を探る必要がある(※3)。また,再びこのような犯罪が生じないように犯人を確保する緊急性も強く認められる事案である(※4)(※5)。そして,上記のように,甲に対する取調べは夜遅くまで続けられていたものの,その時点をもって取調べは中断されており,甲の精神的・肉体的ストレスは大きいとまではいえない。さらに,宿泊を自ら申し出ており,かつ,捜査員の同行もないことからしても,プライベートな時間は確保されており,甲の精神的・肉体的ストレスは小さいものと考えられる。
 以上から,上記取調べは,甲の被侵害利益を考慮しても,具体的状況の下相当であったというべきである。したがって,上記取調べは,任意取調べの限界を逸脱しない。
 よって,①の甲の取調べは適法である。
  ⑵ ②の甲の取調べの適法性について
   ア、②の甲の取調べも,「強制の処分」にあたらないか,検討する。
   イ、上記第1.1.⑴イと同様の基準によって判断する。
   ウ、(ⅰ)及び(ⅱ)については,①の甲の取調べと同様である。そして,(ⅳ)取調べの間,Pは,適宜食事や休憩をとらせながら取調べを行っており,甲の疲労等に配慮がなされた態様であって,無理矢理取調べを受けさせるといったものではなく,また,圧迫的な取り調べがなされた事情もないことから,これらの事情から甲の意思に反することは推定されにくい。また,(ⅵ)甲は,取調べ開始から,取調べの中止を訴えたり,取調室からの退去を希望したりすることはなかったとあるから,甲は取調べに対しさほど抵抗していなかったと思われ,上記の取調べが甲の意思に反することは推定されにくい。
 もっとも,翌日以降も取調べを行いたい旨Pが申し向けた際,甲は,一旦寮に帰って社長と相談したいと述べている。したがって,甲としては,翌日以降の取調べに対して消極的であることが推認される。それにもかかわらず,Pは,社長には電話で相談すればよいとして,甲の上記意向を無視している。したがって,このような態様で行われた②の甲の取調べは,甲の意思に反するものと推定される。
 さらに,①の甲の取調べの場合と異なり,甲は宿泊の意向を示していない。むしろ寮に帰りたい旨示している。また,①の甲の取調べの場合は,前日の取調べが夜遅くまで続きタクシーでしか帰れなくなったために,金銭面の事情から宿泊を選択したにとどまり,②の甲の取調べの場合は,前日の取調べが午後9時頃には終了しており,まだタクシー以外の手段で帰ることができた可能性がある。そうすると,①の甲の取調べの前日にされた宿泊の同意は,②の甲の取調べの前日にされた宿泊については及ばないというべきである。加えて,ホテル内では,Qら3名の司法警察員が動向している。両室の間はふすまで仕切られているとはいえ,錠も掛けられない上,構造上Qらがいる部屋を通らなければホテルの通路に出られないものとなっている。他人の出入りを遮断できてはじめて外部からのプライバシーが保護されることからすれば,甲とQらは別室にいたものとみることはできず,実質的に甲はQらと同室で宿泊したものとみるべきである。そうすると,甲のプライベートな空間が確保されていたものとは到底いうことができず,これに引き続く甲の取調べは,甲の意思に反していたものと強く推認される。
 以上からすると,②の甲の取調べについて,甲はこれを拒絶する強い意思があったとみるべきであり,このような状況下で行われた取調べは,甲の意思を制圧するものである。
 そして,取調べによって甲は移動の自由を奪われ,また,精神的・肉体的ストレスを強く生じさせているから,重要な権利利益の侵害がある。
 よって,②の甲の取調べは,「強制の処分」にあたる。それにもかかわらず,令状なくして行われた②の甲の取調べは,令状主義違反の違法がある。
 2.小問2
  ⑴ ③の甲の取調べは,甲が殺人罪及び窃盗罪により起訴された後になされたものであるが,このように公訴提起後にも被告人を取り調べることは適法か。
  ⑵ 197条1項本文は,「目的を達するため必要な取調をすることができる」とし,客体について被疑者及び被告人の別を問うていない。そして,公訴提起後であっても,公訴維持の目的があるから,これに基づく捜査としての取調べも行うことができるというべきである(※6)
 しかし,公訴提起後は,検察官と被告人とは,相対立する当事者の関係になる。したがって,上記取調べも,被告人の当事者としての地位に配慮し,無制限に認めるべきではなく,被告人が自ら申し出たか,被告人がこれを拒絶できることを十分に承知していた場合に限られるべきである。
  ⑶ これを本件についてみると,Rは,③の甲の取調べを行うにあたり,嫌なら取調べを受けなくてもよいし,取調べを受けるとしても,言いたくないことは言わなくてもよい旨告げており,甲は取調べを拒絶できることを承知していたようにも思われる。
 しかし,突然取調べを行う旨を告げられ,その際に簡単に供述拒否権があることを告げられたとしても,素人である被告人には正確に判断することが期待できるようには思われない。したがって,甲の取調べを行うに当たっては,弁護人の意見を聞かせるなどしない限り,甲は十分承知していたものとはいえないと考えるところ,本件でRは弁護人を立ち会わせていない。
 したがって,甲は,取調べを拒絶できることを十分に承知していたものとはいえない。
 よって,③の甲の取調べは,「目的を達するため必要」ということができず,違法である。
第2.設問2(※7)
 1.公訴事実中殺人罪の嫌疑にかかる部分について
  ⑴ 公訴事実によれば,甲がVを殺害したのは,平成26年2月2日午後1時頃とされているが,甲の供述によれば,それは同月3日午後1時となっており,両者に差異が生じている。そこで,この場合に,訴因を変更することが必要であるか。
  ⑵ 当事者主義を採用する現行法(256条6項,298条1項,312条1項)の下では,裁判所の審判対象は,検察官の主張する具体的犯罪事実たる訴因であるところ,その機能は,裁判所に対し審判対象を画定し,その限りにおいて被告人に防御範囲を明示する点にある。したがって,審判対象の画定に必要不可欠な事実,すなわち,①被告人の行為が特定の犯罪構成要件に該当するかどうかを判定するに足る具体的事実,及び,②他の犯罪事実と区別するに足る事実に変更がある場合には,訴因変更手続が必要である。また,③訴因変更と異なる認定事実が一般的に被告人の防御にとって重要な事項であるときは,争点明確化による不意打ち防止の要請がとられるべきであり,検察官が訴因においてこれを明示した場合,原則として,訴因変更手続を要する。もっとも,④被告人の防御の具体的な状況等の審理経過に照らし,被告人に不意打ちとならず,判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には,訴因変更は不要である。
  ⑶ これを本件についてみると,①日時は構成要件ではなく,②殺人は論理的に一回しかなしえないから,他の犯罪事実と区別するに足る事実に変更はない。しかし,③日時が公訴事実中に記載されている以上,原則として検察官は訴因変更すべきである。もっとも,④日時について公訴事実と異なる供述を行ったのは甲自身であり,これに基づいて訴因変更がされようとしているのであるから,この場合,甲に不意打ちはないというべきである。そして,日時が変わるのみで罪状に変更はないのであるから,より不利益な認定がされるものではない(※8)
 したがって,上記の点について検察官は訴因変更をする必要はない。
 2.公訴事実中窃盗罪の嫌疑にかかる部分について
  ⑴ 公訴事実によれば,甲は指輪を窃取したものとされているが,甲の供述によれば,甲は乙が窃取した指輪を譲り受けているにすぎないから,盗品等無償譲受罪(刑法256条1項)が成立するはずであり,両者に差異が生じている。
 両者は,構成要件が異なるから,訴因変更をしなければ公訴維持ができない。それでは,訴因変更をすることは可能か。「公訴事実の同一性」(312条1項)の範囲内といえるか,その判断基準が問題となる。
  ⑵ 「公訴事実の同一性」の範囲内で訴因変更が認められているのは,二重起訴禁止(338条3号,339条1項5号)や一事不再理効(337条1項)と一体となって,これらの範囲内にある犯罪事実を検察官に一回の手続で訴追することを要求する趣旨である。そして,刑事訴訟法が刑罰権の実現を目的とする以上,刑罰権が1個しか発生しない事実については,訴訟法上も一回の手続で処理すべきである。したがって,①両訴因の基本的事実が社会通念上である場合,または,②両訴因が実体法上一罪の関係にある場合には「公訴事実の同一性」の範囲内にあると考える。そして,基本的事実が社会通念上同一といえるか否かは,犯罪の日時,場所,行為態様,方法,相手方,両訴因の非両立性などから判断する(※9)(※10)
  ⑶ 両者における被害品は指輪であって,被害品,法益が共通している。また,犯罪日時は,両者とも平成26年2月2日であり,時刻も6時間程度しか差がなく,近接している。たしかに,行為態様は,窃取と譲受けでは異なるが,被害者はVであることは共通し,そこから運び出されたものである点も共通している。そして,窃盗罪と盗品等無償譲受罪とは併合罪(刑法45条前段)の関係にあるから,訴因として両立しない。
 異常からすれば,両訴因は,その基本的事実が社会通念上同一から,訴因変更をすることができる。
 よって,検察官は上記の点につき訴因変更措置を講じるべきである。
以 上(※11)


(※1)そうはいっても,タクシーでしか帰宅できない状況を作り出したのはPによる取調べであるから,甲としてみれば渋々ビジネスホテルに泊まるという選択をとったものとみるべきなのかもしれない。

(※2)問題文だと,ここの部分は,「警察が甲に捜査員を同行させて甲が出頭してきたわけではない」というよりも「甲は捜査員の同行がなくても出頭してきた」というような書き方になっているので,むしろ甲の態度として考慮すべき事情であったのかもしれない。

(※3)この点について出題趣旨(http://www.moj.go.jp/content/001127521.pdf)13頁では
本件が殺人・窃盗という重大事件であることや,甲が窃盗の被害品である指輪を質入れしたとの情報がある一方,それ以外の証拠はなく,甲を取り調べる必要性があること……は,「①甲の取調べ」及び「②甲の取調べ」の双方に共通する
としているので,必要性を基礎づける事情として,甲が質入れをした事情を指摘するべきであった。

(※4)この点について出題趣旨13頁では
「殺人・窃盗は同一犯人によって実行された可能性が高く,甲には窃盗のみならず殺人の嫌疑も存在することは,「①甲の取調べ」及び「②甲の取調べ」の双方に共通する」
としているので,緊急性(又は必要性)の考慮事情として,このことも指摘すべきであった。

(※5)必要性・緊急性の考慮について,学部の刑訴の教授は,必要性が肯定されれば緊急性は当然に肯定される,とおっしゃっていたように記憶しているので,必要性を認定したのであれば,別個に緊急性と明示して検討する必要はないのではないかとも思う。その場合は,緊急性で拾うはずだった事情は必要性の中に放り込んでしまえばいいのか。必要性と緊急性が隔たりのあり概念ではなく,連続したものであるならば,このような事情の拾い方をしてもよさそう。

(※6)この点について採点実感(http://www.moj.go.jp/content/001130132.pdf)39頁では
多くの答案は,起訴後の被告人の取調べが公判中心主義及び当事者主義の要請の少なくともいずれかと抵触するおそれがあり,その許容性に問題があることは指摘できていたものの,その一方で,刑事訴訟法第198条は取調べの対象を「被疑者」とするのみで,「被告人」の取調べについては何ら規定がないところ,この点を指摘・検討した答案は少なかった。
としている。上記答案では専ら当事者主義との関係からでしか論じられていないので,公判中心主義の観点からの論述も取り入れたいところである。しかし紙幅が足りない。どこを削るべきなのかを,じっくり検討したい。また,198条との関係について言及しなければならなかったようである。つらい。

(※7)設問1に時間と行数を費やしすぎたため,この時点で129行目に達しており,設問2にあまり紙面を割くことができなかった。悔やまれる。

(※8)この点について出題趣旨14頁では
検察官による訴因の変更が問題となる場合には,大別して,検察官が起訴状の記載と異なる事実を意識的に立証しようとして,証拠の提出に先立って訴因変更しようとする場合と,証拠調べの結果,起訴状の記載と異なる事実が証明されたと考えられることから,訴因変更しようとする場合とがあることについて,留意する必要がある。本問は,検察官が,公判前整理手続開始前,すなわち具体的な主張・立証を展開する以前に訴因と異なる心証を得て,その心証に基づく主張・立証活動を行おうとする場合に採るべき措置について検討を求めるものであるから,前者の局面の問題である。一般に「訴因変更の要否」と呼ばれ,上記の最高裁判例でも扱われた後者の問題とは局面を異にするから,その差異を意識して論じなければならない。
としている。その差異がどのように答案上表現されるかについて,現時点では分かっていない。

(※9)ここの規範をどうにかしてもう少し短くしたい。

(※10)この点について出題趣旨14頁では
本問で問題となるいわゆる「狭義の同一性」について,最高裁の判例は,「基本的事実関係が同一」かどうかを基準とした判断を積み重ねてきているが,その判断に当たっては,犯罪の日時,場所,行為の態様・方法・相手方,被害の種類・程度等の共通性に着目して結論を導くものと,両訴因の非両立性に着目して結論を導くものがある……。そこで,一連の判例の立場も踏まえつつ,「公訴事実の同一性」の判断基準を明らかにした上で,本件の各公訴事実につき訴因変更の可否を論じる必要がある。
としている。単純に読んだ限りでは,「犯罪の日時,場所,行為の態様・方法・相手方,被害の種類・程度等の共通性に着目して結論を導くもの」と,「両訴因の非両立性に着目して結論を導くもの」とは,択一的なものであるようにも思える。両者の関係について,答案上単に並列的に示していいものなのかは,はっきりしない。

(※11)196行目までいった。私が本番でここまで書くことは,およそ不可能であろう。

……といった感じで,出題趣旨と採点実感を読んだだけでも,これだけ粗が出てきてしまいました。

こんな調子で果たして合格することはできるのでしょうか。

果てしない。

以上


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||中央特快||高尾||

Author:||中央特快||高尾||
お疲れ様です。

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